第5-10話 「機動歩兵」

 タカフミは通路を駆け抜けたが、誰もいない。

 海に面した通路を駆け、更に一つ上のデッキに登る。

 船首側のオープンデッキにポッドが鎮座している。その前にジルが立っていた。呼びかけて駆け寄る。

「叫び声が聞こえたんだ。異状はないか?」

「聞こえなかったな。マリウスはどこだ?」

「ダンスフロア。今、一人だ」

「すぐに戻れ。ここは大丈夫だ」

 そこにバトラーが1人、オープンデッキに現れた。テーブルを整えていたスタッフが彼の周りに集まる。スタッフを従えるようにして2人の前に立った。

「動かないでください」とタカフミを制止する。

「司令の所に戻るだけだ」

「動くな」上着の内側の銃を見せる。

 ジルがバトラーを指さして言う。

「こいつら、あれか? PSSとかいう団体さんなの?」

「分からない。こんな荒事をするとは思えないが・・・」

 その時、下のデッキから、銃声が響いた。

「銃声!? マリウスが撃たれたのか!?」

 ジルは、帝国語に切り替えた。

『落ち着け。負傷はしていない。負傷すれば腕輪が知らせる』

 ジルは右腕の力こぶをさすった。

『だが、のんびりしている暇は、ないようだな』

 ジルは、一番右端にいるスタッフを指さして、『お前!』と言った。

 それから2人目、3人目と指さし、最後にバトラーを指さし『お前!』と呼ぶ。

 4人と2人が睨み合う。

 バトラーは危険を感じ取ったようだ。

 バトラーが銃を抜くと、それをタカフミに向けた。タカフミは腰の銃に手をかけた姿勢で止まる。

「銃を放せ!」

「銃に触れるな!」

 バトラーとタカフミが互いに牽制し合った、その瞬間、

『筋肉!』

 と叫んで、ジルが右腕を振った。

 木製のデッキに亀裂が走り、めくれ上がった破片と共に、4人の男が吹き飛ぶ。

 スタッフの2人は、放物線を描いて、ソレイユ号の側面すれすれに、海面めがけて落ちていく。

 バトラーの軌跡は悲惨だった。一番左にいた彼は、オープンデッキの柵に叩きつけられ、背中からデッキ3に落下。今度はデッキ3の柵に当たって、血をまき散らしながら、海に落ちていった。

 一番右のスタッフは、吹き飛ばされた後に、テーブルの上に落下した。

 飛び散ったカトラリーが硬質な音を立てる。それでもまだ動くことが出来た。ジルめがけて銃口を上げる。

 その右腕が一瞬白く光り、それから発火した。銃が手から落ちる。

 悲鳴を上げて燃える右腕を差し上げ、左手で叩いて消火しようともがく。

 そのまま、傍目には踊るような足取りで、厨房に向けて逃げようとした。

『足を撃て』

 ジルが命令し、今度は右の腿が燃え上がった。男は転倒し、助けを求めて叫びながら転げまわる。

「地球人は、手足の移植はできるのか?」ジルが聞いた。

「移植? いや、無理だと思う。手足をなくしたら、そのままだ」

「そうか、それは可哀そうだな」

 ジルが手招きする。ポッドの陰から、銃を持ったスチールが姿を現した。

『消火して拘束。ポッドを守れ。俺はマリウスを助けに行く』

『司令の安全確保が優先です』

『こいつを拘束したら、一人寄越せ』

 ジルはタカフミに呼びかけた。

「よし、あいつを助けに行くぞ」

「さっきのは何だ? 急に吹っ飛んだぞ!?」

「それについては、後で教えてやるよ」

 その時、ジルの腕輪が鳴った。小さな空中ディスプレイが自動で表示される。

 それを見たジルが驚いた顔をした。

『あり得ねえ・・・』

「何があった、ジル!」

 胸騒ぎを覚えてタカフミが聞く。

 ジルはディスプレイをタカフミに見せた。

「マリウスが負傷した。重傷だ。行くぞ!」

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