8日目 ガンズシティ・トレース
ヒロが異世界に転生して8日目の朝が訪れた。
日の出とともにハナからのコシコシ攻撃で起こされたヒロは、まどろみの中で30分ほどじゃれ遊ぶ。
ハナは今朝もデーモングリズリーの生肉5kgとEランク魔晶3個をペロリと平らげ、尻尾がちぎれんばかりだった。
洗顔・髭剃り・身支度等々をパパッと済ませたヒロは、リュックを片手に食堂スペースに移動する。
出来たての目玉焼きとベーコンと丸パンの朝食に幸せを隠しきれずニンマリが止まらなかった。
ヒロの長旅を心配したゼキーヌが、サンドイッチを持たせてくれる。
こうして、うさぎの寝床の2人にやさしく見送られ、ヒロは宿を出るのだった。
『今後何回この町に来たとしても、うさぎの寝床一択だなぁ』
『もうまるで両親みたいだもんねぇ、ラビさんとゼキーヌさん♪』
『こーいった開拓最前線のエリアって、もっと荒くれ者が多くて、普段から殺し合いとか起こってるんだろうって思ってたけど、意外とそーでもなかったなぁ』
『ドワーフの人達が中心になってるのが影響してるのかもよ?』
『というと?』
『人間の中にも平均的な性質の特徴があるみたいでね、ドワーフの人達は概ね協調と理性と平穏を求める傾向が強いみたいよ。かと思うとその一方では【超研究熱心】という側面もあるみたいだけど』
『そーなのか~。確かにそんな印象が強い人が多いね。みんな情に厚くて理性的で仕事熱心な感じだもんな~。ちなみにこの世界で一番好戦的な種となると、やっぱ獣人なの?』
『獣人やエルフは確かに排他的で種族として対立しがちらしいけど、一部に限って言えば、飛び抜けて好戦的なのが混ざってるのはやっぱ【ヒト】でしょうね。特に権力階級の【ヒト】には残忍な個が生まれやすい……っていうか、伝統的に【残忍であることを当然と考えている】ってーのが歴史的な事実。逆に獣人やエルフは権力階級になるほど協調的な個が多いみたいよ。まぁ当たり前の前提として一概には言えないって話ではあるけどね~』
『なるほどね~。まー俺だって魔物達にとっては【残忍極まりない個】なんだけどね』
『ふふっ。そーゆーとこ好きよ、ヒロ。もうギルドには寄らずに出発する?』
『ん? あぁ、一応ギルドにも顔出してから行こうか。あっ! あと【一宿一パン】にも寄らないと!』
『あー、そー言えばヒロってばパン屋のおじさんに大量予約して困らせてたよねー』
『今思えば今朝がラストチャンスだったんだから、予約しておいてホント~に良かったよ~』
『何個予約したんだっけ?』
『確か……デカいの60個』
『こりゃ、大袋みっつは持っていかないとねー(笑)』
『ホントだ! 一旦偽装しないといけないの忘れてた!』
『もぉ~あわてんぼさんなんだから~』
ヒロが【一宿一パン】に入っていくと主人はホッとした表情で迎えてくれた。
どうやら冷やかしか悪ふざけかと心配で仕方なかったようだ。
甘く香ばしいパンの焼けるにおいの中、ヒロはそそくさと料金を支払い、巨大な複数の布袋に60個のパンを詰め込むと、猛ダッシュで店を出て人の居ない路地裏に隠れた。
そしてインベントリに次々と焼きたて熱々のパンを収納していく。
『焼きたてのままを保存するってのがこのプロジェクトの肝だからなー。1分1秒を惜しんで収納しないと』
『ヒロってホント、食に対しての執念、有り余ってるよね~』
『食事は万事だからねぇ。何をするにもまずは美味い飯からだよ♪』
『そう考えると、今日からゼキーヌさんの料理が食べられないのは痛いよねぇ』
『激痛だね。だからこそ、この焼き立てパン60個は光明だよ。ガンズシティまでの道のりにドライブインは無いからさー』
『でもさぁ、ほら、450kmだっけ? 普通の人にとっては片道10日以上もかかる距離なんだろうけど、ヒロにとっては半日で着ける距離じゃない? 往復で言うと1ヶ月ものあいだ、どーするの?』
『それなんだけどね、まず、行きに関しては、もう今日中にもガンズシティまで辿り着いちゃって、バレないように偵察を始めようかと思うんだ』
『寝泊まりの拠点は?』
『それはどーとでもなると思う。俺の技術も日々進歩してるし、30分もあれば拠点設営できると思うよ』
『なるほど。んじゃギルド寄ってもう出発ね』
『そーだね、サクサク行ってみよー!』
『ほ~い』
ガンズシティまでの道のりはとても分かりやすく、センタルスから西に伸びているミズリン川をただひたすら遡っていけばいいというだけの行程だった。
速度重視で流星4号を飛ばしたこともあり、ヒロ達は昼前には、ガンズシティまであと1kmのところまで辿り着き、着陸していた。
『なんつーか、100人で踏み固めながら辿り着いただけっぽいっつーか、獣道に近い道なき道って感じの道中だったなー。あの経路を5回も交渉しに往復した交渉隊が居たんだと思うと、手を合わせたくなるよ。やっぱ未開拓地って好きじゃないわー』
『特にこのあたりは土地が肥沃っぽいから背丈以上の草や雑木も広範囲に広がってて、近場の見通しの悪さで言ったら森の中より怖いかもね~』
『とりあえず、もう少し近付いて、適当な林の中に陣取ろうか~』
『コブ、ラジャ~!』
『…………』
ヒロ達の着陸地点近くには野球グラウンドほどの大きさの林が点在しており、隠れるにはもってこいの場所だった。そしてその中でもガンズシティまで500mほどの場所の雑木林をヒロは選んだ。
『よーし、いい感じだ。周りの草も背が高いし、林の木も大き目だし、オマケに魔物もいるからガンズの奴らは絶対近付いても来ない筈』
『魔物もいる、じゃなくて“いた”でしょ? あっと言う間に殲滅しちゃうんだから』
『高ランク魔物は居なかったしなー。さてと……』
ヒロは【スコープ】を発動しながらガンズシティの様子を改めて観察し始めた。
『ん~なんか、シティっていうより【ガンズ砦】だなぁ。水掘は囲い回したみたいだけど、規模はミントン村の居住区よりちょっと大きいくらいだわ。掘っ立て小屋が20軒ほどで、物資の供給が無いまま100人で半年か……。こりゃガンズ軍団、けっこーメンタルやられてるかもなぁ』
『人の様子は見える?』
『パラパラと動いてるけど、必死に労働してるような奴は見当たらないなぁ。先発隊として持たせてもらった武器を持って武装しつつ、初期物資を食い潰しながらダラダラやってるのかなぁ。……お、入口は一箇所で、生意気に見張り台を兼ねた門と跳ね橋があるぞ』
『あのねヒロ、ヒメの【ワンダフルレーダー】で探ってみると、76人しか人が居ないっぽいんだけど、どー思う?』
『24人が狩りに出かけているか…… もしくは死んだか、だろうね。レーダーの範囲は?』
『半径10kmくらい』
『じゃあ狩りで外出中の可能性はほぼ無いなぁ。仲間内で揉めたりしたのかもねー』
『あとね、HPが3分の2くらいになっちゃってて動かない人が10人以上いるよ』
『病人かな。欲に目がくらんで始めたワガママ交渉も取り返しのつかないところまで来てるのかもなぁ』
『ヒロ、助けてあげるの?』
『う~~~ん、どっちにしてもガンズ軍団に接触を試みるのは10日後くらいにしとこうか。俺達は本来10日後くらいにしかここに到着できない前提なんだし、その前提を崩して行動すると面倒なことが起こりそうな気がするんだよね。その病気の人達も10日くらいは持ち堪えられるっしょ』
『たぶん大丈夫だと思う~』
『よし、じゃあまずは…… ヒメ、』
『ん?』
『俺、今から【錬金】の練習しますわ』
『どしたの急に』
『これからも俺が冒険者を続けていくと仮定した場合さ、やっぱ簡単に作れる安全な居住空間を常備しておきたいと思っててさ、インベントリを使う方法も考えてはみたんだけど、今のところはまず【錬金】を高めてみようと思ってるんだよ』
『ふぅ~ん、いろいろ考えてるんだね~』
『さほどでもないけどさ。俺が【錬金】で創れるものって、未だにベッドとか流星4号に使ってる緩衝材だけでしょ? この少ないレパートリーを増やす方向で強化できれば、沢山の応用が利くと思うんだよ』
『それはいい考えだね~』
『そんな訳で俺は今から錬金集中モードに入るから、何かが近付いてきたらすぐに教えてね』
『は~~い、がんばってね~ ヒメ奥義、【ミラクルレーダー】展開!』
『…………』
ヒメに見張りを頼んだヒロはすぐに錬金の練習に取り掛かった。
まずはインベントリから、最近手に入れた【スチールスライミー】の凍死体を取り出す。
(スライミー種って、生きてる時はみんな液体っぽいんだけど、死んで魔晶を取り出すと名前なりの物質に変化するんだよなぁ)
魔法で常温に戻された【スチールスライミー】の死体は、鋼色のプリンかゼリーのような質感で、フルフルしている。
ヒロはそのボディから魔晶を取り出してインベントリに収納する。
すると残された【スチールスライミー】の死体がピクピク動き出し、10秒ほどで【鋼】そのものに変化した。
(これで鋼は手に入った。あとは……)
次にヒロは目の前の空中に30cm×30cm×30cmの【フレーム】を生成する。
そして先刻までスチールスライミーの死体だった【鋼】を見つめ、質感や硬さ、色合い、重さ、そして何より【これが鋼という金属であるというイメージ】を脳内に刷り込みつづけ、同じ材質の小さな粒が生まれるように【錬金】する。
すると……
(駄目だぁ~。なんにも生まれねぇ~)
立方体のフレームの中は静まり返っていた。
(よし、時間はたっぷりある。初めて緩衝材創った時よりコツもある程度分かってる。そしてステータスも上がってる。創りたい物質そのものもここにある。……ここにある。……ここにある?)
何か閃いた顔つきのヒロは、珍しく真剣な顔つきを持続させ、自分に何やら言い聞かせると、集中力を高め、目の前にある【鋼】をフレームで囲い、【鋼】の情報をフレームに閉じ込め吸収するイメージを強く強く込めてみた。
すると……
テッテレー!
しばらくご無沙汰だったファンファーレが頭の中を駆け巡る。
ステータスを確認すると、
名前:ヒロ
種族:人間[ヒト]
pt:0/509
Lv:49
HP:400
HP自動回復:1秒2%回復
MP:400
MP自動回復:1秒10%回復
STR:100
VIT:400
AGI:600
INT:400
DEX:700
LUK:156
魔法:【温度変化】【湿度変化】【光量変化】【硬度変化】【質量変化】【治癒力変化】【錬金】【トレース】
スキル:【ショートカット】【インベントリ(ヒメのなんだからね!)】【スコープ】【必要経験値固定】
【トレース】という新しい魔法が追加されていた。
(これ…… やったんじゃないか? 物質コピーのフラグが立ったんじゃないか!?)
ヒロはドキドキしながら改めてフレームで囲われたままの【鋼】に視線を集中させ、“トレース!”と念じた。すると、脳内スクリーン左上に常時表示させているMPが一瞬で400から0になり、そのままフリーズしたかのように0で固定されてしまう。
(なんだこの状況は!? MPが0のまま戻らねー! ん? いや、よぉ~く見ると他の数字が一瞬だけ表示されてる気もする。で、すぐ0に戻ってる。これは…… 【トレース】に必要なMPが膨大すぎて、今この時も消費し続けているってことか? 俺のMPが1秒に10%ペースで回復するのを食い続けて0に戻り続けてるってことか。じゃあ…… …………このまま待つしかないか……)
その後、ヒロがじっと見つめ続けて1分ほどが経過した時、MP数値は上昇を始め、10秒後に400に戻った。
(良かったぁ~1分ほどで~。このまま何時間も戻らなかったらどーしよーかと思ったよぉ~)
心から安堵するヒロ。
(しかし計算すると【トレース】には何千ものMPが必要ってことなのか。こりゃ普通の魔法使いじゃ無理な数値かもなぁ。俺しか使えないんじゃないかって程のMP消費量だ)
(さてさて、トレースが済んだってことは、予想するに、俺の中に【鋼】がインストールされたと言っても過言ではないはず。これが錬金と結びついてくれていれば……)
改めてヒロは新規フレームを生成し【鋼】の【錬金】をイメージしてみた。
すると……
コロン
目の前に浮かんだフレームの底に、小指の爪サイズの鉄のようなものが転がっていた。
ヒロはフレームを解除し、錬金を成立させる。そしてフレームからこぼれ落ちて足元に転がっている金属のかけらのようなものを手に取り……
『ヒメ、ちょっとこれを鑑定してみて』
『オッケー ……【鋼】って出てるよ~』
『よし! 鋼の練金成功だ!』
『ぉお! おめでと~♪』
その後、ヒロは【鋼】で得た手順を元に、インベントリに保存してあった【チタンスライミー】と【ミスリルスライミー】で同じ実験を試み、見事成功した。
物質によってトレース時間には差があり、【チタン】のトレースには2分ほど、【ミスリル】のトレースには5分もの待ち時間がかかってしまった。
(ミスリル長っ! ざっくり計算しても万単位のMP消費してるし。こりゃオリハルコンとかだと1時間待ちの可能性も出てくるな。……まぁ、あんまり時間かかるようならキャンセルすればいいか……)
(さて、思わぬ魔法習得で一気に進展しちゃったけど、実験の途中だった。次は……)
ヒロは今度は足元に縦7m×横7m×高さ1mほどの巨大なフレームを生成すると、その中に一辺10cmほどの鋼の立方体をイメージしながら錬金した。
ゴトッ
フレーム内に思い通り一辺10cmほどの鋼の立方体が生成される。MPカウンターはちょっとだけ減り、すぐにまた400に戻った。
(……一度トレースに成功した物質の錬金にはほとんどMPがかからないんだな。これはいいぞ……)
ゾクッ!
(おっ! この感覚は……)
視界左上のMPが606に変化していることを確認してヒロは嬉しそうに声を出す。
『ハナ、【忠誠】使ってくれたんだね♡』
『……“ハナもがんばるの!”だって』
『てことは……おぉ、全ステ合算されてる~』
Lv:49
HP:400
HP自動回復:1秒2%回復
MP:400
MP自動回復:1秒10%回復
STR:100 + 113
VIT:400 + 205
AGI:600 + 268
INT:400 + 230
DEX:700 + 211
LUK:156 + 799
『ちょうどいいや、今の俺とハナだと全ステ合算がどれくらい持続できるのかも実験しよう!』
『…… “ハナが寝ちゃっても忠誠は続くから大丈夫~”だって』
『そーだったのか、じゃあハナはいつでも寝ていいからね、無理するんじゃないよ~』
『………… もぅ寝ちゃった(笑) よっぽどヒロの中は寝心地いいのねぇ』
『寝床冥利に尽きるよ~。それじゃ改めて作ろうかなー。よし!』
ヒロは気合を入れると、MP使い切りペースで次々と一辺10cmの鋼を錬金していく。
(おっ、ハナの協力で生産効率が3倍以上に上がってる気がするなぁ。やっぱAGIとINTとDEXがプラスに関係してるのかも)
鋼の立方体をフレームの中に隙間なく並べて積み上げていくヒロ。
コツコツと続けていく内に縦7m×横7m×高さ1mの巨大なフレームは鋼で満たされていく。
(よーし、これで床部分は大体並べ終わったなぁ。次は壁だ)
次に、床として創った7m×7mのフロアの四辺から今度は厚さ1mの壁に相当するフレームを四辺上に伸ばしていく。そして床面から伸ばした壁を全て高さ3mで止め、その上に床面と全く同じ巨大なフレームを乗せた形にして天井部分までのフレームを描き終える。
(よーしよし、これでフレームは一旦完成だ。あとはこの中を隙間なく鋼で埋めていこう)
ヒロの錬金建築は地味ながらも着々と進行し、開始から1時間ほどでついに、縦7m×横7m×高さ5mの巨大な鋼の箱[中に空間あり]が完成した。
(さてと、ここからが未知の領域だ。このままフレームを解除すると錬金が完成しちゃって中を埋め尽くしてる3辺10cmの鋼が星の数ほど崩れ落ちてくるし、フレームを残したままだとインベントリに収納できないから毎回この膨大な作業をやり直さないといけなくなる。つまり、今はまだ10cm×3辺の鋼の集合体であるこのフレーム内を、一体ものの大きな鋼の塊に変えないといけない。そのためには……)
ヒロは巨大密閉箱の内側のフレームのみをイメージし、壁床天井六つの内面をジワジワりと拡張させていった。
すると内側の空間が広がった分だけフレーム内の密度が高まり、箱を構成する鋼の全てが破裂と振動と融解を繰り返し、不気味に小さく発泡しながら最後はやや濃い目のグレーに変色して落ち着いた。
(…………なんか、素人がテキトーに手を出していい実験だったのかな…… テレビでも見たこと無いような様子だったし。金属が泡吹くなんてどーゆー状態なんだよ……)
何がどうなったのか分からなかったため、1時間ほど放置して、水をかけたり落ち葉を近付けたりしながら安全を確認し、恐る恐る触ってみる。
(ん~、なんか最初の鋼とは触った感じからして変わってるような気がする……)
『ヒメ、ちょっとこの鋼の箱、鑑定してみてくれない?』
『あいよ! ……んっと、こんなん出ましたよ~』
■ヒロハナハガネ[神サービスによる仮名]
鋼に特殊な圧力と複数の魔力が加わり生成されたユニーク金属。世界に一塊のみ存在する。
備考:硬度はカーボランサーとウルツァイコンプの中間。剛性は極めて高い。色は黒緑色。
『創っちゃったみたいよ、新素材(笑)』
『【世界に一塊のみ】って、これの事だよね。あと新素材なだけに仮名になってるし』
『出来ちゃうもんなのねー、新しい金属って』
『全くの偶然だけどね』
『ところでヒロ、この巨大な金属の箱、中が空洞ってことは部屋にするんでしょ?』
『そうなんだよ。インベントリに質量やサイズの制限が無いって知ってから密かに考えていたことなんだけどさ、床・壁・天井が分厚い鋼鉄で出来た部屋を作っちゃって、それごとインベントリに収納しちゃえば自然の中で寝泊まりする時に便利だろうなぁ~って』
『厚さ1mくらいの鉄の壁ってのは、やっぱり防犯上の?』
『もちろんだよ。例えばSクラス以上の凄い魔物とか、ドラゴンとか、未だ見たこともない強敵が寝てる間に襲ってくるかも知れないだろ? そーなっちゃった時にもこんだけの厚みと強度があればさ、作戦会議開いたりとか、逃げる準備とか、色々出来そうでしょ?』
『確かに…… 行動を共にする身としては、これは安心ね……』
『しかもさ、まぁ出入り口はこのあと削り取って小さめのを作るんだけどさ、その後にこの部屋丸ごとフレームで包んで、更にカスタマイズしようかと思ってるんだ♪』
『ま、ますます頼りになるわね~。私もハナちゃんもさらに安心してのんびりできるわ♡』
『だろぉ~、任せといてよ~』
ヒロは鼻歌交じりに行動を開始した。
まずは完成した新金属の箱が完全に一体化していることを再確認し、フレームごと地面スレスレまで下ろしてから解除して錬金を完成させた。すると、重力の中に解き放たれた1300トンほどもある大箱が、ズゥゥゥゥゥンと地響きを上げてこの世に誕生した。
次に出入り口用の穴を空けるため、幅50cm・高さ1m・奥行き1mくらいのフレームと【質量低下魔法】を使い、穴を開けていく。
出入り口が開口した後は、1300トンの大箱にラップでもかけたのかというほどピッチリとフレームを行き渡らせて囲いこみ、【質量上昇魔法】と【硬度上昇魔法】をかけ続けた。その結果、さらに金属箱は重厚感を増し、2000トンを超えるワンルーム箱が完成したのだった。
『できたぜ…… 半日かけて…… 俺の城が……』
『すごーい。なんかこのサイズのものが無垢って考えられないよねー。ねぇ、この箱もなんか名付けるの?』
『そうだなぁ。分かりやすく【鋼部屋】かな』
『本当にそうだから凄いよねー』
『重さも2000トンくらいに上げといたから、ドラゴンが体当りしてきてもビクともしないと思うよ』
『さすがヒロ、住まいへのこだわりはアジト時代から変わってないよね~』
『あっ、そうだ! アジトに作ってある【洗濯場】と【洗面場】と【屋外調理場】と【モノリス風呂】を切り取ってインベントリに入れておけば、いつでも取り出せる生活家具になるね! さっそく今から取りに行こうよ!』
『でももうそろそろ日が落ちてくるよ~。着いた頃には暗くなってるんじゃない?』
『暗かろうがこっちには【照明】があるんだから関係ないだろ~。ヒメがいるから索敵も大丈夫だろうし……てかさ、今晩はそのままアジトで寝ちゃえばいい訳で、明日の朝またここに戻ってくればいいんだよ。そうだ、そうしよう!』
決断したヒロは行動も早く、さっさと鋼部屋を収納し、流星4号を生成すると、上空30mを矢のように飛んでいく。
途中、ヒメから“風呂なんか作り直した方が早いんじゃない?”との指摘もあったが、【愛着】の一言でそこは片付けられた。
アジトに着くと既に薄暗くなっていたが、すぐさま【照明】を設置し、【洗濯場】【洗面場】【屋外調理場】【モノリス風呂】を元の岩から切り取ってインベントリに収納していく。【モノリス風呂】は巨大な一枚岩の天面をくり抜いた作りだったため、風呂単体を削り出すのに時間がかかったが、結局ヒロ体感で22時くらいには作業が終了した。
そして……
ゾクッ!
MP表示が606から400に戻った。
『おぉ~。長過ぎて忘れてたよ。最初は10分だったのが今じゃ10時間くらい持続するみたいだ♪』
『そのうち【朝起きてから寝るまで】になるんじゃない?』
『もう結構それに近いけどな』
『でもなんで急にこんなに伸びたんだろうねぇ』
『魔晶をおやつに食べてるの、影響あるかもだぞ』
『あーそれはいかにも有り得る話だねぇ』
『だよねー。さぁて、風呂入って寝ようかなー』
『は~~い』
こうして、ヒロ達の異世界生活8日目は終わった。
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