2日目 予期せぬ収穫





 ヒロが異世界に転生して2日目の朝、彼は微かに聞こえる小鳥のさえずりと朝の薄明かりの中目覚めた。


「ぐ、うぅ…… ん~~~」


 土の上で10時間ほど寝たためか、体の節々に若干の痛みを感じつつも、疲労は完全に取れていた。


「ぅうあぁぁぁ~~よく寝たぁ~~。スッキリしたわぁ~~」


『おはようヒロ! 異世界生活2日目を迎えられてお互い良かったね~。命ってスバラシイ♪』


『うん、こうやって無事に朝が来たってことは、俺の【魔法の蓋】はちゃんと機能したってことなのかな、と…… ん? なんか焦げ臭くね?』


 そう言いながらゆっくりと起き上がるヒロ。


『ヒロ~、その件なんだけど、大変なことになってるわよ~』


『えっ! なにが?』


『まず、何よりも先に、あなたのステータス、確認してみて』


『え? ……うん』


 急いでステータス画面を開いてみるとそこには……




pt:583


Lv:15[11up]

HP:100

MP:100

MP自動回復:1秒10%回復


STR:10

VIT:10

AGI:40

INT:100

DEX:50

LUK:13




『ええええーーーー!!!!』


 そこには15にまで上がったレベルと583ものポイントが記されていた。


『い、い、いったいこれは…… どゆこと……?』


『説明しよう! ヒロくん、キミが昨晩、頑張りすぎて凄~い蓋を作っちゃったために、ほら、見てごらん、外を!』


 ヒメに言われ、のそりと歩き出すヒロ。

 昨日設置した魔法蓋の前まで辿り着き、かがみ込んで外の様子を見てみると……


『うわっ! こわっ! 何あれ! ねぇヒメ!』


『説明しよう! あれらはヒロくんの魔法蓋に知らずに突っ込み命を落とした魔物たちなのであ~る。閲覧注意ですぞ♪』


 そこには何頭かの【魔物】と思われるものの死体が転がっていた。


■頭と両腕が焼け焦げて無くなっているクマっぽいやつ。

■体の前三分の一が焼け焦げて無くなっているイノシシっぽいやつ。

■体の半分が焼け焦げて無くなっているイタチっぽいやつ。

■体のほとんどが焼け焦げて尻尾だけになっているよくわからないやつ。


『こ、これ、みんな死んでる……よね?』


『は~い。見ての通り~』


『あ、だから経験値が大量に入って来たのか……』


『そのとぉ~りだよヒロくん。まぁ私の推測だけどね、多分この洞窟付近に本来はこんなに何匹もの魔物が集結するなんてことは無かったんだろうけども、最初はこの内のどいつかがたまたま誤って蓋に突っ込み焼け焦げ、その臭いを嗅ぎつけまた別のやつがやって来て焼け焦げ、その臭いを……という具合に連鎖してだね、この連続殺人、もとい、連続殺魔物事件が起きてしまったというのが真相だと思うね。私は……』


『“思うね。私は……”じゃないよ! 一部始終見てたんでしょ? 神様寝たりしないでしょ?』


『そんなことないよぉ。少なくとも私に関しては寝~ま~すぅ。別に睡眠が必要な訳でもないけど、なんつーか、【習慣美の嗜み】として寝るんですぅ。まぁ惨劇に気付いてたかどうかで言えば、薄目を開けて少しだけ見ていた……ってのが正確なところかな♡』


『やっぱ見てたんじゃないか。……まぁいいや。まずは自分の生存とレベルアップを素直に喜ぼう』


『そうだね、こんなラッキーにレベル上げ進んじゃう人、なかなか居ないよ? ヒロってさ、なんか、すんごい守り神が付いてるのかもね、美人で可愛くてお淑やかで天真爛漫で才色兼備でみんなの憧れ~みたいな女神様がねぇ~♡』


『…………ステ振りすっかな』




pt:0/583


Lv:15[11up]

HP:200[100up]

MP:200[100up]

MP自動回復:1秒10%回復


STR:50[40up]

VIT:100[90up]

AGI:100[60up]

INT:200[100up]

DEX:100[50up]

LUK:56[43up]




 結局まんべんなく振り分けたヒロなのであった。




『やっぱこんな蓋を作る時は、もうちょっと低威力にしといた方がいいのかもな』


 【魔法蓋】を停止させながらヒロがつぶやく。


『そうかもねー。今回は【魔物の大漁】ってオチで終わったけどさ、もしもよ、たまたま近くを通りかかった【やさしい木こりのおじさん】が、一声かけるために入り口を潜ろうとしてたとしたら後味悪いでしょう?』


『後味とかの問題じゃないだろ。そんな想像したくないよ!』


『だったら尚更弱めにした方がいいわねぇ。火傷してびっくりして逃げる、くらいの感じでいいんじゃない?』


『そうだね。そうする。【魔法】って結構最初から危険なんだねー』


『いやいや、それはヒロだからだよ。あなたのその【MP1秒10%回復】が全てよ。普通は大体1時間で10%回復なのよ? 単純計算してもあなた、常人の3600倍得してんのよぉ? ん~もう取ったわね、国♪』


『取らんっつーの国なんて。でも確かにそうだね。普通はあんな蓋、作れないよね』


『【単発の魔法】にしてもそうよ。普通はヒロみたく繰り返して使ったり出来ないからね。ちょっと使って、たっぷり休息して……みたいになるんだから』


『だねぇ……(やっぱあのルーレットやっといて良かったわぁ……)』


『あ、それからヒロ、』


『ん?』


『魔晶とか素材のこと、あなた全然分かってないわよね?』


『ん? あぁ、表の魔物の死骸のこと?』


『そうそう。剥ぐわよ。表に出なさい!』


『怖い言い方するなぁ』


『はい、それではまず説明します。【魔物】はどんな魔物であっても体内にひとつ【魔晶】を持っています。しかし、昨日狩ったカエル程度では小指の爪の先ほどの魔晶しか採れません。肉も美味しくなく、毒の採取くらいしか有用でない上に、ヒロの魔法で黒焦げになっていたので昨日は何も言いませんでした』


『はい』


『しかーし見てください。今朝の獲物は一味違います』


『まぁ、でかいクマが一頭いるもんねぇ』


『はい、まず注目なのがそうコイツ。名を【デーモングリズリー】と言います。【クマ系の魔物】の中でも最上位種で、ある日森の中このクマさんと出会ってしまったらもう大変。まず負けるでしょう。対峙して戦うには高いレベルが要求される大物です。確か冒険者ギルドの格付けはBランクだったように記憶してます。ちなみに昨日のカエルはFね』


『Bランクって凄いなぁ。だからあんなにレベル上がってたんだねー』


『そう、ヒロの糧となった経験値の大半はこのクマだと思うの。魔晶も採れるし毛皮も採れるし肉も美味しいし最高の獲物だね~。あとは、イノシシ型の【グレートボア:Dランク】とか他にも居るけど……もはや肉片と化してるやつばっかね。まぁグレートボアは下半身? 後半身? がしっかり残ってるから食材としては必ずゲット級かな』


『魔晶って体のどこにあるの?』


『簡単よ。魔晶はねぇ、心臓の場所。っていうか心臓の代わりに魔晶があるのよ。ただ、正確には少しずれてて胸の中心位置よ。ちなみに他の臓器も基本的にはシンメトリーで左右対称になってるわ。魔物の臓器は左右対称にふたつあるか、心臓みたいにど真ん中にあるかのどちらかなの』


『心臓…… つーか魔晶は胸の真ん中かぁ』


『あとヒロ、この惨状を見て何か気付かない?』


『いやずっと気になってたよ。そっか、やっぱり人やら動物やらと魔物は根本的に違うんだー。血だよね?』


『そう、魔物には【血液】が無いのです! ワーワーぱちぱちワーワーぱちぱち』


『血液の代わりに【魔力】かなんかが全身を巡ってるってこと?』


『そーなのです。胸の真ん中にある魔晶から全身に【魔素】が供給されて魔物は生きているの』


『魔素?』


『まぁ人間で言うところの酸素ね。その魔物版が【魔素】。この世界の空気中に漂っている成分よ』


『てことはさ、【魔晶】を壊せば【魔物】は死ぬんだろうけど、深い傷を負わせたりしても……』


『そう、死んじゃうわ。残念ながら魔素は血液と違って見えないから分かり辛いけど、小さな傷を追わせればその傷口からフシュ~っと、大きな傷を追わせればパックリ開いた傷口からドバドバドバ〜〜っと、魔素が流出して、その量が多過ぎると死に至るってことね。あと【脳】。脳に関しても動物と一緒で運動、思考、全てコントロールしてる器官だから、ちょっと傷付けた程度でもすぐ死ぬわね。ま、急所だね』


『そっかぁ。どうりで血生臭くないと思ってたんだよ〜』


『この辺の講義は今日じっくりやろうと思ってたんだけどさ、朝一でこの状況だったもんだからさ、掻い摘んで説明させて頂きました〜』


『ヒメありがとう、すげー助かったよ♪』


『えへへへ〜♪』


『あ、てことはさ、【ドラゴンの血】とかよく話に出てくるけどさ、あれは……』


『もちろん無いよ。でもね、一部では、“ドラゴン級の魔物の魔素は高濃度だろうから、体内で多少液体化してたりして確保出来るのでは?”なんていうまことしやかな噂が流れたりしてるのも事実みたいよ』


『そっかぁ、夢が広がるなぁ』


『さぁ、そんな訳で解体よ。魔物の死体は全身に魔素が巡っていただけあってかなーり腐りにくいんだけど、それでも新鮮に越したことはないわ。テキパキ剥ぎましょ。基本は高価値なものからよ!』


『……』


『ヒロどーしたの? おなか痛いの?』


『いや……ナイフとかがあったらなぁ〜なんて、ちょっと思ってただけで……』


『なぁ〜によフニャチンね、勃っちまいな! 男は黙って素手! 男は黙って素手! よ』


『…………』


『さぁやってご覧なさい、お姉さんが見ててあげるから。まずはそのクマよ。胸の中に魔晶があるから傷付けないように取り出してね』


(弱ったなぁ。こんな体長3~4mもあるような獣の皮とか肉なんて、素手で切ったり出来る訳ねーだろぉ~)


 デーモングリズリーの傍らにしゃがみ込むヒロ。

 恐る恐る何箇所かを触り始める。


(ヤッバ! デッカ! こんなのぜってー無理だわ。あぁ〜ジジイ神に武器も貰っとけば良かったよぉ。もぉー俺に力があれば…… ……ん? そーいえば【力】、あったな……)


『ヒメ、ちょっと【魔法】、試してみていいかな?』


『へ? 魔物の解体に? ……へぇ〜おもしろいこと考えるね! もちろんいいよ。ヒロの好きにやっちゃって!』


(よし、なんとか頑張って素手路線から逃げないと。つーか多分出来ると思うんだよなぁ。ようは【フレーム】を細~く……そうだ、割り箸くらいの形にしてと)


 ヒロの目前の空中に細長い形の赤ラインが浮かんだ。


(うぅ~ん、もーちょっと細い方がいいか。カッターナイフの刃のイメージで……あぁ無理だ。薄くし過ぎると立体のイメージが保てない。フレーム崩れちゃった。んじゃ薄めの割り箸ならいけるかなぁ……よし、安定したぞ!)


(さてと、このサイズだと温度上げるの簡単そうだな。温度上昇!)


 ヒロはフレーム内の温度上昇に昨晩得たイメージを思い出しながら魔力を込めた。

 そしてステータスを確認する。


(おっとステ上がってたんだった。さらにフレームのサイズも小さいから魔力の使用量が格段に減ってる! そう考えるとやっぱMPの上限値ってめっさ大事だな。継続出力時のMP使用量の上限が倍になったってことだもんな……)


(さて、出力も形状も固定できてるみたいだし、あとはこの……【レーザーナイフ】としよう。このレーザーナイフを細かく移動させたり回転させたり出来るのか……がこのプロジェクトの肝だな。昨日の練習ではぼんやりした形をぼんやりと動かすまでは出来てたから練習次第で何とかなるだろ)


 それから三十分。

 ヒロはフレームの立体操作の練習をし続けていた。


(よーし、モノになってきたぞ。自由自在とまでは言えないけどDEXも上げたせいなのかコツを掴むのが楽しくて気持ちいいわー。そろそろ実践しますか)


 素手でクマの体をまさぐっていた三十分前と比べると、やけに爽やかな顔をした男の姿がそこにはあった。

 ヒロはレーザーナイフを目線で追いつつ操作していく。


ヂヂヂヂヂヂヂヂ


 デーモングリズリーの皮と肉の間へ焦げる音と共にレーザーナイフが入り込んでいく。


『おー! ヒロすごーーい! 魔法でナイフ作っちゃったのね~』


『うん、ナイフってほどカッコいいもんじゃないけど上手くいったみたい。MP残量も余裕だし、このまま使い続けられるよ!』


『オッケー! じゃあここからが本番よ。剥ぎの基本、捌きの基本、このヒメちゃんがとことん教えてあげるからねぇ~♪』


『ありがとうヒメ。がんばるよ!』


 ヒメの解体講座兼解体指導は昼過ぎまで続き、あまりに【フレームの立体操作】に集中したせいか、ヒロは通常作業によるレベルアップを初めて体験した。




Lv:16[1up]

HP:200

MP:200

MP自動回復:1秒10%回復


STR:50

VIT:100

AGI:100

INT:200

DEX:150[50up]

LUK:59[3up]




 ポイントは技術への感謝を込めてDEXに振ったヒロなのだった。


今回の獲得素材


■デーモングリズリーの魔晶 ※直径20cmほどの球体

■デーモングリズリーの毛皮

■デーモングリズリーの肉

■デーモングリズリーの骨

■デーモングリズリーの爪

■グレートボアの肉


 洞窟入り口付近で6時間以上続いた解体作業を終え、ヒロはヒメ指導のもと選別と廃棄と簡単な清掃も終わらせた。


『【魔晶】って初めて見たけどキレイなんだねー。無色透明のようで中をよく見ると濃淡が煙のように揺らめいているみたいな…… 感動だよ』


『魔物の格が上がると魔晶の質も上がるみたいだしねー。デーモングリズリーだからあのクオリティなのよ~』


『魔晶はどんな魔物のものでも【丸】なの?』


『そうね。球体以外の魔晶の話なんて聞いたことないわねぇ。多分みんな真ん丸なんだと思うわよー』


『ふぅ~ん』


『それよりヒロ、この大量の獲物なんだけどさ、』


『あ、そっか。早く運び込まないとねー。奥の方に持っていくよ』


『……なぁ~に言ってんのよ、常温でそんなとこに放置してたら魔物の素材とはいえ数日で腐り始めちゃうわよ? そんな面倒なことしなくても私が預かるって』


『ん? ……預かる?』


『だからぁー私の【インベントリ】に入れておいてあげるって言ってんの!』


『イ、インベントリぃ~!?』


『えっとね、無限収納って言えば分かる? ん~四次元引き出しっていうか……』


『いや、インベントリで分かるよ。ヒメ…… 持ってんの?』


『……うん、あるけど。それが何か?』


『……それって……俺も使えたりする?』


『あぁ…… そうね、確かに持ち物を出し入れする度に私とヒロでいちいち確認するのも面倒だねぇ。うん、いいよ。私とヒロとの共有設定にしてあげるよ。私もその方が楽だわ。それじゃ権限共有するね~そりゃ!』


テッテレー!




名前:ヒロ

種族:人間[ヒト]

性別:男


pt:0


Lv:16

HP:200

MP:200

MP自動回復:1秒10%回復


STR:50

VIT:100

AGI:100

INT:200

DEX:150

LUK:59


魔法:【温度変化】


スキル:【インベントリ(ヒメのなんだからね!)】




(おぉ~スキルとして【インベントリ】が追加されて……)


『て、なんだよ“ヒメのなんだからね!”って』


『なんか凄いスキルみたいでかっこいいでしょ~。心配しなくても機能面では何の遜色もないわよ。神スペックだからヒロにとってはハイエンドモデルだぞぉ~。嬉しかろう、嬉しかろうて~。うりうり~うりうり~♪』


『え? なんか普通のと違うの?』


『説明しよう! 【神スペックのインベントリ】とは!』


以下、神スペックインベントリ機能一覧


■物質を無限に収納できる亜空間。サイズ・質量・数の制限はない。

■物質が行き来する時にのみ繋がる。

■出し入れはイメージすることで出来る。

■出し入れ口はイメージ出来る範囲で形状も距離も自在。ステ依存。

■どんな物質でも収納できる。生物も可。

■時間経過の設定は亜空間毎に指定可。ステ依存。

■検索機能あり。

■並べ替え機能あり。

■常時アップデート。ヒメ依存。



『確かに俺が想像してたのより多機能っぽいわ。つーか制限が無さ過ぎて怖いわ。ねぇヒメ、やってみていい?』


『もちろんよ! 自由に使って!』


 ヒロはまず、クマから採れた魔晶を見つめ、インベントリに収納されるイメージをぶつけてみた。


ヒュン


『おーー消えた。魔晶が消えた! すげーな実際に見ると……』


 次にたった今消えたばかりの魔晶を出現させたい場所にそっと置かれているイメージで呼び出してみた。


ヒュン


『あーっ、はいはい、分かった! 出てきて置かれてるとこまでイメージすると、【命令が届いた!】って感じの達成感が戻ってくるわ。これ、収納する時より取り出す時の方がコツがいるねぇ~』


『いいねいいねぇ~。飲み込みが早くて優秀よぉ~』


ヒュン


『……あ、収納してから中にある状態のまま意識すると【時間の経過について】も変更できるんだねぇ』


『そうそう、今やってるから分かると思うけど、何も意識しない普段使いでは【時間停止】で自動収納される設定になってるの。んで、個別に意識すると【時間経過】に変更できるのよ。さらにヒロのレベルとかステが高~~くなれば、確か【時間加速】やなんかも指定出来たと思うんだけどなぁ……どーだったっけかなぁ……まぁそんな感じよ!』


『すごいすごーい。うわ~これ簡単にできるし便利だねー。とりあえず全部収納しちゃうねぇ~』


 ヒロは今回の獲得素材を次々にインベントリに収納していった。


『あとね、このインベントリは神仕様だからね、例えばヒロが目で見て対象物をイメージするでしょ?』


『うん』


『そのイメージをインベントリが汲み取ってくれる感じのシステムだからね、もし収納したいものが肉でその肉にハエが止まっていたとしても、ヒロが肉だけをイメージすればハエを無視して肉だけを収納してくれるの。逆にヒロが【ハエの止まっている肉】って意図的にイメージしたらハエも含めて収納されるわ。さらにそれらを別々に振り分けることも可能よ。あと、このインベントリ、【生物】に関してだけは【時間停止】で固定される仕様になってるからね。でももしどうしてもインベントリ内で生物の時間を動かしたいんなら出来なくもないんだけど……異常に面倒臭い環境設定ってのをしなくちゃいけないのよ……』


『あぁ、いいよいいよ、ちょっと疑問に思ったから聞いただけ。多分何でも【時間停止】で行くと思うから、変わったことする時はまた相談するね』


『うん、そんな感じのスタンスでいいと思う。便利に楽しく使ってね♪』


『は~い』


 こうして異世界生活2日目にしてスキル【インベントリ(ヒメのなんだからね!)】を手に入れた……もとい、使わせて貰えるようになったヒロは、自らのチート過ぎる仕上がりを自覚しながらも、普通に楽しく生きていこうと思うのだった。





グゥゥゥ~~~


『ヒロかわいそう。お腹が減ってるのね』


『減ってる。減りまくってる。そりゃもう減り倒しやがりまくっていると言っても過言ではないくらいに減り減りしている……』


『だったら今朝獲れの肉、食べれば?』


『もちろん食べるつもりだよ。ただ、いざ食べようかと考えるとさ……』


『ふむふむ』


『道具も何も無さ過ぎて、何から始めようかと頭を抱えているところなのさ』


『ふーむふむ』


『というわけでちょっと出かけよう!』


『は~~~い!』


(まずは水だな)





 ヒロは洞窟から3分ほど歩いたところにある川の前に佇んでいた。


(この川の水は濁りも全く無いしとっても美味しいな。ぜひ大量に確保しておきたいけど……うまく出来るかな…… ふん!)


 ヒロが川の水の収納をイメージすると、一瞬だけ水面が削れたように見えた。


(よし、出来た! ん~と、大体今ので10リットルくらいか。まぁ別に持ち過ぎて困ることも無いだろうし、いっぱい確保しておこうっと!)


 淀みない清流の水を取り憑かれたように確保し続けたヒロが我に返ったのは三十分後だった。


(よし、当分のあいだ水の心配は要らなくなったぞ! 次に必要なものは……火に関しては俺の魔法でなんとかなるだろうし……やっぱり器かなぁ。あと調味料が欲しいなぁ…… うん、とりあえず洞窟に一旦戻って木の伐採から始めよう)


ヂヂヂヂヂヂヂヂヂ


ヂヂヂヂヂヂヂ


 森の中に木の焼け焦げる臭いが漂う。


(皿作るの難しぃーーー! もうしゃーない、この辺で妥協しよう)


 洞窟付近で直径20cmほどの倒木を見つけ、レーザーナイフを発動し、輪切りにしたまではそれなりに順調だったのだが、皿のような滑らかな器状への加工に苦戦した現在、ヒロは焦げまみれの皿っぽいものを手にして皿作りを終了した。

 因みに箸については、ちょうどいい形の硬く細長い棘を持つ木が辺りに群生していたため、折っただけでそのまま使うことにした。


(ん~~やっぱ普通のナイフが欲しいなぁ。レーザーナイフも使えるけど、ようは【熱の塊】だから焦がしちゃったり発火させちゃったりすんだよなぁ。あと太いし。特に木工には向いてないなぁ。俺の皿……焦げ取るのにすげぇ時間かかっちゃったし……)


(あと……フライパン的なものをどうしようか考え続けてきたけど、よく考えたら俺自身が熱源を自由に操れるんだから、大きめの石でもあればそれで事足りるんじゃないかな…… あ、 ……そう言えば洞窟の中って平らな石が何箇所かあったな。あれ使おう! そんであとは、絶対欲しいよなぁ、調味料……特に【塩】)


『ねぇねぇヒメちゃん』


『どしたの? ヒロ……ちゃん?』


『塩持ってない?』


『持ってない』


『……だよねぇ』


『ヒロ、塩が欲しいの?』


『そりゃ欲しいよー』


『あ~、食事かぁ、そりゃそうだよね』


『食事もそうだけど、生命維持の大前提でもあるからなぁ』


『そうなのかぁ』


『例えばさ、【塩作り出す魔法】とか習得できないかな』


『まぁ出来ないことはないと思うけど……』


『え? じゃあ俺、その魔法がんばって覚えるわ!』


『ちょっと待ってちょっと待ってよヒロ、その魔法って簡単に言うけどさ、難しいと思うよぉ【錬金】は』


『……【錬金】?』


『錬金はね、今ヒロが覚えているような、【フレームの中の状態を変化させる魔法】とは違ってね、【フレームの中に無いものを生み出す!的なやつ】だからさ、レベルもステもかなり高くないと覚えられないし、覚えた後も修行を相当繰り返さないと石ころひとつ生み出せないっていう大変なスキルなんだよ』


『いや俺は、塩だけでいいんだけど……』


『何もないところから何かを生み出すって超高等技術なのよ。塩とか水とか単純なものでも今から生み出すとなると、そーねぇ、ヒロのチートさを加味して考えても……半年はかかるんじゃないかしら』


『……ヒメって神様でしょ?』


『正確には【きゃわゆい女神様】だけどね♪』


『…………神様ならさ、ザッと前に出した握り拳からサラサラサラ~~っと塩が落ちてきましたとさ、めでたしめでたし……みたいなこと出来るんじゃないの?』


『手、無いもん』


『あ……ごめん』


『謝んないでよぉ冗談よ。ふふふ、ヒロはやさしいね』


『いや……ただ塩に夢中になってた自分が恥ずかしくて……』


『ん~ねぇヒロ、塩的なものなら何でもいい?』


『何でもいいとは?』


『例えば、ちょっと下膨れのガラスの瓶にバチンと開くタイプの青いプラスチックのキャップが付いてて【アジ○オ】って書いてあるようなもの……じゃなくてもいいのかってことよ』


『……塩ならなんでもいい』


『よ~し、じゃあまずこの洞窟の奥まで移動しよう!』


 ヒロは訳が分からないままそして言われるままに洞窟の奥に移動した。


『はいどうぞ!』


『はいどうぞってどーゆー意味?』


『塩よ』


『何が?』


『このあたり…… とくに左側の壁面の一部なんか、かなりの塩、っていうか岩塩だから……』


『ガーーーーーン』


『えーーーーーん。なんてね、うふ♪』


『いやマジなのか? この壁面……た、確かに言われてみれば結晶っぽいのが…… ヒ、ヒメ、なんかいろいろとありがとうね』


『い~え~私もさっき知ったばっかだからさ。ヒロがシオシオシオシオ言うもんだから神レーダー的なやつでちょっと検索してみたのよ。そしたら私達の愛の巣のあたりがすんごく塩分濃度濃かった! みたいな話なのよ。あ、これ、エロい意味じゃないからね!』


(なんつーーーーーーーー灯台下暗しだコレ! 結局調理台も塩も活動拠点に有ったんじゃねーか! あ~ヒメに聞いて良かったぁ。これからも困ったらすぐに相談することににしよう。うんうん。うんうん……)


 その後、洞窟をよくよく調べ直したヒロは、ちょうど中程に鉄板プレートくらいの大きさの岩を発見する。

 その岩を丁寧に洗い、インベントリからデーモングリズリーの肉を取り出し、1kgほどの塊をレーザーナイフで切り出し、残りをインベントリに戻し、切り出した肉を岩の上に置く。

 レーザーナイフの温度や形状を調整しつつ、肉の端から一口大になるように薄く削っていくと、ジュウジュウと音を立てて塊から放たれた肉は、丁度ミディアムレアの状態で岩の上にこぼれ落ちる。

 その熱々に躍動する夢の肉を木の棘を折っただけの箸でつまみ、削り出した岩塩にちょんちょんと付け、一気に頬張るヒロ。


「うっっっ!!!」


(うっんめぇぇぇ。口に入れた瞬間に赤身の旨味と脂の旨味が混ざり合った肉汁が流れ込んで来やがる! 噛む度に舌から鼻の奥に食欲を呼び込むような香りが抜けて行って、飲み込む最後まで幸福感が波のように押し寄せて来るぜ! こりゃあヤバイ。こんな美味い肉初めて食った。牛なんかには到底辿り着くことの出来ない味覚の桃源郷を俺は見た! 今後も腹が減った暁にはデーモングリズリー、キミに決めた! とここに誓うよ!)


 ヒロは無我夢中で焼き肉に食らいつき、あっという間に平らげたのだった。


『ヒロどうしたの? なんだか目の焦点が合ってないよ?』


『……ハッ! あぁヒメ、いや、あのクマがさ、こんなに美味しいなんて思ってもいなかったからびっくりしたよ』


『あは、確かに。デーモングリズリーの肉は美食家が冒険者を集団で雇って狩りに回らせるくらいの人気素材だからねぇ。ほんとラッキーだったね、ヒロ♪』


『いやまったくだよー。でもさぁ、丸一日以上何も食ってなかったところにあの肉は衝撃的すぎたね。あとよくよく考えると、結局箸しか役に立たなかったんだよなぁ。あの焦げた皿は何だったんだよもぅ』


『何事もトライ&エラーだよ、ヒロ、お疲れさまでした…… ところでもう夕方だけど、どうするの?』


『そうだねー 狩りはやめておこうかな。この【拠点】周りで考え事したり実験したりして今日は寝ようか』


『了解~。何かあったら声かけてねぇ~』


 日が傾いて美しい木漏れ日が洞窟を照らす。

 めぼしい石にドカッと腰を下ろしヒロは考えていた。


(ちょっと怖いくらいだけど順調にスタートが切れたなぁ。このラッキー感ってステータスの【LUK】が影響してんのかな? 普通は【LUK】と言えばクリティカル補正とかアイテムドロップ率とか宝箱の中身とかそんなんじゃなかったっけ? あとステ表記は【LUK】ってなってるけど【LUC】じゃなかったっけ? まぁ分かれば何だっていいんだけど……あれ? 不安になってきたぞ。【LUK】ってそもそも……あ思い出した。ジジイは確か【おたのしみ要素】みたいなこと言ってたわ。なんだそりゃ~って感じだなぁ)


(次に欲しい物を素直に考えると……ベッドだな。寝心地のいいベッド。これを最もアナクロに達成するなら干し草を大量に運び込んで敷く、に尽きるだろう。しかしここは森の中。草はあるがそれでベッドが作れるかと言えば否だ。ではどうするか、な、の、だ、が、……やっぱ魔法しか無いだろうなー。しかし、この世界の魔法ってややこしいんだよなぁ。物理法則とか自然の摂理的なやつに中途半端に寄り添いがち、みたいな。いいじゃねーか別に。“ベッド!”とかかっこよく言ったらシャキィーン! とベッドが出てくる魔法があってもよー。まぁそんなこと言ってても埒が明かないから現実的に考えよう)


(はっきりしてるのは、この世界の魔法は【フレーム】ありきってことだな。どんな魔法であろうとまずはフレームを生成する。その上でその中をどう変化させるかってのが魔法だ。温度とか湿度とか圧力とかの状態を魔力でもって変化させる。しかし、フレームの中を【豆腐】で埋め尽くしたい、となったら話は変わってくる。そもそも豆腐はフレームの中に無い。いや例えあったとしても普通の魔法なら豆腐自体の温度を上げて湯豆腐っぽくする、とかそういうことだ。フレームの中に何かを生み出したいのなら、やっぱりヒメが言ってた【錬金】。これしかないだろう。ヒメは難しいからやめとけって言ってたけどなぁ……)


(悩むのはやめた。とりあえずチャレンジしてみよう。凄いことは無理かも知んないけど、習得するだけなら出来るかも知れないし。温度変化なんて一発で覚えられたもんなー。とにかくフレームの中に何かが生まれる、っつーか突然現れる、みたいな【イメージ】を強く持てばいいのかなー。変化だとほんのちょっとでも【変化】になるけど、【錬金】だから必ず何かを生み出さないと習得には至らないんだろうなぁ。シンプルで俺のイメージ力でも生み出せそうな物質って何だろうなぁ。錬金術師の卵は最初何から練習するんだろ。ん~何にしよっかなぁ~)


(よし決めた! 科学的な物質の構成なんて考え出したら不安が膨れ上がって苦しいだけだった! もう俺の記憶とイメージだけを頼りに生み出してみせる! よしいくぞぉ、フレーム!)


 一辺10cmくらいの立方体が目前に浮かび上がった。


ピピ


 ヒロはそのフレームの中心辺りを凝視する。


(集中、集中、集中、……錬金!)


 しかし、何も起こらなかった。


(くぅ~厳しいぃ~。これが現実ってやつかぁ~。でも諦めないぞ。魔法が存在するってことは不可能ではないってことだからなー)


 ヒロはすぐに気を取り直して【錬金】の練習を始めた。

 時にはフレームのサイズを変え、

 時にはフレームの形を変え、

 時には寝転んでみたり

 時には目を瞑ってみたり

 いろいろと繰り返しながら1時間ほどが経った。


(なんかこう、出来そうな感じがするんだけどなぁー。ステレオグラムの隠し絵が見える直前みたいな感覚が続いてるんだよなぁ。よし、もう一回!)


(形…… 大きさ…… 質感…… 色…… 全部イメージするんだ……)


(イメージしろ……イメージしろ……イメージしろ……)


(……錬金!)


テッテレー!


(!!!)


(や、やった! 鳴ったぞ! しょぼいファンファーレが! やっと成功したぁ~。もぉぉぉぉ、お前を出すのに何百回頭に思い描いたと思ってんだよぉ~。はぁぁぁ長かったぁ~~)


 ヒロが愛おしそうに話しかけるフレームの中には、直径5mmくらいの白くて丸い小さな何かが転がっていた。


『やったぞヒメェ!!』


『うわぁ~お、びっくりしたぁ〜いきなり叫んでどーしたのよ?』


『ついに、ついに成功した! 俺はついにアレを作り出したんだよ! なんにもないところに物質を生み出す【錬金】を習得したんだよぉ~! あぁ~~頭疲れたぁ~』


『おぉぉぉぉヒロそれってかなり凄いことだよ! 錬金はホントに才能ある人でも何年もかかる魔法なんだから! やっぱりヒロってなんか特別な星の下に生まれてるんじゃない? 転生2日目で錬金習得は多分……レコードだね♪ ニヤリ』


『な、なんか貰えるかな?』


『そーゆーのは無いと思うよ、この世界は。ていうか錬金で出した物ってそれでしょ、何なのそれ?』


『ふふふふふふ、一見ただのラムネ菓子一粒にしか見えんと思うがな……』


『えぇ~? 何なの~その丸いの~?』


『これはな、ポリリスチレンっつったかポリエスチレンっつったかポリスプロピレンっつったかポラリピロプラリレンっつったかよく覚えてないが、とにかく、何かと何かを混ぜて発泡したところをうまく固めて硬すぎず柔らかすぎずのいぃ~感じの弾力を持って生まれた【緩衝材】というものの粒なのだ!』


『ヒロ、よくそんな低レベルな認識で錬金習得できたねぇ。逆に凄いよ! 【イメージ】力が凄いんだろうね~』


『……そんなわけで、もーちょっと実験続けるね♪』


『はぁ~い。がんばってねぇ~~!』


(よし、第一関門突破だ! ついに錬金を習得した! ここからは細かい検証になるけどやることは決まってる。サクサク行ければいいんだけどなぁー。てゆーか、俺が一番懸念してた【この世界に無いものでも錬金できるのか?】については突破できたな。この事実は俺だけにとってめちゃ有利だよなー)


(さぁ検証の続きだ。まずは……)


 ヒロはあらためてフレームを目前の空中に固定し、緊張した表情で、ゆっくりと右手人差し指を近付けていった。

 そして、何の音も衝撃もなく指はフレームの内側に入る。


(よし! フレームはやっぱり只の境界線だ。錬金時でも変わらない! 俺の指はスイスイ通過するし何の抵抗もない! これで第二関門も突破したぞ! さあ次だ。次が大事なんだ!)


 ヒロはフレーム内の指を今度はゆっくりと【白い粒】に向けて近付けて行った。

 白い粒はフレーム内の底面に転がっているように見える。

 上からゆっくりと指を下ろしていく。

 そして指が白い粒に触れた瞬間、“ぷにっ”という感触とともに白い粒の形が潰れ、さらに指を下ろそうとすると心地良い抵抗感の後“くるん”と指の腹を転がってフレームの中に残った。

 そして指だけがフレームを通過した。


(やった! 思った通りだった! 錬金で創造したものはフレームを解除しない限りフレーム内に留まり続けるの法則確定だ!)


(あとは、トドメの検証だな)


 ヒロは再度フレームの前に座り、集中し始める。


(錬金!)


 すると目の前のフレームの中に二つ目の【白い粒】が現れた。

 しかし新しい粒は大きさがひとつ目の倍以上ある。


(よーーーし、完璧だ! 同じフレーム内での複数回の錬金は可能か? はい! 可能でした! そんで何だろう? 同じものでもイメージしやすい大きさに寄せて行ったらよりスムーズにイメージ出来て成功したぞ。最初に創った粒は小さすぎたのかも知れんなー。よし、もう一個創ってみよう!)


 その後もヒロは実験を繰り返し、【錬金】について大体のことを理解した。


■錬金はフレームの中でのみ成功する。

■錬金で創造した物質はフレーム内にとどまる。

■錬金のためのフレームは同時にふたつ以上作れない。

■フレームを解除すると物質は位置的束縛から開放される。

■同じフレーム内で何度でも錬金できる。

■同じフレーム内で何種類でも錬金できる。

■錬金はイメージ力に依存するところが大きい。

■イメージさえ完璧に出来れば存在しないものも錬金できる。

■錬金で創造した物質はフレーム内に有るうちはキャンセルできる。

■一度錬金できた物質は以降簡単に錬金できる。


 そして、気付けば辺りは真っ暗になろうとしていた。


(やばい、今日もまたクタクタだけど、俺にはどーしてもやらなくちゃいけないことがあるんだ)


ピピ


 ヒロは30cm四方の立方体サイズでフレームをつくる。


(光量変化!)


 その瞬間、フレームの中がぼんやりと光った。


テッテレー!


(やっぱり温度変化の時と同じで簡単に覚えられちゃったよ。【変化】系は簡単そうだから思いついたらまた取得しようっと)


 ヒロは光るフレームをスイスイと動かし、真っ暗な洞窟の中に入っていく。

 そのまま最奥に進み天井の辺りに固定すると、洞窟の中全体がぼんやりと照らされて明るくなった。


(ちょっと暗めかも知れないけど、これくらいの方が雰囲気があっていいかもなー。よし、これで照明も手に入った♪)


(ん~っと、次は入り口の蓋だな)


ピピ


(温度変化!)


(よし、今宵は火傷するくらいのイメージで実験だ)


 ヒロは意識的に殺傷能力の低い蓋をつくり入り口を塞いだ。

 そして洞窟の奥に戻り何かを考え始めた。


(ついに今日の集大成を試みる時が来たぞ。この時のためにいっぱい考えて頑張って来たんだ。絶対創ってやるぞぉ~、俺のベッドを!)


 ヒロは宣言するとセミダブルベッドのマットレスくらいのサイズのフレームを生成する。


ピピ


 そしてそのフレームを目の前に固定し、カッと目を見開く。


(錬金!)


 マットレスサイズのフレームの中にポコッとピンポン玉くらいの柔らかそうな緩衝材が創造される。

 すぐさま手を伸ばしフレーム内で触りまくる。


(いいねいいね、サイズも柔らかさも問題ないぞ~)


(さて、あとは、と……)


(錬金!) (錬金!) (錬金!) (錬金!)

(錬金!) (錬金!) (錬金!) (錬金!)


 同じ緩衝材をどんどん錬金していく。

 ステータスを確認するとMPの値が130にまで下がっていた。

 ヒロは構わず続ける。


(錬金!) (錬金!) (錬金!) (錬金!)

(錬金!) (錬金!) (錬金!) (錬金!)


 そうして続けているとMPが上下しながらもズルズルと下がって行き、ついに0になる。


(錬金!)  (!)


(お? 空砲だ。そうか。ジジイが言ってた通り、MPがゼロでも特に体調の変化は無いなぁ。ただ魔法が成立しないだけか。おっとそんなこと言ってる間にMP全快してるわ。この高速MP回復能力はやっぱ最強かも知れんなぁ)


(錬金!) (錬金!) (錬金!) (錬金!)

(錬金!) (錬金!) (錬金!) (錬金!)


 薄明かりに照らされた洞窟の中でヒロは緩衝材を創りまくった。

 2時間ほど創り続けている間にレベルアップの音が一回鳴った。

 そして3時間ほど経った時、創られ続けた緩衝材はフレームほぼ一杯になっていた。


(がーーー疲れた。そろそろ最後の仕上げだな)


(フレーム、収縮!)


 50cmほどだったマットレス型フレームの厚みがゆっくりと縮まり、30cmくらいで停止する。

 体積が小さくなったため、フレーム内は潰れた緩衝材でパンパンになっていた。


(あとは乗りながらの調整だな……)


 ヒロはゆっくりと白いマットレスに座ったり寝転んだりして調整する。


(もうちっと固くていいな。あとすこし……よしこの辺だろ! やった……完成したぁ~…………)


 真夜中に理想のベッドを手に入れたヒロは、あまりの疲れから、あっという間に意識を手放していくのだった。


(うふふ、可愛い顔して寝ちゃったな。ヒロ、おつかれさま。あんまり成長が早いから心配なくらいだけど、ヒロなら大丈夫だよね。これからもよろしくね、お〜や〜す〜み~♡)


 こうしてヒロ達の異世界生活2日目は終わった。





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