29 小悪魔であって、悪魔じゃねぇ!
画面から、キラキラとした粒子があふれ出て来た。
もう、そんなことで驚かない。……が、とりあえず財布を握りしめる。
女神が出てくると思い込んでいたが、違うモノが出てきたらマズイと、今になって気付いたのだ。
だから念のため、雫奈のお守りにすがりつく。
雫奈の時と同じように、出て来た粒子が人型に集まっていく。
そして……
現れたのは、画面の中の萌えキャラ……ではなく、ちゃんと実在の人間に近い容姿の「妹」だった。
なんとなく、こうなる気がしていたから、作っている間も人間に近い容姿を思い浮かべていたんだが……
たぶん、それが反映されたのだろう。
等身大の「妹」は、床に降り立つと、ゆっくりと目を開く。
……と同時に、こう言い放った。
「ご苦労であった人間。我が名は操心の悪魔パルメリーザ。この世界を欲望と快楽で満たすモノ。その恩恵を受けたくば、我に忠誠を誓い、下僕となるがよい」
ヤベェ、とんでもないモノが出て来た。
でも考えてみれば、言葉にこそしなかったが、雫奈はこの「妹」の製作を後押ししてくれていたように思う。
それに、このタイミングで「お守り」が渡された。
さらに言えば、雫奈と縁の深いこの場所に悪魔が現れたっていうのに、何の反応もない。
それはつまり、これは深刻な事態ではない……って事だろうか。
たしか雫奈は、顕現しても無名だから力がないと言っていた。ならば、コイツも今なら無力かも知れない。いや、そうだと信じるしかない。
俺の想いが作り出したモノなら、その想いの強さで影響を与えられるはず。
つまり、ここで怯んだら負けだ!
改めて、相手のことを、じっくりと観察する。
いや、観察するまでもなく、中の奴はこの「妹」のことを全く理解していない。
だいたい、なんだそのキメポーズは。
その身体で色気を振りまいても、全く効果はない。
でもまあ、とりあえず、そこから攻めるとしよう……
心の中で闘志を奮い立たせる。
この「妹」には、俺の想いが詰まっている。なのに……
「お前、全然なってねぇ! なんだそれは!」
まずは、先制攻撃だ。
一喝して、相手を怯ませる。
相手が悪魔だろうが何だろうが、どうでもいい。
その姿を借りるのなら、それなりの態度ってもんがある。
「そのポーズはなんだ。全然その姿に合ってねぇ。ハッキリ言って不合格だ。それに、その子は小悪魔であって、悪魔じゃねぇ。根本から間違ってんだよ!」
「ちょ、ちょっと落ち着け、人間」
「いいや、落ち着かねぇし、お前の言い訳も聞かねぇ。とりあえず、登場のシーンからやり直せ」
「だから……」
やはり、設定が生きているのだろうか。そうでなければ、ブチ切れられて当然の状況だ。相手が力のある悪魔なら、今ごろ俺は、ミンチにされていてもおかしくない。
雫奈のお守りよ、俺に勇気を与えてくれ!
そう思いながら、財布をギュッと握りしめる。
「空中に現れて、ふわりと降り立つまでは、完璧だった。だが、目の開け方がなってない。その身長で、煽り目線とは何事だ。うつむき加減で、薄っすらと目を開けるもんだろ。やってみろ」
「う、うむ。……こうか?」
「おう、そうだ。やればできるじゃないか。じゃあ、そのまま、スカートを軽くつまんでお辞儀。ここまで教えれば、何て言えばいいかも分かるだろ?」
おっ、これは……
言われた通り……いや、言われた以上に完璧なお辞儀だ。
「お兄様、やっと、お逢いすることができました。妹のパルメリーザです。これからは、ずっと一緒ですね」
目を細めてニッコリと笑う。
もちろん、そんな台詞は教えてないし、俺自身も考えていなかった。
それはつまり、パルメリーザとかいう悪魔は、形代になった「妹」の設定に影響されていると思って間違いない。
それならば、話し合いぐらいはできるだろう。
とにかく話を聞いて、結論を出すのは、その後だ。
とはいえ、どうしたものか……
頭を悩ませながら、俺は財布をギュッと握りしめた。
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