12 みんなで食べると楽しいね
それはさておき……
今回、話がこじれた原因は、ユカリの振る舞いだろう。
「だったらなんで、噂を信じたフリをして、距離を取ったんだ?」
「あのまま一緒だったら、ダイくんがもっと悪く言われるって思って。それに、犯人を見つけて、ちょっとお仕置きしようかと思ったんですけど……」
「先にミヤチがブチ切れたってわけか……なるほどな」
この様子だと、ついでに、なかなか付き合ってくれないミヤチに、揺さぶりをかけたってことも十分にあり得る。これは将来が楽しみだ。
それにしても、ミヤチが、やけに大人しい。
もっと騒いで話を遮ると思ったのに、黙ったままこっちを見ている。真剣な表情だが、怒りや敵意は感じない。
「ミヤチ、悪い事は言わん。この子を大切にして、絶対に逃がすなよ。この子の前じゃ、つまらん意地やプライドは意味がないからな。よく覚えとけよ」
「うん、分かった。気を付けるようにする」
「なんだ、やけに素直だな。まあ、そのほうが俺も助かるが」
いや、本当にどうした?
これだけ素直だと、逆に心配になってくる。
それにしても、ダイくんか……
そこで、大事なことに気が付く。
「そういや、俺、ミヤチのフルネーム、聞いたこと無かったな」
「えっ?
「いやスマン。俺の記憶から抜け落ちてるだけかも知れんが。ミヤチコウダイ、ミヤチ、コウダイだな。よし、覚えた」
そんなことを話していると、廊下のほうから、足音が聞こえてきた。
……ってか、
勝手な想像だが、てっきり足音を立てないと思ってた。それどころか、空を飛んでも不思議はないって思ってる。
「みんな、お待たせ。栄太もごめんね、待たせちゃって」
「おう、邪魔してるぞ」
おおっ、これは……
やはり神社で奉仕をするなら、それなりの格好ってものがあるだろう。
そう思って、作務衣を作ってあげたのだが……
雫奈は、そのついでに作った巫女姿で現れた。しかも、エプロンを付けて。
「……って、なんだその格好は!」
しかも、たすきを掛けて、動きやすくしていた。
激レア衣装ではあるが、どうせなら、もうちょっとエプロンのデザインを……じゃなくて!
これって、神様とか、いろんな人に怒られたりしないか? 大丈夫なのか?
「どう? 似合ってるでしょ」
「いやまあ似合ってるが、エプロンのせいで、おかしな雰囲気になってるぞ。それより作務衣はどうした?」
「う~ん、アレも悪くないんだけど、やっぱりこっちのほうが、こう身体に馴染む感じがするのよね」
ホントなら、神職の衣装を描いてあげたかった。だが、いまいち雫奈に合うイメージが涌かずに中断している。その代わりに描いたのが、この巫女服だ。
これなら、資料は山ほどある。
もちろん神職装束が仕上がるまでの、代わりの衣装であって、他意はない。
「ダイくん。大根、もしかして切らしちゃってた?」
大根……って、さっきのか?
拾い集めたユカリが、見事に砕け、三つのカタマリと、小さな破片に変わり果てた大根を、そっと雫奈に差し出した。
なんだか外が騒がしい。
サイレンの音だ。
「今のは、消防車か? なんか最近多いな」
「そうなのよね。心配だわ……」
雫奈の言う通り、最近は物騒だ。
それはさておき……
どいうわけか俺は、ミヤチやユカリと一緒に、食卓を囲んでいた。
しかも……
「真っ昼間から、鍋って……」
「エイタさん、ご飯をよそいましょうか?」
「いや、いいや。余らせたら勿体ないし、鍋の具をしっかり食わせてもらうよ。こっちのことは気にせず、ユカリもどんどん食べてくれ」
ユカリは、気の利く、とても良い子だった。
ミヤチのほうは……やっぱり、なんだか大人しい。
大根のことなら、ちゃんと洗って一部は具材に、残りは大根おろしにして、余さず使ってある。だから、気にしなくてもいいんだが。
「でもいいのか? 勝手に外でメシを食って、二人の親は平気なのか?」
ユカリが箸を止めて、こっちを見る。
「全然、大丈夫ですよ。今日も両親は家にいませんから。みんなで食べるのって、楽しいですね」
「そっか。休日なのに、両親、忙しいんだな。ミヤチもか?」
「うちは、シズナ姉ちゃんとこへ行くって言えば、平気だよ」
「うん、私がちゃんと連絡したから、大丈夫。こう見えても私、信頼されてるんだから。この食材だって、商店街の人から頂いたものだし」
新しい具材を鍋に投入しながら、雫奈が胸を張る。
「……って、ちょっと待て。これ、絶対に食べきれないぞ」
「心配しなくても大丈夫。余ったら、ちゃんと保存しておくから」
女神の力ってやつか。
ホンット便利だな。冷蔵庫が泣くぞ!
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