第二十一章「シルフの翼で羽ばたいて」
午前中の早い時間のことである。コルピオーネの海岸の空気は澄んでいる。
遠方に、海上にせせり立っている「風の塔」が見える。
塔の上空を旋回しているのが、
「優美ね」
「でも、やっぱりここからでも殺気のようなものは感じるね。これは、近づいたら攻撃してくるとみてイイだろう」
「機動力がものをいうことになるでしょう。では、予定通り始めます」
ヒーリアはそう言うと、
「ちょちょんとおいで。風の友だち!」
円が光り輝くと、光の輪の向こう側から、三人の小さな妖精が現れた。
少女のような容姿を持ち、体は透き通っていて意識して見ないと存在そのものを見逃しそう。そして、エメラルドグリーンの綺麗な羽を持っていた。
「シルフさんたちです。では、由々君、背中を向けて」
由々が言われた通りに背を向けると、由々の背中にシルフの一人が取り付いた。肩から手を回して、後ろから抱きついているようなかたちだが、半透明のその体は、由々の体に半分溶け込んでいる。
「知覚共有、お願いします!」
ヒーリアがそう言うと、シルフは淡い緑の光を放った。翼が、大きく広がる。あたかも、由々自身が翼を持っているかのようである。
「なるほど。こういう感じになるのか」
由々は自らと同化したシルフの翼をはためかせると、そのまま空に向かって飛んでみせた。
高速の上昇。かなりのスピードで空中を飛翔する。
一定の飛行の後、ふわりと静止すると、ターンしてこちらへと戻ってくる。
「本当に、飛べる感じだ。それでいて、意識はしっかり僕のものとして別れてる」
「由々君の『こう飛びたい』『こう動きたい』というお願いの思念を、シルフさんが超高速で解釈して叶えてくれてる感じです。とある縁がありまして、シルフさんたちは最大限に私たちに協力してくれます。でも、彼女たちも攻撃を受けたりすればもちろん痛いので、大事にしてあげてくださいね」
由々がターンして戻ってくる間に、ヒーリアもシルフとの同化を済ませていた。残るは愛姫子だが。
「愛姫子さんは別行動で海中から塔に侵入なので、今はシルフさんとの同化を行いません。愛姫子さんが無事石板を持って出てきたとして、その時の状況次第ですが、シルフさんは愛姫子さん用に一人待機してもらっておきますからね」
「了解。空を飛ぶ、か。空を泳ぐ感じなのかな?」
海の上にシルフの翼で浮遊する由々とヒーリアを見上げ、いよいよ自分たちがファンタジーの世界に入り込んでいるのが意識される愛姫子であった。
二人の姿は、愛姫子の感想としては「カッコいい」ものだった。
(空想。悪くないのかも)
愛姫子の方も、自分としては慣れ親しんだ、空想の生き物とされる姿へと変身する。
海に向かって飛び込んで、空中で人魚モードにチェンジ。そのまま、海に潜って愛姫子も海中での体の調子を確かめる。
(大丈夫。この海は馴染む。今日は早く泳げる)
現実世界の50メートルプールくらいの距離を一気に往復して、本日の自分が十分に泳げる状態であるのを確認すると、海面に顔を出す。
愛姫子の顔のところまで由々とヒーリアが降りてきて、まなざしを交わす。お互いに、準備が整ったことを理解していた。
「それじゃ作戦開始だ」
「愛姫子さん、気をつけて」
「
由々とヒーリアは天に向かって飛び立ち、愛姫子は海の中へと潜った。それぞれの、戦いが始まるのである。
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