第四十七章「約束」


 それは、幼い頃に交わした「約束」だ。



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「世界の終わりの時に、僕たちが一緒にいて『なかよし』だったら、世界は終わらないよ」


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 まだ、みんなが幸せだった頃に「岩戸」で交わした「約束」だ。



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「世界の終わりの時に、もし一緒じゃなかった一人がいたら、その一人は必ず駆けつけること」


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 あの時の気持ちは、今でも変わらない。



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──世界の終わりの時にも、三人で一緒にいること。


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(覚えているとも!)


 神様・のどかはそれまでの神秘的な印象を捨て去って、あどけない昔のままの和であるような口調で言った。


「私が、遅れちゃってるみたいなんだけどね。だけど、必ず追いつくから。それまで! だから! お兄ちゃんは顔を上げて!」


 由々よしよしは、よろずを握りしめる力を取り戻していた。


(僕一人の判断では、前に進めなかったかもしれない)


 一旦、萬を納刀して気を集中する。この状況を打開する奥義があるとすれば、一つだけ心当たりがある。


(和。血を分けた妹。何だか神様になってしまったらしいけれど。君がいてくれて良かった)


 前屈の姿勢で、納刀した刀を構える。抜刀ばっとう術の構えである。


(僕だけじゃない。君から温かいまなざしを向けられる愛姫子あきこが、世界から消えた方がイイ存在だなんて、僕には思えない)


なか


 自分の体の真ん中の鳩尾みぞおちあたりに、気の流れの中心がある。


(自分の呼吸と、宇宙の息吹を合わせるんだ)


よし


 その自分の真ん中と、宇宙の中心とか一致している感覚があれば、この世界の自分自身の在り方に嘘偽りは生じていない。


(愛姫子を守るということは、僕の真ん中とも宇宙の真ん中とも調和している)


よし


「ズレ」なく自分が宇宙と一致した時。すなわち、自由自在の境地が訪れる。


(踏み出せる)


──それが、長年の追求の末に由々が暫定的に辿り着いた「なかよし」の道の効能だった。


 愛姫子は守る。


(この気持ちは、この世界がいかに揺らごうとも、僕の真ん中にあるものだ)


「神め!」


 氷炎女王は極大暗黒火炎に力を込めて時の盾を押し切ろうとしながら、声を張り上げた。


「どうして1000年前、わらわたちは避難所に入れなかった!」


 神様・和は、氷炎女王の問いには答えない。


「三つの石板の力でなんとか表層時空に顕現したけど、とても限定的なもの。防御で精一杯。みんなの力が、必要」


 神様・和が三人に声をかけると、由々だけじゃなく、愛姫子とヒーリアも意識が状況に追いついてきた。


「ヒーリア、私に助力を」

「は、はい。でも、どうすれば?」

「時属性の魔力を、『時の盾』に重ねてください」

「やってみます!」


 ヒーリアが「時の盾」に向かって手を掲げて魔力を解放すると、さらにもう一歩、時の盾は極大暗黒火炎を押し返した。


(第三奥義で退ける。一瞬でいい、極大暗黒火炎の奔流をやませることができれば)


 この状況で反撃の糸口があるとするならば。


(強い思いが必要だ。ロビホンさんが言ってた、「天球音楽隊」のテーマ、何だったっけ? ああ、「心よ、ありのままであれ」か)


 由々、ヒーリア、神様・和が反撃の行動を開始する中、氷炎女王はくらい声色で由々に言った。


「貴様、絶対に後悔するぞ」


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