28日目 和能呉呂島で囚われて




『さぁ、海遊びも終わったし、どーする? 【和能呉呂島】寄ってく?』


『寄りたい寄りた~い!』

『ウルも寄りたいピキュ~!』


『よし、んじゃあちょっと寄ってきますか~。とりあえずは【エド】だな♪』


『オーケ~~エ~ド~♪』

『エドピキュ~!』


 ヒロは【連続ハナランドワープ】で【エド】に向けて出発した。

 そして数秒後。

 ヒロたちを乗せた【流星4号★要塞★999迷彩】はエド上空500mに到着してしまう。


『はっや! も~着いちゃった。なんか旅の情緒とか無くて味気ないよね~』


『ピキュ~。ヒロさん、ゴトンゴトンと揺られながら、車窓から流れる景色を眺めつつ、エド名物シウマ~イ弁当を頬張るのもまたオツなものなのでピキュ~』


『ウルさん【流星4号】は揺れないし車窓なんてないぞ、あとシウマ~イ弁当はエドじゃなくハマだ』


『ピキュ~~、ヒメさ~ん、ヒロさんが怖いのでピキュ~』


『ヒロぉ~、ウルちゃんにピリットビーム撃たないのー』


『じぁあオマエらも俺にイジリットレールガン撃つなよな~』


『はーーーい』

『ピキューーーい』


『やれやれにも程があるぜまったく……』


『あ、そーだヒロ~、』


『ん~?』


『素朴な疑問なんだけどさ、ヒロはもう、バリすこだまぶっち強くなってるじゃない? 察知能力、反射能力、耐久力、反撃能力、予備オプション、どれをとっても世界王者だと思うわけよ~』


『ヒメ、いいぞ。やればできる子じゃないか♪ もっと言ってくれ♡』


『…………でね、それなのになんで【流星4号★要塞★999迷彩】みたいな、四方を分厚いヒロニウムで囲われた超装甲要塞タイプに乗り続けてるのかなぁ~って思ってさ。別に晴れた日は屋根無くてもいいし、何なら通常移動時は一番身軽な【流星4号★アウトソール★迷彩】でよくね? みたいな……』


『ふふふふふ。ヒメ、まぁ…… 確かにそーだね♪』


『え?』


『ヒメの言う通りなんだよ。ほんと。たださ、気分的に落ち着くっちゅーか、慣れ親しんだキューブ型の中にいると安心感が半端ないんだよね~』


『いわゆるブランケット症候群ってやつなのかな……ヒメ心配』


『いや…… 白状するとさ、ただの【念のため症候群】なんだ。俺は確かにヒメが思ってるようなナイスなステ値のなまらもんげータフガイなんだけどさ、この世界には、まだ見ぬバケモノが居るやもしれんだろ? 重甲な要塞型にこだわるのは、万の万の万にひとつの確率でも、防ぎきれない攻撃を突然食らった時、死ぬ確率が低くなるからってだけなんだよ。ちょっと真面目なこと言っちゃうとさ、この世界で勝手に大風呂敷広げてさ、勝手に沢山の人達を巻き込んでしまってる手前、俺、もう誰よりも死ぬ訳にはいかないんだよね。巻き込んじゃった人達の生活が、人生があるし、これからも沢山の人の人生を巻き込んでしまうことになると思うし……』


『……わかったよ、ヒロ♪ これからも応援するね♡』


『……あ、ありがと』


『ピキュッキュピー! ウルも負けじとヒロさんへのアシスト王を目指すのでピキュ~♪』


『おおぉ、ウルさんい~ね、それ俺も♪ この世界の庶民への、アシスト王に俺はなるっ!』


『ヒロカックイーよ! ジムタンクキャノンみたいなもんね♪ “ガンダラムンさん、オレたちがここを食い止めてる間に赤いやつ倒しちゃってくだせー!”みたいな。それともマトリョーシカの1番外側の子みたいな感じ?』


『どっちも違うと思う』


『ま、まぁとにかくヒロの気持ちは分かったわ♪ 分かった上でやってるってことも分かったわ~』


『ヒメ、ウルさん、そんな俺の用心深さがハマるかどーかは別としてだな、実際この下の様子を伺ってみて、ナニか気付かないか?』


『この下って、ようは眼下に広がる【エドの町】でしょ~? ん~と、人がめちゃ多い♪』

『建物の屋根が陶器ピキュ! 区画がキレーに整備されてるピキュ!』


『そーだけど違う』


『みんなキモノかと思ってたけど、中にはヒロみたいな地味な木綿のシャツっぽい人とかもけっこーいるね♪ あと茶屋のおだんご美味しそう♪ 五十鉄って店の軍鶏鍋もおいしそう♪』

『水堀が何重にも広域に敷かれてるピキュ! 治水工事が行き届いてるピキュ!』


『そー、またはそーなのかも知れんが違う』


『絵とか売ってる~♪ 芝居小屋たのしそ~♪ 銭湯もたくさんあるね~♪』

『識字率が高そうピキュ! スラムが無いピキュ! 安全そうピキュ!』


『そー、またはそーなんだろうけど違う』


『お店で魔物の肉や素材がいっぱい売ってる~。海の魔物もたくさんあるよ~♪』

『製鉄や土木建築の技術が進んでるっぽいのでピキュ!』

『意外と帯刀してるヒト少ないね~』

『鎧着てるヒトも見当たらないのでピキュ~』


『そーだけど今の答えとは違う』


『ぜんぜん当たんな~い。じぁあ考え方を変えてみよーかな~』


『お、いいぞ♪』


『えっとー、実はここはエドではない?』


『違う』


『ヒトに見えてるのは、実は全部魔物だ』


『違う』


『634mの塔を現在建築中だ』


『違う』


『実は隠された謎のダンジョンがある』


『ん~、それは確かにあるんだが…… 今の答えとは違う。でもかすってる』


『え~~、も~わかんないよ~。この問題むず~い。ヒロ~、ヒントほーしーい~』


『え、っとだな、【敵意】……かな』


『敵意~? んじゃわたしの【そこそこ近場の敵意向けて来てる奴レーダー[ベータテスト版]】でサーチしてみていい?』


『もちろんだ(……てか、そんなの持ってんならいつもやってくれよ)』


『ん? なんか言った?』


『なんも言ってない』


 ヒメは張り切って【そこそこ近場の敵意向けて来てる奴レーダー[ベータテスト版]】で眼下のエドの町をサーチした。


『あーーー! 何箇所か【睨んだ顔のマーク】が点滅してるよっ! ヒロ! この町には500m上空で完全迷彩化してるわたし達の存在に気付いてる猛者がいるみたい! 認識されてるわ! 警戒して!』


『だからそれをさっきから出題してたんだろが。こっちは最初から分かってるっつーの』


『ん、が、ぐ、ぐぅ~』

『ピ、キュ、ピ、キュ~』





『しかしアレだな、500m上空の俺達を、撃ち落としたり瞬殺するほどの能力は持ってないみたいだな』


『あと、少ない人数とは言え、一箇所に集まりだしたわねー』


『数カ所な。何ブロックかごとに設置されてる【ブギョーショ】って建物に集まってる』


『わぁ~お、集まってる奴ら、みんなツノが生えてるよ~♪ 【レーダーの睨みマーク】とも一致するわ~。あのツノの奴らだけがこっちに気付いてるのね~』


『つまり、【サムライ】と【シノビ】だな。ツノ2本がサムライで、ツノ1本がシノビみたいだ。それにしても動きが疾いなー』


『あの動きと、わたしたちに気付いちゃう索敵能力があれば、魔物との戦闘でも相当ハイレベルな活躍が出来るんじゃない?』


『そーだな。さっきから、より広域も【スコープ】観察してるんだが、1番外の堀の要所にサムライが配置されてるんだよ。多分だけど、巨大なエドの町の防衛が成り立ってるのはサムライの戦闘力の賜物なんじゃないかなーと思われる。それと、外堀のさらに外でサムライが魔物狩ってるわ。お、海でもやってるなぁ。市場に並んでる大量の魔物はサムライが仕入れてくるんだな』


『サムライ凄いね~。んじゃさ、シノビは何してんの?』


『シノビの方は多分、治安維持っつーか、町の中で起こる犯罪や問題を諜報・内偵・暗躍とかによって防いで、秩序を保つのが仕事っぽいなー』


『なるほどね~。町の外の防衛と魔物退治はサムライ、中の治安維持はシノビ、みたいな感じかぁ』


『多分、だけどなー』


『ピキュッ! ウル分体が各【ブギョーショ】に配置完了したのでピキュ!』


『さすがウルさん、仕事が速いぜ♪ で、あいつらどんな話してる?』


『えっとピキュね、“何かがいるのは確かだ”とか、“無色の竜なんじゃねーか?”とか、“動かねぇのはなんでだ?”とか、“はやく撃ち落としちまおーぜ”とか、“撃ち落として町民に死人が出たらまずいだろ”とか言ってるのでピキュ~』


『えっ!? セリフ、そのまんま?』


『ピキュ! そのまんまお伝えしてるのでピキュ!』


『ええぇぇ~~~、“拙者”とか“ござる”とか“かたじけない”とか“助太刀いたす”とか言ってないのかよぉ~~、冷めるわぁーー』


『まぁまぁヒロ、異世界の現実なんてそんなもんよ~。そもそもあなたがこの世界の基礎設定をリクエストしてんだからさ、鎖国してる和能呉呂島で言語と通貨が世界と共通してるってだけでも神、がんばったんだと思うわよ~』


『いやいや、がんばってなんかねーだろ。地域別の細かい設定が少なけりゃ少ないほど世界設定いじくんのも楽に決まってんだしさー。手抜きだよ手抜き~。ただ、言語や通貨も立派な【ローカル文化】だからさ、【こんな未開拓でバラバラな世界に統一言語と通貨が浸透しているっつー大いなる矛盾】を抱えちゃってんのも事実だな。まぁどーせ【世界○大ミステリー】とか【これは遥か太古に別の知的生命体が我々人間に関与しているとしか思えない!】とか【宇宙人が居るという前提じゃないと説明がつかない】とかテキトーな【謎現象提案】をバラマキつつ誤魔化すんだろうけどなー』





《………………》




『ピキュ!! 朗報ピキュ! 只今ウル分体から届いた情報によりますと、ヒロさんの言う“ござる”や“おぬし”的な言葉遣いの飛び交ってるところがあるのでピキュ! 【アキバ】という地区なのでピキュ! ヒロさん喜ぶのでピキュ~!』


『………………』


『ヒロさん?』


『……それ、なんかちがうと思う』


『そ、そーなのでピキュか~。残念なのでピキュ~』


『あぁ、ごめんウルさん、ウルさんが落ち込むことじゃないんだよ~。情報ありがとね♪』


『ピキュピキュ~~♪』


『てかヒロさ、あなたもスコープ仕えば【音声付きのリアルタイム映像】がいつでも手に入るでしょ? ウルちゃんにばっかり情報収集させてサボりすぎなんじゃないの~?』


『いやヒメよ、これはサボりでも手抜きでもないのだ。確かに俺のスコープは凄いスキルではあるが、俺は【正確な情報】なんぞより【人伝に聞いたふわふわした情報】の方が大好物なのだ。特にウルさんからもたらされる【ウルさんモザイクが薄掛かりした情報】は、俺の想像力や好奇心をくすぐる極上の興奮ソースなのだよ。この深み、コク、奥行き、分かって貰えるかな~。ねぇ~、ウルさん♪』


『ピッ! ピキュピキュピキュピィ~~♡』


『はいはーーーい。ご勝手にどーぞーー』





『それにしてもなぁ~。こんなに警戒されちまったし、どーしよーかなー』


『ヒロ、もう99%このまま去る気になってるでしょ~』


『いや100パーだ。こんな状況で町に降り立っても嫌な予感しかしねーし。あいつら“撃ち落とす”とか言ってんだぞ~?』


『そんなこと言わないでよぉ~。エド行~き~た~い~、お芝居小屋い~き~た~い~』


『いやいや、だって見てみろよー。【ヤーエス・ブギョーショ】、【ユーラク・ブギョーショ】、【イチガ・ブギョーショ】、【カンダー・ブギョーショ】、【アキバ・ブギョーショ】、この5箇所に20人ずつくらい【撃ち落とす気満々のサムライとシノビ】が集結して、こっち睨んでるんだぜ?』


『……ん? でもヒロさ、よく考えてみてよ。彼らにとってわたし達って、上空500mに浮かぶ【謎の存在感】ってだけなんじゃないの? 別にこっちからは敵意を放ってないし、識別信号出してるわけでもないし。つまり、【普段何もないはずの上空にナニカが居る感】が騒がれてる原因なのでは?』


『まぁ、確定じゃないけど、そーかもな』


『だったらさ、一旦【ハナランド】に隠れてさ、それから【迷彩】とか使わずに一般住民のフリしてさ、エドの町の人に紛れて行動すればさ、逆にバレないんじゃね?』


『ナイスアイデアピキュ! 【葉を隠したいなら木の下へ。木を隠したいなら森の中へ。森を隠したいなら焼いてしまえ】で有名な作戦ピキュ!』


『ウルちゃんナイスよ♪ ほかにも【パイナップルを隠すなら酢豚の中】とか【カニの幼生を隠すならちりめんじゃこの中】とか【パンダを隠すなら水墨画の中】とか【浮気相手を隠すならクローゼットの中】とか【嘘を隠すなら真実の中】とか【本心を隠すなら棺桶の中】とか【淡い恋心を隠すなら瞳の中、暴走した恋心を隠すなら神パンツの中】とか有名よね♪ ねぇヒロ~、そーゆーことでーどーですか~?』


『うぅ~~~ん……(なんだそのカオスな例え群は……)…………』


『……ゴクリ』

『……ゴクリピキュ』


『わーった、わーったよ♪ それでいってみっか~』


『やったわウルちゃん! 明日はホームランよ!』

『ピキュピキュ~! ヒメさんおめでとピキュ~♪』


『やれやれにも程がありやがるぜ、まったく……』


 ヒロは内心少し浮かれつつも、やや渋っている風を装い【ハナランド】に移動した。

 直後、5つのブギョーショのシノビたちがざわつき始める。


『ピキュ! 現地ウルからの報告ピキュ! 各ブギョーショでは、“空の魔物の気配が消えたぞ”とか“どんな魔物か補足できたのか”とか“結局形や大きさの詳細は不明のままです”とか“やっぱ撃ち落としときゃよかったんだ”とか“しばらくは空への警戒を怠るなよ”とか言ってるみたいなのでピキュ!』


『ん~、思ったより鋭さが無いなぁ。こりゃ~ヒメが言うように、フツーに紛れ込めるのかもな♪』


『それじゃあいくわよ~~、エドは! えぇ~~~どぉーーー!!』


『ピキュピ! キュッピーーー!!』

『えぇーーどーー』




 5分後


 ヒロは【ヤーエス・ブギョーショ】にほど近い繁華街【ホンバシ】を歩いていた。


『すご~~い♪ ヒロみて~、なんかシュッとしたお店がいっぱい並んでるよ~♪』


『そーだな、このあたりはエドのトノのお膝元で御用達の商店が多いから、比較的格式張った高級な雰囲気の繁華街だな~。ホンバシの店は格が上、みたいな感じ?』


『ピキュ~♪ キレーな町並みなのでピキュ~』


『ねぇねぇヒロ~、なんかもっと雑然としたさー、庶民受けしか狙ってないよーなゴチャついた繁華街がい~の~。そんなとこに連れてってよ~♪』


『おまえもさっき上空から見てただろーに。具体的に言ってくれよ~』


『わたしが見た限りでは、【サクサー】ってとこが近いかな~。【サクサーテンプル】の門前町の商店街とか大道芸とか芝居小屋とかそれなりに良かったよ。ここからちょっと北の川沿いの市場も面白そーだったけど、でも、もっともっとモアディープな、ハイパーハードボイルドな、サイケアンダーグラウンドな、カオティックサイバーパンクな、そんなトコが見てみたーい♪』


『おまえは何を言ってるんだよ、ここはエドだぞエド、ブレイドルランナーのロッサンゼウスみたいなとこがエドにあるわけねーだろ? タイラーマサカドーンの祟り信仰はあってもタイレーコーポレーションは無いんだよ、エドにはな!』


『そこまでは求めてないけどさ~、でもなんか、異世界のエドだよ!? いかにも何かありそーじゃない♪』


『まったく……お転婆が過ぎるぞヒメ~。まぁ、俺がざっとサーチした感じだと、ヒメのリクエストに近いエリアは、【アキバ】から【リオゴクウ】までの【カンダーリバー】北岸の一帯かなぁ』


『あ~そのへんはチェックしてないわ~。オッケー! そこ行こっ♪』


『まったく…… あのカオスなエリアに行くハメになるとはなぁ』


『なにそれ楽しみ~! ヒロだってちょっとウキウキしてんでしょ~?』


『………………』


『はいはい~、行っくわよー♪』


『ピキュピキュピキュ~♪』

『おーーーーぅ』




 5分後


 ヒロは【カンダーリバー】と【スミダーリバー】が交わる北西域の角地に広がる歓楽街【リオゴクウ】をウロついていた。


『すご~~い♪ ヒロ見て~、なんか怪しいお店や屋台がいっぱい並んでるよ~♪』


『うん、どーもこのエリアは、エド領の方針で、規制がゆるい【お目こぼし地区】に指定されてるっぽいんだ』


『ふぅ~ん。それって【なにやっても自由♪】みたいな?』


『そこまでじゃないとは思うけど、なんか、【土地自体はエド領の所有地で犯罪も取り締まるけど、納税や規律については見て見ぬ振りしてあげてる地区】って雰囲気だな。変わり者のための文化的解放区、みたいな?』


『なるほどねぇ~、エドのトノも粋なことするのね~♪ ナイスな領主と見たわ!』


『それについては俺も同感だよ。【サムライとシノビの能力】に寄るところも大きいのかも知れないけど、この安定した町づくりは見事だな~。特に庶民が生き生きと生活してる様子は感動モノだね。スラムも奴隷制も無いみたいだし』


『【ヒロシティ】もエドに負けないようにしないとね♪』


『それは絶対負けないよ。だってヒロシティは【断トツ世界一の資源保有シティ】だもん』


『そ、そーだったわ。エドの喧騒にテンション上がっちゃってて、自分の拠点がいかにエクストリームシティか忘れてた。テヘ♪』


『ただ、ヒロシティはまだまだこれからだけどね~』


『楽しみだねぇ~♪ ……おっと、それはそれとして、さぁ【リオゴクウ】を見て回るわよ~♪』


『へ~~い♪』


 ヒロはヒメに求められるがままに【リオゴクウ】地区を歩いて散策した。


 火吹き男や軟体女の大道芸。

 延々と鳴り止まない魔太鼓軍団の演奏。

 生きたデーモンツキノワベアーやケルベリオスを檻に入れた見世物小屋。

 何の素材かよくわからない料理を出す屋台群。

 サイコロ、骨、魔晶などを使う様々な賭博場。

 大きな炎の周りで太鼓に合わせ踊り続ける人々。

 怪しげな魔刀を並べる露店。

 無修正のエロ版画店。

 いたるところに転がる酔っぱらい。

 賭け相撲のオクタゴンリング。

 幻覚系ポーションばかり売っている魔薬屋。

 全身白塗りの男女が絡み合うパフォーマンス集団。

 3~5階建ての建物が並ぶ遊郭群。

 魔物の骨を頭に被った自警団。

 あちこちで頻発している喧嘩。


 退廃的でありながら無秩序とも言えない【リオゴクウ】独特のネオデカダンスな空気に、ヒメとウルは盛り上がりまくり、“ここの文化をヒロシティにも導入しよう♪”と意気投合したのだが、ヒロにさらりと受け流されるのだった。


 その後、リオゴクウを満喫したヒロたちは、そのままカンダーリバー沿いを西に歩きながら【アキバ】に向かった。


 歩くたびに町の風景は変わっていき、500mほどで【リオゴクウのカオス臭】は身を潜めていく。

 そしてアキバに近付くほど、今度はサブカル臭が漂ってくるのだった。


『ヒロ~、なんか工房みたいな建物が増えてきたね~♪』


『アキバ周辺は、繁華街というよりは、ミニマル文化圏って感じでな、【ホンバシ】や【サクサー】や【ウェノー】といった地区で受け継がれる【エド領お墨付きの文化様式】とは違った、【特有のストリートカルチャー】が根付いてるところって感じだ』


『ふむふむ確かに。そこの建物ではカラフルな版画刷ってるし、あっちではディテールにやたらこだわった感じの人形彫ってるわね! どれもこれもみんな【可愛らしい町娘】がモデルみたいよ~♪』


『……それな』


『あーー、ちょっと行った先に劇場みたいのもあるよ! 大勢の女の子たちが歌って踊ってる~♪ 看板に【MMM47士】って書いてあるけど、これで【まちむすめしじゅうしちし】って読むんだってさー。ちょっと分かりづらいね~♪』


『……それもな』


 ヒロはさらに【給仕娘喫茶】という店舗群にも気付いていたのだが、ここでの言及は避けるのだった。


『ピキュ! ヒロさん! 二本向こうのちょっと分かりづらい裏路地に【ゲンナ・ヒラガーのエレクトロラボ】っていう、イチゲンさんお断りの工房兼ショップみたいのがあるのでピキュが、そこで【エレクトロチャカ】とか【エレクトロライフル】とかいう【銃のような武器】が製造されてるのでピキュ。それがなななんと、さっき【ブギョーショ】で、サムライやシノビが手にしていたモノと同じなのでピキュ~!』


『あぁ、俺らを撃ち落とそうとしていたあの光線銃みたいなやつか~。おおぉ、ホントだ~♪ いろんなタイプがあるんだなぁ~。あと魔道具みたいのも色々並んでるわ~♪』


『感心してる場合じゃないのでピキュ! ヒロさん、今のうちに【ゲンナ・ヒラガーのエレクトロラボ】をぶっ潰しておくのでピキュ~! 【殺られる前に殺れ】は世界の鉄則なのでピキュ~!』


『ウルさん、そんな物騒なこと出来るわけねーっしょ。俺らは警戒されてただけで攻撃はされてないんだしさー。あとあの銃にしたって実際の威力もよく分かんないだろ?』


『そー言われると返す言葉も無いのでピキュ~』


『まぁ、とは言え、ここの武器はそーとー強力っぽいから、要警戒ではあるな~。ウルさん、見つけてくれてサンキュ~♪』


『ピキュピキュ~♪』


 ヒロはその後も【アキバ】地区の散策をつづけた。


 極彩色に塗られた店々の町並み。

 可愛らしい女の子の版画や人形を大量に並べた大型店。

 MMM47士の第832回公演。

 団子や寿司や魔晶や魔物を模した小物細工店。

 大人向けの怪しい魔道具店。

 魔晶で動くからくり人形を並べる専門店。

 自作改造からくり魔晶人形を戦わせるロボスタジアム。

 多種多様な給仕娘喫茶。

 給仕娘喫茶の呼び込みをする色取り取りの衣装の町娘たち。

 人工のツノや牙や爪を装着できる変身ショップ。

 ネオキモノ、ポストキモノ、オルタナティヴキモノを売る服飾店。

 雷神蕎麦、あやかし寿司、九尾丼、人魚焼などの飲食店。

 やけにグレーなパーツをコソコソと売る露店。

 いたるところで流れている魔三味線や魔笛の音色。


 いつになく興奮気味なヒメのため、ヒロはできるだけ満遍なく町歩きを続けたのだった。




 そして物見遊山な楽しいひとときは過ぎて行き、一行はカンダーリバーのほとりの公園で休憩していた。


『いやぁ~~~、ヒメちゃん大大大満足だわ~♪ ヒロ~、いっぱいたくさんてんこ盛りに見せてくれてありがとね♪』


『ヒメがあんまり楽しそうだからさ、俺も嬉しくなっちゃったよ♪』


『えへへ~♡ たまにはこんな【たっぷりデート】もいいんじゃない?』


『あぁ、そーだな♪』


『えへへへ~~♡ それにしてもさ、ヒロオススメの【カンダーリバー北岸エリア】は最高だったよ! リオゴクウの肉食系アングラなカオス感も、アキバの草食系サブカルな夢幻感も、実際に間近で体験するとすんごいダイナミズムだったわ! いいものよねぇ~【浮き世】って♪』


『……浮き世か~。儚さもまた、美しさだよなぁ……』


 ヒロは流れゆくカンダーリバーを眺めながら、おもむろにインベントリから魔タバコ[魔ルボロード]を取り出した。


シュボッ


スゥゥゥーーーーー


………………


フゥゥゥゥーーーーーー


 ヒロのつくる小さく儚い雲が、アキバの空に吸い込まれていく。

 辺りのベンチでは同じようなアキバ散策の休憩中らしきエド領民が談笑している。

 喧騒の後の穏やかな時間がゆっくりと過ぎていく。


『…………平和だねぇ~~』




 次の瞬間。


 ヒロリエルが何かを察したかのようにヒロの襟足をギュッと握った。

 いつでも動き出せるように小さな羽がパタパタと動き出す。

 表面巡回中のウルもヒロの肩でふるんと揺れ、黙り込む。

 そして……




「そこのオマエ!!! そのまま動くな!!!」


 突然、背後から響く叫び声。

 川沿いの公園に緊張が走る。

 それまで点在していたエド領民が蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく。

 すぐに訪れる静寂。


(まったく…… さっきから監視されてるのには気付いてたけど…… 何なんだよもぉ~。ぶらぶら町歩きしてただけじゃねーか~。やっぱ俺らから特殊な余所者信号とか出てんのかなぁ。余所者色の覇気! みたいなやつ。……あ~どーすっかな~。【エレクトロチャカ】ってやつ構えてるし。俺、背後から撃たれちゃうのか? やだな~痛いの。やっぱここはコイツをサクッとインベントリに収納しちゃおっかな~。あ…… そんなこと巡らせてるあいだに仲間が駆けつけて来てるじゃねーかよ~。こいつら全員消しちゃうと…… やっぱ大騒ぎになるんだろうな~。あ~~~~、面倒なことになっちゃったぜ~~)


「オマエだオマエッ!! 聞こえてるんだろ!! 両手を上げてゆっくりとこっちを向け!! 間違っても変な動きはするなよ!!」


(よし、ここは素直に従って様子見よっと)


 ヒロは言われるがまま、両手を上げ、ゆっくりと向き直る。

 するとそこには、エレクトロチャカを両手で構え、緊張の面持ちでヒロを睨みつけるシノビの青年の姿があった。


「はい? ……なんでしょうか?」


 とぼけた雰囲気を全力で醸し出し、ヒロがたずねる。


「“なんでしょうか?”じゃない!! そいつは何だ!? 幻覚兵器のたぐいか!!」


(!! や、やばっ。こいつ、ウルさんかヒロリエルが見えてんのか!? やっぱシノビってただもんじゃねーのかもな……。う~~~ん困ったぞ~)


「えっと…… 【そいつ】とは何のことでしょうか?」


「と、とぼけるなっ!!! ソレだ! オマエが今、右手の先に持っているソレだ!!!」


 さらなる静寂が公園を包み込む。


「…………え?」


「ソレだと言ってるだろ!! 怪しげな煙を出しているソレだ! 今しがたオマエはソレを口に咥え、怪煙を吐き出していただろうが!!」


「…………え?」


「毒なら毒と白状しろ!! それともヘンゲの儀式か!? よくも堂々とこの【アキバ・ブギョーショ】の目の前で、そんなあやかしのような真似ができたもんだなっ! なめやがって!」


 シノビの男は怒りと畏怖に満ちた眼光でエレクトロチャカをなおも構えている。

 すると、ひとり、またひとりとシノビの援軍が駆けつけ、気付けばヒロは完全に囲まれていた。

 そしてピリピリとした静寂の果てに、ヒロが口を開く。


「あ……、あのですね、コレは、タバコ……というモノでして……」


 ヒロはできるだけ丁寧に、【タバコとは単なる嗜好品である】ということを説明し始める。

 期せずして、右手の指先で短くなった魔ルボロードが、儚げにジジッと音をてたるのだった。




 20分後 アキバ・ブギョーショ内の留置場。


『もぉ~~、なにやってんのよヒロ~。牢屋に入れられちゃったじゃないのよ~』


『うぅ~~ん。今思えば、あの公園で威嚇された時、あいつを消すんじゃなくて、俺が消えれば良かったんだよなー』


『そんな反省しても覆水盆に返らずよ。時すでに遅しよ。後の祭りよ。後のおんばしら祭りよ。後のチーズ転がし祭りよ。その後の牛追いまつりよ。さらにロケット花火戦争祭りよ。そんで尻打ち祭りよ。金勢祭りよ。ほだれ祭りよ。かなまら祭りよ。どんつく祭りよ。てんてこ祭りよ。まぐわい祭りよ。で、結局は春のパンパンまつりなのよ!』


『そんなに畳み掛けんなよ~。その気になればいつでも逃げられるんだからさ~』


『まぁ、そりゃそーだけどさ~』


『しかし意外だったよな~。エド、っつーか多分、和能呉呂エリアの人たちは、【タバコ】ってもんを知らないんだなぁ~』


『ピキュ~。ウルはてっきりヒロさんの体の表面を巡回しているウルたちが見抜かれたのかと思ったのでピキュ~』


『そう、俺も思った! ウルさんかヒロリエルが見えてるんだって。蓋を開けてみりゃ、とんだ取り越し苦労だったけどなー♪』


『ピキュ。あいつら思ってたほど索敵能力すごくないのでピキュ~』


『だなー』


『ピキュ~』


『でだな、これからどーするか、なんだけれども……』


『え? ハナランドに移動しないの?』


『それもアリだ。第一候補だな。でも、ここまで来たら、よっぽど追い込まれてギリギリの状況になるまでは、暇つぶしがてら流れに身を任せてみるのも一興かな、とも思ってるんだよ』


『あ~~、それもいいかも♪』


『ピキュ! それもひとつの【エドのいい思い出】なのでピキュ~♪』


『よし、決まりだ。このままエドの内部調査をつづけよ~ぜ♪』


『いえ~~~い♪』

『ピキュピキュ~♪』




 2時間後。


『ちょっとヒロ~、あいつらぜんぜんアクション起こさないんですけど~。フツーさ、声かけるとか、棒でつつくとか、取り調べとか、なんかあるでしょーに~。わたし、【カツ丼】とか、【血気盛んな若いシノビによる怒鳴り&机叩き】とか、【それをまぁまぁと制した初老のシノビによる雪崩式ふるさとのお母さんトークからの垂直落下式泣き落とし】とか、期待して待ってるのにさ~』


『確かにめちゃめちゃ放置されてるよなー。そこの壁の向こうに、いつも誰かしらシノビとサムライがウロウロしてんだけどさ、俺らの話題にすらなってねーもんなー。つまんね』


『ピキュ~。ウルはもう【しりとり】のやり過ぎで【る】恐怖症なのでピキュ~』


『それな~。“【ルーブル美術館】があった!”って閃いた直後の落胆ったらないよな~。それにしても、いつまでこの放置プレーは続くんだろ』


『わたしは別にい~けどねー。しりとりしながらもずっと【エンジェルバトル】やってるから♪』


『ウルだってしりとりだけしてた訳じゃないのでピキュ! こーしている間も世界中でダンジョン修行を繰り返しているのでピキュ!』


『そんなこと言うなら俺だって、ヒロニウムやアイテム類の大量生産し続けてるし、壁の向こうのやつらの動向伺ってるし、和能呉呂エリアの広域魔物チェックもしてるし、極めつけのスペシャルトピックとしては、この【アキバ・ブギョーショ】の地下にあるダンジョン、あと他にも見つけたいくつかのダンジョンも、もう攻略しちゃったもんねー♪』


『え~~! この真下にダンジョンあったの~!?』


『ピキュピキュ~! 奇跡の偶然なのでピキュ~』


『ん、まぁ空中で様子見してた時点で気付いてはいたんだけどな♪』


『あとヒロ、さりげなく【他にも見つけたいくつかのダンジョンも】って言ったわよね?』


『うん。まぁ。だって俺、500km以上先まで【スコープ】使えるからさ。暇だったし、つい、な♪』


『ちょっと成果みせて~♪ 和能呉呂エリアのダンジョンの魔物、気になる~♪』


『ウルも見たいのでピキュ~♪』


『おっけー♪ 見て驚くなよ!』




□【アキバ・ダンジョン】での狩猟結果

■[S2]人型魔導兵ザックン         ×100

■[S2]献身の戦闘魔神★アンコパン     ×10

■[S3]人型魔導兵ドムドムン        ×100

■[S3]強欲の公僕魔神★リオツー      ×10

■[S4]人型魔導兵ゲルグルン        ×100

■[S4]寡黙の斬鉄魔神★イシカワ      ×10

■[S5]人型魔導兵ガンダルン        ×100

■[S5]鋼鉄の道具魔神★ドラゴエモン    ×10

■[S5]魔法幼女★ひなひな         ×10

■[S6]人型魔導兵サザビン         ×10

■[S6]思春期のモヤモヤ魔神★ゲンゲリオン ×10

■[S6]魔法少女★ありすん         ×10

■[S7]ギリ人型巨大魔導兵アルファジルン  ×10

■[S7]咆哮の不老魔神★フグサザエ     ×10

■[S7]魔法淑女★かれん          ×10

■[S8]人型魔導兵ユニコンヌガンダルン   ×10

■[S8]瞬殺の増殖堕天使★ブリブリザエル  ×1000000

■[S8]魔法聖天熟女★まりあ~じゅ     ×10


□採掘 ■アキバ魔素クリスタル 150万トン




□【フジ・ダンジョン】での狩猟結果

■[S2]フジ天狗    ×1000

■[S3]フジ阿ん仰鬼  ×1000

■[S3]フジ吽ん仰鬼  ×1000

■[S3]フジ毘沙鬼門天 ×1000

■[S4]フジ朱天童子  ×1000

■[S4]フジ麒麟祖   ×1000

■[S4]フジ不死命王  ×1000

■[S5]フジ九頭竜   ×1000

■[S5]フジ黒竜    ×1000

■[S5]フジ亜殊羅王  ×1000

■[S5]フジ炎魔大王  ×1000

■[S6]フジ天秤達磨  ×1000

■[S6]フジ八百煩土  ×1000

■[S7]フジ底喰    ×1000

■[S8]フジ曼荼羅神門 ×1000

■[S8]フジ圧蟲    ×1000

■[S8]フジ滅界達磨  ×1000


□採掘 ■フジ魔素クリスタル 270万トン




□【イセ・ダンジョン】での狩猟結果

■[S3]亜鵺   ×1000

■[S3]忌狼   ×1000

■[S3]呪烏   ×1000

■[S3]磁蠍   ×1000

■[S3]銀蛍   ×1000

■[S3]印蛭   ×1000

■[S3]愛蛾   ×1000

■[S3]災鶴   ×1000

■[S4]日輪鬼  ×100

■[S4]夜叉鬼  ×100

■[S4]陽怨鬼  ×100

■[S4]月真鬼  ×100

■[S5]血平   ×100

■[S5]黒天   ×100

■[S5]死贄   ×100

■[S6]蓮蓮   ×100

■[S6]悠凪   ×100

■[S6]雷蔵   ×100

■[S7]常世   ×10

■[S7]無業   ×10

■[S8]宙来   ×10

■[S8]十口田  ×10

■[S8]一土王  ×10

■[S8]二川円  ×10

■[S8]一人一天 ×10


□採掘 ■イセ魔素クリスタル 300万トン




『どーよヒメ、ウルさん、すごいだろ♪』


『もーおどろかない。いろいろ見てきたしおどろかない。イセも気になるけどアキバが群を抜いて気になりまくってるなんてことはないんだからーー』


『ピキュ! ヒロさん、アキバとイセの魔物は【外の魔物がダンジョンに入り込んで固有化したタイプ】でなくて【そのダンジョンにしか存在しない完全固有種】なのでピキュ?』


『ウルさんナイス! そーなんだよ。今までも【金龍】とか【深海龍ドラゴニウムドラゴン】とかみたく、ダンジョン名が付いてない奴が紛れてたことはあったけど、アキバとイセに関しては、全ての魔物がオリジナルぽいんだよ。ようは【アンタクテ極点ダンジョン】パターンっつーの?』


『それはナゼなのでピキュか?』


『わかんない』


『ピキュ~~』


『た、多分だけど、ダンジョンの中で新種として誕生した魔物なんじゃね?』


『ダンジョンが…… つまり【魔素が生んだ魔物】ってことピキュか?』


『わかんない』


『ピキュ~~』


『と、とりあえず、そー思っとこっかな~~って感じ?』


『ヒロさん、スクリーンで情報開示すれば分かる事なのではないのでピキュか?』


『………………ウルさん、天才かよ』


『ピキュ~! ヒロさん今まで狩った魔物、個別チェックしてなかったのでピキュか!?』


『い、いや~、まぁ、面倒だったもんでさ~。あと、テラース商会的にも当面必要なのは【ダンジョン産の未流通な超レア物】じゃなくて、【世界中で流通消費されてる、せいぜいF~A級までくらいの手頃な魔物】だしさ~。あと、魔晶の代替品である魔素クリスタルが大量採取できたもんだからさ…… ダンジョン産の魔物は…… インベントリに放り込んで、物質変化魔法、後掛けサクサクで…… 殺処分だけしておいた…… みたいな?』


『ピキュ~! なんたる怠慢! なんたる体たらく! ヒロさんらしすぎて笑けてくるのでピキュ~。とりあえず何体かでも情報確認してみるのでピキュ! さすれば魔物のこともおのずと解るのでピキュ~~』


『えぇぇぇ~? ……まぁいーけどさぁ、解ったところで所詮売り物にならない高級品だぜ? 経験値の残りカスって言い方もできるけどさ、ある意味、無駄じゃね?』


『ヒロあなた~、さっきから聞いてればさ、ズボラにも程があるわよ~。そもそもあなたには【召喚】っていうスキルがあるんだしさ、そーゆー意味では殺った魔物にも十分利用価値があるでしょ~に。資源としては当分使わないとしてもさ、情報くらいはひと通り目を通しておけば?』


『そーだな~。【召喚】のことなんてすっかり忘れてたわ~。なんつっても俺にはウルさんとヒロリエルが居るからさー、ついつい【助っ人的な存在の必要性】を失念しちゃうんだよね~』


『ピキュピキュピキュ~♡ それは確かに間違いないのでピキュ~♪』

『チチサマはひーたんがお守りするのです~♡』


『まぁまぁ、それはそれよ。とりあえず何体か見てみましょうよ♪』


『ん~、リクエストとかある? まずはアキバのやつで』


 ヒロは、ヒメとウルのリクエストを聞きつつ、魔物情報をスクリーンに映していった。




■人型魔導兵ガンダルン

アキバダンジョンで生まれアキバダンジョンにのみ生息する完全固有種の魔物。アキバが【亜鬼場】だった時代に【亜鬼場衆】の呪術により生まれた夢幻因子が地下深くの魔素クリスタルに固着し、人型魔導兵ガンダルンとして誕生した。

二足歩行の巨人で色は主に白色。肉体は鉄分を多く含み硬い。体長は20mほどで雷を放出する銃と雷を纏う剣で攻撃する。人型魔導兵種の中では中級の戦闘力を持つ。


■咆哮の不老魔神★フグサザエ

アキバダンジョンで生まれアキバダンジョンにのみ生息する完全固有種の魔物。アキバが【亜鬼場】だった時代に【亜鬼場衆】の呪術により生まれた夢幻因子が地下深くの魔素クリスタルに固着し、咆哮の不老魔神★フグサザエとして誕生した。

二足歩行の人型の魔神で頭部が極端に大きい。雷を落とす咆哮と強力な念波で攻撃する。不老のスキルを持つと言われている。複数の水生型の魔物を従え、猫型の魔物を裸足で追いかける。戦闘魔神種の中では最も古い種である。


■瞬殺の増殖堕天使★ブリブリザエル

アキバダンジョンで生まれアキバダンジョンにのみ生息する完全固有種の魔物。アキバが【亜鬼場】だった時代に【亜鬼場衆】の呪術により生まれた夢幻因子が地下深くの魔素クリスタルに固着し、瞬殺の増殖堕天使★ブリブリザエルとして誕生した。

二足歩行の半裸の豚型魔神で頭部が大きい。甘い味のする剣を帯刀している。魔物の等級が高い割に個体数が極端に多く無力である。【瞬殺の増殖堕天使】の【瞬殺】は、するのではなくされることに由来する。個としては無力だが種としては無限の増殖力を誇る。戦闘魔神種の中で唯一【戦闘堕天使】を冠する特異種である。


■魔法幼女★ひなひな

アキバダンジョンで生まれアキバダンジョンにのみ生息する完全固有種の魔物。アキバが【亜鬼場】だった時代に【亜鬼場衆】の呪術により生まれた夢幻因子が地下深くの魔素クリスタルに固着し、魔法幼女★ひなひなとして誕生した。

ツインテールのかわいらしい幼女型の魔物。右手に持つキュウリ型魔導兵器と左手に持つチクワ型魔導兵器を駆使し、ハツラツとした元気な掛け声とともに呪文を叫び、多様なバリエーションの攻撃を繰り出す。背中に背負った乱童セルには駄菓子などが満載されており、半永久的な戦闘の継続が可能。魔法○女種の中でも【亜鬼場衆】が念には念を入れ念を込めたと言われている種である。




『ほらな、見たところで大したことは分かんねーだろ?』


『ちょっと何なのよ【亜鬼場衆】って。この和風極まりないエドの地で、よくもまぁこんな妄想の権化みたいな好き放題ができたもんよねー。和能呉呂史上、類を見ない奇人集団だったんじゃないかしら。呆れを通り越して尊敬の念すら覚えるわー』


『ピキュ~。謎が謎を呼ぶ魔物ばかりピキュが、特に難解なのは【瞬殺の増殖堕天使★ブリブリザエル】なのでピキュ~。弱そうなのにどーしてS8級の魔晶を有しているのかが解せないのでピキュ。そしてヒロさんはこいつだけ100万体も狩って、100万個のS8級魔晶を手に入れているのでピキュ~。もう、魔晶の価値が完全崩壊なのでピキュ! デフレ地獄のゴングが鳴ったのでピキュ~~』


『あぁ、こいつだけ桁5つほど多く狩ったのは、こいつだけがむちゃくちゃ湧いてたからってだけなんだよ~。情報によると【無力】ってなってるから超弱いんだろうけどさ、俺の狩り方目線で言えば、全魔物、結局同じなんだよねぇ。まぁとにかく、このブリブリザエルは多かった。湧いてた。も~無限にいた。キリが無いから100万体で止めたってだけだもん。あとウルさん、俺がどんだけ高価値な魔晶や魔素クリを大量保有したとしてもね、市場に出しさえしなけりゃ価値は変動しないからインフレもデフレも起きないよ♪ そこは安心して♪』


『ラジャ~ピキュ~。それとヒロさん、ウルは既に自覚してるのでピキュ。多分このブリブリ100万体の影響だと思うのでピキュが、多分ワレワレは、未だ嘗て無いほどにレベルアップしている予感がするのでピキュ。あとで確認する時に、ちゃんと心の準備をするのでピキュよ~』


『あーそっか、この世界でレベルやステ値を具体的に数値で確認出来るのは俺だけだったんだよね。そっかそっか。で、まだ他の魔物の情報見る?』


『ピキュ~。やっぱりイセの魔物も気になるのでピキュ~』


『わたしもイセのやつ、ちょっと見たいな~♪』


『はいはい、じゃあイセ編ね~』


 ヒロは、二人のリクエストをスクリーンに映していった。




■印蛭[いんびる]

イセダンジョンで生まれイセダンジョンにのみ生息する完全固有種の魔物。イセが【忌世】だった時代に【忌世妖輪衆】の玉輪奉術により蛭から生成した怨魔素子が地下深くの魔素クリスタルに固着し、数十年の時を経た後に蛭型の魔物として誕生した。

蛭型ではあるが体長は10m前後にもなる。無数の鉤歯を備えた口があり、密着性の高い唇と合わせて獲物の皮膚に吸い付き、魔素や体液を根こそぎ吸い尽くす。その際に獲物の脳髄に【印】を刻む。本体の口以外にも同様の機能を先端に持つ触手を20~30本有する。一度吸い付くと獲物の魔素を枯渇させるまで離れることはない。吸引力が変わらないただ1種の魔物と言われている。


■日輪鬼[にちりんき]

イセダンジョンで生まれイセダンジョンにのみ生息する完全固有種の魔物。イセが【忌世】だった時代に【忌世妖輪衆】の玉輪奉術により人贄と鬼から生成した怨魔素子が地下深くの魔素クリスタルに固着し、数十年の時を経た後に魔物として誕生した。

二足歩行の鬼型の魔物。5mほどの身長で体色は金色。肘に螺旋状の角を持ち【忌世四子鬼】の中で最も体躯が大きい。額に日輪の種紋があり、そこから怨波を放射する。


■宙来[ちゅうら]

イセダンジョンで生まれイセダンジョンにのみ生息する完全固有種の魔物。イセが【忌世】だった時代に【忌世妖輪衆】の玉輪奉術により無数の人贄と数多の魔物から生成した聖怨魔素子が地下深くの魔素クリスタルに固着し、数百年の時を経た後に人型の魔物として誕生した。

人型の魔物で身長は2mほど。漆黒の全身の体表に高位魔晶のような濃淡のある虹色の渦がいくつも浮かび上がっており、その渦は絶えず流動している。【忌世四魔人】を除けばイセ最強の戦闘力を誇り、高ステータスによる疾く強い暴力のみで戦う。【忌世九子魔】の頂点。


■十口田[とぐち・でん]

イセダンジョンで生まれイセダンジョンにのみ生息する完全固有種の魔物。イセが【忌世】だった時代に【忌世妖輪衆】の永輪供身術により聖怨魔晶を体内に供着された贄人がイセダンジョンに幽閉封印され、数千回の縛輪廻の果てに転生還し、魔神種となった魔物。

元々人なだけに見た目が【ヒト】に限りなく近い。イセの地を守護する【忌世四魔人】の1体で、全身の関節部と脳内に特殊な魔晶を持ち、高濃度の魔素を全身に循環させることで人知を超えた動きを成し、状況に応じた戦闘能力を発現させる。




『ヒロ~なんかこわーい。わたし、おどろおどろしいの得意じゃなーい。ちなみにドグマドグマしいのも苦手よ~』


『神のセリフとは思えんな~。ただまぁ、アキバが【妄想いっぱい夢いっぱい】的狂気に満ちてたのに対して、イセはもう【純粋な信心と怨念が結果出しちゃった】的オカルティズム、いや、もはやリアリズムすら伝わってくる様相だよな~』


『ピキュ! 特に最後の【十口田[とぐち・でん]】さんに関しては、本人自ら魔改造人間となりダンジョンに突入してるピキュ! 魔改造人間からの魔神転生とは恐れ入るのでピキュ~』


『わたし今、インベントリの中見てみたんだけどさ、【十口田[とぐち・でん]】くんも【一土王[かずつち・おうきみ]】くんも【二川円[ふたかわ・まどか]】ちゃんも【一人一天[いといち・てん]】さんも、ほぼ【人間】なのね~』


『まーなー。関節部分がちょっとデコり気味だけど、パッと見は人間そのものだよなー。つーか二人とも【くん付け・ちゃん付け・さん付け】で呼ぶなっての。あくまでもこいつらは魔物なんだぞ~』


『頭では理解してるのでピキュが、こうもキレーな顔立ちをした人達だとついつい【殺ってはいけないものを殺ってしまったのでは?】感が湧き上がってくるのでピキュ~~』


『ほら、今、ウルさん【人達】って言っちゃってる! 【魔物達】な、魔物達。あとウルさん、キミはスライミーなんだから【人か人でないか云々】はどーでもいーだろーに。さらにキミさ、過去に人間に対して“あいつら全員悪い奴ピキュ! 皆殺しなのでピキュ~!”とかハツラツと言ってなかったっけ? 逆にカマドウマの死に涙したりもしてたし……』


『ピキュ~。そーゆー角度から責められると返す言葉も無いのでピキュ~。ただヒロさん、ロンちゃんのことを“カマドウマ”の一言で表現するのは如何にヒロさんと言えど御法度なのでピキュ~。ロンちゃ~ん…… ウルは元気に楽しく暮らしているのでピキュピキュピキュ~~ おろろんピキュ~ シクシクピキュ~~』


『…………な、なんかごめん』


『あら? そーいえばウルちゃん、あなた、ヒロのスクリーンとかインベントリの中とか見れちゃってるの?』


『あ~ヒメ、言ってなかったっけ? 俺らのレベルが爆上がりするのと並行してウルさんとの【絆】みたいのも繋がりが強くなってるっぽくてさ、ちょっと意識するだけで情報共有できるようになってんだよ。まー、ヒメと俺の共有感覚に近い感じ?』


『おおぉ、それは便利ねぇ~。おめでと、ウルちゃん♪』


『ぐすっピキュ。ありがとなのでピキュ~♪』


『さて、そんな訳で、やっぱり【ウルさんを凌駕するよーな魔物】は居なかったってことで、毎度恒例のレベル&ポイントの発表でーす♪』




名前:ヒロ

種族:人間[ヒト]


pt:161420


Lv:4871[2306up]




『そして、このポイントを割り振りや~す♪』


 ヒロは2秒ほどの時間をかけてポイントを割り振った。




名前:ヒロ

種族:人間[ヒト]


pt:0/161420


Lv:4871[2306up]

HP:20000[10000up] + 12613

HP自動回復:1秒10%回復

MP:145000[71000up] + 13141【倍リング効果:316282】

MP自動回復:1秒10%回復


STR:20000[10000up]+ 13053

VIT:20000[10000up]+ 15345

AGI:40000[20000up]+ 16501

INT:40000[20000up]+ 15925

DEX:40000[20000up]+ 14801

LUK:2350 [420up]  + 13187




名前:ハナ

種族:神獣イデア[幼獣]


Lv:5659[2533up]

HP:12613

MP:13141


STR:13053

VIT:15345

AGI:16501

INT:15925

DEX:14801

LUK:13187




名前:ウル

種族:無限のヒロニウムスライミー


Lv:6425[2740up]

HP:41438

HP自動回復:1秒10%回復

MP:21719


STR:14134

VIT:20838

AGI:28802

INT:14107

DEX:21297

LUK:7221




『はいすごーい。ヒロおめ~。ハナちゃんもウルちゃんもおめ~』


『ヒメ~、嫌味大盛りで淡白に祝うのやめてよ~』


『ピキュ! ウルは嬉しいのでピキュ! これも多分【ブリブリ100万体】のおかげなのでピキュピキュ~♪』


『そーだった! S8級魔物100万体狩ってるんだった! ん? だとしたら少ない気もすんな~。さてはあのブリブリ野郎、経験値出し渋りやがったのかもなー。今度暇な時にでも【召喚】して問い詰めてやろーっと』


『そもそもあのブリブリ野郎が【日輪鬼】とか【常世】より格上ってのが信じられないのよね~。説得力ないわ~』


『それ言い出すと【魔法聖天熟女★まりあ~じゅ】もそーとーなもんだぞ』


『アキバ系はこの際スーパースルーよ。無視よ、無視』


『うん、それは賛成だ。まぁとにかくだな、このたびの【第一回和能呉呂3ダンジョン調査捕魔物プロジェクト】から導き出された結論は……』


『結論は?』

『ピキュキュピ?』


『ダンジョンいろいろ。魔物もいろいろ。ってことかな♪』


『ズコッ! これといった法則性が無いってことが分かったってだけじゃないの~』


『な、なんだよ~。パターンが崩れんのは楽しいことじゃないかよ~』


『ピキュ! 冒険の旅に予定調和は不要なのでピキュピキュ~♪』


『さすがウルさん、魂のシンクロバディだぜ♪』


『ピキュッピキュ~~♪』


 ヒロとウルの抱擁は30秒ほどつづいた。


『さぁさぁ、もーいいでしょ~。そろそろこれからどーすんのか相談』


『ヒメ、ちょっと待って!』


『な、なによ急に~』


『もうひとつ、今回のレベルアップで気付いてしまったことがある。見てくれ』




□ドロップアイテム

■アルロライエの手仕込みMPネクタール10 ×2




『つづけて情報開示だ』




■アルロライエの手仕込みMPネクタール10

神界有数のお嬢様カレッジ【ジョチーヌ学園】在学中に【ミス★ソフィアンヌ】に選出された経歴を持つおっとりほんわか系ピチピチ女神アルロライエが、丹精込めて夜な夜なぐるぐる掻き混ぜ完成させた超高級ネクタール。

服用すると一定時間MPの回復速度が10倍に跳ね上がる。効果の持続時間は使用者のレベルやステ値や人となりに依存する。そして時にはアルロライエの思いによっても変化する。まごうことなき神アイテム。かわいいピンクの小瓶入り。




『これ最強チートアイテムじゃね?』


『確かにピキュ~! 一般人換算だと10倍しても再充填に1時間近くはかかるであろうこの秘薬の効果ピキュが、これがヒロさんの場合となると話が違ってくるのでピキュ! 【1秒10%回復】が10倍されて【1秒100%回復】なのでピキュ~! ヒロさん、世界征服おめでとうなのでピキュ~♪』


『うぬぬぬぬ~、アルロライエちゃんめぇ。こんなのドロップされたらわたしの【倍リング】が霞んじゃうじゃないのよ~。これは……こっちが【エンジェルバトルの実売ストア】でしかアイテムゲット出来ない身と知りながらの強烈な一手ね~。なかなかい~パンチ持ってんじゃないのさ~。このマウントポジション、必ずMAシザースからの膝十字固めでギャフンと言わせてやるんだからね~。見てなさいよ~。あとアイテムの説明文がウザいわ』


『ヒメ、腐るな拗ねるなねじくれるな~。荒むなやさぐれるなダークサイドに落ちるな~。今やアルロライエちゃんも含めて、俺達み~んなが家族みたいなもんじゃないか~。家族同様の担当神ちゃんがせっかくドロップしてくれたんだからさ、ありがたく頂戴しようよ♪ ありがとうね、アルロライエちゃん♡』




ピロン


 ヒロのスクリーンにテキストのみのダイアログボックスが現れた。そこには


《これからもがんばります♡  (*╹▽╹*)ゞ 》


 と書かれており、その後暫く消えることはなかった。




『ほらぁ~、いい子じゃないか~。な、おまえもおんなじ神なんだからさ、そんなにピリつかないで、ラッキーとハッピーを分かち合おうぜ~♪』


『な……慰められてる? わたしが? 史上最強の戦神とも言われるこのアメノミコトヒメが? そんなことって…… こんな屈辱って…… わなわな…… わなわなわな……』


『ヒ、ヒメ?』


『むっきぃーーーー!! もーいいもん! そんな定型文みたいな慰めいらないもん!! グレてやる…… 落ちてやる! ダークマター製の抱き枕抱えてブラックホールに飛び込んでやる!! 心優しい老夫婦が営む寂れた定食屋で食えないほど注文して身の上話とか散々聞いてもらった挙げ句に食い逃げしてやるーーーー!!!』


 この絶叫を境に、ヒメからの念話はプツリと途絶えてしまうのだった。




『………………』


『ピキュ~。ヒロさん、ヒメさんの気配が全く感じられないのでピキュ~。ウルは繋がりが増しているので分かるのでピキュ~。ヒメさんはもう、どこかに消えちゃったのでピキュ~~~』


『………………こもったな』


『ピ、ピキュ? こ、困ったという意味ピキュか?』


『ウルさん、悪いが俺もヒメとは長い付き合いだ。集中せずともヒメが今どんな状況かくらいは手に取るように分かる。ヒメはな、あいつは今…………』


『ピ…… ピキュ』


『俺の脳の奥底にこっそりと作ってあった秘密の六畳間【お菓子&ゲーム部屋★ヒメルーム ※ゼウスであろうと立入禁止!】に引き篭もって、グレート歌舞伎揚げをボリボリ食いながら、ヤケ【エンジェルバトル】に夢中になってるところだ。【魔ポイント】も大量に入っただろうしなー』


『…………ピ、ピキュ~~…………』


 ウルは感度が増したヒメとの繋がりの遥か奥底の暗闇の扉の先で(ギクゥゥゥゥゥ)という声を聞いたような気がしたのだった。





『さてと、ヒメもバツが悪くて暫くゲーム部屋から出てこないだろーし、とりあえず【アルロライエの手仕込みMPネクタール10】を試してみっか~。っと、その前に実験しないとな~』


 ヒロは【アルロライエの手仕込みMPネクタール10】をインベントリ内で【トレース】してみた。

 すると、316282もあったMPが一瞬で0へと変化し、その後チカチカと数値が上がりかけては0に戻るを繰り返す。


『お! 反応したってことはトレースできるってことか!? 第一関門突破だな♪ ……しかし、やっぱ【トレース】は、どんなにステ値が上がっても、簡単には終わらんな~』


 膨大な量のMPが吸い取らけ続けること5分。

 ついにヒロのMP表示が316282に戻る。


『おおぉぉ、トレース出来たじゃないか~♪ そんじゃ~錬金だ♪』


 錬金は所要時間ほぼゼロで成功し、インベントリの中に新たな【アルロライエの手仕込みMPネクタール10[ピンクの小瓶入り]】が生成された。

 ヒロはすぐさま【メモ】に【アルロライエの手仕込みMPネクタール10[ピンクの小瓶入り]の錬金】を記録し、返す刀で【インベントリ内連続自動錬金】を開始させ、錬金1号サンプルを手元に取り出す。


『完璧な段取りだったぜ……。あとはこれを飲んで試すだけだな♪』


 ウルが固唾を飲んで見守る中、ヒロはグビグヒと小瓶を空にした。


『おおおぉぉ、ウルさん、一瞬で効果が発動したよ! 見て見て!』




MP自動回復:1秒100%回復【ネクタール効果】




『す、すごいのでピキュピキュピキュ~! これはもう、なんだってやりたい放題なのでピキュ~! よくわからないピキュが、とにかくやりたい放題の上に、そりゃも~やりたい放題なのでピキュ~!』


『ウルさんちょっと興奮しすぎだよ。とか言ってはみたけどさ、俺も正直興奮してるよ~。だって毎秒30万MPの消費に耐えられるんだぜ!? アルロライエちゃんの匙加減的要素が心配な【持続時間】についてはこのまま観測を続けるとしてだな、なんつってもこの膨大なMP連続消費でなんかいろいろ出来るよーな気もするよな♪ よぉ~し、あとでじっくり考えるぞーー!』


『ピキュピキュピキュ~!!』


 狂喜乱舞する二人は【膨大なMPの持続消費によってどんな事ができるのか】をイマイチ思いつかなかった。

 そして、ヒロが懸念する【短いような気がする効果の持続時間】について、実は【一回の小瓶服用で最低3日以上は効果が持続する】という驚愕の事実を後々知ることになるのだが、この時点ではまだ“鵜留虎マンの色タイマーパターンなら3分っしょ!”とか“ピキュ~、ロボ超人、魚津マンの試合限界時間パターンなら30分とちょいはイケるのでピキュ~!”などと騒ぎながら、頻繁にステ値を確認しては“すごぉ~い、まだ続いてるよぉ~♪”と喜び合うのだった。





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