ep.05
27 偉大なるスイーツ
コンビニに行ったついでに、静熊神社へと立ち寄った。
今日はミヤチの声が聞こえてこない。
いつもなら、俺の姿を目ざとく見つけて、声を掛けてくるんだが……
普通に考えれば、毎日通っているのが変なわけで、いないからといって気にする必要はない。
勝手に家に入って、いつもの部屋に向かう。
「よう美晴、来てたのか」
「なんや兄ちゃん……兄さん、珍しいな。どないしたん?」
それとなく美晴の様子を見てみるが、どうやら昨日の影響はなさそうだ。
すっかり元の調子を取り戻しているように感じる。
「いややん、そんな見つめられたら、恥ずかしいやん……」
そんな冗談が言えるぐらいなら、もう大丈夫だろう。
「……元気ならそれでいい。それに、珍しいって、昨日来たばかりの美晴に、なぜ分かる?」
「そんなん、みんなから話を聞いたからに決まってるやん。兄さん、ここの神主やってのに、滅多に顔を出さへんねやろ?」
「まあ、名前だけの神主だからな。用事があれば雫奈に呼ばれるってだけの、ただの使用人と一緒だ」
その用事だが、だんだん荒事が多くなってる気がする。
「いつも助けてくれて、ありがとね。栄太」
突然、近くで声がして驚く。
いつの間にか、雫奈がすぐ後ろに立っていた。
でもまあ、丁度良かった。
「こんな時間にどうかと思ったが、手土産だ」
カバンの中から、買い物バッグを取り出して雫奈に渡す。
さっきコンビニで買ったばかりの、いわゆるコンビニスイーツなんだが、これがなかなか馬鹿にできない美味さ……なのだそうだ。
俺は滅多に食わないので、よく知らないが。
「じゃあ、遠慮なく頂きましょうか」
てっきり、ミヤチとユカリも来ていると思って多めに買ってきたんだが、アテが外れてしまった。
でもまあ、雫奈がどうにかしてくれるだろう。そう期待したんだが……
台所から戻ってきた雫奈は、五つあったスイーツを全部、入れ物から出して皿に盛り付け、紅茶と一緒に運んできた。
まさか全部出してくるとは思わなかった。
いやいや、さすがに多いだろ……って思ったんだが、美晴は歓声を上げ、目を輝かせながら、どれを食べようかと真剣に悩んでいる。
「美晴、なんなら、全部食ってもいいぞ」
「アタシ、そんな腹ペコキャラとちゃうわ。でも、どれも絶対美味そうやし、ホンマどうしよ……」
好みとか分からないから、大人気って書かれていた棚から、適当に選んできた。
俺の分は余ったやつでいいし、なんなら無くてもいいって思っていたけど……
どれだけ甘いもの好きでも、さすがに全部は食べられないだろう。
「なら、ちょっとずつ食べて、気に入ったヤツを好きなだけ選べばいい。それなら、悩まなくてもいいだろ?」
「え~、そんな行儀悪いことして、ええのん?」
そう言いながらも、その気になっているようだ。
「気にするな。どうせここには俺たちしか居ない。遠慮は無用だ」
美晴は早速ひと口食べて、満面の笑みを浮かべている。
まあ、この分だと、本当に昨日の影響はないようだな……
それを確認し、俺はありがたく紅茶だけを頂いて、席を立つ。
「あれ? 兄さん、どこ行くのん?」
「どこって、部屋に戻るだけだ。ここへは、買い物の帰りに、ちょっと様子を見に来ただけだからな。だからまあ、お腹を壊さん程度に、好きなだけ食っていいぞ。残った分は、後て俺たちで食べるから気にするな」
「ふ~ん、そうなんだ……」
いきなり不満そうな顔で、俺を見てくる。
「そんなん、アタシだけこんなぎょうさん食べたら悪いやん。せやから、兄さん、ひと口ぐらい食べてーや。ほら、これ、アタシの一番のお気に入り。はい、あ~ん」
名前は分からないが、チョコクリームがたっぷり乗ったショートケーキを、スプーンですくって差し出してくる。
しょうがない。変にごねられても面倒だ。
近くに寄ってしゃがみこみ、ありがたく頂いて立ち上がる。
「おっ、思ったより甘味が控えめで、結構美味いな」
「せやろ? サッと溶けるみたいな口溶けも、ポイント高いやろ?」
うん、頭痛が痛いみたいな言葉になってるけど、言いたい事は分かる。
「あれ? 栄太、もう行くの?」
雫奈は俺の買い物バッグを持っていた。
そういや、買ってきた物が全部入ったまま、バッグごと渡していた。
「戻って、することもあるからな」
受け取ってカバンに入れる。
「そっか。今の間に、周りを見て回ろうって思ってたんだけど……」
「アタシ、しばらくここにおるから、留守番しててもええよ」
「ん~、そうね。じゃあ、すぐに戻ってくるから、お願いしてもいい?」
「うん、任しといて」
まさか美晴が、一人で留守番をするって言い出すとは思わなかったので……
スイーツの力は偉大だな……と思いつつ、軽く手を上げて「またな」と別れの挨拶をしてから、玄関に向かった。
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