第十三章「ツノから電波を受信している(?)店主との会話・中〜『天球音楽隊』の活動について」
「マーメイヤ……様、結婚してたの!?」
「その。そもそも、マーメイヤ様って何者なんですか?」
「そこからでありますか! 不思議な、異郷の方々! よいでしょう。マーメイヤ様推し歴100年のこのロビホンが、『マーメイヤ伝説』のエッセンスをざっくりとお話いたしましょう」
「お願いします」
カウンターで由々の隣に座っていた愛姫子も、興味津々といった様子である。由々も情報収集としてもちろん興味があるのだが、マーメイヤのことを話す時のロビホンから何かワクワクとした気のようなものが伝わってきて、純粋にこちらも何か面白いお話が聞けそうだ、という胸の高鳴りを感じたりもする。
「リルドブリケ島歴3899年から3900年にかけての約1年間、この島で大活躍した『
「最初からすいません。今、何年ですか?」
「そこからでありますか! 今年は、3999年、『厄災』の年ですぞ!」
ちょうど、100年前くらいの人物なのか。
「3889年。リルドブリケ島に魔王が現れ、世界は闇に包まれた。このロビホン、子供の頃の記憶は、魔族が
(100年ほど前の魔王。現在の氷炎女王とは別の存在か)
「10年ほど続いた暗黒の時代。ついにマーメイヤ様が現れます。全ての属性、七色の魔法を使う可憐な人! 1年をかけて島の各地を支配していた魔王の配下・
「歌声?」
愛姫子が尋ねる。
「六魔天を一体倒す度に、マーメイヤ様は各地で『解放のコンサート』を行なっておりましたからな。マーメイヤ様とその従者によるバンド『天球音楽隊』は、我が生涯の光であります! 推しであります!」
「へー。音楽をやる人たちだったのね」
「このロビホン、後半三つの『解放のコンサート』は現地参戦でありました! どんなに時間が流れても、我が輝かしき青春の日々! そして、最後についにマーメイヤ様は闇の城に攻め入り魔王を討伐。光の城となったイストリア山の頂上で伝説の、そして『天球音楽隊』解散の『結婚コンサート』を行なったので、お、行なったのであります!」
「ロ、ロビホンさん!?」
涙ぐみ始めたロビホンさんに愛姫子が驚く。由々としては推しのバンドの解散ライブがずっと心に残っている彼は、とても人間らしいと思った。
「魔王討伐と同時に結婚したということですか。ああ。それは、マーメイヤ様は剣士オボロと?」
水の妖精ウェンディゴンから聞いたマーメイヤの従者の名前を出してみる。何となくではあるが、話の流れからバンド内恋愛結婚なのかな? と思ったのだ。
「
「タケフミ!?」
思わず語られたその「タ」「ケ」「フ」「ミ」の音に、愛姫子が驚きの声をあげる。
愛姫子が受けた衝撃は、由々にも分かる。「タケフミ」という名の人物を、由々と愛姫子は現実世界の方で共通で知っているのだ。
(何かの偶然か? しかし、そんな付合があり得るのだろうか?)
ただ、由々と愛姫子が持っているその情報を、今日出会ったばかりのこのロビホンとディンディンに開示するのが適切なのかが分からない。
由々は愛姫子に目配せする。
今の時点では、まだロビホン達には由々と愛姫子に「タケフミ」なる人物に心当たりがあることは伝えないでおく判断を下す。
愛姫子は由々の意図を理解したようで、アイコンタクトの後は平静にロビホンの話の続きを聴き入るように振る舞った。
「そして! マーメイヤ様は最後の一曲を歌い終えると、蒼穹の空に現れた天の輪に吸い込まれるように、剣士オボロ、賢者タケフミと共に、『どこか』へと帰っていかれたのです。現地勢だったロビホン、号泣」
なかなか、壮大な話であった。そして、なんか「カッコいい」話であったようにも思う。
そんな美しい話と鏡合わせで、生きる者は悩み続けるのも常であるようで。
「ロビホンの旦那は生粋のマーメイヤ推しだからな。俺は、マーメイヤ様さえ帰らなければ、こんな『生存券』におびえるリルドブリケ島にはなってなかったと思うがね」
ロビホンが語る物語を聞いていたディンディンが言った。
「生存券?」
由々が尋ねると、ディンディンは懐から一枚の紙を取り出した。ちょうど、現実世界の演劇や音楽のライブのチケットのような。
「魔法でこの島の『存在』と紐付けられた紙さ。俺のところには、きた。『生存券』が送られてきた人間は、『避難所』に入ることができる」
「それは、どういう?」
「『奪還作戦』が成功したとして、イストリア城の『避難所』には、全員は入れないんだ。だから、アスガル様は『生存券』で、この島の『存在』を選別している。『厄災』で誰が生き残って、誰が死ぬべきなのか、ってね」
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