76 犬のアクセサリー

 買い物を済ませてアパートに戻ると、真っ先に雫石のチェックをする。

 どうやらちゃんと固まっているようなので、取り出して次をセットする。

 犬アクセのほうも問題は無さそうなので、こちらも上部ギリギリまでレジン液を注ぎ込んで、軽く気泡抜きをしてから放置する。


 待っている間に着替えたり、買ってきた物を整理したりして、再び気泡がないかをチェックする。

 ドライヤーで温めれば一発だとは書いてあったが、そんなものはここにはない。

 俺の髪は、常に自然乾燥だ。

 まあ焦ることは無いし、のんびりやろう。


 入念に気泡を取り除くと、犬アクセのほうには飾りを沈めたり配置や色合いを確認して、空気が入らないように気を付けながら透明なフタの乗せて閉じる。

 あふれた液を綺麗に拭き取り、雫石と一緒に窓際へ移して太陽光を浴びさせる。

 次の待ち時間はしばらくかかるので、会社への提出物を片付けることにする。だが、簡単なものだったので、あっという間に終わってしまった。


 さて、どうしたものか……と悩んだ挙句、二柱の神様を、ちゃんとしたカラーイラストに仕上げることにした。武器……神器だったか、それも加えた完全版だ。

 仕事の方はあっという間だったのに、こちらはこだわりが強すぎて、思った以上に時間がかかってしまった。

 アキツシズナヒメとアキツユカヤヒメのカラーイラストだが、ちゃんと背景を加え、神器を装備させ、躍動感があふれる感じに仕上げた。

 ぶっちゃけコレは、趣味で書いたようなものなので世に出すつもりはなかったのだが……描いている途中で、静熊神社に奉納してもいいと思い直した。

 何かのグッズを作るにも、イラストがあれば大きな武器になるし、宣伝するのに役に立つんじゃないかと気付いて、その辺を意識しながら仕上げた。


 固まった雫石を取り出し、新たなモノをセットする。

 犬アクセのほうも、どうやら上手くいったようだ。しっかりと固まっている……ように思える。ならばと、仕上げに取り掛かる。

 立方体の本体上部付近で横穴を貫通させ、そこにボールチェーンを通すことも考えたのだが、それだけの長い穴を正確かつ綺麗に開けるのは難しそうだから諦めた。その代わりに金属パーツを埋め込むことにした。

 上部の蓋中央にある空気抜き穴部分に、ドリルを使って慎重にねじ穴を開ける。そこに、接着剤と一緒に接続用の金具をねじ込んだ。

 これが固まれば完成だ。

 念のため、接着剤が完全に乾くまで、本体内部が完全に固まるよう、いろんな角度から太陽光を浴びさせる。

 雫石のほうも、いま仕掛けた分が固まり、その後もう一回ほど作れば予定の数が揃う。

 まだ十五時を回ったところなので、今日中には終わるだろう。


 今から何かをするとしても、時間的に中途半端に終わってしまうだろう。だから、資料をまとめたり調べものをしたりして時間を費やす。


「そろそろ休憩しませんか? 兄さま」

「ああ、そうだな。……って、優佳、いつの間に」


 とはいえ、二人の気配を感じていたので居るのは分かっていた。ただ、隣の部屋だったから気にしなかったのだが、こちらの様子を見にきたらしい。

 驚いたフリをしたのは、美晴に向けた演技だ。


「せやで、兄さん。根詰めすぎたら身体にわるいで」

「なんだ、美晴も一緒か。遊びに来たのか?」


 二人は制服姿だった。学校が終わってここへ……というか、隣の部屋に帰ってきたのだろう。神社ならともかく、ここへ来るのは珍しいが。


「何をしてたんだ?」

「明日提出する、宿題やねんけど……」

「歴史のプリントなのですけど、暗記のお手伝いをしているのですよ、兄さま」


 それを聞いて俺は、ガックリをうなだれて頭を下げた。


「歴史か……。美晴よ、チカラになれなくてスマン」

「うわ~ん、頼む前に断られてもた~」


 いやまあ、そんなに苦手ってわけでもないが、俺の時とはかなり内容が変わっているようなので、力にはなれないだろう。

 誰もが知る偉人さんに架空人物説が出てたり、年表の年が変わってたりするだけに、過去の知識しかない俺が教えても、逆に混乱させるだけだ。


「美晴さん、後で付き合ってあげますから、兄さまと一緒に休憩しませんか?」

「……せやな。焦ってもしゃーないし」

「そうだな。頼む」


 優佳のことだから、最初からそのつもりだったのだろう。

 当たり前のように美晴も手伝い、マットやテーブルなどが持ち込まれ、あっという間におやつの用意が整った。


「おお、みたらし団子か。……ん? こっちは?」


 串に刺さった焼き目のついた団子に半透明のドレスで飾られたモノとは別に、見た目にもシンプルな小さくて丸い月見団子のようなものが置かれている。


「そちらは、餡子入りのお団子ですよ。美晴さんが、頭を使ってお疲れでしょうから、甘いものが欲しくなるかと思いまして」


 どうやら帰りに寄り道をして買ってきたらしい。


「ホンマに気ぃ付くええ子や。もう、優佳ちゃんはアタシの嫁やから、兄さんにはあげへんで」

「それで二人が幸せになるなら、俺は別に構わんぞ」

「えっ? ホンマか? やった~、兄さんから許しが出たで。優佳ちゃん、結婚して二人で幸せになろ」


 なんだか美晴のテンションが狂っているが、元気が空回りしているのはいつものことなので、あまり気にしないことにした。

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