コンタクト
第1-1話 「ロケット」
バリバリバリ、という腹に響く轟音を立てて、ロケットが空に駆け上っていく。それをタカフミは、大型ロケット発射管制棟の脇で眺めていた。
子どもの頃から、宇宙に憧れていた。なので、航宙自衛隊が設立されると、すぐに入隊し、やがて士官になった。自衛隊なら、剣道で鍛えた体を活かせると思ったのだ。
とはいえ、設立間もない航宙自衛隊に自前のロケットはない。今はもっぱら、JAXA施設の警備と情報収集が任務だ。ロケットの管制に関わることもない。
それでも、こうしてロケット発射を間近で見れるのは、嬉しかった。
ロケットが東の空に登って見えなくなると、タカフミは統合指令棟の詰所に戻った。
発射が終わると、周囲3kmの立入禁止は解除される。種子島宇宙センター近辺の人の動きも活発になる。各警備スポットに異常がないか、モニタや電話で確認する。特に異状はなかった。
航宙自衛隊には宇宙を観測する施設もないので、ロケット発射に関する情報は、全て管制室に聞かないと分からない。
後で、今回の様子をJAXAのスタッフに聞いてみよう。そう思いながら、ロケット発射の計画書を読み返していると、詰所の内線が鳴った。
「こちら警備室。小脇です」
「小脇さん・・・小脇三尉。至急、管制室に来てくれますか」
電話の相手は、前田FD(フライトディレクタ)だった。FCT(フライト・コントロール・チーム)の統括者だ。
何だろう? とタカフミは不思議に思った。ロケットにトラブルがあっても、航宙自衛隊を呼ぶ理由はないのだ。
しかし前田FDの声には、有無を言わせぬ緊迫感があった。電話越しに、管制室の喧騒が聞こえてくる。
タカフミは、「すぐに伺います」と言って、詰所を飛び出した。
管制室に入ると、前田FDを囲むように、RCO(射場管制官)やLCDR(ロケット発射指揮者)といった幹部が集まっていて、一様に正面の大型ディスプレイを見上げていた。
周囲からは、ダウンレンジ追跡所とやり取りする、興奮した会話が聞こえてくる。
「小脇、参りました。何事ですか。ロケットに異常でも?」
前田FDが振り返ってタカフミを見た。
フライトディレクタは常に、迅速な判断が求められている。たった数秒間迷う内に、ロケットは何十㎞も飛んでいってしまうからだ。そのために、ち密なシミュレーションで、あらゆる事態を想定し、リハーサルと訓練でトラブルに備えている。
だが、今の前田FDの顔には、戸惑いがあった。
「ロケットは順調。貨物は無事に衛星軌道に投入されました。万事OKよ、ロケットは、ね」
そう言って大型ディスプレイを指さす。
衛星軌道上の様子がCGで描写されている。そこに、見慣れない黒い影があった。影?人工衛星とは思えない大きさだ。
「急にこの影が現れた。とんでもないスピードだったよ。そして、我々の上空で止まったんだ」
今度は、天井を指さした。
「そして、何かが降りてきている。直径8mほど。自由落下ではない。しかし、いかなる噴射も視認されていない。何かが、エンジンを噴かさずにゆっくりと、降りてきているんだ」
前田FDは、腕を組んでタカフミを見た。
「もうすぐロケットの丘展望所に着陸する。どうしたらいいと思う?こういうのを、想定外って言うんでしょうね。あるいは、青天の霹靂、かな」
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