ジ・エピローグ・オブ・シーズン・ワン

エピローグ〜言えた「愛してる」と世界の終わりの始まり

 ◇◇◇


「次元の狭間」で意識が途切れると、次に由々よしよしは懐かしい場所で目を覚ました。


(ここ、「岩戸」だ)


 幼い頃の、由々と愛姫子あきこのどかの秘密基地である。

 目の前で、神様・和が湯呑みでお茶を飲んでいる。


「リルドブリケ島の通常時空に戻る前に、私とお兄ちゃんだけちょっと寄り道させてもらいました」

「ここ、懐かしいな」

「この『岩戸』、神様の私でも中々アクセスできなかったんだけど、さっきの戦いで時空が乱れたからか、ちょっと辿り着けそうな状態になってたから」


 神様・和が言葉を紡ぐ。


「お兄ちゃんも気づいてきてると思うけど。空想世界で石板を集めて、愛姫子さんが本来の力を取り戻していくほど、愛姫子さんは『世界の脅威』へと近づいていく」


 神様・和は一呼吸置いてから。


「それでも、愛姫子さんのこと、好きなんだよね?」


 と、由々に尋ねた。

 由々は、自分の内側にある想いを語りはじめた。


「大災害があったんだ」


 それは未来の自分を通して受け取った、想いのかけらだ。


「僕も、いつ死ぬかもしれないし、この気持ちも、いつ幻のように消えてしまうのかも分からない。だったら、今、僕がこの熱い気持ちを抱いていること自体が奇跡なんだって思って」

「奇跡か。いいこと、言いますね。さすが、お兄ちゃんです」

「僕の愛姫子への気持ちは、『愛してる』ってことだ」

「やっぱり、そうですか」

「何があっても、偽ってはいけない、本当の気持ちだ」

「愛姫子さんの一番の願いを叶える方法が、分かったようですね」


 由々は静かに頷いた。


「そろそろ行くよ。想いを伝えることができなかった、誰かのために。想いを伝えることができなかった、違う時空の自分のために」


 今、伝えることができるっていう、自分を慈しんで。


「あーあ、やっぱり、愛姫子さんが羨ましいな〜」

「何を言ってるんだ。和は、他にどうにもならない、僕の大事な妹だよ」

「私は、神様にまでなったからね。現実世界の和よりも、ちょっとお兄ちゃんへの執着が強いかも」


 悪戯っぽく笑う妹の笑顔が、眩しかった。


「和」

「何?」

「僕の妹として生まれてきてくれて、ありがとう」


 ◇◇◇


原初海域(ラブアリア)/


 その世界では、私は水人みずひとと呼ばれていた。

 雪人ゆきひとと、風人かぜひとと、三人で「なかよし」で暮らしていた。

 そこでの私は、女でもなく男でもなく、人間でもなく人魚でもなく、ただ、水人だった。


「さあ、冒険に出よう」


 雪人が言った。


「何があるのか分からないのは、ちょっと怖い」


 私が不安を口にする。


「でも、喜びを求めて『世界』に出ていくことは、きっと優しいことですよ」


 風人が言った。


「大丈夫、僕も、風人も、ずっとキミの側にいる。それだけは、『確か』だ」

「本当に?」

「うん。『約束』する」


 心に安堵が広がっていく。

 こうして、私たち三人は冒険の旅へ出た。


──もう何度生まれ直しても、途切れぬ「約束」のチェーン。これは、愛という名の糸で結ばれた、三人の物語。


 /原初海域(ラブアリア)・了


 ◇◇◇


 リルドブリケという名の島がある。

 空想と現実が交差する場所に浮かぶ、孤独な島だ。


 気がつけば、柔らかな風に包まれている。

 足元には、波が寄せては引いている。

 時空風で時間が乱れただけでなく、「場」まで乱れたのだろうか。

 リルドブリケ島の通常時空へと戻ると、由々と愛姫子はロビホンの宿ではなく、コルピオーネの海の波打ち際で見つめ合っていた。


「愛姫子のことは、僕が守る」

「どうしたの、急に? そりゃ、守ってくれるなら、嬉しいけど」


 海に太陽の光が反射して、二人が立つ波打ち際はキラキラと輝いていた。


「それは、『なかよし』の道だから?」

「そう。そうだね、『なかよし』の道だから。半分はね」

「半分?」


 由々は居住まいを正す。


「キミが誰からも選ばれずに大災害に成り果てたとしても。僕だけは、キミを選ぶから」


 最高の愛という刃で。


──その時は、僕が殺してあげるから。でもそれはまだ、先の話だ。


「愛姫子」


 父のことは、全然片付いていない。

 握りしめた刀も、手放せないままだった。


(それでも)


 ここで表明しなくちゃ、自分を偽ることになる。

 この言葉を、伝えることで。

 0.1ミリだけでも愛姫子の自分を責める気持ちが軽くなることがあるのなら、由々は伝えたいと思ったのだ。

 勢いだって。

 愚かな熱情に過ぎないって、世界は笑うだろうか。


 ──笑われてもいい。


 表現しなくてはならないのだ。


(ここに、キミの味方がいるってことを。

 世界で一番キミが大切だって、思ってる人間がいるってことを)


 ここでは、水と砂がお互いの声を聴こうとしているかのよう。澄んだ空間は、あらゆる存在がお互いのか細い魂の声に耳を澄ませているかのよう。

 波打ち際は、海と陸が繋がる場所。

 世界と世界が交わる、この美しい境界で。

 由々は、愛姫子の両の瞳を正面から見つめて、告白した。


「愛姫子、キミを愛してる」


 由々の愛の言葉を、愛姫子が受け取った時だった。


──愛姫子の「人魚マーメイドの天眼・サファイア」が、満ち足りたように粉々に砕け散った。


 これが、愛の物語の終わりと始まり。

 ここでは、空と海とがお互いのささやく声を聴こうと息を潜めているかのよう。

 波打ち際は、陸と海が相互に交流する場所。

 世界と世界が繋がり合う、この美しい境界で。

 愛姫子が、由々に言葉を返した。


よしちゃん、私も愛してる」



 "Season1"・完/


 "Season2"へ続く



〜著者あとがき〜

本作は「電撃の新文芸5周年記念コンテスト」へ応募中ということもあり、ここで一区切りとさせていただきます。


続きに関しては賞の結果発表後に近況ノートなどでお知らせしますので、お待ちいただけたら幸いです。

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なかよし幼馴染とゆくこの世界と異世界 相羽裕司 @rebuild

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