48 地下貯蔵庫と絆と呪い
ちなみに、
まさか三藤さんに、俺と同じような事はさせないとは思うけど、給料や待遇など、本当に大丈夫なのかと心配になる。
でもまあ、二人が納得しているのなら俺が口を挟むべきことじゃない。
聞きたい事はいろいろとあるが、こちらが大丈夫なら次は大男のほうだ。
あの大男は、陰の気に作用する攻撃を使ってくる。だとすれば、優佳にとっては天敵ともいえる相手かもしれない。
それに、あの男の魂に絡みついていた、黒い蛇のことも気になる。
「ちょっと優佳の様子を見てくるけど、ついでにエクレアも渡してこようか?」
「だったら、私も一緒に行くね」
「いや、三藤さんを放っておいていいのか?」
働いてもらうにしても、いろいろと説明や決め事が必要だと思うのだが……
「あっ、私のことならお構いなく。今からバンバン働きますよ」
小声で話したつもりだったけど、どうやら聞こえてしまったらしい。
それにしても、今からって……
まだ勝手も分からないだろうに、どうするつもりなんだろう……とは思うが、優佳の事が心配だ。
三藤さんには社務所のほうを適当に見てもらうことにして、俺たちは地下貯蔵庫へと向かった。
地下貯蔵庫は、かなり古く、二部屋分ぐらいありそうなほど広かった。前に見た時は、朽ちた棚が多く並んでいて、ほとんど空になっていた。それに、照明は薄暗く、小動物の骨が転がってたりで、かなり不気味な場所だった。はずなのに……
いつの間に改装したのか、無機質な石段とコンクリートに囲まれていた階段が、温かみのある木造に変わっており、雰囲気だけなら二階へ上る階段と大差ない。
貯蔵庫の扉も、錆びて開けるのに苦労していた鉄製だったのに、大きなガラス窓が付いた引き戸になっている。
そこから中の様子を覗き見ることができるのだが……
「……なんだか、楽しそうだな」
貯蔵庫の中も改装されていて、明るく綺麗になっていた。
壁には新しい収納棚がずらりと並んでおり、貯蔵庫には変わりがないが、もはや以前の面影はすっかりなくなっていた。
防音性能が高いのか中の音はあまり漏れてこないだ、柔らかそうな素材の敷物に座った二人は、和やかに談笑しているように見える。
どうやら優佳は無事みたいなので安心しつつ、今のうちにと雫奈にあの事を伝えておく。あの事とは、男の魂に絡みついていた黒い蛇のことだ。
「えっ? 私、気付かなかったけど。ちょっと栄太、コレ持っててくれる?」
言われるままにトレーを受け取る。そうすると両手が塞がってしまうわけで……
なぜか雫奈は、身動きのできなくなった俺に抱き付いてきた。
驚く俺に、雫奈が耳元でささやく。
「ちょっとこのまま、あの人の魂を見てくれないかな」
「えっ、うん。……けど、この前もだが、俺に抱き付く必要あるのか?」
「あれ、言ってなかったっけ? こうして近づくと親和性が増して、物質経由で魂に干渉しやすくなるのよ」
「しんわせい?」
何か意味があるらしいけど、言っている意味が分からない。
「私がこうして密着したら、栄太は私の事を意識するでしょ? 栄太が私のことを強く意識してくれたら、栄太の魂に干渉しやすくなるって感じかな。……まあ、嫌がられたら逆効果なんだけどね。祝福を使って無理やり従わせることもできるけど、そういうのあまりやりたくないのよね。栄太に嫌われたくないし……」
とりあえず、雫奈が俺の事を気遣ってくれているってことは理解した。
言いたい事も少しだけ分かったような気がする。
つまり、強制的に従わせたくはない。物理接触は俺の魂に干渉するため。その成否は俺の心が雫奈をどれだけ受け入れているかにかかっている。だから、俺たちの絆が試されるって、前の時に言っていたのだろう。
「じゃあ、やるぞ」
視界を切り替えて、大男の魂を観察する。
相変わらず、気味の悪い黒いうねうねが、まとわり付いている。
「どうだ、雫奈。見えるか?」
「へぇ~、栄太には、こう見えてるのね。ん~、なるほど。私にはよく分からないけど、たぶん呪いかもね」
「なんだ、あの野郎、人の事を散々バケモノ呼ばわりしておいて、自分が呪われてんのかよ。ふざけやがって……」
俺の中にあった黒の気配には気付けるくせに、自分に纏わりつく呪いに気付かないなんて、間抜けとしか言いようがない。
「それで、雫奈。アレって、解けるのか?」
「う~ん、どうかな。私じゃ認識できなさそうだし、栄太経由で力を使ったら、たぶん栄太が大変なことになっちゃうだろうし……」
雫奈が大変って言ったら、本当に大変なことになりそうだから、本当に勘弁してください。
なんてことを思っていたら、いきなり引き戸が開けられた。
そこに立つ優佳は、意味深な……どこか楽しそうな表情でこちらを見ている。
それに、大男が露骨に驚いた表情を見せて、慌てて視線を逸らした。
「兄さま、姉さま、何こんな場所でイチャイチャしてるんですか? もしお邪魔でしたら、何も見なかったことにして、扉を閉めちゃいますけど……」
そう言われ、改めて自分たちの姿に気付く。
トレーで両手がふさがった俺に、雫奈が抱き付いているのだから、勘違いされても仕方がない。
慌てて俺から離れた雫奈は、優佳に釈明しつつ、呪いの事を話し始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます