今日も土地神は暴走中です。 「カクヨム版」
かみきほりと
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ep.01
01 謎の声
お気に入りの神社で、ちょっとした息抜きをした帰り道。
俺は愛用の肩掛けカバンを揺らしながら、のんびりと人通りの少ない歩道を歩いていた。
中に入っているのは、立ち寄ったコンビニで買った数日分の食料やドリンクなどで、あとは急に雨に備えて常備している折りたたみ傘ぐらいだろうか。
……まただ。また、アレが聞こえてきた。
「……、…………。……、…。…………」
今日もなんだか騒がしい。
最近になって聞こえる頻度が増えたが、その正体は分からないまま。
とはいえ、まだ引っ越してきて、ひと月も経っていないので詳しくは分からないが、もしかしたら、この町ではこれが普通なのだろうか。
今も通行人が、気にする様子もなく歩いている。
公園に立ち寄ってケータイを取り出し、メールやメッセージをチェックする。
……特に何も届いていない。
知らせが無いということは、何も問題がないということだ。
ついでにニュースもチェックする。
相変わらず、悪いニュースと不景気なニュースばかりが並んでいる。
たまに出てくる動物の姿に癒しを求めていると、道路の方から、何やら騒がしい声が聞こえて来た。
なんだろう……と視線を向けると、若いチンピラ風の男と目が合った。
ヤバイ、絡まれたら面倒なことになる。
……そう思ったが、下手に目を逸らすのも危険なので、呆けた表情で凝視する。
「……チッ」
どうやら運が良かったようだ。
相手はそそくさと立ち去っていった。
もしかしたら、俺のことを子供だと勘違いしたのだろうか。
再び画面に目を落とし、癒しの続きを……と思ったら、道路のほう、物陰になっていた場所から、中年の男性がよろけ出て来た。
さっきの男と揉み合っていたのか、少し服が乱れている。
大事そうに鞄を抱えている所を見ると、それを奪われそうになったのだろう。ビジネスマンがよく持っている、黒くて四角い鞄だ。
その男性は、こっちに気付くと、なぜか近づいて来た。
正直、関わり合いになりたくない。
とはいえ、逃げるには遅すぎた。
「ちょっとキミ、そこの……」
他に人影がないのだから、とぼけても仕方がない。
できるだけ愛想の良い笑顔を浮かべる。
「俺ですか?」
「さっきは助かった。ありがとう」
「いや、何もしてないですよ」
冗談抜きで、本当に何もしていない。
チンピラが向かってきたら全力で逃げようと、そう思っていただけだ。
「ちょっと連絡を取りたいんだけど、ソレ、貸してもらえないかな」
いやさすがに、個人情報満載のモノを、見ず知らずの人に貸すのは遠慮したい。
そういえば、この公園には、今どき珍しい物が残っていた。
「あっ、だったら、そこに公衆電話がありますよ」
別に俺は、意地悪ではないし、冷たいわけでもない。
たぶん、これが当然の対応だと思う。
だが、男性は情けない表情を浮かべて、しょんぼりする。
「小銭入れを落としたみたいで、かけるお金が……」
だったら緊急通報で警察を呼んで、チンピラのことを話せばいい。あとは何とかしてくれるだろう。
幸い、この辺りにも、いくつか防犯カメラがあったはずだ。上手くいけば犯人を捕まえられる。
だが、それまで一緒に居てくれと言われても面倒だ。
……言われそうな気がする。
財布を取り出して、中身を確認する。
間が悪い時はこんなものだろう。どうやら十円玉を切らしていたようだ。
よく考えたら、コンビニで使い果たした気がする。電子決済を嫌った弊害だ。
だが逆に、だからこそ財布を持ち歩いていたとも言える。
仕方がない……
「仕事に戻らないといけないので、あとはコレで何とかして下さい。じゃあ、俺はこの辺で……」
そこまでする義理は無かったが、これで丸く収まるのなら安いものだ。
百円玉を二つ渡すと、あくまで愛想の良さを保ったまま、手を振って歩き出す。
「……………。……ぱり、…。…………だね。……」
また、例のアレが聞こえてきた。
気のせいか、声のようなものが混ざっていた気がする。と思ったら……
「………キミ、合格だよ」
今度はハッキリとそう聞こえた。
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