面談とおんぶとスキヤキ




『さて、そんなわけで、ルナスタウンに朝が来るまでにはまだまだ時間がある。なので、今からは【棚上げにしてある案件】をクリアしていこうかと思っとりやす』


『ピキュ~! ウルは何より【ユーロピア帝国に誘拐拉致された難民の人達】が心配なのでピキュ~』


『そう、それ! ウルさんナイスだねぇ~』


『ピキュピキュピキュ~』


『俺もまさに、その件が最優先事項だと思ってるんだ』


『確かに、ほかの案件はそれなりに時間的猶予があるもんねぇ。ヒロ、【捕われてた人達】の開放について、なんか考えとかあるの?』


『う~ん。一応はあるんだけどさ、ちょっとやってみないと上手くいくかは分かんないんだよなぁー。とりあえずインベントリで確認してみたんだけど、一時的に匿ってる【難民】の数は1716人ということらしいんだ。で、この人達と個別に話をしつつ事情を聞いて各自が希望する土地まで送り届けるとなるとだな、そらも~膨大な時間を要するのは明らかだ』


『そぉ~ねぇー。【送り届ける】のは【ヒロのスコープとインベントリの性能】ですぐ終わるとしても、【個別の面談】ってゆーのは時間かかっちゃうわよね~』


『うん。でもその面談を手ぇ抜いてテキトーに済ます訳にもいかんだろ?』


『そんなぞんざいな扱いは可愛そうなのでピキュ~』


『だろだろ。だから俺は新たに【面談部屋】を作ろうかと思う』


『お部屋ピキュ~?』


『そう、ハナランドとは別の、面談専用にあつらえた【特殊空間】をインベントリ内に追加して、その空間の【時間経過】を遅くするんだ。確かそんなオプションあったよな? んで、実時間的になるべく早く難民の皆さんを開放する。そーすれば【インベントリ内で時間停止している冬眠期間】は極力短縮できるし、その結果【浦島現象】的な弊害も起こらないで済むだろ?』


『ヒロ、あなたってちゃんと頭使える子だったのね~。ヒメ感激~♪』


『ヒロさんてば思ってたより切れ者だったのでピキュ~! IQ二桁はありそうなのでピキュ~!』


『チチサマは既にオトシンクルス級の頭脳を手に入れているのです!』


『……………………』


『あ…… ヒロ、言葉の綾よ。言葉のあややよ。綾小路よ。あやかしよ。ヒロが元々優秀なことはみんな知ってるよっ! だからそんな【屠殺直前の乳枯れ雌牛】みたいな顔しないで!』


『ヒロさん! 未来を見るピキュ! IQはまだまだ伸びるピキュ~!』


『チチサマは芳しいというだけで世界最高なのれす!』


 ファミリーの献身的な慰めにより、ヒロの機嫌は5分ほどでどうにか回復した。





『でだな、肝心の【亜空間プレミアムプランの時間経過設定】なんだが、アルロライエちゃん、詳細を教えて欲しい』


《ラジャーです♡》



■時間経過設定各種

■低速

■実時間比 0.9倍       毎秒1000MP

■実時間比 0.8倍       毎秒2000MP

■実時間比 0.7倍       毎秒3000MP

■実時間比 0.6倍       毎秒4000MP

■実時間比 0.5倍       毎秒10000MP

■実時間比 0.4倍       毎秒25000MP

■実時間比 0.3倍       毎秒50000MP

■実時間比 0.2倍       毎秒75000MP

■実時間比 0.1倍       毎秒100000MP

■実時間比 0.05倍      毎秒250000MP

■実時間比 0.01倍      毎秒500000MP

■実時間比 0.001倍     毎秒750000MP

■実時間比 0.0001倍    毎秒1000000MP

■実時間比 0.00001倍   毎秒2500000MP

■実時間比 0.000001倍  毎秒5000000MP

■実時間比 0.0000001倍 毎秒7500000MP


《現在のヒロさんのMPと回復速度で可能な範囲をリスト化しました♪》


『………………』


『ヒロ、……この、……0.0000001倍ってさ、もはや【ほぼ時間停止状態】なんじゃない?』


『ピキュ~~。単純計算で、現実世界の1日が、0.0000001倍設定の亜空間では0.00864秒で済むのでピキュ! つまり0.0000001倍設定の亜空間で1年間過ごしても、実世界では3秒ちょっとしか経過していないってことピキュ! ピキューーーー! MPで時間が買える時代が既に来ていたなんて、ウルは知らなかったのでピキューーーーー!!』


『よしっ! 0.0000001倍設定で行こう! そんなにギリギリ攻めなくてもい~気もするけど、俺は絶えずチャレンジャーでいたいのだ!』


『『『『ぉぉぉおおおおおおおぉぉ~~~』』』』


 ヒロファミリーの面々から感嘆の唸り声が上がったのだった。


《さすがです! ヒロ様♡ (〃▽〃) 》




 それからヒロは、新設する【難民面談用亜空間】の環境設定を“できるだけ消費MP節約しなきゃな”という理由で【360度見渡す限り何もない真っ白な空間】とし、“俺の素顔はなるべく隠し通したいしな”という理由で【仙人のような老人】にスキルで【変身】し、インベントリ内で時間停止中の難民1716人の中の1人目を【新設空間】に呼び出し、対話を始めた。




「はっ…… え? えぇぇええ!? なにココ? 真っ白で何も無い。つい今まで船底の柱にみんなで繋がれてたのに……」


「おぬし、どっちを向いておるのじゃ。ココじゃココじゃ~」


「えっ!? えええええ! あなたは………… 神様ですか?」


「ほぉ~、おぬしにはワシが神様に見えるのか~。そうかそうか~。いかにも! ワシはおぬしの世界で言うところの【神様的な存在】じゃ~」


「か、……神様! ということは…… わたしは死んじゃったんですか!?」


「ん~にゃ、死んだという訳ではないから安心せぇ~。ここはの、【死にかけた人間を元の世界に戻すための審議の間】なのじゃ~」


「し、審議の間ですか……。ということは神様! わたしは元いた村に帰れるんですか!?」


「ふぉっふぉっふぉっ。おぬしが望むなら元いた村とやらに帰してやろう。ほれ、おぬしの帰りたい村の場所を言ってみよ。遠慮は要らんぞえ~」


「はい! わたしの村は、 ……あ……でも…………」


「むぅ? どーしたのじゃ? 村の場所を忘れてしまったのかえ? じゃったらワシが神的なチカラでおぬしの村を見つけてやらんでもないぞえ~」


「い……いえ、わたしの村は、突然現れた海賊に襲われて、全て焼き払われてしまったんでした。いまさら村に帰っても…… 焼け野原が広がってるだけなんです……。神様! もし、もし出来るならお願いです! わたしの村を元通りにしてはもらえませんか!?」


「も…… 元通りとな……。ワ、ワシがいくら神的な存在とはいえ、出来ることと出来んことがあってのぉ~、【焼け野原になった村を元通りにする】は、残念じゃが、出来んことに分類される……という感じの……方向性の……流れっぽい……雰囲気……じゃのぉ~」


「ぅぅ…… ぅぅううわあああああーーーん! 父ちゃあああん! 母ちゃあああん! わたしにはもう帰るところが無いんだあああああ! 最初はやさしそうだった神様も結局なんにもしてくれないし! もう死にたいよおおおお! 父ちゃんと母ちゃんのところにわたしも行くうううううう!」


 ヒロはすぐさまこの難民[インパラ系獣人少女のハンナ]のステータス詳細に目を通し、残りの1715人の中から父と母に該当する人物を検索し、探し当てた。


「コラコラ、早まるでないぞえ~。おぬしの両親は死んではおらん。ちゃんとじゃな、ワシの管理する【死んでなくて元の世界に戻るために順番待ちしてる人々リスト】に載っておる。安心するのじゃ~」


「えっ!? 父ちゃんも母ちゃんも生きてるの!? あ、あ、ありがとう神様!! さっきは“能無し”なんて言ってごめんなさい!」


「い、いや、いいんじゃよ~。普段から舐められがちな扱いには慣れとるしのぉ~。で、相談なんじゃがの、おぬしさえ良ければ、新天地で新しい生活を始めてみる気はないかの?」


「……しんてんち?」


「そうじゃ。まぁ言ってみれば【新しい村】じゃな。ワシがオススメの村を見繕っておぬしとおぬしの家族をその村に送り届けてやってもいいんじゃぞ~」


「神様、その村は安全なの? 魔物は出る? 海賊は襲ってこない? 畑は作れそう? お家はある?」


「大丈夫じゃ~安心せい。神的なワシがオススメするんじゃから、ひどい所でないことは保証するぞえ~」


「ほんとに!? じゃあ妹のクレアとアンとロミとウーラも、弟のジームとカジとサリオとダンとビーズとランバとザールも、ヒルマ姉さんとグンザ兄さんも、いとこのダールとシンガとパロとオビールとラランガとイースンとバンコとアリアとユーノフとドミンとメーシャとマイも、ガズー叔父さんとロンダ叔母さんも、ゼフ叔父さんとラーノン叔母さんも、ボイール叔父さんもノルン叔母さんも、みんな一緒に新しい村に引っ越せるの!?」


「ちょ、ちょっと待つのじゃ……」


 ヒロはブーストし過ぎたクロック数により煙が出始めた自分の脳みそをさらに酷使し、すぐさまインパラ少女・ハンナの大家族と親戚を残りの1713人の中から探し当てた。


「うむ、今そなたが言っておった家族や親戚は、みな無事のようじゃ~。大丈夫、みんなで新しい村に越していけるぞえ~」


「あ、ありがとう神様! わたし、わたし、どんなに苦しくても、新しい村でがんばって生きるから! がんばってがんばって生き抜いてみせるから! 神様! この御恩は一生忘れないよ! 本当にありがとう!!」


「(じぃ~~~ん)う、うむ。では、準備はよいか? 新しい村に…… ブランニュ~~ワァ~~~プなのじゃ~~!」


 ヒロはそう言い残すと、ハンナをインベントリ内に新しく作った【ヒロシティ行き】という名前のフォルダに一旦送った。




『ぬぁぁぁあああああああああ!! つかれるぅぅぅぅ~~~~! 思ってた百倍大変だぞ、この作業!』


『ヒロ…… あ、神様~、日頃の神様の苦労、分かってくれた~?(ニヤニヤ)』


『ピキュ~! ヒロさんは神様のお芝居がうまいのでピキュ~♪ まるでアニメに出てくる神様みたいなのでピキュピキュ~♪』


『あとヒロぉ~、わたしさ、いろんな神知ってるけどさ、あんな【語尾に“ぞえ”とか“のじゃ”とか付ける創作ステレオタイプ……をもはや通り越して独特とも言えるよーなジジイ】は居ないわよぉ~。そもそも神って老いないし。わざわざヨボヨボの年寄りキャラ固着させるセンスの神なんて見たことないけどね~。なんか、【神】と【仙人】混同してない?』


『え? あ、そうか…… そーいや俺が最初に出会ったジジイ神は“俺のイメージが投影されてそう見えてるだけだ”って言ってたっけ……』


《あのジジイ、わたしです (*´∀`*)ノシ 》


『ええええええーーー!! そーだったのぉ~~!? アルロライエちゃ~~ん、今頃カミングアウトだなんてちょっと意地悪過ぎだよぉ~~。だったらもっと早く教えてよぉ~~』


《まさかこんなに親密な関係になるとは思っていなかったもので…… (〃▽〃) 》


『え? じゃあ…… あのジジイがアルロライエちゃんで…… アルロライエちゃんがあのジジイで…… 結局、アルロライエちゃんの本当の姿なんてものは無いってこと?』


《お答えしましょう。最初はいつもの条件達成転生者への状況説明ということでルーチンワーク化した流れ作業として姿や表現も転生候補者の持つ神イメージをダイレクトに投影し説得力を高めることのみに特化した【AI対応】とさせて頂いてました。そのためヒロさんの持つ神のイメージである白髭ジジイの姿や言動が白空間に自動生成されたのです。そして一通りの自動説明を終えてヒロさんを異世界に転生させたあとは、次の候補者の条件設定や課長への定期報告、給湯室での愚痴交換会、休憩室でのスマホ相場チェック、仮眠室での熟睡、パソコンの裏画面でのソリ~テア、市場調査と称したネットサーフィンやウィンドウショッピング、などの激務を忙しくこなし、プライベートでも、ヘアサロン、ネイルサロン、ジム、岩盤浴、フェイスエステ、全身エステ、まつ毛エクステ、レーザー脱毛、料理教室、ランチバイキングめぐり、飲み会、ひとりカラオケ、コスコストコトコへのダイナーロール等の買い出し、既婚同僚のファミリーバーベキューへの渋々参加、サブスク動画サイトの新作チェック、などと思い出せるだけでも気が遠くなるほど忙しく、いつも通りにAI処理を済ませた転生者[ヒロさん]の事なんて記録にこそ残れど記憶にはあらずといった状況でした。しかし、【神との通話】が発動し、その条件がレベル100特典であり、その発信元がまだ転生して間もないヒロさんだと判明した時、わたくしアルロライエは資料を掘り起こし記録を漁った挙げ句に思ったのです。“このヒトに【神は白髭のジジイ】だなんて思わせておいてはいけない!”と。“わたくしアルロライエの本当の姿を少しでもお伝えして、ヒロさんの中の【神のイメージ】を誤差なく修正せねば!”と。本来の、アルロライエ的な【清楚で可憐で爽やかでお茶目で高貴で親しみやすくて情熱的でそれでいてしつこくなく、毎日でも全く飽きの来ない、理想に理想を重ねた女神の中の女神】、そんなイメージをそれとなく、そこはかとなく、ナチュラルにお伝えせねば! と。それからいろいろとあり今に至る訳です。わたくしは決して白髭ジジイなどではなく、れっきとした、確実な、絶対的な、二十歳のうら若き女神である……ということだけは、ここに強くお伝えしておきますね♡ あと、【飲み会】って言っても【女子だけの飲み会】ですから♡》


『……う、ん。アルロライエちゃんが二十歳の若い女神様だと、分かったよ……』


《照れます♡ (〃▽〃) 》


(ヤバイわ。いろいろカミングアウトしていく過程でどんどんアルロライエちゃんの熱気が満ちていっている気がする。実体化して登場する日も近いんじゃないかしら……)


『ね、ねぇヒロ、アルロライエちゃんの真の姿の話も大事だとは思うんだけどさ、次の【難民面談】を再開した方がいいんじゃないかな?』


『そ、そうだなヒメ。どんどんやっていかないと終わんないからな。ヨーシヤルゾー』


『ガンバレヒロー』


(ピキュ~ アルロライエさんのおしゃべりが長いのも心配ピキュが、ヒメさんの心労も心配なのでピキュ~~)



 そんなこんなでヒロは、直前に全否定された【白髭ジジイ】の変身を今更解くに解けず、軽くストレスを抱えつつも、次々と【ユーロピア帝国によって拉致されていた難民被害者】を1人ずつ面談して進路を決定していくのだった。



 実時間で一瞬。

 難民面談用亜空間内時間で12日後。

 ヒロは全ての対象者の進路を振り分け切った。



『つ、つ、つ、つかれたぁぁぁぁあああああーーーーーー!!』


『え? ヒロには【HP自動回復】があるんだから……』


『そーゆー疲れじゃないんだよっ! もっとデリケートな疲れなんだよっ! こちとら十日以上も不眠不休で面談し続けたんだぞ!? もっと労れ! もっと労え! ただただ気持ちよく俺を褒めてくれーーー!!』


《すごいです♡ d(*´∀`*) 》


『ヒロすご~い♡』


『ヒロさんすごいピキュ~♪』


『チチサマすごいのです!』


『ZZZ~ パパ~ すご~い♡』



『…………もういいよ。自分の中だけで自分を褒めて自分自分言っとくよ』


『でもヒロさ、ウルちゃんは分体軍団と交代制だし、ひーたんはハナランドにすぐ移動して自主待機しちゃったから一瞬でしょ? ハナちゃんもハナランドに避難してたし、結局あなたに【面談部屋】で12日間、丸々みっっっっちり付き合ったのは私だけなんだからね! そこは特別に感謝しなさいよ~』


『おまえは初日の二人目から【お菓子&ゲーム部屋★ヒメルーム】に引きこもって、只の一度も顔出さなかっただろーがよ!!!』


『あはっ。やっぱバレてた~? ヒロの背後で見守ってる風の私のホムンクルス置いといたからさ、ごまかせてるかなぁ~って思ってたんだけど……』


『ホムンクルスってのは、あの、空気で膨らませたビニール人形のことか? ボディ部分に【ヒメ】って書いてあって、口の横に無理矢理フキダシ描いて“ヒロがんば♡”って落書きしてあった、あの昭和の安物ダッチ妻みたいなアレのことか!? 俺が気付くまで何人かが怪訝そうな視線を俺の背後に送ってたから、しこたま迷惑したし恥ずかしかったよ! せめてもう少し完成度の高い仕事が出来なかったかな!?』


『テヘヘ~。だって一刻も早くヒメルームに移動したくてさ~。ごめんね♡ヒロ~』


『これはでっかい【貸し】だかんな! いつかいろいろ込み込みで返してもらうぞ!』


『ま~いつかなんかしら返すから許してよ~~。その成果と言っちゃ~アレだけどさ、【12日間耐久!★不眠不休のエンジェルバトル~パフパフ~♪】で、ひーたんはそらも~強くなったわよぉ~♪ もう強くなり過ぎてさ、神サーバーが一時的にダウンしかける事態にまで陥る始末よ~。結局神サーバーがハード的に大幅増強されて、そのついでにソフト的にも最新最速版に更新されたみたいだから、結局ヒロは、神の世界のネットワークとデータベースを進化させたってことになるのかな? すごいすご~~い♪』


『……ま、まぁ、俺くらいになると…… そんなこんなも朝飯前田のケイジちゃんちゃん焼きな感じだけどな……』


『ヒロさん! 結局南極公文書記録管理局、どれくらいの人が故郷に戻れたのでピキュか?』


『おっと、それな。結局のところ、スコープでそれぞれの被害者の対象地域の現状を調べながら確認したんだけどさ、最初のハンナちゃんの故郷みたく焼け野原にされちゃってるようなところは意外と少なかったんだけど、代わりに【ブラードレク商会】系の輩が駐在して我が物顔で支配し始めちゃってるところが結構あったんだよ。だからスクリーンに身元鑑定的な情報羅列させてさ、ユーロピア帝国系の奴らは全員【例のウィンの町から東に1kmほどの丘の上】に放置してやった。もちろん全裸で。あ、ウルさん、そんな被害に会いかけてた村や町に今からササッと送るからさ、ボディガードよろしくね♪ あとスパイ的な奴や火事場泥棒的な奴のチェックもね♪』


『まっかせるのでピキュ! ウルがみなさんの故郷を守るのでピキュ~♪』


『で、ヒロ~、最終的なヒロシティへの移住者の数は?』


『えっと、253人かな』


『あら、思ってたより少ないわね~』


『まぁな~。まずさ、【選択肢として提示した新天地】である【ヒロシティ】についてさ、あんまり詳細に説明するわけにもいかねーだろ?』


『まぁそうね~。質問攻めにあって時間だけが浪費されちゃいそうだもんね~。あと“そんな都合のいい話が有るわけない。この神、怪しすぎる”とか思われそうだし……』


『そうそう。だから“安全で清潔な暮らしができるところなのじゃよ”程度の情報だけで選択を促すとさ、大半の人は“新天地なんて不安だし住み慣れた故郷がいい”って言い出すんだよ。だからまぁ“ウルさんに常駐してもらうつもりだし、故郷に執着するってのもしょーがないのかなぁ”とか思っちゃってさ、ほいほいと【故郷行き】フォルダに移動させたんだ』


『まぁ~、ウルちゃんが居れば、その人達の故郷も【安全な暮らしができるところ】にはなるんだろうしねー。いいんじゃない?』


『てーことで、今から【故郷に帰りたい人達】をウルさん付きで再配置していくから、ウルさんよろしくね♪』


『ピキュ~! まかせるのでピキュ♪』


 ヒロはインベントリとスコープを駆使し、面談で収集してあった各難民の帰還地データに照らし合わせ、数秒で千五百人近くの帰郷を終了させた。


『よし、終了。で、次は、ヒロシティに移住する人達のための準備だな♪』


 ヒロはスコープを使い、ハナランドワープ1回でヒロシティに降り立ち、【ゴズ組】の全員に集まってもらい、【難民受け入れ】の計画を説明した。

 ゴズ組の面々は、既に【そんな事態が早めに訪れる事】を予期していたかのように理解が早く積極的で、“いつでもOK”という反応を異口同音に返すのだった。

 それを受けヒロは、ヒロシティに新たな住居区画を増設し、インパラ娘のハンナちゃんのような大家族でも困らないような住居も多めに設置し、あとの【住居の細部のリクエスト調整】や【ヒロシティがいかにトンデモシティであるかの説明】はゴズ軍団に任せ、“んじゃ~あとはよろしくお願いしますねぇ~♪”と爽やかに手を振りつつルナスタウンにワープ帰還するのだった。


『よしよし。これにて難民問題、一旦解決なのじゃ~~!』


『てかさヒロ、もはやあなたのスコープの到達距離が百万キロくらいまで伸びちゃってるんだからさ、別にわざわざヒロシティからルナスタウンまで座標移動しなくても、ヒロシティに居続けながらにして、何か問題や動きや用事があった時だけヒュンヒュンとワープすればいいだけのことじゃない?』


『…………そ、……それはそーなんだけどさ、なんか………… 気分? 的な?』


『ピキュ~! 気分は大事なのでピキュ! ウルも全分体で感覚を共有しつつ能力にも何ら差がない進化系集団となった現在でも、やっぱり【ヒロさんの表面巡回警護】と【ヒロさんとおしゃべりする係】が一番嬉しくて誇らしくて【やりたい事絶えずダントツ1位】なのでピキュ~~♪』


『おぉぉぉウルさん分かってくれるかぁぁ~! 心のズッ友最新版よぉぉ~~♪』


『分かるのでピキュ~~! ズッ友はゼッ友で最もなので最新ピキュピキュ~~♪』


『はいは~い。まぁヒロシティに居ようがルナスタウンに居ようがもはやどーってことない微差の話だから別にい~んだけどね~(苦笑)』


『まぁ~なぁ~♪ さてと、ひと段落付いたことだし、みんな大好き【しりとり】でも』


『ピキュピキュピキュ! ヒロさん! ま、まだヒロさんにはやることが! やらねばならぬことがいっぱいいっぱいあるピキュ!!』


『ん? 差し迫ってそんなにやることあったっけ?』


『ピキュ~! まずは……』


『まずは?』


『レ、レベル上げピキュ! 【ミズアス】という超高効率の狩り場に今や僅か二千MPで行けるようになった…… いや、【ウルワープ】なら無料で行けるようになったのでピキュから、スペックは上げられる内に上げておいた方がいいのでピキュ! あと【テラース商会】の人達に【ヒロシティ】を紹介して移住を提案するのも早いに越したことはないのでピキュ! それと…… それと…… 今はそんなとこピキュ!』


『ん~~。……そうだな、確かにそうかも♪ ウルさん、いつになく鋭いね~。よし分かった! まずは【テラース商会】でロデニロさんたちに【ヒロシティ移住】の話を振ってみて、そのあとはルナスタウンに朝が来るまで【ミズアス】でまったりレベル上げすっか♪』


『ピキュ~♪ それがいいのでピキュピキュピキュ~♪』


(ウルちゃん…… 涙ぐましいわ…… ヒメ泣いちゃいそう……)


(ウルちん、ガンバなのです! 今度ひーたんがしりとりの特訓するのです!)



 ウルの提案に従い、ヒロはすぐさま【テラース商会】に飛び、ロデニロに“ヒロシティという町を作ったから一緒に住まないか? そこでは俺達の秘密も権力者の悪口も喋りたい放題だよ♪”という提案を持ちかけ、“喜んで! 商会の皆にも伝えておきますね♪”という好反応を得、“んじゃ~あとは任せた♪ 移住もウルさんに言って好きなタイミングで勝手にやってね~♪”と爽やかに言い残すと、すぐさまハナランドに移動し、“なんかウルさんワープを乱用するのも悪いし気が乗らないなぁ”などと言いつつ【ゲートワープ】で【ミズアス】に二千MPで移動。【ミズアス】の適当な座標に陣取ると【ハナランド】に設置した【一人掛けソファ改】にフカッと座り【魔ショットホープ】に火をつけ“ふぅぅぅぅぅ~~~”と煙を吐き出しつつ【スコープ[SKB]】をミズアス全体にまんべんなく走らせ、のんびりと“魔物狩り”……とは名ばかりの【インベントリ内高速マクロ・シナンプルス締め】を自動展開するのだった。




 しばらく後。




ピロン


《ヒロ様、そろそろいい時間です。ルナスタウンに戻られては如何ですか?》


『ん? ぉお~アルロライエちゃん、ありがと~♪』


《いえいえ~ アルロライエはいつでもヒロ様を見守っておりますので♡》


『ん~、でもさ、その言葉遣いはやめてよぉ~。なんか他人行儀じゃないか。家族なんだからさ、もっと気安い感じてお願いしたいんだけど…… だめ?』


《だめじゃない♡》


『じゃあもっと近い感じでお願いね♪』


《わかりましたヒロちゃま♡》


『…………(呼び方じゃなくて言葉遣いのことなんだけどな……)……う、うん、あ~っと、時間だっけ? のんびりし過ぎてウッカリしてたよ~』


《あと1時間くらいでルナスタウンの夜が明ける計算です》


『オッケーサンキュ~。じゃあそろそろ戻ろっか~♪』


《は~い♡》



 ヒロはゲートワープでルナスタウンに移動した。



『んんん~~、ルナスタウンに戻ったのねぇ~。ヒロおつかれ~♪』


『……おまえはホントーに【お菓子&ゲーム部屋★ヒメルーム】が好きだな。そんなに暇さえあれば篭ってると体こわすぞ~』


『カラダ無いから今んトコは大丈夫よ~。あと神だし。ヒロ、基本設定忘れすぎてない?』


『喩え的な話だよ。神的な何か大切なものが無くなっちゃうよって言ってんの~。神たる者、こーであれ、あーであれ、……みたいなさー』


『そんな【中学校の生徒手帳】や【全体洗脳魔法エスデジズン】みたいな【決まり事やら心得やら目標のデカ盛りチャレンジメニュー】なんて神界にあるわけないっしょ~。神の世界はいつだって無秩序の玉突き事故状態。混沌の絶頂よ~♪』


『……心配した俺がバカだった。そして無駄だった。俺は今、猛烈に反省してるよ』


『ヒぃロぉ~、心配はいくらでもして♪ それは随時受付中だからね♡』


『へいへ~い』


『ところでさ、レベル上げ@ミズアスの成果は? なんか新しい発見とか驚愕の新展開とかあった?』


『もちろん無かった。平和にお馴染みの魔物を経験値ごと大量入荷しただけ~。あ、あとそういえば……』


『ん?』


『ヒロリエルがさ、“ひーたんも魔物と一戦交えてみたいのです!”とか言って魔素だらけのミズアスの大地に繰り出したかと思ったら……』


『ふんふん』


『一戦交えるどころか、百戦、千戦、と交えまくって、S11級の奴らばっかり斬りまくってたわ~』


『ひーたんは苦戦とかしてなかった?』


『俺らの娘だぞ~。するわけねーだろ~。最初のうちは俺も気を配ってたんだけどさ、あまりにも一方的な斬殺がエンドレスだったもんだからさ、も~途中からは見てもいなかったよ~。ただまぁそんな俺の態度が気に触ったのか、“チチサマ! もっとひーたんの活躍を見るのです! そして褒め褒めするのです!”とかなんとかプンスカ言ってたけどなぁ~。ん~で、“ごめんごめ~ん”っつって頭撫でたらすぐ御機嫌になってまた斬りまくってたぞ』


『そんなことがあっての、今のその状態ってわけね~♡』


 いつもなら妖精モードでヒロの襟足にくっついているヒロリエルが、この時は少女モードのままヒロの背中にしがみつき【おんぶ】されていた。


『そーなんだよ~。なんか“今日はそんな気分なのです♪”とか言ってさ、俺の座ってる【一人掛けソファ改】の背中と背もたれ部分の隙間に潜り込んでくるからさ、それからはずーっと【おんぶ】だよ。おかげで俺、最後の方はハナランドで立ちながらヒロリエルおんぶして狩りしてたんだぜ~』


『あんたの狩りなんてほぼ体力も精神力も使ってない放置作業でしょーに。可愛い年頃の愛娘が“おんぶして”なんて、薄汚れた人間界では確認不可能なロストテクノロジー、古代アーティファクト、幻のリクエストよ!? 少しはありがたく思いなさいよね! ほら、ひーたんのこの安心しきったような可愛い寝顔、見てよ~。あんたは間違いなくこの世界一の幸せ者よ!』


『つーかさ、確かにヒロリエルは可愛いし別におんぶもやぶさかじゃないんだけどさ、そもそもフレーム由来の神仕様な特殊生命体だぜ? 【疲れて寝る】なんてあり得ねーだろ。ヒロリエル~起きてんだろ~、そろそろいいか~?』


『ギ、ギクゥゥゥなのれす~♡ エヘ♪』


『やっぱり起きてたなぁ~♪ チチサマを謀るとは悪い娘め~♪ つ~か~ま~え~て~こ~ら~し~め~て~や~る~ぞ~~!♪』


『きゃ~~~~♪ チチサマにひーたんをつかまえるのは不可能なのですぅ~♡』


『あっ! ……ヒロリエルめ。妖精化して本気出しやがった~。もう俺でも目視できん。まだまだ俺も未熟者だなぁ~♪ 娘にも敵わないなんてさー♪』


『(……ひーたん遠慮してたのかな~。ヒロの元に来たのも遅かったしねー。あんなに幸せそうな顔されるとほんとに育ててよかったなって思えるわ~グスッ)……な、なに嬉しそうに敗北宣言してんのよ~ヒロ。少しはミズアスでレベル上がったの~?』


『おっとそーだった。まだポイントの確認もしてないや。え~~っと……』




pt:14760889/14760889




『ん?』


『ヒロ……』

『チチサマ……』

『ピ…………ピキュゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウーーーーーーー!!!』


《はきゅん♡》



 ヒロは慎重に何度も数字の桁を確認した。



『ヒロ…………いっせん、よんひゃく、ななじゅう、ろく……まん……ポイン……ト』


『や、……やったな♪ 今日はスキヤキにしよう♪』


《こんな大量の経験値、今まで見たことありません♡ 記録にも無いです♡ ヒロ様♡ (//∇//) 》


『ZZZ…… パパァ~ ハナつよいのぉ~…… ZZZ』




『…………ま、まぁみんな落ち着け。かか各自、いろいろいろ思うところもあるだろうが、スススステ振りしてみた結果、ここここれが俺達の、げげげげげ現状だ……』





名前:ヒロ

種族:人間[ヒト]


pt:0/14760889


Lv:220512[199471up]

HP:1000000[900000up]+ 753383

HP自動回復:1秒35%回復

MP:10000000[9130000up]+ 748842【倍リング + STB効果:96503103】

MP自動回復:1秒100%回復【ネクタール効果】


STR:1000000[900000up]+ 748754

VIT:1000000[900000up]+ 767826

AGI:1000000[900000up]+ 768108

INT:1000000[900000up]+ 767969

DEX:1000000[900000up]+ 760771

LUK:258794 [230889up]+ 744693


魔法:【温度・湿度・光量・硬度・質量・治癒力・物質変化】【錬金】【トレース】


スキル:【スコープ[SKB]10,637,000km】【インベントリ(ヒメのなんだからね!)】【必要経験値固定】【迷彩】【ショートカット】【メモ】【アイテムドロップ[アルロライエのセンスで]】【召喚】【スキルバフ】【ステータスバフ】【変身】


亜空間プレミアムオプション:【埋設リンク型転移ゲート 未知MAX:135光年】





名前:ハナ

種族:神獣イデア[幼獣]


Lv:256034[231585up]

HP:753383

MP:748842


STR:748754

VIT:767826

AGI:768108

INT:767969

DEX:761771

LUK:744693


固有スキル:【忠誠】【仁愛】【智伝】【義憤】【礼拝】【光線】【滅界[NEW!]】





名前:ウル

種族:無限のヒロニウムスライミー


Lv:284106[256320up]

HP:1144180

HP自動回復:1秒35%回復

MP:1026260


STR:1067015

VIT:1335205

AGI:1363110

INT:889280

DEX:1149545

LUK:983720


固有スキル:【神速移動&変形&変質&変色&飛行&分裂&合体&通信&転移】


固有技:神速攻撃各種&防御各種&吸収 ヒロニウムメイデン


固有体質:体内に複数の亜空間収納ポケットを持つ[性能と数は栄養状態による]





『……なんだかさぁ、神である私が言うのもなんだけどさ、神話の登場人物みたい♪ 笑っちゃうわ♪』


『ピキュ~。ウル的にはもう、漲りまくり過ぎて、すっかり落ち着いてしまったのでピキュ~。ハナちんの【仁愛】も大きな壁を超えてしまったみたいなのでピキュ~。ウルもヒロさんも3秒あれば死体直前からでも全回復なのでピキュ~』


『壁を超えたと言えばさぁ、ヒロとウルちゃんのスキルや技の表記も簡略化されてシンプル表示になっちゃってるわよね~』


《あ、それはわたしです♪ なんとなく整頓してみました~。レベルとは無関係です♪》


『関係ないのかい!』


『ヒロさんのMPが合算で1億に届きそうに見えるのはウルだけピキュか? これはウルが今突然患ってしまった【急性MP1億近くに見える脳炎】のせいピキュか? ピキュか? ピキュか? ねぇヒメさ~ん』


『ウルちゃん落ち着いて。大丈夫よ。わたしにもヒロの合算MPが96503103に見えてるわ』


『ピ……ピキュ~~~~~~。病気のせいであってほしかった……と言えなくもないのでピキュ~~~~~』


『転移ゲートの未知ゾーンワープ距離も135光年ってなってるわ……。一発で宇宙の果ての書き割り突き破って宇宙拡張工事中の現場に飛び込んじゃう性能ってことよね……』


『それとピキュ…… ハナちんの…… 新固有スキルの…… 【滅界[NEW!]】っていうのが…… ウルはなんだか恐ろしいのでピキュ~~~』


『ウルちゃん耐えて! 恐怖に打ち勝つのよ! 私たち二人で勇気を合わせれば、説明文を読むことだって出来るわ! さあ! アルロライエちゃん! 表示して!』


《みなさん、      お覚悟を》


『ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ』

『ピキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ』


 アルロライエはみんなの視界にハナの新スキル【滅界】の詳細を表示した。




■滅界[めっかい]

神獣イデアがレベル十万を超えると発現する固有スキル。

神獣イデアが世界を気に入らなかった場合に“滅界!”と唱えると世界が滅する。

神獣イデアはその瞬間、別の世界に転生する。




『んきゃぁぁぁぁああああああああーーーーー!!! 思ってたのより怖いし! 怖すぎるし!!』


『ヒメさ~~~~ん、ウルは…… ウルは…… ウルはもう、何の気なしにハナちんとじゃれ合うことも躊躇われるのでピキュ~~~~! もうこれからは【ハナちんへの接待】が頭をよぎって自由奔放な家族付き合いに支障が出て出て出て出て出まくってしまうのでピキュ~!! こいつは大変迷惑なスキルなのでピキュ~~~~~~~~~!!!』


《ご安心ください♪》


『え?』

『ピキュ?』


《神獣イデアが幼獣のあいだは【滅界】を持っていても使用できません♪》


『し、神獣イデアが……妖獣な期間って……』


《大体千年から二千年と言われています♪》



『と…… とりあえず、窮地は脱したようね、ウルちゃん!』


『ヒメさん、やはりウルとヒメさんがチカラを合わせて勇気を振り絞れば、世界の安寧を守れることが証明されたのでピキュ! ホントーに世界が滅びなくて良かったのでピキュ~』


『おまえら、なぁ~にフザケあってるんだよ~。ハナが俺らの居る世界を滅するなんてことあるワケ無ぇーだろーに~。さ、そろそろスキヤキの準備が出来たから食べよぉ~っと♪』


『ヒロ…… 本当にスキヤキ作るつもりだったんだ……。てか、あんた砂糖入れすぎじゃない!?』


『なに言ってんだよヒメ~。スキヤキってーのはな、【良い肉にこれでもかってくらいの砂糖と適量の醤油を吸わせ、その肉だけを焼きながら食い始める】のが王道のスタートだろうよ~。いきなり大サビ。いきなり大オチ。例えるなら【六扇子の冒頭で主演のブル・スウィリスが“やぁみんな、俺はこの物語の主人公だ。最初の発砲シーンで実は俺ってば死んじまっててさ、その後から出てくる俺は幽霊だから、そのへん頭に入れて盛り上がって観てくれよな♪”っつー語りで映画が始まっちゃう】くらいのダイナミズムが醍醐味なんだよ! 糖と油のラディカルなマリアージュによって全身を駆け巡る血糖値急上昇のまどろみと罪悪感。その代償として得られる濃いぃ~快楽はもはや【罪オブ罪】だ。しかしそれでも食うのだ。甘濃いぃ~うまうまぁ~な肉を噛み締め飲み込めば、そこはいつしかホテル桃源郷本館プレミアムデラックススイート。薄味のスキヤキなんて、ただの【じゃが抜きの肉じゃが】じゃねーか。野菜やら豆腐やらしらたきやらと一緒に煮るのは頭サビのあとだぜ♪』


『まぁ、食べるのヒロだけだから好きにすりゃい~けどね~。どのみち血糖値スパイクとも糖尿病とも無関係な3秒自動回復超健康人間なんだからさー』


『血糖値スパイクに絡めたからって棘のある言い方すんなよな~。ヒトには其々、譲れないこだわりってーやつがあるんだよ。オレで言えば、スキヤキは甘く、カレーは甘く、麻婆豆腐は甘く、刺し身醤油は甘く、焼肉のタレは甘く、みたいなさ♪』


『全部甘口じゃないのよ! ヒロってば辛いの苦手な子だったのね~』


『いやいや、そーゆー訳でもないんだよコレが。例えばカレーや麻婆豆腐だと、そこそこ辛口なのも美味しくいただけるっちゃーいただけるんだけれどもな、【強いて言うなら甘口がより好み】って感じなんだよ。別に“ボク辛いの食べられないんだよぉ~”ってタイプの甘党ではなくてだな、【ストライクゾーン広くて大概ヒット打てるんだけれども、絶好球のホームランボールだと思うのは外角低め♪】みたいな?』


『しらんがな』


『つ、冷たっ!』


『ウルは分かったのでピキュ! つまりヒロさんが何だかんだダラダラと御託を並べて伝えたかったこととは、“甘じょっぱい食べ物が一番好き!”ということなのでピキュ~♪』


『…………ま、まぁなー』


『簡単な話よね~』


『ピ、ピキュ! そんなことよりルナ泉邸の動きが慌ただしくなっているのでピキュ! ヒロさん急ぐのでピキュ!』


『おっ! スキヤキがらみでけっこ~時間経ってちゃったんだな。ヤバい!』


 ヒロは慌ててルナ泉邸のヒロ部屋に戻り、予め敷いてあった布団に潜り込むのだった。





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