1日目 アメノミコトヒメ




チチチチチチチ


チチチチチ



 異世界転生したヒロが初めて立った場所は、森の中の陽だまりだった。

 鬱蒼と蔦が絡まるようなジャングルのような森ではなく、木々の隙間を簡単に走り抜けられそうな森だった。

 あたりを小鳥のさえずりが包んでいる。


「うぅ~~ん。とりあえず無事に転生できたみたいだけど…… そういえば目的地がどことか聞いてなかったなぁ。ここ一体どこなんだよ……」


 辺りを見回すヒロ。しかし人工的なものなどどこにも見えない。


「ひょっとしたら相当人里離れちゃってるのかもなぁ。つーかしばらくひとりで暮らすことになるんだろうなぁ。不安だなぁ」


 慎重に周囲を見渡すが、特に危険な生物の気配は感じられなかった。


「ん~まずは水だな。異世界だろうと三千世界だろうと新世界商店街だろうと何よりも優先すべきは【水の確保】だ。よし、なるべく濁りのない川か泉を探しにいざ、」


『なーに言ってるの! 最優先は【ステ振り】と【レベル上げ】に決まってるでしょ! あなた死にたいの?』


「…………え?」


『だぁ~かーら、まずは【ステ振り】と【レベル上げ】を速攻でやり切らないと死んじゃうって言ってんでしょ~』


「えっ!? えっ!? えっ!? えーーーーーーっ!?」


『ちょ、ちょっと、パニクらないでよ!』


「えーーーーーーっ!? えーーーーーーっ!?」


『そんなにグルグル回っても私は見えないよ!』


「えーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」


『あなた、自分の尻尾追いかけてる犬みたいな感じになってるわよ』


「………………」


『お? やっと落ち着いたみたいね♪』


「声がするのに…… 姿が…… 見えない…… 魔法?」


『あのね、まず基本中の基本ね、私の声はあなたにしか聞こえてないから、あなたもいちいち声に出して会話しなくても頭の中で念じてくれれば伝わるわよ~』


(こ、こうですか?)


『…………』


「あの、念じましたけど…… 届いてませんか?」


『あ~、それは多分ひとりで思ってるだけだわ。届いてないもん。えっとねー、もっと私という存在を意識しつつー、考え事と念話を明確に区別するイメージで話しかけてみてよ』


(えぇ~何なんだよもぉ~)


 ヒロは突然の呼びかけに戸惑いながらもできるだけ【念話】というものを意識してみた。


『こ、こうですか?』


『そうよそれ! できたじゃない! あなた、やればできる子なのねぇ♪』


『ありがとうございます……』


『うんうん♪』


『ところで……』


『うん?』


『あなたは誰すか?』


『おぉ~っとそうだった、時間も勿体ないから簡単に自己紹介するね♪ 私はあなた…… えーっとヒロって呼んでもいいかな? ヒロの、脳の空きスペースに住まわせて貰ってる【神様】なの! ヨロピコで~す☆ まぁ【神様】って言っても、ヒロがさっきまで長々と話してたあの手の公務執行系とは違って、もっと昔のってゆーか、もっと【オリジナルに近い神様】なの。昔ね、神様の世界でね、【神々の辟易した黄昏の陰々滅々とした嗚咽】って呼ばれてる、過去最大にして最悪の戦争があったのね。私はその戦争でめっさ活躍したんだけどさ、最終的にはやられちゃったってゆーか、私は今でもやられたとは思ってないんだけどぉ、とにかくジュワッて感じで消滅させられちゃったの。でもね、私はすんごい強かったし頭も良かったから、ジュワッの直前に賭けに出てさ、肉体的な概念を捨てて予め懐に忍ばせてた【業務用神モデム】を経由してさ、【神ネット】の中に意識だけ逃げ込んだのよ~ 今でこそ脳コピペとか脳インストールとか当たり前になってるけどさ、当時はそんな事例もちろん無くて、自慢じゃないけど初よ。私が初。もちろん非公認だけどね、エヘ♪ そんでね、【神ネット】への逃亡は成功したんだけどさ、なにしろ当時は脆弱なネットワークでさ、主要機関のバックアップサーバーに潜り込んだり無数の端末に分割して隠れたりで、も~大変だったのよー。そんで、ここ五百年くらいになってようやくよ。悠々自適に【神ネット】内で暮らせるようになったのは。そんで、そろそろ熱りも冷めた頃だろうから、私も肉体ってゆーか実体を手に入れて復活するために機を伺ってたの。でも中々いい中継宿主が現れなくてさ、“ん~このまま当分の間は機を伺い続けるのかなぁ”って思ってたらヒロが現れた訳なのよ。普通はさ、神が人に勝手に定着するのって結構難しいのよ。セキュリティソフトとかあるからさ。でもヒロの担当神がなんか慌ててノーセキュリティでネット接続したでしょ? すぐに思ったわよ、“三十分あればイケる!”ってね。そんな訳で無事に定着できたんで、これからパートナーとしてヨロしくね、ヒロ♡』


「………………」


『あれ? 聞こえてなかった? も一回説明する?』


『いやいやいや、いいです。大体わかりました』


『よしよし、いい子だねぇ』


『ですが神様、俺に【定着】したって言ってましたよね。これっていずれは俺が神様に体を乗っ取られるってことなんですか?』


『ん~ちょっと違うよ。あと私の名前は【アメノミコトヒメ】。長いから【ヒメ】って呼んでね。えーと、私がっていうか、肉体を奪われた神、まぁ戦いに敗れた神のことなんだけどさ、そいつらが復活するには、まず【人間の器】に宿って延べ千年生きなきゃいけないのよ。普通の人と生活を共にしてね。そうやって千年過ごすのが復活の大前提。そこから改めてなんだかんだを経て【神関門】を攻略すると、やっと本来の神的な肉体を再入手できて【神の末席】に戻れるの。ただ、わたしの場合は【神裁判】を避けてネットに逃げ延びた立場だから堂々とやる訳にはいかないんだけどね。まーとにかくヒロ、私と一緒に千年生き延びてくれれば、私は【神関門】に向かえるっていうウィ~ンウィ~ンな関係なのよ! わかってくれた?』


『……つまり俺は、俺が俺であるために的な【俺】を維持したまま、意識を保っていけるって事なんですね?』


『正解! その上こんなにきゃわゆいヒメたんといつも一緒のラブラブライフ付きよぉ〜』


『でしたらヒメ様……』


『なによもぅ、パートナーなんだから【ヒメ】でいいわよ。あと敬語もやめてよ~』


『だったらヒ、ヒメ、……』


『なぁ~に? ヒロ?』


『俺、実は、千年も生きられないんだけど…… 知ってた?』


『あ〜そーゆーことは全然気にしなくていーから。世界には千年以上生きる生き物なんてウジャウジャいるのよ。長寿には長寿のちゃんとした理由があってね、人間がその仕組みにあまりにも気付いてないってだけなのよ。まぁ人類全てを種として長寿にすんのはムズ過ぎるけど、ヒロひとりだったらいくらでも方法があるわ。ま〜まかせといてよ!』


『……お、おぅ、もう、どの道引き返せそうにないっぽいから受け入れるよ。……よろしくね、ヒメ』


『あ〜い♡ んじゃ話を戻すね。最初に言ったけど、今、真っ先にやらなくちゃいけない事は【ステータス強化】なのよ。それはヒロのステがレベル1って事もあって低すぎるからなの。なんにも触ってないレベル1ステだから、ひょっとしたら【ビッグラビット】の体当たり一発でも死んじゃうわ』


『そーなのか……』


『そーなのだよ。だからまずは【ステ振り】ね。確か200ポイント未使用だったよね、ヒロはそれをまず自分が思うように割り振っちゃって♪』


『え?』


『ん?』


『なんかアドバイスとかさ、ヒメの都合のいいように誘導するとかさ、失敗しないステ振りはこれでキマリ! 的なやつとかさ、そんなの無いの?』


『あーそゆのね、無い無い。気にしないでいいよ、ヒロの人生じゃん、ヒロが決めなよ。もし失敗したかもなぁみたいになっちゃっても素よりはマシだしさ、んで早くステ振っちゃってレベル上げに移りたいんだよね〜』


『なるほど分かったよ。じゃあちょっと待っててね!』


『は〜い♪』


 ヒロはステータスを開いた。




pt:200


Lv:1

HP:100

MP:100


STR:10

VIT:10

AGI:10

INT:10

DEX:10

LUK:10




(う〜ん、こうやって見ると平らすぎぃーの低すぎぃーので何の将来も見えて来ないステだなぁ。まぁレベル1だし当たり前かー。スキルとか職業とかも有るんだかどーだか分かんないしなー。でもまずはやっぱ【魔法】だろ。思ってたのとはちょっと違ったけど、あれは極めてみたい。そうすっと、MPかINTは必ず上げるとして、あとはジジイ神が言ってたHP問題をなるべく軽減する為にHP、耐久もしくは素早さあたりかなぁ。どうすっかなぁ。よし、とにかくまずMPを上げてみっか!)


 そう決意したヒロはスクリーン上の【MP】の文字に目をやった。左詰めで表示されているのでスクリーンの真ん中から右にかけてはやたらだだっ広く空いている。


(こーゆーのって、文字左詰めの全体中央寄せにして欲しいよなぁ。すげー左に寄っちゃってて見辛いし……)


 細かい事をブツブツ言いながら【MP】の文字を選択する。

 するとピロンという効果音と共に【MP】の文字が行ごと選択されて明るく光り、中央に[MPを変更しますか?]と書かれたダイアログボックスが出現した。

 そのまま何の気無しに【はい】を選択しようとしたヒロだったが、次の瞬間……


(ん?)


(なんだ? 【MP】の行の右端の方に、よぉ〜く見るとすこ〜しだけ色の違う点があるな。いや、よく見りゃ全部の文字の右端にあるっぽいぞ。薄すぎて全然気が付かなかったけどこれってデザインなのかな……)


 【はい】を選びかけていたヒロは一考してから【戻る】を選択。

 すると小窓も消えて【MP】行のバックライトも光を失い、元々のステータス画面に戻った。


(あれ? 俺の見間違いかな? 確かこの辺に……)


(あった! 何だこの点は。気をつけて見てやっと認識できるくらいだ。これって意味があんのか? 無いのか? わかんねーけど、とりあえず意識してみるか、よし!)


ピロン


 そこに現れたダイアログボックスには


[初回特典ルーレット。200ポイントを使用し【MP】の追加ステータス・スペシャル・ルーレットをします?]


 と書かれていた。


(こ、これって喜んでいいやつだよな。初回特典とかスペシャルとか、どー考えたって激レアモード突入のドラが鳴ったよな。ステータススペシャルルーレットってステータスとスペシャルとルーレットのしりとりみたいになってるし、アナグラムかなんかって気もする。しかしルーレットってーのが気になるわぁ。当然当たり外れがあってカスみたいなモンになるかも知れんだろうし…… 何より怖いのが持ちポイント全部賭けってとこだ。ステが全く上がらん。血も涙もない。それとちょっと気になるのはこの小窓の選択肢が【はい】と【やらない】ってところだ。なんで【戻る】じゃないんだ? 【MP】の時は【戻る】だったじゃないか。ここで【やらない】を選択しちまったら、このステスペルーチャンスが二度と巡って来ないとも取れる。この微差とも言える変化が臆病な俺をこの場に縛り付けやがる。どうする、どうする俺!!)


『ちょっとぉ〜なーにやってるのよヒロ〜。そんなにステ振りって難しいの?』


『って、え? ヒメはこの画面が見えてないの?』


『さっきまでは初期設定の確認がてら見まくってたけどさ、ステ振り開始のタイミングで見えないようにしたんだ~。ほら、プライバシーの尊重ってやつ? 大事でしょ? これから長い付き合いになるんだしさ♪ まぁ、そもそも私はヒロの脳内生活者なだけで、別にヒロの五感神経と接続してるってわけじゃないからねー 今後はとりあえず楽しい念話が出来るように意思疎通用の回線をちょっと繋ぐだけで、どっちかが働き掛けない限りオフラインよ。ねぇ、なんかあったの?』


『そ、そうなのか。あ、ヒメってさ、ステータス画面の裏技とかに詳しかったりする、かな?』


『ん~、知らないってわけでもない程度には知ってるけどさ、そこは自分で考えた方が楽しいんじゃないの~?』


『了解だ、もうちょっとだけ待っててくれ』


『急いでよね! 私結構マジで言ってるんだけどなぁ』


『はいはーい』


(ヒメは手取り足取りの世話女房タイプじゃなかったか。こりゃもうしょうがないわ。行ってみよう。どっちみちこの後レベル上げするって言ってたしな。何とかなるだろ。よし!)


 ヒロは決意して小窓の中の【はい】を選択した。


ピコピコピーーーーーーーーーーン!!!


 すると、【MP】の行の下に新たな行が追加され、1行ルーレットが回転し始めた。

 ボタンは何も書いてないものがひとつしか無い。

 ヒロは仕方なく、そのボタンを選択してみる。


ズキュゥーーーーーン!


(なんかいちいち効果音が腹立つなぁ)


 暫くすると高速回転していたルーレットの速度が明らかに落ちてくる。


 固唾を飲んで凝視するヒロ。


 すると……


シャキィーーーーン!!


テッテレー!


 効果音とともにそこには


【MP自動回復】


 というステータスが追加されていた。

 そして間髪入れず右隣に第二の1行ルーレットが出現し、回り出す。


 形もボタンも同じだったため、ヒロはもう迷う事なく選択する。


ズキュゥーーーーーン!


 回転…… 回転…… 回転…… 停止。


シャキィーーーーン!!


テッテレー!


【1秒10%回復】


 ヒロは今後千年に渡るかも知れない異世界生活の初日に、とんでもないチートステータスを手に入れてしまったのだった。





『ヒメただいま!』


『もぉ~やっと戻ってきた! どんだけ長考するのよ、面前清一色でもハッてたの?』


『(……こいつは本当に神様なのか……)ちょっとプチトラブルに見舞われてさ、でもまぁ済んだよ。さぁレベル上げしよう!』


『まぁいいけどさ、ねぇねぇ、なに強化したの?』


『うぅ~~んとね、【MP自動回復】』


『えぇ? 【MP自動回復】なんてステにあったっけ?』


『まぁ無かったんだけどさ、……出てきた♪』


『出てきた? へ~ まぁいいわ。目の付け所は悪くないわよ! で、どんだけ強化したの?』


『うーんそれがさ、なんか連続した数値でもないし文章ぽいっちゃあ文章ぽいからさ、どれくらい強いのかは良く分からないんだけど……』


『えー? なんて書いてあんのよ?』


『えっと、……【1秒10%回復】』


『……ッエエエーーーー!!!』


『そ、そうだよな、やっぱ凄いんだよな、この数値』


『つーかそれってヒロ、MAX値だよ、多分!』


『えええええ!?』


 そんなこんなでステ振りの結果確認も一段落し、ヒロは改めて自分のステータス画面を見つめるのだった。




名前:ヒロ

種族:人間[ヒト]


pt:0


Lv:1

HP:100

MP:100

MP自動回復:1秒10%回復


STR:10

VIT:10

AGI:10

INT:10

DEX:10

LUK:10




(うーむ、改めて見るとほんとーに弱そうだな。これでどうやってレベル上げすんだろう)


『さぁーてやるわよ~♪』


『なぁヒメ、この弱々なステでもできるレベル上げってどんなの?』


『いい質問ねヒロ。難しいわよ。そもそもね、いい大人になってレベル1の人間なんて、この世界にはいないの。当然よね。この世界のレベルは日常生活でも少しずつは上がるんだからさ。田舎町の農家のおじさんだってレベル30くらいあったりするのよ。小さい子供でも10はあるんじゃないかな。大体ね、魔物を倒さず一般民として普通に生きる人で、三十歳くらいまでは【年齢=レベル】って言われてるみたい。ただレベルの上がり方も厳しくなってくるから普通の生活してたら30くらいが頭打ちみたいだけどねー。あ、もちろん魔物討伐が前提で、日々鍛えている冒険者とかだったらレベル100以上の人も居るんじゃないかな。まぁざっくりした情報だけどね』


『てかヒメ、神ネットに引き篭もってたキミがなんでそんなにこの世界に詳しいんだよ。ヒメだって初めてなんだろ?』


『あぁ~引き篭もってた期間に暇すぎたからさぁ、神ネットで得られる情報とかテキトーに覗いてたし、正直ね、いろいろ変化をつけながら実験みたいなことしてるっぽいけどさ、どの世界も初期テンプレは似たようなもんなのよ。お役所仕事ね~ それと……これは言うべきかどうか迷ってたことなんだけどさ、』


『うん?』


『私って神なもんだからさ、今いる世界の基礎値みたいなのがうっすら分かるんだよね。まぁうっすぅ~ら……だけどね』


『ふーん。そんなもんなのか……』


『ささ、レベル上げよね。当たり前の話から入るけど、ヒロのレベルを上げるには、ヒロがステータスのどれかを刺激するような経験を積み続けるか、【経験値の宝庫】とも言われる魔物を倒すか、この二択しか無いの』


『ふむふむ』


『で、前者を選択すると多分、レベルが上る前に死ぬわ。弱過ぎて。そして時間掛かりすぎて……』


『だろうねぇ』


『だから危険な賭けだけど魔物討伐一択となります。そしてその魔物をどうやって倒すかなんだけどねぇ』


『やっぱ【魔法】?』


『正解。ステ的な優位性がもうMP回復しか無いんだから【魔法】しかないわね』


『なんかジジイ神がさ、“魔法は【イメージ】すればおぼえられる”って言ってたんだけど……』


『そうみたいね~。だからヒロには今から時間をあげるから、最悪でも1時間以内には【ある程度の攻撃力を持った魔法】を身に付けてほしいの。その辺りの成否が私達の未来の分岐点になると思うから』


『よし分かった。さっそく始めるよ!』


『がんばってね! ヒロ!』





 ヒロの、レベル1からの修行が始まった。


(よーしまずは確か【フレーム】だったな。とりあえず目の前の石とかでやってみようか)


 ヒロは1メートルほど離れた前方に有るカボチャくらいのサイズの石を凝視した。


(フレーム!)


ピピ


(おっ頭の中で音が鳴って、石の辺りに赤いラインが出てきた! でもなんかガタガタ動いてんなー。よし、集中だ! …………)


ピピ


(おぉ! 今度は石自体を囲むように赤いラインが広がったぞ。でもなんかガタガタだし全然安定しねーなー。よし、距離の実験だ。離れても同じ事が出来るか……うわっ全然駄目だ。3メートルくらいで、もう赤いラインすら出やしない。これ結構【フレーム】だけでも大変だなぁ)


 それから十分が経過した。


ピピ


(よーしよーし、止まってる物質なら5メートルくらいは離れても【フレームロック】できるようになってきたぞ。まぁ形はキューブだけど…… あと距離はかなりシビアだけどサイズは関係ないみたいだな。同じ距離なら大小関係なく同じように作れるし)


 さらに十分が経過した。


ピピ


(もう止まってるものなら正確に囲えるな。ただ距離は5メートル以上伸びないなぁ。ひょっとしてこれってステが上がんないと伸びないのかなぁ)


 さらに十分が経過した。


ピピ


(よーし、物の形にとらわれずに赤ライン引けたぞ! まだ単純なフレームしか作れないけど結構思った通りのサイズの赤ラインが、思った通りの場所に出せるようになって来た!)


 さらに十分が経過した。


ピピ


(どうやら距離は完全にステ依存だな。現状じゃ5メートルくらいが限界っぽい。あと赤ラインの安定感とか造形の細かさもステ依存っぽいなぁ。動いてるものは全然タゲれないし。あと今だと大体5秒くらいでできるけど、レベルが上がれば瞬時に【フレームロック】! みたいになんのかなぁ。とりあえずシンプルな形なら5秒5メートル以内で出来るようになったぞ。よし、【フレーム】の練習は一旦ここで終わっとこう。さて、次はついに【変化】の練習だ)


 ヒロは最初のカボチャサイズの石の前に戻って考え始めた。


(ジジイ神の話では確か、フレームで囲んだ中の状態を変化されるのが【魔法】だって言ってたよな。つまりこの石だとフレームで囲んで……)


ピピ


(温度上昇!)


 ヒロは心の中でフレームの中の温度が上昇するように【イメージ】した。

 すると……


テッテレー!


 頭の中に小さく短いファンファーレが鳴る。


(え!? まさか今ので【魔法】習得しちゃったんじゃねーの?)


 慌ててステータスを確認するヒロ。そこには……




名前:ヒロ

種族:人間[ヒト]


pt:0


Lv:1

HP:100

MP:100

MP自動回復:1秒10%回復


STR:10

VIT:10

AGI:10

INT:10

DEX:10

LUK:10


魔法:【温度変化】




 【温度変化】の【魔法】が追加されていた。

 ヒロがこの世界で初めて【魔法】を覚えた瞬間だった。


(やった、やったぞ! 【温度変化】の【魔法】覚えた! 一発で習得するなんて俺天才なんじゃないのかな。既に隠しジョブとかで【賢者】とかになってんじゃねーの?)


 浮かれるヒロ。


(よーしそれじゃあ後は効果の確認だ。この石は……さわっても火傷しないかな? どれくらい熱くなってんのかな…… 指先だけそぉ~っと近付けて……)


(あれっ? 全然熱くないぞ!? どーゆーことだよ! 【魔法】は習得したけど効果が出ないってそんな…… よし、今度は集中しまくってやってみよう!)


 ヒロは改めて石の前に立ち、集中し始めた。


ピピ


(温度上昇!!)


(今度はどうだ! ……あ、上がってる! 石の温度が上がってる! つーかまだ【あったか~い】ってレベルだな。マジかよ! こりゃ攻撃力なんて言えるもんじゃねーな。練習しないと!)


 それから暫くの間、ヒロはより高い温度を目指して【魔法】を【イメージ】し続けた。


ピピ


(温度上昇!!!!)


ピピ


(温度上昇ーーー!!)


ピピ


(温、度、上、昇ーーー!!)


ピピ


(温度上昇! 温度上昇! 温度上昇!!)


 そしてまた十分が経過した。


(うし、大体分かったぞ。【変化の強さ】は【フレームの体積】と密接に関わってるな。フレームの体積が小さいと【同じ強さの魔法】でも効果が上がるみたいだ。実際、カボチャ岩サイズだと最高に集中しても【熱々】くらいにしかならなかったのに、ピンポン玉くらいの石で同じ事をやったら範囲内の土から水蒸気が上がったもんな……)


(よし、とりあえずレベル1なりには習得できただろう。報告すっか)


『ヒメ~とりあえずひとつおぼえたよ~』


『おっそーい! もうほぼ1時間使っちゃったじゃなーい。ぷんすか!』


『えと、1時間経つとなんか深刻な事が起こるとかだった?』


『いや別に特にはないけどさ、強いて言えばほら、太陽見てみて。あの感じだとあと3~4時間くらいで暗くなりそうでしょ? それまでに光明を見い出しとかないとね、私達マジで死ぬから。冗談じゃなく死ぬから。死んだら終わりだからねぇ~教会行って金払ってふっかーつ! とか無いからねー』


『わかったわかった悪かったよ。でも大体分かったんだよ、レベル1で出せる攻撃力が』


『ほぅそれはどんなもんかしら? 期待はしてないけどねー』


『5メートル以内に居る5秒以上動かないピンポン玉くらいの敵なら熱で倒せそうだぞ!』


『うーーん、それなら普通に靴で踏んでも倒せそうね』


『!!!気付かなかった! ……なんてこった……』


『まぁまぁ、そんなに落ち込まないの! ちょっとからかっただけよ。確かに強力ではないけどね、足で踏むよりは遥かに安全に使えると思う。改めて言うけどね、魔物に生身で挑むって行為は本当に危険なの。例えそれが最弱の魔物だったとしてもね』


『そ、そうなんだ』


『特に今の私達は防御力の低い装備な上に武器無し。ステも軒並み最低。回復ポーションも食料も無し。こんな裸一貫の“おおおおにぎりが好きなんだな”みたいな状態で魔物の巣食う森の中に放置されて既に1時間くらい。今まだ生きてることが奇跡に思えてきたでしょ』


『たしかに』


『というわけで何としてもヒロの魔法で魔物を倒しましょう。まず狙うのはズバリ、【グングニル毒ガエル】って名前の魔物よ』


『グングニル毒ガエル?』


『説明するわね。このカエルは【森の地雷】とも言われていて、大きさこそ人の拳くらいなんだけど、森の中の苔の中に紛れてじっとしてるの。それで、動物が通りかかって跨いだり踏んづけたりすると、槍みたいな形の猛毒のトゲを真上に飛ばすのよ。小動物程度じゃ即死。人間の死亡被害もたまに届けられているくらいの魔物よ』


『こ、怖っ』


『確かにね。でも気づいた? そうなのよ。この魔物はヒロと相性がかなりいいわ。サイズも小さいし動かない。苔に潜んでる時も背中のセンサーは上を向いているから横方向への警戒は薄いの。いい? まずはこのグングニル毒ガエルを乱獲するわよ!』


『あいあいさー!』





 ヒロたちがグングニル毒ガエルを探索し始めてから1時間が経った。


『なかなか居ないね、グングニル毒ガエル』


『そうね、苔は見つかってもカエルは見つかんないわねぇ~』


『タゲ変える?』


『いやいや、まずはカエルよ。他にも候補は居るけどカエルに比べると条件が厳しいわ。最初の最初だから無謀な賭けには出たくないのよ。まだ明るいからさ、もうちょっと探…… ヒロ!』


『おーーー、あのこんもりしてる部分のアレか?』


『そうそう、間違いないよ、グングニル毒ガエル、ついに遭遇よ~』



■グングニル毒ガエル

カエル型の魔物。苔に潜んで毒のトゲを飛ばす。

体長:10cm

体重:200g

備考:森の地雷と言われている。



『よっしゃあ確認オーケー、後は任せとけ。慎重にほふく前進で近付いて確実に倒しちゃる!』


『あん、おまえさん頼もしい。気をつけておくんなましよ~♪』


 ヒロは内心、(神ってみんなノリがいいなぁ……)などと思った。


(出来るだけリスクを回避しないとなぁ。よし、5メートルギリギリから倒そう)


 そう考えたヒロは目標のカエルまであと8メートルほどのところで静止する。

 ゆっくりと腰を下げ、音もなくうつ伏せになるヒロ。

 ほふく前進でさあ近付くぞと動き始めたその瞬間、ヒロの目前50cmほどのところの苔が少しだけ揺れた。


(ヒッ!!!)


 そこには別の【グングニル毒ガエル】がモゾモゾと動いていたのだった。





(………………)


 それからヒロは3分かけて3メートル後退していた。

 “それはそれはゆっくりとしたほふく後進だったわ”と後にヒメが証言している。


(あ、あ、あ、あぶねぇぇぇ…… マジで死ぬかと思った。マジで死ぬかと思った。マジで死ぬかと思った。いやほんとに森ってこえーわー。よし、もう少し下がろう)


 更に少し後退して第二のカエルまでの距離を4メートル確保した。

 息を整えゆっくりと準備を始めるヒロ。


(さぁ、改めて仕切り直しだ。見てろよぉーカエルめー)


 5秒ほどの静寂の中、ヒロの脳内に電子音が響いた。


ピピ


(温度上昇!)


グゲェェェェェ……グゲェ……


 特に華やかなエフェクトもかっこいい音も無いまま、グングニル毒ガエルの呻き声だけがおぞましく響く。

 体からシューシューと水蒸気を吹き出しながらカエルはもがき苦しんでいた。

 そしてヒロが10秒ほど温度上昇を念じ続けていたその時であった。


タララランタッタッター!


 めちゃくちゃ聞き覚えのある、そしてちょっとだけ違っているようなファンファーレが頭の中を駆け巡る。


(これはどう考えてもレベル上がっただろう。確認だ!)




名前:ヒロ

種族:人間[ヒト]


pt:50


Lv:2[1up]

HP:100

MP:100

MP自動回復:1秒10%回復


STR:10

VIT:10

AGI:10

INT:10

DEX:10

LUK:10


魔法:【温度変化】




(よーし! レベル上がった! ポイントも50入ってるぞ!)


『ヒメ~レベル上がったよ~。ポイントも50入ってた。これって勝手にステ振りしちゃっていいのかな?』


『きゃーおめでと~! これで第一段階突破ね! ここからは道を踏み外さないように慎重に進んで行けば何とかなる筈よ! ステ振りはヒロが思うように自由にすればいいわよ~♪』


『わかった~』


(よーし。レベル2だ。もう当面の間は【魔法】で行くしか無いな。そう考えるとやっぱ【INT】の影響は大きいに決まってるよな。あとは【DEX】とか【AGI】が【魔法】に関わってるのかもいずれは検証してみたいなぁ。でもまぁ、今回は迷わずこうでしょ)




pt:0/50


Lv:2[1up]

HP:100

MP:100

MP自動回復:1秒10%回復


STR:10

VIT:10

AGI:10

INT:60[50up]

DEX:10

LUK:10


魔法:【温度変化】




 ヒロ人生初のステータスポイントは全て【INT】に注がれた。

 そしてヒロは再びほふく前進の姿勢を取る。

 最初に見つけたグングニル毒ガエルはまだ動かずにそこに居た。

 既に一匹倒していることもあり、大きな緊張はない。

 むしろひとつの成果を得たことに興奮し、ワクワクとドキドキが交互に脳内を駆け巡る。

 ヒロは人生で一度も経験したことが無いほどの【成長する喜び】に夢中になっていた。


(まずは同じように倒して【INT60】がどれほどのもんか確認しないとな。よし、行くぞ)


 5秒経過。


ピピ


(温度上昇!)


グゲッ グェェェゴ……


(早い。明らかに早い。威力が数倍位に跳ね上がった感覚だ。これは使える!)


『おーっ! 今度は早く倒したねぇ~。凄いよヒロ~頼りにしてるよん!』


『ありがと。流石に続けてのレベルアップは無かったね。とりあえず今日は暗くなるまでひたすらカエル討伐にしようか』


『うん、それでいいと思うよ!』


『あとヒメさ、』


『ん~なになに?』


『ずーっと俺の行動とか景色が見えてるみたいだけど、どうやって見てんの? 確か俺の目は使ってないんだよね?』


『あ~それねー。なんて言ったらいいのかなぁ~。あのね、ようはレーダーみたいなもんかな。けっこー広い範囲の視覚情報みたいのがイメージできるんだよ。それなりに綺麗にフルカラーで。あと遠くの景色も集中すれば見えるよ。神感覚ってやつかなー』


『そうなのか。だったらいちいち説明しなくても風景とかが共有出来てるんだね~。良かったよ~』


『も~ヒロったらやさしいんだから~。ありがと♡』


『い~え~』


 ヒロ達は日が傾き始めた森の中を慎重に歩いていくのだった。





 1時間ほどが経過した。

 辺りはもう夕方と言ってもいい状況となっていた。

 あれからヒロは【グングニル毒ガエル】を9匹倒してレベルは4になっていた。




Lv:4

HP:100

MP:100

MP自動回復:1秒10%回復


STR:10

VIT:10

AGI:40

INT:100

DEX:50

LUK:13




 【HP】や【VIT】こそ率先して上げないといけないんじゃないだろうか、という罪悪感に襲われながらも頑固一徹【INT】を上げて100にした。

 そして【AGI】と【DEX】の実験を行い、【魔法】にもこれらのステが影響していることをつきとめていた。この賭けとも言える実験の結果、ヒロの魔法は一発目に比べると飛躍的に使い勝手が良くなっていた。少なくともカエルに関しては瞬殺出来るほどに。

 ヒロはこの数時間で、10m以内のゆっくり動くスイカくらいのサイズの敵なら3秒以内に倒せるようにまでなっていた。


(さて、レベル上げはこのくらいにして、ここから考えなきゃいけないのはこの後迫ってくる【夜】をどう乗り切るかだな)


 カエル狩りの移動途中で手頃な清流を見つけたので飲み水に困ることは無くなったが、食料は全く確保できていない。

 その上回復手段を持っていないため、大きなダメージを受けてしまったら【死】が身に迫る。

 なんとしても安全に夜を越せる方法を見つけなければいけないという焦りが、ヒロの脳内で見えない湯気となり溢れていた。


(どうしよう。こんな時、耳無しネコ型ロボットが同行してくれてたら“グランピングカプセルゥ~”とか“イツツボシホテルゥ~”とか言って便利な宿泊施設をパッと用意してくれるだろうに…… 俺が【安眠を確保するための魔法】を考え出さないと旅は苦しくなるばかりだ。せめて魔法で安全な空間でも作り出せたら眠ることも出来る。なんとか洞窟みたいなものを作り出せないかな……)


『はぁ……』


 ヒロの口から思わずため息が漏れた。


『なになに、どーしたの? 心配事?』


『うん、もうすぐ日が暮れるだろ? そしたら辺りは真っ暗だ。真っ暗になる前に安全に眠れる場所を探したいんだけど、そんな都合のいい場所がこんな森の中にあるとは思えなくてさ。【魔法】でなんとか出来ないかなぁと思ってたんだけど、いいアイデアが浮かばないんだよ……』


『あ~そーゆーことね、えっとね、そろそろ言おうと思ってはいたんだけどね、私のサーチ能力で小さい洞窟なら見つけてあるんだ~。ここから北西に五百メートルくらいのとこだよ!』


『もっと早く言ってよ!!』


『ひぃ~ん、ごめんなちゃ~い』


『まったく…… じゃあ急いで向かおう!』


『はぁ~い♪』


 具体的なスペックこそ全く分からないものの非常に役に立つヒメのセンサーに内心感謝しつつ、ヒロは北西を目指して歩いた。

 辺りはまだ森ではあるが、北に行くほどゴツゴツとした岩が点在するようになり、わずか五百メートルの移動でも景色は岩場の様相に変化していた。


『ふぅ、やっと着いた~。なかなかいい感じの洞窟だね♪』


『奥行きも無くて小ぢんまりしてるとこがいいでしょ~?』


『どれどれ?』


 ヒロが覗き込んで洞窟を確認する。

 開口部は縦横1mほどで、中に入ると広くなっており、大きめの車庫くらいのスペースだった。


『ちょっとこれでも広めだとは思うけど……いいね、ここを拠点にしよう!』


『気に入ってくれた? わ~い。うれすうぃ~な~♪』


『あとさ、大事な相談なんだけど、この洞窟って【魔物】に襲われたりすると思う?』


『う~ん。そうだねぇ~ 可能性はもちろんゼロじゃないけど、入り口が小さ目だし外から見るとあんまり目立たないから大丈夫なんじゃないかなぁ~。多分ね、多分』


『全然安心できないアドバイスだな』


『まぁ、欲を言えばキリがないっしょ。森の中で身を晒して寝るよりは遥かに安全だしね~。後で枯れ落ちた枝木でも拾って来てさ、入り口に並べて蓋でもすれば更に安全性アップするんじゃない?』


『あぁ、それはいいアイデアだな。入り口に蓋……』


『ん? どしたのヒロ?』


『ちょ、ちょっとここで【魔法】の練習していいかな?』


『へ? もちろんいいよ~。がんばってね~!』


 洞窟奥でひとり佇むヒロ。

 ちょうどいい段差があったため久しぶりに座ってみると、ずっと続いてきた緊張と興奮の繰り返しで身も心も疲れ果てていることを自覚する。

 10秒ほど目を瞑ると猛烈な睡魔に全身がさらわれそうになり、慌てて考える事を再開する。


(入り口に蓋するってかなりいいアイデアだけど、その【蓋】、俺の【魔法】で作れないかな?)


(なんとなくだけど出来そうな気がするんだよな)


(まずはあの入り口のサイズ…… 1m四方くらいの面に対して厚さ5cmくらいの、厚めの板みたいな立体をフレームで作るだろ……)


 スクリーン越し。

 洞窟の入り口に厚さ5cmの壁が赤いラインで描かれる。

 【フレーム】が生成され固定された。


(この中に【魔法】を通せば……温度上昇!)


 中には空気しか無いフレームのため温度が上昇しているのかどうかよく分からない。

 そこでヒロは【魔法】を掛けたままにし、近くに落ちていた枯れ葉を持って歩き出す。

 入り口にまさに蓋のように固定されたフレームに近付き、枯れ葉の先端をフレームに突っ込むと……


ジュボッ


 枯れ葉の先端はすぐに灰になった。

 しかし不思議なもので、フレームギリギリまで指を近付けても全く熱くならない。

 どうやらフレームは人知を超えた境界線であり、フレーム内の【変化】が外に影響することは無いようだった。


(フレームはロックしたから動かないとして、あとは【魔法】がずっと持続できれば完璧なんだけどなぁ)


(よし、やってみるか……)


(温度上昇! 解除の命令までこの魔力量で【魔法】固定!)


 1分後。


(……どうだろ? うまくいったのかな? パッと見変化ないみたいだけど……)


(魔法が掛かり続けてるかが心配だなぁ。……あ! そうだ! ステータスオープン!)


(おぉぉぉ、凄いことになってるなぁ~)


 ヒロが見たのは目まぐるしく一部の数字が変化し続けているステータス画面だった。


MP:100


 となっていた数値が少し減ったかと思えば100まで戻るという変化を繰り返している。


(そうだ。これは【俺だけの魔法の使い方】なんだ。1秒間にMP10%回復するんだから、逆に言えば1秒間にMP10%以内の消費量なら無限に魔法が使い続けられるってことだ。既に俺が魔法を念じてないのにMPの数値が変動し続けてるってことは消費が進んでるってこと、つまり、【魔法の持続掛け】が成功してるってことなんじゃないのか?)


 いろいろと思考を巡らせて、もう一度枯れ葉を拾い、試してみる。


チリチリチリ……


(あれ? さっきより弱いな。明らかに温度が下がっちゃってるよ。これって調整できんのかな……)


 改めてステータス画面のMPの数値を見ながら魔力を調整するヒロ。

 既に持続中の魔法でも、イメージすることで介入調整ができた。


(ジジイが言っていた通り、やっぱこの世界の魔法には【イメージの正確さと強さ】が大事みたいだな~)


 意識をさらに集中させて挑むこと暫く。ヒロはついに【消費しながら回復するMPのバランスが安定してギリギリ回復寄りのポイント】を見つけて固定することに成功した。


(よし、コツが分かってきたぞ。さぁMP上限100の持続限界魔力量だとどれくらいの威力になるのかなぁ)


 再度枯れ葉を拾い、試してみる。


チリチリチリ……


(……ん~まぁこんなもんか。微妙に上がった気もする。あとは……あ! そうだ。よし、フレームのサイズダウンだ。これで魔力の消費量を変えることなく威力を上げられるはず!)


(フレームサイズ変更!)


 念じながら厚みを5cmから1cmほどになるようイメージした。


(よし、薄くなったぞ。全体的な位置も角度も変わってないし、成功だ♪)


 再度枯れ葉を拾い、試してみる。


ヂヂヂヂヂヂ


 その落ち葉はフレームに入った途端、跡形もなく消失した。


(これはかなりの威力になっているなぁ。あとはこのまま放置して一旦休憩しよう)


 ヒロは洞窟の奥で出来るだけキレイな場所を探し、そこにゆっくりと横になった。

 瞬時に意識は刈り取られ、深い眠りにつく。

 異世界時間午後8時。

 転生前の世界だと、あり得ないくらいの早寝だった。





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