10日目 ハナの進化と牛の解体




 ヒロが異世界に転生して10日目の朝が訪れた。


クゥ~ン クンクゥン『パパ~ねぇパパ起きて~』


ク~ン クゥンクゥ~ン『パパァ~起きてってば~』


『……ん…… ぁぁハナおはよ…… うぅ~んもうちょっと寝かせて……』


アンッ! ワンッ! クゥ~ン『パパ! 起きてよ! ハナ死んじゃう~』


『! なにっ!? ハナっだだだだだいじょうぶ!?』


アンアンッ クゥン『やっと起きてくれた~ おなかすいたのぉ』


 ようやく目覚めたヒロに、ちょっと不満げなハナがコシコシと体を擦り付ける。


『あぁ、おはようハナ、そっか……おなかが空い……えッ!?』


 驚いたヒロの前でハナがキョトンとしながら尻尾をブンブン振っている。


『ハナ…… おなか空いたんだよね?』


アン クゥン……『そーだよパパ、昨日はおやつ食べなかったからぺこぺこなのー』


『……ハナ……わかる! ……わかるぞ! パパ、ハナが言ってることが分かるようになってるぞー!』


アンッ! アン略『そーなの! ハナね、【智伝】ってゆーのをおぼえたの。そしたらパパとお話ができるようになったの!』


『ハナぁ~そりゃ最高のお手柄だぞぉ~。これからますます楽しくなるねぇ~』


『パパ! ごはん食べたいの!』


『おぅ! ハナ、まかせとけ!』


 嬉々としていつものデーモングリズリー肉をインベントリから取り出そうとしたヒロにヒメから声がかかる。


『おっはよーヒロ、ちょっとさ、今朝のハナちゃんのご飯の前に、試してみてほしいことがあるんだけど』


『おはよーヒメ、なになに?』


『昨日解体して仕分けたグレートバイソンの肉があるでしょ?』


『おぉーそうか、アレの肉を食べさせてみようか』


『あ、お肉もそうなんだけどさ、内臓を少し味見させてみてくれない? 多分だけど、魔物にとって魔物の一番の大好物部位は内臓だと思うんだよねー。しかも消化中の内容物も込みでねー』


『ふぅーん、そーゆーもんなんだ…… よし、分かった、やってみるよ』


 ヒロはハナ専用皿にグレートバイソンの胃と第一腸と第二腸を少しずつ切り分けて内容物も混ぜ合わせて盛り付け、そっとハナの前に置いてみた。


『ハナ、このお肉は好き? 苦手だったら食べなくていいけど、ちょっと味見してみてよ』


『うん、おいしそうなにおいがするの。食べてみるー』


 ハナは牛モツブレンドを口に入れるとチャクッチャクッと噛み締めた。すると次の瞬間、クワッと険しい表情を見せたかと思うと……


ンハフ、ンクチュ、チャック、ンゴキュ、ワシュ、ンバシュ、ガプシュ、ングッ


 ……と、無我夢中で咀嚼し始めた。

 あっという間に皿は空となり、興奮気味のハナは尻尾を振り回している。


『おいしいの! お肉もおいしいけど、これはもっとおいしいの! パパ! みんなまぜまぜして食べたいの!』


『そーかそーか、気に入ってくれたか~ よぉ~し、これからはパパがハナのためにいろぉ~んなお肉を混ぜ混ぜしてお腹いっぱい食べさせてあげるからね~』


『パパだいすき!!』


 ヒロはホクホク顔で、グレートバイソンの肉と内臓の全部位食べ比べブレンドセットを皿に盛り、デーモングリズリーの肉もトッピングしつつ、その山盛り肉ごはんをそっと愛娘の前に提供する。


 対するハナは尻尾をプルプルと痙攣させながら、陶酔したように肉まみれセットを咀嚼し飲み込んでいく。それはまるで生まれたての目も開いていない赤ちゃん犬が母の乳にしがみついているような姿を彷彿とさせ、必死さと切なさと可愛いらしさに溢れていた。


『んん~~~。ハナの食事風景見てるだけで白飯5杯はいけるわぁ。幸せの象徴だねぇ。【愛する人に喜ばれること】ってなんてプリミティブでアブソリュートな幸福感なんだろう。ヒメ、俺もういつ死んでも悔いはないよ』


『ヒロ、言いたいことは分かるけど、あなたが死んじゃったらハナちゃんも私も路頭に迷うわよ。その辺、冷静にね~』


『おっと危ない。幸せの絶頂を永久に保管したくて死ぬところだったわ。引き戻してくれてありがとうヒメ』


『なんのなんの、私も人生……いや神生かかってますからね、おまえさま』


 ここでハナがヒロに擦りついてくる。


『パパ~ おやつ~』


『お~もう食べちゃったのか、どうだった? いつものお肉よりもおいしかった?』


『とっっってもおいしかったの! いつものお肉もほかのお肉とまぜまぜするといっぱいおいしくなるの! ハナ、これからもずっとこのまぜまぜお肉がいいのぉ~』


『よぉ~し分かったぞ~ これからもハナのおいしいごはんのためにパパがんばるからねぇ~ 期待して待っててね~』


『パパだいすき~♡』


『そーかそーか、パパももちろん大好きだよぉ~』


 ヒロはハナを抱き包んで全身をワシャワシャ撫で回す。

 ハナは嬉しそうにキャッキャ言いながら体をくねらせ尻尾をブンブン振り回す。

 2人が我に返り落ち着いたのは10分後だった。


『おっと忘れてた。おやつあげないとなぁ~』


『パパだいすき!』


『ハナ、これはね、いつもよりちょっと大きい魔晶なんだけどさ、そのままって食べられたりするのかな……』


 ヒロはグレートバイソンの魔晶[C級]をそっとハナの鼻先に置いてみた。

 すると……


カプッ ゴリッ ガシュ…… シャクッ シャクッ シャクッ ンゴクン

ガシュ…… シャクッ シャクッ シャクッ シャクッ ンゴクッ

ガシュ…… シャクッ シャクッ シャクッ ンゴクン


 マズルもまだ短いハナが、小さな口をいっぱいに広げて10cmほどもあるC級魔晶を噛み砕き、目を細めて愛おしそうに咀嚼を繰り返し、結局ひとつ全部を食べきってしまった。


『パパ! このおやついちばんおいしいの! ありがと♡』


『そーかそーか、じゃあこれからはずーっとこの魔晶をおやつにするからね~ さぁ~ハナ、それじゃあ食後の運動をするぞぉ~ それーっ』


『キャ~~♡ パパ~こっちだよーー!』


『待て待て待てぇ~~い!』


『キャ~~♡ キャ~~♡ キャ~~♡』


 仲良し親子の永遠に終わりそうもない追いかけっこが始まった。

 そんな中、周りのことがまるで見えていない只のバカ親父にも見えるヒロだったが、アホ面をしながらハナを追いかけ回しつつも、寝起きの状態のままだった屋根付きの【流星4号★キューブ★333】を、屋根無し展望台タイプの【流星4号★枡★10×10】に変形させ、足元にはハナの足首にも優しくフィットする【高反発マット】を敷き詰めていた。


『パパ! パパ! このおそと、あんよが気持ちいいの! いっぱい走るの!』


 小さい体をグングン伸ばして軽快に走り回るご機嫌なハナ。

 その周りをハナが喜ぶように手加減に手加減を重ねながら動き回るヒロ。

 時には追いかけ合い、時には甘噛み合い、時にはくすぐり合い、2人はハナがクタクタになるまで遊び続けた。


『……パパ…… もうハナ…… ねんね~』


 最期に一言呟いて、ハナはヒロの中に戻っていった。


『ハナちゃんってばヒロの中に入った途端にスヤスヤ寝ちゃったよ~。かわいいねぇ~。あ、寝ながら足ピクピクさせてるぅ。あ、寝ながらエア走りしてるぅ。ハァァかわいいぃ~』


『その画が見られないのが今の俺の最大の苦悩だぜ。いいなぁヒメだけ……』


『散々アホほど2時間以上もじゃれ合っておいてよく言うわよ。求め過ぎ、依存症、中毒よね、ハナちゃんの』


『そこに関しては一切全く反論する気はない。俺はもう只のダメ人間だよヒメ』


『はいはい♪ ではそのダメ人間さん、この後の予定は?』


『当然まず風呂だね。そんでその後はもちろん昨日のつづき。今日もたくさん牛解体すっぞー!』


『偉いぞヒロ~!』


 その後ヒロは、上空30mに設置した露天風呂で汗を流し、さっぱりしたところで諸々準備を整え、“うっし!”と一人気合を入れた後、41体目のグレートバイソンを吊り上げた。


『よぉ~し、昨日の40体で、もはや段取り的な問題は完全に身についた。あとはさらなる効率を求めて、より集中した作業を繰り返すのみ! いくぞ巨牛!』





 ヒロがグレートバイソンの解体を初めて30分が経過した。


『……ねぇヒメ』


『どーしたの? ヒロ』


『いやさ、意識して集中力高めで取り組んでるってこともあるんだけどさ、昨日よりも明らかに手際とか作業が速くなってる気がするんだ。だって今朝からさ、この巨大な牛の細かい解体が1体3分ペースで進んでるんだよ? いくらなんでも速すぎね?』


『自分でやってる作業に対して“速すぎる”って分析するのも変な話よねー。ヒロ、その答えはステータスにあるわ』


 ヒロはスクリーンに自らのステータスを表示する。




Lv:72

HP:500 + 340

HP自動回復:1秒3%回復

MP:1000 + 316

MP自動回復:1秒10%回復


STR:100  + 228

VIT:400  + 314

AGI:600  + 367

INT:800  + 342

DEX:1000 + 321

LUK:159  + 914




『なーるほど、疲れてすぐ寝ちゃったから掛かってないと思ってたけどハナが【忠誠】発動してくれてたんだね……ハナってば……パパ想いないい子だなぁ』


『ん~とそれがね、ヒロが寝てる時にさっき話してたんだけどさ、ハナちゃんてば、レベルが上がったことで【忠誠】も進化したみたいで、ヒロとの【契】が切れない限り、【忠誠】オンの状態が持続出来るようになったみたいよ』


『え? それってハナが俺といる間はずーっと永遠に俺とハナのステ値が合算されつづけるってことだよね。そんなことしてハナ、疲れないのかな……』


『あ、“楽勝♪”って言ってた』


『そ……そっか、レベル97だもんなー。そりゃ凄くなってる筈だよなー。見た目が【生後2ヶ月の柴犬】のままだからさ、ついつい【か弱きもの】対応になっちゃうんだよねー』


『確かにステ値は上がってるけど、でも性格やら個性やら感情なんかはあのままがハナちゃんなんだから、ヒロはそのまま愛でて愛でて愛でりまくればいいんじゃないの?』


『……ヒメ……心の友よ……』


『……あ、あとヒロ、今日ここまで10体ほど解体してみてさ、グレートバイソンの体のつくりとか毎回切断してる場所とかどこにどう骨や筋があるとか、大体頭に入った?』


『何をおっしゃいますやらヒメさん、【大体】なんて失礼な。今の仕分けの細かさ程度なら、目ぇ瞑ってても完璧に出来る……ってくらいに頭に入ってるぞ』


『よし! 目標達成ね♪』


『ん? 目標? 目標はまだずっと先にあるでしょ。千体オーバーだよ? 巨牛の数は』


『さて、ここからは解体監督であるわたくしヒメが、解体の最終奥義をあなたに伝授したいと思います』


『最終奥義?』


『ヒロ、インベントリの中のグレートバイソンの死体の中の一体に注目してみて』


『あぁ、インベントリから一体取り出す時のあの感じのまま、取り出さずに見とけばいいってこと? ……はい、1体イメージ上で確保したよ~』


『それじゃあその1体を、インベントリに置いたままにして、イメージの力で解体してみて。出来るはずだから』


『え? あぁ~なるほどな~。ヒメの神仕様インベントリだとそんな事が出来るのかー』


『そーなの。でも、インベントリ内で解体仕分けをするには、操作する側の知識やイメージが追いついてないと無理なの。特に最後の骨と肉の分離あたりは構造を把握できてないと失敗するからね。だからヒロには頭の中で解体作業がスイスイ出来るくらいに実体験を積んで貰ったのよ。そーゆー訳だからヒロ、その牛を解体して仕分けして再収納するイメージをぶつけてみてよ』


『オーケーやってみる!』


 ヒロはインベントリの中の1頭のグレートバイソンの死体に対して、さっきまで作業していた解体と仕分けのイメージを重ね、想像の中で再収納を実行してみた。


『うわっ! 出来たよヒメ。実際の作業が省かれるからめっちゃ早送りみたいになって変な感じだけど……』


『今で大体30秒くらいよ。ヒロが有り余るステ値を使ってさらに慣れてくればもっと時間は短縮できると思うの。これで一気にゴールが見えてきたでしょ?』


『見えてきた見えてきた! 今日中にグレートバイソンの残り全部、キレーに再収納してやるぜ!』


 ヒロは上空30mでホバリングする【流星4号★枡★10×10】を【流星4号★キューブ★333】[一辺3mの立方体]に変更し、室内に【一人掛けソファ】を作り出して座ると、座面や角度をしっかり調整しつつ最高のリラックスポジションを探り当てた。


(よし、ここからは脳内作業の連続になる。DEX1321とAGI967をフル稼働して集中するぞ~)


 傍から見れば【ソファで熟睡してる人】にしか見えないヒロだったが、頭の中では次々と1トン以上もの体重を誇るグレートバイソンを切り刻んではインベントリ内で再収納する、という荒業を高速ループで実現している達人となっていた。


 そして1時間後。


(よし、150体終了! なんかステ値が高いせいか、精密な作業を高速で繰り返すのが気持ちいいんだよなぁ。解体~ズハイってやつなのかな。あと、インベントリの中でのイメージ作業なのに、やればやるほどグレートバイソンの体の構造への理解がより詳細になっていくのが実感できる。この細かく理解した【グレートバイソンの設計図】を色褪せることなく永遠に記録出来て、なおかつ最新情報を上書きし続けられるような……そんな【記憶のデータベース】みたいなスキルとか覚えられないかなぁ……神様ぁ……あったらいいなぁ…………)


テッテレー!


(来た! ナイス神♪)


 ヒロがステータスを確認すると


スキル:【ショートカット】【インベントリ(ヒメのなんだからね!)】【スコープ】【必要経験値固定】【迷彩】【メモ】


 スキル欄に新しく【メモ】というものが加わっていた。

 すかさずその【メモ】に意識を集中するヒロ。すると




□メモ・リスト

■肉体解析データ[解析度D]グレートバイソン



□メモ

■メモには脳内イメージを個別に分類し保存することができる

■メモに保存したデータは永久に保存される

■メモ内でデータの更新や編集、削除なども行える

■メモに保存できる容量は無限である

■メモの持つ可能性は使用者の想像力次第で若干広がる




(おぉ~もう登録されてる! これでグレートバイソンに関しては登録された訳だから、今後はよりスムーズに進めていけるって期待していいんだよなー。よし、新たに手に入れたこの【メモ】を駆使してさらなる高速化、高品質化を目指すぞ!)


 ヒロは新スキル【メモ】に登録した【グレートバイソンの肉体構造】を元に【インベントリ内解体】を繰り返しながら、新しく得た情報は上書き更新しつつ、より精密に、より完璧にデータを育てていき、その行程で作業効率とスピードはグングン上がっていった。

 すると、直近まで1体につき25秒ほどかかっていた解体仕分け作業が、気付くと10秒ほどで完了するまでに至り、その結果、多少休憩を挟んだにもかかわらず、昼過ぎには全てのグレートバイソンを細かく解体し再仕分けするという偉業を達成することとなったのだった。


『ヒメ……終わったよ』


『やったねヒロ、見てたわよ。新スキル【メモ】を得てからのあなたの解体っぷりは、もはや人の道を完全に逸脱していたわ。もしこの世界のステータス画面に【称号】なんてのがあったとしたら、あなたのその場所には【解体狂】とか【解体神】なんて記されていたに違いないわ。凄まじい成長よ♪』


『ありがとー。そー言ってもらえると嬉しいよ。それでさ、【メモ】を使ってて思ったんだけどさ、次には当然グレートバイソン以外の魔物の肉体データも登録していくことになるだろ?』


『もちろんそーするわよね?』


『その場合、多分なんだけど、実際の解体作業は、1魔物につき1体だけを丁寧に【メモ】しながらやれば、あとはインベントリ内解体&再収納でいけるんじゃないかって思うんだ』


『わたしもそれで大丈夫だと思うよ。基本の設計図さえ手に入れてしまえば、あとはそれを元にした応用の繰り返しでデータもあなたも成長するはずだからね』


『だよね、今後はその手順でやってみるよ。くぅ~、【成長】っていい言葉だよねぇ~』


『【成長】と言えばヒロ、あなた【インベントリ内解体】の繰り返しだけでレベルがみっつも上がったでしょ』


『そーなんだよ。さすがにあの緻密な作業を千回以上繰り返すと経験値も貯まるみたいだねぇ。早速ステ振りしちゃうわ』




名前:ヒロ

種族:人間[ヒト]


pt:0/186


Lv:75[3up]

HP:500 + 355

HP自動回復:1秒3%回復

MP:1000 + 331

MP自動回復:1秒10%回復


STR:100       + 243

VIT:400       + 329

AGI:780[180up] + 382

INT:800       + 357

DEX:1000      + 336

LUK:165[6up]   + 929


魔法:【温度変化】【湿度変化】【光量変化】【硬度変化】【質量変化】【治癒力変化】【錬金】【トレース】【成分変化】


スキル:【ショートカット】【インベントリ(ヒメのなんだからね!)】【スコープ】【必要経験値固定】【迷彩】【メモ】




『いやー、ハナの常時合算タイプの【忠誠】にはまだ慣れないわ~。見た時一瞬ドキッとするもん。……しかしこーして見ると、なかなかのステ値になったもんだよなぁ』


『ヒロはもうバケモノね。確実に。一番低いステータスのSTR値でさえハナちゃんと合わせれば350近くにもなるでしょ? この世界のSTR350って言ったら、大体【力仕事で生計を立てているプロ】のレベルよ。【荷運び】とか【石切り】とか【鉱山夫】とかそーゆー系の人達ね。さすがに【冒険者】とか【騎士】とかの【魔物積極的に倒して本気でレベル上げてる探求者】のSTRはもっと上だと思うけど、既にあなたは【日常生活では怪力と讃えられる人】の数値にまでなっているのよ。その、全く育ててない、全く興味もないSTRでさえね……』


『恐縮っす』


『……もぉ~ なんか呑気なのよねー。で、この後も他の魔物の解体とかするの?』


『おぉ、もちろんさ! よし、それじゃー軽く飯食ってから、午後も行けるとこまで解体するぞー!』


『おーーー!(苦笑)』





 それからヒロは、次々と新しい魔物の死体を再仕分けしていった。

 まずは自らの手でじっくりと解体し、解析し、【メモ】に登録する。

 その後【メモ】に登録した魔物のデータを元に【インベントリ内解体】を繰り返し、データをさらに上書き更新する。

 更新されたデータを元にさらに効率よく正確に【インベントリ内解体】する。

 そこで得た詳細な情報をさらに上書きしてデータを更新する。

 そんなループを繰り返し、気づけば【メモ】に記された魔物のデータは、一日の成果として破格の量となっていた。




【メモ】リスト

Fランク

■肉体解析データ[解析度A]ビッグラビット

Dランク

■肉体解析データ[解析度B]ギオーク

■肉体解析データ[解析度B]グレートボア

Cランク

■肉体解析データ[解析度S]グレートバイソン

■肉体解析データ[解析度C]オルガ

■肉体解析データ[解析度C]コケアトリス

■肉体解析データ[解析度D]トロウル

Bランク

■肉体解析データ[解析度C]デーモングリズリー

■肉体解析データ[解析度D]バジリスキル

Aランク

■肉体解析データ[解析度D]サイクロネプシス

■肉体解析データ[解析度D]グリフィオン 




『いやぁ~まさか夕方までにほぼ全在庫の解析&解体&再仕分け&再収納が終わるとは思ってなかったけど……やれば出来るもんだな、ヒメ』


『ホントに全部やっちゃったわね、この【ひとり魑魅魍魎】め。あ、もちろん良い意味でよ♪』


『まぁ全部って訳でもないんだけどね。ギオークキングとかフェリルは在庫が少なすぎたからそのまま残してあるし、スライミー系も解体する意味無いからそのままだし、EランクとFランクの数体しかないやつとかもそのままにしてるよ』


『もーヒロが管理してるインベントリ領域は【世界最大の食肉商社】と言っても何ら差し支えないわね。あ、肉だけじゃなく角とか爪とか牙とか骨とか皮とか鱗とかもあるんだった。あと肝心の魔晶もねー』


『これで【狩り→解体→部位毎の在庫管理】っていう一連の流れが、滞ることなくスムーズに出来るようになったから、明日からはまた狩りや探索に熱中できるよー』


『あんたも好きねぇ~レベル上げと冒険が』


『あっと、そーいえばレベルがまた上がったんだった』




Lv:77[2up]

HP:500 + 364

HP自動回復:1秒3%回復

MP:1000 + 340

MP自動回復:1秒10%回復


STR:200[100up] + 253

VIT:400       + 339

AGI:800[20up]  + 390

INT:800       + 367

DEX:1000      + 344

LUK:171[6up]   + 939




『ついに余裕が出てきてSTRに振ったわね。もはやレベル上げジャンキーねー』


『しょーがねーだろ? 【必要経験値固定】っていう【チート中のチートスキル】のせいで俺のレベルアップのための必要経験値はレベル30の時のまま固定されちゃってる可能性【大】なんだからさー。それにさ、異世界転生の醍醐味っつったら【己の能力を上げまくること】くらいしかねーだろ』


『うんにゃりのっと! 異世界転生の醍醐味の最強種は【ハーレム】と相場が決まってるでしょ! ヒトやらエルフやら獣人やらの種族的嗜好と、王女やら平民やら奴隷やらの身分的嗜好、そして賢者やら剣士やら盗賊やらのジョブ的嗜好、さらにヤンデレ、ツンデレ、メンヘラ、ジト目、アホっ子、ドジっ娘、僕っ娘、チョロインやらの性格属性的嗜好、これらの嗜好が複雑に入り組んだ現代社会に鋭いメスを入れ、さまざまな謎や疑問を徹底的に究明するのが【ハーレム】なのよ! ちょっと自分でも何言ってるのかわかんなくなってきたけど、とにかく【ハーレム】無くして異世界転生生活は語れないの!』


『そんなこと言われても……結局ハーレム定員が増えれば増えるほどシッチャカメッチャカになって収集つかなくなっちゃうのがよくあるオチだろ。俺はヒメとハナが居てくれたらそれで充分だよ~』


 すると突然、ヒロの胸から【生後二ヶ月の柴犬にしか見えない神獣】が飛び出してきた。


『パパ! あそぶの!』


『お~~~ハナァ~~、今日はパパ、お仕事終わったから、これからたっぷり遊ぼうねー♪』


 デレまくりながら、ヒロはインベントリから【Cランク魔晶】を取り出し、ハナの前に転がす。

 するとハナはガリガリシャクシャクとそれは美味しそうに魔晶を咀嚼する。

 その姿を目を細めて見つめながらもヒロは、流星4号を【流星4号★枡★30×30】に拡大変形させる。もちろん床に高反発マットを敷き詰めるのも忘れない。

 ハナは【Cランク魔晶】を平らげると、それっ! とばかりに30m四方の運動場を走り出す。

 そのハナを追いかけて、つついたり撫でたりしたりしながら、ヒロはハナが一番喜ぶように追いかけて相手をするのだった。


『きゃ~! パパこっち! いゃ~んキャー♡ もっとー!』


 狂喜乱舞するハナが追いかけっこによる快楽のピークを越えて陶酔状態になりフラフラして足を止めると、今度は全身をワシャワシャしたり復活まで抱っこしたりと二人の遊び時間は続く。

 気付けば太陽は西の地平線に吸い込まれ、広大な空は全てが朱色の夕焼けに染まっていた。


『パパ~ハナねんね~』


 尻尾をフリフリしながらヒロの胸元に顔と全身をコシコシとこすりつけ、ハナはゆっくりとヒロの中に帰っていった。


『ハナちゃん楽しそうだったねー』


『俺の方が楽しかったけどなー』


『ねぇヒロ知ってる? あなたがここんとこおやつにあげてるあの【Cランク魔晶】ってね、市場価格10万イエンくらいはするのよ~』


『お~そーだったなー。でもまぁハナが“おいしい”って喜ぶんだから安いもんだよ。この大草原みたいな狩場もあるんだし、無くなったら仕入れればいいってだけの話じゃね? 乱獲される魔物はたまったもんじゃないだろうけどなー』


『ふふ、ヒロらしい割り切った考えね~』


『いやぁーそれにしてもキレイな夕焼けだなぁ。空一面真っ赤だぜ』


『真っ赤……っていうよりはスカーレット的な?』


『スカーレットっていうよりは茜色的な?』


『茜色っていうよりは朱色的な?』


『それ、それで手を打とう。朱っとした朱朱朱な空だぜ~』


『あ、ヒロ、そーいえば【ガンズ砦】の定点観測まだやってないね』


『ぶっちゃけも~数日後でいいだろ。そもそも俺らはまだ辿り着いてないって前提があるんだしさ』


『まー確かに観察しなきゃいけない理由なんて無いものね』


『と、いうわけで、これから数日間はこの大草原の上空で、狩りやら探索やらをのんびりしながら過ごしたいと思いまーす』


『了解でーす』


『んじゃ~飯食って風呂入って寝るか~』


『あいあいさ~♪』


 こうして、ヒロ達の異世界生活10日目は終わった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る