再びガンズシティへ




 センタルス役場2階 開拓推進課


コンコンコン


「はーい、どうぞ~」


「失礼しま~す」


「おや、ヒロさんじゃないですか。ガンズシティからもうお帰りですか?」


「はい~。サンヨニクさんお久しぶりです♪ このとおり特に大きなトラブルもなく無事に戻ってこられました♪」


「それは何よりです。さぁさぁ、おかけください」


 ヒロは促されるまま、来客用のソファに腰を下ろす。


「今、コーヒーを入れますからお待ち下さい」


 サンヨニクはそう言うと、奥にいた女性に目配せをした。


「コロンバ産のいい豆が手に入りましてね~。ぜひ飲んでみてください♪」


「それはいいですねぇ~。楽しみです♪」


 嬉しそうに頷くサンヨニク。


「……で、ヒロさん、ガンズシティの連中はどんな感じでしたか?」


「あぁはい。その事なんですが、大半の人は好きなように生きていくみたいで、現地解散・自由行動となりました。その結果、残った三十人のメンバーが引き続き【開拓事業】を続けたいそうです♪」


「ふむ。三十人ですか……。彼らはもちろん当初の要望通り【独立した開拓組織】として都度、金銭的契約を交わしつつ継続したいという事なんですよね?」


「はい。そのとおりです」


「では補充人員についても彼らが独自に調達するということですかね? ここで我々が追加の人足を取り仕切ると明らかな二度手間になりますし、何より人間関係の調整がややこしくなりかねない」


「はい。こちらから人員の補充をしていただく必要ありません。と言いますか、ガンズシティに関しては残った三十人で仕上げるそうですので心配ご無用、とのことです♪」


「うぅ~む。しかしヒロさん、我々も遊びでやっている訳じゃないんです。ただでさえ遅れに遅れているガンズシティの開拓です。三十人に減ってしまった人足がいくらやる気を出したとしても、第二段階への引き渡しがいったい何時になることやら……」


「そこは問題ないと思いますよ。だって俺がガンズシティを出た時には、もうすでに九割方の工程は終わっていましたから♪ “ヒロさんが役人連れて戻ってくる頃までには引き渡せる状態にしておくぜ♪”と言ってましたし“何なら役人と一緒に二次作業員の連中も連れてきていいぜ♪”とも言ってましたよ」


「ほ、本当ですか!? つまり彼らは、ヒロさんがこことガンズシティを行き来しているこの1~2ヶ月くらいの間に、もう第一段階の作業工程をほぼ終わらせてしまっていた、ということなんですか?」


「はい~。まぁ、俺の人間的魅力がほとばしっていたんでしょうかねぇ~♪ 我ながら上手くいったと思ってます~♪」


「……にわかには信じられん話ですねぇ……」


 沈黙がつづき、パーテーションの奥からカチャカチャと食器を用意する音が聞こえてくる。


「ヒロさん、私はあなたのことを疑うつもりはありません。ただ、形式上と言いますか、組織の取り決め上、二次作業員まで同行させるわけにはいきませんので、まずは確認のため、専門の調査官が明朝ここを出発することになります。それでいいでしょうか?」


「はい、もちろんお好きなように。ど~ぞど~ぞ♪」


「…………え? ヒロさん、あなたももちろん同行していただけるんですよね?」


「え? ……えぇ~? マジすか~?」


「…………そ、そんなに嫌がられる理由は、どういった?」


「ん~、なんかもう何度も何度も行き来するのが面倒…… といいますか、飽きた、といいますか……。まぁ“どうしても”とおっしゃるのなら渋々同行してもいいですけどねぇ」


「ははは。さすが【命知らずの冒険者】ですね。冗談にも迫力があります。ではあらためて下の冒険者ギルドに指名発注しておきます。料金に関して希望はありますか?」


「ん~~。1億イエンで! と言いたいところですが、別にいくらでもいいですよ♪ そちらの相場の無難な金額で適当にやっといてください」


「……はぁ。本当に掴みどころのない人ですねぇ。では明日からもよろしくおねがいしますね」


 ちょうどその時、パーテーションから先程の女性が現れた。


「お、ちょうどコーヒーが入ったようです。ついでに紹介しますね。同僚のアイリスです」


 女性は銀のトレーからコーヒーカップをふたつローテーブルに並べると、清楚な振る舞いで挨拶をする。


「はじめましてヒロさん。開拓推進課のアイリスと申します。お噂は課長から伺っております。この度は難航しておりましたガンズシティの件でいろいろとご尽力くださりありがとうございます」


 深々と腰を折るアイリス。


「いえいえ~。俺はしがない冒険者の端くれの末端のほころびみたいな者ですから、そんな仰々しい挨拶はやめてくださいよ~。ギルドから発注された仕事をこなしたってだけなんですから~」


「いえ、本当に助かりました。この案件はあと少しで深刻な事態に発展しかねない状況だったんです。無血で無事に軌道修正できたのでしたら、そんな朗報はありません。明日からも何卒よろしくお願い致しますね。あ、コーヒーどうぞ♪」


 ヒロは出されたコーヒーをためらわず口にする。

 アイリスはニコリと微笑むと、そのまま奥の席に戻っていった。


「おおぉ、おいしい♪ そして香りがとても華やかで余韻もなんとも奥深い~。こんなおいしいコーヒー、ひさしぶり…… いや初めて飲みましたよ♪」


 すると向かいに座ったサンヨニクが喜々として反応する。


「それは嬉しい! ヒロさん、実はこの豆はね、焙煎に特殊な工程を挟んでいましてね、」


 以降、サンヨニクによる【このコーヒーがなぜこれほどうまいのか話】は暫く続き、ヒロはそれらを半分以上聞き流しながら【今回もヤバイ何かが混入していなかったこと】にホッとしつつ、二口、三口と飲み進めるのだった。

 するとしばらくして、コーヒー話を語り終えたサンヨニクが話題を変える。


「ところでヒロさん、ヒロさんは町の外で魔物と遭遇した時はどう対処されているんですか?」


 奥の席で事務作業に戻っていたアイリスの耳がピクピクと動く。


「…………と言いますと?」


「いや、ガーリック女史に聞いたんですよ。なんでもヒロさんは【見たこともないような巨大ビッグラビット】をほぼ無傷で納品されたことがあるとか。頭部に刺し傷が一箇所だけ残っていたとのことですが、いったいどんな武器をお使いになるのかと思いましてね。まぁ、明日からの旅路で分かることなんでしょうが、私は同行しませんのでお話だけでもお聞かせ願いたいと思いまして……」


「あ、……あぁ、あの時のビッグラビットですかぁ~。あれはナイフですよ♪ ビッグラビットにわざと突進させぇ~の、避けぇ~の、頭にナイフ刺しぃ~の、って感じです~」


「す、すごいですね~。Fランクとは言えビッグラビットの突進は、直撃すると骨折程度じゃ済まないような強烈なものなんでしょう?」


「ま、まぁ、小さい頃からカンがいいと言いますか、避け躱す才能だけには恵まれたと言いますか、はい」


「いやいや、とんでもない才能ですよ、それは。……で、全ての【魔物】に同じような対処を?」


「え? と言いますと?」


「いやいや、ガンズシティとここの間にも、もっと強い魔物は居たでしょう? 例えば大型の猛禽類系の魔物とか、獰猛な肉食獣系の魔物なんかだと、さすがに避けながら脳天にナイフ一撃という訳にはいかないでしょ? そんな連中相手に傷ひとつ無く何往復もしているヒロさんの戦い方が気になるんですよ。あ、単純な冒険譚として、ワクワクした興味ですよ? 私には縁のない【生死をかけた強者の戦闘】のお話ですから無性に好奇心がくすぐられてしまうんです♪」


「あぁ~~、そーゆー意味ですか~。はい、もちろんナイフ一本で渡り歩いている訳ではありませんよ~」


「そうですよね♪ では本気の戦闘の際は、いったいどんな?」


「それはもちろん、ほかの冒険者と同じようなもんでして……」


「やはり【剣】ですか?」


「あぁ~、当てられちゃいましたかぁ~。そうなんです。平凡で面白味もなく申し訳ないんですが、剣を振り回してどーにかこーにかなんとかやっていけてる次第です~」


「なるほど、それはもうお強いんでしょうね♪ 今から【ガンズシティの確認から戻ってきた時の調査官から聞く土産話】が楽しみですよ~」


「いやいやぁ~、サンヨニクさ~ん、もうホント、からかうのはやめてくださいよ~」


「いやいやいや、ヒロさんの実績から冷静に判断しても、おもしろい話が山ほど聞けそうです♪」


「いやいやいやいや~、そんな大したモンじゃないですってば~~」


「いやいやいやいやいや、ヒロさんの超人的全貌の一端でも知ることができればいいんですよ♪」


「いやいやいやいやいやいやいやいや~~~」


 こうして空になったコーヒーカップと共にヒロとサンヨニクの非生産的かつ狐と狸の化かし合い的な会話は二時間ほど続いたのだった。





 役場を出たヒロは、すぐに人目の無い場所からハナランドに移動する。


『うわぁ~~~ん! もうこの面倒な仕事からは開放されるはずだったのにぃ~~! なぜか明日から調査官とかいう連中の護衛みたいな糞しょーもない仕事で何日も無駄に過ごすことになっちまったよぉ~~! おろろぉ~ん。おろろろぉぉ~~ん』


『なぁ~んか、サンヨニクさんにまんまと誘導されちゃってたわねぇ、ヒロ~』


『ピキュ~、もはや【言いなり】と言っても過言ではないザマだったのでピキュ~』


『チチサマのディベート能力はミジンコ級なのです。メダカの餌ほどのスケールなのです!』


『おっ、プーおかえり~♪ なんか嫌なことでもあったのか? こっちは待ちくたびれたぜ! つーか、ハナっち&ウルっちとの追いかけっこは死ぬほどハードだなっ♪ S8級の魔物討伐するよりキツかったぜ~。ま、いい汗かけて良かったけどな~。風呂も用意してもらってたしよ、なっはっは~♪』


 そこには【風呂上がりでガウンを纏いビーチベッドに横たわりトロピカルジュースを手にしたツヤツヤのラビ子】が待っていた。

 傍らにはスヤスヤと丸まって眠るハナの姿もある。


『ラビ子……。留守番ついでにハナとイチャついた挙げ句、風呂にまでゆっくり浸かりやがって……。羨ましいやつめ……(つーかハナの初実体ねんね姿まで俺より先に堪能してやがる! こ、こんな幸せな人間が存在してい~のかよ!? 神様っ!!)』


『おう! ついでに腹も減ったからよ、アルロっち手作りのカツカレーとオムライスとハンバーグとカラアゲも食った♪ あ、あとデザートにジャージーなんとかのソフトクリームってやつも食った♪ うまかったぞぉ~、ぜんぶ!』


『なっ、なんつ~格差社会なんだ。俺がサンヨニクと無駄に無駄を重ねに重ねた無駄のミルフィーユクロワッサンパイ生地トークを繰り返してる間、オマエはそんなにも充実した時間を過ごしていただなんて……。オマエ、圧勝組。俺、完全敗北組。トホホのホだぜぇ~~ おろろ~ん。おろろ~ん…… ん? ラビ子オマエ、なんで俺が知らない間にアルロライエちゃんの手作りグルメ食えたんだ?』


《わたくしアルがフツーにちゃぶ台込みで出現させました♪》


『あ…… そうか。アルロライエちゃんて神友だけに、ヒメのインベントリ内にも余裕で干渉できるんだね』


《家族の一員となったあの時から【ヒメさんのインベントリ】へのアクセス権も大幅に拡張させていただいております♡》


『そっか~。まぁ、ハナランドもよく考えたら【インベントリ内フォルダのひとつ】でしかないんだもんな~。ま、それはそれで楽でいいわ♪ そのへんの事もヒメとアルロライエちゃんで適当に相談してやっといてよ~。お任せすっから♪』


《はいご主人さま♪ よろこんでラジャーですですぅ~♡》


『ピキュ! ちなみにウルも【ウル専用フォルダ】を作ってもらったのでピキュ~♪』


『ヒロぉ~ごめんね~。勝手にいろいろやっちゃって~』


『ぜんぜん問題ないよ~♪ もともとヒメのインベントリを俺が使わせて貰ってただけだしね~。これからも独自判断でじゃんじゃんやっちゃってよ。そうだ! 今後はさ、ヒメのインベントリは【みんなのインベントリ】ってことにしようよ♪ いい?』


『ん~ 特に問題は~ ……無いわね。いいわよ♪ 臨機応変に対応するね~♪』


『やったぜ! これでますます家族の利便性も高まるってもんだな♪』


『てかヒロさ~、そんなことより明日からの【調査官との同行依頼】って具体的にはどー切り抜けるつもりなの~?』


『………………』


『ヒロ?』


『………………』


『ちょっとぉ、現実逃避してアルロライエちゃんと謎の共同開発始めないでよぉ~。アルロライエちゃんも何でもホイホイ言う事聞いてちゃダメでしょ~』


《テヘペロ♪ (*´∀`*)> 》


『ま、まぁなんだ。実際のところ、俺は、今、モーレツに、……困っている』


『……でしょうねぇ』


『ん~? プーよ、テラース人と野山歩くだけなんだろ? アホみてーに簡単そーな仕事じゃねーか。なに困ってんだ? チュ~~~[トロピカルジュースをストローで飲む音]』


『オマエには俺の弟子としての慎ましさとか無ぇーのかよ! 俺、アワアワ言いながら立ちつくしてるんだぞ!? “お疲れ様でした師匠!”とか言いながら椅子をスッと出せ、なんてことはもう望まんし言わん。しかしだな、“そろそろ起き上がろうかなぁ”くらいは思えよ!』


『さっすがはプー! 鋭いぜぇ~。ちょうどまさに今、“そろそろ起き上がろっかなぁ”って思ってたところだったんだ~。以心伝心だな♪』


『…………』


『あとプー、オマエが“もうラビ子には全て教えた。弟子でも生徒でもなく、これからはバディだ♡ なんなら下僕だ♡ スレイヴトゥラビ子だ♡”って言ったんじゃねーか~。今さら師匠風吹かすなよな~。ま、あたしはそんな小せ~こと気にしねえけどよ。なっはっは~♪』


(こ、こいつ“心では【師】と想いつづける”的なこと言ってたじゃね~か……。なんてこった。俺はとんでもね~メウサギ育てちまったぜ~。トホホ~)


『よしっ、そろそろ着替えっか♪』


 ラビ子はそう言うと、やおら起き上がり、ガウンをバサッと脱ぎ捨てた。


『うおいっ! ラビ子! オマエには羞恥心ってもんが…… あれ?』


 全裸になった筈のラビ子の体には、薄い肌色の膜のようなものが部分的に纏い付き、肝心の大事そうな箇所は全てぼんやりとした色彩で覆われていた。


『なっはっは~♪ 残念だったなプー! ウルっち協力のもと、あたしの局部や突起物にはウルっちコートがかかって全然ラッキースケベが起動しないようになってんだよ~。これじゃあオマエの超高性能スコープ駆使しても、あたしの恥じらいポイントは拝めね~だろ? 宝の持ち腐れだな! なーっはっはっは♪ ただ安心しろ、あたしがハタチになった暁には見せてやるぜ♪ 何なら触らせてやってもいい。そんでその先には摘む、とか、齧る、とか、転がす、とかプーの知らない夢の世界が待ってるんだぜ~♪ かーちゃんの受売りだからあたしもよく分かんねえけどよ、それはそれはビューティフルドリームだそうだぞ? 知らなかっただろ~♪』


『……ラビ子、俺はオマエを侮っていた。まさかここまでの実力者だったなんてな……。反省だぜ。これからは全力でオマエの【恥じらいポイント】を攻略してやる! 覚悟しときやがれよ!!』


『なっ! オマ、プー! 本気出すなんてヒキョーだぞ!? スペック段違いなんだからあたしに合わせて手加減しろよっ!』


『おいおいラビ子ぉ~、なに今さら顔赤らめてんだよ~。もう遅え。もう遅えんだよぉ~。これから何千年もかけて、オマエを照れ照れの恥ず恥ずにしてやんぜぇ~。覚悟はえ~か~? え~のんかぁ~? 最高かぁ~?』


『んぴゃ~~~!! やめてくれ師匠! ちょっとおふざけが過ぎただけじゃねーか! ウルっち! ウルっちはいざとなったらあたしを助けてくれるよな!? “全般的に”とまでは言わねえよ! せめて、せめてこの【局部と突起物のコーティング加工】に関してだけは裏切らないでくれぇぇええ!!』


『……ピキュピキュピキュ~~~~』


『はいはい、そろそろ本題に戻るわよ~。ラビ子ちゃん、着替えながら聞いてね~♪ えっと、ヒロが明日からのことで困ってる理由なんだけどね、それはヒロが【自分がとんでもなくスゲーやつだってことがバレたくないから】なのよ~。さらには【何の興味もない役場の担当者と片道十日ほどもの間、昼夜を共にしなければいけないのが死ぬほど面倒くさい】って理由もあるわね~。そのあいだずーっと【世界でダントツ桁違いに凄い奴ってことは隠して、ちょっと凄い奴程度の演技をしながらチンタラチンタラ歩いて移動し続ける】ことになるからね~。今までで一番ストレスの貯まる日々が待ってるんじゃないかなぁ。だからテンション低いわけよ。まぁラビ子ちゃんが上げてくれたから良かったけどね♪』


『ん~、プーはその神実力、やっぱバレたくないのか~』


『ま、まぁな。バレると何から何まで説明しないと納得してくれそうにないだろ、役人なんて。そんでそれだけじゃ済むはずもなくてだな、もっと偉い課長から総務部長とかに報告行くだろ? そしたらあれよあれよという間に霞が関事務次官やら内調やら公安にまで知られちゃうだろ? そしたらも~終わりだよ。やるかやられるかの世界になっちゃうよ。逃げたところで世界中の電柱や銭湯の入り口、へたすっと町内会の掲示板にまで俺の顔写真が貼り出されてだな、“こいつヒロ。超ヤベえから超要注意! 見かけたらすぐ報告を!”とか書かれてだな、結局何をするにも窮屈な世界になっちゃうんだよ。だから、俺は【ヒロシティ住民】系のやつ以外には実力を隠して生きて行きたいんだよ。分かってくれるか、ラビ子よ』


『ん~、途中なに言ってんのか分かんなかったけど、プーの気持ちは大体は分かったぜ♪ ようは【朝飯のちゃぶ台で言うところの箸置きみてーなポジションがいい】ってことなんだろ? あえて【料理】じゃなく……』


『ん~~~、“まったく違う”とも言いづらく、“まさにそうだ”とも言えん、なんつ~微妙なコースを突いてくるんだオマエは。高めのすっぽ抜けかと思ったら超スローカーブでギリギリインハイに決まった……って感じかなぁ。しかも審判によってはボール判定もありそうなくらいの……』


『まぁラビ子ちゃん、ざっくりそんなトコよ♪ そんでね、ヒロは担当課長さんに“武器は剣です”とか苦し紛れに宣言しちゃってるからさ、明日からはヒロの【剣士姿】が拝めるわよ~♪ 楽しみだわ♡』


《ソレは私も何よりの楽しみですぅ~♡ (〃▽〃)ノシ 》


『ついにひーたんの剣術指南の成果が実を結ぶ時が来たのれす!』


『ピキュ! ヒロさんの剣豪キャラはきっとすこだまカックイイ!で決まりなのでピキュ~!』


『ふぅ~ん。ちなみにプー、剣術の流派はなんなんだ? なになに流とかいうやつ』


『……………………ひーたん流だ』


『ひーた…… あぁ、ヒロリっちの弟子なのか~。なんつ~かわいらしい流派だよ♪ で、その特徴はどんななんだ?』


『…………ひーたん流の特徴はただひとつ。【一瞬で斬る】それだけだ』


『え? 構えとか、型とかは?』


『……そんなものは無い。ただ【一瞬】で、……と言うより【速度を感じないほどの一瞬】、正確に言えば【0.001秒ほどの間に動き出してから斬り終えるまでの動作を詰め込んだくらいの一瞬】で斬るのだ。これは俺の前世で言えば【軍用アサルトライフル弾の初速の十倍】くらいの、そらも~すんごい速さなのだ。しかも【テスト値】であって【限界値】ではないのだ。だから構えや型などどーだっていいのだ。なぜなら誰にも見えない刹那に終わっているからなのだ。口上もエフェクトもドキドキも駆け引きも見せ場もヤマ場も“うぉおおおおおお!!”も何もない【最強の流派】なのだ。そしてそれ故に【最も地味な流派】とも言えなくもないのだ』


『ですっ! 【勝利】の前には【派手さ】や【見どころ】など無価値なのです! 勝つためにはあらゆる無駄を削ぎ落とさねばならないのです! そもそも【第三者が見て楽しめる要素】が残っている時点で、そんなもの【真剣勝負】とは言えないのですっ! 相手の様子を窺っている暇があったらその前に斬るのです! 【対戦相手の気に入らない点】や【己の主張】や【救いたい人物の名前】を“うぉおおおおおお!!”とセットで吠え叫ぶ暇があったらまずは斬るのです! そもそも真剣・本気・ガチの生死をかけた戦闘であればあるほど戦士は極度の集中により寡黙になるものなのです! ベラベラと御託を並べてから攻撃に移る輩は戦闘ではなく説教がしたいだけなのです! 青年の主張の付録としてついでに攻撃したいだけなのです! そんなものは戦闘ではないのです! SNSでもできるのです! ひーたん流瞬殺剣術に不純物は要らないのです! 死なないために、生き残るために、何よりも重要なのは【先の先】の【先の先の先】のもっと【先】くらいのやつなのれすっ!!』


『さ、さすが我が師ひーたん。なんて迷いの無い主張なんだ。迫力だぜ。これからも鍛えてくれよな~♪』


 ヒロは、興奮のあまり少女サイズになり【神聖剣エクスカリビュランサー】を振り回し始めたヒロリエルをなだめ、やさしく頭を撫でた。


『はぅぅ~ん。これからもひーたんはチチサマを鍛えに鍛えて鍛えつくすのれすぅ~~♡』


『うんうん♡ では、これにてぇ~、あ、一件落着!!』


『なに言ってんのよ~。アンタのひーたん仕込みの剣技なんて一般人が見てる前で披露できるわけないでしょ~に。それっぽく“おっ♪ なんか凄いっぽいな~”くらいに演技しなきゃダメよ~。流派も聞かれたら“我流でござる”くらいに言っときなさい』


『へいへ~い。だから憂鬱なんだけどね~』


『ピキュ~。ところでヒロさん、剣は何を装備するのでピキュ? 確かインベントリの【肥やしフォルダ】にドロップした剣を4本ほど確保していたはずピキュ♪ どれも高ランクの伝説っぽい剣だったのでピキュ~。楽しみなのでピキュ~♪』


『ウルちゃんそれもダメよ。そんなもん持ち出したらそれこそ大騒ぎになるわよ~。それで最後はどっかの王様にヒロごと欲しがられて終わりよ。だからヒロ、今からでも遅くないから明日から装備する【地味で目立たなくてそれでいて耐久性はヒロが振り回しても大丈夫なやつ】を作っちゃいなさい! あの四振りをドロップしてくれたアルロライエちゃんには悪いけどさ、それが無難よ!』


『心配ご無用だぜヒメ~。もう作ってあるから♪』


『え? もう、ある……の?』


『うん。【ヒロアル開発プロジェクト】のひと仕事として、最新版が生産済みだ♪』


《それでは御覧ください♪ アルとヒロ様の自信作です♡》




■神神剣 ヒロロライエ

S15級武器。色は漆黒。一見地味な反りのない片刃刀だが、鞘も含め柄も刀身も全て最新のヒロニウムのみで製造されたヒロニウム純度100%の世界最強剣。世界一鋭利で世界一粘りがあり世界一頑丈で世界一硬く世界一凄い。なんなら世界一がちすんごい凄い。神界でも通用する神域の剣。

刀身:70cm  全長:100cm  重量:5000g

備考:ヒロとアルロライエによる共同開発プロジェクトによって誕生した超ウルトラな絶対的剣。二人はこの剣の製作に当たり、素材であるヒロニウムそのものの強度や存在感、凄さやヒロニウムらしさを根本的に見直し、しかし本来のとんでもなさはそのままに、あくまでもアップデートではあるが数次元上のレベルにまで到達させることに成功した。




『しんしんけんひろろらいえ? 言いにくぅ~~』


『ピキュ~! ランクが【S15級武器】となっているのでピキュ~! た、たしかピキュ、これまでの世界最高クラスは……』


《S8級でした♪》


『倍ほどにも強いやつが現れたのでピキュ~! ……ていうかピキュ、アルロライエさん、剣の強い弱いはど~ゆ~基準で決まっているのでピキュか?』


《お答えしましょう! バフ性能や補助効果が付与されている武器もありますので一概には言えませんが、基本的には【同じ力でぶつかりあった時にどちらが強いか】で決まります♪》


『ということはピキュ、もしさっきまで世界一のランクだった剣と、』


《先程までの世界一は【魔刀 宙来】でした♪》


『なんと【肥やしフォルダ四振り】のひとつだったのでピキュ~。ではその【魔刀 宙来】と【神神剣 ヒロロライエ】が思いっきりぶつかったらどうなるのでピキュ?』


《【魔刀 宙来】がパキンと折れます。またはスパッと切断されます。これは帯刀者の技術によっても変わりますが、技術がどうであれ、ヒロ様クラスのステ値によって衝突した場合、【魔刀 宙来】が一撃で破壊されることは間違いありません♪》


『ピキュピキュ~。そ、そんな神域の業物を簡単に生み出してしまう【ヒロアル開発プロジェクト】、噂には聞いていたピキュが、恐ろしい組織なのでピキュ~』


《照れます♪ (〃▽〃)> 》


『てゆーかアルロライエちゃん、ヒロニウムまで新しく作り直しちゃったのねぇ』


《エヘ♡ (〃▽〃) 》


『エヘ♡じゃないの、エヘ♡じゃ~。そうなるとウルちゃんのごはんも変えていくってこと? また中毒症状みたいなことにならない?』


《そこはご心配なく! 抜かりない開発を心掛けましたので、はい。実はですね、ウルさんが食されておりますヒロニウムはですね、毎日少しずつではありますがアップデートされておりまして、十日前のヒロニウムと本日のヒロニウムでは物質の格が明らかに上がっております。スクリーン表記こそ面倒なので同じ【ヒロニウム】で統一しておりますが、その品質は日々進化しているのです。例えるなら【老舗うなぎ店の継ぎ足し注ぎ足しされたタレの如し】と言いますか、【老舗オムライス店の何千何万という身を焼かれた卵達の怨霊が染み付いたフライパンの如し】と言いますか、まぁそんな感じです。素材自体の【核】こそ同じですが【格】はどんどん上がっているという事なのです。まぁ今回の【神神剣 ヒロロライエ】製作にあたっては、最新ヒロニウムをベースとはしているものの、追加素材や加圧レベルなど、多岐にわたり大幅な強化が施されておりますので、ウルさん的には“おぉ! マスター、かなり味変わったねぇ。でもめっさめっさ美味しくなってるよ~♪”くらいには違いが分かってしまうかとと思われます。しかし、決して拒否反応や中毒症状を起こすことはないように細心の注意を払って完成させましたのでご心配なく♪》


『ピキュ~。なんだか楽しみなのでピキュ~♪』


『しかもウルさん、今回は軽量化にも成功しているんだ♪ 何しろヒロニウムと言えば【重い】で有名だろ? 今回の最新版ヒロニウムはなんと、ヒロニウム史上最も軽いヒロニウムなのだよ! あ、もちろん【激重】なのもすぐ作れるから好きなの言ってね♪』


『ヒロさ、なんで軽量化する必要があったの? あなたのステ値だったら【史上最重量】でもヒュンヒュン振り回せるでしょ~に』


『いやヒメよ、そんなことは大した問題じゃないんだよ。最大の問題は【一緒に旅する役場の調査官が突然“ほぉ、その剣ちょっと見せてもらってもいいですかね?”なんて言い出して持たせた時にそいつの肩が外れるのはマズいんじゃね?問題】なんだよ。だから俺とアルロライエちゃんは【素材としての超高能力は出来るだけ維持しつつ、かつ一般人が手にしてもギリギリ常識の範囲内で納得してくれそうなライン】を探りに探り、結局【重量5キロ】に落ち着いたってところだ。これでもまぁ庶民の剣に比べたらそこそこ重いけどな~。あと、重さ気にしないでいいタイプだったら既に【神神真剣 ヒロロライエン】っていう【S22級】の剣も完成済みだ。ま、これは別に使う機会も無いだろうけどな♪』


『ピ、ピキュ~。普段の何気ない生活の中でインベントリ内のヒロアルラボにて新開発が進行している恐怖なのでピキュ~』


『ちなみにウルさん、建造済みの【巨大棒】やら【黒壁】やらも定期的に【最新版ヒロニウム】に新調していってるからね~。どれもが【メガミウム製】だった時代など、遠い昔のおとぎ話なのだよ。ぬはーはっはっは! ぬはーはっはっは!』


《ぬはーはっはっは! ぬはーはっはっは! (*`∀´*) 》


『なんかもう、【悪役そのもの】よね~。【魔王】ってアンタ達のことなんじゃないの~?』


『ピ! ピキュ~! 【魔王】で思い出したのでピキュ!』


『な、なんなの? ウルちゃん……』


『ヒロさんがユーロピア帝国各地への帰還を黙認した1万人ほどの敗残兵どもが、行く先々で“魔王が現れた”的な話を広めまくっているのでピキュ~! 奴らはウィンの町でひとまとめにされてたあいだに其々の【全裸放置される直前の状況や日時】を確認し合い、噂や考察、推理、などなどを経て、“こんな事ができるのは【魔王】しかいない。【魔王】が現れたんだ!”という結論に至っていたのでピキュ~』


『え? ウルさん、【神】じゃなくて? 【神がお怒りになった】とかじゃなくて?』


『この一連の出来事から【神】を連想する輩は一人として確認できなかったのでピキュ~。ヒロさんは魔王ピキュ。ご愁傷様なのでピキュ~』


『ヒロ~、なんだかアテが外れちゃったみたいね~。なんてかわいそ~な【ほぼ神人間】なの~。よしよし♪ 泣かないの♪』


『おいヒメ、俺の脳内神経をいくつか束ねてコシコシしないでくれ。なんか分泌してる気がする……』


《わたしは魔王ヒロ様もやぶさかではありません♪ いやむしろラヴ♡ですですぅ~♡》


『プー、オマエ、な~に凹んでんだよ~。かっけーじゃねーか♪ 【魔王】だぞ? 魔力桁外れ王、魔物乱獲王、魔晶収集王、魔素クリ枯渇王、魔性の愛染明王、魔ンゴルモアの大王、魔ナミの帝王、魔球しか投げない三冠王、魔っふんだ喜劇王、魔が差したグングニル毒なしカエル王、どれを取っても最強っぽくて最高だぜ! あたしも目指すぞ! 魔王ヒロも一目置くラビラビの王、そう!【魔王王】をなっ!』


『だぁ~れが【魔が差したグングニル毒なしカエル王】だよ、そこだけ強めに言うなっつーの。あと【魔王王】ってアホっぽすぎるだろ~』


『なっはっは~! まぁ気にすんなよ。誰が何と言おうがプーはプーじゃね~か♪ 神だろうが魔王だろうが、あたしにとっちゃ最高の師匠だ! 気楽にいこ~ぜ~♪ なっ♪』


『…………ラビ子、……ハグさせてくれ! 抱きしめたいぜ!』


『んぴゃっ!? プ、プーははは早まるな! そそそんなR20なのは…… ハハハハタチになってからだって…… かかかーちゃんが……』


『ふっ。冗談だよ~♪(……つーかこいつ、ギガトン級の箱入り娘だなぁ~) ……しかしそれにしても、なんでこんなことになっちゃってんだろ…… 【神からの天罰説】が広まるはずだったのに【魔王の悪戯説】に化けやがった……』


《アルが解説しますっ♪ 今回の【ユーロピア帝国に魔王現る事件】についてですが、ウルさんのレポートは概ね正確です。ただ、ウィンでのヒソヒソ密談の初期の初期段階には【神による天罰】を口にする関係者も僅かに存在しました。しかし瞬く間に“神が我々に苦難を与える筈がない”という主張が大きな渦となり全体を巻き込んでいったのです。このあたりの要因としては【クリスタル教徒】が大半を占めていた事が挙げられるでしょう。【クリスタル教】の教えは簡単に言うと【汝は神に愛された絶対子であり神は汝が愛すべき絶対親である】という、【愛し合う神と人間族の強固な愛のネットワーク】が基本となっています。そして【汝の苦難や苦痛はすべて悪魔がもたらすものであり、絶対親である神は絶えず汝らのために戦い続けている】とも。そして【悪魔を統べるのは魔王である】なんてことも。ですから“自分たちに降りかかる苦難の全ては悪魔の仕業で、悪魔共のトップに君臨するのが魔王だから、この不可解で恐ろしい大規模な災厄の犯人は魔王だ! ま~ちがいないっ!”とクリスタル教徒の皆さんは信じて疑わないのです。はい》


『ん~。【信じる多数派が歴史を創っちゃう】ってやつか~。ま、別に、ユーロピア帝国の連中がパニクってくれるんなら、その犯人が【神】であろうと【魔王】であろうとどっちでもい~っちゃあどっちでもい~んだけどな~』


『しかしピキュ~、連中はよくそんな【誰も見たことがない存在】を真犯人として確信できるのでピキュ~。凄い能力なのでピキュ~』


『ナイスだぜウルさん。人間って生物はね、【存在がまるで証明されていないもの】でも【存在してほしいと願う精神力】によって現実そのものをファンタジー世界に変えてしまう【超能力】を持っているんだよ。挙げればキリがないが、例えば【魂】【気】【霊】【オーラ】【縁起】【バチ】【占い】【呪い】【前世】【来世】【神】【世界の終わり】【UFO】【パワー○○】【超能力】【芸術】【正しい○○】【間違った○○】【普通】【常識】【平和】【正義】【悪】【自由】【平等】【愛】【友情】【運命】【未来】【本当の自分】【サンタさん】【東京特許許可局】なんかは【存在がまるで証明されていないにもかかわらず存在してほしいと願う人間の超能力によってまるで存在するかのように扱われているもの】の代表だ。これらは簡単に言ってしまえば【あるある民主主義で勝ち残った妄想アイテム】なんだが、【人間の超能力】、仮にこれを【思い込み力】とするならば、その【思い込み力が強い人間】ほど、そして【思い込み力の強い人間が多く集まる環境】や【思い込み力を掻き立てる集団心理に誘導されやすい環境】であるほど、冷静かつ客観的な判断や分析をすっ飛ばして【自分が見たと思っているにすぎないこと】や【自分が感じたにすぎない印象】や【集団で共有される情報】を【事実】として思いこんでしまうんだ。例えば俺が昔暮らしてた世界で“小さい頃○○を見たことがある。あれはガチ!”みたいなことを真顔で語る奴がたくさん居たんだけど、そうやって真剣に語る奴ほど“小さい頃○○と呼ばれるようなものを見たような記憶が残っているがその正体は定かではない”とは言わないんだよ。小さい頃っていうのは想像力が豊かで思い込みが激しく客観的な分析を張り巡らせるほどの知識や経験も乏しい。ウトウトしてた時に見た強烈な夢を実体験とすり替えてしまっているのかもしれない。ハイクラスの超能力者だったら、自分が誰かに語った空想話を何回も上書き反復する過程で自らも事実であるかのように思い込んでしまっているのかも知れない。もちろん【ラクシュミーもクラクラ現象】を代表とする【パエリア&ドリア効果】による単なる錯覚かも知れない。他にもいくらでも否定的な仮説は成り立つだろう。だがしかし、にもかかわらず奴等は【自分を疑う】や【情報そのものを疑う】っていう最も簡単で強力な【バル~ス的呪文】を試そうとしない。【思い込み欲】によって発動する【思い込み力】ってのはそれほどまでに自らをファンタジー空間に転送してしまえるすんごい超能力なんだよ。だからそんな【思い込み力】を日夜鍛えに鍛えている【クリスタル教徒のみなさん】は、神の絶対子である自分を無限肯定するために【自分が信じること】を決して疑わないし、疑う者を許せない。精神錬金術の使い手が集うスーパー超能力集団と言えるんじゃないかな~』


『ん~でもヒロさ~、【前世】【来世】【神】あたりは、ヒロやわたしやアルロライエちゃんの存在そのものによって、事実であることが証明されたじゃない?』


『いやヒメ、それにしたって俺は100%は信じていない。この世界と俺の体験そのものが【俺の記憶を材料に見せられ続けている長く細密なコンテンツ】や【何年も意識が戻らない病人が見続けている長い長い夢】や【ごく平均的な男子高校生が食パン咥えた可愛い子ちゃんと出会い頭にぶつかって死に至る瞬間に見ている走馬灯的なもの】なのかも知れないし、たとえここが本当に転生後の異世界だったとしても【ヒメやアルロライエちゃんの存在】が神的なものなのかどうか、本当のところは分からない。実はヒメとアルロライエちゃんは同一人物で、しかも別の異世界転生者による精神魔法攻撃なのかもしれない。またはハイテク極まれリ世界の何者かが遊んでいる超未来ゲームの中の自我持参な選択キャラのひとつが【俺】なのかも知れない。もちろんどんな可能性にも俺なりの確率的な予想はあって、今のところはこの【異世界に転生してテラースを中心に歩んでいる第二の人生】が事実である可能性が一番高いとは思っているよ。ただ、【事実である可能性が高いと思うこと】と【事実】とはまるで違う。だから俺は【自分が転生して異世界で神とともに暮らしている】とほぼ思っているけど、ちょっとだけは【実はそうじゃないかもしれない】とも思っているんだ。極端に言えば、【事実】なんてものは【人々が思う】からこそ成立する【イメージの集計】でしかなく、【真の事実】なんて【直線や真円が物理的に描き切れない】のと同様に実は存在しないとも言えなくもない。つまり【事実っぽいことの精度が高まったりすることもあるが決して事実そのものには至らない現象】が【人間界で言うところの事実】ってことだ。よく【真実は後世の歴史家が判断することになるだろう】みたなことを言う人が居るけど、それにしたって同じ事だ。【後世の歴史家】だって不完全な人間であるが故にイメージする事でしか一歩目を踏み出せないんだし、複数の【歴史家】の中で僅かでも主張が食い違えば、それは【事実ではない】とも言える。ていうか、【後世の歴史家】もなにも、【現在の歴史家】によって【過去の全て】が完全解析・事実認定されているかと言えば答えは完全にノーだろ? 個別の解釈や引用する資料によってバラバラな事実なんていくらでもある。そしてその【引用する資料】もまた【過去の歴史家】が記したものだったりする訳だから、どんなに未来の歴史家が優れていようと【事実のフォーカス】は永遠に合わないんだよ。【事実とは妄想の堆積物でしかない】と考えた方がしっくり来るんだよな。まぁ、こんなこと言い出したのも、俺の座右の銘である【全てを疑って楽しく生きる】という考え方に起因することだから平均的な人間のものとはズレているのかもしれないけどね。とにかく俺は【絶対は多分無い】とか【疑う事こそ敬うこと】とか【信じた時が成長限界】とかそんなことばっかり考えてる人間だったからさ、【疑うこと】つまり【いろんな可能性を巡らせること】を娯楽として楽しんじゃう傾向が強いんだよ。さてウルさん、俺がここまで言ったこと、キミは信じる?』


『ピ、ピ、ピ、ピキュ~。ヒロさん本当にごめんなさいなのでピキュ~。ほとんど聞いてなかったのでピキュ~』


『ズコッ』


『そりゃそ~よヒロ~。わたしだってアンタが“人間って生物はね、”とか言い出した瞬間から“あ、これはいつものめんどくさ~い話が延々と続くパターンだわ~”って敏感に察知して話半分で聞き流してたも~ん』


『………………』


 毎度のことながら、ヒロの熱弁はファミリーの誰にも響いていないのだった。





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