12日目 アリ狩り




 ヒロが異世界に転生して12日目は、丸1日アリ祭りだった。


 ハナとの朝のお楽しみも1時間ほどで終了し、気合を入れて大草原に繰り出したヒロは、ヒメのガイドを頼りに【流星4号★枡】で上空を移動する。


『ヒメ、10時の方向200mにアリの巣発見。あれは【ギガンターリ】?』


『ヒロ違うわ。あれは【メガーリ】よ』



■メガーリ

蟻型の魔物。800~1500匹の地下コロニーを作る。

体長:50cm~80cm

体重:20kg~50kg

備考:素材として外骨格が利用される。幼虫は美味。



『スルーだな。目指すは【ギガンターリ】ただ1種目!』


 狩り中にハナが飛び出してきても走り回れるようにと、やや大きめな【流星4号★枡★20×20】で移動中のヒロは、流れ行く広大で美しい草原の景色になど目もくれず、アリの巣探しに集中していた。


『あっ、あの巣のアリはデカいぞ、ヒメ、3時の方向300mのあの巣はどう?』


『…… ん~惜しい。アレは【ギガーリ】だわ』



■ギガーリ

蟻型の魔物。数百匹の地下コロニーを作る。

体長:70cm~130cm

体重:30kg~80kg

備考:素材として外骨格が利用される。幼虫は美味。



『了解。スルーだ。てゆーか案外見つかんないなー。もっと簡単に見つかるもんかと思ってたんだけど……』


『まぁ、【ギガンターリ】にこだわってるからまだ見つかってないってだけだし、のんびり焦らず探そうよ』


『はいよ~』


 それからも、【ルリボシオオマダラーリ】や【ノコギリミヤマーリ】、【ギラファトノサマーリ】などをスルーしながら【ギガンターリ】探索は続き、20分ほどが経過した。


『ヒロ、わたしの【ミラクル蟻レーダー[お試し版]】に反応があったわよ。10時の方向1600mくらい』


『そんなのが有るんなら先に言ってよ! とは言えヒメナイス♪ さっそく向かおう!』





 ソレはすぐに見つかった。


『……デ、デカい。アリもデカいし巣もデカい。これならすぐに“あ、こいつがギガンターリだ”って分かるレベルだったわ』



■ギガンターリ

蟻型の魔物。蟻型魔物の中では最大最強種。2000~10000匹の地下コロニーを作る。蜜を備蓄する。

体長:150cm~250cm

体重:70kg~150kg

備考:素材として外骨格が利用される。肉・幼虫・蜜は美味。



『なんちゅーデカさだ。人間の大人よりデカいとは。当然ながら穴もデカいし巣の規模もかなりデカいなぁ。ゾロゾロ出入りしてるし堂々としたもんだよ。こんな捕食者然とした奴ら、わざわざ蜜とか備蓄する必要あるのかね、全く』


『【ギガンターリ】は雑食性だけど、主食は蜜みたいよ。魔草の花の蜜や果実、糖分の多い魔系植物の根や魔系多肉植物から魔素たっぷりの蜜を集めに集めて、自分達独自の酵素で更に精製するみたい。攻撃的だとか最凶だとか言われてるのは、捕食のためもあるけど、縄張り争いなんかの時の攻撃性から来てるらしいわ。あと確保した動物性タンパク質は主に幼虫のもとに運ばれるそうよ』


『なるほどねぇ~。ケンカ最強のスイーツ好きってことか。まずは……巣穴を出入りする【ギガンターリ】からどんどん狩っていこうかなー。あ、そうだ、虫類は脳味噌集中攻撃じゃ足りないんだっけ。フレームの範囲を広げて体全体を包むイメージで倒していかないとな……』



(フレーム)ピ(成分変化★水)(インベントリ収納)※この間0.2秒



『ヒメ、特に問題なく倒せたっぽいわ』


『ヒロのステ値が上がり過ぎて、2m程度のフレームなら脳味噌サイズと何ら変わりなく生成できるみたいねー。これだったら今後の狩りは【脳】に照準を合わせずに【体全体】でいーんじゃない?』


『いや、それでは俺の【美意識】が満足しない。やっぱ【急所をピンポイントに撃つ】ってのがカックイーんじゃないか』


『出た、ヘッドショット至上主義。まぁ何事にもこだわるのはいい事かもねー』


『そんじゃヒメ、俺はしばらく狩りに没頭するから黙るね~』


『はーい、おまえさん、殺っちまいなさいね~』



(フレーム)ピ(成分変化★水)(インベントリ収納)※この間0.2秒


(フレーム)ピ(成分変化★水)(インベントリ収納)※この間0.2秒


(フレーム)ピ(成分変化★水)(インベントリ収納)※この間0.2秒



(こりゃとんでもない数になりそうだぞ。表にはワラワラと歩き回ってるし、巣穴の中にもビッシリだし、どれから狩るか戸惑うくらいの量だな。よし、とりあえず表に居る2mオーバーの大物だけ狩っていくか)



(フレーム)ピ(成分変化★水)(インベントリ収納)※この間0.2秒


(フレーム)ピ(成分変化★水)(インベントリ収納)※この間0.2秒


(フレーム)ピ(成分変化★水)(インベントリ収納)※この間0.2秒



 淡々と、そして黙々と巨大なアリを狩り進めるヒロ。

 迷いなく的確に、アリの頭部と胸部と腹部をまとめて包むようにフレームを形成した刹那、傷ひとつ無い死体となったギガンターリはインベントリに収納されていく。


(次々現れるから、なんかベルトコンベア作業みたいだな。このペースだと2時間ほどで千匹行きそうだぞ)


 ヒロがそんなことを思った次の瞬間。


タララランタッタッター!


『お、レベルアップだ。ヒメ~、レベル上がったよ~』


『は~い、ん? てことは?』


『レベル100になったはず』



ピロン



『はいはい、やっぱ流石に節目中の節目、レベル100ってだけあって、ダイアログボックス出てきたわ』


 ヒロがスクリーン上のダイアログボックスに目をやると、そこには



[レベル100特典。【通話】ボタンを押してリクエストをしてみよう!]



 という文字列が並んでおり、その下には【通話】と記されたボタンがひとつあった。


『【通話】って何だよ、ヒメ~怖いんですけど……』


『多分だけど、神的立場から一方的にスキルなり何なりが付与され続けるような【受け一辺倒なシステム】に一石を投じようとしてるんじゃないかしら……。“そっちの願いとか聞いてやったりするけど、どうよ?”みたいな【ものわかりの良い神】をアピールしたいんだと思うわ。ヒロ、ここはシンプルにあなたの欲しいスキルを言ってみれば?』


『【欲しいスキル】っつってもなー…… 今んとこ特に無いんだよなぁ』


『まぁねー。特別何かに困るようなステ値じゃないもんねぇ。あ、じゃあさ、【異世界で当然あると思ってたのに無かったサービス】とかがあれば言ってみれば?』


『【あると思ってたのに無かったやつ】か……。あ! 一応思いついたの言ってみようかなぁ…… 特に欲してもいないんだけど……』


『ん~“リクエスト無いです”とか言うよりは、いーんじゃない? 神的にも【やりがい】って必要だろうからねー』


『そーだな、思いついたの言ってみるわ』


 ヒロはスクリーンに浮かび上がったダイアログボックスの中の【通話】というボタンらしき文字を脳内クリックしながら喋ってみた。


「あのぉ、もしもし?」


《ん? お!? はぁ~い♡ なんでしょうかぁ~》


「ちょっとすいませーん、なんか、レベル100になったら、【通話】ってボタンが出てきたんで、一応押してみたんですけどぉ~」


《レ、レベルひゃく!? おぉ~~♡ それはおめでとうございますぅ~。てことはアレクサンドロイドさん? あ……アレクサンドロイドさんの世界はもう無いんだった……え? て~~ことは…… フェルディナンド・フェルナンデスさん……の訳無いし…… 牙痴夢恥雄さんじゃまだとても…… え? あなた、……どなたですかぁ~?》


「え? あのぉーヒロと言いますけど……」


《ヒロさんね、えぇ~っと…… ヒロさん ヒロさん ヒロさん…… ぅええ!? ヒロさん!?》


「はいー。ヒロです~」


《ヒ、ヒロさん……って、あなた、10日くらい前に異世界転生している…… ヒロさん?》


「はいー。そうですがー」


《ブホッ…… ガタッ…… ドスッ……》


「……あのーすいませーん」


《ごごごめんなさいね。ヒ、ヒロさん、レベル100に到達したっていうのは……間違いないんですよね?》


「多分間違いないと思いますー。てゆーかこの【通話】が出来るって事がそーゆーことなんでしょ?」


《……あ、この【通話】機能はいくつか他にも出現条件があるものですから…… ゴホッゴホッ ンッンッ…… すみませぇん、混乱してしまいましたぁ~。ちょ、ちょっと調べてみますねぇ~。…………あ……ホントだ……。改めましておめでとうございますぅ♡ ヒロさんてすご~く速くレベル上がってるんですねぇ~》


「あー、ありがとうございますー」


《それで……と、そうそう、偉大なるレベル100を記念して、何かリクエストはありますかぁ?》


「そのリクエストなんですが、特に制限は無いんですかね?」


《はいぃ~。一応わたくしがリクエストをお受けいたしてましてぇ、その内容がわたくしの裁量権の範疇でしたらぁ、この場でオーケーできちゃいますぅ。もしヒロさんのリクエストがわたくしレベルでは手に負えないような案件でありました場合はぁ、わたくしの上司である統括管理神に一度上げてからぁ、改めてご返答させて頂くことになるかなぁと。あのぉ~とりあえずリクエストをお聞きしてもよろしいですかぁ?》


「あ、了解です。えっと、【魔物を倒した時に、たま~にでいいんで、なんか素敵なアイテムをドロップしてほしい】んですけど……」


《ああ~、【アイテムドロップ】ですねぇ~。世界によってはデフォルトですもんねぇ。はい、いいですよ♪ わたくしの裁量の範疇でしたから採用させていただきますね♪》


「おー、ありがとうございます♪」


《つきましてはぁ、【アイテムドロップ】の設定を少々させていただきます~。ドロップの確率については【たま~に】でしたねぇ?》


「はい、たま~にでいいです」


《ではドロップするアイテムの種類やレア度についてなんですが……》


「センスで」


《……は?》


「え……っと、すみません、お名前をお聞きしてもよろしいですか?」


《あっ! すみませんでしたぁ~ 申し遅れましたぁ~ わたくし、この世界の管理を担当させていただいております【アルロライエ】と申しますぅ》


「えっとですね、ドロップアイテムの質やら何やらは、全てアルロライエちゃん…… あ、“ちゃん”付けで呼んでもいいですかね? なんか可愛らしい声だったもんで……」


「!! ………………はい♡」


「あざっす♪ では、お任せします。アルロライエちゃんのセンスで決めてくださって結構ですー」


《えっ!? そ、そんな抽象的な取り決めでは……あの、ヒロさん、アイテムの設定には具体的なコースや分岐ルーレット、場合によっては鼓笛隊の行進やテープカットやくす玉まで盛り沢山用意されておりますので、出来れば正規に選択していただきたいかなぁと……》


「いやもうそんな面倒なのは勘弁してください。何なら確率も含めてぜ~んぶアルロライエちゃんのセンスに委ねますんで~。はい、決まり! 今回俺がレベル100記念で授かるスキルは、【アイテムドロップ[アルロライエのセンスで]】でお願いします! それと、ひとつだけ条件を! ドロップしたアイテムは、その場に出現して拾わなくちゃいけないタイプじゃなく、【インベントリに直接収納されるタイプ】で! これだけは絶対で! 手間増やしたくないんで!」


《…………あのぉ……考え直しては……》


「あぁ~っと、嫌なら【特典なし】でもいーですから。とりあえずもう終わりますねー」


 ヒロは脳内イメージで【通話】を切った。

 切り際に遠くで《ああぁぁぁ~~》という声が聞こえた気がしたが、気にせず切った。


『ヒメェ、聞いてた?』


『うん、聞いてたー』


『まったくさー、いちいち細かいんだよねー こっちは早くアリ狩りたいっつーのに』


『まーなんつーか、神とは言え、所詮この手の仕事を任されてるのは【事務方の役人】だからさ、自由奔放な傾向が強い冒険者タイプとは相性がよろしくないのよ、きっと』


『通話の感じから察するに全然事務方っぽくはなかったけどなー』


テッテレー!


『ん? 何? あーこれは、受理されたってことなのかな?』


『とりあえずチェックね』




名前:ヒロ

種族:人間[ヒト]


pt:0


Lv:100[1up]

HP:500 + 480

HP自動回復:1秒3%回復

MP:1000 + 456

MP自動回復:1秒10%回復


STR:500       + 368

VIT:500       + 455

AGI:1000      + 508

INT:1000      + 483

DEX:1500      + 462

LUK:278 [62up] + 1054


魔法:【温度変化】【湿度変化】【光量変化】【硬度変化】【質量変化】【治癒力変化】【錬金】【トレース】【成分変化】


スキル:【ショートカット】【インベントリ(ヒメのなんだからね!)】【スコープ】【必要経験値固定】【迷彩】【メモ】【アイテムドロップ[アルロライエのセンスで]】




『おぉぉ~、【アイテムドロップ[アルロライエのセンスで]】が採用されてる♪』


『希望通りになったじゃない、ヒロ~良かったね♪』


『これで心置きなくアリが狩れるわ。じゃあヒメ、また後でね~』


『はぁ~~い』


 中断していたアリ狩りに戻ったヒロは、巣穴入口周辺を出入りする【ギガンターリ】の中から、2mオーバーの大物だけを選別して収穫していった。

 巨アリは、昆虫独特のカクカクした読みづらい動きだったが、高ステ値となったヒロにとっては赤子の手を捻るより簡単な狩りだった。

 本来巨アリと戦い続ける場合は、1匹との戦闘中に嫌でも他のアリに勘付かれ、連闘となり、殲滅速度が余程でない限りは増える一方の援軍に対処しきれずに群れの中に沈んでしまうのが通例である。

 しかしヒロの場合は上空30mの安全地帯から音も無く瞬殺し、仲間が騒ぐどころか気付く暇さえも与えず死体をインベントリに収納してしまうため、アリ達は【自分達が今まさに蹂躙され、乱獲され、殲滅回収されている事】に全く気付けないでいた。

 ただただ静かに、そして何故か、仲間の数が減り続けているのだった。

 それはまさに、牧歌的な空気の中で着々と進む【絶望】だった。


 そしてその【絶望】は改善されること無く3時間続いた。


『ふぃ~、かなり狩ったなぁ。狩っても狩ってもいくらでも湧いてくるから面白くなっちゃって、休憩すんのも忘れてたわー』


『お、ヒロおつかれ~。随分集中時間長かったね~。どれくらい狩れた?』


『ん~とね、多分2千匹くらい行ってると思うんだけど……インベントリの在庫数を見ると……お、1883匹って出てるわー』


『やっぱステ値の上昇と共に作業速度も上がってるわね~拍手よ♪』


『さぁ~てと、殲滅狩りの時はまとめてやってるレベル確認とステ振りの時間だな』




Lv:115[15up]

HP:500 + 524

HP自動回復:1秒4%回復[1%up]

MP:1000 + 502

MP自動回復:1秒10%回復


STR:500        + 414

VIT:500        + 509

AGI:1500[500up] + 566

INT:1400[400up] + 539

DEX:1500       + 514

LUK:323 [45up]  + 1098




『AGIとINTとDEXの三兄弟がどれも2000あたりまで来たのね~。ヒメ怖ぁ~い』


『…………』


『ん? としたの? ヒロ』


『…………』


『ヒロ~?』


『ちょっとおかしくないか?』


『と、いーますと?』


『ま、どーでもいいっちゃどーでもいー事なんだけどさ、なんか、グレートバイソン狩ってた時に比べると、レベルの上がり方が明らかに減ってるような気がするんだけど……』


『え? あぁ~、はいはい……確かにねー。……これは、……やってるかもね』


『【やってる】って何だよ?』


『いわゆる神的下方修正よ。しかも告知無し、公表無しで、しなぁ~っとバレなさそぉ~な量をジワジワとねー』


「ゴホン」


 ヒロはあえて肉声で咳払いをしてから、どこへともなく続けて話しだした。


「まぁ、ぶちゃけ俺は楽しく狩りしてるだけだから特に大きな不満はないけどなー。たださ、あんましセンスの無い下方修正はやめてほしいよなー。こっちだって遊びで異世界転生してるわけじゃないんだからさー。例えば今回の修正が【必要経験値固定】の基準値をレベル30から50くらいに上げました~って程度なら“まぁ分からないでもない”って程度で気にしないけど、これが、今既に持っている能力を無くすとか、そーゆーセンスの無い修正になってきたら俺も黙っちゃいないよ。持てる能力と仲間の力もフル稼働させて天に唾吐くよ? それはもう強烈な唾を、二度と落ちてこない威力の唾を、本来の意味を超えて天を破壊するような唾を吐きまくるよ! 俺は」






ピロン


 ヒロのスクリーンにテキストのみのダイアログボックスがひとつ現れた。

 そこには



《気をつけます <(_ _)> 》



 と書かれており、その後10秒ほどで消えた。


『……認めたな』


『……認めたわね』


『もう、言葉も無いな』


『同じ神的な存在として恥ずかしいわ』


『まぁ“気をつける”って言ってるんだから、俺が怒り狂うような修正はかけてこないだろうけど、それにしてもさ、認めちゃ駄目だよな』


『だよねー。でも……どこか人間味があって憎めないって感じもあるのよねー』


『わかるわかる、そして【憎めない】の後にやっぱ【腹立つ】も混ざってくるんだよなー』


『まぁヒロ、あんまり気にせず楽しくやりましょう。そうだ、【アイテムドロップ[アルロライエのセンスで]】は結局発動したの?』


『あ~うん、アリ狩り中に何度かピロピロ言ってたから、アレがその合図だったら多分ドロップしてると思うんだけど…… インベントリの中に変化は無いかな~…… あ、【ドロップアイテム】ってフォルダが新設されて点滅してるわ。中、見てみるねー』




【ドロップアイテム】


■神刀 悠凪[ゆうなぎ]

■常世のツルギ[とこよのつるぎ]

■神刀 無業[むごう]

■魔刀 宙来[ちゅうら]

■エターナル覚醒薬100 ×3

■賢者の写し身 ×2

■鬼の血清 ×2

■肌触りの良い衣類コレクション ×5

■肌触りの良い冬用掛け布団 ×2

■肌触りの良い夏用掛け布団 ×2




『こ、こんな貢物色の濃いアイテムドロップ、あんのか……』


『おー、なんか凄そうだね~。詳細見てみようよ♪ まずは剣からね~』




■神刀 悠凪[ゆうなぎ]

S7級武器。片刃で反りがある。世界七神剣のひとつ。形状や質量は帯刀者により変化する。切断面から大量の神毒が注がれる。

刀身:-cm  全長:-cm  重量:-g

備考:素材不明の神剣。特定の神の加護を持つ。



■常世のツルギ[とこよのつるぎ]

S7級武器。両刃。世界七神剣のひとつ。魔力を注ぐと刀身が消える。切断面が爆散する。

刀身:80cm  全長:110cm  重量:1650g

備考:素材不明の名剣。特定の神の加護を持つ。



■神刀 無業[むごう]

S7級武器。片刃で反りがある。世界七神剣のひとつ。魔力を注ぐと刀身の分身が激しく揺らめき、実体が補足されない。切断面が瞬く間に壊死する。

刀身:77cm  全長:107cm  重量:1520g

備考:素材不明の名刀。特定の神の加護を持つ。



■魔刀 宙来[ちゅうら]

S8級武器。デフォルト形状は片刃で反りがある。世界七魔剣の頂点。刀身に高位魔晶のような濃淡のある虹色の渦がいくつも浮かび上がっており、その渦は絶えず流動している。切断面から生体信号を連鎖消失させるため、斬られた生命体はかすり傷ひとつからでも数秒後には死に至る。帯刀者の魔力を吸い続けるが、そのあいだは自己再生する。宙来自身の自我が宿ることにより様々な補正が臨機応変・縦横無尽にかかる。

刀身:30cm~550cm  全長:60cm~500cm  重量:500g~8000g

備考:素材不明の魔剣。【忌世九子魔】最強の魔物【宙来】の自我を持つ。




『おぉぉ~ヒロ、ぜんぶ【世界七○剣】でS7級とS8級武器だってさー。これって最初のドロップアイテムとしてどーなの? ハイエンドすぎでしょ~』


『だよなー。しかも俺には【フレームセイバー】があるから、そもそも物理武器は無用の長物なんだよねー。まぁこの4振りはいつか素材の研究材料として使おうかな……』


『んじゃ、次の凄そうなやつ3つね~』




■エターナル覚醒薬100

あらゆる状態異常を無効化する薬【エターナル覚醒薬】が100発自動装填された特殊アイテム。

備考:1度服用すると100回分の自動服用がセットされる。効果を発揮する度にカウントがひとつ減る。反応する状態異常のレベルを設定可能。S3級アイテム。



■賢者の写し身

死を回避できるアイテム。使用すると神ネット上にクラウドストレージが新設され、絶えず使用者のシナンプルスも含めた全データのバックアップがリアルタイムで進行する。

備考:どんな死に方をしてもバックアップ由来故に完全復活できるが、神ネットへの負荷が膨大なため極めて少量しか存在しない。S7級アイテム。



■鬼の血清

鬼の力を使用者の中に取り込めるアイテム。とても凄くなる。

備考:1度服用すると数日から数年の間、効果が継続する。S4級アイテム。




『……またどれもすんごいやつみたいだよ~。これで暫くは【状態異常】と【死】に怯えることはなさそうねー』


『【賢者の写し身】って、もはやアイテムっつーか【権利】だよなー。あと【鬼の力】って抽象的過ぎて怖いよ。なんだよ“とても凄くなる”って。こんなの2~3個ずつもドロップしたら駄目でしょ』


『でも鬼のやつ以外は大当たりだよねー♪ 普通はポーションとかゲド~クとかマヒナオ~ルとかこまごましたやつをたくさん集めるのよ~。これはもーラッキ~ってことでいいじゃん♪』


『まぁ、確かにギガントス級のラッキーではあるよな。てゆーかヒメ、俺は何気に最後の3つが一番嬉しいかもだ』




■肌触りの良い衣類コレクション

【アラクネクイーンの糸】【ヤマト虹カイコの繭】【氷雪カシミヤゴートの毛】【シュメイルコットンの繊維】の四種を魔力で練り上げて出来た【常世の糸】によって織られている衣類のセット。世界全域で最も汎用品として満遍なく流通しているカブリで生成りの庶民派デザインを採用した【普通の服フルセット】を筆頭に、インナー[半袖・長袖]上下、シャツ[半袖・長袖]、パーカー、トレーナー、フリース、パンツ、ハーフパンツ、靴下、スニーカー、革靴、ブーツ、クロクロクス、ジャケット、ローブ、ブルゾン、コート、スウェット上下、パジャマ上下など盛り沢山のバリエーションがラインナップされている。見た目は目立たないただの一般服だが、その性能はミソロジー級防具を軽く凌駕する。S7級レア衣類。

備考:付属性能として全てのアイテムに【神の加護】【衝撃吸収】【自動消音】【自動修復】【自動洗浄】【自動温度調節】【悪臭遮断】【虫除け】などが備わる。効果のオンオフや調整も設定できる。



■肌触りの良い冬用掛け布団

【アラクネクイーンの糸】【ヤマト虹カイコの繭】【氷雪カシミヤゴートの毛】【シュメイルコットンの繊維】の四種を魔力で練り上げて出来た【常世の糸】によって織られている冬用の羽毛布団。羽毛は冬用だけに【エンシェントダークグランドマザーグースのダウン】が使用されている。S3級レア布団。

備考:付属性能として【自動洗浄】【自動温度調節】【虫除け】【快眠】が備わる。設定調整可。



■肌触りの良い夏用掛け布団

【アラクネクイーンの糸】【ヤマト虹カイコの繭】【氷雪カシミヤゴートの毛】【シュメイルコットンの繊維】の四種を魔力で練り上げて出来た【常世の糸】によって織られている夏用の羽毛布団。羽毛は夏用だけに【フェニックスホワイトアイガーダックのダウン】が使用されている。S3級レア布団。

備考:付属性能として【自動洗浄】【自動温度調節】【虫除け】【快眠】が備わる。設定調整可。




『これは凄い! 見るからにヒロが喜びそう! てか、ドロップアイテム全部S3級以上だったみたいねー。こりゃやりすぎだわ』


『衣類と布団はマジで嬉しい。しかも、衣類に至っては【世界全域で最も汎用品として満遍なく流通している庶民派デザインを採用】っていう、目立たないこと【コロッケバイキングの中のメンチカツの如し】的な配慮が行き届いてて実にありがたい。もう当分ドロップアイテムはドロップしなくてもいいかもだぜ♪』


『結局、充実のドロップだったねー。神刀に魔刀、高級薬に衣類に布団、ちょっと神経疑うほどヒロの顔色伺いすぎだとは思うけど、まぁ貰えるものは貰っておかなきゃねー』


『さぁ、そしたら【エターナル覚醒薬100】と【賢者の写し身】だけセットして、アリ狩りの地中編に突入しますか~』


『じゃあヒロ、またあとでね~』


『ほーい』


 ヒロはインベントリから【エターナル覚醒薬100】と【賢者の写し身】を取り出した。

 【エターナル覚醒薬100】は普通のタブレット錠だったため躊躇なく飲み込むと、スクリーンの上部に【覚100】と表示された。今後、状態異常を自動無効化する度にこの数字が減っていくらしい。さらに【覚100】部分をクリックイメージすると設定画面が開き、【状態異常の判断基準】が選べたため、ヒロは【酒のほろ酔い程度までは無反応】を選択し、一般的な嗜み程度の状態異常は受け入れるように設定した。

 【賢者の写し身】はヒロに似せたグミキャンディだったので、これもまた飲み込むと、スクリーンの上部に【賢写中】と表示された。この表示があるうちは、死に備えてリアルタイムでヒロが神サーバー上にミラーリングされているということらしい。


(さて、改めて地下のアリ、狩りますか♪)





 乱用に乱用を重ね、使い込み、熟成させてきた【スコープ】が唸りを上げて地下の暗闇を見通す。

 ギガンターリの巣の中は、通路と小部屋と大部屋と倉庫に分かれていて、ヒロは真上から階層順に大型の個体を次々と瞬殺&回収していった。

 上層付近には小部屋と通路しか無く、目につくのも成体のアリばかりだったが、20mほどの深さになると【幼虫】が姿を表し始める。大部屋にびっしりと並んだ幼虫群は1部屋で百匹を超え、大人達が運んでくる魔物系蛋白質のエサを貪りながらスクスクと成長していたのだが、そんな幼虫達もあっという間にヒロのインベントリに収納されていく。

 さらに潜り続け、深さ40mを超えるてくると、巣は横に大きく広がり、遂に【蜜の備蓄倉庫】が登場する。広大な倉庫部屋の天井からは【備蓄担当のアリ】がぶら下がっており、その腹部は【蜜】でパンパンに膨れ上がっていた。


(おいおい、元々2mオーバーの巨アリとは言え、腹が直径2mくらいの球体に膨れ上がってるぞ。これ……1匹で1トンくらいの蜜になるんじゃねーか? それが、ひと部屋に…… 30匹くらいか。蜜部屋はまだまだ有りそうだし、こりゃまたとんでもない収穫量になりそうだなぁ)


 ヒロは各階層を漏らすことなく丁寧に探索し、アリと幼虫と蜜を回収し続けて行った。

 そして最下層の深さ60m付近。

 数多有った分岐は数本になり、その一本一本が別々に螺旋を描き、それぞれが巨大な空間へと続いていた。

 そのひとつに居たのは……



■ギガンターリクイーン

蟻型の魔物。蟻型魔物中最大最強種のギカンターリの最上位種。女王蟻。

体長:743cm

体重:2750kg

備考:素材としての価値は高いが流通した例はない。



(で、でかっ! こわっ! 腹すごっ! マイクロバスくらいあんじゃねーか~コイツ~。腹だけが異常に肥大してんのがバケモノ感際立たせてるな~。こんなヤツの体全体をフレームで囲って、果たして魔法成立すんのかな……)



(フレーム)ピ(成分変化★水)(インベントリ収納)※この間0.2秒



(あ、……普通にゲット。……まだまだ余裕っぽいなー 俺の能力……)


 超巨大女王蟻を瞬殺収納したヒロは、まだ数匹ほどいた別の女王の部屋に【スコープ】を届かせる。

 かくして巨大アリ狩り地中巣穴編は、4時間ほどで終了し、この日、大草原に3千ほどあるギカンターリの巣穴の中のひとつが壊滅的被害を受けたのだった。


『ヒメ~終わったよ~』


『は~い、おつかれ~。どお? たくさん狩れた?』


『ん~、こんな感じかなー』



■ギガンターリ[2m超] ×2620

■ギガンターリクイーン  ×4

■ギガンターリの幼虫   ×2084

■ギガンターリの蜜ボディ ×793



『ぅわっ! これはもう冒険者の扱う量じゃないわ。業者よ。いやいや、もう商社よ。キャー! 蜜だけで千トンほどもあるじゃないの! ……レベルは?』




Lv:137[22up]

HP:500 + 590

HP自動回復:1秒4%回復

MP:1000 + 571

MP自動回復:1秒10%回復


STR:500        + 483

VIT:500        + 590

AGI:2000[500up] + 653

INT:1700[300up] + 623

DEX:2000[500up] + 592

LUK:409 [86up]  + 1164




『ぅわうわっ! ついにDEXとAGIが2500オーバー! INTも同じような勢いじゃないの! ますます射程と威力と正確さと速さが際立ってくわねー。これはもう冒険者のスペックじゃないわ。軍の特殊部隊よ。いやいや、もう軍産複合体多国籍企業よ。……で、ドロップアイテムは?』




【ドロップアイテム】

■グラフメルト[S3級金属] ×2

■カーボランサー[S3級金属]×3

■超神合金+硬[S4級金属] ×3

■超神合金+剛[S4級金属] ×4

■超神合金+魔[S4級金属] ×2

■超神合金+靭[S4級金属] ×2

■超神合金+密[S4級金属] ×2




『ぜ……全部、金属って……』


『うん、ここまで謎の金属が揃っちまったら、ちょっといろいろ実験してみたくなるよなー』


『実験って【錬金】の?』


『まぁ【錬金】もだけど、ようは、【トレース】でまず【ショートカット】リストに登録しちゃって、そこから【錬金】で生産して、混ぜたり溶かしたり固めたりいろやってれば、【ヒロハナハガネ】みたいな新しい金属を生産できるんじゃないかなぁとか思ってさー』


『今すでに登録してるのは何だっけ?』


『金属だと…… 【鋼】と【チタン】と【ミスリル】と【ヒロハナハガネ】かな。ここに今日ゲットした謎の金属を加えていじくり回すわけだよ』


『ちょっと詳しく見てみようよ』




■グラフメルト[S3級金属]

天然由来の金属の中では世界1位の強さと3位の靭やかさを持つアルティメットメタル。


■カーボランサー[S3級金属]

天然由来の金属の中では世界3位の強さと2位の靭やかさを持つハイエンドメタル。


■超神合金+硬[S4級金属]

硬度に秀でた凄い合金。そのレシピは神のみぞ知る。


■超神合金+剛[S4級金属]

剛性に秀でた凄い合金。そのレシピは神のみぞ知る。


■超神合金+魔[S4級金属]

魔力融和性が凄すぎる合金。そのレシピは神のみぞ知る。


■超神合金+靭[S4級金属]

靭やかさに秀でた凄い合金。そのレシピは神のみぞ知る。


■超神合金+密[S4級金属]

密度がとんでもなく凄い合金。そのレシピは神のみぞ知る。




『思ったほど詳しい情報は得られなかったわねぇ』


『まー詳しく説明されても分からんがなー』


『まぁそーだよねー。さぁ~て、ヒロ、この後はその金属の実験?』


『いや、金属実験は明日に回して、今日はアリの死体の解析&再収納かなー』


『でも、もーそろそろ日が傾き出すよ? 巨アリ4503匹と規格外のボス蟻、幼虫2084匹に蜜備蓄アリ793匹なんて数を捌ける~?』


『幼虫と蜜備蓄アリに関しては、魔晶の分離収納だけでいいと思うんだよねー』


『あ……そっか』


『ん、でね、4503匹のギガンターリが問題なんだけど、ヒメさ、【素材としてのギカンターリ】を詳しく検索できたりなんかする?』


『あ~オーケー、やってみる~』


 2分が経過した。


『ヒロヒロ、詳しく分かったよ~。いくつかの検索結果を再編集したからスクリーンに出すね~』



■素材としてのギガンターリ

人類の間でのギガンターリは、乾燥した死体として流通することが多く、そのため魔晶と外骨格[顎や触覚も含む]のみが素材として利用されているが、新鮮な場合は食用が可能である。

※ここから食材としてのギガンターリ

頭部、胸部、腹部、足のどの部位にも筋肉や脂肪が詰まっており、加熱によって凝固した身にはグルタミン酸、イノシン酸、アミノ酸等が多く含まれ、エビやカニの身と同系統の味がする。また、頭部、胸部、腹部には栄養分を貯蔵するための器官があり、この器官も加熱することでいわゆるカニ味噌のような食材として食用が可能となる。

内臓器官に毒は無く、食することも可能だが、身や味噌に比べ量も少なく味も薄い。



『最高じゃないかギガンターリ! これから(食材として)長い付き合いになりそーだぜ~』


『なんか食べられるみたいで良かったね~』


『食べられるっつーか、こりゃもうほぼ確実に豪華カニ祭り開催決定っしょ! あの巨大な体の内側に蟹の身と蟹味噌が詰まっていると考えると、もぅヤバイよ。足1本の太さが10cmはあったと思うから多分絶対間違いなく俺ひとりでは食いきれないだろうけど……』


『そんなに美味しい食材だったんなら最高じゃない♪ あとで試食してみれば~?』


『決まりだな。とりあえず4503匹のギガンターリについても魔晶のみの回収&再収納に留めて、あとは食べる時に都度バラそう。そーだ、塩茹でにするための巨大な寸胴鍋とか作っておこうかな……。いや、蟹は結局【焼き】が一番美味いとも言われてるし、俺の【温度変化魔法】で事足りるか……。あっ、酢醤油が無いじゃん! この世界でいち早く酢醤油の生産に着手してなかった俺の馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿! でもまー無いものを悔やんでも仕方ない。最初のうちは【素材そのものの味】を存分に楽しむ系で行ってみよう。そうだ、行ってみようなのだーうふっ……うふふふふふ』


『ヒロ、ねぇヒロ、 大丈夫?』


『はっ、……あー危ない。ヒメありがとう。いや、カニにはさ、【アル蟹ロイド化合物】ってゆー麻薬成分が含まれててさ、考えすぎると頭がどーにかなっちゃうんだよね。助かったよ~』


『アリだっつーの。ささ、計画的には一番シンプルな【魔晶のみ摘出&再収納】に決まったんだし、作業にかかりなさーい』


『は~~い♪』


 ヒロはまず【ギガンターリの幼虫】の死体をひとつインベントリから取り出し、慎重に解剖しながら【最小限の傷で最も効率よく魔晶を取り出せる場所】を特定し、【メモ】に記した。


(【幼虫】だから魔晶とか無いかもって思ってたけど、そこそこ立派なの持ってるな~。これは嬉しい誤算だ)


 その後はグングン処理スピードが上がり、幼虫2084体の処理は2時間弱で終了。

 さらに蜜備蓄アリ793体も1時間弱で終了。

 巨大なクイーン蟻数体も深追い解析せずに魔晶のみを摘出する。

 最後に2mオーバーのギガンターリ4503体に取り掛かったが、途中【ハナのおやつ&ラブラブ追いかけっこ&ワシャワシャ撫で撫でタイム】を挟んでしまったため5時間ほどを要する事となる。

 それでも日付が変わる前にはこの日の全ての獲物を処理し終えていた。


『あ……あかん……眠すぎる……』


『ヒロ、寝るんだったらせめてお風呂……あ……もう寝てるわ♡』


 真夜中の大草原上空30m、丸一日DEXとAGIをフル稼働させたヒロは、【流星4号★枡★10×10】の高反発マット床に転がったまま、満天の星空の下でスヤスヤと眠るのだった。




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