第3-3話 「食らいつく」

 マリウスに続いて、タカフミはポッドに乗り込んだ。

 ポッド内にはもう一人、マルガリータがいた。笑顔で手を振ってきた。3人で椅子に座る。マリウスが何か指示すると、円いテーブルを囲むかのように、他の参加者の姿が表示された。まるで実際に集まって会議しているようだ。ジルとステファン。あと2人の女性は初めて見る顔だ。

「カーレンとエスリリスだ」マリウスが紹介する。

 タカフミ「航宙自衛隊の小脇二尉です。タカフミと呼んでください」と自己紹介。

 カーレンは会釈して笑顔を見せた。エスリリスも頭を下げたが無表情。愛想のない所はマリウスに似ている。

「早速だが、相談したいのは、駅の建設についてだ。カーレン、駅構造を表示してくれ」

 参加者の中央に、画像が浮かび上がった。H型(より正確には梯子型)をした構造体が表示される。非常に長い直線構造が2本あり、その中央が、何本かの短い線で結合されている。長さはどのくらいあるのだろうか?

「これが駅の外観図だ。この長辺は約100㎞ある」

 タカフミは息を呑んだ。駅とは、そんなに巨大な施設だったのか。

「これを5年かけて完成させる予定だったのだが」マリウスがため息を吐く。

「2年で稼働させろ、という命令を、先ほど受けた」

 表情は変わらないが、参ったな、という感情はあるようだ。

 タカフミは立ち上がって画像に近寄り、見つめる。構造体の上には建物や、埠頭のようなものが設置されている。上部には凧のようなものが広げられている。用途は見当がつかない。

「駅の材料、建材は、どうするつもりなんですか?」

「小惑星から採取する。採取は自動制御の作業船が行う。精錬加工する工場は建設母艦内にある」

「建設母艦というのは、新しく来た巨大円盤のことですか?」

「そうだ」

「この通りに作るのではなく、仕様変更していいそうです」

 マルガリータが補足説明する。「この100㎞ある柱は、1本にします。その他細かい部分も、省略できるところは省略します」

「なるほど。でも1本だけと言っても、かなりの分量ですね」

 鋼鉄製なのか?それだけの原料を小惑星から採取するだけで、時間がかかる。

 ん?小惑星?

「そうだ! 小惑星には100㎞を超えるものがあります。それを駅に使ったら!?」

 タカフミの意見に、ジルやマルガリータが「おおっ?」という顔をする。

 するとカーレンが口を開いた。

「小惑星を使うのは良いアイデアだと思います。建設予定地まで移動させることも可能です。ただし、1つ問題があります。『レール』の設置です」とカーレン。

「レールというのは、ワープゲートを作る機械です。この全長が100㎞あります。小惑星を使うのであれば、レールを設置するトンネルが必要になります」

「爆破で掘り進めれば良いか?」

「長さ100km、直径7mの、細くて真っすぐなトンネルが必要です。精度が要求されます。1000mでわずか0.1mのずれであっても、トンネルの端では10mずれてしまいます。これを実現できるような掘削技術がないのです」

 一同、沈黙。全員、トンネル掘りの経験はないのだ。

 これはダメかな、という雰囲気が広がり、マリウスがマルガリータに「仕方がない。もう一度、記者会見を行って、実行可能な案を募集してみるか」と相談した時、タカフミが手を挙げた。

「少しだけ、時間をください。私が、調べてみます!」

 その時タカフミの脳裏には、白いポッドが空に消えていく光景が、悲しみや後悔の気持ちと共に蘇っていた。

 憧れの宇宙に繋がるハッチが、目の前にあった。美しい「星の人」のことを、もっと知りたいと思っていた。

 なのに、ハッチが閉まり、ポッドが上昇して視界の彼方に去るのを、ただ見つめるしかなかった。

 いや、違う。見つめるだけで、何もしなかったのだ!

 今、奇跡的に現れたこのチャンスを、また傍観者として逃してたまるか!

 無謀でもいい、食らいついてやる!

 マリウスは無言でタカフミを見つめた。指が右目の下をなぞる。考え事をしながら、無意識で触っているようだ。

「ありがとう、タカフミ。ただ、長くは待てない。1週間で基本的な方針を決めて、軍団長に報告する必要があるんだ。

 私とマルガリータはしばらくここに滞在する。何か分かったらすぐに知らせてくれ」

「了解!」

 タカフミはポッドを飛び出して、警備室に向かった。


          **


 タカフミは陸自・施設科の知人に問い合わせてみた。

「須藤、施設科でトンネルって掘れるのか?」

「俺たちの仕事は、えーと、陣地構築、渡河作業、あとは戦車とかが通れるように地面を整えることだからな。トンネルはないな~」

「ううー、そうだよな」

「施設科よりも、民間企業に聞いた方がいいぞ」

「例えば?」

「東京に、たくさん地下鉄が走っているだろ? あれ、密集しすぎて、トンネルがすげーニアミスしている所があるって聞いたぜ。それだけ正確に掘る技術があるって訳だろ?」

「そうか地下鉄か! ちなみにトンネルってどうやって掘るんだ? ショベルカー?」

「まさか。ちゃんと専用のマシンがあるんだよ。先端のカッターがぐるぐる回るやつ。施設科にはないけどな。日本にもメーカーがあるはずだ」

「それ、調べてみる。ありがとう」

「あ、タカフミ待て。あの『星の人』だけどさ、また来てるんだろ?」

「おう」

「マルガリータさんと合コン設定してくれ」

「一応言っとくが、あの人、宇宙人なんだぞ?」

「俺たち自衛官に、そんなことを気にする余裕があると思うか?」

「・・・努力はする。旨い飯を食える店、探しといてくれ。じゃあ、またな」


          **


 そうか、地下鉄か! タカフミは地下鉄工事について調べてみた。するとあった! 「シールドマシン」という機械があるようだ。

 動画を発見。これはすごい。円筒型の機械で、先端が地盤を削り取って掘り進む。それだけでなく、トンネルの内壁も自動で作ってくれるらしい。

「おはようございます!」

 非番だったが、「星の人」の降下で呼び出された堂島が、警備室に入ってきた。

「堂島、休み中にすまないな」

「いえ! マルガリータがまた来たんですか?」

「マリウス司令も一緒だ。今はポッドにいる」

 タカフミは「駅」建設前倒しの件を一通り説明。その上で、シールドマシンの保有企業の調査を堂島に命じた。

 タカフミ、「星の人拠点」に戻る。LAVから降りるとハッチが空いた。マルガリータに招かれて中に入ると、シールドマシンの動画を2人に見せる。

「これなら行けそうです!自動化されていて、正確に掘れます」

「スピードはどのくらいなんですか?」

「1分間で5cmです。24H稼働で年25㎞強。4台あれば、1年で100㎞掘れます!」

 タカフミのスマホが鳴る。堂島からの着信。

「シールドマシンですが、福岡の企業が保有しているそうです」

「フクオカだな? マルガリータ、地図を出してくれ」

 空中ディスプレイに、九州の地図が表示された。種子島と福岡にピンが立つ。

「大きな都市だな」

「福岡といえば、屋台と博多ラーメン、明太子、それにお寿司やフグ・カキなどの海鮮ですね! 福岡市は九州で最大の都市。空港が2つに博多港や新幹線があって、日本国内だけでなく、アジアとも繋がる交通の要衝です」

「グルメから始まるのがマルガリータらしいな」

 マリウス、タカフミに振り向く。青と黒の瞳がタカフミを見据える。

「すぐに現物を見に行きたい。ポッドで訪問する。タカフミ、調整を頼む」

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