第3-7話 「エスリリスにて」

「固定が終わりました。衛星軌道に上がれます」

 スチールが連絡に来た。以前、宙飯屋で一緒に食事をした人だ。士官ほどではないが、かなり日本語が話せる。

「ありがとう。上官に報告して、それから搭乗します」

 堂島は無線で梅田一尉に連絡。

「シールドマシンの最後の2台、準備が完了しました。これから、自分も一緒に『上』に行きます」

「了解。忘れ物とかないか? しばらく現地滞在が続くからな」

「必要な物は、もうポッドに乗せてあります」

「くどいようだが、安全第一だ。気を抜くな。無理をするな。慣れない環境だから、休息も十分にとれ。

 「星の人」にとってはスケジュールが大事だろうが、自衛隊にとっては、お前が五体満足で、生きて帰ってくることが大事だ」

「了解です。ありがとうございます。では、行きます」

 スチールに導かれて、堂島はポッドに乗り込む。

 ポッド内は、中央に円柱があり、あとは固定された椅子がいくつかある。それだけだ。白くてがらんとした空間だ。

 スチールが何か指示を出すと、周囲の壁が消えて、シールドマシンや「星の人拠点」の風景が浮かび上がった。壁面全体が周囲の映像を表示している。隊員たちも着席して、目の前の空中ディスプレイを操作している。

「軌道エレベータを上昇させます」とスチールが告げた。

 「鉄板」中央にある円筒が、淡い燐光を放つ。そして、750トンのシールドマシンを2台乗せた「鉄板」が、ゆっくりと上昇する。

 これは、重力に「逆らって」持ち上げているんじゃないんだな、逆らうのではなく、何か、違うことが起きている。堂島はそう思いながら上昇を見つめた。

「我々も上昇します。高い所は平気?」スチールが壁に手を振りながら尋ねる。

「大丈夫です・・・下を見ないようにするので」

 堂島、シールドマシンと共に衛星軌道へ。


          **


 衛星軌道で待っていたエスリリスに、軌道エレベータもポッドも収容された。

 格納庫内でポッドから降りる。マルガリータが待っていた。笑顔で手を取り合う。

「お疲れさま、堂島~。宇宙にようこそ!」

「マルガリータ~。やっと来れた~。もう大変だったよ。企業や上との調整がいっぱいあってさ。一生分の頭を使ったよ」

「それは大変でしたね。おかげでマシンも借りられて、感謝してます」

 マルガリータ、堂島を艦内に案内する。

「あの、普通に歩けるんですね。ちょっと、宇宙に来た感が薄いかな」

「艦内で重力を発生させているので。現場に行ったら、太陽系を見渡せますよ」

 個室のドアを開く。

「こちらは士官用の個室です。堂島はお客様待遇なので、ここを使って下さい」

「ありがとうございます!」

「これから、駅建設現場に向かいます。明日朝には到着しているので、それまでゆっくり休んでください。食堂は後で案内しますね」


          **


 翌朝、マルガリータが迎えに来た。

「現場に行く前に、エスリリスの艦長を紹介します」

 そう言って、堂島をブリッジに連れていく。

 艦長はステファンだ。背が高くてかっこい。赤毛で、ジルと同じように後ろ髪を一房、長く伸ばしている。落ち着いていて、頭がよさそう。笑顔が優しい感じ。

 緑(アイビーグリーン)の簡易宇宙服で、その上に長袖のジャケットを着用している。すごく身なりがきちんとしている印象だ。

 そこへジルが入ってきた。Tシャツ1枚で、腕の筋肉のすごさに圧倒される。大きな胸と筋肉でシャツが破けそうで心配になる。

「マリウスとタカフミも戻ってきたぞ」

 えっ、いきなりマリウス様!? と堂島が動揺する間に、マリウスが入室。

 一瞬、沈黙が広がる。

「ちょっとマリウス!」マルガリータが叫ぶ「ちゃんと乾かしました?」

「自然乾燥」

「朝、梳かしましたか!? ちゃんと自分でも梳いてくださいよ~」

「ブラシはマルガリータが持ってるだろ」

 マリウスの寝癖が酷い。アホ毛で頭が膨らんで見える。毛先の一部が直角に折れ曲がって横に飛び出ている。マルガリータが慌てて髪を梳かそうとする。

「あの、私がやります!」堂島、手を挙げて、髪を梳かす役を買って出る。

 憧れのマリウスに近づく。鎖骨が少し見えて、心拍が跳ね上がる。自分の顔が赤くなるのが分かる。

 マリウスは無表情。人に髪を梳かしてもらって、この落ち着きぶりは何? そうか、これが王者の貫禄ってことですね!? 世話されるのが当たり前なんですね! と堂島は勝手な解釈を進めて、一人で舞い上がっていく。

 マルガリータは、タカフミを少し離れたところに引っ張っていく。

「あの、堂島はどうしちゃったんですか? 大丈夫?」

「いやぁ、あいつ実は、司令を男だと信じているんです」

「え、男?マリウスが?」

 マルガリータ、口に手を当てて驚きを隠していたが、何か思うところがあるようだ。

「面白いから、しばらくそのままにしておきましょう」

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