異世界へ




「……う……ここは?」


 比呂が意識を取り戻すとそこは、360度どこを向いても只々真っ白な何もない空間だった。

 そして問題の老人が目の前に佇んでいる。


「いやぁ~、間に合って本当に良かったわい。あとちょっとで酸欠により脳が損傷し始めるところじゃったて~。せっかく選ばれたんじゃから【仮の】とはいえ命は大事にせんとな!」


「…………」


「ん? もう仮登録部屋に移動しとるんじゃから痛くもなければ眠くもないじゃろ?」


「あ…… 俺…… 死んでない……?」


「そうじゃ凄いじゃろ! お主は死ぬ間際にワシに見出されて現在仮保存の状態にある選ばれし民じゃ! あとはお主の気持ち次第で新たな人生を歩み始めることが出来るんじゃぞ! 嬉しいじゃろが! いやぁ~礼には及ばんぞ~。ん? どうした?」


「え……と、まず…… あなたは誰ですか?」


「いい質問じゃ。ワシはお主の元いた世界で言うところの、まぁ【神様】的な存在じゃ♪」


(……神様て! ……ん? でもまぁ、この見渡す限りなんも無い真っ白な空間といい、見渡せてるのに俺自身の体が全く視野に入ってこない意識オンリーっぽい浮遊感といい、妙にスッキリした感覚といい、超常的な状態に置かれてるっぽいのはマジっぽいっちゃ~ぽいな……)


 いろいろと考えながら比呂は次の質問に入る。


「では神様的な人、ここは何処ですか?」


「いい質問じゃ。ここはお主が生きていた世界と次に生きることになるかも知れん世界を結ぶ中継地点のようなもんじゃ。まぁなんつーか、ハブ空港のロビー的なもんだと思っといてくれい」


「その“かも知れない”ってどういう意味ですか? どこにも行けないかも知れないって事ですか?」


「いい質問じゃ。まず男よ、んーと名前は何と言ったかの?」


「広田比呂です」


「そうか比呂か。比呂、いい質問じゃ。このハブ的な場所から次の世界に進むかどうかはお主次第なのじゃ。お主が望めば次の世界、お主が望まなければ終了じゃ♪」


「っ終了!? あの、俺ってもう、元の世界には戻れないんでしょうか?」


「いい質問じゃ。ハッキリ言ってしまえば、まぁ戻れんの~」


「はぁ。……ではもう道は次の世界への一択ということなんですね?」


「いやそうでもないぞ。お主がこのまま【死】を受け入れて別の世界への転生を望まんのなら、死亡、消滅、以上! という選択肢もある」


「え? 死んだ後の天国とか地獄とかその前の川とか無いんですか? おさびし恐山の能力者とビビビ通信からの憑依トークとか無いんですか?」


「お主なかなかファンタジー脳じゃな。そんなもんは一切無いぞ。生物は人間であろうとミミズであろうとオケラであろうとアメンボであろうと死ねば朽ちて終わり。霊だの魂だの天国だの地獄だの何も無い。そんな矛盾だらけの面倒臭そうなシステム、ある訳なかろうて。収集がつかんわ」


「う…… そ、そうなんすか。じゃあ…… “俺が選ばれた”とか何とか言ってたのはどーゆーことなんですかね?」


「いい質問じゃ。最初の方でも言ったと思うが、お主の死に際はワシの設定した条件をクリアしたのじゃ。転生ガイドを担当しておる事務方の中でもワシの扱う条件は結構自由度が高くてな、この出会いは奇跡みたいなもんじゃぞ~」


「あの……もしよろしければ俺の死に際がクリアした条件ってのを教えてもらえます?」


「いい質問じゃ。教えよう。まずは当然じゃが【死にかけていた】ことじゃな」


「はぁ、まぁ。そりゃそうですよね」


「次に【脳が損傷すること無く意識があった】ことじゃ。健全な脳がないと交渉も保管もできんからの~」


「…………」


「さらには【自殺ではない】ということじゃ。まぁ自殺でもハッピーな道はあるんじゃが、ワシの担当ではないってことじゃ」


「…………」


「そして四つ目が最後の条件じゃ。最難関とも言われる四つ目の条件は…… なんじゃと思う?」


「あ、それ多分わかりますよ♪ 【トラックに轢かれて死んだ】でしょ?」


「ぜんぜん違うわい! 【辞世の句で転生をリクエストした】じゃ!」


(……なんだそりゃ……)


「あれはなかなかお目にかかれないくらいにストレートな句じゃったぞ~」


「いまいち覚えてないんですけど、俺ってば死ぬ間際に転生をリクエストしたんですね?」


「なんじゃ、お主、朦朧としながらあんな句詠んだのか!? やはり見込みがありそうじゃな~ 改めて聞くが、お主は次に控える世界に転生されることを望むか?」


「えー、はい、よろしくおねがいします」


 この瞬間、比呂の異世界転生が決まったのだった……。





 死にかけながらも【転生をリクエストする辞世の句】を詠んだ比呂は晴れて異世界に転生することになった。

 そのために転生前の中継地点に滞在中なのだが、聞けることは遠慮なく聞いておこうと開き直った比呂の質問が続いている。


「俺今、自分の体が見えないんですけど、これって意識体的な状態ってことですか?」


「まーそんな感じじゃ。正確には【神の技術によって完全にスキャンされたお主の脳解析データが一時的に保存されてプログラムとして走っておる状態】じゃ」


「なんかやけに生々しい表現っすね。じゃあこの後はその保存された俺の脳のデータが新天地で生まれたばかりの赤ん坊とかにインストールされる、みたいな感じですか?」


「まーそんな感じじゃ。実際はこれからお主より様々な希望を聞いて、その通りに新しい人間を作り出していくオートクチュールな作業が待っておる。転生直後の状態はある程度選べるが、血の繋がりが誰とも無い以上、誰かの子としては送り出してやれん。街の中であれ森の中であれ、【突然現れる生命体】なのじゃから誰も居ない場所からのスタートとなるな。細かく言えば【転生新ボディによる異世界転移】となるのかの。その際、お主の脳解析データをインストールするのもそうなのじゃが、多少のカスタマイズは施してやる予定じゃから長くなっても根気よく付き合うんじゃぞ~」


「もちろんです。よろしくおねがいします。あと……」


「なんじゃ?」


「どうして神様はこんなことをしているんですか?」


「!…………」


 比呂はそれまでのんびりとしていた神様の表情が変わったような気がした。


「鋭すぎる質問じゃ。いいか、できるだけ簡単に教えてやるから耳の穴かっぽじっ……おっと今お主には耳の穴など無いんじゃったな。そう、音声センサーかっぽじってよぉ~く聞くのじゃぞ~」


(…………)


「さっきは【四つの条件】などと言っておったが、一~三については実は毎回同じじゃ。逆に言えば【四つ目の条件】だけをワシは毎回試行錯誤しておってな。今回は【辞世の句で転生をリクエストした】じゃったが、過去にはもっと凡庸でいかにもな条件をセットしたことももちろんあったのじゃ。【カリスマ性ありまくる】とか【友情と努力と勝利にしか興味がない】とか【人の上に立つのが好き】とか【争いの無い世界をひたすら願う】とか【めちゃくちゃ頭いい】とか【めっさめっさ強い】とかじゃ。それ以外にも【欲望の権化】とか【超平均的】とか【クズ中のクズ】とか【全否定人間】みたいなのも試してみた。そして時間がかかる事も時にはあったが結局今までに数え切れないほどの検索対象者を異世界に送り込んでおる。あ、因みに送り込む世界はその度に別のものが新設されとるから、行った先でいきなり他の転生者に逢うようなことは無いぞ。参考までにな」


「なんだか実験みたいですね……」


「そう、お主カンがいいの! まさに実験なのじゃ。神的存在である我々は理想の世界を創造せんと日夜新しい取り組みに余念がないのは周知の事実じゃな?」


(“じゃな?”って言われてもなぁ……)


「そんな中、【世界への影響】という意味でずば抜けて重要な生命サンプルは言うまでもなく【人間】での。人間って奴はそもそもワシら神的存在をモデルに作られた実験生物だけあって他の生物に比べて【自我】っちゅうか【自覚】っちゅうか【我思うゆえに我あり成分】っちゅうかが盛られに盛られとる。故に【ゆるやかな種としての行動や進化】を超えて【激的な個としての行動や進化】が多分に期待される特別な生物なんじゃ。しかし、にもかかわらずじゃ、何故か人間どもはどんな【個】を選び抜いてカスタマイズさせ投入しても、その後の世界にワシらが喜ぶような変革をもたらせてくれたことなど一度もなかったんじゃ~」


「……つまり、世界に変革をもたらしたいと?」


「ん~もはやそれは理想じゃ。夢じゃ。絵に書いたずんだ餅じゃ。幾多の実験の結果、ワシらの目的はそんなウキウキするようなレベルのものではなくなってしまった……」


「……では、どんな?」


「人類の存続じゃ。人間ってのはとにかく滅びる。滅びまくる。実際の話、実験世界の中で人間がひとりでも生き残っているのはワシが担当した数多の世界の中だけで言ってもわずか千ほどじゃ。そしてその【千ほど】とは、新しい順に【千ほど】と言ってほぼ差し支えないという惨憺たる結果なのじゃ。因みに転生者を送り込まないパターンのテストも勿論しておるが、結果は数百万回やって全て人類は滅亡しておる」


「例外は無く……ですか?」


「無いのぉ。勿論【人類の長期に渡る繁栄】っちゅう使命をそこはかとなく匂わせて転生者を送り込んだ分、【転生者ありの世界】の方が比較的長くは持つんじゃがのぉ…… 結末は遅かれ早かれやってくる。魔法があろうが無かろうが、竜が飛ぼうが魔王が居ようが大体一緒じゃ。結局【我思っちゃった人類】は数千年ほどで滅びるんじゃ」


「我思っちゃった人類?」


「おぉ、実験のスタート地点の話じゃ。まさかマンモ~の肉食ってヒネモグラ~と戯れてる時代から始めるのはいくらなんでも非効率じゃからの。一律で【技術革新と大航海を混ぜ混ぜしたくらいの時代】をベースに再構築された世界を量産して実験しとるんじゃ」


「……あの、ちょっと心配なんですけど、俺って歴史や政治に特別詳しい訳でもないし前の世界でも大した人間じゃなかったんですよ。だからあんましオススメできないっつーかなんつーか……」


「こらこらワシを何だと思っとるんじゃ、神的存在じゃぞ? お主が言うような人間社会での一流だハイレベルだ憧れだなんていうヒエラルキー上位の人種など、もう飽きるくらい試したわ。しかし結果は大したことにならんのじゃよ。例えばお主のいた前の世界で言えば、王族、貴族、資本族、金融族、政治族、医療族、教育族、情報族、通信族、等など【社会に対して甚大な影響力を持つグループ】があったじゃろ。そしてそのグループの中でも【上位に君臨する者たち】がおったじゃろう。しかしな、文明が進んだ人間社会では、高い地位に居る者、つまり強い権力を持つ者ほど、実は世界にとっては居ても居なくてもどっちでもいい存在だったりもするのじゃ。彼らは強く優秀であるが故に自らの手で積極的に価値のための価値やルールのためのルールを作り、それらを複雑化し、さらにそれらをいじくり回して、己等の都合のいいような再構築・再配置を繰り返しているだけに過ぎないとも言える。そこに人類存続の鍵となるような因子は今までの実験では一度も見つかっておらん」


「まぁ何となく言いたいことは分かりますが…… 神様、」


「なんじゃ?」


「確認なんですが、俺が転生するあたって、転生先でこう生きてほしいとか、ああ生きろみたいな【神的リクエスト】っつーか方向性みたいなものは無いんですよね? 俺が思うように生きればいいだけなんですよね?」


「だーかーらー好きにすればいいと言ぅーとろーが~」


「いや、なんか、神だけに、善とか悪とか罪とか罰とか○戒とか△戒とか、いざ蓋を開けてみたら厳しい話がついて回って来そうじゃないですか~」


「あ~そーゆーのな。そんなもんは人間社会の支配者階級の輩共が自らの都合のため、後発的に作り出したもんじゃからの。支配者たちにとって都合が善いことが【善】、都合が悪いことが【悪】……とも言い換えられる。時と場合、または立場が違うだけでコロコロとひっくり返る不安定なシロモノじゃよ」


「……大体しっくり来ました。それでは最後にもうひとついいですか?」


 質問に疲れてきた比呂は最後にどうしても気になることを神様にぶつけてみた。


「神様って、みんなあなたのような【おじいさん】なんですか?」


「ほぉ、お主にはワシがじいさんとして見えておるのか……」


「えっ?」


「いやいや、転生ガイド担当のワシのような神的存在ちゅうのはな、転生対象者に向けて特定の外見を見せるものではなくてな。いや、だからと言って本来の姿が無いという訳ではないんじゃが、ん~~難しい話じゃが、つまりお主が【神的な存在】を【じいさん風】にイメージしておったからワシの姿や性格や喋り方はそうなっているのであってな、ようは、【はじめての神的存在】に接するにあたってじゃな、出来るだけ違和感なく受け入れてもらえるよう、対する人間のイメージ次第で変容するようになっとるんじゃよ。分かってくれたかの?」


「………………はい」


 この瞬間、比呂は今までの人生で一番、自分の所業を悔いた。


(あぁ~! 俺はなんでこんな【じじいの神様】をイメージしちまってたんだ…… なんで【女神様】じゃなかったんだ! 自由だった筈だ! 何でも良かった筈だ! 俺の日頃からの心がけ次第で今まで続いた、そしてこれからも続くであろう長くウザいじじいとの会話が全て、ギャル女神とのガールズバートークになった筈だったんだ! ビキニ! スケスケ! 何ならほぼ全裸だって夢じゃなかったんだ! 性格だってそうだ! 隣の家の幼馴染の委員長系美人同級生! 同じ屋根の下の小悪魔的な妹! なんなら双子でも可! もとい、優! 身持ちが固そうなのに意外と積極的な書道部の大和撫子! なんなら美人教師でも可! もとい、優! 日中の大半暇を持て余している貧乳団地妻! えっそんなの性格じゃないって? 知ったことか! おっちょこちょいでもツンデレでも委員長でも何でもいいから頼む! 神様! もう一度俺にチャンスを!!!)


「ん? 比呂、何か言ったかの?」


「……いや、なんでもないです……」


 比呂の異世界転生ライフは今まさに始まろうとしているのだった。





「さぁ、さてさて、それじゃキャラ作り、始めようかの~」


「はぁ……」


「ん? どうした? 気が乗らんのか?」


「いや…… 自分の日頃の心がけ…… というか先入観に反省というか、思うところありまして……」


「おっとワシが色々と喋り過ぎてしまったからかの。気にするでない、難しい事は考えず、さぁ始めるのじゃ」


「そうですね。……よろしくおねがいします」


 比呂は渋々過去への後悔を忘れることにした。


「さて、それじゃあまずは、これから向かう世界の設定じゃな」


 神様が出したひとつ目の選択肢は四択だった。


①魔法あり、魔物&亜種あり

②魔法なし、魔物&亜種あり

③魔法あり、魔物&亜種なし

④魔法なし、魔物&亜種なし


 比呂は迷わず①を選択。ファンタジー的世界を希望した。

 そして次の選択肢を待っていると……


「よし、これで【これから向かう世界の設定】は終了じゃ」


「ズコッ! あの神様、もっと細かい世界設定は無いんですか?」


「あぁ、う~む、まぁしようと思えば出来るんじゃがの、行く先の細かい設定などしても、予め答えの書き込んである問題集みたいなもんになってしまうぞ。ラクチンかもしれんが楽しみが減るんじゃないのか? あとまぁ、実験という意味でも他の並列世界とあまり極端に差を付ける訳にもいかんしのぉ。ただまぁ、転生者の思考っちゅうか嗜好っちゅうか趣向っちゅうかに若干ではあるが寄せるようにはなっとるから【比呂の思っとるっぽい世界】にはなるんじゃないかのぉ」


「……そういうもんなんですね。わかりました」


「よしよし良い子じゃ。それではお待ちかねのキャラ設定じゃな。お主はもうある程度具体的に考えてはおるのか?」


「はい、ある程度はイメージしていますので大丈夫です」


「そうかそうか、では始めようかの。まずはこのデバイスを使って肉体そのものの構成を決めるのが第一段階なのじゃ。ほれ、やってみよ」


 神様が差し出した巨大なスクリーンがゆっくりと空中を進み比呂の目の前で向きを変えて止まる。

 画面上の文字やカーソルを目で追うと触らずとも操作できた。

 すぐにコツを掴み、早速始めてみる比呂。

 スクリーン中央にはデカデカと鎮座するアイコンがある。

 そこには可愛らしく笑う二頭身美少女のイラストと、その口元から伸びる大きなフキダシが描いてあり、フキダシの中には


【ボディメイクしたい人はここをクリック!】


 と書かれていた。


「………………」


 暫し瞑想し、比呂は作業に取り掛かる。


 まず最初の大きな選択肢で【男】【女】【性別無し】を問われ【男】を選択。


 次にまた大きな選択肢で【ヒト】【エルフ】【獣人】【ドワーフ】【魔族】【鬼】【サムライ】【シノビ】【竜人】【魚人】などなどなど、数え切れないほど様々な種族の選択肢が現れた。【鬼】や【竜人】が気にならなくもなかった比呂だが、ここも【ヒト】を選択。


 次に年齢の選択肢が現れる。

 空白の入力スペースがあるだけで何歳にでも設定できるようだった。


「はぁ…… 【リアル年齢=おじさん】でありながら図々しく16歳なんかに戻るのは気恥ずかしくてぜってー無理だな。俺の美意識が俺を許さんわこりゃ。でも、かと言って折角の機会に全く若返らないのも勿体無いしなぁ。う〜ん、よし!」


 比呂は【22歳】と入力した。


 最後はボディ形状の設定だったが、身長から始まり、胸囲やウエスト程度には留まらず、髪の生え際や爪の形など、あまりにも膨大な項目の数々に比呂は途方に暮れる。

 しかし、ふと画面右上端を見るとドロップメニューらしき下向きの三角形ボタンがあることに気付いた。

 そしてそのボタンを押すイメージを送ってみるとメニューが現れ、そこには


【剣士タイプ】

【魔法使いタイプ】

【斥候タイプ】

【踊り子タイプ】

【プロレスラータイプ】

【総合格闘家タイプ】

【モデルタイプ】

【中肉中背タイプ】

【横綱タイプ】

【中年太りタイプ】

【中間管理職サラリーマンタイプ】

【町内会長タイプ】

【遊び人タイプ】

【村人タイプ】


 などと、悩みたくない人向けのテンプレートが、確認するのも鬱陶しいくらい大量に並んでいた。

 比呂にとっては何が違うのかよく分からないものも多く混在していたが、その中に……


「あった! これでいいや!」


 比呂がドロップメニューから見つけて選択したのは


【元の体タイプ[年齢により変化]】


 という項目だった。


「欲を出してもきりがないし、元の体なら使用感もサイズ感も染み付いてるんで♪」


「おぉ、それを選ぶ転生者は結構多いんじゃよ。しかし良いのか? 高身長で逆三角形のモテボディ&モテフェイスも手に入るというのに……」


「そんなことは別にどーでもいいんですけど…… あ、これだけは今のうちに聞いておきます。神様、この肉体の設定って、ステータスとかスキル的なものに影響有ります?」


「お~、いいところに気が付いておるのぉ。器の形やサイズとスペックの関係じゃな。答えはノーじゃ。この後ステ振り的な工程に入るが、能力に関してはどんなボディにも収まるようになっておる。気にせず好きな形を選ぶがよい。あくまでもここは【見た目】だけの選択じゃ」


「分かりました。じゃあ【元の体タイプ】でお願いします」


「了解じゃ。それじゃあ始めるぞ。性別【男】、種族【ヒト】、年齢【22歳】、ボデー形状【元の体タイプ】で、メ~イキ~ング★ザ★ボデーーーー!!」



ブゥン



 神様が難解な呪文を叫んだ直後、22歳頃の比呂の体が目の前に全裸で現れる。

 すると間髪入れずに次の呪文が放たれた。


「ボデーの生成確認オーケー。行くぞよ! インスト~~ル★ズノォーーー!!!」


 気がつくと比呂はもう意識体ではなく、肉体を手に入れ、22歳の全裸人間になっていた。

 新規ボディへの脳データのインストールは成功したようだった。


「おぉぉぉ、肉体が有るって改めてなんかこう、しっくり来ますわぁ。神様、あざっす!」


「いやぁ、なんのなんの。それよりお主、そのまま全裸ではお互い気が散るし、転生先で一苦労しそうじゃからな、ほれ、プレゼントじゃ」


シュバッ!!!


 無駄にかっこいい効果音とともに比呂の全身をキラキラの装備が覆う。


頭:ロトニウムの兜

体:ロトニウムの鎧

足:ロトニウムの靴

手:ロトニウムの剣

手:ロトニウムの盾

他:ロトニウムのインナー[上]

他:ロトニウムのインナー[下]

他:ロトニウムのソックス

他:ロトニウムのしるし

他:ロトニウムのピアス

他:ロトニウムのペンダント

他:ロトニウムの指輪

他:ロトニウムの腕輪

他:ロトニウムのブースター

他:ロトニウムの翼

他:ロトニウムのオーラ

他:ロトニウムの意地

他:ロトニウムの苦悩

他:ロトニウムの悟り



「えっ?」



「お〜っと間違えてしもうたわい、そうそう、こっちじゃった、こっちじゃった。それっ!」


シュバッ!!!


体:冒険者の服[上]

体:冒険者の服[下]

足:冒険者の靴

他:冒険者のインナー[上]

他:冒険者のインナー[下]

他:冒険者の靴下


「……まぁ、でしょうね~」


「すまんすまん、ちょっとしたミスじゃ」


「…………」


「なんじゃその生暖かいというか生ぬるい感じの視線は……」


「……あの、質問いいですか?」


「何じゃ?」


「さっき間違えて装備したロトなんちゃらってあのシリーズ、転生先の世界では最高レベルとか最終形態とか、そういうやつなんですか?」


「気になるようじゃな」


「そりゃまぁ、一応は……」


「それはのぉ……」


「…………」


「秘密じゃ〜♪」


「……腹立つわぁ」


「まぁまぁ気にするでない。それでは比呂、装備の説明は良いか?」


「一応おねがいします」


「え〜っとな、まず【冒険者の服[上]】じゃな、これは冒険者がよく着とる服でな、服なんで機動性や生活感が重視されとる。冒険者シリーズは他に【鎧】なんかもあるが、この【服】は、かけだしの採取者や荷持ちが着とるようじゃ」


「……なるほど」


「次に【冒険者の服[下]】じゃが……」


「あ、神様、大体分かりました。ありがとうございます」


「ん? もう良いのか? そうかそうか、よし、それなら準備も整ったところで、いよいよ【ステ振り】に突入するぞ!」


「はい!」


 比呂の異世界ライフがいいかげんそろそろ始まろうとしているのだった。





「さて、【ステ振り】に入る前に、まずどうしてもやらねばならん重要な工程があるんじゃ」


「はい」


「それは、【異世界転生者支援プログラムの追加インストール】じゃ!!」


「おぉぉぉ、なんかすごそうですね」


「比呂、お主の頭蓋骨の中には、今、何が入っておる?」


「俺の脳、つーか、俺の脳のコピーですか?」


「まぁそんな感じの理解でオーケーじゃ。正確には既にお前の肉体はDNAのひとつひとつ、何千兆という細胞間の信号に至るまで精密に構成し終わっておるのでな、今のその体も脳みそも記憶も感情も、全部オリジナルだと思ってもらって構わんよ」


「そ、そうなんすか」


「んでの、そのままだとお主は、【ちょっと立ち回りが器用で物知りっぽい只の風来坊】くらいのスペックで異世界に飛び出す事になる」 


「まぁ、何も盛ってない一般人すからねぇ」


「そう、そこでじゃ、【ステ振り】に入る前に、お主の脳に【異世界転生者支援プログラム】というものを追加インストールすることにより、【一般人】から【ちょっと凄い一般人】に進化するのじゃ!」


「なるほど!」


「この【異世界転生者支援プログラム】はの、お主の脳の未使用領域に自動で定着しての、お主が死ぬまで異世界転生ライフをサポートし続けてくれる、とってもありがたいプログラムなんじゃ! しかも自動アップデートの保証付きじゃ!」


「おぉ〜 その【支援】ってのはひょっとしてアレすか? 【鑑定】とか【マップ】とか【無限インベントリ】とかが備わったやつすか?」


「…………」


「…………神様?」


「お主、結構詳しいの。そんでもってかなり贅沢じゃの。うーむ、確かにお主の言うような機能は存在するし、いつかそのうち手に入ることもあるかもしれん。しかしの、そんな便利過ぎる能力はの、たくさんの経験を積んだ者じゃないと手に入らぬようになっておる。今のところは夢見る程度にしておくんじゃな」


「あーはい。すいません、わかりました。では神様、実際はどんな機能なんですか?」


「うむ、説明しよう! 【異世界転生者支援プログラム】とはの……」



①念ずると視界の中に半透明っぽいスクリーンが立ち上がり、そこに自分のステータスなどの情報が表示されてとても分かりやすい、というスクリーン機能。オンオフ切替可能。拡張機能あり。


②スタート時とレベルアップ時に能力値がポイントとして支給され、自分の好きなようにステータスを成長させられる、という、自分色に自分をカスタマイズできる能力成長割り振り機能。


③一般人より成長や健康面が若干優れていて、同じレベルでもステータスが優秀になりがちな機能。



「というものなのじゃ、なかなか使えそうじゃろ?」


「はい、全然満足ですよ! この三つでもかなりいい感じですね〜」


「おほ、そうかそうか、喜んでくれて何よりじゃ。ではインストールを始めるぞ、お主はそのままそこに立っておれば良い。大体一分くらいで終わるからの。さぁ、準備は良いか?」


「はい、神様!」


「ボデーの固定確認オーケー。行くぞい! インスト~~ル★シエーーンプログラーーーム!!!」


 すると、くすぐったいような気持ちいいような感覚が比呂の意識に流れ込んだ。

 その流れを受け入れ身を委ねる比呂。


 時間がゆっくりと過ぎていく中、インストールは順調に進んでいるかのようだった。

 しかし突然、比呂の視界が真っ赤に染まる。


「か…………かかかか……みさま」


「かかか……み…………」


 体が硬直し言葉も出せない比呂の様子を見て慌てる神様。


「うわぁ〜っと、こりぁプログラムにバグでもあったかの!? そーいや最近グレーなサイトばかり開いとったし…… アレでアレな何かしらに感染してしもーとったのかも…… え〜っと、インストールを一旦停止して、と……」


「かか…………かかみ……さ……」


「わかっとるってー、そんなに心配するな〜、今、神サーバーに接続してアップデートしてやる。そうすりゃ最新版のプログラムっちゅーのがインストール出来て一気に問題解決じゃ! そーれ、ポチッとな!」


「…………かかかかみ……みみ……」


「まぁまぁ、落ち着け。今、最新版を取得しとるからの、大人しく待っておれ」


「………………」


「うむうむ、大人しく待っておってくれよの〜」




 そして三十分が経過する。




「うぅ〜む、なかなか終わらんのぉ」


「………………」


「うぅ〜む、やっぱし【ゼウスネット】に加入しておけば良かったかも知れんのぉ。神界最速らしいからのぉ。けども月額がやたらと高いんじゃ。ここの予算ではちょっと厳しくてのぉ。とは言え、やっぱし【小豆洗いネット】は遅いのぉ。カプラに受話器置いた方が速いんじゃなかろうか」


「………………」


 特に何の変化も無いまま更に時間は流れる。


「あ〜、腹立つ! 遅過ぎじゃ! もう【小豆洗いネット】は解約じゃ! 比呂よすまんのぉ、まさかこんなことで時間を浪費してしまうとは。トホホじゃの〜」


 その時


ピコーーーーーーーーン!


 突然脳天気な音が鳴り響いた。


「おぉぉ! やっと終わったのじゃ! 比呂よ、 【異世界転生者支援プログラム】の更新&インストールがやっと終わったぞ! ちゃんと喋れるか? どこか動かない所とかは無いかの?」


「ゴホッ、あ、ん? おぉ、神様、全然大丈夫です。体もちゃんと動きますし、言葉も問題無しですね。あとすでにスクリーンの出し方も分かりました。イメージするだけでオッケーなんすね〜」


「おぉ、それは良かったのじゃ。いやはやすまんかったのぉ、契約しておるネット回線が遅くてのぉ。結局一時間以上かかってしもうたのぉ。さぁそれじぁ進めて行くぞい」


「はい、お願いします!」


「まずはスクリーンを出してみよ」


「はい、出しました」


「次にステータスよ出ろ! 的な念を送ってみるのじゃ!」


「はい………… おぉ~出ましたよ神様!」


 比呂の視界の半透明のスクリーンにステータスが表示された。



名前:広田・比呂[ひろた・ひろ]

種族:人間[ヒト]

性別:男


pt:200


Lv:1

HP:100

MP:100


STR:10

VIT:10

AGI:10

INT:10

DEX:10

LUK:10



「上から順に説明するぞい。まず名前じゃが、これは変更可能じゃ。転生先のことを考えると、名前だけの方がいいかも知れんの。どうする?」


「では【ヒロ】にします」


「おぉ、シンプルで分かりやすいの。次に種族についてじゃが…… これは特に説明しなくてもいいじゃろ。種族は一度決めたら変更不可じゃ。あと因みに転生先の暦はほぼ前の世界と同じじゃから気にしなくても良いぞ。そーれーでー……あと転生先の通貨単位じゃが、イエンと言って、これもお主の故郷とほぼ同じで、なんと世界共通じゃ。さらに言語も世界共通。どうじゃ楽ちんじゃろ~? さらにワシからのお小遣いで2万イエンを上着ポケットに入れておいてやったぞい。ありがたく思うのじゃ。さぁて、ここまでで質問はあるかの?」


「神様、まずは2万イエンあざす♪ で、ですね、【言語と通貨が世界共通】ってことはですよ、俺の行く世界では、すでに【世界征服】が何者かの手によって達成されちゃってるってことなんですかね?」


「お主…… ウザ鋭いところを突いてくるのぉ~。だがそうではない。転生先の世界には複数の国や種族が存在しておるし、世界統治は全く成されてはおらん。言語と通貨を世界共通としたのは………… お主が楽だからじゃ♪」


「……マジすか。でもそれって、世界の成り立ちとか歴史とかに無理が生じて来ません?」


「…………………………気にするでない~。世界ニ不思議じゃ~」


「…………………………わかりました」


「ふっ。じゃあ次。いよいよ来たの。【pt】じゃ。これがまさに【異世界転生者支援プログラム】の成せる技での、そもそも転生先の住人達はスクリーンを出せんのじゃから自らのステータスを数字で確認することも出来ん……というのは分かるな?」


「はい……あ、他の人にはそんな効果のある道具とかも無いんですか?」


「無い。そこは【異世界転生者支援プログラム】保持者オンリーの特典なんじゃ」


「おぉ、本当に凄いプログラムなんすねぇ」


「ふっ、それでじゃ、【pt】の話に戻るがの、転生先の住人達は皆、自分がレベルアップしたことにも気付かないままステータスが自動で割り振られて増加するんじゃがの、【支援プログラム】持ちのお主はなんと、レベルアップ毎に通知され、手に入れたポイントを毎回手動で好きなステータスに割り振ることが出来るんじゃ! しかも一般人には無い初回特典200pt付き! これは相当なアドバンテージじゃぞ!」


「なるほどぉ、それはすごい!」


「ここまでで質問はあるかの?」


「えっと、レベルなんですが、やっぱ魔物的なやつを倒すと上がるんすか?」


「おぉそうじゃな、魔物を倒せば経験値は多く入ってくるからレベル上げには向いとるの。しかしじゃ、レベルってーやつはの、ぶっちゃけ何をしていてもいくらかは上がるんじゃぞ? これは初耳じゃろ」


「あぁ、はい。意外っす」


「そうじゃろ。例えば力仕事の多い職業の奴らは力を使うことでSTRに引っ張られてレベルアップする傾向が強くての、当然ステもSTRが伸びやすい。細工職人なんかは細かい仕事を毎日繰り返す中でDEXを軸としたレベルの上がり方をする。まぁ魔物討伐に比べれば少ない経験値じゃから結局は勤勉な魔物殲滅系冒険者が一番レベルが上がり易いということにはなるんじゃがのぉ」


「なるほどぉー」


「で、次は各種ステータスの解説じゃな。ざっくりではあるが、HPは生命力の残量、MPは魔力の残量、STRは物理的な力の強さ、VITは耐久力や持久力、AGIは肉体的動作や頭の回転の速さ、INTは魔力や精神力の強さ、思考の深さ、DEXは器用さや正確さ、LUKは…… おたのしみ要素、という感じじゃな。あと隠しパラメータ的なものもあるっちゃーあるが、あまり気にせんでもいい。で、ステータスの中で特に説明しておかないといかんのは、HPじゃ。このHPってのは曲者での、お主の故郷の【ドラックエーストやファイナルタジタジ的なゲーム】では、例えHPが1だったとしても0にさえならなければ健康的にビュンビュン動き回れたじゃろ? つまり、HP1~MAXは同じステータスで0だけが死亡状態というやつじゃな」


「そうすね。言われてみれば確かに違和感すね」


「まぁそれはそれで別に好きにすればいいんじゃがの、大事なのは転生先じゃ。転生先の世界ではの、HPが減るごとにステータスも減るんじゃ。しかもHPの残りパーセンテージに比例して全ステータスが同じ比率で減少する。HPが残り半分なら全ステータスも半分になってしまうのじゃ。はっきり言おう、これから向かう世界はの、HPが50%でも死がよぎる世界なのじゃ」


「……怖ッ。HP80%以上維持が基本って感じですかね……」


「ホッホッ、まぁそのへんの塩梅はお主の楽しみとして好きにやったらいいわい。での、MPなんじゃがの、これについては逆じゃ。MPはジャンジャン使って0になったとしても魔法が使えなくなるだけで、ステータスには何の変化も起こらんし頭痛や吐き気が起こることもない。まぁ言ってみれば只の弾倉じゃな。あと、そうじゃ、自然回復量なんじゃが、HPもMPも共通して1時間に10%くらいでの、大体一晩寝れば朝には100%全開になっとるような感じじゃ」


「なるほど~」


「次、最大の難関と言ってもよい【魔法について】、行くぞい」


「最大の難関?」


「うむ、まずな、お主の頭の中にある【魔法】とはどんな感じじゃ?」


「えーっと、まず手をかざして、“ファイアボール!”とか叫ぶ…… みたいな?」


「するとどうなる?」


「手の先に火の玉が現れてターゲットに向かって飛んでいく…… みたいな?」


「その【火の玉】とは何じゃ?」


「え? 【火の玉】は火の塊ですよ」


「何が燃えている火なのかと聞いておる」


「あ、……そっか、可燃物は何? ってことですか?」


「そう! 魔法を語る上で一番難しい問題は、【火水風土】やら【氷雷光闇】やら多彩な属性とそこから生まれる技を並べ立てる輩が大半を占めておる割りに、その殆どが科学的または物理的な具体性を一切無視しておる上に、前置きやエフェクト重視の非効率な使い方をし過ぎておる! というところなのじゃ!」


「た、確かに、可燃物が無いのに激しい燃焼状態を持続させた炎の塊がまず自分の側で形を整えて発現してから敵に向かって移動するってめっちゃ無駄が多い気がします! そもそも学術的に解明不可能な超常現象を成してしまうのが【魔法】だと言うのなら、回りくどいことなんかせずに敵の体を一瞬で消滅させたりすればいいだけですよね!」


「ん~そこまでドライに言われてしまうと身も蓋もないのじゃが、確かに異世界転生者で【魔法ありの世界】を選択した者の殆どは、その回りくどいことを楽しみながら魔法を使用したがるのが通例じゃ。特に攻撃魔法となると、大仰な呪文、魔法陣、アクション、エフェクト、ヒット、そして何故か相手のダメージが軽いのか致死レベルなのかさえ良く分からない使用感…… っつーのがよくあるパターンじゃのぉ」


「てことは神様、俺も【プロミネンスエターナルコークスクリューサウザンドジャベリン】みたいなのを撃てるんですね!」


「ん~それがの、今回お主の行く世界はそーでもないから説明が難しいんじゃ。ワシの管轄する世界の魔法は世界ごとに色々と仕様を変えておってな、今回のはちょっと変わってるっちゅーか、シンプルっちゅーかなんちゅーか……」


「…………というと?」


「うむ。説明しよう。【お主が転生する世界の魔法】についてじゃがの、まず、どんな魔法を発動するにしても最初に必ず【座標】っちゅーか【範囲】っちゅーかを意識せねばならん。ワシらはこれを【フレーム】と呼んでおるが、まぁ簡単に言えば【立体的な囲い】じゃな。こればかりは行った先で試して貰わんと説明しづらいんじゃが、とにかく【魔力の発動】を意識しながら【フレームの形と位置】をイメージするんじゃ。例えるなら【一辺30cmの立方体のフレームを目の前50cmの空中に生成】みたいな感じじゃな。すると、その【フレーム】が自分のスクリーン上でだけ【赤いライン】で描かれるんじゃ。もちろんその【フレーム】は自分にしか見えとらんぞ? そうやって【フレーム】が生成できたら次は【フレームのロック】、つまり【位置と形の固定】じゃな。ここまでをイメージできれば【魔法の大前提】である【フレーム】は終了じゃ。あと【フレームの解除】もできるからの。【フレーム生成やっぱやめるー】って時は【フレームの解除】をイメージすれば無かったことになる。この段階でのMP消費量はそれほど多くはないから何度でも練習できるじゃろう。とまぁ、ここまでで【魔法が発動するまで】の半分が終了じゃ」


「なるほど。まずは【魔法がかかる範囲】を指定する訳か……」


「そういうことじゃ。そして残り半分は、その【フレーム】の中にどんな【変化】を与えるのかをイメージするのじゃ。この【変化】がMPを多く消費し、イメージ通りの結果になれば、見事【魔法】の成功じゃ」


「おぉ~ ある意味具体的で分かりやすいっすねぇ。その魔法ですが、どうやって習得するんですか?」


「ほい、良い質問じゃ。実はこの魔法はの、勝手におぼえるものなのじゃ。まぁ次から次へとおぼえていくなんてことは難しいかも知れんが、少なくとも魔導書を読んだりスクロールを開いたり教会で祈られたりしておぼえるものではない。“こんなこと出来ないかなぁ”なんて思いながら【イメージ】を繰り返していると、そのうち出来るようになるものなのじゃ」


「おぉ~、願えば叶うって感じなですね! なんだか超おもしろそーすね!」


「まぁお主がどんな大それたことを願うのかは知らんが、まさにその通りと言っても過言ではない! 願うこと、【イメージ】することが何より重要なんじゃ! まぁそんな訳で【魔法】はオススメじゃぞ。何しろせっかく【魔法ありの世界】にしたんじゃからチャレンジしない手はないじゃろ?」


「そうですね、いろいろやってみます! 因みに……」


「何じゃ?」


「神様が知ってる【魔法】の【変化】がどんなものなのか少し教えて貰えませんか?」


「おぉそうじゃな、情報だけでも教えてやろう。因みに【魔法】には名前なんか無いからの」


 神様がヒロに公開した【変化例】は以下のようなものだった。


■光量変化[フレーム範囲内の光量を変化させる]

■温度変化[フレーム範囲内の温度を変化させる]

■治癒力変化[フレーム範囲内の治癒力を変化させる]


「なるほど。光量変化は照明かな。温度変化は熱くしたり冷やしたりで、治癒力変化は回復促進とか逆だと壊死?」


「おもしろいじゃろ、これらの【魔法例】を参考に、お主なりの道を切り開いて行くといいぞい。ちなみにこんだけシンプルじゃと理路整然とした【魔法[変化]】しか起こせそうにないと思うじゃろうが、ワシは神でコレは魔法。かなりの無理は聞いてやるつもりじゃ。“光と温度って部分的に重なっちゃってんじゃね?”などと元の世界の常識にはとらわれず、思う存分我儘にイメージしてみればよいのじゃ!」


「ありがとうございます! 神様!」


「ふぉふぉふぉ、では最後に【ステ振り】なんじゃがな、何ならお主、転生してから一人でやってもいいんじゃぞ? どのみちオマケの二百ポイントじゃしな。転生場所さえちゃんと指定すれば、いきなり死亡ってこともないじゃろ。どうする?」


「神様、俺、まずは転生してみます! 自分でいろいろと歩いて経験を積んでみて、それからレベル上げたり【ステ振り】したりしてみます! いろいろと教えて頂きあざした!」


「よいよい、お主はワシにとっては持ちつ持たれつの大切な協力者なんじゃ。思う存分やってみるがいい」


「はい! では送ってください!」


「任せるのじゃ! ボデーの固定確認オーケー。行け! イセカーーーイ★テン! セーーーーーイ!!!」


シュババババババーーーーン


 神様が高尚な呪文を叫ぶと、大きな光の渦がヒロを包み、そして暫くするとその姿はもう白空間から消えて無くなっていた。




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