16 趣味の時間
それにしても、さすが土地神っていうべきか。
「やっぱ土地神って、すごいな。あっという間に見つけて取ってくるなんて。町内で失せ物探しをして回れば、参拝者が増えるんじゃないか?」
なぜか雫奈は、キョトンとしている。
「えっ、あれ、トイレに置いてあったんだけど。たぶん、フックにかけて、忘れてたんじゃないかな。扉の陰になるから、中に入って扉を閉めないと見えないし」
てっきり、トイレに行ったふりをして探してきたのかと思ったのだが、全くの見当違いだったようだ。
でも、今の話で、うっかりお姉さんの好感度が、俺の中で急上昇した。
「ん? どうかしたか?」
突然、雫奈が周りに視線を走らせ始めた。
「う~ん、なんかね、最近ずっと、なんかイヤな気配がするんだよね。でもまあ、別に敵意とかそういうんじゃないから、心配してないんだけど」
そう言ってる割には、表情が険しい。
ちょっと心配だけど、そろそろ帰らないと荷物が心配だ。
俺には雫奈のような力がないので、食材の鮮度を保つなんてことはできない。
なので、早く帰って冷蔵庫に入れる必要がある。
「じゃあ、俺はアパートに戻るけど、雫奈はどうする?」
「う~ん、そうね。私は、ちょっとその辺を見て回ってくるね」
やはり、何か気になることがあるのだろう。
とはいえ、ついて行ったところで、俺に何ができるわけでもない。
一応、気を付けるようにと伝え、俺は一人でアパートへと戻った。
部屋でひと息ついてから、目覚ましのコーヒーを片手に椅子に座る。
「さてと……」
すでに目覚めさせていたパソコンで、メッセージなどを確認する。
頼んでいた資料が、届いていた。
中身は、神職の衣装について。もちろん、雫奈のためだ。
理由を説明していないので、担当は不思議がってそうだが、変なお願いは今日に始まったことではない。
なので、またか……って感じで、深く考えずに流されてそうだ。
さっそく作業に取り掛かる。
雫奈に似合うよう、イメージを膨らませ、頭の中で組み立てていく。
髪型は、仕草は、表情や歩く姿は……
う~ん、やっぱりダメだ。衣装が立派過ぎてイメージと合わない。
煮詰まってきたところで、カフェインを投入して、再び集中する。
……ダメだ。
ダメな時は、何をしてもダメだ!
こういう時は、気分転換をするのが一番!
資料を整理して片付けると、別のソフトを立ち上げる。
作りかけで放置してあった、データを読み込ませる。
現れたのは「姫」よりも幼い3Dモデルだった。
名前はまだない。
仮に「妹」と呼んでいる。
幼い容姿に黒髪のロング。
髪は綺麗に切り揃えられている。いわゆるパッツンストレートだ。
手足は意外と引き締まっており、身体能力の高さを感じさせる。
服装は、ほとんど手つかずだが、リボンやフリルが付いた、ワンピース型のドレスになる予定だ。だが、外を出歩いても違和感が無い程度にと考えている。
まさかとは思うが、これが完成したら、また新しい女神が現れたりしないよな。
たしか、見えないだけで、存在してるって話だったし……
…………………………はっ、しまった。没頭しすぎた。
いつの間にか、外がかなり暗くなっていた。
なにか晩メシを作らないと。
そうだ、こういう時こそ、簡単便利なインスタント皿うどんの出番だ。
「そうそう、この匂いが食欲をそそるんだよな……じゃなくて!」
全てを察して振り向く。
今さら雫奈が、ここで勝手に料理をしていても驚かない。
むしろ、俺の分も作ってくれるんだったら、ありがたいぐらいだ。
それに今日も、エプロン姿がよく似合ってる。
……まあなんだ。
作業に没頭していて、気付かなかった俺が悪い。
だからって……
「それ、俺が買って来たヤツだよな」
「そう……だと思う。材料が全部そろってたし、食べたいのかなって思って」
いやまあ、食べたかったよ。
でも、できれば自分で作ってみたかったんだよ……
そう心の中で呟き、ホロリと涙を零す。
いやまあ、それは冗談で、別に落ち込んだり、悲しんだりはしていない。
むしろ、大失敗をやらかして、ヤバいクリーチャー化した物体の前で途方に暮れている未来が予想できるだけに、ホッとしているぐらいだ。
「はい、出来たよ。一緒に食べましょ」
明らかに、俺が買ってきた食材以外の物が足されている。
「……いただきます」
「じゃあ、私も、いただきます。あっ、よかったら、ご飯もあるわよ」
おいおい、皿うどんにご飯かよ……
なんてことを思ったけど、合わせてみたら、驚くほど相性が良かった。
本当に美味い。
つーか、この皿うどん自体も、この前より美味くなってる気がする。
雫奈が料理をしてくれるのは、別に珍しい事ではない。
だからといって、そう多いわけでもないのだが……
どういうわけか、食欲が無かったり、徹夜明けでひどく疲れている時に限って、当たり前のように料理をしてくれている気がする。
だからもしかしたら、土地神のチカラとやらで、俺が料理を失敗する未来を知り、その芽を摘むために代わりに料理をしてくれた……なんてこともあり得る。
最初の頃なら荒唐無稽だと笑い飛ばしていただろうが、今となっては考え過ぎだとは思わない。
まあ、食材が無駄にならず、こうして美味しい料理になったのだから、心から感謝を捧げるとしよう。
「ごちそうさまでした」
「はい、ごちそうさまでした」
洗い物は、俺がやっておくと言ったのだが……
「何かすることがあるんでしょ? これぐらいやってあげるから、栄太は続きをしてていいよ」
などと言ってくれる。
続きも何も、思いっきり趣味の時間だったのだが……
とはいえ、せっかくの好意を無駄にしても仕方がない。
この恩に報いる為にも、近いうちに絶対、神職の衣装を描き上げてやるからな!
そう強く心に誓いながら「妹」の完成を急いだ……
ホント、スマン!
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