10 お悩み相談

 なんだか、いろいろと腑に落ちないけど、まあいい。

 あとは、コイツだ。

 手加減しているとはいえ、完璧に組み敷いているので、そうそう動けないはず。

 なのに、諦めずに抵抗している。


 雫奈が近づき、俺の耳元でささやく。


「ごめん、栄太。まさか、武器まで用意してるだなんて思わなかった」


 ちょっ、雫奈さん、顔が……身体が近いんだが……

 ただのナイショ話なのは、もちろん、ちゃんと分かってる。

 だから、俺の心臓よ。落ち着いてくれ!


「そ、その話はあとだ。これで解決したんだろ?」

「それがまだなんだよね」

「えっ? じゃあ、これ、どうすんだ?」


 もしかしたら、俺があの三人組の仲間だと思っているのかもしれない。

 もし親か何かが出てくれば、俺が首謀者にされかねない。

 そうなれば、俺は社会的に死ぬ。

 どうするつもりなんだと雫奈を見るが、難しい顔をして何か考え込んでいる。


「ちょっと、いろいろ試してるんだけど、どうも上手くいかないのよね」


 何の事か、さっぱり分からん!


「どういうことか、聞いてもいいか?」

「うーん、そうね。簡単に言うとね、この子の心を探ってるんだけど、複雑すぎてよく分からないのよね」


 心を……探る?


「何を探してるんだ?」

「この子が抱えてる穢れケガレ……なんだけど。う~ん、この子を狂気に駆り立てる原因って言ったら伝わるかな」


 やっぱり分からん!


「さっきの三人組みたいに、頭をコツンじゃダメなのか?」

「ケガレが表面についてるだけなら、それでもいいんだけど。この子の場合は、中に入り込んでるからね。だから中を解析しようとしてるんだけど、構造が複雑だから、なかなか進まなくて……」

「よく分からんから、それは雫奈に任せる。で、俺はどうすればいい?」

「そうね。その子の悩みを聞いてあげて。たぶん、それが原因だから」


 お悩み相談なんて、俺に出来ると思うのか?

 なかなかの無茶振りだ。

 とはいえ、ここままだと暴力事件の主犯にされかねん。

 嫌でも手伝うしかない。


 とにかく和解をする必要がある。

 優しく手を引っ張り、子供の上半身を起こしてやる。


「手荒な真似をして悪かった。放っておくと、取り返しのつかないことになりそうだったんで、勝手に出しゃばった」


 かなり気の強い子供のようだ。

 俺のことを、ふくれっ面で睨んでいる。

 俺としては、刃物で攻撃しておいて、この程度の反撃で済んでるんだから、感謝して欲しいぐらいなんだが。


「そんな顔するなよ。アイツらも反省して帰ったし、これでケンカも終わりだ。まだ何か、他に心配事でもあるのか?」

「反省したって、そんなの信じられるか」


 やっと言葉を話してくれた。一歩前進だ。


「まあそれは、次に会えば分かることだ。お前の心配事はそれだけか?」

「お前って言うな!」

「そう言われてもな。名前、知らないし。そっちも教えたくないだろ? ちなみに、なんて呼ばれたい?」

「ミヤチで……」

「ミヤチデか、ちょっと言いにくいな……」

「違う違う、ミヤチだ、ミヤチ」

「おおスマン、ミヤチだな。じゃあ俺の事も栄太と呼ぶことを許可するぞ」


 まだ思いっきり警戒されているが、とりあえず会話が出来ている。

 もうそろそろ、本題に入ってもいいだろう。


「なあミヤチ、お前は何に怒ってたんだ?」

「そんなの、どうでもいいだろ」

「いや、俺、それで殺されかけたんだが?」

「それは……悪かったって思ってる」


 おっ、謝るのか……

 もしかしたら、割と素直な少年なのかもしれない。


「追い詰められて暴発したって感じじゃなかったし、気のせいかも知れんが、誰かの為に自分がやらなきゃって、そう思ってなかったか?」

「なんで、そんなこと分かるんだよ」

「いやいや、分かんだって。気持ちの違いで、身体の動かし方が変わったりするもんだ。恐怖に縮こまってる時にさ、気合が入った時と同じような動きができると思うか?」

「まあ、……そうだね」

「だから、身体の動かし方を見れば、なんとなく気持ちが分かったりすんだよ。あれは何か覚悟を決めた動きだった」

「すごいな……」

「だろ?」


 一緒になって、雫奈もうなずいている。

 ……って、ちょっと雫奈さん? 目的、忘れてないよな?


「絶対に解決してやる……なんて約束はできんが、相談ぐらいは乗ってやるぞ」

「なんでエイタは、そんなに聞きたがるんだ? 別にどうでもいいことだろ?」


 肩を落としてため息を吐く。……もちろん演技だ。


「俺さ、いきなり神主になれって言われてさ……。神社にいる、あの神主」

「神社の偉い人だろ? すごいじゃん」

「でもほら、俺ってこんなだろ? らしくないのは自分でも分かってんだけど、やっぱ相談とかくるわけだ。そこでビシッと解決しなきゃ、バカにされちまう」


 もちろん、デタラメなんだが……

 今後はそういうことをあり得るだろう。


「そっか、エイタも大変なんだな……」

「だからさ、ミヤチの悩みをズバッと解決出来たら、自信がつくって思うんだ。……ってか、相談すらしてもらえないのは、正直へこむんだが……」

「もう、しょうがないな……」


 ミヤチの悩み事は、やはり、あの三人組が関係していた。

 

 ミヤチには仲の良い女の子がいたんだが……

 三人組のひとり──仮にA君としよう。

 そのA君が女の子のことを好きになったらしい。

 それを知った、残るB君とC君が協力を申し出て、仲の良いミヤチを排除しようとした。その方法が、いわゆるフェイクニュースだ。

 根も葉もない嘘の噂が広められ、女の子はそれを信じてしまった。


 その後、女の子と疎遠になったミヤチの耳に、A君がその女の子と付き合ってるという噂が届く。

 これもフェイクニュースだったが……

 でもいつか、あの子が本当に卑怯者の手に落ちるかもしれないと思い、今回の凶行に及んだ……というわけだ。

 ……まあ、未遂だが。

 

 原因が分かれば簡単らしく、すぐに雫奈は対処した。……らしい。

 後日、ミヤチは、わざわざ静熊神社のことを調べ、その女の子と一緒にお礼参りに来たらしい。

 そこで、雫奈に会って報告したようだ。


 まさか、こんな事に巻き込まれるとは思わなかったけど……

 今回、よく頑張ったな、俺、かなり頑張ったよな?

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