18日目 ロデニロとの出会い




 ヒロが異世界に転生して18日目の朝が訪れた。


「んん……ぅぅうんんん~~~」


 いつもなら日の出とともにハナに起こされるのがルーチン化しているヒロだが、今日は静まり返った宿屋の部屋で自然に起きることとなった。


「あれ? ハナは?」


 寝ぼけて独り言をつぶやくヒロ。


『あ、ヒロおはよ~。昨日いろいろ有りすぎたから今日はお寝坊さんかと思ってたけど、案外放っておいても7時頃には起きるのね~』


『ピキュ♪ ヒロさんおはようピキュ~。ハナちんならウル分体と一緒に遊んでるのでピキュ~』


『ん? 外に繰り出してるの?』


『ヒロ、違うの。実はね、ついに発動させちゃったのよ。アレを……』


『アレ? 何だっけ? 宇宙戦艦とか俺、持ってたっけ?』


『アレって言えばアレ。そう、【インベントリ内生存空間】よ♪』


『おぉぉぉ~、あの、時間経過設定から始まって、空間設定、自然サイクル設定、食物連鎖設定、浄化汚染設定、大気成分、災害、ウイルス、遺伝、魔素濃度、神濃度、キング貧乏神出現率、などなどなど、項目確認するだけで気絶しそうになるくらい細かい設定をしなきゃいけない上に、俺のMPが結構食われるっていう理由で後回しにしていた【インベントリの中に生活できる空間つくれたら良いねプロジェクト】のことか~』


『そう、ソレ!』


『え? ソレが出来ちゃったってこと?』


『そうなのよヒロ。あの時は【マニュアル設定の細かさ】と【ヒロのMP消費の負担】を理由に後回しにしてさ、いつか作ってみようね~って程度の話だったでしょ? でもほら、今日とかって、ハナちゃんとウルちゃんをこの町の通りで遊ばせる訳にはいかないしさ、ヒロに流星4号出してもらうって言っても、この宿の上空に漆黒の巨大枡を浮かせる訳にもいかないでしょ? そこで私は考えたのよ。あれ? 今ならヒロのレベルもステ値も上がってるし、【オプション機能】が購入できれば、ハナちゃんの遊び場が作れるんじゃないかな~って♪』


『オプション機能? 購入?』


『そう! あのね、エンジェルバトルってゲームの話した時の【魔ポイント】って憶えてる?』


『おぉ~、なんか【神の神による神のためだけの便利なポイント】みたいなやつか~』


『そう、それ♪ 実はあの【魔ポイント】がね、私のインベントリの機能拡張に使えるってことを思い出したのよ~♪』


『なるほど。それで買ってみた……と?』


『買ってみた。スタンダードプランってやつ。そしたら出来た♪ まず設定に関してなんだけど、デフォルトには無かった【オート設定】っていう選択肢が購入できてさ、そこの中の【現行世界オート】っていう項目が極端に消費MPが少ない事に気付いたの♪』


『少ないって、どれくらいなの?』


『1日100MP』


『超少ないな』


『でしょ~? これはバーゲンだと思ったわよ。でね、その【現行世界オート】っていうのがどんな【オート】かって言うと、時間経過とか月齢とか太陽とか季節とか気温とかが、現在使用者のいる世界のどこかのコピペでオーケーな人のための【オート】なの。私達それで全然オーケーでしょ?』


『全然オーケーだな』


『だよね~。で、その上で制約があってさ、作り出した【新空間】に、スタンダードプラン以上のオプションが追加されると、ヒロのMP消費量もその都度マシマシになっていくのよ。だから私は今のところ、空間サイズをスタンダードプランの条件内ギリギリに抑えて、高MPオプションも一切追加していないから、1日100MPのままで使用できてるわよ~』


『スタンダードプランのギリ最大ってどれくらいの空間なんだ?』


『ん~とね、今のところシンプルでいいかと思って、縦横同じ長さの正方形にしてあるんだけどさ、縦1km、横1kmで1平方キロかな』


『広っ! 思ってたより全然広っ! もっと住宅分譲地レベルの土地サイズで予想してたわ。さすが神仕様だな~』


『喜んでくれて何よりだわ~』


『で、その百ヘクタールの空間は、現状どーなってんの? 土?』


『説明するより行った方が早いよね! ヒロ、心の中でインベントリ開く時の要領で【ハナランド】って指定してみて~』


『ヒメ、ネーミングセンス最高! それじゃあ……【ハナランド】へ♪』


 ヒロは、インベントリで物を出し入れするいつもの感覚で、自分自身を【ハナランド】に収納するようにイメージする。

 すると、重力から開放されたような感覚が走り、次の瞬間には辺り一面緑の芝が広がる平地に立っていた。


『うわっ! すっげー♪ 青い空と白い雲、吹き抜けるやさしい風だ~。ここが【ハナランド】か~』


『ヒロ、帰る時はインベントリから物を取り出す時の感じで退出できるからね。もちろん【スコープ】の限界までなら遠くにも降りられるよ~』


『便利だな~。それって【ハナランド】と【スコープ】をうまく使って出たり入ったりを繰り返せば1~2キロ単位の瞬間移動ができるってことだろ?』


『おぉ~~ 確かにそうなるねぇ。ヒロってば頭いい~』


『あとこれ、空間の端に白いラインが描かれてるから、ここが端だって分かってぶつからないで済むようになってるんだね~』


『この白線が空間の端を知らせる目印っていうのは確かなんだけど、実際はぶつからずに逆の端から出てくる設定にしてあるよん♪ 万が一にでもハナちゃんが激突したら可愛そうでしょ~』


『逆から出てくるの? ドラモンクエスポのワールドマップみたいに? それでスタンダードプラン内で収まってるんだ~。この芝みたいな植物だって、すんごい踏み心地が気持ちよくって最高の素材っぽいのに、いったいどんなオプションが付くと高MPプランになるんだよ~』


『あ~っとヒロ、まず、スタンダードプランの最大の特徴なんだけど、【作り出した亜空間内のものは一切持ち出せない】っていう制約があるのよ。だから、この芝みたいな植物……これは【柴芝】って言って、スタンダードプランの地面オプションの中で一番ハナちゃんの身体と走りに適した品種の芝らしいんだけど、この【柴芝】の細かい葉ひとつすらも持ち出せない仕様になってるの』


『あ~はいはい、インベントリに収納する時、完璧に識別して異物を分離してくれるアレの逆をやってるってことかー』


『そう、出る時に、持ち込んだもの以外は全て弾かれる感じねー。あと、それに反して持ち込む分には全プランゆるゆるで何でもオーケーよ♪』


『てーことは、高MP消費のオプションってゆーのは……亜空間内のものを持ち出せるようになるってこと?』


『その通り~。ただ、【持ち出すもの】の内訳によって消費MP量も変わってくるみたいでさ、薬草1株程度だと少ないんだけど、金塊とかだと高いみたい』


『金塊なんて掘り出せるのか!?』


『あ、それもオプションの【隠し金山】とか【隠さず金山】を追加設置した場合のことね。その金山の維持MPに加えて、金の持ち出しMPが二重に消費される……的なことみたい。あと、全プラン共通の制約として【亜空間内では殺生による経験値が獲得できない】ってことになってるらしいから、狩りによるレベル上げは無理ねー。ちなみにヒロ、高MP消費オプションの一覧とか見てみる?』


『……参考までに見てみようかな』


『ほいさ!』




亜空間プレミアムプランのオプションメニュー

※詳細は項目を念クリック


□システムオプション

■持ち出し設定各種

■時間経過設定各種

■空間サイズ設定各種

■環境設定各種

■他設定各種


□アイテムオプション

■生物

■魔物

■人間

■ラベンダー畑

■びわゼリー屋

■てこね寿司屋

■出雲そば屋

■異世界東京ドイツドッキリ村

■アウトレットモール

■プロ野球チーム

■コンビナート

■温泉

■異世界タワー

■異世界ツリー

■異世界ハダカデバネズミーランド

■異世界ハダカデバネズミーシー

■金山

■カジノ

■異世界悶悶太郎ランド

■異世界学園

■火山

■海

■天変地異

■国家

■キング貧乏神

■キング大富豪神

■永久機関

■宇宙

■各種ゲート

■精霊

■天使

■神




『オッケー! 今の俺達にはスタンダードプランで充分ってことが分かったぞ! つーかヒメさ、この能力って【世界から一時的に消滅できる】って部分だけとっても、ばちくそチートなんじゃないの?』


『【一時的に】ですらないけどねー。神仕様のインベントリがベースになってるから、回数も時間も制限がないのよ。永遠に引きこもってもいられるわよ~』


『神も人間みたいに引きこもったりするの?』


『するする~。てか、何度も言うけど、人間界で起こることの元ネタは、全て神由来だからね。引きこもりもロリコンも公務員も大量殺人も入れ墨もピアスも麻薬もカニバリズムもタピオカも自殺もオッパブも偶像崇拝も愛も自由も魂も平和もぜぇ~んぶ、神由来。神の系統だけで末端まで分類すると数億種以上いるんだから。そらもー何だって神由来よ』


『ひょとして……短ランとかボンタンも?』


『神由来よ』


『……【きやのん】と書いて【きゃのん】と読む羽目になったのは?』


『神由来ね』


『……刻みたくあんとマヨネーズを和えてコッペパンに挟んだのは……』


『とーぜん神由来』


『まさか……全裸のお姉さんの身体に刺身を盛り合わせちゃったのはさすがに……』


『それこそ神由来に決まってるでしょーに』


『マジかよ。もはやなんでも神なんじゃねーか……』


『だから神はいつも退屈してるのよ。そして思ってる。何かおもしれーことねーかな~ってね』


『つまりだ、神が人に求めてるのは、神の思いつかないことを思いつけ! みたいなことなのか?』


『ヒロ、悟ったわね。ナイスよ♪』


 そんなことを話していると、遠くから小さなふたつの影が走ってくるのが見えてきた。


『パパ~! ここね、ママがつくってくれたの! 走るときもちいいの~』


『ピキュピキュ~!』


 見た目は生後二ヶ月の柴犬で実際は【神獣イデア】であるハナが、同じくらいのサイズの四足歩行生物に変形した分体のウルを引き連れ、全身をグングン伸ばして弾むように走ってくる。


『おぉぉ~ハナ、元気だね~。おいで~』


 ヒロが両手を差し出すと、ハナは尻尾を振り回して飛びついた。


『パパくすぐったいよ~。キャ~そこ~イヤ~♪』


『ここか、ここなんか、ハナがえ~のんはこ~なんか~!』


『キャ~。そこいいの~。そこもすき~。きもちいいの~♪』


 我を忘れたヒロは、暫くの間、ハナをまさぐりつづける。

 ハナも大喜びで全身をクネクネさせ、たっぷりのヒロ式グルーミングを夢心地に満喫するのだった。





『パパ~ハナおなかすいたの~』


『よぉ~しまかせろっ。これでどーだ♪』


 ヒロの用意した【ハナ昇天★牛熊兎の肉モツ盛り合わせ特盛Cセット5キロ】はいつもの例に漏れず大好評で、おやつの魔晶も平らげ、食後にヘソ天でくつろぐハナのお腹はコロコロになっている。

 ちなみにウルも【錬金生産したヒロの魔力マシマシのメガミウム】を3度おかわりして満足気だ。


『“かわいいは正義”とは本当に言い得て妙だよ。俺はハナと出逢って、生まれて初めて“奉仕する快楽”を満喫してるんだ。これだけでも異世界転生して良かったよ~』


『確かにハナちゃんは最強ね~。こうしてゴロゴロしてるだけでもヒロを参らせちゃうんだからねー』


 食後のくつろぎタイムはまだ暫く続く。

 仰向けで目を細めてヒクヒクとまどろむハナ。

 ハナのおなかをやさしく撫でるヒロ。

 二人の幸福な時が過ぎていく。

 すると突然、ハナがコロンと起き上がり、尻尾ぶんぶん丸で声を上げた。


『パパ! ウルちん! あそぶの~♪』


『りょお~か~い!』

『ピキュピキュ~!』


 全力で一面の【柴芝】を走り出すハナ。

 そんなハナをじゃれながら追いかけていくヒロとウル。

 ハナとウルの甘噛み合いや取っ組み合いも挟みつつ、3人の全力疾走な遊び時間はその後1時間ほど続いた。

 そして


『パパ~ハナ……ねんね~』


 ついに力尽きたハナは、ヒロの中にテトテトと戻っていくのだった。





『ピキュピキュ~!』


『それにしてもウルさんは元気だね~。今は【ハナランド】の中だから俺の周りの巡回メンバーは休憩中なのかな?』


『ピキュ! ヒロさんの周りの巡回は、絶えず熟練精鋭メンバー中心で稼働中なのでピキュ! それが例え理論上完全に安全な【ハナランド】の中であったとしても、ここに手を抜くことは有り得ないのでピキュ~。今は、30%のウルがヒロさんを守っていて、残り70%のウルが監視や偵察や旅や修行や観光やレベル上げに出掛けているのでピキュ~』


『ウルさん、亜空間の壁も越えて別行動できるんだねー。凄いな~』


『ウルは分裂と通信によって、共有と進化を加速させたのでピキュ~。強く賢くなることはヒロさんの心の息子であり続けるための必須条件なのでピキュ! 現状に満足しないこと、それこそがスライミー種最強のウルが歩むべき覇道の基本なのでピキュ~』


『ウルさん、俺も俺で結構強いからさ、適度に抜いて楽しくやってくれればいいんだよ?』


『大丈夫ピキュ~。今も他の70%のうちの半数のウルは、各地で温泉に浸かったり、カニのフルコース食べたり、エステスライミーに全身揉みほぐしてもらったりしてるのでピキュ~。ヒロさんを守る担当のウルは、今後大体週休3日のペースで遊びに行けるようなシフトになってるピキュから心配は御無用なのでピキュ~』


『と、とにかくウルさんは、出逢ってからの進化の勢いが凄まじいな……。何の心配もなくいろいろと任せられるよ~』


『ピキュピキュピキュピキュ~♪』





 【ハナランド】で朝食と風呂を済ませたヒロは、少し迷っていた。


『ねぇヒメ、このまま宿を出てすぐに【マンバタン島】に渡っちゃうか、それとももう暫くこの【ブロンカーズ地区】で様子見生活を送るか、どっちがいいと思う?』


『昨日のうちに、ヒロのお目当てのパン屋とかよろず屋も回れたんだし、何より1番洗練されてる大都市が【マンバタン島】だってんだから、もう移動しちゃえばいいんじゃない? 下手するとヤンキスクランやマフィアの奴等に渡船の邪魔とかされるかも知れないし、こんな面倒が重なったエリアはとっととオサラバでいいと思うな~』


『だな。そうしよう。ウルさんもそれでいい?』


『もちピキュ!』


『それじゃあ今日は【マンバタン島】に向かおうぜ~!』


『は~~い♪』

『ピキュピキュ~♪』





 18日目 ざっくり午前10時。

 【ニョークシティ】【マンバタン島】北東。

 ハレムー川沿岸一般渡船用の港。

 入領管理ゲートと呼ばれる通路を出た先にあるラウンジのような休憩所。


 ヒロは無数に配列されたソファのひとつに腰を下ろし、辺りに注意をはらいながらも拍子抜けしていた。


『ん~。予想より厳重な出入りの管理体制だったけど、冒険者のギルドタグ見せたらスイスイと入れてくれたな~』


『ヒロの軽装も理由のひとつじゃない? 武器防具類一切持たずに小リュックひとつのみ。中身はタオルとかポーションとかが何点かのみ。所持金も庶民レベル。こんな奴、どー考えてもちょっとしたお使い野郎でしょー』


『とにかくこーゆー役人絡みの施設に、昨日のゴタゴタの余波が何も届いてなさそうで安心したよ。このまま誰にも目を付けられなければ最善のスタートだな~』


 ヒロはそのままソファで魔タバコに火を付けると、美味そうに煙と戯れる。

 そして2本目には手を付けず、おもむろに立ち上がり、のんびりと町へ繰り出した。





『それにしても凄い町だなー。今のところ見渡す限り碁盤の目みたいに道路が整備されてるし、建物の量とクオリティも超レベル高いよ。本国から貴族や商人がどんどん移住してるってのも頷けるわー。今はまだ点々とあるそのへんの空き地も、1年くらい後には建物や工場なんかで埋まるんだろうな~』


『私がついさっきダウンロードした【ユーロピア帝国スポーツ】って新聞にも、【マンバタン島】への移住やゼロモニア大陸への入植を勧める記事が大量掲載されてるわね~。ここはもう【開拓地】ってレベルを超えて、完全なる【大都市】ね。パン屋の数も回りきれないほどあるんじゃない?』


『インベントリ持ちとしては、パン屋に限らず【おいしい食べ物屋さん巡り】はエンドレスに楽しい作業だよ。いつでも美味しい状態を取り出せるって前提があるからねー。さーて、さっきから【スコープ】をフル稼働してこの【マンバタン島】を調査してみてるんだけどさ、この島は、ざっくり言うと、幅3km、長さ15kmくらいの細長い島で、現在俺達はその北端の真ん中あたりをウロウロしてる訳だ』


『入領ゲートが近いせいか、そこそこ賑わったエリアよねー』


『うん、ただ、ここから島の中心や南に向かっていくと、こんなもんじゃないレベルの繁華街や住居群があるみたいで、ここの賑わいなんて可愛いもんだと思う』


『え? ヒロってそんなに遠くまで見られるようになってるの?』


『いや、目の前で見るくらいの近い視点だと3km弱ってとこだけど、上空からの遠景なんかを重ねて見れば遠くの状況も風景としてある程度予測できるからねー。あとあんまし言いたくないけど、前世の予備知識で大体予想はついてるとも言えるかなー』


『ふ~ん。あ、ヒロさ、この縦と横にまっすぐ整備された道って、ずーーっと続いてるの?』


『まず間違いなく続いてると思うよ。だってそこの角の木の標識に【6番街130ライン】って彫ってあるだろ? その意味は、東から数えて6番目の縦道と南から数えて130番目の横道が交わってる交差点だよって事なんだよ。この島には、縦に11本の【~番街】って呼ばれる道と、横に150本くらいの【~ライン】って道が既に整備されていて、その縦横を組み合わせた標識でそこが島のどのあたりか分かるようになってるんだ』


『じゃあここが6番街ってことは、真ん中の道ってことだね』


『そう。ど真ん中のメインストリートだね。このまま6番街を【スコープ】使いながら南下していけば、この島の全てが丸裸ってくらいに確認できると思うよ。てことで、行きますか~』


『は~~い♪』

『ピキュピキュピキュ~♪』





 ヒロはまず、目についた【魔晶買取専門店】の【買い魔晶】という店に入り、手持ちの魔晶のいくつかを売却した。

 A級も混ぜたことで店主の【シスタロ】に驚かれたが、結果、300万イエンほどを手に入れる。

 次に【シスタロ】にチップを渡して教えてもらった【融通の効く魔物素材買取屋】の【ロデニロ商会】をたずね、表向き【建材屋の倉庫】のように偽装された大きめの建物の事務室で代表の【ロデニロ】と交渉を繰り返し、色々と言質を取る。

 次に一旦【3番街130ライン】の渡船港出口付近まで戻り、いくつかある【レンタル馬車専門店】の中で1番景気が良さそうな【バシャッカス】という店で幌付きの1番大きな荷馬車を馬込みで借り、併設されている【マンバタン御者乗馬スクール】の【30分でアナタも御者になれる! 爆速コース】で学び、御者としての技能を最低限習得。

 幌の中を手持ちの魔物素材各種でパンパンにして、荷馬車とともに【ロデニロ商会】まで折り返す。

 ドラゴン素材こそ入れなかったが、大型の荷馬車に満載された、ギオーク、グレートボア、オルガ、コケアトリス、グレートバイソン、ギガンターリ、バジリスキル、サイクロネプシス、グリフィオン等の新鮮な肉や毛皮、角、牙、爪、骨、諸々が一斉に買取台に並べられていくと、遠巻きに様子を窺っていた【ロデニロ商会】代表【ロデニロ】の表情は一気に真剣になり、近くに居た仲間に耳打ちするとヒロの元に駆け寄ってきた。


「ヒロさん、後の作業はうちのスタッフがやりますので、ちょっとお話よろしいですか?」


「はい、何でしょう?」


 運び込む手を止め、ロデニロに促されるまま事務所に移動するヒロ。

 ロデニロは部下達と少し話すとテキパキといくつかの指示を出し、遅れて入ってきた。


「ふぅぅ。先刻のお話で、ある程度お聞きしていたとは言え、あんなに大量の、しかもプロの私ですら見たことのないようなレア素材まで揃っているとは正直驚きました。量と質が明らかに予想を超えておりましたので、恥ずかしながら今、うちの幹部が金策に走っております。あ、勿論ご要望通り【目立たぬように】を心がけて行動しておりますのでご安心ください」


「説明不足でしたかねぇ。なんだかすみません」


「いえいえ、改めて冷静に見れば、ヒロさんのお話通りなのですが、量と質の予測を私共の勝手な常識で測ってしまったため、嬉しい方向に裏切られることとなってしまいました。ざっと見た感じですが、全て喜んで買い取らせて頂きますのでもう少しお待ち下さい」


「それを聞いて安心しました」


「ところでヒロさん、私は本国のユーロピアでもそれなりの実績を積んでおりまして、商人としての経験にはいささか自信がございます。ここ【マンバタン島】に入る時期こそ慎重になりすぎて出遅れ気味ではありますが、この島に居を構えたからには、いずれマンバタン最大の豪商と呼ばれるような立場になる事も見据えて商いをしております」


「それは凄い」


「ところがヒロさん、そんな【それなりの私】がですよ、今回持ち込まれた素材の質、量、そして持ち込んだヒロさんの名前も容貌も何もかも、噂ひとつ聞いたことがないのです。こんな上質な大量のレア素材の数々を一度に持ち込める冒険者なり商人が居れば、その噂は海を越えても光の速さで伝わり広まるものです。私が全く知らなかったということは、恐らくヒロさんの素材供給力を認識している者は世界にひとりも居ないのではないかと予想されます。そこでヒロさん、御法度を承知でお伺いします。あなたはどこから現れた何者なのですか?」


「ん~。いろいろと俺についてお教えする事自体やぶさかではないのですが、それはあくまでも今後の取り引き、俺とロデニロさんとの信頼関係次第って事で、今はご勘弁願えますかね?」


「いやいや、当然のことです。私も今後ともヒロさんとはお取引を続けさせて頂きたいので無理にとは言いません。ただ、ただただ本当に驚いているだけなんですよ。こんな納品を出来る人間がこの世界に居るということに……」


「ロデニロさんのこと、シスタロさんから“信用に値する人物”と聞き及んでいますので、早くも信用して口を滑らせますが、俺はちょっと特殊な人間でして、鮮度や量を労せずに高水準のまま持ち運べる能力を持っているんです。ですので今後も本日と同様の規模の納品は可能です。また、ロデニロさんやスタッフの皆さんが俺の能力や特殊性を秘匿してくださるのであれば、さらなる取り引きも可能です。今のところ俺が素材を目立つ量持ち込んだのはここが初めてですが、どうです? 今後も唯一無二のパートナーとして取引して頂けますか?」


「私にとっては【計謀】を疑いたくなるほどの良い話です。ヒロさん、あなたの眼差しと語気、そして私の抑えきれない野心に誓って、秘匿の共有と最大限の協力をお約束いたしましょう。また、商人の心得にも誓い、知り得た全てを政[まつりごと]には渡しません。幸い私共【ロデニロ商会】は上部組織を持たない独立した商会です。商売でのしがらみは当然ございますが、立場においては誰に操られる事もありません。そういう意味でも御期待に応えられると思いますよ。何卒、今後ともよろしくお願い致します」


「それは大変助かります。今まで、貴族や権力者や資本家の欲に巻き込まれたくない一心で、目立たないよう、目を付けられないよう慎重に生きてきました。ロデニロさんのような協力者が居てくれたら、これからも能力を発揮しつつ自由な旅を満喫できそうです」


「そうですか、ヒロさんは【自由な旅】を大事にされているのですね。でしたら爵位や召し抱えなどの立身出世にはそもそも……」


「全く興味がありません。それどころか、出来る限り王族や貴族とは関わりたくないと思っています」


「面白い。さすが自由を愛する冒険者ですね。極稀にですが、場数を踏んで生き残り続けている冒険者の中にはそのような無頼の人物が居るものだと聞いたことがあります。ヒロさんも余計なお世話でしょうが、【自由】に付き物の【死】には充分気をつけてくださいね。私は大切なパートナーを永遠に失いたくありませんから」


「お気遣いありがとうございます。それでロデニロさん、早速ですが、今後の納品について、何かリクエストは有りますか?」


「……そうですねぇ……。ヒロさんのクオリティであれば何でもありがたいんですが……。欲を言っても聞いて頂けるんでしたら……」


「はい、とりあえず聞かせてください」


「バジリスキルやサイクロネプシスの素材まで持ち込めるヒロさんですから、相当お強いんだろうとお察しします。そこで、ダメ元の発注なんですが、……ヒロさん、ダンジョンに潜ってみるつもりはありませんか?」


「ダンジョン?」


「はい、ダンジョンです。……おや? ダンジョン探索のご経験は……」


「無いです。と言いますか、経験以前の問題なんですが、知識としても噂話レベルでしか知らないんです。この際教えて頂けませんか?」


「分かりました。えーっとですね。……」


 そしてロデニロはダンジョンについての情報をヒロに語った。




□ダンジョンとは

■【ダンジョン】とは、この世界の地下を巡る【魔素脈】の一部が地表まで達したものである。

■【魔素脈】とは地下水脈の魔素版のようなもので、世界中の地下にあるとされているが、範囲や深さについては解明されていない。

■何らかの理由で【魔素脈】が地表に達すると、数日間~数カ月間、開口部から超高濃度の魔素が吹き出し、周辺に生息する魔物達はその魔素を求め一斉に集結する。

■開口後一定期間が経過すると、圧力の低下により噴出する魔素量が減少しはじめ、集まった魔物達は濃度の高い魔素を求めて【ダンジョン】内に入り、個体によってはより深く進入する。

■開口部付近から魔物が姿を消す頃になると、【ダンジョン】内では、侵入した大量の魔物が一定の食物連鎖と進化を遂げており、種としての強度はクラスを超えて定着する。

■安定期を迎えた【ダンジョン】内の魔物達はほぼ確実に固有種であるため、研究材料としてもレア素材としても需要が高い。

■【ダンジョン】化しても元々は【魔素脈】であるため、開口時の減圧によって魔素量が安定しているだけで、地殻変動や地震などにより、高濃度の魔素が【ダンジョン】の深部や隣接する【魔素脈】から再度噴出する可能性も考えられる。

■【ダンジョン】は元々【魔素脈】であるため、複雑でランダムな地中の隙間でしかなく、中には【人が全く侵入できない細く狭いダンジョン】や【10mほどの縦穴と複数の亀裂のみのダンジョン】なども存在し、【人が出入りできるダンジョン】は全体の10%程度と言われている。

■つまり【ダンジョン】とは、魔素、魔物、地形、どの面から見ても人間にとって極めて危険な空間なのである。




「なるほど。廊下のような通路で構成されていて階層があって階段があって宝箱があってダンジョンコアがある……と思っていたのは俺だけだったのかも知れません。恥ずかしいですが勉強になりました」


「いえいえ、よく分かりませんが、ダンジョンについて新しい発見があったのでしたらお話した甲斐がありましたよ」


「ところでロデニロさん、ダンジョン探索を俺にリクエストするってことは、この【マンバタン島】に【ダンジョン】があるってことなんですかね?」


「ヒロさんお察しがいい。そうなんです。【マンバタン島】のほぼ中央、緑が残されているパークエリアの真ん中に開口部を持つダンジョン、その名も【セントラルバグ】が、探索してもらいたいターゲットなんです」


「おぉぉ、何だかカックイーですね。ちなみにその【セントラルバグ】ってダンジョンは、現時点でどれくらい探索が進んでるんですか?」


「最深部も全容も不明なため探索の割合は何とも言えませんが、少なくとも【冒険者ギルド】の介入は済んでおり、冒険者であれば通行可能です。ただ、探索効率は非常に悪いようで、未だにスライミー数種と蝙蝠型、鼠型の魔物程度しか持ち帰られていないというのがもっぱらの噂です。死人も二桁では済まない数が出ているとか……」


「そこに、ロデニロさんのお目当てのものがあると?」


「あくまでもグレーな領域の情報なので、その確認も含めての依頼なのですが、【セントラルバグ】の螺旋直下、深度100m以上先の横穴群には、高濃度魔素が数千年かけて魔結晶化して出来ると言われている【魔素クリスタル】という魔鉱物がゴロゴロ転がっている……という噂があるんです」


「……なんか、凄そうな名前ですね」


「はい。【魔素クリスタル】は【魔素脈】の中でも【高濃度滞留脈】と言われる窪みや袋小路にしか出来ず、本来はその環境的条件から人が手にすることはまず不可能と言われる鉱物なのですが、【魔素脈】が【ダンジョン】化し、かつ100m以上の深部まで到達可能の場合にのみ発見・採取の可能性が出てきます。そんな超希少鉱物の【魔素クリスタル】は、同質量で比較するとS級魔晶以上の純度や濃度があると言われており、もし鉱脈を発見し安定的に採掘できた場合は、エネルギー革命またはエネルギー戦争が起こるだろうと囁かれている程の資源なのです。しかしながら、採取例やサンプルが少なすぎて、そのエネルギー源としてのクオリティが噂通りなのかどうかすら確かめられていない……というのが現在の状況ですかね」


「なるほど。だからこそ俺に【魔素クリスタル】を見つけて採ってきてほしいって事なんですね?」


「はい、【魔素クリスタル鉱脈】の発見は、世界中の商人、いや、世界中の権力者を含む野心家達の伝説的夢物語なんです。もし私にダンジョン探索に必要な戦闘能力が備わっていたなら迷わず【セントラルバグ】に飛び込んでいるでしょう。しかし、ダンジョン内の魔素と魔物に耐えられる人間など帝国騎士団の中にですら居るかどうか怪しいところです。そこでヒロさんの登場です。あなたの持ち込んだ素材を見るに、あなたが只者ではない事くらい私にも理解できます。もしあなたの好奇心や自負が、慎重さや堅実さに勝るのであれば、どうか挑戦してみて頂けないでしょうか?」


「……わかりました。やってみますよ」


「ほ、本当ですか!?」


「はい、他ならぬロデニロさんの頼みですからね。今から【セントラルバグ】に向かおうかと思います♪」


「い、今からですか!?」


「思い立ったが吉日。俺は【自由な旅人】ですから特に切迫した予定なんか無いんでね。ただ、ロデニロさんにひとつだけお願いがあるんですが……」


「……なんでしょうか? 私に出来ることなら何でも引き受けますよ!」


「あの幌付きの荷馬車、【バシャッカス】って店に返却しておいて貰えます?」


 腰砕けのロデニロから馬車返却を二つ返事で快諾され、ヒロは【ロデニロ商会】を後にした。

 お気に入りの銘柄の魔タバコを咥え、魔煙の味を楽しみながら5番街を南に歩いていく。

 暫く歩いても【ロデニロ商会】からの尾行や慌ただしい動きは見られず、【スコープ】を通し、改めてロデニロという男に好感を抱くヒロなのだった。





 18日目 正午頃。

 【ニョークシティ】【マンバタン島】5番街83ライン。

 【セントラルバグ開口部】の東に隣接するダンジョンへの入場手続き専用施設【メトロポリゲート】近くの公園。


 ヒロは公共ベンチのひとつに腰かけ、魔タバコを燻らせながら【スコープ】で周辺状況を偵察していた。


『こんな立派な入場専用の建物まで造っておいて、行列はおろか、開口部付近をうろついてる奴すらひとりも見かけないって、盛り上がってないにもほどがあるだろー』


『最近暇な時に、ヒロの元居た世界の【異世界転生もの】をダウンロードして読んでるんだけどさ、ダンジョンに関する設定がほとんど【アミューズメントパーク】的に描かれてるよね。イメージとしては【100人に1人くらいは馬鹿な奴が死ぬこともあるけど経験値やアイテムがめっちゃ貰えるワクワクする場所】みたいな。でも現実はこれよ。【100人挑んで100人近く死ぬから腕に覚えのある猛者でも慎重になって近寄らないヤバイ場所】なのよ』


『確かに。本来自然由来の洞窟が、人間に都合のいいサイズ感の、常時薄明るい、床が平らに加工された、階段まで付いてる、おもしろ迷路みたいになってる訳ないもんなー』


『それで実際の洞窟の中だけどさ、ヒロの【スコープ】でどのくらい掌握してるの?』


『まぁ大体分かったよ。入口の開口部が直径10mくらい。その縁から真下に、即席の階段と梯子の組み合わせで地下20mくらいまで降りると、歩き回れるほどのスペースがある。そこからメインの穴はグルッと螺旋状に下へ下へと降りていくんだけど、横穴も結構有るし、どっちが本道なんだかよく分からない分岐も有る。光源が無いから50m以降は真っ暗闇だし、デコボコギザギザでまともに歩けないエリアもたくさんある。しかも表の世界より凶悪そうな魔物が歩き回って殺し合いまくってる。とてもじゃないけど生身の人間が注意しながら探索に入ったところで深度50m以降は五体満足で戻ってこられるような場所じゃないねー。でもまぁ俺は【スコープ】で地下1000m辺りの最深部を含めたダンジョン全容を探索し終わったから、どこへ行くのにどのルートが正解かなんて事はもうお見通しだけどねー』


『お見通しどころの話じゃないわよ。もう言っちゃうけど、ヒロってば、深さ300m以降のあちこちで【魔素クリスタル鉱脈】たくさん見つけて、既にインベントリに収納しちゃってるでしょ?』


『むむむ。見られたか……』


『むむむじゃないわよ~。チラッと見た感じだけど、虹色の波紋が巡り続けてる生きものみたいな透明っぽいクリスタルが1万トン以上はインベントリの中に転がってたわよ~。外のベンチでタバコ吸いながら【マンバタン島】の地下資源枯渇させてんじゃないわよ~』


『いやさ、この難攻不落な面倒臭い洞窟をザーッと見てたらさ、未来永劫【魔素クリスタル】持って帰る奴なんて現れそうにないなーって思っちゃってさ、だったら全部頂いてもいっか♪ みたいな?』


『まーそもそも本来の状態を誰も知らないんだから、ヒロが黙って採ったことも誰にも判断できないんだけどねー。てかヒロ、ロデニロさんの話がある程度本当なら、あなた、既に資源王よ。エネルギー王よ。魔素の王なのよ』


『いやいや、何々王的な悪目立ちは一番避けたいところだから、流通面で矢面に立つのはロデニロさんに任せるよ。俺はただ持ってるだけの人。魔物素材も天然素材も、ただ持ってるだけの人さ』


『ピキュ! ヒロさんはこのダンジョンの魔物は狩らないのでピキュか?』


『う~ん、どーしようかなー。とりあえず図鑑作る感覚で一通り狩っておこうかなー』


『だったらお願いピキュ! 全部狩らないでウルの戦闘用に残しておいてほしいのでピキュ~』


『大丈夫だよウルさん。このダンジョンって、深さ500mを超えた辺りから膨大な横穴群が連なっててさ、マンバタン島の面積よりずっと広い地下空間が幾重にも広がってるんだよ。魔物の数も数え切れないほどで、多分何百万匹って規模だと思うんだ。だから魔物に関しては枯渇することはないだろうから安心していいよー』


『ピキュ~♪ 狩って狩って狩りまくって戦闘するピキュ! レベル上げるピキュ~!』


『がんばれウルさん! ここの魔物はけっこー強そうだから倒し甲斐があると思うよ~』


『ピキュピキュピキュ~♪』


 公園のベンチに座りながら、誰にも悟られず【マンバタン島】の地下に眠る【魔素クリスタル】を全て手に入れたヒロは、そのままベンチから魔物狩りを始める。

 浅いエリアは飛ばし、500mラインより深場の魔物ばかりを【スコープ】で捉えては【フレーム】で脳を囲い、【成分変化魔法】で瞬殺して【インベントリ】に即収納。

 これを繰り返し、3時間程度で以下のリストを完成させたのだった。




□【セントラルバグ】500mライン~最深部での狩猟結果

■[C] マンバコボル      ×100

■[C] マンバゴブリン     ×100

■[B] マンバギオーク     ×100

■[B] マンバディープワーム  ×100

■[B] マンバダークリザード  ×100

■[A] マンバオルガ      ×100

■[A] マンバコケアトリス   ×100

■[A] マンバラーミア     ×100

■[A] マンバトロウル     ×100

■[A] マンバギガンターリ   ×100

■[S] マンバケルベリオス   ×100

■[S] マンババジリスキル   ×100

■[S] マンバデーモングリズリー×100

■[S2]マンバサイクロネプシス ×100

■[S2]マンバサキュパサス   ×100

■[S2]マンバメデュネーサ   ×100

■[S2]マンバサラマンドル   ×100

■[S2]マンバグリフィオン   ×100

■[S2]金龍          ×1

■[S3]マンバヴァンパイア   ×20

■[S3]マンバデスメタル    ×50

■[S3]マンバミノタウロナイト ×50

■[S3]マンババフォルメント  ×50

■[S3]マンバヨルムンガンドル ×50

■[S3]マンバヘルル      ×30

■[S3]マンバ毘沙鬼門天    ×30

■[S3]マンバテイラノリザード ×30

■[S4]マンバヤマタノヒュドラ ×2

■[S4]マンバデーモン     ×2

■[S4]マンバ朱天童子     ×2

■[S4]マンバ玄武       ×5

■[S4]マンバベヒモンス    ×10

■[S4]マンバ不死命王     ×2

■[S5]マンバサタン      ×1




『ヤバイよヒメ~。S5級の最深部の奴まで一瞬だったよ。俺の強さ、いや、俺のこの卑怯な技、最強だな』


『まー呆れるくらいの単純作業で、ゴブリンとサタンを同じ労力と時間で葬ってたわよね。開いた口が塞がらないわ』


『しかし何だね、全魔物100匹ずつを目標にしてたけど、さすがに高レベルの奴は絶対数が少なくて諦めるしかなかったなー。特に金龍とサタンは恐らく1匹しか居なかったっぽいから、俺の手によって絶滅しちゃったかも。悪い事したかな……』


『なに小さい事で反省してんのよ。ヒロが見つけてなかったらどっちみち地下深くで蠢いて終わってた奴らでしょーに。人間に認識されてないって事は人間にとって存在してないのと一緒よ。【誰も知らない深海生物】や【遥か彼方の宇宙人】が絶滅してても誰も何とも思いようがないのと一緒よ』


『ヒメってばズバズハ真理を突くねー。【人間が言う事実なんて所詮人間が認識している範囲の中での事実でしかない】ってやつなー。さすが神。いい突きしてるよー。つーかさ、じゃあ、【このダンジョンの魔物の名前】って誰が命名してんだ?』


『そんなの担当神のアルロライエちゃんなんじゃないの~?』


『……まぁそりゃそーか。俺じゃないんだから神だよな~。さてと、そろそろ陽も傾いてきたし、ロデニロさんの店に戻ろうか。ウルさんの一部はダンジョンに残る?』


『ピキュ! 余ってるウル軍団から希望者を募って常駐させるのでピキュ! 今のところみぃ~んな潜りたがっているのでピキュ~』


『さすがスライミー最強種だねー。ウルさん、俺のためにも強くなってね~』


『ピキュピキュピキュ~♪』


 ヒロは魔タバコに火を付けると、5番街を北に向かって歩きながら、【セントラルバグ深層】にて獲得した本日のポイントを割り振った。




Lv:208[39up]

HP:1000 + 804

HP自動回復:1秒6%回復[1%up]

MP:1000 + 794

MP自動回復:1秒10%回復


STR:1000[300up]  + 706

VIT:2000[1000up] + 852

AGI:2200[200up]  + 934

INT:2000        + 894

DEX:3500[1000up] + 844

LUK:516 [35up]   + 1378


魔法:【温度変化】【湿度変化】【光量変化】【硬度変化】【質量変化】【治癒力変化】【錬金】【トレース】【成分変化】


スキル:【ショートカット】【インベントリ(ヒメのなんだからね!)】【スコープ】【必要経験値固定】【迷彩】【メモ】【アイテムドロップ[アルロライエのセンスで]】【召喚】




『なんか経験値超くれる奴が混ざってたっぽい! 40近くも上がった! おかげでまたDEX上げられて、射程も安定感も性能アップだわー。ハナも俺も、もう簡単には殺られなくなったなー。あ、この勢いならウルさんも結構上がったんじゃない?』


『ピキュ! 見てほしいのでピキュ~♪』




名前:ウル

種族:孤高のメガミウムスライミー

年齢:6

性別:無し


Lv:133

HP:1404

HP自動回復:1秒6%回復

MP:1309


STR:642

VIT:1647

AGI:2049

INT:525

DEX:1115

LUK:455


固有スキル:【神速移動】【神速変形】【神速変質】【神速変色】【神速浮遊】【神速分裂】【神速合体】【神速通信】【神速転移】


固有技:神速刺突 神速斬撃 神速防御 メガミウムメイデン 爆散刺突 竜巻微塵 神速吸収




『うわ~、ウルさんも凄い強くなってる! しかもウルさんはこのステ値のままの分裂体を無限に増殖できるっていう最強で最恐で最凶の裏技を持ってるからね~。劣化しない無制限分裂って、もー無敵だよ~』


『それもこれもヒロさんから供給されるメガミウムをたっぷり食べているからなのでピキュ~。そしてそれでもヒロさんには敵わないのでピキュ~。てかそもそもウルがどんなに強くなっても、それはヒロさんのおかげなのでピキュから、ウルの強さはヒロさんの為に、そしてヒロさんと共にあるのでピキュ~』


『あれ!? あとウルさん、スキル増えてるじゃん! しかも凄そうなのが!』


『そうなのでピキュ~。ウルは遂に、【神速通信】からヒントを得た【神速転移】を手に入れてしまったのでピキュ! これでウル分体の居る所ならどこにでも一瞬で移動できるのでピキュ~。こんなスライミー生の序盤で【距離という概念】を無にしてしまったウルは罪なスライミーなのでピキュ~』


『でもウルさん、A地点に居るウルさんがB地点に居るウルさんの所に転移しちゃったら、もうA地点には戻れなくなるんじゃないの?』


『ヒロさんそれはイージーミスなのでピキュ。A地点からB地点に転移する前に、分裂しておけばいいだけなのでピキュ~』


『なるほど! その手があったか~。テヘ♪』


『つーかヒロ、あなたも【召喚】っつー物々しいスキル増えてるよ~。この期に及んで一体ナニヤツを召喚するのか知らないけど』


『あっ、ホントだ~。しかし【召喚】かぁ。特に興味無いなー』


『無いんだ(苦笑)』


『だって今の俺にはヒメとハナとウルさんがいるからさ、特に欲してないんだよね~』


『確かに戦闘において窮地に立ったことなんて無いわねぇ』


『うん、だからとりあえずスルーしてタンスの肥やしにしておこうかな』


『はぁ~い』


『ところでヒロさん、アイテムはドロップしたのでピキュか?』


『あ~、完全に忘れてた。確か狩りまくり中にピロピロ鳴ってたなー。どれどれ?』


 ヒロはインベントリ内で点滅している【ドロップアイテムフォルダ】を開いてみた。




□今回のドロップアイテム♡

■魔イルドセイブン ×97カートン

■魔成分スター   ×77カートン

■魔ペイス     ×61カートン

■魔ショットホープ ×59カートン

■魔ハイラーイット ×39カートン

■魔キヤスタア   ×35カートン

■魔ミーネ     ×31カートン

■魔キヤビン    ×28カートン

■魔チエリ     ×22カートン

■魔シンセ     ×21カートン

■魔ワッカバ    ×20カートン

■魔エクオー    ×18カートン

■魔ゴルドバト   ×16カートン

■100%ライター ×5




『……なんだこれ』


『ヒロさん、いいの出たピキュ?』


『いいのっちゃーいいのなんだけど……ちょっとアルロライエちゃん、いくらなんでも俺に媚び過ぎなんじゃないかなー。【ドロップアイテムのランダム性】みたいのが大幅に偏ってるんだけど……。まぁ、“アルロライエちゃんのセンスで”って言っちゃったのは俺だからしゃーないか。単純に、前世の日本産ベースのが大量に手に入ったのは嬉しいしなー』


『前世の日本産って何ピキュか?』


『あぁ、魔タバコだよ。俺、吸ってるでしょ? 火ぃつけて煙出してるアレ』


『ピキュ、あの、守っていいのか無視していいのか迷うやつピキュ~』


『ウルさん、もちろん煙は守らなくていいからね~。ただ、余裕があるならタバコそのものは守っておいて♪』


『ピキュ! 先端の火が付いている所までを守るのでピキュ~』


『ちょっとヒロー、ウルちゃんに【どーでもいーくせに面倒な指示】出してんじゃないわよ~』


『まぁまぁ、愛煙家は【今吸ってる1本】をいつも大切にしてるからね~。ウルさんが“いい”って言ってくれてるんだからいいだろー?』


『まぁいいけどさ~。それにしてもヒロがこんなに愛煙家だったとは知らなかったわ』


『正直、タバコは大好きだね。今回のドロップも、俺がこっちのよろず屋で見つけて、喜んで燻らしてるのを見て、アルロライエちゃんが“これだ!”って思ったんじゃないかなー』


『アルロライエちゃん、ヒロの役に立とうと健気だよね~。とても神とは思えないわ』


『ただ、この【100%ライター】ってゆー【見た目100円ライターそのもので性能として100%着火するライター】は別に要らなかったけどねー。俺、温度上昇魔法ですぐ着火できるからさー』


『ヒロ冷たっ……』




ピロン


 ヒロのスクリーンにテキストのみのダイアログボックスが現れた。そこには


《様式美!  ٩(*╹▽╹*) 》


 と書かれている。




『……まぁそうか……そうだなぁ。確かにそうかも。そもそも【喫煙という行為】そのものが嗜好の産物であって生産的な行為ではないだけに、アルロライエちゃんの【ライター付けてくれた気遣い】は、実は最高のおもてなし精神なのかもね♪ 手で囲ってシュボッてやりたいもんなー確かに。アルロライエちゃん、魔タバコも魔ライターもありがとね! 超嬉しいよ!』




ピロピロピロピロピロピロロロロロロロロローーーン


 只事ではない勢いで【いつものピロン】を連打するような音が鳴り響いたため、何か緊急事態を告げるようなメッセージがアルロライエから送られてくるのかと身構えるヒロ。

 しかし、暫く待ってもヒロのスクリーンにダイアログボックスは現れなかった。


『……ま、いっか。きっと【喜んでくれて私も嬉しいよ~】くらいの意味だったんだと思っておこうっと』


『…………そ、そうね。アルロライエちゃんもきっと忙しいのよ。担当してるのヒロだけじゃ無さそうだったしねー』


『そーだよなー。よく考えたら、毎回毎回貢物みたいなドロップアイテムくれるばかりだから、今度なにかしらのプレゼントでもあげようかな~。ねぇヒメ、神って何貰うと嬉しいの?』


『ヒロ、そんな事も知らなかったの? 神が欲するものと言えば、昔も今も未来も一貫して【人間の純粋な感情】に決まってるじゃない。だから、アルロライエちゃんに何かプレゼントしたいんなら、純粋な気持ちを捧げればいいのよ。種類は【感謝】じゃなくても何でもいいのよ。純粋な感情であればあるほど。そして指向性が強いのに越したことはないと思……あ、けど、ヒロはステ値がアレだからほどほどでいーと思う……』


『そーなのか。だったら時々真剣に感謝の気持ちを捧げてみようかな~。ほら俺、前世では完全なる無神論者だったからさ、神に感謝なんてしたことなくて要領が分かってなかったんだよねー。教典的なの読んだり建物に集ったりしなくても【思うだけでいい】なんて知らなかったし。ヒメやアルロライエちゃんに出逢って対象がハッキリしたから気持ちも届けやすいし、今後はちょいちょい気持ち捧げよーっと♪』


『そ、そーねー。ただ、ヒロは普段から私達神のことを純粋にかんが! はぅっっっ! ……ん ……んんっ……』


『あっ! 届いた? 今俺さ、今日までのことを振り返って、感謝の思いを真剣にヒメに捧げてみたんだけど、受信できた?』


『……で できたよー。すっごく気持ちい……いや、心地よい感情だったわ……。ただ、ヒロのは普通の人間より濃いからさ、そんなに頻繁に真剣なやつはやらなくていいかもよ~』


『え? そーなんだ。今、アルロライエちゃんに感謝系の感情、めっちゃ捧げちゃったけど要らなかったかな……』


『それはそれで喜んでると思うよ。(意識があればの話だけど……)ただ、ヒロに関してはいつも強い心が滲み出てるから、一点集中して気合い入れたりしなくていーんじゃないかなーって思いまーす』


『ん~。難しいな、神喜ばすのって。まぁぼちぼちうまくなっていくよ~』


『は~~い……』


 ヒロの感情が直撃した快感で意識を失いかけたヒメは、なんとか神の技とアイテムを駆使して踏みとどまり平静を装った。

 しかし、アルロライエが2度目の気絶とともに、またも【アルロライエの聖水】を生産してしまったことは誰ひとりとして知る由もなかった。

 ちなみにアルロライエが神事務所でひとり意識を取り戻すのは、気絶から数時間後のことであった。





 18日目 午後5時頃。

 【ニョークシティ】【マンバタン島】【ロデニロ商会】事務所。


 ヒロは応接用のソファに腰を落としつつ、魔タバコを燻らせていた。


「ヒロさん、何か準備不足でもありましたか? それともメトロポリゲートでトラブルにでも巻き込まれました?」


 お茶を差し出しつつロデニロは心配そうに話しかける。


「あーっとですね。確かにダンジョンの中には……と……」


「ヒロさんどうされました? 何か問題でも?」


「……ロデニロさん、失礼ながら改めて問います。【ロデニロ商会】の皆さんは、全員、ロデニロさんと同じくらい信頼できる方達ですか?」


「はい。そのことでしたら即答させていただきます。うちの連中は全員、私にとっては家族のように大切な仲間です。その上で先程全員を集めて、ヒロさんと運命を共にする話を投げました。全員即答で私とヒロさんに付いてきてくれるそうです。ヒロさん、我々の行く道の先で、もしひとりでも不義理や不埒を働く奴が現れた時は、私の首を刎ねていただいて結構です。みんなにもそう伝えてあります。ですから気楽に話してください。何があったんですか?」


「仲間の皆さんを疑うような言い草で失礼しました。もう今後は【ロデニロ商会】全員がロデニロさんだと思ってお話します。ロデニロさん、これがお目当てのものでしょうか?」


 ヒロはインベントリから手の平に【魔素クリスタル】のこぶし大の欠片を取り出すと、おもむろにローテーブルの上にコトリと置いた。


「な!? い、今、これを……どこから取り出しました?」


「それはまぁ、僕の能力のひとつです。あまり気にしないでください。それよりもこの鉱物です。どうですか?」


「あ、すいません。ちょっと驚いてしまって……」


 そう言いながらロデニロは、事務所の入口に立っていた部下に目で合図を送った。

 男はすぐさま事務所を出て行く。


「今、鑑定技能の高い専門の仲間を呼びました。もう少しお待ち下さい」


「了解です。因みにさっきの俺の能力ですが……」


「このクリスタルが突然空中から出てきてヒロさんの手の平に乗りましたよね」


「それ、俺の能力のひとつでして、異次元空間倉庫的なものだと思っておいてください。俺はこの部屋より大きな保存専用空間を空気の隙間に持っていて、いつでも収納できるし、いつでも取り出せるんです。これ以上は説明しようがないので、無理矢理納得願います。俺は手ぶらなのに何でも大量に持ち運べる男なのだと……」


「袋も荷車も何も使わずに……身体ひとつで荷を大量に運べる……と?」


「はい、凄いでしょ?」


「凄い……とかそういう次元の話ではありませんよ。ヒロさん、そんな事が知れ渡ってしまったら、あなたは間違いなく鎖を付けられて王族か豪商の持ち物となるでしょう。あなたの所有を巡って戦争が起こっても何ら不思議じゃありませんよ!」


「……まぁ、だから、【信頼】にこだわったんですけどね」


「そうでしたか。私共も改めて気を引き締めます。ヒロさんも重々気をつけてくださいね」


「あ、ただ、俺の身の安全については心配ご無用ですよ。俺、こう見えて、王族や豪商ごときに囚われるほど弱くないですから。俺が【信頼】にこだわって秘密を守りたいのは、ただただ面倒臭い事に巻き込まれたくないってだけなんです。ですからロデニロさん、俺専属の買取業者として、俺を隠しながら大物になってくださいね。そうしてくださると、俺、楽チンですから」


「……いやぁ、ヒロさんには本当に驚かされてばかりですよ。私の今までの人生経験が薄っぺらく思えてしまいます。改めましてヒロさん、こちらこそ、これからもよろしくお願い致します」


 ヒロはニコリと微笑み、出されていたお茶に口を付けた。

 ロデニロが淹れたお茶はピコーンとは鳴らず、ただただ美味しいお茶だった。





 5分後。事務所。


 ヒロは魔タバコを燻らせながら、ある男の作業を眺めていた。

 男は、【ロデニロ商会】一の鑑定技能を持ち、ロデニロの右腕と紹介された幹部【サリンザ】だった。

 サリンザは、持ち込んだ3台の魔道具を駆使し【魔素クリスタルの欠片】を調べていた。

 知識も豊富らしく、ブツブツ言いながら、時々驚いた声を出し、資料をバサバサめくりながら、なかなかに忙しい男だった。

 鑑定作業は数分間続き、最後にサリンザが声を上げる。


「間違いない。S3級魔晶を優に超える魔素濃度と魔素純度だ。正確な数値はここの道具では計りきれんレベルだぞ。こんな鉱物は【魔素クリスタル】以外考えられない。いや、もはやこの鉱物の名が【魔素クリスタル】であるかどうかなどは些末な問題だ。もしこの鉱物が継続的に手に入るのであれば、【ロデニロ商会】の未来は明るい。いや、明るいと言うより眩しすぎて直視できん。ロデニロ、世界を手にする準備は出来ているのか?」


「これは、それほどのものなのか……」


「ああ、それほどのものだ。単純に魔素の結晶として素晴らしく優秀なんだよ。しかも、加工して形を変えても、魔素の構成が変化しないような結晶構造をしている。その点では脆い魔晶より遥かに優れている。これは大発見だぞ。今までは、あらゆる魔道具や魔機関、魔装備、魔設備、魔建築のどれもが、魔物から採れる魔晶のみをエネルギー源として頼っていたところに、全く新しい代替品、いや、遥かに上位互換の新エネルギーが発見されたんだ。これをもし表に出すのなら、権力者や商売敵と命を懸けて戦い続ける覚悟が必要だな。もちろん大袈裟な話じゃない」


「……そうなのか。予想以上だな。ヒロさん、この鉱石ですが、今後も安定して持ち込めそうですか?」


「量によりますが、まぁ大丈夫だと思います」


「サリンザ、このこぶしサイズの塊で価値はどれくらいと見る?」


「それは……言ってしまっても、いいのか?」


 ヒロをチラリと見るサリンザ。


「構わない。ヒロさんは仲間以上の同士だと思え。駆け引きは無用の人だ」


「分かった。だったらこの塊で現状なら1億イエン以上は確実だ。王族相手に粘れば倍ほどにもなるだろうが、安定供給されるものを買い取り続けるとなるとそれくらいが妥当かと判断する」


「ヒロさん、このくらいの塊を月に……いや週にひとつずつ納品することは可能でしょうか? つまりこれを月に4つです。もちろん納品時期が多少不安定でもかまいません」


「これを……週にひとつですか……」


「厳しいですか? でしたら出来る限りでかまいませんが……」


「いや、そうではなくて、そんなに少しでいいんですか?」


「「は?」」


 ロデニロとサリンザが同時に素っ頓狂な声を出す。


「いや、この塊はあくまでもサンプルとして持ち込んだだけでして、タダで差し上げても構いません。と言うのも、現時点で俺の倉庫には、この部屋1面分ほどの【魔素クリスタル】が既にあります。あとは、差し当たって【ロデニロ商会】がどれくらい必要かだけ教えて下さい。指定された日に指定された量を持って来ますので……」


 ロデニロとサリンザは同時に絶句した後、ヒロを強引に交えて今後の商会の在り方や人生計画について改めて考え始めた。

 まず、現在の【買取業】と【卸売業】に加え、【小売業】と【魔道具製造業】にも参入した場合の、オリジナル商品の自社店舗独占販売における勝算とリスクについて。

 魔道具製造に長けた技術スタッフの拡充とスカウティングや育成にかかる予算について。

 当面の設備拡充と組織強化に向けた、ヒロからの積極的なレア素材の大量仕入れについて。

 最高レベルの秘匿性を持つ【ヒロ専用納品施設】の新規建設について。

 ヒロ提案による、【ロデニロ商会】の当面の資金繰りを助けるための、ヒロへの約束手形発行による支払い方法の導入について。

 本国を中心とした世界への販路拡大のための船団の確保について。

 運輸業者としてのヒロとの提携について。

 金融業への進出の是非について。

 結局どう生きたいのかについて。

 あんなこと。

 こんなこと。

 いろいろと。

 ヒロが積極的に加わったこともあり、3人の話は弾んだ。

 それはまるで、腕白小僧が秘密基地に集まって世界征服を企んでいるかのような光景だった。


「ヒロさんからの素材を本日のようなクオリティで定期的に納入頂けるのなら、現状の販路のみでも月間数億イエン以上の利益は作れるでしょう。しかし、【魔素クリスタル】に関してですが、これは政治や国を大きく刺激し、この商会そのものの存続にすら関わるリスキーな商材だと言えます。ですから、我々がもっと大きく、強くなるまでは寝かせておく事にしましょう。その上で、まずはヒロさんの高品質素材の販路をできるだけ早期に拡大したいと考えます。ここ【マンバタン島】での素材需要ですが、開拓の可能性を考慮すれば将来的には莫大なものとなるでしょう。しかし、現時点では、貴族の庇護のもと先陣を切って邁進する商会がいくつかあり、我々後発組はやや不利な状況です。そこでヒロさん、販路に本国の【ユーロピア帝国】と、エルフの【ルーシャ王国】、獣人の【アウリカ王国】、ドワーフの【アンゼス共和国】を加えてみるのはいかがでしょうか?」


 ロデニロは興奮気味に提案する。


「いいと思いますよ。販路は多ければ多いほどいいでしょう。交渉については【ロデニロ商会】に丸任せでいいんですよね?」


「はい、その辺のことは私共にお任せください。各地に根を張り、面倒な相手でも根気強く食らいついて窓口を開かせ、拠点を拡大してみせます。その変わり、……ヒロさん、あの話は本当なんですか?」


「ん?……あぁ、輸送についてですね。はい、時間も量も世界一の運輸商会【ヒロ運輸】にお任せください。さきほどおっしゃってた国であれば、どんなに大量の荷物であろうと日帰りで運搬してみせますよ」


「……信じられない……と口にするのは簡単ですが、ヒロさん、私共は今回、あなたの【ヒロ運輸】のお話を信じてみることにしました。これは相当に勇気が要る決断であることをご理解ください」


「まぁ、この世界にはそんなことが出来るという集団も、人物も、何なら【噂】さえも存在しないのですから、無理もありませんよ。ただロデニロさん、そしてサリンザさん、俺の仲間であろうとしてくださるのなら、疑いながらも多少は信頼してもらうしかありません。そして俺の話が嘘ではないと思えた時には、覚悟をお願いします」


「はい、覚悟しましょう、今よりももっと」

「オレも付いていきますよ、あなたに」


 ロデニロとサリンザは引きつりながらヒロを見つめて微笑んだ。

 そして意を決したようにロデニロが口を開く。


「あとヒロさん…… これはどうしても聞き入れて頂きたいお願いなんですが……」


「はい、なんでしょうか?」


「我々の組織名である【ロデニロ商会】なんですが、これを機に【ヒロ商会】に変更させてもらえませんか?」


「それは嫌です。俺は目立ちたくないので」


 間髪入れずにヒロはキッパリと拒否した。


「……ん~、では、誰の名前でもないものに……」


「俺が言うのもなんですが、ロデニロさん、目立つの嫌なんですか?」


「目立つのがイヤ……というわけではないんですが、今までの話から、新体制での世界戦略を考えますと、私が代表をつとめる組織という看板が、今後は足枷になっていくような気がするんです。もっと抽象的な組織名の方が私もいろいろと立ち振舞がしやすいですし、これを機にどうか、お願いします」


「う~~ん。そーですか。では……」


 ヒロは3分考えた。そして


「【この星の名前】でどうですか?」


「おぉ、この星の名前、【テラース】を冠しますか!」


「……は、はい! 我々の暮らすこの母なる星【テラース】から取って、【テラース商会】と名付けましょう!」


「それはそれは♪ 大胆不敵で頼もしい。【テラース商会】、いい名前をありがとうございます!」


 この瞬間、【ロデニロ商会】は【テラース商会】に生まれ変わったのだった。

 そしてこの瞬間、ヒロは、この星の名が【テラース】であることを初めて知ったのだった。


「あとロデニロさん、改名早々矢継ぎ早に質問を浴びせてしまって申し訳ないんですが、現在世界で最も文明が発達している国は【ユーロピア帝国】で間違いありませんか?」


「もちろんです、と言いたいところなんですが、実際【技術力】で言えば、ドワーフのラボを大量に抱える【アンゼス共和国】の方が間違いなく上でしょう。ただ、文明の浸透率や単純な消費人口の密度から考えれば、比べるまでもなく【ユーロピア帝国】が【世界最大の市場】と言えます。つまり、商売をするならまず【ユーロピア帝国】で、研究開発を依頼するなら【アンゼス共和国】。という構図ですかね」


「なるほど。となると、まずは【ユーロピア帝国】の各都市に人員を配置して、他の国については1カ国につき1~2都市程度で始めてみましょうか。ロデニロさん、支店を置きたい都市を10ほど挙げてみてください。商売上のわがままな希望のみで構いませんから」


「……でしたら……まずは本国ですと【スパルトガル領マードリ】、【イングラル領ランダ】、【フーランツェ領パーリ】、【タリアッテ領ベネッツァ】、【ブンデス領ベルリネッタ】、この5都市は絶対に外せません。そして【アンゼス共和国】の【コロンバ領ポゴダ】、【ブランジール領レオジャーノ】です。【ルーシャ王国】は【サンクペ】と【マスカー】。そして【アウリカ王国】の【モロンコ領カサンブラン】。これで10都市。物流コストや政治的しがらみを全て無視したわがままなリストだとこうなりますね」


「その10都市の中で、人と金を投下したとしても、なにかしら難しい問題を抱えている所はありますか?」


「人と金が投下できて物流コストも気にしなくていいのに……という事でしたら……【ルーシャ王国】の2都市ですかね。【ルーシャ王国】はエルフの国で、とても排他的です。突然商人が現れ、商品と金を持って“商売させてくれ”って笑顔で近付いていっても、なかなか拠点を置かせてくれるとは思えません」


「なるほど。でしたら【ルーシャ王国】は後回しにしましょう。ということで、8都市ですね。ロデニロさん、ロデ……いや【テラース商会】は販路開拓の1拠点につき、何人のスタッフを投下しますか?」


「そうですね……。2人で何とかなるでしょう。力仕事や接客スタッフに関しては現地調達で賄えますし……」


「では8都市に2人ずつで計16人、明日の朝7時までに準備できます?」


「はぁ? あ……いやいや、わかりました。明日朝7時までに最高の16人を選出しておきましょう。ヒロさん、よろしくおねがいしますね!」


「こちらこそです。では詳しい話は明日朝ここで、ということで、もう外も真っ暗ですし御暇しますね」


「はい、また明日」

「お気をつけて」


 ヒロはロデニロとサリンザに見送られながら【テラース商会】を後にした。

 魔タバコを1本燻らせながらのらりくらりと夜道を歩き、3ブロック先まで辿り着くと近くの建物の影に身を潜める。

 追跡者や監視の目が無いことを確認し、インベントリの【ハナランド】に自分を収納する。

 刹那、【マンバタン島】の片隅からヒロの姿は消え失せた。


『いやぁ~今日もいろいろあったなぁ~』


 【ハナランド】中心部に降り立ち、ベッドと風呂とテーブルと照明を設置しながら呟くヒロ。


『ヒロおつかれ~。てっきりこの島を牛耳る話になるのかと思ってたら、なんだか世界を牛耳る話にすり替わってたわね~。もはやミナミだけじゃなく全方位の帝王ね~』


『いやいや、元々ミナミを牛耳ってないし、商人として成り上がる気はサラサラ無いからな。これも自由気ままな冒険の旅を安定化させるための必要経費だよ』


『確かに【テラース商会】を拡大してコントロールできれば、今後の素材買取や世界の情報収集がどえりゃー楽になるわよねぇ~。目の付け所、バッチグーよ♪』


『そーなんだよ。世界中に俺専用の買取所があれば、もはや冒険者ギルドさえ必要無くなるんじゃないかって思ったんだよねー。ってことでウルさん、相談があるんだけど……』


『待ってたピキュ! さっきの商談の途中にも割って入ろうかとウズウズしてたピキュ! ウルがウルウルではなくウズウズだったのでピキュ~。ヒロさん、ウルの分裂体を【テラース商会】の販路開拓用世界支店8箇所に派遣して欲しいのでピキュ!』


『なんとウルさん、話が早いぜ! 俺も全く同じことをお願いしようかと思ってたんだよ。だってウルさんは元々【神速通信】っていう【遠距離で情報を共有し合えるチートスキル】を持ってたのに、それに加えて今日、【神速転移】っていう進化版まで手に入れたでしょ?』


『はいなのでピキュ~♪』


『そこで改めて整理したいんだけどさ、ウルさんはそもそも俺以外の人間とでも意思疎通ができるの?』


『会話できるピキュ! あと、念話でつながることもできるピキュよ!』


『おぉぉ、第一関門クリアだぜ。これで、【テラース商会マンバタン本部】と新規の8都市、全ての拠点を双方向でつなげる通信網が保証されたぞ~。この時点ですでに世界中のどんな商人よりもダントツで有利になったよ♪』


『えっへんなのでピキュ~♪』


『次にウルさん、新しく取得した【神速転移】についてなんだけど、これはウルさんの分裂体同士が物理的に場所を行き来できるっていうスキルだったよね?』


『はいなのでピキュ! どんなに遠く離れていても一瞬で移動できるのでピキュ~』


『その時に、物を運ぶことってできる?』


『お任せピキュ! それこそが割って入りたかった案件なのでピキュ~。ウルは体内に亜空間ポケットをいくつも持っているピキュから、大きな荷物も沢山の荷物も一瞬で運べるのでピキュ~。この能力を利用して、ヒロさんの主導権を不動のものとして欲しいピキュ~』


『いやいやいやいやウルさん凄いよ~。期待した以上の能力だよ。ぶっちゃけ、この世界の文明の成熟度は俺が元居た世界よりずっと遅れてると思ってたけど、ウルさんの出現によって物流分野は完全に飛び越えちゃったね。これでもう、俺が【流星4号】ぶっ飛ばしてウルさんを世界中の希望箇所に配置さえしてしまえば、その後はいちいち飛んでいく必要が最小限に抑えられるもんなー。物と情報のやりとりがウルさん経由で省略できるんだから最強だよ♪』


『ちなみに人も送れるピキュ♪』


『え……? えええええええ~~~~!!』


『ウルの亜空間ポケットは、性能面でこそヒロさんのインベントリには敵わないピキュが、基本構造は同じなのでピキュ。つまり、時間を停止させて保存するってだけならウルにもできるピキュから、生命体の運搬もノープロブレムなのでピキュ~』


『な、なんつーチート感。これってば、ドラモンクエスポのルーラーラであり、銅鑼右衛門の四次元袋でもあるんだよなー。ウルさん、給料いくらくらい欲しい?』


『要らないピキュが、もし何か貰ってもいいのなら、ヒロさんが錬金したメガミウムを1度でいいからお腹いっぱい食べてみたいのでピキュ~。これはウルの1番の夢なのでピキュピキュ~♡』


『そんなんでいいの!? だったらストックがたくさんあるから今から食べる?』


『ピキュ~~~♪ 嬉しすぎるのでピキュピキュピキュ~♪』


 ヒロは、インベントリからスイカくらいの大きさのメガミウムの塊を取り出し、目の前に置いた。

 するとヒロの周りを【表面巡回モード】で巡っていたウルの一部が分離し、メガミウム塊をトゥルンッと包んだかと思うと、次の瞬間にはシュポッと元の持ち場に戻った。


『ウルさん、今のって、食べたの? それとも亜空間ポケットに保存したの?』


『もちろん食べたのでピキュ~ゲフッ。そして食べたと同時に全てのウル分体に満足感が共有されて、今、ウルの頭の中では全員の歓喜の渦が巻き起こっているのでピキュ~』


『ふぅ~ん。感覚は全ウル分体で共有されて、摂取したメガミウム自体はひとりの分体だけで消化されてるって感じ?』


『今はその状態ピキュ。でもウル達は結構短いスパンで分裂と合体を繰り返してるピキュから、結局は偏り無く全ウル分体に行き渡るようになっているのでピキュ~。ただヒロさん、今宵の宴に関しては全員が【メガミウム食べ放題】というテーマを知ってしまっているピキュから、【神速転移】で現物を配れとシュプレヒコールが湧き上がっているのでピキュ! ヒロさん、許される範囲でいいのでジャンジャン持って来るピキュ~!』


『分かったぜウルさん! 俺のストックが無くなったとしても追加で錬金してやるから、今宵は遠慮しないで限界まで食ってくれっ!』


『ピィィィィキュゥぅぅううおおおおおおおおお!!!!!』


 いつも話し相手を担当しているウルの背後から、膨大な数のウル軍団の雄叫びが響き渡る。

 ヒロはその声に応えようと、インベントリからメガミウムの塊を取り出して、目の前の受付担当ウルに渡した。

 すると受付担当ウルはプルンッと可愛らしく分裂し、次の瞬間片方がフッと消え、残ったウルは次のメガミウムを受け取る態勢をスッと整える。


『速い……。ウルさん、今消えたウルさんがメガミウムを持ってどこか遠くのウルさんのところに運んだの?』


『そうなのでピキュ。ちなみに現時点でのウルの分体の分布は、ほぼこのゼロモニア大陸に散らばっているのでピキュ。まだロック山脈には辿り着いていないピキュが、ガンズシティやセンタルスにはもう入り込んでいるピキュ。街道をさかのぼってヒロさんがまだ行ってない町々にも潜入済みなのでピキュ~』


『凄いぜウルさん! ゼロモニア大陸は貰ったも同然だな! あと今、“ほぼこのゼロモニア大陸に散らばっている”って言ってたけど、“ほぼ”って事は、もう別の大陸に渡ってるウルさんが居るってこと?』


『さすがに2日程度でそこまでは無理ピキュ。ただ、【ユーロピア帝国行きの船】に乗り込んだ分体がいるので“ほぼ”って言ったのでピキュ~。今は海の上ピキュ♪』


『もー多分なんだけどさ、10年後、この世界はウルさんに支配されてるんだろうねー。【ウルの惑星】って映画でも撮ろうかな……』


『もしウルが支配してたとするなら、その時はヒロさんにこの世界をあげるのでピキュ!』


『あ、ありがとう、ウルさん』


『だから今はメガミウムをサクサク渡して欲しいピキュ~♪』


『おぉ、手が止まってたね、ごめんごめん。ほいっ』


『はいピキュ!』


『ほいっ』


『はいピキュ!』


『ほいっ』


『はいピキュ!』


『ほいっ』


『はいピキュ!』


 ヒロとウルによるメガミウム塊の受け渡しは、熟練の餅つき職人のようにテンポよく続いていった。





 40分後。


『ヒロさぁ~ん。ウルはぁ~、ウルはヒロさんに逢えてぇ~…… ふんっとぉーーに、しゃ~わせなんれすピキュお~』


『…………』


『ん~? き~てるんピキュすかぁ~? ヒロはぁ~ん』


『……あの、ウルさん、そろそろやめておいた方がいいんじゃないかな?』


『んあ? や~めるって~なーーにをれすかぁ~? まーさか~めらり~むを~ や~めろぉ~てことれーすか~? ん? んむぅ? はれ!? めらり~むが~なぁ~いぃ~ ますた~! めらり~む、もーいっぱい! ぅいっくぅ~~』


『ちょっとヒロ~、ウルちゃん何故かベロンベロンじゃない。メガミウムに何か混ぜものでもしたの?』


『とんだ言いがかりだぞヒメ。ウルさんに渡したのは全て純度100%のメガミウムで間違いない。ただ……』


『ただ?』


『俺が良かれと思ってインベントリにストックしてあった量が意外と多くてさ、次々テンポよく渡してたら、3分ほど前から急におかしくなってきて、今じゃこの有り様なんだよ』


『いったいどれくらい食べさせたの?』


『あのスイカサイズの塊を……2千個くらいかな』


『に、2千個ってヒロ、メガミウムはそこらに転がってるような普通の物質じゃないのよ~。あれ1個で1トン以上あるんじゃない? なんだろ…… 成分が強すぎて酔っ払っちゃったのかな。猫で言うマタタビみたいな?』


『多分、俺が“ストック無くなったら生錬金してあげる”って言っちゃったもんだから、ウルさんてば“ストック無くすピキュー!”って張り切っちゃったんだよね~。きっと簡単に食べ尽くせると思ってたんだよ。そしたら食べても食べても無くならないから、途中から意地んなっちゃってさー。許容量オーバーでおかしくなっちゃったんだと思う』


『ちなみにメガミウムのストックってあとどれくらいあるの?』


『今、ウルさんが食べた量の100倍くらいは余裕であるね~。ウルさん、無理しても残念でした~。……ん? ウルさん?』


 ウルは小さな寝息を立てて眠りこけていた。


『なんか小さくピキュピキュ言って寝ちゃってるよー。睡眠不要の筈なのに、休養が必要なレベルの無理をしちゃったみたいだね~』


『ウルちゃんてば可愛いね~。ヒロに甘えて夢中になっちゃってさ~』


『もう、ハナに続いて俺達の2人目の子供だなー♪』


『!……………………』


『そー思わない? ヒメ?』


『そ、そうだね~。ウルちゃんも私達の家族よね~』


『だよねぇ~。大切にしないとなぁ』


『あ、えっと……あのね、ヒロ』


『ん? どしたの? ヒメ』


『あ……っと、ななななんでもない。ごめん、気にしないで』


『ヒメぇ~それは無理だわ。気にしない訳ないし、俺、“【白々しいまでの鈍感主人公キャラ】にだけはなりたくない”って常日頃から心掛けてるくらいの【アンチ鈍感】だよ? まぁだからと言って“敏感か?”と問われればそこまででもない平凡キャラっちゃー平凡キャラだけどさ、でも、今のヒメの発言に【センシティブな内容を含む可能性のある含み】があったのは間違いないよね。さすがにそれは見過ごせない。ヒメ、何?』


『……ん~ごめん。えっとね、新しい家族が近いうちに出来るかも……』


『え? 今、なんと?』


『だーかーら、新しい家族が出来るかもって言ったの!』


『…………』


『ちょっとヒロ~、何とか言ってよ~』


『ヒメ、………………妊娠したの?』


『するか! つーかまだ実体化してないっつってんでしょうが!』


『え!? 実体化したら神様も妊娠するの? 相手が人……俺でも!?』


『!………………』


『あれ? ヒメ?』


『……するんだけどさ、ヒロ、そんな剥き出しの生々しい感情、あんまり直でぶつけて来ないでよ~。ドキドキしちゃうから……』


『え? あーごめん。ヒメが突然変なこと言い出すからさー、じゃあ何なんだよ“家族ができるかも”ってのは?』


『それは……その時になったら話すけど、まぁ家族みたいな仲間が増えるかも知れないからその時は冷たくしないで受け入れてあげてねってことよ』


『ん~よく分かんないけど、まぁヒメの推薦ならどんな奴でも仲間だし家族だな♪ それだけは間違いないから了解。分かったよ~♪』


『……ありがとうヒロ。またその時が来たら話すね~』


『は~~い』


 その後ヒロは【セントラルバグ】周辺で見つけた【アルセヌルパン】というパン屋で大量購入した焼き立てパンと自作焼き肉の夕食を堪能し、ハナに遅いおやつの魔晶を食べさせ、ハナから“遊ぼ♡”のリクエストが来たため30分ほど走り回った後、風呂ものんびり入り、ハナの“あちちぽっぽぷぅ~”が出たところで最後はぐっすりと眠ったのだった。


 こうして、ヒロ達の異世界生活18日目は終わった。





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