67 愛の力で全てを解決ってか

 できれば、優佳の話も聞きたかったんだが、まあ仕方がない。

 脱力した俺の上で、治療と称する何かをしている雫奈に問いかける。


「雫奈、あの後、二人はどうなった?」


 二人とは、ミヤチとユカリのことだ。

 俺は途中でリタイヤしてしまい、ついさっき目覚めたばかりで結末を知らない。

 美晴の抜き打ち訪問でドタバタしてしまったが、おかげで気絶をする前のことを思い出せたし、頭の中を整理することができた。

 雫奈たちの様子を見るに、たぶん無事に解決したんだろうと思うが。


「ダイくんとユカリちゃんは無事よ。なんか、二人で結婚するって」

「そうか、無事ならよかった。……えっ? 結婚?!」

「私もよく分からないけど、ダイくんがユカリちゃんに熱烈なプロポーズをして、誓いのキスをしたら、ユカリちゃんが正気に戻ったって感じかな」

「なんだそれは……、愛の力で全てを解決ってか?」


 でもまあ、たぶんだが、ミヤチが死ぬ気で頑張ったんだろう。

 よくやった……と、褒めてあげたいところだが……

 

「そんなことで解決するなら、サッサとやっとけって話だよな。俺の苦労は何だったんだ?」

「でも優佳は、こんなことはあり得ないって、絶対に何か変だって言ってたわ。もしかしたら悪魔が絡んでるかも、なんてことも言ってたかな」

「いやもう、ホント勘弁してくれ。俺は平和に生きたいんだが。ちなみに、そいつが、これからも悪さをしてくる……なんてことは、ないだろうな」

「どうだろ。でも、不思議なのよね。悪魔がこの町で活動したら、すぐに分かるはずなんだけど。今も五柱ほど居るけど、悪魔っぽいのは居ないのよね」


 また何か、ややこしいことになってるのだろうか……


「それで、ミヤチたちは無事に帰ったのか?」

「ダイくんは、ちょっと怪我をしちゃったから病院に行ったよ。家の人も行ってるはず。ユカリちゃんは、優佳が送って、そのまま家に帰ってもらったわ」

「怪我? ……大丈夫なのか?」

「ユカリちゃんが噛みついたんだけど、無意識に手加減してたのかな。ちょっと血が出たけど、そんなに酷くはなかったよ。ダイくんも嬉しそうだったし」


 まさか変な性癖に目覚めて……じゃないよな。ユカリを救った名誉の負傷って意味だよな……たぶん。


「でもそれって、医者に何て説明するんだ?」

「ちょっとふざけて噛みついた……ってことにするみたい」

「雫奈は……その、治せないのか?」

「傷薬とか、身体の新陳代謝を促進してとか、方法はいくつかあるけど、今すぐ傷を無かったようにするとかは無理かな。だから、栄太も気を付けてね」

「そっか。まあ、肝に銘じておくよ。……そういえば、ユカリも結構派手に暴れてたけど、向こうに怪我は無かったのか?」

「あっ、それは大丈夫。優佳がちゃんと手加減をしてたみたい。ちゃんと調べたけど、綺麗なままだったよ」

「そうか。それは良かった」


 結局のところ、今回も俺はたいして役に立てなかった。

 精神世界で少しは活動できるようになったから、雫奈たちの助けになれるかと思ってたんだが、全然だった。


 無事に解決して良かったが、やっぱりこれは、あのお方に話を聞きに行くしかないだろうな……と、心の中で呟く。

 とはいえ、出掛けるには中途半端な時間だし、俺にも仕事がある。落ち着いて話をするなら、明日の朝のほうがいいだろう。


 考えの整理がついて安心したのだろうか。俺の腹が騒ぎ始める。

 そりゃそうだ。昼を食べ損ねた上に、もうそろそろ夕方だ。


「ところで雫奈さんや、治療はまだ終わらんのかね?」

「たぶん、もう少しの辛抱……かな。終わったら夕食を作ってあげるから、もうちょっと大人しくしててね」


 治療をしてもらった上にご馳走してくれるっていうのだから、大人しく待つとしよう。なんだか、餌付けされている気がしないでもないが、それも今さらだし、いちいち気にしても仕方がないし、何より美味しい食事を作ってもらえるのはありがたい。


 治療だったらナース服っていうのもいいな……なんて妄想を拗らせつつ、俺はゆっくりと目を閉じた。




 次に目覚めたら、すっかり夜になっていた。

 時計は夜の八時を示している。

 どうやら治療は無事に終わったようで、俺の上に雫奈の姿はなく、優佳がベッドの端に座って俺を見下ろしていた。


「お目覚めですね、兄さま。それでは、夕食にしましょう」


 思わず自分に呆れる。

 よくあの状態で眠れたものだ。

 ゆっくりと身体を起こし、ベッドの縁──優佳の隣に座る。

 特に調子がいいわけではないが、身体は普段通りに動けているような気がする。

 治療の効果なのかもしれないが、そもそも何を治療されたのかが全く分からない。


「まさか、あれから寝てしまうとはな。おっ、お好み焼きか、久々だな」


 どこから取り出したのか、なぜか部屋にポットプレートがあるのだが、そんな事は今さらだろう。

 同時に三枚焼けるほど大きく、誰か一番上手にひっくり返せるか……なんて勝負をしたりして楽しんだのだが……

 結果は、言うまでもなく俺の完敗。ヘラで持ち上げたら、見事に空中分解した。

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