第三十八章【未来編】「属性、本当の強さ、自由自在」

「リルドブリケ島では、あらゆる存在がその中心に振動する『波』を持っている。この波にはタイプがあって、それを『属性』と呼んでいるわけだ。一方で世界の方も見えない振動する『波』に満ちていて、こちらにも様々なコントラストがある。あの世界での『魔法』っていうのは、自分の中の『波』の波長と、世界の方の『波』の波長が共鳴して発動するんだ。現実世界のラジオの周波数をイメージするとイイかもしれない。『属性』っていうのは、いわば周波数の『合わせやすさ』だ。水の『属性』の人間は、世界の水の『属性』の波に合わせやすいから、水の魔法が使える」


 父が、由々よしよしたちがマリージヤのギルドで説明を受けたリルドブリケ島における「属性」について、より踏み込んだ説明を述べる。


「その点、愛姫子あきこちゃんは七属性だから、いわば色んなチャンネルに合わせられる稀な人間ってことだ。ただ、『チャンネルが合わせられるってことと、受け取る波がその本人に合ってるかは、違う』」

「というと?」

「炎は、そのままでは愛姫子ちゃんの体に合わないから、マーメイヤあいつは調律の過程プロセスをとったんだ。合わないっていうのは、そうだな。周波数が合わせられるからといって、ラジオのチャンネルに合わせてみたとして、いきなり大音量のロックが聴こえてきたら、ビックリするだろう。二枚の石板を手に入れて、既に彼女の内面の連絡世界に存在していた炎の石板の周波数に、愛姫子ちゃんが合わせられるようになった。結果、いきなり入ってきた炎の『波』に当てられて、愛姫子ちゃんの心身がショックを受けてるんだよ」

「それが、愛姫子の熱の原因ですか」

「そう。だから、ショックを受けないように『慣らす』プロセスが必要だった。

石板は変換装置にして、調整装置なんだ。リルドブリケ島に満ちる炎の「波」が愛姫子ちゃんに合わないこと自体は変わらない。だが、調整された石板をとおして愛姫子ちゃん自身の「波」と合わせるようにすることによって、全体としては何とか調和するって寸法だ。さっきのラジオの例なら、石板を経由すれば、炎のチャンネルから聴こえてくる大音量でロックな音を、愛姫子ちゃんは自分に合ったボリュームで受け取りやすいように聴けるってこと」

「『慣らす』という考え方は分かりましたが、なぜ、炎の石板は現実世界の未来に、ギターに姿を変えてあったんですか? 『日常』の力が、必要だった?」


 ロビホンさんが言っていた、「日常」の力。それは、リルドブリケ島だけでなく、現実世界にもある気がする。


「かもしれん。マーメイヤあいつが何故リルドブリケ島でなく、炎の石板を『慣らす』先に『現実歴』を選んだのかまでは、俺っちには分からない。でも、そうだな。『そっち』にいるうちは分からないが、時間は過去から未来へ向かってだけ流れているわけじゃない。同時に存在・・・・・している・・・・。では、『時間』と連動している『場所』とは? 『この世界と異世界』は同時に存在している、鏡合わせの『現象』だ。石板が両方の世界をまたいで存在するのは、不思議なことではないんだ。さて……」


 父は、未だ明けぬ空を背にして、居住まいを正した。


「生きてるお前たちは、そろそろここを立ち去る時間だ」


 大人・由々の部屋でギターに触れた時に発せられた光と、同じ性質の光がこの世とあの世の狭間の山頂を包み始めた。

 光に霞み始めた父が、餞別せんべつとばかりに言葉を送り届けてくる。


「炎は、嫌だよな。熱いし、生命いのちを焼く。でも。何かを成し遂げてみせるという強い心のエネルギー。これも、炎と同質のものだ。それは、世界に必要なものだ」


 父の言葉は光で。どこか、儚かった。


「立ち向かう気なんだな。愛姫子あの子のことをなかったことにすればいいと宣う世界に。さながら、お前が正義のヒーローで、俺っちは、悪の大ボスだったんだなぁ」


──そうだね。お父さんは、僕にとっての……


「マーメイヤも強いが、本当の本当にこの世界で一番強いのは、おまえ達のお母さんだ。そっちの『本当の強さ』は、のどかの方が継いでいる」


──お母さんが、強い?


 母、衣乃いのは、対魔剣術とも鬼道とも関係がない普通の人であるが。それこそ、七色の魔法を使って世界を救ったマーメイヤ様とはほど遠い、街で暮らすはたりだ。


「おまえにあるのは、俺っちと同じ、ため息をつきたくなるような全てを切断する剣の才能だけだ」


──分かってる。僕は、残酷な性質の人間だ。


「でも、切断する力も世界には必要だ。結局、俺っちに出来るのは、切断の手助けだけなんだなぁ。由々。大城一刀流の奥義、まずは第三奥義だが、インスピレーションが降りてきたら型は手放していい。『自由自在』ってことを、便宜上『大城一刀流』と呼んでいるだけだからな」


 光がいよいよ強まってくる。この、父との不思議な邂逅かいこうの時間も終わりになるようだ。


「由々」


──はい。


 全てが光に包まれて何も見えなくなる間際、父は、こんな言葉を由々に残した。


「最後に勝つのはロックだ」


 /第七部【未来編】「たとえ全てが終わっているのだとしても、僕はキミを●してる・上」・完


 第七部・下へ続く

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