28日目 エドのサムライとシノビ そして宇宙へ




『ヒロさんヒロさん、外の様子はどんな感じピキュか?』


『ん~~、特に変化なしかな~。相変わらずブギョーショの公務は続いてるけど、俺らに関しては話題にも上ってねーっす~』


『世界のヒロさんを勾留しておいてなんという怠慢ピキュ! ウルだったら1秒の時間も惜しんでウキウキおしゃべりタイムを楽しむピキュのに、いったい上司はどんなツラしてやがるのか、見てみたいもんなのでピキュ~!』


『もー大体わかったよ~♪』


『ピキュ?』


『暇だったんでずっとスコープで探りまくってたからさ、このエド領のお偉いさん達の顔ぶれは大体わかちゃったんだよ~』


『知りたいピキュ! 教えてほしいピキュ~』


『そーだなぁ。まずは、エドの領主、つまりトノからいってみようか♪』




■徳乃川イエキミ[とくのがわ・いえきみ]

エド領第十七代領主。齢315歳。頭部に三色輪螺魔角を持つサムライとシノビの混血でツノが3本あるシノビザムライ。100歳で家督を継ぐまでは和能呉呂各地を転々とし武者修行に明け暮れた過去を持つ。10年間イセ・ダンジョンに単身で潜り続けた際に様々な魔力技能を習得している。300歳を越えてなお、全く衰えを見せないスーパー人間。【世界一の魔力技能者】との呼び声も高い。




『さ、三百年以上生きてるのでピキュか!?』


『サムライとかシノビってのは元々長寿なのかもな~』


『しかしピキュ! 【世界一の魔力技能者】とは片腹痛いのでピキュ! なんなら両腹激痛なのでピキュ! そんな称号なぞヒロさんはこの世界に転生して3日目で手に入れてるのでピキュ! こいつ、もっと己を知る必要があるのでピキューー!!』


『まぁまぁウルさん、【呼び声も高い】って書いてあるだろ? 自分で言ってる訳じゃないってことだよ。あと俺そんな称号いらねーし(苦笑)』


『ピキュ~。それにしてもこのイエキミってヤロー、ヒロさん以外の人間の中ではソートー強そうピキュ~。成長の遅い【人間種】ではあるピキュが、武者修行100年&現在300歳オーバーってことは、かなりのレベルとステ値に達してる可能性があるのでピキュ~』


『だよな、だから俺は出来る限りこいつには出会いたくない。こーゆー輩はぜってー“ほぉ~♪ オメエ強そうだな? オレ様と勝負しろや♪”みたいなことニカッと笑いながら言って、平気で他人の人生にヅカヅカ入り込んで来るからな~。要注意人物だぜ』


『ピキュ~。ヒロさんらしいのでピキュ~』


『さて、お次は…… そうそうウルさん、今回紹介する【エド主要人物】なんだけど、ただの貴族の偉いさんとか政治家とか事務官僚はスルーしてるからね~。あくまでも【強そうな奴図鑑】だと思っといて♪』


『それでいいピキュ! ウルは強者にしか興味ないのでピキュ~♪』


『んじゃ、改めまして、次はシノビだ!』




■魔宮リンゾウ[まみや・りんぞう]

白面角を持つシノビ。280歳。出生地はエド。ひと通りの魔忍術を会得している。諜報・謀略のエキスパートでもある。徳乃川十忍鬼を束ねる首領。エドシノビの組織的頂点。徳乃川イエキミの片腕でありエド内政の頂点。勲位桐花級武人。


■如月カムイ[きさらぎ・かむい]

黒刀角を持つシノビ。54歳。出生地はエド。徳乃川十忍鬼のメンバー兼リーダーであり、徳乃川三忍傑と徳乃川十鬼神にも名を連ねる。アルティメットオールラウンダー型。エドシノビの能力的頂点。旭日重光級武人。


■不知火カガリ[しらぬい・かがり]

白刀角を持つシノビ。69歳。出生地はイガ。徳乃川十忍鬼のメンバーであり、徳乃川三忍傑と徳乃川十鬼神にも名を連ねる。アルティメットオールラウンダー型。旭日重光級武人。


■鬼火ランマル[おにび・らんまる]

漆刀角を持つシノビ。33歳。出生地はイガ。徳乃川十忍鬼のメンバーであり、徳乃川三忍傑と徳乃川十鬼神にも名を連ねる。アルティメットオールラウンダー型。旭日重光級武人。


■八烏ハンゾウ[はっとり・はんぞう]

朱大角を持つシノビ。289歳。出生地はヲハリ。徳乃川十忍鬼のメンバー。オールラウンダー型。


■申飛サスケ[さるとび・さすけ]

銀尖角を持つシノビ。89歳。出生地はシナノ。徳乃川十忍鬼のメンバー。オールラウンダー型。


■霧過暮サイゾー[きりがくれ・さいぞー]

銀螺角を持つシノビ。201歳。出生地はイガ。徳乃川十忍鬼のメンバー。オールラウンダー型。


■封魔コタロウ[ふうま・こたろう]

金埋角を持つシノビ。228歳。出生地はサガミ。徳乃川十忍鬼のメンバー。オールラウンダー型。


■電輪坊ライケイ[でんりんぼう・らいけい]

白台角を持つシノビ。162歳。出生地はスルガ。徳乃川十忍鬼のメンバー。体術型。総合格闘術に精通しており、打撃は言うまでもなく相手に絡みついてからの関節技を最も得意とする。


■喪々知サンダユウ[ももち・さんだゆう]

紫断角を持つシノビ。70歳。出生地はイガ。徳乃川十忍鬼のメンバー。幻術・妖術型。相手の五感に介入し、幻覚・錯覚・無覚に落とし入れ無力化する。


■磁来也オロチマル[じらいや・おろちまる)

紫棒角を持つシノビ。177歳。出生地はナガト。徳乃川十忍鬼のメンバー。キメラ召喚型。様々な魔物を混在させて召喚する。通常は主にガマオロチを使役する。




『そんでこっからがサムライ!』




■柳生ゲンマ[やぎゅう・げんま]

無色輪妖角を持つサムライ。302歳。出生地はエド。徳乃川二十武鬼のメンバー兼リーダーであり、徳乃川五剣聖と徳乃川十鬼神にも名を連ねる。アルティメットオールラウンダー型。愛器は【極刀・界】。徳乃川イエキミの片腕でありエドの軍事的頂点。大勲位菊花特級殿堂武人。


■神来シュラ[かむらい・しゅら]

緋刀妖角を持つサムライ。28歳。出生地はエチゼン。徳乃川二十武鬼のメンバーであり、徳乃川五剣聖と徳乃川十鬼神にも名を連ねる。アルティメットオールラウンダー型。愛器は【絶刀・凪】。徳乃川二十武鬼の中で最も若い。大勲位菊花級武人。


■左流多クランド[さるた・くらんど]

黒刀角を持つサムライ。85歳。出生地はムツ。徳乃川二十武鬼のメンバーであり、徳乃川五剣聖と徳乃川十鬼神にも名を連ねる。アルティメットオールラウンダー型。愛器は【閃刀・虚空】。勲位桐花級武人。


■倭ロクロ[やまと・ろくろ]

葵刀角を持つサムライ。109歳。出生地はアキ。徳乃川二十武鬼のメンバーであり、徳乃川五剣聖と徳乃川十鬼神にも名を連ねる。アルティメットオールラウンダー型。愛器は【天刀・アマテラス】。勲位桐花級武人。


■阿久羅クニモリ[あくら・くにもり]

玄刀角を持つサムライ。283歳。出生地はエド。徳乃川二十武鬼のメンバーであり、徳乃川五剣聖と徳乃川十鬼神にも名を連ねる。アルティメットオールラウンダー型。愛器は【古刀・翁】。勲位桐花級武人。


■有頂エンラク[うちょう・えんらく]

藍逶角を持つサムライ。250歳。出生地はニシ。徳乃川二十武鬼のメンバーであり、徳乃川十鬼神にも名を連ねる。アルティメットオールラウンダー型。愛器は【超刀・申阿弥】。桐花大綬級武人。


■無量ラセツ[むりょう・らせつ]

黒尖角を持つサムライ。134歳。出生地はイセ。徳乃川二十武鬼のメンバーであり、徳乃川十鬼神にも名を連ねる。アルティメットオールラウンダー型。愛器は【凡刀・羅刹丸】。桐花大綬級武人。


■玉姫ゼック[たまひめ・ぜっく]

墨錐角を持つサムライ。188歳。出生地はエド。徳乃川二十武鬼のメンバー。アルティメットオールラウンダー型。愛器は【獄刀・タケミカヅチ】。旭日大綬級武人。


■忍國イットウ[おしくに・いっとう]

鉛鉤角を持つサムライ。241歳。出生地はイズモ。徳乃川二十武鬼のメンバー。アルティメットオールラウンダー型。愛器は【界刀・オリオン】。旭日大綬級武人。


■陀多良ハンマ[だたら・はんま]

白柱角を持つサムライ。117歳。出生地はカイ。徳乃川二十武鬼のメンバー。オールラウンダー型。愛器は【堕刀・土雲】。旭日大綬級武人。


■月読セッショウ[つくよみ・せっしょう]

鈍枯角を持つサムライ。259歳。出生地はヒダ。徳乃川二十武鬼のメンバー。オールラウンダー型。愛器は【朽刀・夜叉髭】。旭日大綬級武人。


■羅生羅ムサシマル[らしょうら・むさしまる]

紅螺角を持つサムライ。95歳。出生地はムサシ。徳乃川二十武鬼のメンバー。双刀疾風型。右手に【流刀・阿無業】、左手に【固刀・吽無業】を持つ双刀流の使い手。旭日重光級武人。


■雷電ムラマサ[らいでん・むらまさ]

斑湾角を持つサムライ。207歳。出生地はエド。徳乃川二十武鬼のメンバー。双棍剛力型。愛器であるウルツァイコンプ製の大棍棒【カタストロンガ】を両手に1本ずつ持つ双棍流の使い手。旭日重光級武人。


■座刀イッセン[ざとう・いっせん]

藤羊角を持つサムライ。168歳。出生地はヲハリ。徳乃川二十武鬼のメンバー。居合一閃型。愛器は【幻刀・無南無】。旭日重光級武人。


■雨月モンド[うげつ・もんど]

錆小角を持つサムライ。251歳。出生地はエド。徳乃川二十武鬼のメンバー。幻影型。愛器は【妖刀・陰柳】。旭日重光級武人。


■伊座凪ヨイチ[いざなぎ・よいち]

紫台角を持つサムライ。150歳。出生地はナガト。徳乃川二十武鬼のメンバー。弓型。愛器は【剛弓・世跨ぎ】。旭日重光級武人。


■獅子神バイケン[ししがみ・ばいけん]

銀短角を持つサムライ。59歳。出生地はイガ。徳乃川二十武鬼のメンバー。鎖型。愛器は【怨鎖球・魂塊】。旭日重光級武人。


■宝陣坊インガ[ほうじんぼう・いんが]

白尖角を持つサムライ。47歳。出生地はタンバ。徳乃川二十武鬼のメンバー。槍型。愛器は【撓伸槍・月真】。旭日重光級武人。


■奈落坊ベンケイ[ならくぼう・べんけい]

灰牛角を持つサムライ。144歳。出生地はサガミ。徳乃川二十武鬼のメンバー。薙刀型。愛器は【大薙刀・麒麟尾】。旭日重光級武人。


■善呪坊クウケイ[ぜんじゅぼう・くうけい]

紫棒角を持つサムライ。217歳。出生地はエゾ。徳乃川二十武鬼のメンバー。銃型。銃器のスペシャリスト。近距離戦の短銃から狙撃用の銃まで使いこなす。ゲンナ・ヒラガーの開発した【エレクトロチャカ】や【エレクトロライフル】の軍用最新試作器のベータテスター。魔晶を大量消費するエレクトロ銃を乱用するため専属の魔晶衆を従える。旭日重光級武人。




『で、結局のところの強い奴まとめがこちらっ!』




■徳乃川三忍傑

如月カムイ  [きさらぎ・かむい]

不知火カガリ [しらぬい・かがり]

鬼火ランマル [おにび・らんまる]


■徳乃川五剣聖

柳生ゲンマ  [やぎゅう・げんま]

神来シュラ  [かむらい・しゅら]

左流多クランド[さるた・くらんど]

倭ロクロ   [やまと・ろくろ]

阿久羅クニモリ[あくら・くにもり]


■徳乃川十鬼神

柳生ゲンマ  [やぎゅう・げんま] 無色輪妖角 愛器【極刀・界[キョクトウ・カイ]】

神来シュラ  [かむらい・しゅら] 緋刀妖角  愛器【絶刀・凪[ゼットウ・ナギ]】

左流多クランド[さるた・くらんど] 黒刀角   愛器【閃刀・虚空[セントウ・コクウ]】

倭ロクロ   [やまと・ろくろ]  葵刀角   愛器【天刀・アマテラス[テントウ・アマテラス]】

阿久羅クニモリ[あくら・くにもり] 玄刀角   愛器【古刀・翁[コトウ・オキナ]】

有頂エンラク [うちょう・えんらく]藍逶角   愛器【超刀・申阿弥[チョウトウ・サルアミ]】

無量ラセツ  [むりょう・らせつ] 黒尖角   愛器【凡刀・羅刹丸[ボントウ・ラセツマル]】

如月カムイ  [きさらぎ・かむい] 黒刀角

不知火カガリ [しらぬい・かがり] 白刀角

鬼火ランマル [おにび・らんまる] 漆刀角


■番外編

徳乃川イエキミ[とくのがわ・いえきみ)三色輪螺魔角




『って感じかなぁ。どぉ? ウルさん、興奮した?』


『ピキュピキュ~! カックイーのでピキュ~! なんつっても柳生ゲンマ殿と神来シュラ殿の【凄そうオーラ】が文字面からもほとばしっているのでピキュ! 愛用の武器もみんな凄そーなのでピキュ!』


『……気持ちは俺も一緒なんだけどね~。……ここで、ウルさんにちょっぴり悲しいお知らせがあります』


『な、なにピキュか!?』


『まず武器だけど、こいつらが持ってるどの武器よりも、俺らが最初にドロップした4本の剣の方が性能が上なんだ。しかも3段階くらい』


『ピ、……ピキュ~~。あの【肌触りの良い衣類コレクション】と一緒にゲットしたファーストドロップのアレがピキュか~?』


『そう、アレ』


『……なんだかウルは、なんとも言えない気持ちになってしまったのでピキュ~。アルロライエさんは罪な神様なのでピキュ~~~』


『さらに追撃して恐縮なんだけど、柳生ゲンマさんも神来シュラさんも徳乃川イエキミさんも、確かにこの世界の人間界ではめちゃくそ強い。本当に最強かも知れない。だけどね、我々、つまり俺、ウルさん、ハナ、そしてヒロリエル、この4人と比べると、誰よりも弱い……と思う。確実ではないけどね~』


『ピキュ~~。よくよく考えればそりゃそーピキュ~。ウルは、ヒロさんが開示してくれたエドの猛者共の【凄そうでカックイーくてチューニーな名称郡】にのぼせ上がって、【自分たちの強さ】を忘れていたのでピキュ~。【灯台いと暗し】なのでピキュ~』


『ウルさん、【いとをかし】みたくなってるよ~。てかまぁ、俺達の強さは特殊だからさ、気にすることないよ♪ 実際【エドの猛者共】は、今まで遭遇したどんな人間より強いんだしさ。そうだ、例えば【魔法とスキルの使用を禁止】して【試合形式】で戦ったら、俺らも苦戦するかもよ?』


『ピキュ~、そんなのひーたんが圧勝するに決まってるのでピキュ~』


『……ま、そりゃそーだ(苦笑)』


『そーなのでピキュピキュ~~』


『…………』


『…………』



 10秒ほどの沈黙。



『さぁ~~て、ウルさん、次のしりとりのテーマ、何にする~?』


『ピキュッ!! もうしりとりは限界なのでピキュピキュ~!』


『えぇ~~? テーマ次第でまだまだ盛り上がるって! 限界の先を見に行こーよぉ~♪』


『嫌ピキュ! もうしりとりは嫌なのでピキュ~~~!』


『だぁいじょーぶだってぇ~。んじゃあね、【絶対飲みたくない液体】しりとりぃ~♪ パフパフッ♪ 俺から行くね~。え~~っと……』


『ヒロさん! ウルはもーやりたくないのでピキュ! ヒメさん助け……あ、ヒメさんは目下拗ね拗ね引き篭もりゲーム三昧中なのでしたピキュ。あ! ひーたん! ひーたんからもヒロさんに言ってやって欲しいのでピキュ! ひーたぁ~ん!』


『……【ザリガニの飼育水】』


『ひ、ひーたん?』


『【ザリガニの飼育水】。つぎ【い】なのです』


『おっけ~ヒロリエル、んじゃ~【イソメを潰した時に出る汁】。ウルさん、【る】♪』


『ピ……ピキュピキュピキュ~~~~~!!!』


 ウルの苦悩と叫びはつづくのだった。





 1時間後。


 延々と留置場内しりとりがつづく中、アキバブギョーショに二人の男が訪れる。


『お! ついに動きがあったぞ♪』


『ピッキュピキュピィ~~♪ ついにしりとりが終わりを迎えるのでピキュ~! ヒロさん、【動き】とはどんな動きピキュか!?』


『え、今やめると【いろんな心しりとり】もウルさんの負けになっちゃうけどいーの?』


『もちろんいいのでピキュ! ウルは負けず嫌いピキュが、しりとりだけは【最弱のレッテル】を貼られても平気なのでピキュ! 何も感じないのでピキュ! 無我無我で無我無我な無我無我の境地なのでピキュー!』


『そ、そーなんだ。そんじゃ説明しよう! 現在、我々が勾留されてるこのアキバブギョーショの入口に二人の男が連れ立って現れた。その二人とは、エドシノビの頭領【魔宮リンゾウ】と何かと話題の開発者【ゲンナ・ヒラガー】の二人なのだ~♪』


『ピキュ! 二人はヒロさんに会いに来たのでピキュか?』


『多分そーっぽい。今既にその壁の向こうでヒソヒソと俺の話をしてるもん』


『やっと状況に変化がキタピキュ~。長かったピキュ~。つらかったピキュ~。もう当分【る】とは関わり合いになりたくないのでピキュ~。最後は【ルリボシカミキリ町娘のゴマダラカミキリ伯爵に対する身分を越えた禁断の儚い恋心】などという、自分でも何言ってんのかよくわからない答えを口走っていたのでピキュ~。さぁさぁ【暗黒のしりとり時代】が終わり、新しい時代の幕開けピキュ! 外のお二人さん! とっととこの留置部屋に入って来やがるのでピキュ~♪』


 かくして、閉ざされていたアキバブギョーショの留置場の厚い扉が開かれた。


 【魔宮リンゾウ】と【ゲンナ・ヒラガー】が並んでヒロのいる監房に近付いてくる。

 二人は檻房前で立ち止まると、無言のまま値踏みするようにヒロを暫く眺めた。

 そして先に声を発したのは魔宮だった。


「お前さんかい? アキバの公園で怪しい煙を吐いてたってのは」


 隣ではヒラガーが興味津々にヒロを観察している。


「はい。確かに煙を吐いていました。でも……」


「おぅ、一応下っ端から聞いてはいるよ。嗜好品で怪しいアイテムではないって主張してるんだろ?」


「はい。その通りです。あれは【魔タバコ】と言いまして、【魔タバコ草】という魔草の葉を摘み、乾燥させ、細かく刻み、それを紙で巻いて成形したもので、先端に火を付けて煙を吸引する嗜好品なんです。例えば、……茶、あと酒なんかと似たようなものですね」


 ヒロはできるだけ落ち着いたトーンでタバコの何たるかを伝えた。


「ん~~、そんなモン見たことも聞いたこともねぇなぁ。で、その【魔タバコ】ってーのに火を付けて煙を吸うと、どーなるんだい? 美味いのかい? 酔うのかい?」


「え……っとですね、まぁ、美味いっちゃー美味いですね」


「ふぅ~ん。なるほどねぇ。しかしお前さん、そんな記録にも史実にも一切見当たらねぇモンをどーやって知って、どーやって手に入れたんだい?」


「それはですね…… 我が家に代々伝わる一子相伝の嗜好品でして……」


「ほぅ。てーことは何かい? お前さんがその【魔タバコ】とやらの生産から製造までを全部ひとりで賄ってるってーことかい? それでたったひとりで消費してんのかい? そんな悪目立ちするよーなエフェクトのモンを? しかも衆人環視、公衆の面前で?」


「……は、反省してます……」


「ん~~~~、怪しいなぁ~。ヒラガーさんよ、あんたどー思う?」


 すると、それまで隣で小さくブツブツ呟いていたヒラガーが口を開いた。


「そーだなぁ。その【魔タバコ】ってのも確かに気になるが、オレはそいつの羽織ってる服に興味があるねぇ」


(ぎくぅぅぅぅぅぅぅ。こいつマジか! アルロライエから貰ったS7級衣類の特異性を見抜いてやがんのかぁ~~?)


 ヒロの心の叫びを余所に魔宮が返す。


「キモノじゃねーってのは少数派ではあるけどなぁ。ただ最近じゃあ別に珍しくもねぇつくりなんじゃねーかい? こんな風体のやつぁアキバやリオゴクウにゴロゴロ転がってるしよ~」


「いや、見た目の事言ってんじゃねぇよ。その服からは、なんつーのかな、ただならぬ妖力…… いや、神力みたいなもんを感じるんだ」


「神力ぃ~? こんな若造の服から~? ヒラガーさんよ、あんた焼きが回っちまってるんじゃねーのかい?」


「ん~、そうかも知れねぇ。ただ魔宮の、こいつの服と身体の検査はオレにやらせてくれねぇかい?」


「まぁそりゃ構わねぇけどよ、まずはその前に取り調べねぇとな。おい、準備しろ~」


 魔宮がそう言うと、背後に並んでいたシノビ衆の中から、紙と筆を持った二人の男が一歩前に出る。


「今からオレがいろいろと質問するからよ、お前さんはそれに答えてくれるだけでいい。なぁに、エド領民なら誰だって簡単に答えられる質問だ。それじゃあまず第一の質問だ♪」


 魔宮はひと呼吸置いてから、質問を繰り出した。


「エン、バオウジンギョウライシャコンデンシャリ、ウズメギンデンサリル、ムラストメイモンゴトキア、バッコライゼンノシバンカイキョメイズンクラ、アイントセルサレマ?」


「………………」


「ん? どーした? 答えが遅ぇぞ~♪」


 檻越しにニヤニヤと笑う魔宮と対峙し、ヒロは意を決する。

 ゆっくりと右手を入口の方角に向け、指を差し、視線を向けると、悲痛な面持ちを浮かべ、突如として留置場全体が響き揺れるほどの大声を放出した。


「あいつが犯人だぁぁぁぁあああああああああ!!!」


 あまりの大声に面食らいながら、留置場内の全ての人間が、ヒロが睨み指差す方角を咄嗟に確認することとなる。

 そして、視線の先に誰も居ない状況を認識し、改めてヒロに向き直すと……


 檻房はもう、もぬけの殻だった。




「なっ!? き、消えやがった! おい、誰か! 牢の中を見てた奴はいねーか!?」


「おぉ、なんとまぁ、透過の術かい?」


「消える術ならまだ実体は牢の中にいるはずだ! 槍と棍を持ってこい! いや、まずは色粉を持ってこい! 外からブチ撒いて姿を晒すんだ! 早くしろい!」


 その後、アキバブギョーショの留置場では、上を下への大騒ぎで様々な現場検証が繰り返されたが、色粉を撒けど、水を撒けど、エレクトロチャカを乱射すれど、毒入りカツ丼を放置すれど、結局ヒロの存在は確認出来ず、魔宮リンゾウ率いるシノビ衆は途方に暮れることとなるのだった。





 直後。ハナランド内。


『結局南極造幣局こーなったのでピキュ~。無念ピキュ~』


『まぁまぁウルさん、確かに実体はずっと勾留されてただけで無駄な時間っぽかったけどさ、そんな中でもたくさん経験積めたじゃないか♪ 重要アイテムの連続自動錬金とか、和能呉呂エリア広域の観察とか、3つのダンジョンの攻略とか、エドの猛者共の情報閲覧とか、あと、なんつっても楽しい会話! しりとりがいかに精神鍛錬と親睦を深めるのに有効かも実感できたっしょ? ん~~、実りのある充実した勾留だったねぇ~♪』


『………………』


『ウルさん? おなか空いた? それとも何かいけないものでも拾い食いしておなかこわしたの?』


『……なんでもないのでピキュ~~~』


『あ、まぁ何だ、追い詰められて一目散に逃げて来ちゃったのはカックワリーだったかもだけどさ、対人間に関しては【戦わないで済むなら全力で戦わない】ってーのが俺の異世界生活のテーマのひとつでもあるし、そこは許して! ごめんちゃい♪』


『ピキュ。別にウルは怒っても悲しんでもいないのでピキュ~。ただ…… いや、なんでもないピキュ。(急いでしりとりに代わる新しい暇つぶしの遊びをプレゼンしないと身が持たないのでピキュ~)』


『ん? なんだって?』


『な、なんでもないピキュ! 間一髪危機を回避できたので良かったピキュ~。ヒロさん、何だかんだで【エド観光】はとっても楽しかったのでピキュ! ありがとなのでピキュ♪』


『なんだよあらたまって~、照れるじゃないか~♪』


『ピキュピキュピキュ~♪』




シュボッ


 おもむろにヒロが魔タバコ[魔ショットホープ]に火を付け、ウルに質問する。


『ところでさ、』


『ピキュ?』


『昨日のユーロピア帝国がらみのゴタゴタってさ、そろそろ丸一日経つけど、現地特派員のウルさんは何か掴んでる?』


『ピキュ! もちろん随時観察中なのでピキュ! まだ、我々の存在に気付く輩も、存在を疑う輩も出てきてないピキュので放置観測のみしているピキュが、【騒ぎ】という意味では、そりゃ~もぉ~さっきの留置場の騒ぎなんて目じゃないのでピキュ! 上を下への大騒ぎを超越して、天国を地獄へのしっちゃかめっちゃかカオスパニック騒ぎなのでピキュ~』


『まーそりゃそーなるわな~。帝国各都市で建設中の【鉄道】そのものが消え失せ、【ゲルマイセン領】と【フーランツェ領】で建造中の【魔晶列車】も消え失せ、【イングラル領】と【スパルトガル領】と【フーランツェ領】と【ゲルマイセン領】にて停泊中または建造中の全ての【魔晶動力船】もぜ~んぶ消え失せちゃったんだもんな~。そんでウィン近郊に1万人以上の全裸の軍人やらブラードレク軍団の大量放置。さらに今後、カサンブラン沖の軍の最新型魔晶動力軍艦とブラードレク商会の民営軍船がぜ~んぶ海上から消え失せた事実や、ルーシャ王国国境の【黒壁】や【巨大棒】が確認されれば、も~ユーロピア帝国も正気を保っていられないかもね~』


『特にオステリア領ウィンは今、大変なことになっているのでピキュ~』


『お~、1万人の全裸放置現場な。突然町に押し寄せられても1万着の服は無いだろうし、大変だろうな~。でも、ウィンの服飾店は大儲けだよね♪ まさに天から降ってきたビジネスチャンスなんじゃないか~?』


『そんな服屋さんのことよりピキュ、ルーシャ王国国境で陸軍を率いていたゲルマイセン領大公ハインツ・プライセンと、カサンブラン沖で威嚇砲撃してたイングラル領大公アーサー・ウィーザーが、腹心の上級貴族軍人数名を引き連れてウィンの領主邸に駆け込んだのでピキュが、それはもう見てらんないレベルの憤怒激昂発狂錯乱っぷりで、心身喪失&自暴自棄状態なのでピキュ~。あいつらは自分達が圧倒的優位に時代を駆け抜けている気満々だったところを、理解不能の摩訶不思議体験によって突然有り得ない土地に真っ裸で放置されたのでピキュ。そりゃ、正気を保てないのも無理のない話なのでピキュ~』


『……そっか~、あいつらも大変だなぁ~』


『なぁ~にが“あいつらも大変だなぁ~”よ! それ全部あんたがやったことでしょーに! しみじみと気の毒がってんじゃないわよ~まったくもぉ~』


『お! ヒメおかえり~♪』


『ピキュ~! ヒメさん待ってましたなのでピキュ~♪』


『え!? …………ん、た、ただいまぁ……』


『そんな事よりさー、ヒメ聞いてよ~。アキバブギョーショで魔宮とヒラガーに問い詰められてさ~、あいつら酷いんだぜぇ~。訳の分かんない暗号みたいな呪文使ってさ、俺を窮地に追い込むんだよぉ~。あれな、ほぼ多分ぜってー間違いなく、テキトーに作ったフェイクだと思うんだよね~。そんで俺を動揺させて、正体を炙り出していくって寸法のヤツ! 今思えばもーちょっとくらいはあのまま牢屋で粘れたかもなぁ~って気もするんだよなぁ~』


『ヒメさんヒメさん! エドの猛者共の名前とか技がチョベリカックイーのでピキュ! モサドじゃないピキュ、猛者共ピキュ! それで武器の名前もカックイーのでピキュよ~♪ でもその武器、実はヒロさん所有の初期ドロップ品より格下だったのでピキュ~。なんか残念だったのでピキュ~』


『あとヒメさ、もし【ゴブリンが言いそうなセリフしりとり】で【る】が回ってきたらなんて答える? ウルさんがさ、傑作な回答連発してくれてさ~』


『ピッキューー!! しりとりの話はもーいーのでピキュピキュ!! ヒメさん助けてほしいのでピキュ~~~』


『……………………』


『あれ? ヒメ聞いてる?』

『ヒメさん?』


『…………う、うん! 聞いてるよっ♪ えぇ~~何だってぇ~? 何があったのか、この絶世の美女神様に何でも聞かせてみなさ~い♪』


『お~~、じゃあもーいっかい言うぞ~♪』

『ヒメさんたすけてピキュ~~』


 自ら癇癪を起こし勝手に引き篭もった経緯もあり、かなり気まずい心境で勇気を振り絞って会話に飛び込んでみたヒメだったが、結果、何事もなかったかのように普段どおり接してくるヒロとウルがとても暖かく眩しい存在に思えた。

 ヒメは胸の奥から大切なナニカが溢れるような感覚を覚え、その後も馬鹿な会話を繰り返しながら、ひとり神ネットに身を潜めていた長い年月を思い返し、少し泣きそうになるのだった。





『さぁ~て、アホ話もこのくらいにしてだな、エドもそろそろ夕暮れ時が近付いてきてる訳だけど、時差の関係でヒロシティは現在ド深夜だ。24時間世界中を股にかける生活に入っている俺にとって、今や【ヒロシティの夜明け】くらいしか日付の切り替えを意識できなくなちゃってる。まぁ特に意識する必要もないんだけど、他の仲間達の活動時間との兼ね合いもあるし、一応ヒロシティ時間を基準時間としようと思うんだ』


『そ~ねー。24時間刻みの時間感覚が希薄になりつつあるのは確かよね~』


『ピキュ! 今日なんかずーーーっと昼なのでピキュ~』


『そこでだ、毎日の規則正しい生活を守るためにも、できるだけ【夜明け】はヒロシティで迎えようと思いま~す』


『いーんじゃない? 【一日】って単位が実感できてさ』


『ピキュ! 毎日何かひとつのことを基準に生活するのは、健全な魂の発育にも好ましいのでピキュ~』


『んじゃ、そーゆーことでよろしく♪ でだな、その【ヒロシティの朝】まであと数時間有るわけだが、俺はかねてから頭のごくごく片隅で、うっすらぼんやりちょろっと微かに計画していた実験に取り掛かってみよーかなーと考えておりやす♪』


『それっても~ほぼなんも考えてなかったってのと同じじゃないの~?』


『ゴホン。そこ静粛に。……えっとね、ちょっと【遠出】をしてみたいんだよ♪』


『遠出?』

『トーデピキュ?』


『うん。俺、月に行ってみたい♪』


『な、え……と、ひ、ヒロ、月って、……あの【月】?』


『うむ。キツネ憑きの【憑き】でもなく、三食昼寝付きの【付き】でもなく、大木キンタロー奥義アトミック頭突きの【突き】でもなく、マッスルロリコン帯マッケンジー大槻の【槻】でもない。そう、それは! 夜空のムコウにしっとりと浮かび、ウサギの生息地としても知られ、セーラー服型美少女戦闘員の出生地としても名高い、あの、【月】だ♪』


『なっ! そんな無謀な……いや待って、ふむ、そっか、なるほどねぇ~♪ 確かにヒロのフレーム魔法は物理的影響を無視した座標維持性能を持ってるんだから、【流星4号★要塞★999迷彩】でどんどん上昇すれば、いや、ハナランドワープ連打で、宇宙へだって行けるのか~』


『そーなんですよヒメさん。テラースの重力もカンケー無いからね~。あとは真空とか熱とか圧力に材質が耐えられるかって問題が残るんだけど、ヒロニウムを完成させた今ならば、過酷な宇宙空間でもイケそうな気がするんだよな~』


『それ、楽しそう! ヒメも大賛成~♪』

『ピキュ! ウルもワクワクなのでピキュ~!』


『よし、そんじゃ~あと数時間だけど、記念すべき【第一回ヒロファミリー宇宙旅行】に出発したいと思いまーーす!』


『いぇ~~~い♪』

『ピキュピキュピキュ~♪』





 ヒロは月に向かうにあたって、まず現時点で未使用の【スキルバフ】と【ステータスバフ】を試してみることにした。


『まず、俺の現在の【MP】は316282で、【MP自動回復量】は1秒100%、【スコープ】の到達距離は2000kmくらいだ』


『そんだけでもバケモノだけどねぇ~。ハナランドワープ連発すれば、1分くらいで辿り着けちゃうんじゃないの?』


『あぁ。確か月までは何十万キロって単位の距離だったと思うから、慎重にハナランドワープ繰り返しても多分数分で着けると思う。ただ、今後の宇宙へのロマンも考えると、ここはよりハイスペックな移動性能が求められるんだよ。何しろ、この世界が俺の前世のサイズ感と似てた場合、月なんて隣の家くらいの距離でしかなくてだな、もし【生物が住めるような別の惑星】を目指すとなると、光の速さでも何十年~何百年もかかるような超超超超遠距離を進むことになってしまうからなんだ』


『ヒロってば、既にハビタブルゾーン目指して太陽系を飛び出すことまで視野に入れてたのね。なんつー強欲な視野よ、まったく』


『いや、だってさ、月とか…… あ、ヒメ、俺フツーに【月】とか言ってたわ。ちょっと浮かれて前世名連発してたなー』


『おっとヒロさん、それはわたしも同罪だわ。でもこんな時は任せて! ヒメ所有の究極ガイドシリーズに確かいいのがあったはずよ♪ えぇ~~~っとねぇ、うぅ~~~んと……』


 ヒメの究極ツール探しはそれなりに時間を要した。


『……ヒメの部屋ってさ、ぜってーゴミ屋敷みたいな惨状なんだろーなぁ』


『ピキュピキュ~~』


『ちょっ、ちょっと失礼なこと言わないでよーー! わ、わたしの部屋がゴミ屋敷のわけないでしょー!?』


『ほう、じゃあ【ゴミ屋敷】は取り下げよう。ただ、【散らかりまくってる】ならどうだ!!』


『ぬがっ! っく…… べ、べつに、そそそんなこともないよ? ち……ちちちらかりまくってなんか……ぜぜぜん、ぜん、ないもん。ほほほんとだよ?』


『ふっ。わかったよヒメ。だからもう何も言うな……』

『ピキュ~~~~~』


『あーー! あった! あったよヒロ~! これこれ~♪ 【テラースから見た宇宙★そのすべて♪[とある女神の走り書き版]】。これでバッチリ宇宙のことが丸わかりよ~♪ うんとね~、読むよ~。……テラースは、恒星ソルースを中心に公転する惑星のひとつで、ソルース系第三惑星である。ソルース系惑星は、ソルースに近い順から、メルクリース[1]、ヴェヌース[2]、テラース[3]、マルース[4]、ユピトース[5]、サトゥース[6]、ウラース[7]、ネプトゥース[8]の8つがあり、各惑星には衛星も多く存在する。テラースの衛星はルナースひとつである。ソルース系はミルキーギャラクシスという、より大きな恒星系郡の中のひとつに過ぎず、ミルキーギャラクシスのかなり外側を渦巻状に公転している。ミルキーギャラクシスの公転の中心には黒核星ミルキーヌがあり、ミルキーギャラクシス内の恒星系を含む全物質は、渦巻きながらゆっくりと黒核星ミルキーヌに引き寄せられ、最終的には飲み込まれる。宇宙にはミルキーギャラクシス以外にもたくさんのギャラクシスがあり、アンドロメトロンギャラクシス、マゼラーヌギャラクシス、スパイラルホイルギャラクシス、ストラトフィアスギャラクシス、ジスタリオンギャラクシスなどが挙げられる。全てのギャラクシスには中心に黒核星があり、例に漏れず当該ギャラクシスの中で突出して質量が大きい。さらに、それぞれのギャラクシスも渦巻き公転軌道を移動しており、全ギャラクシスの中心にはマクロマテリアルゲートという超高質量で大規模の核が存在する。ひとつのマクロマテリアルゲートを核とするギャラクシス郡のことをスーパーギャラクシスという。さらにスーパーギャラクシスも数多く存在し、エピックマクロマテリアルゲートを中心に渦巻き公転している。エピックマクロマテリアルゲートを中心とするスーパーギャラクシス郡をウルトラスーパーギャラクシスという。さらにウルトラスーパーギャラクシスも数多く存在し、グランドエピックマクロマテリアルゲートを中心に渦巻き公転している。グランドエピックマクロマテリアルゲートを中心とするウルトラスーパーギャラクシス郡を超ウルトラスーパーギャラクシスという。さらに超ウルトラスーパーギャラクシスも数多く存在し、エクシードグランドエピックマクロマテリアルゲートを中心に渦巻き公転している。エクシードグランドエピックマクロマテリアルゲートを中心とする超ウルトラスーパーギャラクシス郡を超ウルトラスーパースペシャルギャラクシスという。さらに超ウルトラスーパースペシャルギャラクシスも数多く存在するのだが、それはまた、別の機会に……。だってさ♪』


『ん~~長いよっ! 不眠体の俺でも途中寝くなったわ。今は【テラースの衛星はルナースひとつである】までで良かったんだっつーの。まったくも~』


『知らないわよ~、キリのいいところまで読み上げただけでしょ~?』


『ピキュ~。でもおかげでこの世界における【宇宙ってやつ】が分かったのでピキュ~♪』


『ウルさんマジか!? 俺はウトウトしててよく分かんなかったけど……』


『任せるのでピキュ~♪ 【宇宙】って、よーするに【マトリョーシカ】なのでピキュ~』


『……ホントかよ』


『そぉ~ね~、わたしも読んでて思ったわ~。あ、コレ、マトリョーシカなんじゃね? って♪』


『……まぁ、全然分かんねーけど、二人がそー言うならそーゆーことにしとこーか。それより【月】が【ルナース】ってことが分かったんだから、これからは【ルナース】で統一な♪』


『は~い、るな~っス♪』

『ピキュ~~ッピ♪』


『で、話を大きく戻すけど、ルナース旅行程度だったら今のスペックでも容易かと思われる移動も、ソルース系外惑星を巡るとなると、桁外れの能力が必要になってくる。そこで、【スキルバフ】と【ステータスバフ】の出番だ。【スキルバフ】は迷うこと無く【スコープ】にぶっかけるとして、問題は【ステータスバフ】。ここはやっぱり【INT】にかけようと思う』


『【INT】が距離に影響してるってこと?』


『多分ね。【AGI】が処理速度、【DEX】が正確さ、【INT】が魔力、と考えると、【スコープにおける距離】は、おそらく【INT】に依存してるとしか思えない。なのでまず、【INT】に【ステータスバフ】をかけて、確認してみま~す♪』


 ヒロはスクリーンにステータスを表示させると、【ステータスバフ】を発動し、【INT】への効果をイメージしてみた。


『おおぉ、一瞬でMP残量がゼロになった直後、元に戻ったわ。そんで~俺の【INT】は~っと、ぬおおおお!!』




INT:40000 + 15925【STB効果:184552】




『じゅ、じゅうはちまん……。ハナとの合算値の3倍以上になっとるがな。恐ろしいぜ~自分が……。さ、さっそく【スコープ】試してみるぞ~♪』


 ヒロはすかさず【スコープ】を発動する。すると……


『うわぁ~~、ダメだ~。近場は問題ないけど、3000km超えてくるとピント合うの遅いし、そのピントもブレブレだ~。そーいえばステ値って、どれかひとつが上がりすぎてると他のステ値が対応限界値超えちゃって活かしきれなくなるんだったわ~。残念~~』


『てことはさ、結局どのステ値に振ったところであんまり意味ないってことじゃないの?』


『そーなるなぁ。意味あるとすれば、一番低いステに振るパターンかなぁ。マイナス分を一気に補填できるしね。あれ? ……ん? いや待てよ? ちょっとふたつとも再確認だ』




■スキルバフ

使用者が持つスキルのうち、どれかひとつの効果を一定時間強化できる。

発動するには使用者の【全MP】を使用する。

【強化時間】と【強化量】は使用者のMP量とレベルとステ値と人となりに依存する。


■ステータスバフ

使用者が持つステータスのうち、どれかひとつの効果を一定時間強化できる。

発動するには使用者の【全MP】を使用する。

【強化時間】と【強化量】は使用者のMP量とレベルとステ値と人となりに依存する。




『よし、分かった! 俺だけにしかできな裏技発見したぞ!! まず、さっきの事からも【ステータスバフ】を【INT】に使うのは間違いだ。ステ値のバランスが崩壊する。ゆえに“じゃあどれ上げたってダメじゃん……”と思いきや、よくよく2つのスキルの説明文を読むとだな、【強化時間と強化量は使用者のMP量とレベルとステ値と人となりに依存する】ってあるだろ? これをさらに今注目の要点だけにまとめると、【強化時間と強化量は使用者のMPに依存する】となる。そう! 【ステータスバフ】で上げるべきは【MP】なんだよ♪ MPならいくら突出してても【ただのタンク】だから他のステ値と干渉し合わない。しかも、このあと実験する【スキルバフ】の効果にもモロに影響する。てーことで、MP一択だったんだな~。さっそくやってみよっと♪』


 ヒロはスクリーンにステータスを表示させると【ステータスバフ】を発動し、【MP】への効果をイメージしてみた。

 すると、今まで効果が付いていた【INT】のステ値が元に戻り、代わって【MP】の数値が跳ね上がった。




MP:145000 + 13141【倍リング + STB効果:1043730】




『ぬおおおおお!! ひゃくまん、超えた……』


『おおぉ、ヒロばっけも~ん♪ どーやら今のヒロのステ値だと3倍強の効果があるみたいねぇ~。あとは強化持続時間がどれくらいなんだい?って話よねぇ~』


『……ヒメ、つい先程からなんだが、俺のスクリーンの端に見慣れない数値が表示されてるんだが……』


『ヒロ、それは?』


『なんか、今は【STB:21173】って出てて、多分1秒間に1ずつカウントダウンしてる』


『長っ! えっと…………6時間弱!? つーかその、長さもだけどさ、カウンターが付いてるってのが超便利よね。効果が切れそーになったら準備できるし♪』


『すげーな、このスキル』


『ピキュピキュ~! ヒロさんのMPはも~戦略兵器を凌駕してる級なのでピキュ~♪』


『ウルさん、悪くない表現だぜ……。さて、それじゃあこの【1043730MP】をひっさげて、仕上げの作業と行きますか♪』


 ヒロはスクリーンにステータスを表示させると、【スキルバフ】を発動し、【スコープ】への効果をイメージしてみた。




【スコープ[SKB]】




『……これはそーなるか。数値で表されてない分、なんか地味に感じるなぁ』


『ヒロ、これもまたカウントダウンしてるの?』


『はいな。【STB:21105】の隣に【SKB:65879】って出ておます~』


『うわっ、律儀にMPが爆上がりした分だけ強化持続時間も増えてるのね~』


『さーてさて、そんじゃ、【スコープ】が【スコープ[SKB]】に羽化したことで、どんだけ遠くまで見えるようになったのか試す時が来たぜ! いざ、【スコープ[SKB]】!!』


 ヒロはいつもの感覚で【スコープ的視線】を走らせてみた。



『ぬおぉぉぉぉおおおお!!! こ、こりゃスゲーーー!!』



『ピキュ!! ヒロさん、何が起こったのでピキュか!?』


『何よ何よヒロぉ~、地球の裏側でお着替え中のかわいこちゃんの下着姿でも見えちゃったの~?』


『うん、見えた。いや、見えてない。いや、見えた……』


『ヒロ、どーしちゃったの?』


『あ、いや、かわいこちゃんの下着姿は見てないんだけど、地球の裏側は、見えた。それも鮮明に……』


『え!? ヒロってば、リアルに【ブランジールの人、聞こえてますかね?】をやれちゃったの?』


『いやヒメ、エドの真裏は海なんだよ。海が見えてる。陸地から1000km以上離れたトコ。うわうわっ! うぅわぁ~~、こりゃすげーわ。ヒュンヒュン視点が動くよ! しかも頭が冴え渡ってるみたいに正確にさ~。今、アンゼス共和国のブランジール領レオジャーノを見て回ってるんだけどさ、めっさ深夜でさ、町は真っ暗闇で人の動きなんか全然無いなぁ~。つーかこれ、テラース規模では検証し切れないってことだよね?』


『つーかも何もさぁ、これでヒロは、一箇所にとどまりながらテラース中の全ての場所を観察できる能力者になっちゃったのよねー。テラースの生物なら、いつでもハナランドの中でタバコ吸いながらサクッと殺れるよーになっちゃったのよねー ねー ねー ねー』


『なに【ひとりエコー】かけてんだよ~。でもまぁ確かにそーだわ。少なくとも現行の【スコープ[SKB]】だと、12000km以上は楽勝で視点を飛ばせるってことだもんなぁ。これ以上の実験となると、やっぱ…… 宇宙か~』


 ヒロはそう呟きながら、試しに上空に向けて【スコープ[SKB]】を飛ばしてみる。


『……おぉぉ~、かなり限界っぽい領域まで距離延ばしてみてるんだけどさ、これ、けっこ~なとこまで行けてるんじゃないかなぁ~』


『ねぇヒロ~、宇宙ってなーんも無い空間なんでしょ? スコープって何かを見ないとピント合わないんじゃないの~?』


『それがさ、そ~でもないんだよヒメ~。宇宙空間って俺が今見てる限りではさ、塵やら小石やら岩やらがけっこーな頻度で漂っててさ、ピント合わせの目標物に困るってことは無さそーなんだよね~』


『あ~そっかぁ、別に人工衛星や宇宙ステーションやサイド777が無くても、小石が浮いてればピントは合うのね~♪』


『そうそう。ただ、別の問題があってさ~。今、俺、かな~り遠くにあると思われる宇宙小石を見てるんだけど、敢えて言わせてもらうなら俺、【宇宙の土地勘】がないからさ、結局この宇宙小石までの距離がどんくらいかが全然わかんないんだよ~』


『あ~、残念なやつね~。試しにさ、小石見ながら“距離よ出ろ!”って念じてみたら?』


『あのなぁヒメ、そんな都合のいいオプション機能が付いてるわけ……出たわ!』


『お~、やってみるものね~♪ ちなみに距離は?』


『ん~と、【大体62300km】って出てるな。コレが』 


『キャッ怖い! ヒロぉ~、ヒメ怖いんですけどぉ~』


『ヒメ、俺はもう、俺のスペックには驚かん。無だ。無の境地だ。ガクガクブルブル』


『わかりやすく驚愕してるわね。ちょっと安心したわ。それにしてもさぁ、スキルバフって距離や正確さの数値だけを上げるんじゃなくて、総合的な機能にも影響してるっぽいわねぇ~。凄っ』


『あ、あぁ、この【距離測定機能】か。実はヒメ、これ以外にも既に【スコープ[SKB]】の恩恵かと思われる【機能】が発覚してるんだが……』


『な、なにそれ?』


『さっきから見てるこの宇宙小石に対して“情報くれ!”って意識するとな、スクリーンに【この小石の情報】が表示されるんだよ……』


『ぬあっ!? イ、インベントリ内の収納物でもないのにぃ~? ス、スコープって、成長すると【鑑定機能】まで発現しちゃうの~?』


『…………便利だな』


『…………便利ね』


『…………ピキュ~』


『ただな、よく考えると、俺は今まで【スコープ】使用中に【情報開示の要求】をイメージしたことなんて無かったからさ、今発現したのか、元々あった機能なのかはよく分からないんだけどねぇ』


『まぁどっちでもいいじゃない、すごいんだから♪』


『ま、まぁなー。そんじゃあ、改めてルナースを目指してみるか~。現状での俺のスコープ限界距離を、ちょっと余裕を持たせて6万キロとすると、1度のハナランドワープで辿り着ける先は12万キロとなる。まずはその12万キロ移動を体感してみよっか♪』


 ヒロは【流星4号★要塞★999迷彩】を生成し乗り込んだ。


『いやぁ~~~ん、なんかメチャごっさドキドキする~♪』


『ピキュピキュ~! 初めての宇宙なのでピキュ~~♪』


 次の瞬間。正確には0.1秒後、ヒロを乗せた【流星4号★要塞★999迷彩】は、真っ暗な宇宙空間に浮かんでいた。


『キタっ! みんな! まずは現状確認だ! 熱は!? 空気は!? 問題無いか!?』


『特に何も変化無いんじゃないの~? てゆーかヒロ、あなた、無重力空間に居るはずなのに、フツーに立ったり歩いたり壁ペタペタ触ったりできてるのは何で?』


『ピキュ~。ウルは【神速飛行】を駆使して位置の安定に努めているのでピキュ~』


『俺は【流星4号★アウトソール★迷彩】のアレンジ版を同時掛けしててだな、まだちょっと慣れなくてフラつき気味だけど、足裏を座標固定することで安定を図っているんだよ。しかしアレだな、無重力ってとこ以外は、特に変化が……見られないなぁ』


『だってさぁ、中の空気はインベントリ経由で絶えず循環してるんでしょ~? てことは気温も気圧も酸素濃度も地球上と変わらないんでしょうし、壁は全方向3m厚のヒロニウムだから、ちょっとやそっとのことでは破損しないでしょうし、大丈夫に決まってるわよ。ね~ウルちゃん♪』


『ピキュ~! 今、ウルは壁に潜り込み経由で外に出てみているのでピキュが、ソルースのアンダーレッドビームをモロに食らってる割にはさほど高温にもなってないのでピキュ! ヒロニウムは環境による変化を受けにくいっぽい孤高の戦士物質なのでピキュ~♪ 超優秀なのでピキュ~♪』


『ウルさん、もう外に出ちゃってんの!? すごいなぁ~。何ともない?』


『ピキュピキュ~♪ ウルは元々ボディ強度に加えて、体表に真空の層を作ることで温度変化には強い種だったのでピキュ! 絶対零度でも10万度の灼熱地獄でもへっちゃらだったウルがさらにヒロニウムボディとなり、もはや宇宙空間なんて【普段空間】なのでピキュ~! あぁ~ヒロニウムボディに進化して、えがったピキュなぁ~……ピキュ♪』


『ヒロニウムボディを気に入ってくれたんなら俺も嬉しいよ~って言いながら、実は俺もヒロニウムという物質の性質については何も理解してないんだけどね~』


『ヒロニウムはすんごいのでピキュ! 熱にも負けず、圧にも負けず、魔力にも物理攻撃にも負けぬ万能な性質を持ち、弱点は無く、決して腐食せず、いつも安定して存在しているのでピキュ! こういうボディにウルはなりたかったのでピキュピキュ~♪』


『……ま、まぁ、【とにかくなんかすごい】ってことで、いっか♪』


『ピキュピキュピキュ~♪』





『さて、そんなこんなで【流星4号★要塞★999迷彩】の中に居る限りは、宇宙空間でも全然問題ないってことが証明されてる真っ最中なのだけど、とりあえずテキトーに飛んじゃったもんだからルナース方向とはちょっとズレちゃったみたいなんだよ。で、ルナースが視認できたから改めて向かおうと思いやす♪』


『スコープではもうルナースの表面とか見れちゃってるの?』


『いや、そこまでは無理だわ。ただ、そこそこ大きめに見えるからさ、“あの辺りまでの距離教えて!”ってイメージしたら、スクリーンに“ん~、多分30万キロくらい?”って出たんだよ! ざっくり情報とは言え、教えてくれるこの感じ、すげくね?』


『ちょっとそれってまるでアルロ……(いや、これは間違いなくアルロライエちゃんの直接介入によるナビだわ。むぅ~、あの小娘めぇ~。ヒロの役に立ちたい色の覇気、出しすぎなのよねぇ~。……でもまーいっか。ヒロを好いてくれるのは、私にとってもありがたいことだしねぇ。ここはフガフガ言わずにお姉さん的立場で素直に感謝しとこっと♪)……ってねぇ~、マジでなんでもないよ~♪』


『え? ヒメ今、“アルマジロ種の中ではヒメアルマジロがいっちゃんかわゆす♪”って言った? 俺はフツーにマタコミツオビアルマジロとかの方がアルマジロアルマジロしてて好きだけどなぁ~。だってヒメアルマジロってシャコの握り寿司みたいっしょ~。まぁフサフサもあるし、独特のあの存在感に惹かれる気持ちも分からないでもないけどね~、うんうん♪』


『(この馬鹿どーゆー耳してんのよまったく)……そ、そぉ~なのよ~。ヒメアルマジロちゃんかわゆすだなぁ~ってちょっと思っちゃってさ~』


『まぁアルマジロ談義はそのうちゆっくりするとして、異世界転生者支援プログラムが【30万キロくらい】って言ってるんだから、ざっくり信じて向かってみるね~♪』


 ヒロは目視できているルナースに向け【ハナランドワープ12万キロ】を2連続で発動した。


『おおおぉ~! で、でかい♪』


『情報が正しければもうルナースまで6万キロってことでしょ? ヒロの【スコープ[SKB]】で地表の観察とか出来ちゃうんじゃない?』


『それがね、ヒメ、ギリギリだけど、一部見えてる♪』


『いぇええ~~い! ルナースよ! わたしたち、この世界で人類初のルナース面着陸に成功する偉人になるのよ! ヒロ興奮するね~♪』


『おまえは【人】じゃなくて【神】だろーが♪』


『ちっちゃいことは気にしな~い、それ若巫女★若巫女~よ♪』


『ピキュピキュ~! これでヒロさんはアッポロン111号のアームストロガノフ船長と肩を並べるのでピキュ~♪』


『あ、ウルさん、それ俺、信じてないから』


『ピキュ!?』


『うわぁ~出た出た~、陰謀神の下僕~。ウルちゃん、こーゆー大人になっちゃダメよぉ~。何でも疑ってかかりすぎて、空気読めないマジ発言連発男になっちゃうんだから~』


『ピ、ピキュ~~~』


『俺が個人的に疑ってるだけなんだからい~だろーよ~。だってさ、前世時間で五十年以上も前に地球以外の天体にたった4年間で6回も有人着陸&探索&帰還までやっておきながらだよ、12人もの着陸作業員が1人も死ぬこと無く全員無事に帰還しておきながらだよ、その後一切全く全然類似した有人着陸の痕跡が無いなんて、異常だろ。しかも白黒テレビの時代に着陸現場からの全世界中継放送とかやってんだぜ? さらにその後の五十年の間、世界中で山ほどロケット打ち上げて、人工衛星やら宇宙ステーションなんかも浮かばせて、火星を代表とするたくさんの惑星探査も無人ではアホほどやってんのにだよ、有人着陸計画だけは全くやってないんだよ。五十年も前に計6回12人もの大成功をおさめた往復プロジェクトがだよ? 五十年前の技術力でそこまでのことが出来たんなら、その後も誰かが挑むに決まってるよ。誰もやってこなかったのは、金の問題でも政治の問題でもなく、単に環境が過酷すぎて人が着陸してさらに飛び立つなんて無理筋だったってことなんだろうと俺は思ってる。ロケット、宇宙ステーション、惑星探査機、その他大体の宇宙探索的史実はそこそこホントなんだろうな~って思ってる俺だけど、【五十年前の月面有人着陸&全員帰還全部成功】についてだけは全く信用してない。【論理的・科学的に説明可能であること】と【実現したかどうか】は別モンの話で、つまり俺の解釈では【人類史上最大級のイリュージョンファンタジー】という事件であり、同時に俺の逆ロマンなんだ。できればそっとしておいてほしい……』


『そんだけベラベラ御託並べといて“そっとしておいてほしい……”なんてよく言えるわね~。でもヒロ、あなたが何と言おうと、わたしは信じてるわよ、アッポロン計画。だって確実な情報を持ってるんだもん♪』


『え!? …………確実な……情報?』


『うん♪ ちょっと地元は違うんだけどさ~、この世界で言うと、ユーロピア帝国方面? あのあたりで昔ブイブイ言わせてた【アッポロン】っていう神フルエンサーの知り合いがいてね、そいつが神DMで“ヒメさん、アッポロン計画ってやつあんだろ? ありゃ~マジだぜ。オレっちの親友の姉ちゃんのカレシが直接見たって言ってんだから間違ぇねぇよ。マジマジ! だからこの話、広めといて~♪”って言ってたんだもん。ね、確実な情報でしょ♪』


『………………ぐうの音を出す気も起きねぇわ……』


『でしょだしょ~?♪ だからヒロも、歪み切った疑念の渦なんか掻き回さずにさ、サクッとルナース観光楽しもうよ! 落ち込んでる場合じゃないぞぉ~♪ レッツ! ルナーーーーッス!!』


『……おーーー』

『ピキュピキュ~~♪』


 ルナースまで6万キロちょっとの地点に辿り着いたヒロは、【流星4号★要塞★999迷彩】に搭乗したまま、1000km単位の小刻みなハナランドワープと観察を繰り返しつつ、ジワジワと近付いていった。


『おーっと、ルナースの表面がそこそこ見えてきたぞ~♪ ん~~と、あれ? あれれ? ウサギが居ないぞ!? バンブー女王様★カグヤ嬢も見当たらない!! セーラー服型美少女戦闘員の子孫も…… ってかさ、何だよっ! 砂だらけの荒涼とした景色が続いてるだけじゃん!! ロマンもクソもなんもねーじゃんか!!!』


『いやヒロ~、それは分かってたことでしょ~。駄々コネコネしちゃダメよ~』


『ピキュ~。ヒロさん、ルナースには大気が無いとの噂ピキュ~。真空の荒れ地で生物は生きられないのでピキュ~』


『ぐぅふぅぅぅ~~~』


『な~に青葉中戦最終回でホームにヘッスラした後のイガラッシみたいな声出して泣いてんのよ~。元気出しなさいって~。あ、そーだヒロ! 魔素脈探してみれば? ダンジョンは無理としてもさ、魔素クリスタルとかならあるかも知れないじゃない?』


『ぐふぅぅ~~。おれ…… 魔素クリ…… さがす……』


『ピキュ~。ヒロさんかわいそうなのでピキュ~~ 泣かないでピキュ~~』


(…………だめだわこりゃ)





 その後、ウルの献身的な慰めにより窮地を脱したヒロは、ルナースまで急接近しつつ、気を取り直して【魔素クリスタル鉱脈】を探していた。


『おっと、またあった♪ これで3つめだ~。いやぁ~ルナースは【魔素クリスタル】の宝庫だな~♪ テキトーに近付いた最初のポイント付近で既に【ルナ魔素クリスタル】が1434万トンもとれるとはね~。ウルさん、ごはんの時に出すから楽しみにしててよ~♪』


『ピキュ! たっのしみなのでピキュピキュ~♪』


『ヒロ~、とれとれ大漁なのは良かったけどさ~、あなた近場の魔素脈漁るだけで、全然広域探索とかしてないでしょ~? せっかく【スコープ[SKB]】で6万キロも視野があるんだから、この際ルナース全部をザーッて視姦しちゃえば?』


『し、視姦とはなんだよ視姦とはっ!! そもそも視姦とは見られる側にも自覚がある場合にのみ使っていい言葉なんだぞ! たとえルナースが俺に見られてる自覚があったとしても、ブルブルしたりソワソワしたりウットリトロ~ンしたりするわけないだろ! もっと常識を重んじた表現使ってくれよ!』


『はいはい、それで広域探査はやってみたの?』


『いやそれは…… ルナース着陸の興奮と、すぐ真下に魔素クリ鉱脈見つけちゃった興奮、ふたつの興奮で、すっかりさっぱりやってない……』


『【着陸の興奮】っつっても、【流星4号★要塞★999迷彩】をトンッてルナース面に置いて、すぐにハナランドに戻ったってだけじゃないのよ~♪』


『ピキュ! それでも着陸は着陸ピキュ! ウルは感動したのでピキュピキュ~♪』


『だよねぇ~ウルさん、俺たち着陸したよね~♪』


『ウルちゃんはいいのよ~。だってホントに外出てルナース面をピョンピョン飛び回ってたじゃない。わたしはヒロのことを言ってるの、ヒロなんて』


『うわああぁぁぁぁああああああ!!!』


『な、なによ! 突然びっくりさせないでってちょくちょく言ってるでしょ~!』


『………………』


『ヒロ?』

『ヒロさんピキュ?』




『いた!!』




『“いた”って……何が?』

『ダンジョンピキュか? 強い魔物がいたピキュか!?』




『ウサギ人間がいた!!』




『…………え?』

『…………ピ?』





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