08 新しい服で巡回をする
幸い、その手の資料ならば山ほどある。
雫奈に似合う、春っぽいもの。それなら……
モニターに次々と画像を表示させて、イメージを膨らませていく。
ある程度イメージが固まったら、タブレットを接続して、一気に書き上げる。
「まずは試しに、これなんかどうだ?」
寒い日や、急な雨でも安心。フード付きパーカーをデザインする。
こだわりの、フードを収納できるタイプだ。
「へぇ、絵、上手いんだ。じゃあ、やってみるね」
モニターからキラキラ粒子が放出され、雫奈の身体に集まっていく。
「栄太は、こういうのがいいの?」
「いや違うから! すぐに書き足すから、ちょっと待ってろ」
たしかに背中側しか書かなかったし、フードの説明に力を込めた。だからって、前側が全く無いというのはヒドすぎる。これじゃ、マントの出来損ないだ。
パーカーで良かった。これがもしブラウスだったらと思うと、冷や汗が出る。
急いで手直しすると、残りも一気に書き上げる。
「……よし、これで最後だ」
なんとか出来上がった。
布地を多めにしたブラウスに、少し丈の長いショートパンツ。収納フード付きパーカーに短めのソックス。そして、明るい色のスニーカー。これなら大丈夫だろう。……たぶん。
新しい服に身を包んだ雫奈は、嬉しそうに身体を動かし、着心地を試している。
雫奈に似合う、活動的で健康的な衣装だ。
この短時間で作ったにしては、なかなかのクオリティーだと思う。
自分で自分を褒めてあげたい。
「どう栄太? おかしな所とか、ない? 似合ってる?」
「ああ、似合ってるぞ」
似合ってるに決まってる。
だが、雫奈の魅力を最大限に引き出せたかと言われたら、首を横に振るしかない。まだまだ改良の余地はある。
それに、外出着が三種類だけじゃ、全然足りない。
空き時間にでも、もっと作ってあげないと。
想いを込めるってのは、いまいち分からないが、絵で済むなら楽でいい。
「じゃあ栄太、外に行こっか」
もう、仕方がないなぁ。新しい服だからって、ハシャギ過ぎだろ。
でもまあ、その気持ちは分からんでもない。
「おう、準備する」
徹夜明けでもないのに朝から出かけるだなんて、いつ以来だ?
そんなことを考えながら準備を整え終わると、電気を消して部屋を出た。
今日も雫奈は、散策していた。
この前とは道順が違うが、祠や地蔵に手を合わせる行為は変わらない。
その横で、俺もそっと手を合わせる。
「ちょっと栄太、待ってて。すぐ戻るから」
何をするのかと見ていたら、木から降りられなくなった猫を助けるようだ。
枝が折れ、少し危なっかしかったが、なんとか無事に救出できた。
どうやら、身体能力が高いという設定は、引き継がれなかったらしい。
雫奈は猫を見送ると、枝を拾う。
「ごめんね……」
雫奈がそう呟くと、枝が光の粒子となって、幹の中に吸い込まれていった。
木登りが苦手だと知っていれば、俺がやったのに。
言っておくが、俺だって、何もせずに見ていたわけじゃない。
猫が落ちたら受け止めようと、下で待ち構えていたし、雫奈が落ちてきたら……
まあ、受け止めきれずに下敷きになると思うが、その覚悟もしていた。
そうならなくて、ホントに良かった。
今度は、地蔵に手を合わせた雫奈が、いきなり走り出した。
公園から転がり出ようとしたボールを受け止め、蹴り返した。
いい感じの強さで、コントロールも悪くない。……設定、引き継がれてるのか?
子供たちが礼を言っている。
次の瞬間、車が道路を、結構なスピードで走り抜けて行った。
まさか雫奈が、子供たちを車から守った?
ただの偶然かもしれないが……
だが、雫奈が行かなかったら、事故が起こっていた可能性がある。
「なあ雫奈、なんでボールが飛び出すって分かった?」
「お地蔵さまに聞いたからよ」
「そっか、さすが土地神さまだな」
どうやら俺も、かなり雫奈の行動に慣れてきたようだ。
大抵の事は、土地神だから、女神だからで納得できるようになってきた。
土地神の仕事って、もっと悪霊とかと戦う印象があったのに、実態はコレだ。
でも、これで平和が保たれるのなら、悪くない。
「……!?」
「どうした? 雫奈」
「ん~、気のせい……かな?」
また、地蔵か何かの声を聞いたのだろうか。
なんにせよ、いつもと変わらない巡回だったな……
新しい服でテンションが上がってるのかと思ったら、そうでもなかった。
いやまあ、それでも別にいいんだが。
俺がついてきた意味は無さそうだったけど、でもまあ……
新しい衣装で動き回る、雫奈の姿が見れただけでも良しとしよう。
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