星の人

第4-1話 「宿泊施設」

 トンネル掘削の目途が立ったので、第3工区に作業員の宿泊施設=「詰所」が設置された。今日タカフミはマリウスの案内で、この詰所の確認に来ていた。

 アウロラに着陸したポッドから下船する。

「これが詰所だ」

 マリウスが建物を示す。「星の人拠点」に降下してきたものと同じ、白い建物だ。

 ハッチが開き、マリウスが先に立って中に入る。

 マリウスは黒い簡易宇宙服姿だ。上下つなぎの、フライトスーツ風の衣装。マルガリータが地上に行く時に着ている服と色違いで、体のラインに密着したデザインになっている。

 黒髪に沿って視線を降ろすと、細い腰とお尻の丸みにぶつかった。見つめるのは無作法と思い、タカフミは視線をそらした。

 作業現場には、建設艦隊の隊員とタカフミ、堂島が宿泊して、24時間体制で作業を進める予定になっている。この詰所が宿泊や休憩、そして緊急時のシェルターとなる。

 ハッチの先には応接室がある。奥のドアを開けると、通路になっていた。左手には小部屋がいくつか続くが、どれも物資でいっぱいだ。

「非常時に1か月籠れるように、空気や水、非常食などを詰め込んである」

「物資のリストはありますか?」

「2階の制御室にある。後で目を通してくれ」

 通路の突き当りに階段。通路は右に曲がる。左手(外壁側)には、トイレと小部屋。

 次に通路が右折する手前で、右手(建物の内側方向)にドアがあった。

 中に入ると、広い空間が広がっていた。テーブルや椅子が様々な向きで配置され、ソファーもある。がんばってカフェっぽくした食堂、という感じだ。

 部屋の中央には、直径5mほどの円柱が鎮座していた。天井を貫いて、2階まで続いている。ポッドと同様の構造だ。

 ドアを入って右側、部屋の1/4が仕切られており、ここが厨房エリアらしい。

「ここが食事をするところ。あと、休憩所を兼ねている。

 食事や入浴は、士官も兵士も同じ場所だ。兵士たちが落ち着いて食事できるように、配慮してくれ」

 意外に細かい気遣いをする人なんだな、とタカフミは思った。顔に出たらしい。

「お前はそういうことに気をつけろ、と軍団長から言われた」

「そういった指導をしてくれるなんて、軍団長は面倒見のいい方ですね」

「私のことを心配しているみたいでな。部屋に呼ばれて特別指導があったりする」

 心配させるような何かがあったのだろうか? 今度は平静を保つ。

 厨房エリアの前に、4台のタッチパネルが並んでいる。

「空中に投影されるディスプレイじゃないんですね」

「あれは便利だが、電力消費が大きいんだ。このパネルはオーダー専用で用途が固定だから、固定ディスプレイを使っている。使い方を教えよう」

 使い方は、希望するメニューをタッチするだけなので、直感的に分かった。

 文字は読めないが、肉を使った主菜的なもの(魚?のような異形の姿もある)、サラダや副菜的なもの、主食(パンやナン、米らしきもの)、スイーツや飲料、が並んでいる。

「あれっ!? これ、ラーメンじゃないですか?」

 最後の画面で、ラーメンやパスタが並んでいた。なんと種子島宇宙センターのロケットカレーまである。

「ああ、マルガリータがレシピを開発したんだ。けっこう人気がある」

 マリウスがタカフミを見た。

「実際に使ってみよう。軽食を選んでくれ」

「コーヒーはありますか?」

「この辺りがカフェインを含んでいる」

 タカフミ、褐色の飲料と、あとは焼き菓子のようなものを選ぶ。

「料理は機械が作る。出来たものは柱の向こう側で受け取る。名前が表示されるまで待ってくれ」

 柱の向こうのテーブルに移動。向かい合って着席。

 タカフミは、料理の受取口周辺や、周囲の様子を、興味津々で見まわした。

 棚には雑誌のようなものが、まばらに置かれている。オブジェの類が殆ないのは、建物自体が移動するためか。照明は天井自体が発光している。

 そして、ふと気づいた。

 マリウスが動いていない。

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