娼館と体内循環




 ハナランドへ戻ったヒロは、再度愛用の【一人掛けソファ】に陣取り、再度魔タバコに火をつける。


『ふぃ~~。ガーゴルゴンさん達も大変だなぁ。やることが無さそうだからって落ち込むなんてさ~。ブラックな組織で奴隷のように働かされてた前世の知り合いに聞かせてやりたいよ~。別に半年でも何年でもグータラやってればい~のに~』


《ヒロ様~、街灯や照明なんてアルにご相談頂ければ5秒後には納品できると言うのに……。やはりドワーフ共への配慮ですか?》


『ま、まぁ、アルちゃんに頼めば大概解決すんのは分かってるんだけどさ、ほら、やっぱ人間種って【やり甲斐】やら【頼られ甲斐】に異常なほど貪欲だろ? ガーゴルゴンさん達がその方がいいんなら【誰かのためになりたい欲】とか【誰かに必要とされたい欲】とか【誰かに喜ばれたい欲】なんかを尊重してあげたいかな~なんて思ってさ~。まぁ彼らが【自分達の好奇心のためだけに研究開発してられればそれで幸せ】って感じならそれはそれでいいし、飽きちゃったり嫌んなっちゃったりしたらすぐやめてくれていいしね~』


『でもヒロさ~、今後ヒロシティで起こりそうな問題はまさにその辺りだと思うわよ~。【食欲】や【睡眠欲】、あと【安全欲】とかの野生動物でも持ってるプリミティブっぽいものは既にほぼ解消済みだけどさ、次に来る【帰属欲】や【承認欲】は【大盤振る舞いで超便利な町だから叶う】ってモンでもないでしょ~。これからヒロシティの住民がどんどん増えていけば近い将来必ず多種多様な【コミュニティ】が乱立して、その中に多種多様な【ヒエラルキー】が発生していくはずよ。その段階になって巻き起こる冷遇や羨望や嫉妬の乱れ撃ちは簡単に解決できるものでもないんじゃないのかな~。ヒメ心配……』


『確かにな~。つーかそれってヒロシティに限らず、俺の前世世界でもこのテラース全域でも起こってる【人間種の心の問題】だよな~。やっぱ【集団に所属して且つ特別に思われたい】って欲だけは全員に叶えられることじゃないからな~。【特別】が生まれた瞬間【凡庸】も生まれるし、当然【凡庸】の中に優劣も生まれちゃう。かと言って“オマエら全員めっちゃ同レベルで平凡だかんな!”なんて断言したところで意味無いんだよな~。実際2人以上の人間が集えば、そこには必ず【個体差】が成立しちゃうんだから、あらゆる意味で【差】は無くならないし、それはひとりひとりが絶対感じてしまうことだからさ。よく【差別ではなく区別を論】ってのを張る人が居たんだけど、そんなもんは【只の言葉遊び】でしかなくてさ、どんなに耳障りの良いキャッチフレーズをバラ撒いたところで【各自が抱える優越感や劣等感】は無くなったりしないよ。例えば、俺の前世では【世界に一つだけの花であるアナタはオンリーワンなんだから世界人類全員サイコーでステキってことだよね♪信仰】ってのが大流行したことがあったんだけどさ、それってようは【百人居れば百人の主人公が誕生しちゃう問題】を生んだだけで、むしろ【自称主人公vs自称主人公】のミクロな抗争を大量発生させただけとも言えるんだよ。【モンスター○○】とか【クレーマー】とか色々誕生してたな~。【オンリーワンな主人公を自覚した人間は主人公であるが故に我慢や妥協をしなくなる】って感じかな。まぁ、ようは、人間って~奴は、【全員凡庸な同格生物だ】って言われようが【全員オンリーワンなステキ生物だ】って言われようが、結局争うことになるんだよ。小さな事でもコツコツとね~』


『じゃあさ、【どーしたって争う人類】をヒロはどーやってまとめていくつもりなの?』


『ん~~。…………とりあえず【いろんな大会】でも催すか?』


『いろんな大会?』


『まぁ、例えばラビ子が優勝した【格闘技大会】みたいのをもっと大々的で定期的に開催する……みたいな? 会場もドデカいコロッセウムみたいなの造って派手にやれば、まずは【喧嘩自慢な奴等の生き甲斐】みたいなのは満たされるだろ?』


『ん~、でもそれってさ、結局【喧嘩自慢な奴等のヒエラルキー】を明確にするだけじゃないの? 結局ボトム層の人達が鬱屈するだけでは?』


『だから【いろんな大会】を提供するんだよ。で、【格闘技大会】で活躍できなかった奴らは別の分野で上位を目指せばいいんじゃないかな~。またはリベンジを誓って修練に励むのもいいし、観客としてカタルシスを得るのもひとつの楽しみ方だと思うぞ。あと、そもそも集団内で上位を目指さないタイプの人も居るしなー』


『つまり、優劣を分散させれば、偏った価値観にとらわれずにみんなハッピーってこと?』


『【みんなハッピー】は絶対無理だろうけどな。“何もかもが気に入らない! 世界を破壊したい!”って人や“人を殺したくて殺したくてしょうがない”って人も居るだろうし、それも個性だし。ただ、【生理現象由来の欲】が大概満たされるヒロシティでは、【集団そのものへの不満】が確率的に起きにくくなるとは思うんだ。だからあとは【まつり】を乱立させれば【自我由来の興奮】とか【集団由来の興奮】が満たされるかな~ってさ~』


『ふぅ~ん。まぁ、たしかに【社会への不満】なんて、ヒロシティで言い出す度胸のある奴は居ないでしょうね~』


 するとウルがピクリと反応する。


『…………あのピキュ~、実はヒロシティにて【社会への不満】を口にする輩が一定数現れているのでピキュ~』


『んへ? ウルさんそれって【本当の自分はこんなもんじゃないんだ!】みたいな面倒臭いやつ?』


『そんな【自分探検家】みたいなのじゃないピキュ~』


『んじゃ、【“パンがなければブリをシュッと捌いた刺し身を食べればいいじゃない♪”なんてふざけたこと言ってんじゃねーよ! 革命だ!】みたいな本格的なやつ?』


『そんな【氷見の寒ブリ革命】でもないピキュ~』


『……なら、どんな?』


『ピキュ~、少々言いづらいテーマピキュが、一部の男達が“娼館をつくってくれ”と騒いでいるのでピキュ~』


『……あ~~、それ系のやつか~。確かに具体的解決策を施さないままズルズルと放ったらかしにしてきた【生理現象由来の欲】の問題だわ~』


『ピキュ。奴等は溜まりに溜まった情欲を抑えきれず、ちょいちょい女性住民に声をかけたり、それが元でトラブルになったりしてるのでピキュ~』


『……なるほど。よし、分かったぞ! 娼館をつくろう! もちろん女性用、男性用、両方だ!』


『ヒロ早っ。即決っ。てか娼館つくるのはいいとしてよ、そこで働く人材はどーすんのよ~。【生活困窮者ゼロ】を誇るヒロシティで身を捧げて娼館勤めしてくれる奴なんて居るか居ないかってくらい超極少数でしょうに~』


《ですですぅ~。そもそも娼婦であれ娼夫であれ、客が美男美女ばかりの筈もなく、ヘテロとも限らず、異常倒錯者やサディストでもありえる訳ですから、ありふれたストライクゾーンの持ち主では勤まらないじゃないですか~。その上【先天的性衝動を憎んで人を憎まず】の観点から、【娼】側がどんなに肉体的または精神的苦痛を被ったとしても、ヒロシティの指針である【善も悪も無ぇ】の町訓を重ねれば、【規制】や【罰】によってそれらを制御するのも難しいのではないでしょうか……。つまり、ヒロ様がアルに対してどれほど【純愛青春ニーハイ足舐めプレイ】を望んだとしても、受け側のアルが【大開脚緊縛吊り下げ首絞めプレイ】のみ対応だった場合、双方の利害が一致せず、サービスの維持が不可能となる訳です。あ、あくまでもこれは【例え】であって、アルが【純愛青春ニーハイ足舐めプレイ】を嫌がっているという意味ではありませんからくれぐれも誤解しないでください~♡》


『……アルちゃん、キミってやっぱいろいろ考えてる子だったんだな。感心するぜ』


《いえいえですですぅ~♡ そんなに褒められると骨盤の奥が鷲掴みにされちゃいますからやめてくださいよぉ~♡》


『…………た、ただまぁ、その手の問題は起こらないと思うぞ。だって俺の構想する【娼館】には【ヒメアル開発プロジェクト製超高性能エロンクルス】の汎用タイプ、つまり【ジム的エロンクルス】を大量投入しようと考えているからなのだ。もちろんそのレパートリーにも手を抜くことなく、ヘテロ男性用であれば【9頭身~5頭身、身長130cm~200cm、体重30kg~150kg】あたりをグランドメニューとし、新たな要望があれば即開発&投入する所存だ。一般的に関心を集めがちな【顔】に関しては、より細分化された選択肢を設け、外見的特徴以外にも重要となる【性格】【性的指向&嗜好】などの精神的特徴……ってこれはエロンクルスだから作り分けなくても全方位対応型にすればいいのか。とまぁ、男性型、女性型、それぞれ千体ずつくらい用意して、客の要望を聞いた上でインベントリからざっくり十体ほどを取り出して選んでもらう、みたいな感じでいいんじゃないかな~。あとそうだ、個人情報保護の観点から、【客はウルさんワープでしか店に行けず、店っつっても客室へダイレクト】ってことにすれば、どんなに【人見知りで恥ずかしがり屋な性的倒錯者】でも気軽に利用できるよな。そーだ。そうしよう♪』


『あんた、よくそんなにスラスラ出てくるわねぇ。日頃から妄想を繰り返していたとしか思えないわ~』


『…………ヒメが何を言ってるのかはよく分からんが、ただまぁ、そんな感じで娼館をオープンすれば、ヒロシティでの【実生活に於いて行き場を失った迷える性的欲求の数々】は、ある程度収まってくれるんじゃないかと思うんだよ。そしてその効果はトラブルの抑止にも繋がるかと思う』


《でもヒロ様、例えば、平凡な家庭を持つA太郎さんの性的欲求が【実生活に於ける隣家の幸せそうな主婦B子さんを篭絡姦通略奪したい】というような【娼館であること自体が興醒め因子】な場合、やはりトラブルの種となるのでは?》


『そんな【ガチリアルシチュエーション専】みたいな奴が強硬策を繰り出してきたらウルさんパンチで阻止すりゃい~だろ~。あとそれって【性欲】とはまた【別の欲】のような気もするし。あ、ただ、そのシチュエーションで、もしB子さんがA太郎さんの誘いにホイホイ嬉しそうに乗った場合は放置すりゃいいと思うけどな。問題なのは【一方的な欲により一方的な被害者が出る事】であって、俺は別に一夫一婦制……どころか、婚姻という制度すら別にどーでもいーと思ってるからさ。さっきの場合でいうと、A太郎さんやB子さんの家族が結果的に怒り悲しんだとしても、そもそもA太郎さんにもB子さんにも自分の家族を尊重する意思が無いんだから結果を受け入れてもらうしか無いよ。そして両家の家族のみなさんは【母子家庭・父子家庭として如何に幸せに生きるか】に向かえばいい。A太郎さんやB子さんを説得or許容するも良し、別のパートナーを探すのも良し、そのまま母子家庭・父子家庭でも良しだ。もし親子の愛情や繋がりが親の勝手で消失したとしても子供たちは孤児院で保護できるしな。ヒロシティには【生活苦】が存在しないんだから、あとは【気持ちの問題】だけだろ? だったら肉体面・精神面で【過度の暴力】さえ起きなければ、みんな勝手でいいんだよ。喜怒哀楽安恐悲焦満蔑嫉憧緊勇苦親嫌恥悩望羨幸疑怨悔快、どれをとっても感情の起伏は人生の醍醐味でもあるからな~』


『ところでヒロ様! もしB子さんがA太郎さんからの強硬な性的アプローチに対して拒絶したとしてですよ、しかしながら心の奥底から【背徳感への渇望】が湧き上がり、むしろ未曾有の性的興奮にまで昇華してしまった場合、ウルさんはウルさんパンチで阻止するべきなのでしょうか?』


『知らんがな。そんな【貴族の日常遊び】みたいなの、パンチしてほっとけば…… ん? でも確かに…… ヒロシティ住民って、もはや【貴族】と同じ…… いや、ある意味【貴族以上】の生活を送れてるのか……。そーすっと当然、秩序やら道徳心、倫理観みたいなのは崩壊していくのが自然なのか……』


『ん~~。確かに、衣食住・安全・便利、全て全員に無償提供のヒロシティだと、経済的ヒエラルキーは生まれないし、権力そのものがヒロだけに集中してるから身分的ヒエラルキーも無いわよね。暴力的迫害もウルちゃんが常時監視してるから起こらないし、孤立に関してもウルちゃんが寄り添うことでもはや孤立とは言えないわ。そー考えるとヒロシティって【住民全員貴族以上】って言えるのかもね~。でもさ、だからこそ【ウルちゃんの存在】って重要になってくるんじゃないかな~。通常の国家で【法律】や【倫理】や【信仰】が担っている役割を、ヒロシティでは【ウルちゃん】という存在が互換してくれてると思うんだけど』


『確かにそうかもな。ひとりに一体ウルさんが付いていることで【過度に暴走する個】の抑止は成立するよな。“御天道様が見てる”の代わりに“ウルさんが見てる”わけだし。んで、抑止の加減にしたって臨機応変で自由自在だし』


『あとは【それでも過度に暴走する個】に対してはどー対処すんのって話よね~』


『ん~~。例えば近い将来“ヒロシティみたいな便利で満たされた町で家畜のようには生きたくない!”とか“俺は、生きるか死ぬか、食うか食われるか、みたいな命がけの人生を歩みたいんだ!”みたいなこと言う奴の出現もあり得るのか~。でもまぁ、そしたらウルさんに外れてもらってユーロピアでもアンゼスでもアウリカでも好きな国の好きな町に単身転居してサバイバルに生きてもらえばいいんじゃねーかなー。それもまた勝手にどーぞ~、みたいな感じでさ~。あと、“誰がどれほど寄り添って来たって人間は永遠に孤独なんだ!放っといてくれ!”的な、他者の存在そのものを無効化するほど【自我の暴走】に【思い込み欲】をベットしちゃってる場合だと、当然ながら他者である俺に援助できる資源や知恵は有る訳ないんだから、言われた通りに放っとくしかないと思うんだよ。まぁ、そーゆー奴は大抵の場合、放っときゃ【ほとぼりが冷める】んだろーけどな~。誰だってレスポンスの皆無な人生は退屈だろうし……』


『冷たいようだけど確かにそ~よね~。別にヒロは【ヒロシティ住民全員の欲を叶えてあげたい】なんて考えてる訳じゃくて、単に【弱者が弱者故に失い奪われつづけるような世界じゃなくしたい】ってだけだったもんね~』


『まぁそーだな。社会構造の問題だよ。だから住人それぞれの【欲】や【感情】については出来るだけ【ご勝手にどーぞ主義】を貫きたいんだ。根本的に俺の知ったこっちゃねーからな。ただまぁ、暴力・蹂躙・孤独・喪失のトリガーに成り得る【性欲】に関しては、その捌け口としての【娼館】もまた【社会インフラ】のひとつだと割り切って常設してみようかと思ったってだけのことだよ。その上でまだ物足りないってんなら可能な範疇でサービス向上に務めるけど、それでも解決しない場合は【転居】も視野に入れた【ウルさん個別面談】で対応しようと思う。ま~、【誰にも言えない悩みを抱えたらまずはウルさんに相談してみよう】って感じでい~んじゃね~かな~』


《ヒロ様、人間種もまた単なる生物でしかないのですから、ウザすぎる個体が現れたら魔物同様瞬殺してやれば一件落着ですですぅ~♪》


『アルちゃんヤケに物騒だな~。さすが神。ただ、実際この世界のボトム層のさらに底辺で生きる人達の命は、神じゃなく【人間によって】信じられないくらい軽く扱われてるんだよ。ここ暫く、テラース中をざっくり見て回ったけどさ、特に子供の命の軽さは凄まじいぜ。間引きや売買、奴隷に強姦、一部の成人の強欲によって有無を言わさず弄ばれる小さい命の数は目眩がするほど多い。今はとりあえずインベントリ収納して徐々にヒロシティの孤児院へと放流してるけど、このままのペースだと、そのうちヒロシティは孤児院だらけになっちゃうね。まぁそれでも別にいいんだけどさ~』


『ピキュ! 孤児院については【テラース商会】のロデニロさんとサリンザさんがとても積極的ピキュ! ラモンズさんとルリドーさんも担当管理職の仕事を生き生きと日々こなしているのでピキュ~。あとヒロさん、そんなみなさんから“孤児だけじゃなく老若男女たくさんいるから【孤児院】ではなく【ヒロ院】と命名したい”とのリクエストが届いているのでピキュ~♪』


『え? ヒロイン?』


『【ヒロ院】ピキュ!』


『……ま、紛らわしい…… てかまた俺の名前使うのかよ~。だったら【老若男女院】とかでもい~だろ~に~』


『“【ヒロ院】じゃないとテンションが上がらない”とのことピキュ! もしヒロさんが【照れ】由来の【ゴネ】を見せたら“ゴリ押ししろ”と言い含められているのでピキュ~』


『……わかったよ~。あいつらも慣れたもんだな~。了解~。これからヒロシティの孤児院、いや【一人暮らしがちと厳しい老若男女の院】は【ヒロ院】で統一しようか。……で、ウルさん、最近求められるがままに【ヒロ院】を建設しまくってはいるけどさ、運営側の人員って足りてんの?』


『ピキュ! 今のところ【ヒロ院】の数が増えすぎて院長や世話係の補充が間に合ってないピキュが、足りない人員はウルが自らお手伝いしてるピキュから何の問題もないのでピキュ~♪』


『そっか~、ウルさんが居なかったらどーなってたことやら、だよな~。助けられてばっかりだね~。ウルさんホントにありがとうね♪』


『それはウルのセリフピキュ~♪ ヒロさんから日々頂戴している膨大な量の【最新ヒロニウム[ヒロ魔力超高含有]】、【魔素クリスタル】、そして何と言っても【ヒロさんとの愛情溢れるお話】、その全てがウルの根源であり存在証明なのでピキュ~♪ ヒロさん無くしてウルは無し、なのでピキュピキュ~♪』


『おおぉ、ウルさん、心の奥の核の部分の友よ! なにかあったら何でも言ってね! リクエスト随時受付中だぜっ!!』


『ピ、ピキュ!? ……で、ではヒロさん、最近思いついて頭から離れないリクエストがあるのでピキュが、それをお願いしてもいいピキュか?』


『え? なんかあるの? そりゃモチのロンギヌスだよ~。なになに? 俺に出来ることなら何でも言ってよ~♪』


『ピキュ~ …………実は、ヒロさんの…… 中に…… 入りたいのでピキュ~♡』


『……俺の …………中に? …………入る?』


『ピキュ! 全ウルの中での【人気職】ダントツ一位は現在も揺らぐことなく【ヒロさんの表面巡回警護】と【ヒロさんとのお喋り担当】なのでピキュが、つい先日【世界ウル会議】を開いたところ、自然発生的に、シンクロニシティ的に、【表面だけじゃなく中も循環したいピキュ!】という欲望が湧き上がったのでピキュ~。なので、なので、ウルはヒロさんの体内でも巡回警護がしたいのでピキュ~!』


 すると突然、ヒロの襟足にしがみついていた妖精が念話を荒らげた。


『ウルちんズルい! だったらひーたんもチチサマの中に入るのです! ひーたんはフレーム生命体なので原子核サイズなんて目じゃないヨクトメートルレベルにでも分裂できるのです! ひーたんを構成する六千垓個のフレームの中から自立動作可能な限界サイズのフレーム群[1グループ1ピコメートルくらい]を十兆グループほど血管とリンパ管に派遣するのです! チチサマの体内の管という管をひーたんは巡って巡って巡りまくるのれす! そしてチチサマのエネルギー循環と覚醒に革命を起こすのれすっ!』


『ピ……ピキュ~。ウルはそこまで小さくはなれないのでピキュ~』


『ウルちんはスライミーらしく軟骨とか関節液とか脳脊髄液とかの替わりをやればいーのです! チチサマの骨は既に最新ヒロニウムに換装されてるですから、軟骨や関節液の役割も超スーパーな運動能力の実現のためには重要なのです! 脳脊髄液もチチサマの脳[ハハサマ在住]を守護する最重要職なのです! ウルちん! ひーたんと二人でチチサマの【中】を劇的にバージョンアップさせるのです!!』


『ピ! ピキュピキュ~! ウルはひーたんと共に禁断の領域に足を……いや全身をたくさん踏み入れるのでピキュ~! ひーたんとの友情も深まるのでピキュ! これは歴史的にも類を見ない次元でのウィ~~ンウィ~~ンなバイブレーション関係の爆誕なのでピキュ~!!』


『ウルちん!』

『ひーたん!』


 ヒロリエルとウルの包容は暫く続いた。


『つ、つーか、オマエら勝手に俺の体内の借地権主張すんなよ~。それってどーなんだ? 俺にとっては問題とか有るんじゃねーの? ヒメ~、何とか言ってやってくれよ~』


『ん~~。別に問題とかは無いと思うわよ~。ヒロが今より能力アップするってだけじゃないの? まぁ、今以上に能力アップすることに意味があるのかどーかは別としてね~。あ、アルちゃんなら具体的に分かるんじゃない?』


《はいです~。ヒロ様は既にアルの改造手術によって全ての骨が最新ヒロニウムに換装されてますが、そのついでに臓器、筋肉組織や腱、そして神経系にも強化を施しました。しかしながらヒロリエルさんの介入される循環器系内部の体液については未介入でして、この展開はヒロ様の能力アップに非常に有効かと存じますですぅ~。そしてウルさんの軟骨化・関節液化・脳脊髄液化も極めて有用でして、アルの施した改造手術の効果を極限にまで発揮できるお仕事ですですぅ~♪ つまり、おふたりとも、超ウルトラスーパーグッジョブですですぅ~♪》


『だってさ。ヒロってば、もう世界最新最高のキメラ人間ね~♪ なんか【悪役っぽさ】全開だわ~。よ! キメラ魔王♪』


『なんてカックイイくないんだ。キメラ魔王とは……。でもまぁヒロリエルとウルさんがそーしたいんなら受け入れるよ~。俺はキミたち家族のオモチャだって自覚あるしな~』


『やったったのれすーー♪』

『ピキュピキュピキュ~~♪』


 ヒロリエルとウルは大喜びしながら、“で、どーやって俺ん中に入るんだ?”などと戸惑うヒロを無視し、一瞬で分裂&再構成を遂げると、ヒロの皮膚や口や穴という穴から所構わず体内へと侵入するのだった。


『い、いやあぁぁぁぁあああああああーーーーーーーー!!』


 ヒロは体表から体内に至る様々な神経からの違和感に襲われ、全身にエピオルニス級の鳥肌を立てながら絶叫した。

 無邪気な子供たちに全身を蹂躙改造されたヒロは、生命として大きな革新に至った超越感と得も言われぬ背徳感に襲われ、暫く惚けるのだった。





 十分後。


 ヒロはようやく我に返り、軽く運動テストをしたのち、改めて魔ショットホープを燻らしていた。


『ふぅぅ~~~。マジびっくりしたぜ~。【全身をサナダムシが這い回るような感覚】って実在したんだな~。チビるかと思ったよ~』


『で、どーなの~? もう馴染んだ? 運動してみての感想は?』


『ヒメよ、驚かないで聞いてくれ。なんと、スゲーいい感じだ♪』


『ざ、雑な感想ね~。もうちょっと具体的に何かないの~?』


『ぐ、具体的にはだな、なんつーか、ヌルヌル動けるっつーか、シャキシャキ動けるっつーか、ヒュンヒュン動けるっつーか、そんな感じだ♪ 俺多分、バリごっさすこだまもんげ~強くなったと思うぞ♪』


『……あんた、オノマトペとローカル形容詞並べんのが【具体的】ってご機嫌な奴よね~。でもまぁ、いい具合になったんなら良かったじゃない♪』


『おぅ! そりゃも~【いい具合】だ♪ ウルさんとヒロリエルはどう?』


『ピッキュ~! ウルはこれまでに感じたことのない【一体感】を満喫しているのでピキュ~! ヒロさんの生命の躍動、ぬくもり、いじらしさ、あざとさ、アナキズム、リバタリアニズム、パナーキズム、シュルレアリスム、パシフィズム、ヒューマニズム、エゴイズム、その全てが、体内ならではのダイナミズムと共に手に取るように分かるのでピキュ~♪ そして【表面巡回警護チーム】との相互リンクによって反応速度も伝達感度も格段に向上したのでピキュピキュ~♪ もはや【三フッ化塩素の雨】が降ろうが【ロンギヌスとグングニルとゲイボルグを足して三乗したような槍】が降ろうが【ウルを内包するヒロボディ】は全く問題無いのでピキュピキュピキュ~♪』


『ひーたんもジュンジュワジュワのドックドクなのです! 残念ながらウルちんのような【分裂個体毎の自我持ち状態】での体内循環は無理なのですが、随時情報の吸い上げと調整が可能ですが故に、チチサマの【体液の流れ】は嫌でも入り込んでくるのです! もちろん実際は嫌じゃないのれす~♡』


『そ、そうか。ふたりともノッてるみたいで良かったよ~』


『はい良かった良かった~。でヒロ、【娼館】はどーすんの?』


『おっとそーだった。娼館については、デリケートな場所でもあるからさ、ヒロシティの敷地内ではなく別の場所に建造しようかと思ってるんだ』


『あ~、ウルちゃんワープがあるからそれでもいいのかぁ~』


『うん。だから…… そうだな~。【オスタトリア大陸】の中央部あたりに建造するわ~。ほら、あの大陸って【人類未踏大陸】だからさ、誰にもバレないっしょ~♪』


『なるほどね~。い~んじゃない?』


『よっしゃ~! さっそく造っちゃお♪』


 ヒロはすぐさま【流星4号★要塞★999】をベースとし、一辺の長さを15m、内部空間の一辺を13mとしたキューブ状の【流星4号★娼館★151515】を錬金生産すると、【オスタトリア大陸】の中央地域に二百個ほど並べ、各室内にベッドやソファ、風呂や鏡などを配備した。


『よし。これで準備は整ったぞ~。あとはエロンクルスだな~。アルちゃんどう?』


《ハイでやんす! すでにアルの【無限引き出し】内で男女合わせて二千体のボディと二万個の頭部が出勤を待つばかりの状況でやんす! ちなみにボティと頭部は、利用者がリクエストした時点でアルサーバーの娼館専用AIプログラムによって組み立てと調整が施され、最終的には【外見のみオートクチュールな汎用型エロンクルス】が供給されるようになっているでやんす!》


『おぉ~、出た、アルサーバー♪』


《やんすやんす~♪ 【ヒロ様のため】という至高のメルクマールとデスティネーションを掲げるアルは、日夜ヒロ様のための研究と開発に伴う努力から得られるオーガズムの追求に余念がなく、アルサーバーの増強と進化は自分で言うのもなんですが、神界でも他神の追随を許さないレベルにまで到達しているでやんす~♪ しかもその上で更なる高みを目指すアルは、自分で言うのもなんですが、一途で健気で無垢なかわいい女の子でやんす~♡ つまりヒロ様は果報者でやんすよ~♡》


『アルロライエちゃ~ん、私と【エロンクルス】なんてもん開発しといて【一途で健気で無垢】もないでしょ~(呆)』


『い~やヒメ、アルちゃんは世界最高の科学神であると同時に、一途で健気で無垢だぞ~。かわいいところもあるしな! ね~アルちゃん♡』


《んかっ…………       》


 アルの超薄型吸収パッドは久しぶりにタプタプ、いやパンパンになった。


『……それじゃあヒロ~、【娼館】は現在を持ってグランドオープンってことでいいのね~?』


『おうよ! ヒロシティ住民……の、十八歳くらい以上……の……って、そっか~。種族によっても個人によっても【性欲の爆発度合い】は違うんだもんな~。ウルさんを通じて耳打ちお知らせするにしても、誰に伝えて誰に伝えないかは悩むところだぜ~。まさか精通や初潮前の子供に【娼館】のアナウンスする訳にもいかんしな~』


『そうね~。とりあえずは【嘆願してきた奴等】にだけでい~んじゃないの~?』


『あ、そ~だな~。つーか住民の中には【自慰行為のみで一生問題ない人】や、【性欲薄すぎて全然エロ上がりしない人】も居るかも知んないし、老若男女問わず、興味ねー奴にとっては【娼館オープンのアナウンス】なんて不快な情報にも成り得るだろうしな~。よし、とりあえずは、ウルさんに相談してきた奴等にだけ教えよう♪ どーせそいつらが噂して同類タイプの奴等にもすぐ広まるだろ~。ウルさん、騒いでる奴等にだけ教えてあげて~』


『ピキュ! おまかせあれキサンダー大王なのでピキュ~♪』


 ウルは娼館誘致嘆願住民二十数名[主にゴズ軍団関係者]に朗報を耳打ちした。

 かくして【オスタトリア大陸中央地域】に突如として開業した娼館【召喚しま娼館】は、一部のヒロシティ悶々族の間で大盛況となるのだった。





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