13~15日目 メガミウムとバッタ災害




 ヒロが異世界に転生して13日目の朝が訪れた。


ハッ ハッ ハッ ハッ


クンス クンス ハッ ハッ ハッ


クゥ~ン クンス クンス


アンッ アンッ


『パパ起きて! もう明るいよ~』


『んんん……  あ~ ハナおはよ~ あちゃー ベッドも出さずに床で寝ちゃったのか~』


『おはよ、ヒロ。昨日は一瞬で寝ちゃってたねー。あんなに楽しみにしてたアリ料理も食べずにー』


『ぁあっと、そーだったー。カニ食うの忘れてたー』


『ヒロ、カニじゃなくてアリね、アリ』


『今日の朝食はカ……アリ料理で決まりだなー。おっとその前にぃ~』


『パパごはん♡』


『だよねぇ~ハナ、ちょっと待っててね~』


 ヒロは目にも留まらぬ早業で【ハナ大満足★牛熊鹿のお肉とモツの盛り合わせ特盛Bセット5キロ】を用意し、お座り待ての状態で尻尾をビュンビュン振り回しているハナの前に置いた。


『いただきますなの!』


 はむはむと大量のお肉を食べ進めるハナを傍らに、食後のデザートである魔晶を用意しながらヒロは大きく伸びをする。


『んんん~~~。はぁぁ~~気持ちいい~。今日も幸せな1日が始まったな~』


『今日は何だっけ? 金属の研究するとか言ってたっけ?』


『研究……なんて大層なもんじゃなくて、只の実験だよ。しかも数撃ちゃ当たる系の成り行き任せなやつー』


『いい金属できるといいねー』


『とりあえず【グラフメルト】って金属が天然由来では最高峰っぽいから、合金しまくってもっと凄いのを作れたらいいなー』


『パパ、ごちそうさまなの!』


『おぉ~今日も調子良さそうだねーハナ♡ はい、おやつだよ~』


『パパだいすき~♡』


 ハナはギガンターリから取れたばかりのC級魔晶をそれはそれは美味しそうに噛み砕いて食べ始める。

 あっという間に魔晶も平らげたハナは、チロッとヒロの顔色をうかがう。


クゥ~ン 『パパぁ~♡』


 キラキラの目で期待を込めてソワソワするハナ。

 尻尾はもう見えないほどに振り暴れている。


『ハナの食事が終わったってことは~ 今からは~~ …………』


『パパ……』


『追いかけっこのぉ…………』


『パパ…… パパ……』


『時間だあああああ~~~』


 急にハナに向かって飛びかかるヒロ。


『きゃーー♪ いやーーー♡』


 待ってましたとばかりに全力で走り出すハナ。

 いつの間にか運動用に50m×50mまで拡大変形された【流星4号★枡】の床を、ふたりの高スペックな生き物がじゃれては走り、走ってはじゃれ、を繰り返す。


『やばいわ。ヒロはもちろんだけど、ハナちゃんも何気にステ値上がってるから、滅茶苦茶速いし! チーターvsトムソンガゼルなんか目じゃないってくらい速いわ! ふたりとももうサイボーグ零零玖の本気の追跡からでも逃げ切れるかも!』


 僅かな期間に急激にレベルアップしたハナに、もはや出会った頃のヨチヨチ感は皆無だった。見た目こそ【生後二ヶ月頃のコロコロの柴犬】のままだが、運動能力は早くも【神獣】の片鱗を見せ始めていた。とは言え、そのハイスペックな運動性能は、ヒロとのじゃれ合いでしか当面の間は発揮されないのであった。


 1時間後、遊び疲れて満足したハナは、ヒロの魔法の手によるグルーミングマジックに耐え切れず、コックリコックリしながらトテトテとヒロの中に帰っていった。


 そんなこんなで今朝もハナの満足顔を拝めてご満悦のヒロは、自らの食事の準備にとりかかる。

 インベントリから1体のギガンターリを取り出すと、長さ30cmほどの【フレームセイバー】を思いのままに伸縮させつつ器用に操り、スパスパとアリの体を分断していく。

 かくしてアリは【頭】【胸】【腹】【足×6】という【食材】に姿を変えていた。


(まずは、足からだな。一番クセが無さそうだし、筋肉だけだから純粋に【アリの身の味】ってやつがどんなもんか分かるだろ)


(フレーム)ピ(温度上昇)


 ヒロはアリ足1本にフレームを纏わせると、90度ほどの温度で加熱するイメージを送り始めた。そして送り続けること20分、一旦様子を見てみる。


(まさか、アリまでもが【加熱することで殻が赤くなる】とはな。これじゃホントにカニじゃねーか)


 アリの足は朱色に染まっていた。


(ついにアリの味が判明する時が来たんだなぁ)


 ヒロは【フレームセイバー】で、アリ足の中でも一番根本の太い殻をキレイに割り剥がす。

 するとそこには良い具合に加熱された白い身がプルプルと佇んでいた。

 たまらずヒロは身を箸で持ち上げ、かぶりつく。


(…………! …………!!!!)


(ぅうんまぁぁ~。じゅんわぁ~~。さいっこぉぉぉーーー!)


 噛めば噛むほど旨味が口の中に広がり、弾力のある身は旨味と共に至高の噛み応えと究極の飲み込み応えをヒロに与えた。


(カニと似てるけど、カニ独特の苦味とエグ味が少なくて、アリ独特の癖が少しある。あと甘みと旨味が強い。俺、宣言する! カニよりアリの方が好きっ! アリの美味い世界に転生して良かったぁぁぁーー!!)


 その後、ヒロは【塩を足すと五倍旨い】や【アリ味噌はカニ味噌の上位互換】や【足よりボディ側の身の方が奥行きがあってより旨い】や【ギガンターリ1体は無理しても食べ切れない】などのアリあるあるを見つけ出し、【うぅ~んもう食えない状態】となり風呂に逃げ込むのだった。





(さて、アリの件も一段落ついたし、今日の予定に取り掛かるとするか…… しかし旨かったなぁ~~…………)


 ヒロはインベントリから昨日ドロップした金属を取り出した。因みにドロップした金属の単位は1kgであり、1kgの塊がいくつドロップしたか、ということのようだった。

 ヒロの前に■グラフメルト、■カーボランサー、■超神合金+硬、■超神合金+剛、■超神合金+魔、■超神合金+靭、■超神合金+密、と激レアな金属が並べられる。


(まずはグラフメルトからひとつずつ【トレース】していくか。【トレース】って確か、めっちゃMP食うんだよなー)


 ヒロは【グラフメルト】の塊にひと回り小さなフレームを重ね、【トレース】を発動させる。


(フレーム)ピ(トレース)


 するとスクリーン左上にあったMP残量を示す数字[1571]が突然0になり、30秒ほど0に張り付き、その後数字が上昇し元に戻った。


(うわぁ~、こんだけステ値が上がってもやっぱ【トレース】は鬼ほどMP食いまくるんだなー。でも、何日か前に【ミスリル】で5分待たされたことを思えば、それより遥かに上位種の金属である【グラフメルト】が30秒でトレース出来たのはミラクルに速くなってるってことか。DEXとAGIで正確さと速さが増したのに加えてINTも高いから効率がいいんだろうな。よし、さっさと全部トレースしちゃおうっと)


 ヒロはつづけて【カーボランサー】以降の金属も【トレース】していったが、MP回復までの待ち時間はどれも1分以内に留まった。


(よし、これが今の所の俺の金属レシピコレクションだな)




□トレース済み:金属

■鋼

■チタン

■ミスリル

■ヒロハナハガネ

■グラフメルト

■カーボランサー

■超神合金+硬

■超神合金+剛

■超神合金+魔

■超神合金+靭

■超神合金+密



(とりあえず、ミスリルから始めるか……)


 ヒロは1m×1m×1mの立方体フレームを目前に浮かせると、ピンポン玉ほどのサイズのミスリルをイメージして【錬金】を念じた。


ゴトン


 フレームの底にミスリルの粒が生成される。

 そのまま【錬金】を繰り返し、100粒ほど貯まったところで、次は同サイズのヒロハナハガネを同フレーム内に100粒ほど生成。

 さらにグラフメルト、カーボランサー、超神合金各種も同様に100粒を同フレーム内で生成した。


(さーて、この9種900粒の金属がうまく融合して進化できるように、ここからいろいろやってみようか)


 まずヒロはフレームサイズを拡大してから高速で何百回も回転させ、900粒の金属球を均等に混ぜ合わせた。

 次に“一度溶かしてみよーかな”と考え、フレーム内に【温度上昇】の魔法をかけてみる。しかし魔法をかけても見た感じ変化が無いのをきっかけに【金属の融点はめっさ高温】という事を思い出し、MPをたっぷり使った全力の【温度上昇魔法】をかけにかけ倒す。すると……


ジュッ ギギッ ジュ グジュゥゥゥゥ


 などと、聞いたこともない歪むようで軋むような音とともに、900粒の金属が真っ赤に変色したかと思うと、種類によって時間差こそ生じたものの、最後は形をいびつに変形させながらひとつの塊に溶け合っていった。

 フレーム内の金属がドロドロの液体に変化した後は、さらに何千回も高速回転させ、極限までムラを無くしていく。

 その後一気にフレームのサイズを縮小させ、隙間を消すようにさらに小さくしていく。

 するとフレーム内で一体化した液体合金は、物理法則を無視したまま圧縮されることで何度か不気味な変色と振動を繰り返し、発光しながら体積を減らした。

 その後もヒロは【温度変化魔法】で急激に冷やしてすぐまた溶けるまで熱したり、【硬度変化魔法】や【質量変化魔法】も使ってフレーム内に負荷をかけ続けていく。

 そして、7回の変色と15回の爆発と23回の発光を経たところで一旦様子を見ることにし、ゆっくりと常温に戻して確認してみる。




■--- ※名前を付けられます

世界一の強度と密度と剛性と靭やかさの共存が超高純度の魔力と神の忖度により実現した金属由来の特殊物質。S7級物質。




(おっと、これ、いきなり出来ちゃったんじゃね? 理想の金属……ってゆーかもう金属ですら無くなっちゃってるし。あと名前付けられるんだ……)


『ヒメ~、いきなり出来ちゃったっぽい~』


『お、結構早かったわねー。どれどれ~?』


 新物質の情報を一瞥して引きつるヒメ。


『ど、ど、どーやったらこの短い間に金属だったものを【新物質】にしてしちゃえるのよぉ~。スーパーノヴァでも起こした? ブラックホールにでも入れた? ダークマターかなんか混ぜた? しかも命名権付きだなんて……。もぉーホントに驚かせてくれるわねー。さぁヒロ、この物質に名前付けてあげれば?』


『え~、名前? 物質に?』


『そーそー。ヒロ得意じゃない? 【流星4号】とか【ブラッディダガー】とか【フレームセイバー】とか、カックイーのが好きなんでしょ?』


『……改めて冷静に並べて語られると悲しくなってくるからやめてくれ。俺も異世界転生者として異世界を渡り歩くために、そう、己を鼓舞するために必死だったんだよ。今もだけど……』


『別に悲しくなること無いじゃなーい。ヒロの好きなようにすればいいんだからさー。またカックイーの付ければいいでしょ?』


『………… そーだな。やりたいようにやればいいんだったな。よし、それじゃあ新物質の名前はねー』



 5分が経過した。



『決めた。この物質の名前は【メガミウム】だ』




■メガミウム

世界一の強度と密度と剛性と靭やかさの共存が超高純度の魔力と神の忖度により実現した金属由来の特殊物質。S7級物質。




『【メガミウム】とは、ヒロが女神であるヒメと共に創り上げたことから【女神】を引用して名付けられた新物質なのであ~る!』


『え~~~照ぇ~れぇ~るぅ~~♡』


『照れるな照れるな。ヒメが照れると俺はその数倍恥ずかしいじゃないか。さ、さぁ、そんじゃメガミウムも出来たことだし、その性能を確認するための試運転を始めよーかな』


『と、言うと?』


『そもそも俺が【凄い金属】……まぁ結果的には【凄い謎の物質】にはなってしまったが、それを創りたかった理由はたったひとつで、【フレームセイバー】の【フレーム内物質】の質を出来るだけ強くしたかったから……なのだよ』


『あぁ~ はいはい』


『だから、これからする試運転ってのは、【フレームセイバー★メガミウム★1µm50cm】みたいなのを作って、いろんなものを切り刻んでみて、どんくらい凄いかを確認するって作業なんだよ』


『おぉぉー。なんか凄いねー』


『だからヒメ、俺またしばらくひとりの世界に入るから、じゃ~ね~』


『はぁ~~い。ヒロまったねぇ~♪』


 こうしてヒロの【新フレームセイバー】実験が始まった。





 大草原上空に浮かんだ【流星4号★枡★30×30】[直前にメガミウム製へと変更]。

 その中央にヒロは佇んでいた。


(まずは、切れ味と耐久性を試すために切られ役の【的】を用意しないとな)


 ヒロは【錬金】を使い、その場に【2m×3辺のグラフメルトの塊】を生み出した。


ゴゥゥゥゥン


 床に置かれただけで、無垢のグラフメルトは轟音を奏でる。


(水でも8トンのこのサイズ、グラフメルトだと200トン以上ありそうだけど……さすがフレーム由来の流星4号、ビクともしないな)


 次にヒロは今回の主役である【フレームセイバー★メガミウム★1µm1m】を生成。


(やっぱり前回より細いのが創れるようになってるな。ついに1µmのレベルにまで来たかー。多分もっと細く出来るだろうけど、【刃物の刃】を1µmよりさらに細くし続ける意味ってあるのかな……。ま、とりあえずこの仕様をデフォルトとして試しに切ってみますか)


 直径1000分の1ミリ、長さ1mの【肉眼では確認できないメガミウム製の極細棒】を、触ること無く、指先以上の精密なレスポンスでヒュンヒュンと回したり止めたりしながら、ふと【的】であるグラフメルトの塊に目をやるヒロ。

 次の瞬間


キンッッ……


 ヒロが一太刀振り抜いたと同時に、か細い金属音のようなものが小さく響き、グラフメルトの角がスーーっと滑り出し、ゴトッと足元に転がった。


(おぉぉ、天然金属世界一の強度を誇るグラフメルトが豆腐みたいに切れたぞ! つーことは、もはやこの世界に【フレームセイバー★メガミウム★1µmシリーズ】をもって切れないものは無い……ってことか……。もーちょっとやってみよ♪)


 あまりの切れ味に気を良くしたヒロは、さらにフレームセイバーの長さを3mほどに伸ばし、【グラフメルトの塊】に斬撃を浴びせまくった。

 面白いように輪切りになるグラフメルト塊。

 それを見てさらに調子に乗ったヒロは、【フレームセイバー★メガミウム★1µm3m】を【スコープ】と併用し、1kmほど先の大きな岩や大木の周りまで飛ばすと、ヒュンヒュンと振り回してみる。

 遙か先の岩や大木は精密機械で研磨したような断面を残して切り刻まれた。

 と、ここでヒロは深刻な表情を見せる。


(これは……ヤバ過ぎるな。フレームはサイズも取り回しも自由自在。もし【フレームセイバー】の長さを2万kmとかまで伸ばして縦にヒュンヒュン回転させたら……この星が輪切りになっちゃうってことか。それって世界の終わりじゃん。俺魔王決定~テヘッ♪じゃん。……ちょっともう長さとか威力のテストはやめておこう。凄いの充分わかったし、本気で怖くなってきた)


 物理法則を無視して変形・移動するフレーム武器の恐ろしさに気付いたヒロは、心の中で5分ほどの一服休憩を挟み、次は【同時使用数】の限界を調べるテストに乗り出した。

 まず、【フレームセイバー★メガミウム★1µm1m】を基本とし、もうひとつ【フレームセイバー★メガミウム★1µm1m】を生み出し、ふたつの【フレームセイバー】を全く違った動きで扱えるか、全く違う目的を同時に遂行できるか、と試してみた。

 結果は、【問題なく同時使用できる】だった。

 次はさらにひとつ増やし、【3つのフレームセイバーを独立してバラバラに扱えるか】を試みるが、これは【余裕は無くなるけど出来るっちゃー出来る】という結果にとどまり、現時点のヒロのステ値では、【フレームセイバー】の同時使用数は【3つが限界】であることが判明した。

 【照明】や【ソアァ】や【高反発マット】のように、【フレームで作られたアイテム】の中でも【位置や状態を固定しておくだけの使用方法】であれば、MP消費という負荷しかかからず10でも20でも同時使用できたが、【フレームセイバー】のように道具や武器として複雑なコントロールを前提とした使用のものだと【3つが限界】という現状だった。


(よ~し、まだレイアーム・ローのフィンファンフォンネルには及ばないけど、このままレベル上げていけばいつかはフレームセイバー100個くらい飛ばして無双状態♪も夢じゃないかもなー。あ、つーか俺、戦闘では【フレームセイバー】使ってないんだったわ。……まぁ、物騒だし、いくらでも変形・移動できるからって度を越えた規模のフレーム生成はマジでやめとこ。俺の振り回したフレームにより俺死亡……だって無いとは言い切れないもんな。ふぅ~。とりあえずいろいろテストしてみて良かったよー。チートな力があるからこそ、やりすぎは禁物だな。うん、偉いぞ、俺)


 こうして昼頃にはヒロの実験タイムは終了した。





 早めに予定を終わらせたヒロは、ハナに魔晶を食べさせつつ、ゴッドハンドグルーミングを施していた。


『クゥ~ン……………………』


『そーかそーか、言葉もないほど気持ちえ~のんか~』


『パパ……そこ……もっと……』


 サワサワと、ワシャワシャと、シトシトと、クリクリと、ウリウリと、モワモワと、魔法の手がハナの全身をメンテナンスしていく。


『ゥゥ~ン……………………』


『ハナちゃん、もうヒロ無しでは生きていけない体になっちゃてるわねぇ。もう完全にトロトロに蕩けてるじゃない』


『ヒメ、もっと言ってくれ。何よりもの褒め言葉だぜ』


『……あのね、ヒロ。こんないい天気の、そよ風が頬を撫でる真っ昼間に申し訳ないんだけど……報告がありまーす』


『む、嫌な予感しかしないぞ』


『鋭い。鋭すぎるわヒロ。なんと、【災害】のお知らせよ』


『なんだその【まちづくりシミュレーションゲームの秘書からの報告】みたいなやつは。ちなみにそれは、これから起こるの? もう起こってるの?』


『ん~、【離れた所でもう起こってる】って感じかな。しかもぉ、どんどん規模が拡大中で、暫く後にはこの辺りにも影響が出てきて、ゆくゆくはガンズ砦やセンタルスの町にも大きな被害が及びそうな【災害】なのよ……』


『当ててみよう、ズバリ、【疫病】だろ?』


『惜しい! 【バッタ】でした~。しかも魔物のバッタ、【ノマドホッパー】の大発生なのよー』


『あー、あの、何から何まで食べ尽くされちゃう系のやつかー』


『そ~なんです。しかもこいつら魔物なので、1匹のサイズもデカいし、食欲も只のバッタに比べたらまさにモンスター級なのよ。ゴブリンくらいなら数十匹に寄ってたかられて、ものの3分ほどで骨も無くなっちゃうわよ』


『えっ!? バッタ肉食なの!?』


『ん~元々は草食なんだけど、テメーらで大量発生しちゃったのが原因で食糧難に陥っちゃって、結局何でも食うわっつって木でも肉でも魔物でも人間でも襲っては食べ尽くしていくのよ。たち悪いでしょ?』


『怖っ! ちなみにそのバッタの情報は?』


『はいな!』




■ノマドホッパー

バッタ型の魔物。雑食で強欲。一匹の能力は低いが大量発生すると国を滅ぼすこともある。

体長:20cm~30cm

体重:250g~800g

備考:素材としての需要は低い。




『けっこーデカいバッタだなー。でヒメ、こいつらは今どーしてんの?』


『私の持ってる【神災害情報ネット端末・災害くん[試供版]】によると、現在はこの大草原グレートプレールの北部にて大発生中らしく、既に30万匹を突破しており、このままの勢いだと群れがグレートプレール南東に到達する頃には500億匹に達する模様。らしいわよ』


『え? 500億匹? 億匹? ヤバくない? それけっこーヤバイんじゃない?』


『うん、だって【災害くん】の画面に赤いドクロが点滅してるもん』


『……今30万でしよ? で、500億になるのはどれくらい後なの?』


『んーと……3ヶ月~半年後くらいみたいよ』


『するってーと何かい、このまま知らん顔してたら、俺達のこの大草原が、全滅しちゃうかも知れねーってことなの?』


『“かも知れねー”じゃなく【全滅する】って話ね。既に現在でも発生中の北部エリアでは【グレートバイソン】を筆頭にお馴染みの大草原グレートプレールゆかりの魔物たちが、ざっくり7万匹はバッタの胃の中に消えちゃってるみたいだし、このまま放っておけば、この大地の生命の根源である【魔草】から始まって、牛も鹿もリスもアリもみーんな食べ尽くされちゃって、あとに残るのは飢餓で死んだ500億匹のバッタの死骸の山。そこから腐敗が始まって、広大な土地には毒素を出し続ける植物が群生。たちまち腐った森が形成され、奇形の毒虫しか住めない樹海となり、その毒樹海に現れるのは小山程の大きさを誇る巨大な毒樹海の主、その名もワーム。彼らはバッタの身勝手な末路に怒りで我を忘れ、複数の眼は赤く光り、もはやハナちゃんの奏でるワームリコーダーの音色[きらきら星]にも耳を貸そうとしない。そして無理矢理起動された古代兵はドロドロに腐っちゃった……。みたいなことになっちゃうのよ!』


『おいバッタ! ふざけんなよ!!』


『……そのシャウト、バッタには届いてないと思うけど……どうする? 届けに行く?』


『うぬぬぬぬー。バッタめ許すまじぃ~。ヒメ、すぐに北に向かうぞ! ハナぁ~今からちょっとだけ怖いとこに行くから、ハナはパパの中でねんねしててね~』


『パパがんばってぇ……』


 ヒロの胸に抱き包まれて夢心地だったハナはうつらうつらしながらヒロの中へと戻っていった。


『ねぇヒロ、向かうのはいいんだけどさ、勝算はあるの? 相手は30万匹以上の虫の大群よ。しかも広域に渡って分布してるし移動し続けてもいるのよ。1匹ずつ倒してたら終わらないんじゃない?』


『確かに。今までみたいに1匹ずつ殺ってたら、探す手間もあって、下手すっと無限ループで殲滅できませんでした~ってパターンもあるかも知んない。だから、今回は【群れをまとめて囲って殺る】にシフトしてみようかと思う』


『おぉぉ、計画があるんなら止める理由もないわ。行きましょ!』


 ヒロはすぐさま流星4号を【キューブ★333】に変形させ、北に向かって出発した。

 【ヒロハナハガネ】から【メガミウム】に進化した【流星4号】は唸りを上げて空を切り裂くのだった。


『ヒメ、北部って言ってたけど、距離的にどれくらい?』


『えっとねー、群れの端に当たるまでが700kmくらいねー』


『てことはー、時速700kmで飛べば1時間で戦闘開始だな』


『おぉぉ、流星4号の速度の実験ね。今日は実験デーね~ヒロ♪』


『今までせいぜい時速100kmくらいしか出して来なかったけど、今後、ワープ的なスキルが身に付かないかも知れないからさ、最高速度は速い方がいいっしょー』


『まぁ今のヒロのステ値だったら音速移動なんて簡単そうだけど、なるべくなめらかに動かないと急激なGに耐えきれず首の骨が折れたりしそーだから気をつけてね~』


『確かに。俺VITあんまし高くないもんなー。よーし、そんじゃ【なめらかな加速と停止と方向転換】をモットーにスピード上げるからヒメ、向きの微調整、指示してねー』


『は~~い』


 ヒロは【流星4号★キューブ333】を高度300mまで上昇させ、ゆっくりと電車のように加速していく。

 ヒメの指示で向きを微調整しながら加速は続き、気付けば2分ほどで音速に近い領域にまで達していた。


『うわっ、こりゃマジで1時間で到着するなー。あとは、超低確率ながら、この軌道上に鳥やら竜やらが偶然飛び出してきたりしないことを祈るばかりだよ』


『何にぶつかろうがこっちは揺れることもなくノーダメージで進み続けるだろうし、当たった方はそれが例え竜だったとしても瞬間爆散だろうねー』


『怖い怖い、フレーム怖い。怖い怖い、メガミウム怖い……』





 1時間後、ヒロは大草原グレートプレールの北部エリアで、2千匹ほどのバッタの群れと対峙していた。


『ヒメー、やっぱ30万匹が一箇所に集合して待っててくれてるって訳じゃないんだなー』


『そーねー。今このあたりを飛び回ってるサイズの群れがあちこちに点在してて、その範囲が20~30km四方って感じかなー。あとこいつらはね、群れだからって言っても別に30万匹が仲間って訳ではないの。千とか2千とかのサイズの群れが、みんなで争って生存競争をしているってイメージかなー』


『バッタ同士もライバルってことかー。アリと違って殺伐としてんなー』


『バカなのよねー。こいつらは増えるだけ増えて、最後には飢えて共食いして全滅しちゃうっていう、なんとも虚しい末路を辿るのよ。どんなゲノムしてんのかしら。全く迷惑な話よね。だからこそ【災害】として扱われてるんだけども』


『なるほど、納得だわ。さっそく殲滅していこうか』


 ヒロは【流星4号★キューブ333】を上空で停止させると、【スコープ】を使ってバッタ濃度の高い場所を探し、その周辺の空間を土地も含めて縦100m×横100m×高さ100mほどの巨大フレームで覆うと



(フレーム)ピ(成分変化★水)



 と【成分変化魔法】を発動させる。すると視界左上のMP数値が一気に1000以上無くなり、縦横高さ100mの水の塊が出現。その瞬間に(フレーム解除)を命令。一瞬だけ存在した巨大な水の塊は瞬く間に元々の状態に戻り、その刹那の変化によって命を刈り取られた数百匹のバッタがピクリとも動かずに地面に転がっていた。


(よーし、MPめっちゃ無くなったけど、一辺100mくらいの立方体なら一発で物質変換できたわ。あとは……)


 ヒロは地面に転がる数百匹のバッタの死体を眺めながら、その全てを一旦インベントリに収納した。

 そして1匹だけを取り出し、解体を始める。

 【メモ】に【ノマドホッパー】の体の構造解析結果が次々と記されていき、魔晶の位置、体の形、内臓器官や神経、筋肉の情報が蓄積された。

 2匹目からは過去の脳内解体と同じ様に、インベントリ内でのブラッシュアップ作業が繰り返されたのだが、ひとつ違ったのは、この【ノマドホッパー】に限っては、【体の形状と魔晶の正確な位置】に特化してデータ収集&上書きが行われた、ということだった。

 かくして数百匹のバッタ全てを脳内解析したヒロのメモには



Fランク

■肉体解析データ[解析度B]ノマドホッパー



 という項目が追加されていた。


(よし、こんなもんだろ。解析度がBなのは【体の形と魔晶の位置】ばっかりやってたからだし、これで準備は整ったはずだ)


 ヒロは目を閉じ、集中モードで願った。


(えーっと、【メモ】に保存してある【肉体解析データ】をインベントリに【エクスポート】して、インベントリ内で【肉体解析データの解析度】に依存した【仕分けと再収納】を自動化出来るようにしてほしいです!)







ピロリロリン♪


(よし! 確認だ!)


 急いで【メモ】の説明書を開くと



□メモ

■メモには脳内イメージを個別に分類し保存することができる

■メモに保存したデータは永久に保存される

■メモ内でデータの更新や編集、削除なども行える

■メモに保存できる容量は無限である

■メモの持つ可能性は使用者の想像力次第で若干広がる

■メモに保存されたデータはインベントリやフレームと自動リンクし共有基礎データとして利用できる



(よーしよし、めっちゃ理解してくれてる! これで【メモ】のデータをインベントリで使えるようになった! つまり、【ノマドホッパーの死体の自動認識】と【ノマドホッパーの死体からの魔晶のみの自動分離】がインベントリへの命令だけで可能になった筈なんだけど……)


 ヒロは【流星4号★キューブ333】を水平に暫く移動させると、再度バッタ濃度の高い場所を見つけ、その周辺も含めた土地ごとを一辺100m級の巨大立方体フレームで覆った。



(フレーム)ピ(成分変化★水)(バッタのみインベントリ分別)



 今度は数百匹のノマドホッパーが(インベントリ分別)という思念の瞬間に全てフレーム範囲から消えた。

 そして


(やった! インベントリ内でバッタのボディと魔晶がちゃんと別々に収納されてる! 【バッタのみインベントリ分別】の【バッタのみ】も成功してるし、【魔晶だけ別に】ってイメージを添えたらちゃんと実行されてるじゃないか! なーんて優秀なんだよ~俺! いや神様? アルロライエ……ちゃん?)




ピロン


 ヒロのスクリーンにテキストのみのダイアログボックスがひとつ現れた。

 そこには



《わたしです ヽ(*´∀`*)ノ 》



 と書かれており、その後暫く消えずにヒロは困った。




『……ヒメ~』


『は~~い』


『俺は遂に【仕分け収納の自動化】に成功したぞ!』


『見てたよ~。これで脳内とは言え延々と繰り返すような解体仕分け&再収納作業ともオサラバね~』


『ランクの低いバッタにも小さいながら魔晶があるからなー。あとで1個1個何十万回と取り出すのと、自動で分別収納されるのとでは時間的な負荷がまるっっっっきり違うから超便利だよ~♪』


『そーかぁ、そのためにいろいろと準備してたんだねー』


『でもさ、ふと思ったんだけど……』


『ん?』


『ヒメの神仕様インベントリを俺が実装してるってこと、アルロライエちゃんにバレんのマズくなかった? つーかヒメの存在ってバレるとマズいんじゃ……』


『あ~その件ねぇ。まぁ本来ならマズいことなんだけどねー』


『本来なら?』


『うん。本来なら。まー話せば長くなるんで簡単に言うとね、アルロライエちゃんに関しては既に買収済みだから大丈夫だよん♪』


『買収……』


『まぁまぁ、ちっちゃいことは~気にするな~ソレあまちかあまちか~♪』


『そ、そうなのか。まぁそんじゃー準備は整った! ヒメ、バッタの群れの探索ガイドよろしくね、いくぞー!』


『おーーー!』


 【インベントリ内自動解体&仕分け】という新性能を得たヒロは、心躍らせながら次の群れへと照準を定める。


(フレーム)ピ(成分変化★水)(バッタのみインベントリ収納&分別)


『……よし! 問題なく成功してる。さぁ~て、この地に蔓延るバッタ共よぉ~、目にもの見せてくれ…………あっ!』


『どしたの? ヒロ』


『……いや、……いやいやいや、……このままじゃマズいわ。考えても見たら【範囲攻撃】として【成分変化】させちゃってるからさ、【範囲内に居るバッタ以外の生物】も全部殺戮しちゃってるじゃねーか』


『そーいやそ~ね~。さっきは魔草と羽虫くらいしか存在してなかったからその点には気付かなかったわ~』


『…………ん~~。【範囲殲滅】はマジで良くないぞ…………』


 ヒロは悩みに悩んだ後、諦めたように決断した。


『……うん。渋々だけど、やっぱアレを使おうかな。もはやこれは【狩り】ではなく【駆除】である、という割り切った前提に徹してだな、今まで何度も頭をよぎりはしたものの“俺の狩人としての美意識が許さん!”の一点張りで封印してきた【究極の狩猟術】を発動する時が来てしまったのかも知れん。つーかそれが最善手……だと思う』


『…………ヒロ。……ついに、アレを……やるのね……』


『ヒメ、止めないでくれ。そして出来るなら、こんな俺を………… 軽蔑しないでくれ』


『ヒロ、私があなたを軽蔑なんてするわけないでしょ? あなたはよくやってるわ。私がぜんぶわかってるよ。だからそんなに自分を責めないで。これから進む未来、どんな事が起こったとしても、私はヒロの味方よ。ずっと一緒でずっと応援してる。自信を持って自分の決めた道を生きなさい♡』


『ヒメ、…………愛してるぜ……』


 直後、ヒロの表情が鋭く変化する。


 ヒロは、一辺300mにまで拡張させた巨大立方体フレームを展開し、ノマドホッパーの群れを瞬時に囲い、寂しげに念じた。


(ノマドホッパーのみインベントリ収納)


 刹那、ヒロの目前を広範囲に飛び回っていたノマドホッパーの群れは一匹残らずインベントリへ収納された。


『…………やっちまった。俺の能力なんて何の関係もない、ヒメのインベントリに依存した【究極のズボラ狩り】を……』


『……ヒロ、気にしないでいいよ~。今は緊急事態なんだから割り切ろうよ、ね?』


『……いや、ヒメ、【人】っていう生き物はな、【楽で便利な手段】を得てしまうと、それを常用・乱用せずにはいられないものなんだよ。現に俺は今、今後の展開を見据え、自分のズボラを止められない暴走モードに突入しようとしている……』


 ヒロは虚ろな目をしながら中空に向けて強く念じた。


『……アルロライエちゃん、インベントリ内に収納した生命体を、インベントリから出すことなく、俺のMP消費による物質変化魔法で殺処分し、解体と仕分けを全て自動で遂行することは、……出来ますか?』




ピロン


 ヒロのスクリーンにテキストのみのダイアログボックスがひとつ現れた。

 そこには



《余裕です♪ (*´∀`*)ノシ 》



 と書かれており、その後暫く消えなかった。




『ヒメ~、これでバッタの駆除…… っつーか、今後の狩り全般は全てオートメーション化したよ~。技術革新って怖いよね~』


『まぁ別にい~んじゃない? そもそも【狩りは苦労しなきゃいけない】なんて決まりは無いんだしさ~』


『ヒメのインベントリを使わせて貰えるようになってからというもの、定期的に案としては出ていたシンプルイズベストな方法ではあるけれども、【それをやっちゃあおしまいじゃね?】的見地から封印し続けて来たこの【まずはインベントリに収納してしまう猟】が、こんなバッタ騒動によって日の目を見てしまうことになるとは…… やっぱ少し後ろめたいんだよなぁ……』


『そんなにテンション下げないでよ~。いつの世もイノベーションの波にいち早く乗っかった奴が次の時代の価値観を先導していくもんなんじゃないの~? そーゆ~意味でも良い事なんじゃないの? あと、ヒロの場合は個人的にやってるイノベーションなんだし、誰の目にも触れてないんだから【後ろめたさ】も何も無いでしょ~』


『ヒメ………………』


 ヒロは暫く瞑想し、【体のどこかで惰眠を貪っていた第三以降のいくつかの曇った真眼】をパッチリとこじ開け、精神の内に広がる淀んだ大海原に【悟りめいたもの】を複数発テキトーに打ち上げた。


『…………そ、そうだな♪ 確かに【狩りの行程が簡単になっただけ】って考えれば悩むようなことでもないよな♪ 便利、い~じゃないか! 簡単、最高だぜ! ヒメよ、俺はたった今解脱したぞ! これからは【インベントリ狩り】に躊躇なんかしねーぜ! “格闘技大会に日本刀持ち込むなんて卑怯だ!”とか“剣術大会にサブマシンガン持ち込むなんて卑怯だ!”とか“子供の喧嘩に巡航ミサイル撃ち込むなんて卑怯だ!”とか、そんな倫理的先入観なんてポイだぜ! 見てろよ~ノマドホッパーめぇ~。バッタバッタとインベントリに放り込んでやっからなっ! バッタだけにっ!!』


『………………』


 こうしてヒロは、自らが禁断と封じていた【インベントリ狩り】を解禁した。

 そしてアルロライエのバックアップを得たことで、インベントリ内での殺傷と解体と仕分け作業の自動化が可能となり、もはやヒロの狩りは【作業】から【命令】へと変革していたのだった。


 意識改革を経たヒロは、その後何十キロという距離を行き来しながら【インベントリ収納】を打ちまくった。

 しかしバッタの群れは予想以上に広範囲に、そして大小様々な集団で点在していたため、日暮れまで続いたこの日の殲滅駆除作業の成果は目標を下回る10万匹程度に終わった。

 そしてこの【事が思惑通りに進まない歯痒さ】がヒロをデストロイモードへと変える。

 14日目の朝のルーチンを最小限に抑え、日の出1時間後には一度に囲うフレームサイズを一気に拡大した大規模殲滅を開始する。途中ハナとのスキンシップに1時間ずつ3回ほど休憩を入れはしたものの、延々とバッタの群れを追い続け、夕方には遂に殲滅数30万匹に到達し、駆除はほぼ終了したかのように思えた。

 しかし明けて15日目、卵や幼虫を全て撃ち漏らしていることが発覚し、さらにはフレーム範囲の遥か上空を飛翔するバッタの存在も明らかとなり、朝から【撃ち漏らした残党の探索と殲滅】を繰り返すこととなる。最後には、焦れたヒロにより繰り出された【スコープ認識範囲限界サイズの超巨大フレーム】を乱発することにより、遂にヒメから【駆除成功】のお墨付きを得たのだった。





『んがぁぁぁぁああ~~~…… 疲れたぁ~~~ ごっつ疲れたぁ~~~ ぶち疲れたぁ~~~ もんげー疲れたぁ~~~ こじゃんと疲れたぁ~~~ いや正確に言うと飽きたぁ~~~』


『お疲れ様~ヒロ、誰にも知られることなく【災害】からこの大陸を救ったわね~ カックイーよ~』


『とにかくもう暫くバッタは見たくないよ……。ヒメ、ほんとーに【終了】でいいんだな?』


『大丈夫! だって私の【神災害情報ネット端末・災害くん[試供版]】の画面のドクロが【笑顔のかわいいドクロ】に変わってるもん』


『それ、本当に信じていいやつなのかよ~。まぁバッタの気配は確かに全く感じなくなったけどなー』


『それにしても思ってたより大変だったねー』


『マジで長丁場だったなー。【インベントリ狩り】で行くって決めた時は楽勝だって思ったけど、あいつら思ってた以上に分散してやがるし、変な湧き方しやがるし、結局あのバッタの野郎、40万匹以上もいやがったし』


『上空にもいたからね~』


『まさかあいつらがあんな高度にまで飛んじゃってるとは夢にも思わなかったよな~』


『殲滅終了したはずのエリアに突然また群れが現れたりして、原因究明に難航したわよねー』


『そんなこんなも全て、今となっちゃ良い思い出……って良くもないけど、まぁいい経験だったよ……』


『で、結局バッタは何匹駆除したの?』


『えー発表します。インベントリ内にある【ノマドホッパー】の死体の数は…… 43万と1197匹です!』


『おぉぉ~。てーことはつまり、魔晶も同数あるってことなのね~』


『もちろんです』


『Fランク魔晶とは言え、43万個もあればひと財産ね~』


『まぁ、特に使い道も無ぇーけどなー』


『ふふふ、あーあとレベルは?』


『え~っと、今日の分もステ振りしたのがこんな感じ』




Lv:160[23up]

HP:1000[500up] + 661

HP自動回復:1秒5%回復[1%up]

MP:1000 + 645

MP自動回復:1秒10%回復


STR:500        + 557

VIT:1000[500up] + 676

AGI:2000       + 746

INT:2000[300up] + 712

DEX:2200[200up] + 675

LUK:427 [18up]  + 1235


魔法:【温度変化】【湿度変化】【光量変化】【硬度変化】【質量変化】【治癒力変化】【錬金】【トレース】【成分変化】


スキル:【ショートカット】【インベントリ(ヒメのなんだからね!)】【スコープ】【必要経験値固定】【迷彩】【メモ】【アイテムドロップ[アルロライエのセンスで]】




『……すごーく上がってるんだけど……丸2日働き詰めだった割りには……』


『だろ? 牛狩ってた頃の効率考えたら、バッタは時給の悪い狩りだったよ……』


『まぁまぁ、世界を救ったと思えば見返りは膨大でしょ?』


『そーだな、別に経験値欲しさでやった訳じゃないし、ラビさんやゼキーヌさん、ガーリックさん、ミントン村のみんなを助けられたと思えば、最高の気分かな』


『ヒロのそーゆーとこ、【人間】ぽくて好きよー。あれ? ハナちゃんの【仁愛】効果が5%に増えてるねー』


『そうそうこれってさ、俺、MPはいつも使いまくりの減りまくりだから【MP自動回復】に関してはありがたみと効果を実感してるんだけどさ、【HP自動回復】に関しては、そもそもHPが減った事がないっつーか、よく分かんないんだよねー。ヒメ、【HPが減る】ってどーゆー状態なの?』


『まぁ簡単に言えば、細胞が死滅してる……つまり無くなってる状態かなー』


『怪我とか?』


『あと、病気や毒で体の一部が腐ったりとかもだね』


『じゃーさ、【疲れが溜まってもう体が動かないよ~】的な状態ではHPの数値には変化は無いんだ?』


『それはもちろん有るわよ。厳密に言えばそれも細胞の死滅の延長だけどさ。ヒロの元いた世界にも【過労死】とかあったでしょ? ようは、身体の耐久値を超えて酷使された場合、人間なら脳や心臓、魔物なら脳や魔晶に負荷がかかり過ぎて破損してしまう状態の事だからね。あと、もっとゆっくりした疲労の蓄積で死に至らない場合でも、結局は全身の細胞が徐々に疲弊して、心肺器官や循環器官に不具合が生じ、ベストの状態を保てなくなる状態だから、【再生が追いついてない細胞の死滅】と言えるわ』


『なるほどねー。じゃあ俺のHPが何時見てもマックス値に張り付いてるのって、実は凄いことなんだねー』


『そーなんですよ、ヒロさん。だからこそ、ハナちゃんがくれた【仁愛】による効果の【HP自動回復:1秒うん%回復】ってーのは、実は【チート中のチート】だってことなのよ。考えてもみてよ、普通の生物は肉体が傷付いたら何日もかけて自然治癒していくものでしょ? 傷によっては何週間もの時間がかかるものだって有るわよね? 内臓疾患で自然治癒のみなら何ヶ月って事もありそうよ。ところが【HP自動回復】は、肉体損傷の程度を無視して【毎秒一律うん%】っていう強引な回復を約束するステータスだから、これがあるだけでポーションや回復魔法は必要無くなっちゃうのですよ。しかも【ちょっと体調悪い】なんて状態を無視して、絶えず万全を維持だよ。いや恐ろしい~~』


『じゃあさ、例えば俺が、左手一本魔物に食われて無くなっちゃったとしたら、回復するの?』


『ん~、ヒロのステ値まで上がってると……回復するんじゃないかなぁ』


『ステ値でそのへん変わってくるんだ~』


『うん、HP、VIT、INTあたりの数値が高いと、治癒再生能力も上がっていくみたいだから、ヒロくらいあれば……多分……』


『とても実験する気にはなれないな。ていうかさ、例えばそれらのステ値が滅茶苦茶高かったらさ、首から下ぜんぶ無くなっても脳さえ残ってれば再生したりするの?』


『それはぁ……いくらなんでも無理なんじゃないかなー。一応、理論上は【数値次第では内臓器官でも再生する】ってことになってるらしいけど、やっぱ【正常に動く心臓と損傷していない脳が繋がっている】ってのが最低ラインの条件じゃないかしら……。ただ、ヒロの場合は今ですら【HP自動回復:1秒5%回復】でしょ? つまり20秒あれば、死にかけてても完全回復できるってほどの治癒再生速度があるんだから、首だけになっても……ひょっとしたら20秒で戻ってるかもねー』


『うん、この件に関しては【怪我が20秒で治る】ってあたりで喜んでおこう! どっちみち細かい線引きまで把握するのは難しいだろうからな。実験する気なんかサラサラ起きないし』


『あとヒロ、この【HP自動回復】は怪我や病気がすぐ治るって効果よりも……あ、まぁいいか。気にしないで~』


『ん? なになに? 気になるんですけど』


『まぁそのうち話すわ~。あぁ、あとヒロ、気付けばインベントリのお金が増えてるよね』


『そーそーそれな、俺こんなに持ってなかったよな?』


『たぶん…… 【アイテムドロップ[アルロライエのセンスで]】のオマケ機能なんじゃないかと思うんだけど…… あ、今回はドロップあったの?』


『いやぁ~それがさー、今回はアイテムドロップの時に鳴るっぽいピロピロ音がさ、ほぼ記憶にないんだよなー。鳴ってないかも知んないわ』


『一応確認してみたら?』


『そーだなー。ん~と……』


 インベントリ内の【ドロップアイテム】を確認したヒロは、数秒の沈黙を経て無意識の肉声で絶叫した。


「きぃぃぃぃぃぃたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!!!! あんまり表沙汰にはせずにひっそりと処理してきた深刻な問題にメガトン級の一石を投じる夢のアイテムが俺のインベントリにぃ~、きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!!!!」


『どーしちゃったのヒロ、今更何にそんな喜んでるのよ?』


『ヒメ、見て見て! これこれ、見て見て!』


『え~どれどれ?』




【ドロップアイテム】

■亜空間転送型腰掛式便器★ダシテキエールRZ2座EX

■亜空間転送型便パンツ★ダシテキエールRZ2履EX




『あぁ~、そーゆーやつね~♪』


『これは多分、俺が【こんなんあったらなぁ~】って夢にまで見たアイテムに違いないって気がする! 文字面からアタリの気配が漂いまくってる! 詳細見てみよう!』




■亜空間転送型腰掛式便器★ダシテキエールRZ2座EX

人用自動糞尿処理システム。高さ380mmの座面に座る姿勢で排便排尿ができる。排泄された糞尿は、便器内側のフレーム空間で認識された瞬間に、リンク登録された専用の亜空間へにおい物質ごと転送されるため、便器そのものには糞尿の気配すら残らない。また、フレームが使用者を認識し、肛門や尿道先端に付着した残留物も同様に転送するため、洗浄や拭取りの必要がない。

幅400mm 奥行500mm 高さ500mm[蓋含む] 座面高380mm

備考:水や電力を使わないため持ち運びが可能。EXタイプにつき音についても位相反転処理等が施され無音状態を保つ。各種設定可能。



■亜空間転送型便パンツ★ダシテキエールRZ2履EX

【亜空間転送型腰掛式便器★ダシテキエールRZ2座】の技術をインナーパンツに応用して開発された人用自動糞尿処理システム。パンツの内側全体に薄いフレーム空間を展開することにより、履いたままでの排泄を可能とした。もちろん【ダシテキエールRZ2座】同様に、臭いも残留付着物も全て亜空間転送されるため、絶えず清潔で無臭な状態が維持される。また、パンツ全体に微粒子レベルのフレーム転送機能が施されているため、洗浄やメンテナンスの必要がない。

形状のデフォルトはボクサータイプ。サイズはフレーム技術により伸縮可能。履き心地、重量などは一般的なインナーパンツと変わらない。

備考:EXタイプにつき音についても位相反転処理等が施され無音状態を保つ。各種設定可能。




『やばい、これぞまさに【神アイテム】だぜ。ヒメ、俺、ほんっとぉーに、バッタ43万匹駆除して良かったよ~。やっぱドロップアイテムって最高だな♪』




ピロン


 ヒロのスクリーンにテキストのみのダイアログボックスがひとつ現れた。

 そこには



《センス♪  d(*´∀`*) 》



 と書かれており、その後暫く消えなかった。




『そーだな、なんだかんだ言いながらも、毎回アルロライエちゃんのセンスによるアイテムドロップには盛り上げて貰ってるし、なんつっても今回のドロップは最高だった! ナイスセンス! ありがとう! アルロライエちゃぁ~ん!』


 この日、今まで裏方の事務作業に追われ、一度も【人間からの強い感情】を直接受け取った事のなかったアルロライエは、【超強力なステータスに進化したヒロから全力で放たれた指向性の強い純粋な感情】を至近距離からモロに浴びてしまい、あまりの快感に痙攣し失禁し気絶してしまったのだった。

 この時の副産物が【アルロライエの聖水】として今後ドロップするか否かは神のみぞ知るところである。


 そしてこの事態を同じ神であるヒメだけが敏感に察知していた。


(アルロライエちゃん、無事だといいけど…… 私ですら【高レベルになってからのヒロの高指向性で高純度で高出力な感情】が直撃すると、気持ち良すぎて一瞬意識失う時があるんだから…… 新人のあの娘が無事で居られる訳ないよね……)


『ん? ヒメなんか言った?』


『いやいや、なんも言ってないっすー。で、ヒロ、この後はどーするの?』


『そーだなー、まずは…… パンツの履き替えかな』


『でしょーねー』


 ヒロは嬉々として【亜空間転送型便パンツ★ダシテキエールRZ2履EX】を履き、その履き心地に暫し酔い痴れていた。

 その後、ハナのおやつタイムとじゃれ走りタイム、ゴッドハンドグルーミングタイムに計3時間を費やし、空がオレンジ色に染まり始めた頃にモノリス風呂へと入浴する。珍しく“いっしょにはいるの!”と眠気と戦ったハナだったが、湯船の中、ヒロの腕に包まれながら撫でられると一瞬で巣[ヒロの中]に戻ることとなった。

 そして大草原グレートプレールにオリジナルソングを轟き渡らせたヒロも、その後、夕食のグレートバイソンのヒレステーキを頬張りながら、ウトウトと船を漕ぎだす。

 食後もヒメとの会話を楽しもうとしたが、止めどなく襲いかかってくる睡魔には勝てず、早めの就寝へと切り替えた。

 ヒロの現時点での寝具は、改良に改良を重ね、微調整に微調整を重ねた【最高の寝心地を約束する緩衝材ベッド】であり、布団はドロップアイテムの【肌触りの良い夏用掛け布団】である。

 上空30mに浮かぶ【流星4号】を【キューブ333】に変形させ、ヒロはゆっくりと幸せの眠りへ溶けていくのだった。





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