アルロライエの告白




ドタドタドタ


「おぉ~~いプー! 朝だぞぉー♪ 起きてっか~~!?」


スタンッ!


 ラビ子は何の躊躇もなくヒロ部屋の襖戸を勢いよく開けた。


「おわっ! ……あ、ラビ子さん、おはようございます~(ニコリ)」


「なっはっは~~♪ びっくりしただろ? ラビ式波動術奥義【竜巻旋風昇竜起こし】だぞ♪」


「……な、なかなかに強力な技ですねぇ~。モロに食らっちゃいました~」


「だろ? プーもまだまだ修行の余地が残ってるな! さあ、朝の体操すっぞ♪」


「た、体操?」


「いーからいーから♪ ついて来いっつーの!」


 ラビ子は戸惑うヒロの手を掴み、グイグイ引きずり、中庭用の下駄を履かせ、【ラビ式波動術・朝の体操】なるものの心得を説いた。


「……というわけだ。【ラビ式波動術・朝の体操】の重要性、分かったな♪ おいプー、最初は憶えるトコからだけど、気ぃ抜くんじゃねーぞ~! これから毎日続けていくんだからな♪」


「あ、あのラビ子さん、オレまだ寝巻きなんスけど……。あと下駄だし。ちょっと着替えてもいいですか?」


「なんだよプー、けっこー細かいことにうるさい奴だなぁ~。今日は初日だし憶えることに専念すりゃいーって。つーか寝巻きでだってそこそこ動けるだろ~? 簀巻きだったら動けないけどな♪ さぁ、やるぞ~!」


 ラビ子は笑いながらヒロの着替えを許さず、ハツラツと体操を始める。

 ヒロは必死に【ラビ式波動術・朝の体操】を記憶しながら見様見真似でついていくのだった。


 そして三十分が経過し、ようやく【ラビ式波動術・朝の体操】は終了した。


「よし! おわりだ♪ プー、明日からは今日憶えたこの体操をきっちりやるんだぞ。今日みたいにアタフタやってたらなんも身に付かないからな! たかが体操なんて思わずビシッとな♪」


「……は、はい」


「よし! んじゃ~一旦休憩だ♪ あたしは朝飯作るからプーは部屋で待機な! 出来たら呼ぶからな~~♪」


 ラビ子は御機嫌に台所に向かって去っていった。

 ヒロはその姿を見届けると、部屋に戻るやいなや念話を開始する。


『つーかなんなんだよあの【ラビ式波動術・朝の体操】ってのはよ! 複雑極まりない流動的な全身運動が三十分間延々と続くんだぞ! しかも同じセットやルーチンどころか、ひとつの動きさえも一度として再登場しないっつー鬼体操だよ! オレじゃなかったら絶対三十秒でギブアップだぞ!? 難題にも程があるっつーの!』


『まぁまぁヒロ、そんなにカリカリしないの~笑。 で、どーなの? 憶えられたの?』


『憶えたよ! もう既に脳内反覆シミュレーション二十回くらいはやったから完璧だよ! 本気で再現すれば“これでオレもラビ式波動術師範代だね♪”ってくらいにマスターしたよ! 文句あっか!?』


『おおぉぉ、さすが[LUK以外]全ステ値百万オーバー男! 記憶力も処理速度も神の領域に突入してるわねぇ~♪』


『ヒロさん凄すぎるのでピキュ~! ウルなんて見てるだけで酔いそうだったピキュから、すぐに周辺警戒モードに切り替えて体操は見て見ぬふりに徹したのでピキュ~。あんな複雑で流動的な三十分1セットの連続運動、憶えようとする奴の気が知れないのでピキュ~』


『ウルさん、それオレだから。気を知ってくれ。オレの切実な気を……』


『でもまさか、朝の体操で【バケモノの域に突入したヒロ】の【ミリオンなステータスの真価】を知ることになるとはね~。難題はどこに転がってるか分からないものね♪』


『いや、マジで。なんならこの世界に来てから一番集中力使ったかも知れんぞ。くぅぅ~強敵だったぜ、【ラビ式波動術・朝の体操】~』


『おつかれだったね~ヒロ。がんばったから、ハナランドの真ん中で一度も鍋に投入されることなく乾燥しちゃった野菜と豆腐としらたきの事は水に流してあげるわね~』


『乾燥しちゃっただけに水に流すのでピキュ~♪』


『あ…… すっかり忘れてた。結局オレは砂糖醤油味の焼肉を食ったってだけだったのか……』


『てゆーかさ、すぐに朝食でしょ? ヒロ、お腹の具合だいじょうぶなの?』


『ノンノンノン。そこについては心配ご無用だぜヒメ~。オレの胃袋は無限の亜空間だぜ~。そこいらの凡人とはスペックが違うのだよスペックが。なんならホントーに許容量ヤバくなってきたら【胃の内容物だけインベントリ送り】って荒業も出来っからな。つまりオレは【気のいい先輩に“オレのおごりだから遠慮せずどんどん食え♪ 俺はたくさん食うやつが大好きなんだよ~♪”とか言われつつガチで追加注文が終わらない止まらない状態の拷問のようなシチュエーション】に遭遇したとしても、全く顔色ひとつ変えずに“うまいっス! 先輩が先輩で最高っス! オレ先輩の後輩に生まれて恐悦至極っス~!”とか言いながら食って食って食い続け、終いには“お、おい、いくらなんでもそんなに食ったら体壊すんじゃないか? ……そろそろ追加オーダー、止めてもいい……かな?”なんて自発的に言わしちゃうことすら実現可能な男なのだよ。あの、【後輩がギブアップして謝らないと追加オーダー止めてくれない先輩】にだよ? すごいだろ~♪』


『……あんた本当に【人外スペック保持者】なの? あの桁外れの数値群がだんだん怪しく思えてきたわ~。ひょっとしたらアルロライエちゃんが私達に見せ続けてる【幻影】なんじゃないかしら……』


『ヒメさん! 【おごり好きな先輩】を軽く見てはいけないのでピキュ! 大抵の個体は常識的範疇な満腹で満足してくれるピキュが、中には極稀に【サディストとしての快楽】を【後輩への飯食わせ】に求めてしまう極悪非道系な【はぐれグラフメルト食らいね~キング】が存在するのでピキュ~! 恐ろしい話なのでピキュピキュ~』


『ふぅ~ん。ウルちゃんみたいな存在でも、そんなトラウマ体験刻み込まれたことあるんだ~』


『無いピキュ』


『ズコッ! テキトーにヒロに合わせてただけなんじゃないの! もぉ~時間帰してよ~』


『ごめんなさいなのでピキュ~♪』


《ちなみにヒロ様の数値は幻影ではありません。ガチです》


『はいはい、アルロライエちゃんも分かったわよ~。……ってかさ、あなた最近ヒロのこと“ヒロ様”ってよく呼んでるけど、【神であるあなた】が【管理対象の只の人間であるヒロ】に【様】なんて付けなくて……いや、むしろ付けない方がいいんじゃなの?』


《……それには…… 深い訳が……》


『まぁ、アルロライエちゃんってばヒロのこと大好きだからね~。無理もないかー(苦笑)』


《!!! ぇえっっっ! …………ど、ど、どどどどーしてそのことを!?》


『…………え?』


《と、匿名神掲示板25ちゃんねるの【大っぴらに言えない恋の悩み ~神故に、神だけに~】スレに細かい事情や実名も含めて書き込みまくってたのがバレた!? いやいや、終始一貫して【名無神さんは禁断好き】って空白テンプレ名で書き込んでたから匿名性は守られてる筈……。それともヒルデマイアに相談したのが漏れた!? たしかにヒルデの奴は自ら“アタイの口の堅さはカーボランサー級よ♪”とか言いながらもちょいちょい“これは誰にも言っちゃダメよ。アタイたち二人だけの秘密だかんね。実はさ、亜空間管理課にアイネリンガって娘いるっしょ? あいつ、直属の課長とアレなアレなんだけどさ、なんと、その更に上の直属の部長ともアレがアレしてアレしてアレでって話なのよ~。本人に聞いたから間違いないわ。怖いわよねぇ~女の情欲ってさー。あ、コレ絶対に秘密だかんね!”的な話ペラペラ喋ってたし……。いやいや、でもヒルデは“アンタのその恋バナ、アタイ絶対ひみつにすっかんね! 信用してちょんまげ♪”って言ってたから大丈夫な筈……。それとも近隣の神社という神社に“人間であるヒロさんと立場を越えた関係になれますように(切実)byアルロライエ”って書いた絵馬ぶら下げまくったのが誰かに読まれた!? いやいや、他神の書いた絵馬の内容読む神なんて居ない筈……。それとも……》


『アルロライエちゃん……』


《ブツブツ…… ブツブツ……》


『アルロライエちゃんってば!』


《ぬはぅっ!》


『アルロライエちゃん、だいじょうぶ?』


《………………はい。アルロライエですがなにか?》


『あのさ、さっきからあなたの独り言みたいな話がテキストでダダ漏れに漏れまくってるわよ~』


《えっ!? …………ああぁぁぁああああああ!!! 急いでログ消さなきゃ! ヒ、ヒロさんは……》


『あぁ~、ヒロならスキヤキで無駄にしちゃった【野菜と豆腐としらたき】をどーするか思案中だから多分まともには見てないと思うわよ~。わたしも途中からあなたとのダイレクト念話に切り替えてるしね~』


 アルロライエは0.000001秒で漏れ出た独白テキストをスクリーンのログから消去した。




《…………と、ところでヒメさん、》


 アルロライエはヒメ直通念話で語りかける。


『え? な…… 何かな?』


《以前、【ヒロ様がレベル100に至るまでの情緒的なアレコレや心の動き的な機微機微】を教えていただく代わりに【ヒメさんの特殊な事情や立場】については目を瞑り、なんなら秘匿隠蔽に協力する……という密約を交わした真の神友として質問なんですが……》


『は、はいな』


《わたしがヒロ様をお慕いしているという極秘情報、その門外不出のトップシークレットを、どこで…… どーやって、お知りになられましたか?》


 ヒメは一瞬立ち眩んだものの、己の[心の]膝を[心の]拳で殴り、[心の]体制を立て直し、[心で]よろけながらもため息交じりで念話を始めた。


『…………あのねぇ、そんなの、ダダ漏れの透け透けの見え見えのバレバレよ~。あなたのテキストメッセージ読んでれば誰だってすぐ分かることよ。あぁ、アルロライエちゃんはヒロのことが好きなんだなぁ~って。もう文字と文字の隙間にも【好き】が滲み出てるくらいなのよ。あなたまさか、本当に自覚が無かったの?』


《無かった》


『あんたやっぱアホだわ♪』


《!!!……………………わたしが………………アホ………………》


『あぁ~、まぁ、そんなに悩まないで~(苦笑) 実はヒロもわたしもウルちゃんもみんな、アホっちゃ~アホだからさ~。アホな会話が大好きでアホなこだわりが強くってアホな生き方しかできない、そりゃも~私達の日常はアホ成分パンパンの毎日よ~。だからアルロライエちゃんも立派なアホとして、アホなこといっぱい共有していこうね~♪』


《…………はい、ヒメさんのお言葉でなんだか勇気が出てきました。アホを自覚することにアホ快楽が宿る……的な》


『まぁ、テキトーよ、テキトー。不都合なことはサラッと忘れて楽しくいこーじゃないの♪』


《は、はいっ! …………ただ、あの…… ヒロさんは私の想いについて…… 何かおっしゃってましたか?》


『ん? あ、……あ~~~、はいはい。アルロライエちゃん、すっかり忘れてたけどさ、誰にでも分かる【アルロライエちゃんのヒロへの想い】なんだけど、ヒロだけは気付いてないから(笑)』


《……え?》


『そうそう、ヒロだけはそーなのよ~。時々やたらカンのいい事言い出すこともあるけどさ、アルロライエちゃん問題に関しては、【多分オレ、アルロライエちゃんに気に入られてると思うぞ♪ だっていろいろ協力してくれるもん♪】くらいの、【恋心】なんて全く受信しないポンコツレーダーだと思うわよ~』


《そ…… そうなんですか。なんだかホッとしたやら哀しいやら虚しいやら……ですね。来月の連休、実家にでも帰ってみようかな…… ふるさとの空…… 懐かしいな……》


『まぁまぁ、ヒロのそんなところも魅力のひとつっちゃ~ひとつじゃない? のんびりやっていきましょ♪』


《あの、ヒメさん、》


『ん?』


《ヒメさんは、【わたし】という【若くて美しくて知的でほんわかした空前絶後のライバル】が、こーして白日のもと燦々と登場したことに、なんといいますか、苛立ちとか…… 不安とか…… 不満とか…… 嫉妬とか…… 焦りとか…… 敗北感とか…… 絶望感とか…… ないんですか?》


『あんた遠慮ない表現使うわね。大物よ。わたしが保証するわ』


《ご、ごめんなさい。ペコリメンゴ》


『いやいや、いーのいーの♪ そっか~~。そうよね~~。ん~~なんかさ、【ライバル】っていうよりは、やっぱ【家族】みたいに思えちゃうんだよね~。わたしってば神界ではお尋ね者で逃亡者的な立場じゃん? そんで向こう千年くらいはどー足掻いたってヒロの実体と抱きしめ合うことも子供を生むこともできない意識体みたいなもんでしょ? だからなのかなぁ。いや、それよりもヒロの性格に影響されてる因子の方が大きいのかもしれないけどさ、【恋】的な感情には達観しちゃってる感が否めないのよね~。もちろんヒロはわたしの宿主だから、まず第一に【死なれると困る】ってゆー打算的な依存が無いと言ったら嘘になるけど、なんかね、ヒロと毎日ワイワイやってるとね、神界での過去の遺恨やしがらみが“どーだってい~ことなのかもなぁ~”って思えてきちゃうのよ~。その感覚が心地良いのよね~♪』


《わかります、ソレ。わたしもヒロ様に協力するのがつい楽しくて【管理神の絶対的規約全888条】の中の数百個をサラッと無視したことありますもん♪》


『だっしょぉ~~? あいつって、なんか【神を蕩けさす成分】みたいなの出してんのかもね~♪』


《ですねっ♪》


 この後もヒメとアルロライエのガールズトークは数え切れないほどのラリーを繰り返して穏便に幕を閉じた。

 しかし実際に要した時間は人間時間にして僅か数秒間の出来事だった。





《ところでヒメさん》


『ん? なになに?』


《この話のとっかかりと言いますか、話を元に戻してもいいでしょうか?》


『…………なんだっけ?』


《わたしがヒロ様のことを【様】付けでお呼びすること……の話です》


『え? 好きだから……じゃないの?』


《違います。……いや、好きじゃないという意味ではなく、【様】を付ける理由が【好きだから】ではないという意味です。【好きだから】という理由だけでしたら、わたしは【様】など付けず、【ダーリン】などと呼びつつ、なんなら語尾に【だっちゃ】などを盛り込み、好き故に許せないことがあれば都度都度【電撃】的なお仕置きをヒロ様に浴びせるような日常を謳歌することでしょう。あふっ。鼻血が……》


『アルロライエちゃん?』


《あ…… ペコリンコ。ほ、本題です。わたしがヒロ様に【様】を付ける理由なんですが、それは……》


『…………ごくり』


《…………暫く二人だけの秘密にしててくださいね?》


『はやく言いなさいよ!』


《ペコリンコメンゴ。それはですね、ヒロ様が既に【神であるわたしのスペックを部分的に超えてしまったから】なのです、はい》


『………………そ、それね~~。理解できるわ。わたしも神だから』


《ですよね、この深刻な問題、相談できるのも理解してくれるのも、ヒメさんしか居ないんですよ~~》


『確かに、宇宙へ出てからのヒロのレベルやステ値の上がりっぷりは【異常】と言って間違いないわ。特にマルースからミズアスに至る最近の指数関数的な上昇っぷりはもはや神レベル。いや例えじゃなくね。わたしはまだまだヒロより強いけどさ、“ひょっとしたらそろそろ若い神のスペックくらいは超えちゃってるんじゃないかなぁ”って漠然とは思っていたのよねー。まさかこんなに近くに実例が居たとは……。アルロライエちゃん、ドンマイ♪ 気にすんな♪』


《ど、ドンマイじゃないですよ! わたし神なんですよ!? しかもこの世界の管理神なんですよ!? どこの世界に【自分が管理する世界の転生者にスペック超えられちゃってる神】が居るっていうんですか!?》


『ここの世界(ニヤニヤ)』


《かっこにやにやじゃないですよ! …………ま、まぁ、だからと言って実際にどんな問題が起こったかと言えば、別に大したことは起こってないんですけどね……》


『でしょでしょ~? せいぜい【宇宙のサイズ小さく見積もりすぎて果ての書き割りバレちゃった問題】くらいっしょ~? アレ、怒られた?』


《そーでもありませんでした。過去に【予算縮小を唱えてゴリ押ししていた勢力】の主要神数名を報告書にて淡々と批判しましたところ、矛先は全てそちらに……。結果、この世界の宇宙は現在も拡張工事中ではありますが、既に直径600億光年くらいまで大きくなっております。まぁ、宇宙はとんでもない速度で膨張し続けているってオチで一件落着ですね♪》


『言い得て妙ねぇ~。アルロライエちゃん、あなたなかなか出来る子なのかもね~♪』


《かもねじゃなくて出来る子です》


『まぁ~、そんなあなたがヒロに抜かれちゃったってのは、確かにプライド傷ついたかもだけどさ、例えば【ヒロがあなたの最高傑作】だと思えば、自分のことのように成長を喜べるんじゃない?』


《はい、そのとーりです♪》


『んじゃ~この話も一件落着ね♪ 別に抜かれたって言ったって、全ての能力で抜かれたわけじゃないんでしょ?』


《モチのロン、大三元字一色四暗刻単騎、ルールによってはクアドラプル役満です。わたしは【開発・生産系】が得意な理系草食乙女科学神なので、それ系の分野ではまだまだ、まぁ~だまだまだまだ、と言うよりヒロさんに抜かれるどころか迫られることすらも永遠に無いと断言できますが、こと【戦闘系】の能力においては……もう勝てません。わたしが実体化してヒロさんと殺り合った場合、まずヒロさんの圧勝で終わるでしょう。まぁ、わたしが【命乞いし~の、泣き落としし~の、背後に回り込み~の、抱きつくと見せかけ~の、全力で脳破壊】とかに打って出れば、勝機もあるでしょうが……テヘ♪》


『テヘじゃないでしょテヘじゃ~~。そんな物騒な作戦やめてあげてよね~』


《ペコリメンゴ》


『でもまぁ、非戦闘タイプとの比較とは言え、ヒロが既に【神の領域】に先っちょだけでも入りかけてるってのは、わたしとアルロライエちゃんとで特別に意識しておいた方がいーわね。これからヒロは【この世界の金持ちや権力者】なんかより、【好奇心旺盛などっかの神】に目をつけられないよう生きなきゃいけないかも……だもんね~~』


《そーなんですよ。マジな話》


『だねぇ~~』


《ですです~~》


 そんな中、二神の心配を他所に、【野菜と豆腐としらたき】の処理を終えたヒロはルナ泉邸ヒロ部屋に帰還した。


『いやぁぁ~~ヒメ、暫くだんまりだったけど見ててくれた? 心配したほど野菜も豆腐もしらたきも乾いたり傷んだりしてなかっただろ? “おっ! このまま次に鍋する時にも使えるな♪”って程度だったからさ、改めてインベントリ内で超純水による洗浄と殺菌作業をマクロ化してみたやつ、アレい~アイデアっしょ? これで何の廃棄食材もなく次回の鍋に向き合えるってもんだな♪ インベントリの中で白菜の薄~い葉っぱの先端までシャキッと蘇った時は“キターーーッ!”って思ったっしょ? ね? ね?』


『…………あんたはほんと、呑気でいーわねー』


『な、なんだよ! 白菜の葉一枚一枚にも存在意義や存在価値があるんだぞ!? 次の鍋……多分豚味噌系になると思うけどさ、そん時になって気付くことになるぞ! オレの【未来を見通す神レベルの眼力】を……な!』


『はいはい、近々あんたは豚味噌鍋作って今日余った食材ぶっこんで美味しく食べるんでしょ? すごいすごーい』


『むっきーーーー! なんつー豚味噌鍋軽視な態度! ヒメ、例え豚と味噌と白菜の付喪神が許してもオレは許さんぞ! そもそも豚と味噌と白菜の相性というのはだな、三国志で例えればだな、』


 そのとき台所から元気な声が響く。


「おおぉーーいプー! 朝飯出来たぞーー! 早く来いよーーー♪」


『ほらヒロ、ごはんだよ! この話の続きはいつか遠い未来……5万年後くらいに聞くから今日はここまでね♪』


 ヒロは渋々立ち上がり、一瞬で普段着に着替えると、ブツブツと念話で【ヒメの豚味噌白菜鍋に対する食いつきの悪さ】に文句を言いながら襖戸を開け台所に向かうのだった。




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