第四十五章「炎の鳥と、氷柱の嵐」

「氷炎女王!? イストリア山の山頂にいるんじゃなかったのか?」


 由々よしよしは抜刀する。明らかに、氷炎女王からはこちらを殲滅せんとするほどの攻撃的な意志が発せられていたのだ。

 氷炎女王が左の掌を上にかざすと、宙に石板が現れた。

 うつろな波動を放つ石板である。


「石板! 氷炎女王も、持っているの!?」

「気をつけて、このくらいエネルギー。おそらく闇の石板です!」


 由々はよろずを正眼に構えた。


「この島に滅びをもたらす者を、排除する!」


 氷炎女王の左半身の炎が燃え盛り、巨大な灼熱の怪鳥の形状をとる。

 さらに、女王が手にした闇の石板の力が加わり、怪鳥は暗黒火炎の大怪鳥となる。

 かくして、由々たちめがけて暗黒の鳥型大火炎は放たれた。


「ヒーリア!」


 由々とヒーリアの意思の疎通は一瞬だった。ヒーリアが風の魔法を発動すると、瞬く間に萬は白翼ホワイト・ドラゴンと戦った時に使用した風魔法剣へと変容する。

 竜の火炎を斬り裂いたように、由々は風が渦巻く刃で暗黒火炎鳥を斬ろうとするが。


(竜の大火炎より、強い!)


 このままでは、三人とも氷炎女王が放った暗黒火炎鳥の一撃で消滅する。

 恐怖が由々の脳裏を過ぎるが、刹那、風魔法剣の威力がこれまでよりもさらに高まった。

 愛姫子あきこが、風の魔法をさらに萬にまとわせたのだ。

 二重がけとなった風魔法剣を、由々は思いっきり振り抜く。

 かろうじて、氷炎女王の初撃の暗黒火炎鳥はしのぐことができた。


「話を聞いて! これからこの島に起こる『厄災』は『大海衝だいかいしょう』って言って……」


 愛姫子が声を張り上げて、氷炎女王との対話を試みる。『滅びをもたらす者』を排除すると氷炎女王は言った。『滅び』の回避が可能であるならば、戦う必要がないであろうことわりを説こうと思ったのだ。


「知っているとも!」


 しかし、愛姫子の言葉と氷炎女王の言葉はすれ違う。


「みんなが助かる方法があるの。マーメイヤ様が、準備してくれていたんだわ!」

「否、否だ。確かに、アスガルめの方法よりはマシだろう。だが、マーメイヤ様の方法では光ある者しか助からない」

「『七色魔法』が何なのか、知っているの?」

「否。だが、分かるさ。マーメイヤ様は、そういうお方だ。強すぎる、光の使徒。あの方では、闇に堕ちた者は救えないのだ。わらわのような!」


 氷炎女王の右半身が光輝き、第二の攻撃を放ってくる。

 氷炎女王の攻撃の第二波は、無数の氷柱つらら状の刃が吹き荒れる氷の嵐であった。

 嵐は愛姫子を氷り漬けにせんと、凄まじい勢いでこちらに向かってくるが。


(さばき切れる!)


 由々の脳が高速で働き始め、最高のイメージを意識の表面に落としてよこす。絶対に愛姫子を守る。その一念で、萬による連続剣撃で氷の弾丸を叩き落としていくが。


──次の瞬間、気がつくと由々は体の半分が氷漬けになっていた。


(何が、起こった!?)


 由々の後方にいた愛姫子とヒーリアはまだダメージが浅い。膝から下を凍らされているにとどまっている。

 由々の疑念に、ヒーリアの分析が伝えられる。


「時を止められました。私も時を止めて対抗しましたが、向こうは三秒よりも長く止められるようです。相殺し切れませんでした」

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