7日目 ギルドの依頼




 ヒロが異世界に転生して7日目の朝、彼は浅い眠りの中、得も言われぬこそばゆさと心地好さの中を彷徨っていた。


クゥン クン……クゥゥン


 なかなか目覚めないヒロの顔や腕や胸に纏わりつく小さな影。

 

クン、ァウン…… クゥン


 日の出とともに元気にヒロから飛び出したハナは、コシコシと全身をこすりつけ、愛情行動を繰り返していた。


「ん…… ぅぅぅう~ん…… ん? あれ? ハナ?」


クゥゥゥゥン


『“パパいいかげんに起きて~”だって。おはようヒロ♪』


『ぅぅう~ん、おはよーヒメ』


「あ~おいおい飛びつくなってぇ~ハナ、おはよう♡」


 ハナは待ってましたとばかりに起き上がったヒロの胡座の中に飛び込むと尻尾を振り回している。


クゥン クンクゥン


『“パパ、ハナおなかペコペコなの~”だって。そう言えばハナちゃん昨日なんにも食べてないよね』


『確かに。ハナはそもそもいったい何食べて成長するんだろ? 無茶苦茶入手困難な魔物の素材とかだったら今後大変なことになるなぁ』


『ちょっと聞いてみるね~。 …………』


『………………』


『分かったよ~。“何でもいいから魔物のお肉と、あとおやつに魔晶”だってさ(笑)』


「ハナ…… 魔晶、食べるの?」


クゥン!


『“うん!大好き!”だって(笑)』


『そ、そうなんだ…… まぁまずはお肉か。うぅ~む、俺の大切なハナにそこらの安肉食べさせる訳にはいかないからなぁ~どー考えたって。ならとりあえずコレかな?』


 ヒロはインベントリからミントン村で貰った木の皿を取り出し、デーモングリズリーの生肉1kgをそっと置いてみた。

 そして恐る恐る胡座の中のハナの鼻先に近付けてみると……


クンクンク……ハグッ

カブッ ハグッ チャクシャク チャクシャク


 凄い勢いでかぶりつき、どんどん食べ進めていく姿は、とても赤ちゃん犬サイズの生物とは思えない勢いだった。

 振り回される尻尾の勢いで、機嫌の良さが伺えた。

 気付けば2分もかからず1kgほどのデーモングリズリー肉は無くなっていた。


クゥンァン


『“パパ、おかわり♡”だって(苦笑い)』


「おぉーそーかそーか、デモグリ肉は気に入ったみたいだねぇ~。いっぱいあるからどんどんお食べ♡」


クン! クゥ~ン


『“パパ大好き!”ってさ』


 その後、喜び勇んでデモグリ肉1kgを追加するヒロ。

 大喜びの尻尾ブンブン丸で完食&おかわりするハナ。

 二人のラリーは[わんこだけに]わんこ蕎麦のように続き、結局ハナが満足して“ごちそうさま♡”を伝えたのは、デモグリ肉5kgを食べ切った後だった。


『どうやらハナの1食分は肉5kgくらいみたいだね。これなら十分与えてあげられそうで安心したよー』


『ハナちゃん、体重2~3kgだと思うんだけどどこに消えてるのかしら。さすが神獣よねぇ。やっぱり凄い技使うから代謝が激しいのかな。食べっぷりはホント可愛いよねぇ』


『一生懸命だからねぇ。食べさせてるこっちが嬉しくなるよー』


クンクゥゥン


『“パパがくれるお肉いちばんおいしいの!”だって』


「そかそか♪ ところでハナ、魔晶は今はいいのかな?」


クゥンクゥン


『“ちょっと欲しいの”』


「よ~し、じゃあEクラスの魔物の魔晶で3cmくらいのがいっぱいあるからちょうど食べやすいかなー?」


 ヒロは大量にストックしてあったEクラスの魔晶をひとつ手に取った。

 そして、ハナに近づけてみると……


カプッ ボリボリ シャクッシャクッ シャク ……ゴクン

クゥン!


『もう分かってると思うけど、“おかわり♡”だって(笑)』


 結局、ヒメはEランクの魔晶を5個食べて、大きく伸びをした。

 そして食後はヒロの胸に抱かれて気持ち良さそうに尻尾をゆっくりと揺らしている。


『1日でなのか、1食でなのかはまだ何とも言えないけど、少なくともハナと暮らしていくために必要な食料は結構多いことが分かったね。まぁ俺なら苦もないけどさー』


『ヒロがスーパーな能力者で良かったよねぇ。一般人じゃとてもハナちゃんのこと満足させられないと思うよ~』


『その“俺だけがハナを満足させられる”って響き、サイコーだね。ヒメ、もっと言ってくれ……』


『…………』


『さぁ、顔洗って飯食ってギルドに向かいますか!』


『は~い♪』





 身支度を整え、うさぎの寝床で朝食を済ませたヒロは、ラビ夫妻としばらく歓談してから町に繰り出した。

 ちなみにハナは既にヒロの中で幸せな眠りについている。

 通りにはすでにたくさんの人達が行き交っていたが、そんな中、ヒロの目がひとりの商人らしき男に釘付けになっていた。


『……あれ、いいなぁ』


『1人用の荷車だね~』


『あれだとさ、大きい獲物を運び込むのも自然に振る舞えそうだよなー』


『ビッグラビット3匹くらいなら乗りそうだねー』


『いくらくらいするのかなぁ』


『まだ早くてお店やってないから昼頃市場調査に戻って来ようよ』


『そーしようか。とりあえず、まずはギルドだねー』


 ヒロ達は脳内雑談しながら中央広場を抜け、役場の一階フロアに到着した。


「こんにちは~♪」


 元気に冒険者ギルドの扉を開ける。


「あらヒロさんおはよう、あなたの【ギルドタグ】出来てるわよ~。はい、どうぞ」


 ギルド支部長のガーリックが差し出した手の平には、小さな鉄のプレートがあった。


「おぉー。これがギルドタグですかー」


 プレートにはヒロのナンバーと名前が彫られ、ペンダントとして使えるようになっている。


「それさえあれば、世界中のどのギルドに行ってもすぐに仕事が受けられるからね。あと考えたくないことだけど、もしあなたがどこかで死んでしまった時も、そのタグがあなたであることを教えてくれるんだから、必ず身につけておきなさいね」


「はい、ありがとうございます。ところで今日はどんな……?」


「ふふ、そんなに構えないで(笑) 今日はね、ビッグラビットを3匹確保してもらいたいの。Fランクの魔物の中では一番需要が高いし、危険度もあまり高くはないわ。ただ、大きくて重いから、1匹倒す毎に戻ってこないといけないでしょうから大変だと思うけどお願いできるかしら?」


「はい、喜んでお受けします!」


「じゃあ頼んだわね、楽しみにしてるわよ~♪」


「いってきま~す」





 役場を出たヒロは、通りを歩きつつヒメに脳内で話しかける。


『ねぇヒメ、昨日ゼキーヌさんが話してた、この辺の森に出たサイクロネプシスの話なんだけどさー』


『うん、あれはどー考えてもヒロが葬ったヤツのことだろうねぇ。あの時索敵レーダーをかなり広げて確認したけどさ、あいつ以外にAランクはおろかBランクの魔物さえ見つからなかったもの。間違いないよ』


『だよねー。でさ、一番気になるのが【何でアイツがこんなところに?】的なことなんだけど、やっぱりあの時あの近くで怪我したハナと出会ってるってことを思い返すと、ハナと関係あるんじゃないかと思うんだよねー』


『まー自然な疑問だよね。ちょっと聞いてみる?』


『え、ハナ起きてんの?』


『ん~起きて走り回ったり、また寝たり、いろいろ楽しくやってるわねぇ。今はご機嫌にトコトコお散歩してるみたいよ』


『俺の中で走り回ったりもしてんのか……うふふ…… あ、ちょっと聞いてみて』


『了解~。 ……………… …………  …………』


『………………』


『わかったわよ~。やっぱりなんか、ハナちゃんもずーっと奥の奥の森で生まれて暮らしてたらしいんだけど、ある日よだれを垂らしたサイクロネプシスに襲われそうになって一生懸命逃げたんだって。そんで、逃げて逃げて逃げて逃げて逃げたんだけど、この辺りの森まで来て、アイツが暴れて爆散した木の破片が飛んできて足を怪我しちゃったんだって。それでもうお終いだなぁ~って思っていたら、あの憎きサイクロネプシスを一瞬で倒しちゃうヒーローが突然現れて、傷も治してくれたんだって。そして二人が熱い口づけを交わすと、そのヒーローが一匹の凛々しい柴犬に戻って、二匹は結ばれ、以後1万年以上、幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。……だってさ(笑)』


『かなり脚色されてる気もするけど……自分で【柴犬】て言っちゃってるし…… つーかさ、そもそもなんでサイクロネプシスはハナを執拗に追っかけたんだろうね?』


『聞いてみる。 ………… …………』


『…………』


『わかったよー。なんかね、イデアの幼獣って、ハイクラスな魔物がより上位種に成るためのパワーアップアイテム的な食料なんだって。だから小さい内にみんな食べられちゃうの……って悲しそうに言ってた』


『………………ぅ……』


『ヒロ?』


『………………ぅ……うっ……ぐふぅぅぅ……ぐふぅぅぅ…………』


『あの、まさか泣いて……』


『ヒメよ、俺は決めたぞ! ひっぐ……。ぜ、絶対にぃ……ぐすっ……1万年以上生きてハナをずーーーーっと守ってみせる!』


『あぁ、そーなのね……』


『だからヒメもぜってー付き合えよな! 約束だぞ!』


『……あたしは千年でいーんすけどねぇ……』


『そんな弱気でどーすんだ! ハナより長生きしなきゃハナを守れるわけないでしょうが!』


『はいはい、わかりました……あ…… あのさ、ハナちゃんが“パパ大好き!”だって』


『よしっ! ハナがいればパパは何だってできるからね! さぁ3人で出発だ~!』


『お、おーう』


 3人[見た感じひとり]は町を出て平野を進むのだった。





『とりあえず【ビッグラビット×3】の依頼については簡単すぎて……ってゆーか過去の獲物として既にインベントリの中に50匹以上確保してあるので、今日は1日たっぷり時間をかけてハナのためのレベル上げをしたいと思っています』


『おぉぉ、ヒロ、何時になくヤル気がみなぎってるねぇ』


『当たり前だっつーの。ハナを守るために最も重要なのは、俺もハナも高スペックになることだからねー。そこでヒメ、できるだけ近くで高配当な魔物が群れてそうなところって、分かるかな?』


『ん~とねぇ…………あ、あのね、メシッピ川の東側ってまだ人の手が入っていないっぽいんだけどさ、そのずっと先にある森にはそれなりのがいそうだよ~』


『遠い?』


『そんなことない。流星4号で1時間くらいじゃないかなー』


『よし、じゃあ今日はその森に向かおう! ……と、その前に、ハナのステータスを再確認しておきますか』




名前:ハナ

種族:イデア[幼獣]

年齢:15

性別:女


Lv:25

HP:123

MP:69


STR:43

VIT:97

AGI:123

INT:97

DEX:77

LUK:697


固有スキル:【忠誠】




『あれ? レベルアップしてる!』


『ホントだー。これ多分、昨日の夕方のアレじゃない? 時間つぶしの魔物狩りまくりのやつ』


『……でもあの時って、ハナは俺の中で寝てたんじゃなかったっけ?』


『寝てても経験値が入る……ってことなんじゃない?』


『……やっぱ、ハナは努力家だねぇ。寝ている時でさえ経験値を逃さないなんてさー』


『そー、なのかな』


『さぁ、それじゃ東に広がる未踏の森に行くとしますか! いでよ! 流星4号!』


 ヒロは最近のトレンドとなりつつあるシンプルイズベストな流星4号[深めのバスタブタイプ]を手早く生成した。


『レッツ、ゴーイースト~ しゅっぱーつ!』


『おーー♪』


 流星4号はフワッと浮かび上がるとそのまま上昇し、あっという間に東の空に消えていくのだった。





 飛び立ってから30分後、ヒロは目的地上空に辿り着いていた。


『ヒロってばまた速くなったんじゃない?』


『うん、ちょっとテンション上がりすぎてさ、正直、飛ばしすぎたわ』


『まぁ時間の節約にもなるし、ありがたいことだけどねー』


『あと、ここまでの飛行では狩りしてないからねー。ただ純粋に飛ぶだけならこれくらい平気かな』


『おぉ~すごぉーい。ヒロってば日々成長してるねー』


『ありがと。さて、サクサクと上空狩りしていきますか』


『そーだね。今のところ最も安全で確実な狩猟方法だもんねー』


『じゃーヒメ、ある程度の索敵よろしくね~』


『あ~~い』


 ヒロはいつものように上空30m付近に流星4号を固定し、ヒメの索敵情報を元にゆっくりと平行移動しながら狩りを始めた。

 めぼしい獲物が見つかると200mほどの距離まで近付き、スコープで狙いを定め、フレームを魔物の頭部に固定し、温度低下魔法をパッとお見舞いする。

 Aランクのサイクロネプシスを瞬殺したこの戦術は、この未踏の森の魔物達にもことごとく通用した。

 そんな中……


『あれ?』


『どしたのヒロ?』


『インベントリの出し入れできる距離の限界がさ』


『うん』


『明らかに伸びてるわ。ひょっとしたらスコープと連動してるのかも知んない。今、400mくらい先のやつを倒してすぐに収納できちゃったからさ、スコープで捕捉可能な距離はそのままインベントリの出し入れも可能な距離ってことになってるのかも知れない』


『なんかアレだね、ステータス上昇に伴って【スコープ】や【インベントリ】なんかのリミッター値も上がっていってるってことなんだろうねー』


『この展開は嬉しいなぁ。今後のやりがいにも通ずる成長だわぁ』


『わーいわーい』


『よっしゃ、ガブガブ狩っていこー!』


 その後の4時間ほどの間、ヒロはまるで職人のように黙々と狩り続けた。

 その成果は……



■ギオーク

猪の顔を持つ二足歩行型の魔物。集団で行動することが多い。口から生えた大きな牙と頭から生えた大きな角を使って攻撃する。気性が荒く攻撃性が高い。

体長:188cm 体重:110kg

備考:肉や油や皮は素材として広く流通する。繁殖力が高いため個体数はが多い。


+ギオーク 他33体


■バジリスキル

蜥蜴型の魔物。尾を入れると10mにもなる大型の魔物。足が8本あり麻痺毒を吹きかけて敵を弱らせ丸呑みにする。

体長:1106cm 体重:7770kg

備考:素材として肉や皮は需要が高い。個体数が少なく希少。


+バジリスキル 他2体


■サイクロネプシス

鬼型の魔物。単眼で頭部に大きな角を持ち肌は青く巨躯。肘から先が異様に太く発達しており両手を振り回して殴打攻撃する。角でも攻撃する。

体長:688cm 体重:1410kg

備考:素材として角・眼球・腕が利用される。


+サイクロネプシス 他3体


■オルガ 

鬼型の魔物。体は大きく肌は青い。腕力が強い。噛み付いて攻撃する。

体長:451cm 体重:625kg

備考:素材としての需要はない。


+オルガ 他19体


■コケアトリス

鳥型の魔物。鳥型ではあるが飛べない。足は速く、敵を突いて麻痺させてから襲う。性格は獰猛。

体長:229cm 体重:265kg

備考:素材として肉は需要が高く広く流通する。


+コケアトリス 他22体


■フェリル

狼型の魔物の最上位種。鋭い爪や牙が特徴。身体能力は非常に高く力も強い。成体になると単独行動をとる。

体長:650cm 体重:480kg

備考:素材として採れる部位が多く需要が高い。特に毛皮や牙は人気。


■トロウル 

鬼型の魔物。肌は濃い茶色で巨体。動きは鈍いが力は強い。

体長:530cm 体重:1210kg

備考:素材としての需要は低い。


+トロウル 他5体


■スチールスライミー

スライミーの変種。希少種。鋼の体を持ちとても逃げ足が速い。

体長:44cm 体重:18kg

備考:倒すと経験値がたくさん貰える。通常時は液状のボディだが、死亡し魔晶を取り除くと鋼になる。


+スチールスライミー 他2体


■チタンスライミー

スライミーの変種。希少種。チタンの体を持ちとても逃げ足が速い。

体長:60cm 体重:13kg

備考:倒すと経験値がたくさん貰える。通常時は液状のボディだが、死亡し魔晶を取り除くとチタンになる。



『いやぁ~、狩りも狩ったり80体オーバー♪ さらに鉱物系スライミーのビッグなおまけ付き! 人は集中すると頑張れるもんだなぁ~』


『おまえさん、立派だったよ~』


『ヒメ、全てはオメェのおかげじゃねぇか~。感謝してるんだぜぇ~いつもありがとぉよぉ~』


『レベルは上がった?』


『よくぞ聞いてくれた。レベル32の俺ですらこの通りだよ~』




名前:ヒロ

種族:人間[ヒト]


pt:0/552


Lv:41[9up]

HP:300

MP:400[100up]

MP自動回復:1秒10%回復


STR:100[50up]

VIT:300[100up]

AGI:400[100up]

INT:400[100up]

DEX:600[100up]

LUK:147[2up]




『おおぉぉ、9つも上がってる! しかももうステ振り終わってる!』


『やっぱし今のスタイルに固執したくて、正確さと速さと魔力に特化しちゃった♪』


『いいよいいよヒロ、魔法忍者みたいで、かっくいーねー』


『いやぁ~照れますなぁ~ ……ところで、うちのハナちゃんは、ちゃんとレベルアップできているのかな?』




名前:ハナ

種族:イデア[幼獣]

年齢:15

性別:女


Lv:45

HP:181

MP:150


STR:83

VIT:155

AGI:200

INT:169

DEX:158

LUK:753


固有スキル:【忠誠】【仁愛】




『キタァーーーーーー! 一気に20も上がってる!! ア~ンド、スキル増えとりますやぁ~ん』


『すごぉーい、ハナちゃんもう一人前のレベル、てゆーかヒロのレベル超えちゃってる~』


『げっホントだ。でもなんで俺の倍ほどもレベル上がってるんだ?』


『ん~、元々レベルが上がりやすい種族なのか…… それともヒロの【必要経験値固定】がハナちゃんにも効いてて、レベルアップのための必要経験値がヒロの半分くらいで固定されちゃってるか……』


『ま、まぁとにかくめでたいことに変わりはない! あとヒメ、ハナは俺ん中で起きてる? 起きてたら新スキルについて聞いてみてよ』


『うん、起きてるよ~。ちょっと待っててね~ ………… ………………』


『………………』


『えっとね、“今から【仁愛】使うからステータス見てね♡”って言ってるよ』


『ステータス?』


 その時、雷に打たれたような激しい衝撃がヒロの全身を貫いた。


『ぐはぁあああああ!!』


『ど、どしたの!? ヒロ! 大丈夫!?』


『……や、……やばい。……死ぬかと思ったわ……』


『……え? あ~ヒロ、ハナちゃんが“心配ないの、今のが【仁愛】なの”って……』


『マジか…… 発動する度に今のが来ると思うと、生きた心地がしないんだけど……』


『……“大丈夫。最初の1回だけなの♡”なんだって』


『最初の一回だけってどーゆー意味なんだろ。とにかくステータス見てみようか』




名前:ハナ

種族:イデア[幼獣]

年齢:15

性別:女


Lv:45

HP:181

MP:150


STR:83

VIT:155

AGI:200

INT:169

DEX:158

LUK:753


固有スキル:【忠誠】【仁愛】




『……特に何も変わってないような……』


『……“ハナのじゃないの! パパのを見るの!”ですって』


『え? また俺に影響してるやつなのか。どれどれ……』




名前:ヒロ

種族:人間[ヒト]


pt:0


Lv:41

HP:300

HP自動回復:1秒1%回復

MP:400

MP自動回復:1秒10%回復


STR:100

VIT:300

AGI:400

INT:400

DEX:600

LUK:147


魔法:【温度変化】【湿度変化】【光量変化】【硬度変化】【質量変化】【治癒力変化】【錬金】


スキル:【ショートカット】【インベントリ(ヒメのなんだからね!)】【スコープ】【必要経験値固定】




『ん? ……お! おおぉぉぉ。【HP自動回復:1秒1%回復】ってのが増えてるわ~』


『……“パパをハナが助けるの♡”ですってよ、色男♪』


『俺のMP自動回復が凄すぎて一見地味に見えがちだけど、HPが命と直結するこの世界で、1秒1%回復って滅茶苦茶スゲー能力じゃん! これって死にかけてても1分半くらいで完全復活できるってことでしょ! ハナ、このスキルってどれくらいの時間で切れるのかな?』


『……“切れないよ。ずっとなの♡”だそうです』


『え?』


『……“パパとハナの絆でずっとこのままなの♡”だって。ヒロ、どうやらこれはパッシブスキルみたいだよ』


『なるほどぉぉぉ、でかしたぞハナ! パパ大喜びだぜ!!』


 次の瞬間、ハナが勢いよくヒロの体から飛び出した。


アンッ! アンアゥン アン! クゥ~ン クン!


 我慢できなかったのか、ヒロの体中に抱きついて体を擦り付けてはまた抱きついて、を繰り返す。

 ヒロもたまらずハナの全身をワシャワシャしては抱きしめて、を繰り返す。


『もーなんか、好き好き大好きの感情が大爆発しててハナちゃん何言ってるのか分かんないわ~』


 尻尾ブンブン、全身コシコシ、甘えた声の至福ハナ。

 ワシャワシャ、ハグハグ、桃源郷に居座るヒロ。

 ………………。………………。苦笑いでニコニコ見守るヒメ。

 三者三様の時間が10分ほど流れていった。


『さぁ、そろそろ昼だな。ハナはお腹すかないの?』


アンッ アゥウン


『“ごはんは朝だけでいいの”だって。でもおやつは欲しいみたいよ~』


『そか、じゃあおやつの時間だよぉ~はい、魔晶~』


アン! カプッ……ボリバリ ジャクシャク シャクシャク……ゴクン

アンッ!


『はいはい、いくらでもあるから欲しいだけ食べてねー』


アンッ!


 結局ハナはEランクの魔晶を3つ食べ、大きな伸びと大きなあくびをして、尻尾をフリフリしながらヒロの中にスッと入っていった。


『ホントに可愛いやつだわ~』


『赤ちゃんだからなんだろうけど、とにかくネンネの時間が長いよねぇ』


『子犬は寝るのが仕事だからねー。あ、そーいえばハナってさ、俺の中にいて起きてる時って俺のこと見えてるの?』


『うぅ~ん、何ていうか実体は無いから抽象的な話にはなるんだけど、まず、ヒロの中にいる時間のうちの七割はぐっすり寝てるかうつらうつら寝てるかのどっちかね。そんで残りの三割は起きてるんだけど、ヒロのやることなすこと思うことに興味津々好奇心って感じで、ずっと尻尾ブンブン振りながら一緒に行動してるつもりっぽいよ~』


『ホント、俺、死なないようにしよっと!』


『そーだねー。ハナちゃんの幸せな時間はヒロあっての物種だからねー』


『だなーえへへへ。おっとそろそろ町に戻ろうか。店も色々と見て回りたいし』


『りょーかーい♪』





 ヒメが見つけた東の森の猟場から30分で帰還したヒロは、そのまま町の商店が立ち並ぶエリアに向かい、ブラブラと散策していた。


『よくよく考えるとさ、俺って冒険者の王道的醍醐味【武器防具屋見て回り】にあんまし興味ないっつーか、暗殺スナイパータイプなだけにそもそも必要ないからテンション上がんないだよねー』


『確かに武器と鎧には全く縁のない異世界ライフを歩んでるわよね~』


『欲しい物って考えても、まずは【ギルドに大きいもの持ち込む用の荷車】でしょ、次に【体洗うためのヘチマ的なやつ】でしょ、あと【狩りとか移動の途中で顔洗ったり汗拭いたりするためのいい感じの布】とか……そんなんだもん』


『もークラッとするくらい庶民的よね~』


『とりあえず、そこのなんでも屋さんみたいなとこ入ってみようよ』


『は~い』


 ヒロは【よろずや・スライミー】という店のドアを開けた。


カランカラン


「いらっしゃい!」


 見た感じ三十歳くらいの男が挨拶をしてくる。


「あの、いろいろ見て回ってもいいですか?」


「はい、もちろん構いませんよ。どうぞ見ていってください♪」


 ヒロが軽く挨拶をすると、男はコーミと名乗り、店主であることを告げた。

 コーミのいるカウンターの後ろの棚には、ポーション類や魔晶、農作物の種、そして見慣れない道具が並べてある。

 カウンター周りには保存食らしき干し肉や干し魚がぶら下がっており、フロアには所狭しと色んなものがジャンルごとに分類されて並んでいた。

 衣類、布類、食器類、調理器具類、鞄や袋類、農具類、釣り具類、と、品揃えは多岐にわたっている。

 店内を一周したヒロは再びカウンターのコーミの所まで戻り、1枚の張り紙に目が行き、話しかけてみる。


「あの、俺は冒険者なんですが、この店では魔晶や魔物素材の買取をしているんですか?」


「あぁ、もちろんさ。うちだけじゃなくてセンタルスの商店はみんなやってるよ? 何か買い取ってほしいものがあるのかい?」


「あのぉ、冒険者ギルドを通さずにお店で買取りしてもらっても揉めたりしないんですかね?」


「あーそれなら問題無いよ。たとえ冒険者ギルドの登録者でも、好きな時に好きな相手に好きなだけ売れるのが基本ルールだからね。ただ、冒険者ギルドだと、かなりの広範囲で一律の買取価格を明確化しているから楽なんだよ。いちいち商売人相手のような駆け引きをしなくても済むしね」


「なるほど、そーいう事だったんですねー。因みに何か不足していて募集しているようなものってあります?」


「ん~まぁここは開拓の前線だから、あらゆるものが不足がちではあるんだけど、やはり魔晶はどこへ行っても需要があるね。あとビッグラビットなんかの美味しい系の肉類とか、魔物の牙・角・爪・骨なんかも用途がたくさんあって人気かな。まぁそれと定番だけどスライミー系の素材だね~」


「でしたらあの、過去に手に入れて売りそびれたまま持っている魔晶があるんですが、買い取って頂けます?」


「魔晶だったら大歓迎さ。どのランクだい?」


「えっと、Dランクが6個と、Cランクが2個なんですが…… いくらくらいになりますかね?」


「おっと、そりゃ豪勢だねぇ。僕の店での今年最高額の取引になりそうだよ。ちょっと待ってて♪」


 コーミはカウンター奥の小さな部屋に入って何やらゴソゴソし、木箱やら布やらを抱えて戻ってきた。


「Cともなるとちょっとした高級品だからね、大切に扱わないと」


 カウンターの上に厚手の布を敷いて準備を整えるコーミ。


「さぁいいよ、見せてもらおうか」


「あ、じゃあよろしくお願いします」


 ヒロは持っていた大きな布袋に手を突っ込み、まるでその袋から取り出したように見せかけ、インベントリから8個の魔晶をひとつひとつ取り出した。


「今はこれだけなんですが、どうでしょう?」


 魔晶を丁寧に扱いながら、コーミのチェックが始まる。


「……すごい。こんな傷ひとつ無い状態で持ち込んで来る人は滅多に居ないんだよ」


「そうなんですか、ひとつずつ布に包んで大事に持ってました」


「とてもいい心掛けだよ。魔晶の管理は神経質なくらい丁寧にしたほうがいいよ」


「はい、肝に銘じておきます。ところであの、アホみたいな質問なのかも知れないんですが、そもそも魔晶って何でそんなに需要があるんですか?」


「あぁ、いつでも行商人が安定した価格で買い取ってくれるから……っていう意味じゃない質問かな?」


「はい。用途がそんなにあるのかなぁと思いまして」


「そうだね、まず魔道具の燃料ってのは誰でも知ってる使い道だろ? この町じゃまだまだ浸透してないけど、大きな町になると生活は魔道具だらけだからね。それ以外で言えば、本国の研究所あたりでは、高い温度を大規模に出したい時に沢山の魔晶を使うって聞いたことがある。あと、海の向こうの大陸では、魔法専門の戦士がいて、そいつらに魔晶を食べさせてる……とか、とんでもなく強い戦士がいてテイムしたドラゴンに餌として食わせてる……とか、そんな噂話はゴロゴロ転がってるんだよ」


「いろいろなニーズがあるんですねぇ魔晶って……」


「まぁ眉唾モンな話も多いけどね」


「ところでこのお店にはどんな魔道具があります?」


 ヒロが質問すると、コーミは魔晶チェックの手を止め振り返る。


「うちで扱ってるのはここに並べているやつくらいだよ。照明と熱調理と浄水の三種類だね」


「なるほど。他にはどんなタイプの魔道具があるんですか?」


「あとは…… 金持ちの多い町だと、沸かし風呂とか、冷蔵とか、洗濯とか、わりと大きくて贅沢な道具も売れてるみたいだね。噂では、自動で動く荷車なんかもあるらしいよ」


「はぁ~そうなんですか。憧れますねぇそんな凄い道具……」


「まぁ売っといて言うのも何だけど、魔道具なんてものは我慢しようと思えばそれで済むような事のためのものばかりだからね。お金の余っている人しか買わないよ。なにしろ燃料の魔晶が高価すぎて庶民には維持できない贅沢品だからね」


「そうですよねー」





「……よし、さぁ、終わったよ。どれも状態に関しては最高レベルの魔晶だね。劣化の進みも殆ど見られず濁りも無い高純度品だ。これならCひとつ10万、Dひとつ3万、計8つで38万イエンでどうだい?」


「………………」


「ん~不満か。じゃあ40万イエン、これなら文句ないだろ? 通常よりかなり高いよ」


「……え? あぁ~はい、それで問題ないです。よろしくお願いします」


「よし、じゃあちょっと待っててね。今持ってくるから」


 コーミは再度バックヤードに姿を消した。


(……嘘だろ。魔晶ってそんなに高額で取引されてんのかよ。Cランクで10万イエンて。俺Aランクのも持ってるんですけど……)


 ヒロは内心腰が抜けるほど驚きながらも平静を装う。


「お待たせ~。はい、金貨4枚。どうぞ~」


「あーありがとうございます! ところでコーミさん、荷物が見た目よりたくさん入る鞄とか箱の魔道具って聞いたことあります?」


「あぁ、その手の話題も無くはないんだけど、あったらいいなーの枠を出ることはないシロモノだと思うよ。吟遊詩人や劇団の寓話でしか聞いたこと無いからね」


「そうですよね。そんなものがあったら流通革命が起こっちゃいますよねー」


「まー容量にもよると思うけど、店一軒分の荷物が収まる鞄や箱がもしあったら、多分殺し合いが絶えないほどの争奪戦になるだろうねー」


「怖いですねぇ」


「人の欲には限度が無いからねぇ。えっと……ヒロさん、ほかに御用命はありますか?」


「そうだ、コーミさん、料理に使う調味料とか香辛料とか置いてます?」


「ん~塩も砂糖も置いてるよ。あとは胡椒と唐辛子かな。あ、バルサルミルコル酢と果実酢もあるよ」


「おぉぉ。いいですねぇ。あとですね、体を洗う時の道具なんですけどヘチマって分かります?」


「あぁヘチマならあるよー」


「おおぉぉぉ~」


 興奮したヒロは次々とリクエストを浴びせ、商品を見繕っていくのだった。



以下、ヒロが【よろずや・スライミー】で購入した商品


■リュック(大)

■リュック(中)

■タオル(大)×5

■タオル(中)×5

■タオル(小)×5

■ヘチマ ×3

■布(大)×5

■布(中)×5

■紐 10m

■綿糸 5m

■蓋付きの空瓶(大)×5

■蓋付きの空瓶(中)×5

■蓋付きの空瓶(小)×5

■菜種油 5L

■塩  1kg

■砂糖 1kg

■胡椒 1瓶

■バルサルミルコル酢 1瓶

■果実酢 1瓶

■鶏卵 ×30


合計52,060イエン



「なんだいヒロさん、買う方も売る方もいいお客さんだったんだね♪ オマケして5万イエンでいいよ~まいどあり♪」


「こちらこそ、ありがとうございます! ところでコーミさん、荷車を売ってるお店をどこか知りませんかね?」


「荷車かぁ。この町にはまだ製鉄の工房が立ち上がってないから、木製のものじゃないとメンテナンスが大変なんだよ。そうなると、中央広場の北側の川沿いに木製品専門の工房が三軒ほどあるから、そこで比べてみて気に入ったのを買うのがいいと思うよ」


「情報ありがとうございます! また来ますのでこれからもよろしくお願いします」


「こっちこそこれからもよろしくね!」


「は~い、ではでは~」


 ヒロは【よろずや・スライミー】を後にし、通りを歩き出した。

 すると鼻をくすぐる香ばしいにおいに気付き、近隣地区を探索し始める。

 懸命の捜索はすぐに実り、1本裏の通りに【一宿一パン】という名の【パン屋】を発見。

 すぐさま入店し、バゲット型と直径30cmほどの大きな丸パンをありったけ購入して店主を困らせた。

 ちなみに【一宿一パン】の主人には“明日朝一番にバゲット30本と大丸パン30個を!”とすぐさま予約し、“パン屋でも始めるのか?”などと言われる始末だった。


 その後ヒロは中央広場に移動し、屋台で売られている肉串やチヂミのようなファストフードを食べ歩きしながら北上し、コーミに教えられた北の川辺に辿り着く。


『う~ん、この町の手前で馬車を見た時から嫌な予感はしてたんだけど、やっぱり鉄のフレームとか車軸・車輪、あとサスペンション的な技術は少なくともここら一帯には無さそうだねー』


『川辺の平地の街道とは言え、それなりに凹凸のある只の土の道だしねー。石畳みたいな公共事業としての道路が行き渡るのはまだ先の話なんだろうね』


『問題は値段だよ。安いので5万、作りがしっかりしていて、おっ! と思うような程度のだと10万超えてくるんだもんなぁ。なんか、たかが木製の大八車に10万イエンも払うのがどーなのかなぁって思えて来ててさー』


『でもヒロさ、実際に100キロもあるビッグラビットを3匹同時に納品しようと思ったら、現状はこの荷車方式が一番自然なんじゃないかなー。ヒロのSTR、100しか無いし』


『まぁそうなんだよね。話では【荷運び屋】っていう仕事の人達もいるらしいんだけど、それがそれなりに高い値段するらしいし、荷運び用に馬を借りるにしても管理が大変だろうしね~。う~ん……よし、金ならいくらでも稼げそうだし、この町で一番造りのしっかりした荷車買おっかな~』


『はーい、さんせ~♪』


 こうしてヒロは、15万イエンを支払って、この町で一番高額な荷車を購入した。


『こいつは今日から【流星荷号】だ。ヒメ、その辺、共通の認識でよろしくね』


『了解でーす』





 屋台での軽食や、ひと通りの買い物を済ませたヒロは、1時間後、東の森の近くの平原上空でホバリングしていた。


『センタルス周辺半径5百キロ圏内だと、このあたりがビッグラビットのいい狩場だと思うのよねー』


『お~ホントだ。いるいる! しかもヒメ、凄いよ! 午前中のレベルアップで【スコープ】の限界距離が600mくらいまで伸びてる! しかもAGIも上げたからだろーけど、【フレーム】生成時間が速くなってるし。つーかビシビシ【フレーム】作れるし。うぉぉぉ、菜の花の周りを飛び回ってるハチみたいな小さな虫の顔とかにも一瞬で【フレーム】固定できるじゃん! これは凄いことになってきたわぁ』


『ますます狩りの効率が上がるねー♪』


『それではこの辺りでの最大級サイズと思われるビッグラビットのみを乱獲しましょうかね。百キロ未満は狩らない方向でレッツ、狩り~ング!』


『おーー!』


 それから2時間ほどかけて、ヒロ達は記録に挑戦し続けていた。

 より大きなビッグラビットを求め、【鑑定後の狩り】に徹し、未成熟な小者には目もくれなかった。

 その結果、数の効率こそ高くはなかったが、合計68羽のビッグラビットを手に入れ、その全てが100キロ以上の体を持ち、最高記録を叩き出したのは……



■ビッグラビット

体長:150cm 体重:173kg



 173kgの超大物だった。

 

『ヒメ、もうコイツ以上にデカいのは見当んないわー。ウサギ狩りはこのへんで終了かなー』


『そーだね~。そもそもFランクの魔物だし、魔晶的にも旨味ないから、もう隣の怖い森に戻ろっか』


『マハ、ラジャー!』


 二人は東の森の上空に移動して再度2時間ほどを狩り過ごす。

 途中、ヒロにとって初めての【空からの敵】に襲われそうになったが、ヒメの“3時の方向800mにAランク! 飛んでるから空の敵よ! こっちに向かってる!”という的確なナビにより、射程圏内に入った途端、空飛ぶ魔物は瞬殺され、地上に落下することもなくインベントリに回収された。



■グリフィオン

キメラ型の魔物。後ろ足と尾はライオンで前足と頭が鷲。大きな翼があり、空中から鋭いクチバシと爪を使って攻撃する。

体長:380cm

体重:366kg

備考:素材として爪・クチバシ・肉・羽が利用される。



 そしてこのグリフィオンが群れで行動していたために、ヒロはこの後3分ほどで同種Aランクを5頭も回収することになる。


 その後も各種の大物ばかりを厳選し、Dランクのギオーク[35]・グレートボア[48]、Cランクのオルガ[12]・コケアトリス[26]・トロウル[2]、Bランクのデーモングリズリー[18]・ギオークキング[1]・バジリスキル[1]、Aランクのサイクロネプシス[2]をインベントリに収めて本日の狩りは終了した。


 ヒロとハナは当然レベルが上った。




名前:ヒロ

種族:人間[ヒト]


pt:0/509


Lv:49[8up]

HP:400[100up]

HP自動回復:1秒2%回復

MP:400

MP自動回復:1秒10%回復


STR:100

VIT:400[100up]

AGI:600[200up]

INT:400

DEX:700[100up]

LUK:156[9up]


魔法:【温度変化】【湿度変化】【光量変化】【硬度変化】【質量変化】【治癒力変化】【錬金】


スキル:【ショートカット】【インベントリ(ヒメのなんだからね!)】【スコープ】【必要経験値固定】




名前:ハナ

種族:イデア[幼獣]

年齢:15

性別:女


Lv:60

HP:225

MP:206


STR:113

VIT:205

AGI:268

INT:230

DEX:211

LUK:799


固有スキル:【忠誠】【仁愛】




『すげぇー。ハナのレベルが上がりすぎて開いた口が塞がらないよ。こりゃ今後も俺の倍くらいのペースで上っていきそうだなぁ。あ、【仁愛】のHP自動回復が2%に上がってる! 何気にチートだわー。つーかこれで【忠誠】発動してステ値合算したら…… 恐ろしいスペックになるねコレは。つーか俺は』






 夕暮れ時、センタルスの西の平原。

 町の入口から500mほど離れたひとけのない場所で、ヒロはインベントリから流星荷号を取り出していた。


『さぁーてと、ここからは偽装工作をちゃんとやらないとなー。まずはこの流星荷号をカスタマイズだっちゅーの』


 ヒロは流星荷号をフレームで囲い、硬度上昇と質量低下の魔法を少しずつチェックしながらかけ続け、軽量かつ頑丈な【マグネシウム的イメージ】をゴリ押しした。


『おわっ。すげーすげー。見た目【木】なのにスゲー軽くて硬くなった。やっぱ魔法って便利だわー』


 さらに車軸の接触部分には入念にグレートボアのラードを塗り、摩擦を減らす。


『ヒロ、徹底してるわね。もはやこの時代のスペックじゃ無くなっちゃってるけど……』


『いやいや、俺はSTRが100しかないモヤシっ子なんだから出来る限り力を使わなくていいように誤魔化していかないと』


『ウサギの偽装もなかなか手が込んでるねぇ』


 ヒロは、頭の上半分だけが凍結したビッグラビットの死体を大きい順にインベントリから3羽取り出し、凍結部分だけをフレームで囲い、絶妙な加減で常温に戻すと、頭頂部からミントンブレードを突き刺し、【頭部に一撃お見舞いして狩ったった感】を偽装していった。


『これくらいやっておかないと【なんで頭が凍ってるんだ】とか【戦った形跡が無さすぎる】とかいちいち詮索されそうだからねー』


 そう言いながら、巨大なウサギ3羽を地面からインベントリに収納し、改めて流星荷号の上に排出するというテクニックを使って、1度も手に持つことなく積載を済ませる。


『それ、なんちゅ~ズボラテクニックなの! インベントリ使って、物を触らずに移動させたり出来るってことなのねー』


『まぁでもこんなに正確に出来るようになったのは、やっぱDEXが500を超えた頃からだよ。それまでは何とな~くで、インベントリさんにお任せしてるって感じだったもん』


『でもヒロさ、試しにちょっと持ってみてよ、ウサギ』


『えぇ~無理だと思うけどなー。まーでも実験の一環としてSTR100の能力を調べてみるか』


『そーそー、興味ある~♪』


 ヒロは地面に130キロほどのビッグラビットを一体排出してから、ゆっくりと抱えてみた。


『ふんっ……あれ? 重いっちゃあ重いけど、こーやって130キロの荷物持ちながら移動できるくらいの力は有るみたいだ。なんでだろ?』


『STRが100だと、一般の人なら【力自慢のおじさん】くらいの筈なんだけどなー。よく分かんないなぁヒロの能力は…………あっ!』


『なになに、どうしたの?』


『ヒロ、自分のステータス見てみて(笑)』




STR:100 + 113

VIT:400

AGI:600

INT:400

DEX:700

LUK:156




『あ、STRだけ+113が付いて……これはハナか♪』


『…… “パパが荷物持つの手伝うの!”って言ってるわ♪ 確かにこれだと納得できる数値ね(笑)』


『そーか。一件落着だな。しかしハナって【STRだけ】みたいにピンポイントでも【忠誠】が使えるんだねぇ。今回は例のゾクッてやつが来なかったし全然わかんなかったよー』


『…… “こっそりも出来るよ!”だって♪』


『あのゾクッは元々俺に知らせるためにわざとやってたことなのね、ハナ了解だよ~』


 ヒロはそのあとも脳内雑談をしながら、巨大なウサギ3羽を載せ[て上から布を被せて何を積んでるのか分からなくし]た流星荷号をハナ協力の下、楽々と引いていくのだった。





ガチャ


「すいませ~ん、依頼品のビッグラビットを持ってきたんですけど、ここから入れてもいいんですかね?」


 ヒロが冒険者ギルド・センタルス支部[センタルス役場内]のドアを開けて声をかけると、慌てたガーリック支部長が奥から出てきた。


「あらあらヒロさんおかえりなさい。実は急いで拡張してたんだけどね、買取・納品の入口を隣の部屋の外側に増設したから、これからはこの役場のホールからじゃなくて、外から直接持ち込めるようにしたのよ。だから悪いんだけど、一旦外から回り込んでもらえるかしら」


「はい、了解しました」


 ヒロは外に停めてあった流星荷号を改めて役所右側面の外庭に運んだ。

 そこには屋外用の大きな作業台が二つと両開きの大きなドアが新たに設置されていて、ガーリック支部長が待ち構えていた。


「なるほど。大きな納品物はここに一旦置けばいいんですね」


「そうね、部屋の中にも作業台が3つあるから、当分の間は待ちが出て困るってことは無いと思うわ。さぁ、ビッグラビットだったわよね、中まで運んで貰えるかしら?」


「はい、大丈夫です。では運びますね」


 と言いながら荷車の布を取り外すヒロ。


「………………」


「どうしました?」


「……ヒロさん、私、ここまで大きなビッグラビット、初めて見るんだけど……」


「そう言われましても…… と、とにかく入れますね」


 ヒロは荷車の巨大ビッグラビットを、1羽ずつ新しく出来た納品部屋の作業台へと運んだ。


「……嘘でしょ、3体とも未確認レベルのサイズよ。ちょっとシュルム、来て!」


 ガーリック支部長が声をかけると同じドワーフらしい男性が元々有った隣の部屋から慌てて飛んできた。


「ヒロさん紹介しておくわね。こちらここの副支部長のシュルムよ。これからはシュルムが買取・納品の窓口を担当するからよろしくね」


「ヒロさん、お噂は支部長から聞いています。シュルムです。よろしく」


「こちらこそよろしくお願いします。あの、ウサギはこの台に置けば良かったですか?」


「はい、そこで結構ですよ。ここからは自分と支部長でやりますから」


 そう言うとシュルムは、ガーリックと協力して吊り下げ式の運搬具を使い、巨大な天秤ばかりの荷台にビッグラビットを置いて計測し始めた。


 待つこと5分。


「驚いたわぁー。173キロ、168キロ、166キロですって……。ヒロさんと出会ってまだ1日だけど、どんどん凄い事への耐性が上がってきてる気がするわ。えーっとね、買取価格なんだけど、肉が1キロあたり300イエンだから、総重量から割り出して…… 144000イエン。毛皮がこのサイズだと1頭あたり5万イエンで150000イエン、Fランクの魔晶が5千×3で15000イエン。最後に骨やら歯やらの素材が一纏めで15000イエン。合わせて324000ね。Fランクの魔物にしては破格の買取価格よ。今回もありがとう♪」


「こちらこそです。依頼を達成できて嬉しいですよ」


「…………」


「あれ? どうしました?」


 ガーリックは何かを思い巡らせるように黙り込んでから、ゆっくりと口を開いた。


「……ねぇヒロさん、ちょっと深入りしたこと聞いてもいいかしら?」


 ドキィィッとしながらも平静を装うヒロ。


「……えぇ、いいですよ」


 それを受けてガーリックが話し出す。


「この2日間だけでも、あなたが腕の立つ人だっていうのは良く分かったわ。冒険者になったばかりであろうと仕事は間違いなく超一流ね。そしてこのビッグラビットの頭部への傷を見ても、ヒロさんが素早く魔物に近付いて一撃で仕留められる実力の持ち主だってことも容易に想像できるわ。多分魔物のレベルがもう少し上がったとしても、あなたは傷を追うこと無く対処できるんじゃないかと思うの。ここまでの私のあなたへの評価を客観的にどう思う?」


「ん~そうですね。Cランクの魔物くらいまでなら対処できると思います」


「なるほど、心強いわ。それじゃ、そんなあなたを超一流と見込んで大事な依頼をお願いしたいと思います。ただこれは、とても難しい依頼なので、受けるか受けないかはもちろん自由だし、受けた後の失敗ペナルティもありません。それくらい切迫していて失敗が前提として盛り込まれているような依頼なのよ。そんな依頼、話だけでも聞いてくれる?」


「はい。まずは聞かせてください」


「ありがとう。じゃあ話すわね。まず、このセンタルスの町が開拓の前線だってことは知ってると思うけど、実はここは【最前線】ではないの。ここが最前線だったのは半年ほど前まででね、今はこの町から西へ450キロほど行ったところにある【ガンズシティ】ってところが開拓民の最前線基地になっているわ」


「450キロですか…… そこまでの間には、村とかは無いんですか?」


「無いわね。というのも、このセンタルスまでが結構順調だったってこともあって、開拓隊の中でも最前線組は、大体4~500キロをひと単位として拠点を作っていくルーチンになっているのよ。そして一旦拠点を作ってから、放射線状に小さな開拓村を飛ばして町々の間を少しずつ埋めていくっていうのが南から北上してきたドワーフが中心となった開拓方法なの」


「ミントン村とかがそれに当たるんですね」


「ミントン村を知っているのね。そう、あそこはまさにセンタルスの開拓が一段落してから開拓小隊として村作りに出ていった人達なの。南の大陸にあるアンゼス本国からは、絶えずそんな人達がこのゼロニモア地域の開拓に供給されていて、どんどん人里が増えているところなのよ。そんな開拓の最前線基地が、さっきも言った【ガンズシティ】でね、その最前線基地とここセンタルスは【ミズリン川】っていう川で繋がっていて、川辺の町の開拓ってこともあって、メンシスやセンタルスの時と同じテンプレートが使えるし、危険な森や山越えもないからすんなり拠点運営と最初の自治が開始できる筈だったんだけどね……」


「どうなっちゃったんですか?」


「ガンズシティに開拓に向かった最前線組の100人が、反旗を翻して独立宣言しちゃったのよ」


「独立宣言? こんな前線の開拓地で物資の供給も無いまま【独立】なんて出来るんですか?」


「まぁ厳密に言うと、【独立】というよりは【立てこもり】に近いわね。元々彼らにはイデオロギー的な独立願望なんて無いはずだし、単純に“俺達はもっと沢山の見返りを得ていいだろ!”って駄々こねてるだけとも言えるの。ようは、より多くの利権を求めてのストライキね」


「もう既にガンズシティ側とは交渉をしているんですか?」


「5回交渉に向かって、5回とも決裂したって聞いてるわ」


「彼らの要求に具体性はあるんですか?」


「そこなんだけど、まずはガンズシティの土地の所有権を大規模に求めているわ。そして自治の制度やルール作りの時の主権を欲しがってる。ようは新しい町の有力者になりたいってことみたいなのよ」


「……なんか、やけに生々しいですね……」


「確かにね。彼らも開拓されていく町々を今まで見てきて、自分たち最前線組が結局のところ使い捨てにされるだけで、大きな利権にありつけていないという事実に腹を立てているの。ただ、こういう開拓はそもそも後方の安全地帯にいる支配階級の人達が計画から資金調達まで散々準備して動いている巨大プロジェクトだから、一介の兵隊が100人集まって子供が駄々こねるみたいなストライキを起こしても体制には何の影響も変化も期待できないわ。ただね、それ故に厄介というかね、彼ら、感情的に吹き上がってしまっているものだから、さっき言った交渉部隊も冷静な話ができなくて追い返されてしまって、その繰り返しと停滞が続いているのが現在の状況ってとこなのよ」


「大体わかりました。……で、俺に何をしろと?」


「そこでなんだけどヒロさん、あなたには、ガンズシティで立て籠もって駄々こねてる開拓最前線組の100人を、本来の協力的な開拓民としての状態に戻してほしいの。できれば誰も殺さずにね」


「彼らは罪人という扱いになる訳ではないんですか?」


「ここが開拓の前線でなかったら重罪に問われるでしょうね。だけど、最前線は政治や法律も行き届かないところだからね。そもそも人手が足りないし、最前線の開拓は実際キツいから、やれる人材という意味でも限られてくるのよ。だからメンシスもセンタルスも、この件に関しては出来れば穏便に軌道回復させて無かったことにしたいっていうのが本音なの。100人の命知らずを組織として再編成するのは大変だからねぇ」


「なるほどぉ。しかし…… 俺がうまく解決できるような案件とは思えないですけど……」


「そこをなんとかお願いできないかしら? もちろん無理だと思ったら戻ってきてもらって構わないから。もし交渉が決裂して撃沈した場合でも現状報告さえちゃんとレポートしてもらえれば20万イエン、交渉成功の場合は100万イエンの報酬が用意されてるの。どう? お願いできない?」


「ん~~~~~~………… 分かりました。やるだけやってみますよ」


「ありがとう! あなたならきっと引き受けてくれると思ってたわ!」


 ヒロは結局この依頼を受けることにした。

 喜んだガーリック支部長は、すぐさま奥の金庫に飛んでいき、支度金としてヒロに20万イエンを手渡す。

 善は急げと次々に予定が決められていき、出発は翌日となってしまった。

 特に予定もなかったヒロは拒否する理由もないまま、ひと通りの提案を承諾する。

 そしてあっという間に最前線交渉企画会議はお開きとなるのだった。


 日の入り時刻。うさぎの寝床。


カランカラン


「ただいま帰りました~」


「ヒロさんおかえり♪ 今日はちゃんと稼げたかい?」


「はい、ぼちぼち稼げました……」


「どうしたんだい、稼げた割には浮かない顔してるじゃないか。なにかあったのかい?」


「ん~、なんとも難しそうな依頼を引き受けることになっちゃいまして…… あ、その関係でラビさん、申し訳ないんですけど明日から急に旅に出ることになりまして、昨日、何泊もするって言っておきながら今晩で一旦出ることになっちゃいました。すいません。違約金とかありましたらお支払します」


「なーに言ってんのさ。そんなもん要る訳ないだろ。それより突然旅に出るって、いったいどこに向かうんだい? メンシスかい?」


「えっと、西の方なんですよ……」


「西って言ったら、最前線じゃないか。最近進展のニュースも入って来ないけど開拓は進んでるのかねぇ。ギルドは何か言ってたかい?」


「えっと…… 最前線のガンズシティに書類を届ける仕事なんですけど、ギルドからもその時に開拓の状況報告の書類を受け取って来いと言われているんですよね」


「そうだったのかい。名誉な仕事じゃないか、信用されてるんだねぇ~。確かにガンズシティ方面はまだまともな道も出来てないから、魔物の危険性を考えると馬も走らせられない状態だからねぇ。冒険者頼みの仕事かもしれないねぇ。がんばるんだよ!」


「はい、がんばります!」


「さぁさ、おなか空いてるだろ? すぐ準備するから荷物を置いてきな。今日はビッグラビットのシチューだよ。ゼキーヌが昨日から仕込んでたやつだから美味しいよぉ」


「はい、すぐに荷物置いてきます!」


 ヒロは急いで部屋に向かうのだった。





 部屋で一息ついた後、ヒロは食堂に戻り、席に着いていた。


「ふぅ~。まだ2泊目なんだけどなぁ。なんか落ち着くよなぁ」


 昨日と同じ席で、思わず安堵の声を呟く。


「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか」


 ちょうど料理を運んできたゼキーヌがヒロの独り言を聞き逃さず語りかける。


「いやいや、本当になんだか落ち着くんですよ♪ 実家みたいな感覚です」


「いくらでも実家だと思ってくれていいんだぞ。ほれ、今日の夕食だ」


 ヒロの前にビッグラビットのホワイトシチューと丸パンと細かく切った野菜の酢漬けが並んだ。


「これまた美味そうですねぇ。いただきまーす!」


 ひと口食べた瞬間にゼキーヌの料理に蕩けるヒロ。


「ビッグラビットのお肉って、煮込んでも柔らかくてジューシーで旨味が逃げてなくてホント最高に美味しいですねぇ。昨日と今日で人生最高の料理が食べられて幸せですよぉ~♪」


 シチュー皿の中から具材が無くなった後は、温かい丸パンをちぎりながらシチューの残りを付けては食べ、いつしか皿はピカピカになっていた。


「嬉しくなる食いっぷりだな。おかわり有るけど食うか?」


「え! いいんですか!? いただきます!」


 ヒロは即答して丸パンもおかわりすると、結局もう一度皿をピカピカにして夕食を終えた。

 嬉しそうにヒロを見つめていたゼキーヌは、ヒロが明日から西の最前線に向かうことを知ると、地形のことや川辺でも気をつけるべき魔物のこと、野宿する時の知識など、様々なことを丁寧に教えてくれたのだが、話が長引きラビに叱られる一幕もあり、ヒロは2人の暖かさに感謝しながら部屋に戻ったのだった。


『ヒメさ、この依頼ってどー思う?』


『ん~ ガーリックさんのあの強引さを思い出すと、よっぽど切羽詰まってるんだろうなぁって感じかなー』


『出来ればお役に立ちたいのは山々だけどさ、 ……全く自信無いわ~』


『まずさ、その【最前線立て籠もり100人組】ってのがどんな奴らなのか、会ってみないとどーにも始まらないわよね』


『全くそのとおり。今悩んでも無意味だよなー。今日はハナと遊んで寝よーっと』


 次の瞬間、ヒロの胸元から小さな影がベッドの上に飛び出した。


クンクゥン! クーン


「は~い、ハナおいで~。よしよしよしよし。ほれほれほれほれ~」


 ヒロとハナのワシャり合い擦り合い抱き合いが始まり、ベッドの上では延々と同じ光景が続いていく。

 途中ヒロから提供されたEランクの魔晶という名の夜のおやつを3つ平らげたハナは、2時間ほど夢中で遊んでから力尽き、巣[ヒロの中]に戻っていった。


『ヒロの中に戻った途端、幸せそうに寝息をたててるよ~。無防備なポーズでねー。ハナちゃんかわいい♡』


『寝息とかポーズとか分かんないでしょ、一体化しちゃってるんだから(笑)』


『それが最近さ、ハナちゃんのイメージが強いのか、行動以外にもしぐさや声の細かい所まで伝わってくる事があるの! それがまたかわいいんだよねー』


『それ滅茶滅茶うらやますぃ~ぜヒメェ。その感覚俺にバイパスできないの?』


『出来なくもないけど私の楽しみでもあるからヤーダよ♪』


『はーいわかりました~。……さーて、明日からは旅が始まるし、そろそろ寝ますか』


『は~い、おやすみ~ヒロ』


『おやすみ~ヒメ』


 こうして、ヒロ達の異世界生活7日目は終わった。





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