22 練りに練った設定

 俺が寝ている間に侵入してきた従妹の美晴が、壁の通路と、その向こう側に住んでいる雫奈を見つけてしまった。

 まあ、何にしても、まずは互いのことを紹介しないと話が進まない。


「えっと、この騒々しいのが、いとこの郡上美晴ぐじょうみはる。で、こっちの浮世離れしてるのが、静熊神社の宮司をしてる秋月雫奈あきづきしずなだ。二人とも仲良くやってくれると嬉しい」


 なんせ突然たたき起こされて、必死に頭を目覚めさせている最中だ。

 多少投げやりだったとしても仕方がないだろう。


 これで納得してくれれば楽だったが、やはりそうはいかなかったようだ。

 仕方がないので、練りに練った設定を披露していくことにする。

 ……まあ、実質、構想時間は半時間にも満たないけど。


「あー、雫奈は……」

「ちょぉ、なんで呼び捨て?」


 まだひと言目なのに、さっそく横やりが入った。

 なぜか美晴はエキサイトしている。


「せやっ、雫奈さんも兄ちゃんのこと、呼び捨てにしよったなぁ。やっぱ、付きうてんの?」

「あー、美晴さんや。高校生になったんだから、もうちょっと落ち着こうな。今からそれを説明しようとしてたんだぞ。……続けてもいいか?」


 美晴がコクリとうなずく。


「雫奈は東京にいた頃の知り合いで、どういう因果か、その窓からも見える静熊神社の宮司になったらしい」


 ここまではいいか? ……と美晴を見つめる。

 コクリとうなずいたのを確認して話を続ける。


「雫奈は、俺がこの町に住んでるって知ってたから、住む場所を紹介して欲しいって頼んできた。だが、俺だってそんなに詳しいわけじゃない。だからまあ、このアパートを紹介したんだが……。まさか隣の部屋になるとはな」


 部屋数も少ないんだから、こういう偶然もあるだろう。


「ほんで、二人の関係はどうなん?」


 せっかく考えた設定なのに、スルーされてしまった。

 それよりも美晴は、どうしても二人の関係が知りたいようだ。


「お前が思ってるような関係じゃねぇよ。まあ、ただの知り合いってわけじゃないが……。そうだな、簡単に言えば、主と使用人だ。もちろん、俺が使用人のほうな」

「それだと私が、無理やり栄太に手伝わせてるみたいでしょ? 違うからね。互いに助け合ってる関係っていうか、仲間って言ったほうが近いんじゃないかな」

「まあ、雫奈の料理は絶品だからな。美晴も一度、ご馳走してもらえばいい」

「そうね。せっかくだから、お昼に何か作ってあげるね」


 よし、昼メシが確保できた。


「あ、ありがとうございます」


 あれ? 美晴の様子がおかしい。

 なぜか態度が、いきなりよそよそしくなった。


「ん? 美晴、どうした?」

「なんか、二人の息ピッタリやし、もう夫婦やん。アタシ、ここにいたら、お邪魔かなって……」


 ちょっと待て!

 なんて嬉しい……じゃなくて、なんて恐ろしい事を言ってくれるんだ。


 理想の女性姿のせいで、雫奈が土地神だってことを、忘れてしまう時がある。

 できれば今の関係をが、ずっと続けばいいなって思い始めている。

 だけど……


「まあ俺たちは、一緒に楽しく過ごせても、付き合ったり結婚したりって仲にはならねぇよ。だから遠慮する必要はないぞ」

「いや、真顔で返されても困るんやけど。今の『なんでやねん』ってツッコむトコやん。けど、こんなこと言うやなんて、兄ちゃんも満更やないんちゃう?」


 こういうノリは、よく分からん。

 どうやら、美晴に遊ばれてしまったようだ。


 美晴の元気が空回り気味なのは気になるが、まあ、元気ならそれでいい。


「兄ちゃん、ごめんな。ちょっとやり過ぎてもうたみたい。冗談やから、あんまり気にせんとってな。雫奈姉さん、こんな二人ですけど、これからもよろしゅう、おたのもうします」


 そういうと、美晴はベッドの上で正座をして、深々と頭を下げた。

 ここでツッコミを入れたら負けだ。

 たぶんこれも、俺たちをからかって遊んでいるだけだろう。


「こちらこそ、ミハルちゃん」


 雫奈がニッコリ微笑むと、美晴も嬉しそうに笑顔を浮かべた。

 どうやら、仲良くやってくれそうだ。


「あー、せや。アタシも高校生になったし、これから兄ちゃんのこと『兄さん』って呼ばせてもらうようにするわ。……栄太兄さん。どうや、大人っぽいやろ?」

「じゃあ俺も、美晴さんって呼んだほうがいいか?」


 大人っぽく見られたいって言うから、そう提案したのに……

 なぜか、ドン引きされてしまった。

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