第5-3話 「客船」

 マルガリータを中心に、さっそく「対話」の準備が始まった。

「堂島に手伝ってもらいたいんです」

「いいですけど、なぜですか?」

「シールドマシンを手配する時に、獅子奮迅の活躍だったからです」

 企業や航宙自衛隊のお偉方、更に政府とのやり取りで、堂島は駆けずり回っていた。今回も堂島の交渉力が活かせると考えたのだろう。

 翌日、タカフミと入れ替わる形で、堂島がエスリリスにやってきた。

 マルガリータが自分の仕事場に案内した。ドアの上には『情報軍』と書かれている。情報軍の備品倉庫を兼ねていて、司令室よりも広い。

 堂島は、物珍しそうに部屋の中を見渡した。

 エスリリスの艦内は基本、物が少なくて整然としている。

 なのにこの部屋は、よく分からない機械の類や、地球から持ち込んだらしい物品で溢れている。

 奥の方にはキッチンまである。棚には大量の調味料とレシピ本。今は地球産の方が豊富にあるようだ。

 色々気になるが、堂島は仕事に意識を戻した。

「対話を行う、って聞いたんですけれど、何人くらい招待するんですか?」

「5人くらいかしら。人数が少ない方が、しっかり話せると思うのです」

「そうすると、会場にする船は・・・」

 呟きながら、堂島は空中ディスプレイを操作した。仕組みは不明だが、地球のインターネットに接続して、検索ができる。

「屋形船でどうですか? これでも20人くらい乗れますよ?」

 ふう、とため息を吐いて、マルガリータは諭すように言う。

「いいこと堂島、この対話は、地球人と帝国の間のわだかまりを解消して、駅建設をスムーズに進めるための、極めて重要なイベントなのよ」

「そ、そうですね」

「不信感や、感情的なしこりを押し流して、いわば『両文明が打ち解け合う』のが目的なの。この崇高な目的のために、何が必要と思いますか?」

「なんとなく想像つきますが、何でしょうかとお尋ねしたい」

「美味しい食事です!」

「やっぱり・・・」

「私の研究によると、こういう汎地球的なイベントには、必ずフランス人が顔を出すんです。なので、ディナーにはフランス料理も1度は出さないといけません」

「フランス人だって、日本に来るなら日本食が食べたいんじゃないですか?」

「もちろん、日本食だって出すんです」

「まさか何日も続くんですか?」

「もちろんですよ! 両文明が打ち解け合うためですよ? 1度一緒に食事するくらいじゃ足りないです。朝昼晩におやつも食べて3日くらいは最低必須でしょう! だから宿泊もできる船がいいですね!」

「ええと・・・どんな船がいいんですか? イメージありますか?」

 堂島が呆れながらも尋ねると、マルガリータは画像を表示させる。

「あー、これは氷山にぶつかって沈むタイプですね」

「それって映画でしょう?」

「実話です! それはそうと、招待するのが5人程度なんですから、もっと小さな客船にしましょうよ」

 2人であたりをつけたのは、全長70mの客船「ソレイユ号」だった。客室数65室、乗客定員130名。デッキ4層。これでもオーバースペック気味だが、ポッドを降下&搭載できるだけのサイズが必要ということで、この船が候補になった。

「でも、安全のために貸切るんですよね? すごく高そうですよ。

 『ラグジュアリークラス』とか書いてありますよ」

 堂島が心配そうに言った。縁がなさ過ぎて値段の想像が出来ない。

 マルガリータは不敵な笑みを浮かべると、戸棚の中に置かれた金庫を開いた。

 取り出したのは、10㎝四方の金属板。それが積み重なって、大きな立方体になっている。一番上の1枚を手に取って、堂島に渡した。堂島はしげしげと見つめる。

「値打ちがあるんですか?」

「プラチナですよ」

「ふーん」堂島は貴金属に興味はなかった。

「それ1枚で500万円くらい」

「げっ」

「あの塊で、1億円超えますね」

「ひえぇ」

「金ならなんぼでもあるんじゃ~、って感じですよ!」

「じゃあ! シールドマシンだって現金で借りれたんじゃないですか!?」

「うう、実は、換金するのが大変なんですよね・・・金額が大きい上に、受け取る方も、心配でしょうから」

 「星の人」の美称はあっても、要は正体不明の宇宙人なのだ。

「資金は何とかなるとして、直接取引だとやっぱり難しそうですね。製造業じゃないから電気もあんまりいらなそうだし」

「まあ、まずは相談してみましょう~」


          **


 定期通信で、マルガリータが「対話」を行いたい旨を表明すると、柿原アナウンサーを含め参加者は全員、大いに乗り気で、協力を申し出てくれた。

「どのような方を招待されるのですか?」

「政治家や政府関係者は除くので、学者さんがいいですね。地球外の生物や知的生命体を研究されてる方。あとは、お医者さんと、人文系の方にも参加して頂きたいと思ってます」

「会場はどこで?」

「警備上の理由で、船をチャーターしたいと考えています。場所は沖縄方面がいいな~。でも、船会社とどう交渉しようか、悩んでるんです。いい方法ありませんか?」

「それなら、我々に手伝わせてもらえませんか?」

 柿原が自分の胸を叩いて言う。

「色々な取材活動で、パイプもありますから。対話の様子を世界に発信するのもお任せください! 船は既に決まっているんですか?」

「この船がいいな、という候補があります」

 マルガリータはソレイユ号の画像を共有した。

「ただ、問題は費用ですね・・・」

「それについては、実はこちらでも考えがあるんです。なんくるないさ~」

「では、船会社と打ち合わせをセッティングしますから、またお会いしませんか? あの・・・お食事なども」

 「行きます!」

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