94 倉庫襲撃
目覚めてすぐ、ギリギリ偽装システムの確認をする。
……どうやら今回も無事に作動したようだ。
毎回、ちゃんと作動したのか気になって仕方がないので、あまり意味がないように思えるが、たぶんいつかきっと、ちゃんと役に立つはずだと信じている。
安心したのも束の間、会社からメッセージが飛んできた。
確認完了の報告にしては早過ぎる。そう思い、内容を確認すると……
急な修正事項があったようで、今すぐに対応して欲しいらしい。稀にある大変な状況だ。
ギリギリ偽装システムを使っていると、このような緊急事態の時に困りそうだが、その対応も今後の課題になりそうだ。
今日は可能な限り雫石を作っておこうと思っていたが仕方がない。急いで作業に取り掛かる。
どうやら舞台が神社に変わったようで、神社関係の衣装を数パターン追加して欲しいらしい。
なるほど、これならかつて知ったる何とやらで、資料ならば山のようにある。急ぎらしいので超特急で仕上げて送った。
……送ってから、仕事が遅いと評判(?)の俺が、こんなに早く仕上げたら、いろいろと怪しまれそうだと気付いた。
でもまあ、雫奈の衣装を考えていた時に、会社にはいろいろと神社関係の資料を集めてもらったので、その件を絡めて上手く言いわけができそうだ。
メッセージで「この前の資料が役に立ちました」と送って、先手を打つ。
さあ、今度こそ、雫石の作るぞ……と思ったら、今度は雫奈がやってきた。
「栄太、たまには一緒に散歩しない?」
どういう風の吹きまわしだ……と思ったが、俺には拒否するという選択肢はない。
「……そうだな、すぐに用意する」
散歩というか、いつもの巡回なのだが、たまにはそれも悪くない。
まだ朝とはいえ、かなり日が昇っているので、帽子と水筒を用意する。
水筒と言っても、内容量は二百ミリリットルも入らないスリムなものだ。そこに氷を二、三個入れ、ミネラルウォーターを詰めておく。
もちろん飲料用だが、水ならいざという時に様々な使い方ができる。
最初こそ、普段の巡回に思えたが、徐々にひと気の少ない方へと向かっていく。これはもう、事件の予感しかしない。
危険なケガレを見つけたか、それとも地蔵や何かから気になる情報を得たのか。
何の説明もないのは、たぶん雫奈自身も、何が起こるのか分かっていないからだろう。だけど、俺の力が必要だと感じ取ったのだ。
そう思い、心の準備だけはしておく。
「栄太、ごめんね。やっぱり栄太の協力が必要みたい」
田畑の中に民家やお店が点在し、少し離れた場所に鉄道の高架が見える。
途中から物陰に隠れるように移動し、ちらりと見えた倉庫に向かって、雫奈の指が向けられた。どうやらあれが目的地らしい。
入口には、いかにも見張りでございますって感じで、男が二人立っていた。
あまり障害物がないので、気付かれずに近づくのは無理だろう。
もし近付くなら、かなり遠回りになるが、大きく回り込むしかなさそうだ。
「雫奈、どうする?」
どうやら俺も雫奈のやり方に染まってきたようで、相手を制圧することを前提に物事を考えていたが、それで正解だったようだ。
雫奈は少し考え込んでから、指示を出してきた。
「二人が見張りを倒したら、物音を立てないように建物に近付きましょ」
詳しく説明されていないが、たったひと言の違和感で次の展開が読めた。
あっという間だった。
見張りの背後に現れた優佳と鈴音が、姿を覚らせずに二人を気絶させる。
もちろん鈴音は人型になっていて、犬耳や尻尾はついていない。
できるだけ足音を立てずに気を付けながら、俺たちは急いで倉庫に近付く。
建物にはシャッターと扉が付いており、どちらも閉じられていた。
雫奈は気にせず扉を開けて踏み込むと、照明のスイッチをオンにする。
優佳と鈴音は、既に姿も気配も消している。
雫奈に続いて中に入った俺は、さっと物陰に身を隠し、邪魔になるカバンを脇に寄せて置いた。
倉庫内の気配は五つ。そのうち二つが
だが、気にせず雫奈は歩を進めていく。どうやら囮になるようだ。
ここは農耕機械の倉庫だろうか。俺はよく分からない機械の間をすり抜けながら、奥の方へと向かおうとする。だが……
「兄さまは、姉さまの援護をお願いします」
全く気配がしなかったのに、すぐ耳元で優佳の囁き声がした。
その指示に従い、入口へと向かう相手に奇襲を仕掛けられる場所を探りつつ、その辺に転がっていた何かの部品を手に取った。
手のひらサイズで、形も重さも投げるのに丁度良さそうだ。
機械の隙間から、二人並んで歩く男の横顔が見えた。なので、後ろを歩く男に向かって、機械部品を投げた。
…………ゴン!!
思わず「あっ」という声を出しそうになり、慌てて口を手で押さえる。
いやまあ、コントロールには自信がなかったし、そのまま通り過ぎて向こう側で派手に音を立ててくれたらって思っていたのだが、なぜか側頭部にクリーンヒットしてしまった。
不運な男は声も上げず、その場に崩れ落ちる。
ならばと、部品をもうひとつ拾い上げ、振り向いて驚いているもうひとりにも投げつける。
……ゴン!!
嘘だろ、俺スゲー!
心の中で歓喜の声を上げつつ、崩れ落ちる二人目を見守った。だが、昏倒させるには至らなかったようだ。
フラフラしつつも踏ん張り、頭を押さえて顔をしかめる男に向かって……
俺は姿勢を低くしたまま飛び出すと、伸び上がるようにしながら男のアゴを掌底で突き上げた。
もんどり打って倒れた男は、今度こそ動かなくなった。
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