ラビ子への告白
台所に入ると、昨晩と同じ位置にラビ之介が鎮座していた。
大きなちゃぶ台には出来立ての朝食が並んでいる。
ヒロはラビ之介に挨拶すると、そっと座布団に胡座をかいた。
「いやぁ~、朝から豪勢ですね~」
各自の前には【どんぶり白飯[特盛]】【豚汁[大]】【納豆】【焼き魚】【卵焼き】【豚キムチ】【エビフライ[特大×3尾]】【アスパラの肉巻き】【肉じゃが】【ニンジンとレンコンのきんぴら】が並んでおり、ちゃぶ台中央には大皿で【サラダ】と【漬物盛り合わせ】と【刺し身盛り合わせ】っぽいもの[※全てルナスタウン風]が並んでいた。
「ん? そーか? 大体毎朝こんなもんだぞ?」
「マジですか!? こんなに盛りだくさんの朝ごはん、生まれて初めて食べますよ~」
「……プー、…………オマエ、きっと貧しかったんだな……。これからは遠慮せず腹いっぱい食えよな!♪」
ラビ子はヒロの背中をバシッと叩くと、御機嫌に両手を合わせた。
「そんじゃ、いっただっきまーす!♪」
「頂きます……」
「いただきますぅ~(食えるかな……コレ)」
かくして、ヒロにとっては大食い大会さながらの朝食が幕を開けた。
そして食事中もラビ子の会話は弾んでいた。
「プーどーだ? 口に合うか? 嫌いなのがあったら残せばいーんだぜ?」
「いや、どれもすごく美味しいです。この卵焼き、甘じょっぱい味付けが最高です。あとこの肉じゃがなんて、オレが今まで食べたどんなスキヤキよりも美味しいですよ……(ヤバい。また涙腺が……)」
「なっ!? な、なーに目ぇ潤ませて言ってんだよプー! 肉じゃががスキヤキに勝てるわけねーだろ~~。オマエはほんとにお世辞が上手いな! リップサービスって分かってても嬉しくなってくるぜ♪」
「いやほんと。ほんとうなんですよ。これが…… 参ったな……」
ヒロは昨晩の二の舞いになってはなるものかと【ゴブリンとエトーによる再生可能エネルギーについてのディベート合戦】や【グングニル毒ガエルの淡い初恋からの失恋】などを頭に思い浮かべながら、溢れかけた涙をグッと抑え、ガツガツと美味しく朝食を食べ続けるのだった。
◇
「ごっちそーさまーー!♪」
「御馳走様……」
「ごちそうさまでした~~(ヤバい。腹が破裂するかも……)」
「ところでプー、オマエ、とーぜん予定なんて無いんだろ?」
食後の後片付けを始めたラビ子から、質問がヒロに飛ぶ。
「……はい。元々根無し草で予定も無い人間ですからね~」
ヒロは後片付けを手伝いながら答えた。
「……お、おぉ、悪ぃなぁ~、そんなに気ぃ使わなくたっていーんだぜ?」
「いやいや、施しを受けてお手伝いもしないなんて、ありえませんよ。当然のことです~♪」
「そ、そっか……。んじゃあ遠慮なく手伝ってもらうかな! でさ、今日の予定なんだけどな、」
「はい」
「……あたしに、……稽古をつけてほしいんだよ」
ラビ子が少し頬を染めながら、呟いた。
「え? 稽古? オレが? ラビ子さんに?」
「……うん。…………ダメか?」
ヒロは無意識に流し台から振り返り、ラビ之介の方を確認する。
するとそこにはもうラビ之介の姿はなかった。
「あ…… いや…… ダメじゃないですけど…… ラビ子さん、学校は行かなくていいんですか?」
「学校? そんなの行きたい時に行けばいーじゃねーか。単位制だしよ。プー、……オマエ学校行ったこと無ぇのか?」
「ん? え? あーーーはい、知ったかぶっちゃってサーセン~。オレ実はよく憶えてないんですよね~エヘヘ」
「まぁ記憶喪失だもんな、無理もないよな~。でな、そーゆーことで、今日はみっちり、オマエの動きや技をあたしに教えてほしいんだよ! 道場の使用許可もオヤジに言って貰ってるからさ! なあ、ダメか?」
ラビ子の上目遣いに対し、ヒロは数秒の沈黙のあとに口を開いた。
「ダメ…… ではないですけど……」
「マジか!? やった! サンキューなプー! よぉぉ~し、さっさと片付けと洗い物と洗濯と掃除済ませて修行だあああ! いっそがしくなるぞおおお~~♪」
ラビ子は小躍りしながら嬉しそうに家事に取り掛かるのだった。
ヒロはそんなラビ子をただ眺めている気にもなれず、率先して手伝いを買って出る。
最初は“手伝いなんていーからプーは部屋で休んどけって♪”と抵抗していたラビ子だったが、ヒロの熱意に折れたのか、戸惑いながらも一緒に家事を進めるのだった。
「ふぅ~、これで大体終わりだ! プーサンキューな♪ オマエみたいな奴初めてだ! 強ぇのに偉ぇぜ!」
「いえいえ、強いとか弱いとかとは関係のない話ですよ。オレはただ、手伝いたかっただけですから……」
「そ、……そっか。ありがとな、手伝ってくれて……」
「こちらこそ、おいしい食事に寝床まで与えてくださりありがとうございます。この恩はずっと忘れません」
「お、おう! んじゃあそろそろ道場に行こーぜ!」
「はい。喜んで」
ヒロはラビ子の後に付いて道場に向かった。
◇
ラビ式波動術宋家道場はフットサルコートほどの広さで、日本の空手道場などと比べるとかなり広く、小さな体育館と思えるほどのサイズだった。
床は頑丈な板の間で、ピカピカに掃除が行き届いている。
そんな空間の中央で、5mほど離れて向かい合うヒロとラビ子。
ふたりきりの道場は静まり返っていた。
そんな中、沈黙に耐えきれなくなったかのようにラビ子が話し出す。
「プー、あたしのわがままに付き合ってくれてありがとな! 本当はこんなことしたくないんだろうけど、なんか、飯と寝床で脅迫しちまったみてーで悪ぃ。そんで、結局は快く引き受けてくれてホント嬉しいぜ♪」
ラビ子は少し照れくさそうにはにかんだ。
「ラビ子さん、こちらこそ、おいしい食事に暖かい寝床まで施してもらい感謝しています。そして何より、どこの誰とも分からない記憶喪失のオレに、何の偏見もなくやさしく接してくださった時間は、まだほんの1日くらいですが、オレは一生忘れません。ありがとうございます」
そしてヒロは大きく息をすると、意を決したかのように再度口を開いた。
「ラビ子さん、実は、ラビ子さんに稽古をつけるに当たって、どうしてもお伝えしておかないといけないことがあります。まずはオレの話を聞いてくださいますか?」
するとラビ子は、少し瞳を潤ませながら、背筋をピンと伸ばし、ヒロの目をしっかりと見つめて微笑んだ。
「プー、オマエ、ラビットルじゃねーんだろ?」
押し黙るヒロ。
道場の外を近所の子供達がはしゃぎ歩く声が聞こえて来て、そして遠ざかっていく。
無限にも思えた時間が経過し、その後、ヒロは一言だけ発した。
「はい」
「……そっか。その姿はニセモノなのか?」
「…………はい」
「……そっか。んじゃあ記憶喪失ってのも、嘘か?」
「はい」
「……そっか。本当の名前は?」
「ヒロと言います」
「……そっか。ヒロか……。ヒロ、」
「はい」
「オマエはテラースから来たのか?」
「はい」
「ラビットル達がテラースの人間を全滅させたいくらい恨んでるのは知ってるのか?」
「はい」
「じゃあオマエは、……正体がバレちまった……オマエは、このあと、何も言わずに消えちまうのか!?」
「…………」
「あたしに黙ってテラースに帰っちまうのか!?」
「…………」
「そんでもう! 二度とルナスタウンには現れないのか!?」
「…………」
「そんなの嫌だぞプー!! たとえオマエがテラースのスパイでも! 流れ者の犯罪者でも! ラビットルに化けた魔物だったとしても!! あたしの前から消えたりしないでくれよ!! ずっと一緒に居てくれよ!! 一緒に修行してくれよ!! あたしの料理をまた美味しいって褒めてくれよ!! 駄菓子屋もザリガニ池もまたつるんでくれよ!! このままお別れなんてあんまりだよ!! プー!! なぁプー!! あたしを…… あたしを…… ひぐっ………… あたしをまた、ひとりぼっちにしないでくれよおぉぉぉぉぉ!!!」
ぐちゃぐちゃな泣き顔でラビ子は絶叫した。
そしてその5m先で向かい合った男は、ラビ子以上にみすぼらしくぐちゃぐちゃな顔で、涙と鼻水にまみれながら、ラビ子のの目から視線を逸らすこと無く、静かに答えるのだった。
「ばい。ぼぢろんよろごんで♪」
ピロン
《ルナ泉ラビ子と家族の契りを結んでおきました (*´∀`*) 》
スクリーンに映し出されたアルロライエのメッセージには選択肢すら無かったのだった。
◇
ラビ子の精神状態が落ち着くまでの数分間、ヒロの脳内ではヒロファミリーによる大念話会議が開かれていた。
『てゆーかヒロさぁ~、もっとスマートにササッと真実を伝えて明るくまとめることも出来たんじゃないの~? ラビ子ちゃんをあんなに泣かしちゃってもぉー。罪な男よねぇ~アンタ』
『……面目ない。もっと上手く立ち回れたはずだったってことは自覚してるし今も反省してる……グスッ』
『しかしピキュ、ラビ子ちゃん、あー見えてカンが鋭かったのでピキュ~。ヒロさんが隠し通せてると思い込んでた秘密の数々が見事なくらいに看破されてたのでピキュ~』
『確かに【道場でのたたみかけ】は見事なモンだったわねぇ~。ヒロってば反論したり弁解したり出来るポイント、ことごとく見失ってたもんね~』
『まったくピキュ! “…………”に次ぐ“…………”の連続防御は見るに耐えない無様なものだったのでピキュ~。ただ、無様だったからと言ってヒロさんを侮る気にはなれないピキュ。なぜならウルは感動しすぎてヒロさん以上にグニョングニョンに無様な姿で号泣しまくってたのでピキュ~。なんなら今も強がってるだけで心の中は号泣ピキュ! 全世界のウルたちがシンクロ大号泣ピキュ!』
『ふっ。ウルさんは相変わらず感動屋さんだな…… グスッ』
『それにしてもさ、どこでバレたんだろうね、ヒロの嘘フルコース……』
《それについてはこのアルロライエがお答えできます。まず、ラビットル種は自分のことを【人間】とは決して言いません。あと、ラビットル種はヒト種と同様に1日に2~3度の食事を摂るのが一般的ですが、朝食がダントツ豪華なのがデフォルトです。あと、ラビットル種の男性は、子供であろうと無職であろうと家事を手伝ったりはしません。これは儒教的父系一族主義の考え方から来るものではなく【家は女性の資産であり家事は女性の聖職】というスラスラ教の信仰から来るもののようです。あと、これが極めつけですが、ラビットル種は“おはよう”や“おやすみ”、“こんにちは”“いただきます”“ごちそうさま”などの生活の中での節目の挨拶時には必ず頭上のバニバニでも小さな信号をぶつけ合って挨拶します。ラビ子さんが何度バニバニ信号を送ってもヒロさんから応答が無かったことが決め手となったのではないでしょうか。以上、若く美しい旬の女神アルロライエが現場からお伝えしました。ペコリンコ》
『アルロライエちゃん、知ってたんなら途中でアドバイスしてよぉ~』
《それについては…… 何度か“あ……”と思う瞬間があったことは事実です。しかし……、ヒロさんは次々と忙しく行動されており、マルースへ行ったかと思えば次はミズアスへと赴き、ミズアスの生物……っつーか物質も何もかも、全ての名付けを私に丸投げし、宇宙の果ての書き割りについての説明を求めに求め、1716人の面談部屋の時間経過のレベルも私にとって未体験の高難度なヤツを選択し、あと、私事ではありますが、個神的な悩みも少々抱え込んでいたために、“忙しすぎて【ヒロさんの嘘がラビットルの小娘にバレるかバレないかのアドバイス】なんてしてる余裕無かった”……というのが正直な回答です。ペコリンコメンゴ》
『う…… そー言われちゃうと……』
《いえいえ、私がもっと成長して凄くなればいいというだけのことです。ヒロ様、アルロライエはがんばります!》
『……あ、ありがとう。アルロライエちゃん、あと…… なんかごめんね~』
『まったくよヒロ。そもそもは【ヒロが最初に集めたラビットル情報が極薄の超アメリカンだった】ってことが原因でしょ? 自分の事前調査がザルだったっていう【不都合な真実】を棚に上げて、それをアルロライエちゃんのアドバイス不足に置き換えるのは紳士としてどーなの? 英国紳士としての騎士道精神は無いの? ナイト的サーの称号は持ってないわけ?』
『あるわけねーだろ。オレは元々しがない日本の個人事業主なんだぞ』
『んじゃしょーがないわね、この件は【ヒロの身分不足】ってことで手打ちとしましょう! アルロライエちゃんもそれでいいわね?』
《はい♪》
『ピキュ~♪ なんの話だかサッパリ意味不明だったピキュが、とりあえず歪とは言え、やや丸く収まったかに思えるだけでも、それはそれで良かったと思えなくもないのでピキュ~♪』
『ウルちゃんこらえて! 話を進めたいの! ところでヒロ、ラビ子ちゃんの今後についてはどーするつもりなの? わたしたちみたいに【いつも一緒状態】にするの? それともラビ子ちゃんにはルナスタウンに住み続けてもらって、ヒロが【通い夫】として付き合ってく?』
《ヒメさん、【通い夫】ではなく【通い家族】です。その辺りのデリケートゾーンについての発言はご慎重に! (;`Д´)ノシ 》
『あ、ま、まぁ細かいニュアンスは置いといてさ、ヒロどーするつもり?』
『それな~。そればっかりは【ラビ子さんの思い】を聞いてみないと何とも言えないよ。根本的にオレが決めることじゃないだろ?』
『確かにそーなんだけどさ、ただね、ラビ子ちゃんはヒロから“ラビ子、強くなりたいならオレについて来い! 故郷を捨ててオレと共に来い!”って言ってほしいのかもしれないじゃない?』
『ピキュ! ヒメさん、それが歴史の片隅で噂に聞いた【乙女心】という難解なアナグラムピキュか!?』
『ウルちゃん鋭い! ビンゴよ♪』
《その【乙女心大作戦】には断じて反対します! ("`д´)ノシ 》
『ん~~、オレも反対かなー。多分なんだけどさ、ラビ子さんのあの取り乱し方って、そーゆー類のものじゃなくてだな、……母親との死別が原因なんじゃないかと思うんだよなぁ。いつも側にいて憧れていた強くやさしく凛々しいお母さんをある日突然失ったことで、彼女は耐え難い喪失感や孤独感に苦しんだんだと思うんだよ。その結果、【オレという強者】と出会ったことで【母=強者】の面影を重ね求めてしまった……みたいなさ』
『ふぅ~ん。ヒロもそこそこ鋭いこと言うわね~。普段はニブチンマスターのくせに悪くない分析だと思うわ~』
『誰がニブチンマスターだ。オレはいつだってスルドチンマスターだっつーの!』
『ふふっ♪ やっといつもの調子が戻ってきたみたいね♪ ヒロはヒロらしく、正面からぶつかればいーんじゃない?』
『ありがとヒメ。確かにやっと落ち着いたよ♪ いつもサンキュ~な♡』
『んっ! ……なんのなんの、ヒロあってのわたしだからね~♪ たまには発破かけないとね~』
《【乙女心大作戦】だけは反対です! ヽ(;`Д´)ノシ 》
『……ピキュピキュピキュ~』
こうしてヒロファミリー大念話会議は幕を閉じたのだった。
◇
ラビ式波動術宗家道場には何とも言えない気まずい空気が流れていた。
ヒロとは二度と会えないものだと勘違いし、心の大半を喚き散らしてしまったラビ子。
誤解を解く分岐点はいくつもあったはずなのに、ラビ子の必死さに当てられ、ただ黙ってしまったヒロ。
理由こそ違えど、二人は猛烈に反省し、そして猛烈に照れていた。
「あの…… ラビ子さん?」
「な! なんだプー! 居たのか!? げ、元気だったか!?」
「はい…… おかげさまで、このとおり、元気にやらせてもらってやす……」
「な! なんだそりゃ! 3年前に足抜けした元ヤクザの恩人への挨拶みてーだぞ!」
「すいやせん…… オジキ……」
「あ、あたしはオジキじゃねーぞ! ラビ子だよ! ラビ子!」
「ですよね……。……ラビ子さん、……もう、落ち着きましたか?」
「………………あ、………………うん」
「それはよかった」
「あ、あのさ、プー、」
「はい」
「あ、本当はヒロだっけ? でも、なんか調子狂っちまうからさ、これからもプーって呼んでいいか?」
「もちろんです」
「ありがとな、プー。それと…… 大騒ぎして悪かった」
「いえいえ。オレも嘘ばかりついて、ラビ子さんやラビ之介さんを騙してしまって、……すみませんでした」
「あ、謝らなくちゃいけねーのはこっちの方だぜ! 今思えばさ、嫌がるプーを無理矢理連れ回して、この家に軟禁しちまったのはあたしだからな。……プーごめんな」
「いえいえ、嫌がってなんかいませんでしたよ? とても楽しかったです」
「そうか!? そー言ってもらえると、……こっちも助かるぜ」
「本当のことですよ。ラビ子さん」
「うん。わかった。…………ところでプー、」
「はい」
「オマエの本当の姿、……見せてもらっても、いいか?」
「もちろんです」
ヒロは【変身】を解除し、テラース人ヒロの姿へと戻った。
「おわっ! す、すげー技だな!? テ、テラースの奴らはみんな、そんなスゲー技が使えんのか!?」
「いえ、多分、オレだけだと思います」
「そ、そうなのか。やっぱプーはテラースでも特別にスゲー奴なんだな」
「そうですね。それなりにスゲー奴なんだと思います」
「しかしアレだな? 見た感じ、ラビラビも無くなって、髪や目も黒っぽくなっちまったけどよ、思ってたのとは全然違うな! 雰囲気はプーのままじゃねーか! 安心したぜ!♪」
「思ってたの…… とは?」
「スラスラ教の経典とか学校の資料ではな、テラース人の姿は【身長130cmくらいの五頭身くらいのゴブリン】みたいに描かれてたからよ、あたしはてっきりプーもゴブリンみてーな姿してんのかと思ってたぜ」
「そ、……そーなんですか。テラースには複数の人種がいるんです。オレの種族は【ヒト】というもので、大体みんなこんな感じですよ?」
「そ、そーなのか……。へへ。それがプーの本当の姿か……」
「まぁ、厳密に厳密を重ねて言えば、本来のオレの姿は、今よりオッサン寄りですけどね~」
「ん? どーゆー意味なんだ?」
「ん~~、そのあたりのことは、いずれ追々お話します。少なくともこの世界でのオレの本当の姿はコレです」
「なんかプーは謎の多い奴なんだな。でも、よくわかんねーけどよ、打ち明けてくれてるみてーで嬉しいぜ!」
「はい」
「で、プー、オマエは何の目的でルナスタウンに潜入してたんだ? やっぱ政府機関の工作員だったりすんのか?」
「観光です♪」
「…………か、観光!?」
「はい。テラースで修行を積み、色々と便利な技を習得したオレは、星と星の行き来も出来るようになったんです。それで、まずは一番近い星であるルナースに来てみました。そして、ここルナスタウンを見つけて興味を持ち、観光がてらに散策していた…… っていう、陰謀とかインポッシブルなミッションとかとは無縁の、ただの観光なんです。なんだかスケールの小さい話ですいませんね~」
「そ、それって、テラースの奴らは知ってんのか!? これからも、プーみたいに修行積んだテラースのすげー奴らがルナスタウンに来たりすんのか!?」
「いえいえ、ラビ子さんご安心を。テラースでこんなことが出来る人間はオレの知る限りオレだけですし、百年後も千年後も多分オレだけだと思います。そしてテラース人の中で【オレのあんな能力やこんな能力】を知っている人間は、ごく一部の少数の仲間だけです。テラースの有力者・有識者、その手の人達はオレのことなんて全く知りません」
「…………プーだけが、……特殊なニンゲンって、こと……なのか?」
「はい。そーです」
「…………な、なんかよ、映画とかアニメの世界の話みてーだな! まーあたしは小さい頃から修業の日々だったし、あんまそーゆーの観たことねーからよく分かんねーけどよ」
「にわかに信じてもらえなさそうな話なのは自覚してます。でもまぁ、今のところ嘘は言ってません。混乱しているとは思いますが、オレの話を受け入れてもらうしかないですね~。……あ、混乱ついでにオレの家族を紹介しますよ。さっき【テラース人の中ではオレだけ】的な話をしましたが、別の種族や存在まで範囲を広げると、オレ並み、またはオレ以上のスゲー奴らが居ましてね、それがオレの家族なんです♪」
するとラビ子の脳内に念話が響いた。
『こんにちはラビ子ちゃん! わたしはヒロの脳内に居候してる第一妻のアメノミコトヒメです~。自慢じゃないけど、【神】です、キラン♪ 名前がちょっと長いからこれからは【ヒメ】って呼んでね~♪ あ、第一妻って言ってもまだ当分……千年くらい? はスピリチュアルな関係だと思うからあんま気にしないでね~。あと役割としては【ヒロの生きる道統合幕僚大元帥提督および統括大軍師】って感じ? これから夜露死苦っ♪』
「んぴゃ!?」
次にヒロの体から【生後二ヶ月くらいの柴犬の仔犬にしか見えない神獣イデア】が飛び出し、道場の中を所狭しと走り回った。そしてラビ子にじゃれつきながら、ヒメと同じく念話で挨拶する。
『ラビたん! はじめましてなの! ハナはラビたんのことも好きなの! いっしょに遊ぶの!♪』
「んぴゃぴゃ!?」
次にラビ子の目の前に突然大ぶりのわらび餅のような生物が姿を現し、うやうやしく挨拶する。
「はじめましてなのでピキュ! ウルの名前はウルなのでピキュ! 天然由来の生物の中ではヒロさんに次いで世界二位の強さを誇る【無限のヒロニウムスライミー】という種族なのでピキュ! 一応生物学的見地から言えば【スライミー】の亜種なのでピキュが、もはやそんな細かいことはどーでもいーってくらいにワンアンドオンリーな存在故にウルはウルなのでピキュ~♪ 今はフツーに喋ってるピキュが、もちろん念話もペラペラな倍々ゲームリンガルなのでピキュ! ちなみに分裂とかワープとかもできるピキュよ!」
「んぴゃぴゃい!?」
次にラビ子の目の前に突然妖精のような生物が姿を現し、羽をパタパタさせながら飛び回ってかわいらしく挨拶する。
「はじめましてなのです! チチサマの娘のヒロリエルなのです♪ ひーたんはフレーム由来の神テクノロジー最先端な生命体なのですがゆえに【生物なのかAIなのか論争】が巻き起こりがちな因子を内包する唯一無二の特殊生命体なのです! でも実際はスペック的に人間や魔物を遥かに凌駕するれっきとした進化系女の子天使なのです♪ 肉弾戦や斬り合いでは世界最強なのです! チチサマだってチョロいのです♪ ただ最近……このひーたんの実力を持ってしてもチチサマが手こずるくらい強くなって来てるのです。ちょっと焦るゼなのです。でもでも、チチサマが強くなるってことは【魔ポイント】もそれだけ増えるってことで、それつまり【ひーたんもさらに強くなる】ってことなのです! だからチチサマはチョロいけどひーたんの全ての根源で根幹なのです♪ においも落ち着く~のなのれすぅ♡ あと、ラビたんには見えるように調整してるなのですが、普段は家族以外、誰にもひーたんのこと見えてないのです♪ もちろん念話もチョロいのです♪」
「ぴゃ…………」
そして最後に、ラビ子の視聴覚に文字列と音声が届いた。
《はじめましてラビ子さん。ヒロ様の能力的バックアップや支援を担当しておりますアルロライエと申します。というより【この世界の管理神】です。ペコリンコ。神界有数のお嬢様カレッジ【ジョチーヌ学園】在学中に【ミス★ソフィアンヌ】に選出された経歴を持つ女神です。おっとりほんわかしているようで時には切れ味鋭く、幼馴染のように心許せたかと思えばエンシェント女王様の如き荘厳さも兼ね備えている、お嫁さんにしたい女神3年連続グランプリから~の殿堂入りを果たした絶世のイイオンナ……と神界で常日頃囁かれている……という噂が絶えないエベレスト級の高嶺に咲く花[アルティメット胡蝶蘭]です。ヒロ様からは絶大な信頼を得ており、【うまいんだなぁ棒の買い出し】から【チキン野郎ラーメンの凹みに完璧な距離で生卵を落とす係】まで、多分野において幅広くお供させて頂いております。ちなみに最初に自己紹介された【第一家族】のヒメさんとは神友の仲であり、とある分野においてのライバルとも言えるでしょう。あなたが私とヒメさん、どちらに加勢するかによってこの世界の未来が大きく変わるかも知れません。ご判断の際は慎重に慎重を重ねてください……》
「………………」
「って感じですかね♪ 今のところ、この【ふたりの神と神獣とスライミーと特殊生命体天使】がオレの家族です。ラビ子さん、みんなとうまくやっていけそうですか?」
「ほえっ? ……って、きゅ、……急にそんなこと……言われても……」
「あ、別にラビ之介さんと縁を切ってほしいって話じゃありませんよ? 何ならずっと今まで通りにルナスタウンに住み続けて、今まで通りの生活を送ってもらっても何の問題もありません。その慣れ親しんだ生活の中で、毎日ちょっとだけオレが現れてラビ子さんに稽古をつけるって感じの関係性もアリです。ラビ子さんは強くなるためにオレに協力してほしいんでしょ?」
「…………うん。そのとおりだ。プー、もしあたしが【この家を出てプーと一緒に家族として生きる】って決意したら、どんな生活が待ってるんだ?」
「うぅ~~ん。それはオレにも何とも言えませんねぇ~。何しろオレはノリで生きてますから……。それなりの漠然とした未来への願望とかはありますが、基本的には【思いついた事を思いついた時にやりたいよーにやる】ってのが基本方針なもんで。あ、ただ、【楽しくなくちゃ生きてる意味ない】って気持ちは心掛けてますかね~。ま、ケセラセラ~でカゼマカセ~でレトイトビ~でロリンスト~ンな人生を、ドンウォリビーハピ~&ナンクルネ~な精神で、メメントモリモリに生きていくって感じですかね~♪」
「……へへ♪ プー、オマエってほんとうに、よくわかんねーけど、おもしれー奴だな♪」
「恐縮です♪」
そしてラビ子はやおら目を閉じ、しばらく微動だにしなかったが、大きく息をすると、5m先で向かい合ったままのヒロに向かってスタスタと歩き出し、目前まで近づくと【ニカッ】と笑い、手を差し出した。
「プー! 不束者だけどよろしくな! ルナ泉ラビ子だ! いつかオマエの二番目の嫁さんになってやってもいーぜ! それまで絶対死ぬなよな! なっはっは~♪」
ラビ子の握手はヒロにとって【か弱い生物の非力なSTR】そのものだったが、今まで経験したことのない【力強さ】と【あたたかさ】を漲らせていた。
「はい。もちろんよろこんで♪」
こうして【ヒロファミリー】に新しいメンバーが加わったのだった。
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