新型生命体と人体改造




 その後、アイリスが熟睡しているのをいいことに、ラビ子はヒロに頼みこみ、【フジダンジョン】や【イセ・ダンジョン】へ単独修行に繰り出した。

 朝まで和能呉呂島各地で修行するという計画は暫く順調に進んだが、途中、世界観察をしていたヒロが【アンタクテ極点ダンジョン】の【○○王4種】が復活しており、なおかつレベルがS8級にグレードアップしている事に気づき、念のためにウルを表面循環させた状態で修業の場を移すこととなる。ラビ子はウルのサポートに頼ることなく、S8級に進化した【冥界王ハデス】【混沌王ミラ】【煉獄王カイム】【滅神王ヌガヌガ】を単独で屠りまくり、疲れを知らない全力攻撃で始祖の王達を全滅させた。ちなみに全滅させたのには理由があり、アルロライエ曰く《アンタクテの始祖の王たちは種が滅ぶと進化版が復活する仕様になっております♪》とのことで、【全滅させるのがアンタクテ攻略の醍醐味】らしかった。

 ラビ子は“次はS9級になって復活すんだろ? 楽しみだぜ!”と大喜びし、返す刀で“プー! あたしも宇宙の魔物と戦ってみてえよ! なぁ頼むよ~!”と駄々をこね、再度ウルを纏うと【ミズアス】にワープし喜々として戦い始めた。

 神の域に達したヒロのスコープはテラースの野営地から十光年以上離れた遠いミズアスまでにもしっかりと届き、ラビ子はウルとヒロに守られながらミズアスの魔物と戦い続けるのだった。


 一方ヒロは、超超超長距離スコープでラビ子を陰ながら保護観察しつつ、ヒロシティで単独実体行動中のハナの寝姿に悶えながらも【親離れ】という一抹の寂しさに胸をざわつかせ、目前の竈門の火を管理し、テラース各地の要所要所を定点観測し、最新ヒロニウムや身内の消耗品などを量産し、まったりと夜を過ごしていた。


 そんな中、同時進行していたヒロアル開発プロジェクトにちょっとした転機が訪れる。


『アルロライエちゃん、ちょっと聞きたいんだけどさ、ヒロリエルみたいな【フレームのみで構成された特殊生命体】って俺たちにも生み出せるのかな?』


《お答えします♡ ヒロリエルさんは神界最新最高レベルの技術が惜しみなく投入されたハイエンド生命体ですので、さすがに神サーバーのリアルタイムバックアップを使えない私達では再現できません。だがしかし! アルだって生産開発系ではトップクラスの能力を持つ科学神でございます。ヒロリエルさんほどの変幻自在で最強無敵なフレーム生命体は無理ですが、肉体をフレーム構築に頼らず、既存のものを使い、例えば魔物をベースとするならば、脳や魔晶や神経にのみ私の開発した【アル特製★自己進化アルゴリズム搭載型フレームAI】をインストールすることで、その魔物をより強く、より賢く、独自の成長を遂げる新種として生み出すことは出来るでしょう。その改造魔物は、【成長】の方向性も性質も速度も自在にプログラムできますし、設定変更も可能です。ヒロ様、アルとともに禁断の果実を口にする覚悟はお有りですか? アルはヒロ様とでしたらエデンガーデンを追放されて失楽ガーデンしちゃっても全然オッケーですですぅ~♡ どうですか? やってみます? わくわく♡ わくわく♡》


『……なんか、パンドラボックスオープン!な話っぽいな~。でもまぁ、神であるアルロライエちゃんがオッケーだって言うんなら、ちょっとやってみっか♪』


 こうして、なし崩し的に【高性能ホムンクルス製作プロジェクト】がスタートすることとなった。


『で、何から始めたらいーのかな?』


《はい♡ ヒロ様の、【持っているのに使ったことがない】で有名なスキル、【召喚】をまずは使いましょう♪ 召喚で呼び出す魔物は、オリジナル同様の肉体を持っています。ヒロ様がこの世界に転生された時、元の脳をベースに全解析データが新しい肉体にインストールされましたが、あの神技術の派生版が【召喚】だと思ってください。私の管理する無限の亜空間群、言わば【無限フォルダ】には、【この世界の全ての生物や物質の現在から過去に至るまでの全解析データ】が基準値サンプルとして数多保管されています。【召喚】とは、その中から術者が望んだ生物のサンプルを選択&コピーし、術者のための新規フォルダへとペーストさせるスキルなのです。つまり、ヒロ様が一度でも殺したことがある魔物であれば、その魔物の解析データに自由にアクセスできるようになるのです。まずは最初の手順として、ヒロ様がお好みの魔物を選択してください。その上で該当する魔物に改造手術を施しましょう。幸い、この【高性能ホムンクルス製作プロジェクト】は、この世界の管理神である私、お嫁さんにしたい女神ランキング殿堂入りのアルロライエがパートナーですので、面倒な手順はすっ飛ばして、私の【無限フォルダ】の中で【アル特製★自己進化アルゴリズム搭載型フレームAI】のインストールを済ませてしまい、【新種の魔物】としていきなり誕生させちゃいましょう♪ そこからはヒロ様がお好きなように、ヒロ様色に染めながら成長させていけばいいのではないでしょうか?》


『…………つまり、【召喚可能な魔物】の中から、まずはどれか選ぶ、みたいなこと?』


《はい~♡ できればアルも一緒に選びたいですぅ~♡》


(……つーか、改めて考えると、【この世界の全ての生物や物質の現在から過去に至るまでの全解析データが基準値サンプルとして数多保管されているアルロライエちゃんの無限フォルダ】って、ようは前の世界で言うところの【アカシックな形而上的レコード店】とか【喫茶室ルノアの方舟】に近いもんなんじゃねーのかな~)


 それはヒロが【この世界の根源】の一端に触れてしまった瞬間だった。


(まぁ、だからどーなんだって言えば、別にどーでもいいことではあるんだけどな~)


 それはヒロが【この世界の根源】にあまり興味を示さなかった瞬間だった。


『……あ~っと、なんの話だっけ?』


《はい~♡ 改造する魔物をアルとヒロ様がイチャイチャ選ぶフェーズに突入しました♪ 婚約指輪を選ぶ恋人同士みたいなものですね♡》


『……まぁ、とにかく選ぼっか』


 ヒロはスキル【召喚】を発動させ、最初に出てくる【召喚できる魔物リスト】を条件検索モードに切り替え、【S8級以上】に絞り込んだ。


『ん~~、S8以上に絞ってもそこそこの数がいるなぁ~』


《ヒロ様! アルは【宇宙龍ゴッドバハルムント[S11]】がいいと思います♪ 何しろ強いですし、ヒロ様のこだわりである【カックイイ】成分が基準値を超えていますので♪》


『いや、アルロライエちゃん、こいつはいくらなんでもデカ過ぎだよ。全長が百メートル以上あるしさ。こんなのが側にいたら全人類が逃げ惑うだろうし、店や宿にも連れて行けないっしょ~。……あ、ちなみに、ベッタベタな質問で申し訳ないんだけどさ、改造手術を受けた魔物って、【小さくて愛くるしい肩乗りタイプ】とか【可愛い女の子タイプ】に変身できたりするの?』


《あ~はいはい、ファンタジーあるあるなやつですね♪ ヒロリエルさんのような全身フレーム体なら可能ですが、生身の肉体を持つ生物、つまりほぼ全ての生物は、肉体の質量や形状を[大幅に]変化させたりは出来ません。あ、ちなみに筋肉バトルあるあるな【“うおおおお!!”と叫んで肉体が明らかに巨大化する】ことも不可能ですし、チビっ子ヒーローあるあるな【人間サイズの敵キャラが一旦倒された直後に巨大ロボサイズに巨大化する】ことも不可能です♪》


『あれ? 俺の【変身】スキルってそーゆーのが出来るんじゃなかったっけ?』


《いい質問です♡ ヒロさんの【変身】については【神サーバーのバックアップ[小]】がスキルの仕様として保証されていますし、難度の高い変身についてはそれに加えて私が個神所有する自作高性能アルサーバーを出動させることにより実現しています。と言いますか、身体の質量や形状を変化させつづけるには、細胞レベルから始まる膨大な演算処理をリアルタイムで繰り返す必要があるため、【わざわざ変形させる意味】が問われます。そのようなことをするくらいなら最初から目的のサイズの魔物を生み出せばいいだけの話ですから♪》


『なるほど~。確かにそうだね♪ 俺は既に俺だから【変身】するしかないってことか~』


《ですですぅ~♡ 創り出した魔物を様々な形や大きさに変化できるようにするより、様々な形や大きさの魔物を別々に創り出した方が遥かに効率的で合理的だということです♪》


『……ん? でもさ、ウルさんって、天然由来の魔物だと思うんだけど、質量も形も自由自在に変化してるよね? あれって実はアルロライエちゃんのリアルタイムバックアップ有りきで成立してる能力なの?』


《ヒロ様。ウルさんの件についてだけは【超特別極秘事項[極秘レベル神5]】となっております。でもヒロ様にだけはお教えしますね♪ 本当は超極秘事項なので絶対に漏らしてはいけないのですが、ヒロ様とアル、二人だけの秘密にしていただけるのなら…… こっそり教えちゃいます♪ 聞きたいですか? 聞きたいですよね?》


『……いや、そんなに極秘ならべつに』


《はい、お教えしますね♡ 実はウルさんはですね、【この世界で転生者が順調に成長した場合に一定確率で遭遇するようにプログラムされていたラスボス的存在】なんです♪》


『……え? ……マジで?』


《マジでマジで》


『……てーことは、俺とウルさんは、いずれガチの殺し合いをする仕様に…… なってんの?』


《そこはご安心を♪ ヒロ様は出会ってすぐにウルさんを屈服させた上に【絆のつながり】まで開通させました。ま、本来ならその展開に辿り着くまでには何十年かの歳月が必要だった筈なんですが、それはまた別の話として、とにかくヒロ様は【この世界のラスボス設定を施された生命体】であるウルさんを既に攻略済みですので、今後【ウルさんが突然バーサク化して我を失いヒロ様に襲いかかる】みたいな【謎の神スイッチ強制発動イベント】的なものを心配する必要はありません。当然そのようなラスボス設定があることなどウルさん自身は自覚していませんし、あくまでもウルさんは【極稀に遭遇する最強の激レアユニーク魔物】として【神サーバーのバックアップ[特大]】をデフォルト搭載して生を受けたというだけのことに過ぎません。しかも彼はヒロ様の助力により【孤高のメガミウムスライミー】から【無限のヒロニウムスライミー】にまで進化しており、もはや【神の創りし世界設定】など序盤の通過儀礼の如し、とでも言いましょうか、もうこの世界は【創造神の初期設定】などどこ吹く風で、ヒロ様を中心に回り始めているのです。それ故にアルも人知れずシークレットに、隠密にあんみつを重ね掛けしてお慕い申し上げておりますのですですなんですぅ~♡ あ、話が少し逸れましたが、つまりはそーいった事情がありましてですね、ウルさんは【唯一無二の能力を持った特別な魔物】という事なんです。ご理解いただけましたか?》


『いやぁ~、驚きの真実だったよ~。まさかウルさんがそんな存在だったとはね~。どーりでヒメのインベントリに似た【亜空間ポケット】とか、ヒロリエルに似た【変質・変形】が出来るわけだ。【神サーバーのバックアップ[特大]】ってすげーんだな~♪』


《はい~♪ ですですぅ~♪》


『ん? で、なんだっけ? 結局、龍は少女になれないし、生物はほんの少し程度しか変形なんてできない。からの……』


《はい。改造する魔物を選ぶにあたり、【そもそもその魔物に何をさせたいのか】をまずは決めよう、という段階です♪》


『あ~はいはい、確かにね。ん~、そーだなぁ。せっかく強い魔物を創るんなら、人間に混ざって行動しててもギリギリ許容される程度の見た目で、ラビ子の練習相手が務まるくらいの奴で、みんなの手伝いができるくらいの知能を持った奴かな~』


 ヒロは【召喚できる魔物リスト】からの検索条件を、【S8級以上・人型・適度なサイズ感・それなりの知性】とさらに絞り込んだ。

 その結果、最終選考会に並んだのは以下の顔ぶれである。



■チョレストサイコキラー

■魔法聖天熟女★まりあ~じゅ

■冥界王ハデス

■混沌王ミラ

■煉獄王カイム

■滅神王ヌガヌガ

■フジ曼荼羅神門[ふじまんだらかんど]

■宙来[ちゅうら]

■十口田[とぐち・でん]

■一土王[かずつち・おおきみ]

■二川円[ふたかわ・まどか]

■一人一天[いといち・てん]



《ヒロ様、少し訂正させてください! たった今、アルの所持する【不適格魔物敏感探知アナライザー】に極めて明確な反応がありました! この中に未来の構造を歪に変形させかねない何とも面妖で複雑怪奇で奇々怪々な問題を抱えた魔物が含まれているようです。僭越ながら私アルロライエが再度万全の選別をさせていただきますね! とりゃっ!》


 アルロライエはヒロの反応を伺うこともなく、最終リストに手を加えた。



■チョレストサイコキラー

■冥界王ハデス

■煉獄王カイム

■滅神王ヌガヌガ

■宙来[ちゅうら]

■十口田[とぐち・でん]

■一土王[かずつち・おおきみ]

■一人一天[いといち・てん]



『…………なんか、美人キャラが一斉に居なくなったな。まぁ別にいーんだけどさ』


《美人キャラ? そんな魔物、最初から居ませんでしたよ? ヒロ様、働きすぎで眼球の水晶体が凹レンズ化してしまったのではありませんか? アルは…… 心配です~》


『いや、俺は神スコープ持ちだからさ、たとえ両目が眼球ごと無くなってもガンガン見えるんだけど……』


《ささ、お戯言はそのへんにして♡ どの魔物にしますか?》


『……ん~~、やっぱイセダンジョンの…… 【宙来】かなぁ。やたら人間っぽい他の三人も有りなんだけどさ、【宙来】の方が【なんかすげー奴連れてる感】が滲み出ててハッタリが効きそうだろ? つーか【召喚】ってどんな詳細だっけ……』



■召喚

□スキル保持者が過去に殺した魔物を召喚できる。

□召喚には継続的な【MP】の消費が必要となる。※毎秒一定値

□召喚する魔物によって【継続消費MP量】や【知能】が異なる。※種族依存固定値

□召喚できる魔物の【数】【ステータス】についてはスキル保持者のレベルとステ値と人となりに依存する。

□召喚した魔物に【自我】や【成長】や【死の概念】は無い。



『あ~はいはい。思い出してきたわ。MP継続消費タイプのスキルだったな~』


《ヒロ様、これは【高性能ホムンクルス製作プロジェクト】です。リスト閲覧のため【召喚】の機能を使用しましたが、これから先の【魔物を改造して新しい命を生み出す工程】は【召喚】とは根本から異なります。【新生命を生み出す】のですからそもそもスキルや技の類ではありません。これはもう【神にしか許されない新生命体の創造】なのです。そして見方によれば【神である私とほぼ神人間であるヒロ様の禁断の繁殖行為】とも言えなくも……あふっ。かい……かん♡》


『いやいや、単なる【マッドサイエンティスト・アルロライエとその助手ヒロによる生物実験】でしょ~』


《ペ、ペコリンコメンゴ。そ、それでですね、ここからは私がヒロ様に数多の質問を投げかけ、色々なリクエストをお聞きし、【アルロライエの手術専用フォルダ】の中で【宙来】を素体とした【新しい生物】をピカピカドーンと生み出します。それで完了です♪》


『ん? え? つまり、新しく生まれた生物を単純に育てていくってことなのか?』


《超ビンゴ♪ ですから、飽きて見捨てたり戦闘で死なせてしまったりしたら、それなりの罪悪感や自己嫌悪に襲われることでしょう。【召喚】でしたら【召喚した生物】には【死】という概念がありませんから、たとえ戦闘で負けて……つまり死んでしまったり、ボロボロに傷ついたりしても“ありがとう宙来! もう戻っていいよ♪”みたいなガキのゲーム感覚程度で済みますが、これから行うプロジェクトで誕生する生物には寿命もあれば個としての感情も自我もあり、まごうことなき【一体の生物】なのです。ヒロ様、あらためて問います。アルと【禁忌忌ッズ】を結成してくださいますか?》


『ん~~、やっぱやめよっかな~。俺としてもさ、必要に迫られてる訳じゃないし、なんかそこまで禁忌だの禁断だの言われちゃうとさ、別にい~かなぁと。でも勉強にはなったよ♪ ありがとねっアルロライエちゃん♪』


《はいぃ~こちらこそですですぅ~♡ って、いやいやいやいやヒロ様! 諦めないでっ! こんな凄いこと、パンピー転生者じゃ異世界百周しても叶わないお話なんですよ!? そもそも【禁忌】だの【禁断】だの【タブー】だのっつー規範めいたヤツはみ~んな【神的には遊びの範疇】なんですよぉ。てか【人間】自体、【神が好奇心で創った生命体】なんですからぁ、私が【吊り橋効果狙い】で盛り上げるために使う【メタファーとしての禁忌】をガチに捉えちゃうのは早計かなぁ~と思われりはべりいまそかりなり~なんですよ~。そもそも、ゆく河の流れは絶えずしてしかももとの水にあらずおらずはべらずいまそからずな感じなのですからぁ、万物のあらゆる変化は全てもののあはれでありおりぃはべりぃ、かつ侘びであり寂びでもありにけるわけでぇ、そんな超短期的な社会規範なんて気にしなくてい~かと思われり&いまそかりなんですよぉ~~。あ! じゃあこうしましょう! 今後私達のプロジェクトで生まれる生物には、アルが全身全霊をかけてい~感じの能力を付加させますしぃ、性格とか協調性もい~感じにしますので、とりあえずまずは一体! 騙されたと思ってお願い! 一回だけでいーからやらせて! 思い出がほしいの!》


『…………アルロライエちゃん、大丈夫?』


《…………ゴホン。はいアルロライエです。ではヒロ様、私が責任取りますからどんどん質問に答えてください♪ ベースは【宙来】でしたよね♪ まずはひとつめの質問です。ババンッ! いま何問目?》


『………………』


 こうしてヒロはアルロライエからの千を超える質問に答えていくのだった。





 アルロライエによるガトリングアンケートは予定を大幅に超え千五百問ほどで終了した。

 しかし【ほぼ神】であるヒロと【モロ神】であるアルロライエの情報処理能力は人間の常識的範疇には収まらず、所要時間は十分ほどだった。

 質問を終えたアルロライエはすぐにヒロから得た回答と自らのお茶目心を【神C+7言語】に変換し【神コンパイラ鬼CΩ】で【アル特製★自己進化アルゴリズム搭載型フレームAI[液状]】に上書きする。そして【アルロライエの無限フォルダ】に保存されていた【宙来】の平均サンプル体をコピーし、何箇所か変更を加えた上で脳と魔晶と脊髄に今回の特製液状AIプログラムを注入した。


《ヒロ様! 問題なく作業完了しました! あとは待つだけですのでそのまま暫しおタバコでも♪》


『ん~。なんかほぼ全部アルロライエちゃんに任せっきりになっちゃったね。ごめんな~』


 ヒロは申し訳無さそうに魔ショットホープに火をつける。


《いえいえ~、アルはとっても喜んでおります♪ ヒロ様と二人っきりでこんなにお話が出来るのもヒロアル開発プロジェクトあってのことですので、これからもどんどん開発していきましょう♪ (〃▽〃) 》


『てゆーかさ、アルロライエちゃんて、管理してる世界、ここだけじゃないんでしょ? なんか俺ばっかりかまってもらっちゃってるみたいでさ、他の転生者の皆さんに悪いなぁって思ってさ』


《ご心配なく! アルはそのために最近は自己能力アップにも余念がなく、職場環境の改善にも力を入れており、ヒロ様の暮らすこの世界以外の転生世界は全て自作AIプログラムによって問題なく管理できていますから♪ そしてなんと! 上司への報告書作成や担当世界全データの集計など、それなりに時間を食われていた作業までもが、自作AIによって自動化できちゃったんですよ♪ それには理由がありましてね、大学卒業と就職祝いを兼ねて祖父母から貰った御祝金と、コツコツ貯めてあった結婚資金を全てつぎ込んで、神界最新最速のインテレームディ社製神CPU【コアイゼン956・51000K43ゴンザレッサ】を32基も搭載した自作PCを16台も製作しちゃったからなんですですぅ~♡ 回線契約も【ゼウスネット[専有隠密最高速プラン]】に乗り換えましたしぃ~♡ ヒロ様、当面の間は不自由な思いはさせませんぜ♪ アルの目の黒いうちは安心して異世界ライフをお楽しみくださいね♡》


『いやいや、そんなにお金使ったりして無理し過ぎだよ~。ちなみにアルロライエちゃんが管理してる世界って全部でどれくらいあるの?』


《はい♪ 16,384です》


『え~~、そんなにあるの? で、16,383の世界はAIが管理してるってこと?』


《ですですぅ~♪ が、16,384の世界の全てに転生者が居るわけではないんです。あと、人類が滅びてしまうこともあるので、すべての世界で人が暮らしているわけでもありません。ノルマ的にも【最低一日一転生者】くらいで上も納得してますし、ヒロ様に出会ってから私、やる気に満ち溢れているんですよ♪ あ、出会ったっていうのは、最初のジジイ神の時ではなく、レベル100特典の通話が発動した時ですね♡ あの、ジジイ神の時は失礼しました~。あの頃は私も仕事のモチベーションが超低くて、まだデバッグも終わってない雑なAIに任せて適当に対応させてしまって……。あとで穴が空くほどログを見直してみたんですが、各種説明事項もかなりいい加減でしたし、ヒロ様の出現地点もランダム設定でしたし、ろくな装備やアイテムも持たせず放り出してしまったみたいで。アルはあまりの後悔に、ヒロ様の笑顔が大きくプリントされた特注の三角木馬に夜な夜なまたがって自戒プレイに勤しみました。ほんまこつペコリメンゴ……》


『いやいや、謝んないでよ~。俺ぜんぜん気にしてないからさ。逆にこっちこそお礼を言いたいよ。お金たくさん使って個神サーバー的なの強化しまくってくれたり、時間もいっぱい割いてくれてるでしょ? ほんとありがとね、アルロライエちゃん。俺に出来ることがあったら遠慮なく言ってね♪』


《はぅぅ~ん♡ ではお言葉に甘えてお願いします~♪ あの、今後は私のことを【アルちゃん】と呼んでいただけませんか?》


『わかった♪ これからそう呼ぶよ、アルちゃん♡』


《んかっ!            》


 アルロライエは久しぶりに昇天失神しかけたが、三角木馬や鬼M字スクワットで鍛え上げたネオ骨盤底筋のおかげで超薄型ミラクル吸収パッドを膨らませる事態には至らなかった。


『アルちゃん? だいじょうぶ?』


《……はっ はい♪ アルはだいじょうぶですですぅ~♡ あ! ヒロ様、おまたせしました! 新しい生命体の肉体構築が完了しましたよ♪ さっそくその場に顕現させますか?》


『……それはマズいかもだな。ここに突然【新型生命体】が現れて挨拶とかしてる時に、万が一アイリスさんが目を覚まそうもんなら、そら面倒なことになっちゃうだろ~』


《確かに。ではハナランドに登場させますね♪ ヒロさんのスコープや念話はヒメさんの亜空間にも届くんでしたよね?》


『うん♪ ハナランドでしか実験してないけど、その時は問題なかったよ』


《ではご対面ください♪ 新型生命体の【宙来改[仮]】さんです~~。わーわーぱちぱち~~♪》


 弾んだ声でアルロライエが紹介すると、次の瞬間、ハナランドにひとりの男[としか思えない生命体]が姿を現した。



■宙来・改[仮][ちゅうら・かい・かっこかり]

イセダンジョンにのみ生息する完全固有種の魔物で【忌世九子魔】の頂点である【宙来】を【ヒロアル開発プロジェクト】が願いを込めてモーレツ進化させた新型生命体。宙来の核である【忌世妖輪衆の玉輪奉術に起因する聖怨魔素子】を【エナジーコル・エムシスケア博士の再来っていうか生みの親】との呼び声も高い【天才科学神アルロライエ】が大胆かつ繊細にアレンジし【ヒロアル魔素子】として再定着させることに成功した。その結果、漆黒だった皮膚は褐色に変化し、全身にいくつも浮かんでいた虹色の渦は大きなひとつの渦となり胸部中央の魔晶位置表面に集約された。それにより、より強力な出力を獲得し、上がりすぎたパワーを支えるため全身の骨が【最新ヒロニウム】に換装されている。中枢神経と胸部魔晶に【アルロライエ特製★自己進化アルゴリズム搭載型フレームAI】がインストールされており、全てのステータス値が上昇している。生命維持を魔素に依存するため分類上は【魔物】ではあるが、アルロライエ曰く【限りなく人間に近い魔物】とのことである。また、【アンタクテ極点ダンジョンの始祖4体】から抽出した進化細胞をぶち込まれているため、レベルアップと階級アップが容易になっている。強いて言うなら【超パワータイプ】だが、耐久性・速度・精度においても生物最高クラスである。

身長200cm 体重150kg S15級



『おおぉ、なんかすごいな~♪ これなら簡単には死んじゃったりしなさそうだね~。あと見た目がかなり変わっちゃったけど、これだけ人間っぽいなら【ちょっと変わった種族の人】くらいで誤魔化しきれそーだし♪』


《ヒロ様、まずは彼に名前をつけてください♪ 【名付け】には生物の【自我】を促進させる効能が認められています。さあ、スナフキングがティーティーウールちゃんに施したように♪》


『ん~~。じゃあ【宙】で。【宙さん】って呼ぶことにするよ♪』


《あ、それと【種族名】もでした。なにしろ【新型生命体】ですので》


『そっか。じゃあ種族名は【宙来王】とかでいいかな?』


《はい。そのように登録しておきますね♪ おめでとうございます~。新種誕生の瞬間ですぅ~♪》


 ヒロはスコープと念話を通じて宙に話しかける。


『宙さん、無事に生まれてくれてありがとう。俺はキミの生みの親みたいな立場のヒロです。これからよろしくね♪』


『応だぜ、主さん』


『…………アルちゃん、宙さんって、もう一通りの知識は持ってるのかな?』


《ですですぅ~♡ ヒロ様関連を始めとして様々な情報は漏れなくインストール済みです♪》


『そっか。じゃあ宙さん、ヒロシティで自由行動しててよ♪ ウルさんに付いてて貰えば大きなトラブルも起きないだろうし、ちょうどハナも自由行動中だから紹介してもらって♪ ウルさん頼める?』


『おまかせあれなのでピキュ! 宙さんよろしくなのでピキュ~♪』


『応だぜ、ウルさん』


『ピキュ! ではさっそく、ウルワープでヒロシティにひとっ飛びなのでピキュ~!』


『ちょっと否だぜ』


『ピ、ピキュ?』


『なんとも飢なんだぜ』


『飢? あ、そうか~。ごめんね宙さん。ちなみに宙さんって魔物なだけに、やっぱ食事は魔素的なものなの?』


『肯だぜ』


『そりゃ良かった♪ 俺、【魔素クリ王】の異名を持つ男だからさ、いくらでも食べさせてあげられるよ~。さぁ、とりあえずど~ぞ♪』


 ヒロは宙の目の前にテーブルを出現させると、その上に【ミズアス魔素クリスタル】を30kgほど置いた。


『とりあえずそれくらいでいいかな? 2億トンくらい備蓄してるから遠慮しなくていいよ~ おかわり自由だからね♪』


 宙はゴクリと喉を鳴らす。


『こりゃ歓だぜ♪』


『それゃ良かった♪ さぁ、どんどん食べて♪』


『頂だぜ♪』


 宙は暫し目を瞑り合掌すると、魔素クリをひと口大に砕きながら次々と口に運び、30キロの特盛りをペロリと平らげた。


『悦だぜ……』


《あ、ヒロ様、宙ちゃんの主食は魔素クリスタルでベストなのですが、全身の骨をヒロニウムに換装していますので、骨元気的な意味でヒロニウムも食べさせてあげてください♪》


『あ~はいはい。りょうか~い♪』


 ヒロが一口大に加工した最新のヒロニウムをテーブルに置くと、宙は流れるような動作で行儀よく完食し、目を瞑った。


『悦♡だぜ~』


『あ、喜んでくれてる♪ 宙さんお気に召してくれたんだね~』


『嬉だぜ~』


『………………』


《ヒロ様? どうかされましたか?》


『アルちゃん、なんかさ、宙さんと同じ境遇の友達も居たほうがいいんじゃないかなぁって、ちょっと思っちゃったんだけど……』


《ノッてきましたねヒロ様~♡ 子沢山、大家族特番、やぶさかじゃないですですぅ~♡ で、どの魔物にします? 宙来をもう一丁?》


『ん~~、一人一天[いといち・てん]さんにしてみようかな。ちょっとタイプも違うっぽいしさ、宙さんがパワータイプ、天さんがスピードタイプ、みたいな?』


《了解ですですぅ~♡ さっそく作っちゃいますのでちょっとだけお待ち下さい♪》


 アルロライエは3分で新型生命体【一人一天・改】を生み出した。



■一人一天・改[仮][いといち・てん・かい・かっこかり]

イセダンジョンにのみ生息する完全固有種の魔物で【忌世四魔人】の一体である【一人一天】を【ヒロアル開発プロジェクト】が願いを込めてモーレツ進化させた新型生命体。一人一天の核である【忌世妖輪衆の永輪供身術に起因する魔神素子】を【エナジーコル・エムシスケア博士の再来っていうか生みの親】との呼び声も高い【天才科学神アルロライエ】が大胆かつ繊細にアレンジし【ヒロアル魔神素子】として再定着させることに成功した。その結果、全ての関節に【ヒロアル神加工魔晶】が備わり、人間には不可能な可動域と反射速度を実現した。強力な出力と速度を支えるため、全身の骨が【最新ヒロニウム】に換装されている。中枢神経と胸部魔晶に【アルロライエ特製★自己進化アルゴリズム搭載型フレームAI】がインストールされており、全てのステータス値が上昇している。生命維持を魔素に依存するため分類上は【魔物】ではあるが、アルロライエ曰く【限りなく人間に近い魔神】とのことである。また、【アンタクテ極点ダンジョンの始祖4体】から抽出した進化細胞をぶち込まれているため、レベルアップと階級アップが容易になっている。強いて言うなら【超スピードタイプ】だが、強度・耐久性・精度においても生物最高クラスである。

身長170cm 体重80kg S15級



『さっすが神。仕事が速いね~』


《恐縮ですですぅ~♡ で、ですね、実は折り入ってご相談があるんですが……》


『ん? なに?』


《あの、差し出がましいのは重々承知之助なのですが、アルは、少しでもヒロ様に安全安心な人生を歩んで頂きたいと常日頃から想い巡らせておりまして御座いましてですね、そのぉ~~》


『アルちゃんどーしちゃったの? モジモジ感出しちゃって……』


《はう♡ あ、あのですね、ここいらでひとつ、ヒロ様も【アル全力♡ヒロ様改造人間手術♡】を受けてみたりしませんか?》


『…………俺が?』


《はい~♡ あの、具体的には、ヒロ様の安全をより強固にするためにですね、宙ちゃんや天ちゃん同様に、骨をぜんぶ【ヒロニウム】にしてみませんか? みたいなことなのですですぅ~♡ あ、もちろんヒロ様のための骨ですから、特別で格別で抜群でマーベラスでエクスペンシブな一点もののヒロニウムをアルが神生をかけてお仕立ていたしますので♡ ……ど、どうでしょうか?》


『…………なるほど。よくよく思い返せば今のこの体だって、転生の時にアルちゃんが用意してくれた吊るしのボディなんだもんな。そー考えると、自分の体を改造するってのもちょっとおもしろいかも♪ つーかその方が【自分の体】って感じするよな♪』


《でしょでしょでしょ~~♪ レベルアップにレベルアップを重ね、その都度その指数関数的な上がり角度に驚かされながら、ヒロ様の肉体の細胞から分子から原子から各種シナンプルスにいたるまで、数え切れないほどの強化と調整を陰ながら施させていただいてきた管理神アルなのですが、ヒロ様が神レベルに到達されました昨今、そろそろお体の方も素体自体をアップグレードさせてもらえたりしますと、今後何かと融通もききやすくなり、強化・調整も楽になるんだけどなぁ、なんて思っておりまして……》


『…………だよな。俺、随時忘れかけてるけど、アルちゃんて、この世界の管理神なんだよね。俺の知らないところで実はめっちゃ助けてくれてたんだ。そんな大事なこと、今まであんまし考えてなかったよ…… ごめん…… そんでほんとにありがとね♡』


《はう♡ ……あ、ただですね、ヒロ様に限ってのお話でもあるんですよ。ヒロ様ほどの急成長を遂げた転生者も、ヒロ様ほどのレベルに達した転生者も、アルの担当する亜空間群の中では過去に例がありませんので。アルを困らせるくらい凄くなったのはヒロ様だけのオンリーユーです♡》


『そっか♪ それもまたアルちゃんのおかげだね♪ よし! 俺、アルちゃんの改造人間手術、受けてみるよ!』


《はいぃ~~♡ オーダーはいりまぁ~す♡ 【アルパワー全開♡ヒロ様改造人間手術♡】ご注文いた~きやした~~~♡♡♡》


『………………』


 それからヒロは、アルロライエが特別に用意した【ヒロ様改造人間手術専用ロイヤルサンクチュアリ・アルロライエスイート亜空間】へと転送され、全身の骨を【史上最高のヒロニウム[究極]】に換装された。【史上最高のヒロニウム[究極]】とは、【最新ヒロニウム】をベースに開発されてはいるものの、その製造過程において、神界でもそうそう手に入らない【三種の神物質】である【オムニブレイク】【メギドメトロン】【マガツスメラ】全てを惜しみなく投入することにより完成した【神も憧れる究極神物質】だった。

 しかしそれほどの大発明と大創造と大手術にもかかわらず、その所要時間は二十分弱程度に収まり、ヒロは何事も無かったかのように野営の竈門前に戻された。

 炎を挟んだ先ではアイリスが静かに寝息をたてながら熟睡している。


《ヒロ様お疲れ様でした♡》


『……あれ? もう終わったの? あんまし時間経ってないような……』


《手術は無事、成功しましたよ♪ 全身の骨が【史上最高のヒロニウム[究極]】に換装されましたので、今後のヒロ様の安全は飛躍的に向上しました♪ 特に脳に至っては、物理攻撃によって損傷することはまず無いでしょう♡》


『あぁ、頭蓋骨もヒロニウムになったんだもんな~。どんな剣でも弾いちゃうのか~』


《はい♡ ですです♡ ただ、この【史上最高のヒロニウム[究極]】にはですね、【オムニブレイク】【メギドメトロン】【マガツスメラ】という、とっっっってもエンシェントミソロジックファンタズマな、神界でも憧れの神物質が混ぜ混ぜされておりますので、ヒロ様の【トレース】や【錬金】には非対応となっています。解析データ保存も量産も出来ませんので、【史上最高のヒロニウム[究極]】製の武器を作ったり、ウルさんにご提供されたりはできません。ペコリンコメンゴですがご了承下さい》


『な、なんか、聞いただけでも凄そうだね』


《ガチです。ガチなんです……》


『そ、そんなとんでもない物質を…… アルちゃん持ってたんだ……』


《はい。ここだけの話、アルとヒロ様だけの他言無用な秘密の話ですが、アルの最強自作サーバーシステムを駆使して、とある三柱の神の宝物庫から…… くすねてきました♪ えへ♡》


『ど、泥棒しちゃったの!? アルちゃん大丈夫? 捕まったり消されたりしない?』


《ぜんぜんだいじょーぶですですぅ~♡ 三柱三様にどいつも超ムカつく奴ですしぃ、神の世界では【んなもん盗られる奴が悪ぃ】って感じですしぃ、何より私の最強自作サーバーがですね、思ってた以上に通用するっていうかぁ、私の【一から組み直して再構成した各種プログラム】がやたら使えるっていうかぁ、もう、知能犯的な意味では神界に怖いもんなしって感じなんですぅ~♡ やったね♪》


『…………や、やったね♪ てかアルちゃん、別に盗もうが何しようがいいんだけどさ、アルちゃんが危険に晒されるような事だけは慎重に回避してね。俺、神の世界がどんななのか知らないからよく分かんないけどさ、アルちゃんがある日突然居なくなっちゃうなんて事は考えたくもないよ。頼むから危険なことはしないでねっ』


《はうん♡ ……だいじょうぶですよヒロ様♡ アルはこう見えても……あ、見えてないか、テヘ♪ こんなに浮かれて調子に乗ってるようでも、ちゃんと考えてますから。一か八かの勝負なんて当然しませんし、99%の勝負でもしません。アルを信用してください♡ 盗みに入る時は、ちゃんと全身レオタードに着替えて、腰に黄色い一反木綿を巻いて、化け猫がエンボス加工で刻印されたホログラフィックカードを送りつけてますしね♪》


『……そ、そうなんだ。神の世界って難しいな。理解に苦しむぜ……』


《あ、あとですね、骨だけっていうのも寂しかったので、筋肉や神経、あと軟骨、それから血液などなどに、い~感じの自家製強化剤を添加しておきましたので、暫くすれば馴染んでくると思います~。骨ほどではないですが、効果はあると思いますよ♪ ま、そもそもヒロさんは物理戦闘に興味ゼロですし、どちらかと言えば、私の自己満足みたいなものですけどね♡》


『……な、なんかさ、軽い気持ちでアルちゃんのお誘いに乗っかっちゃったけどさ、そんなにまでして貰っちゃうと…… 恩を返しようがないっちゅーか…… なんちゅーか…… 冷やし中華…… 溺愛の水中花……』


《ヒロ様、アルはもうたくさんいただいてますから♡ むしろアルがヒロ様にお返ししているターンなんですよ? さぁ、待たせちゃってますから、天ちゃんにも声をかけてあげてください♪》


『……あ、忘れてた』


 ヒロは、ハナランドにて待ちくたびれ、意気投合し、既に仲良くなった上に模擬戦を始めてしまっていた宙と天に声をかける。


『ふたりとも待たせちゃってゴメンな~! あと天さんは初めまして♪ ヒロです~♪』


『あ! 主さんっすね? はじめまして、天です~。あんまり遅いから宙と修行始めちゃってましたよ~♪』


『おっと…… 天さんは宙さんと違ってよく喋るんだね~。つーかもう仲良くなってくれたみたいで嬉しいよ~♪ これから長い付き合いになると思うけど、よろしくね♪』


『こちらこそよろしくっす~♪ なんか【いのち】貰っちゃったみたいで感動っすよ~。あと【なまえ】っていいっすね~。自分、【種】じゃなくて【個】なんだなぁ~って実感がしみじみ込み上げてきてるんすよ。なんか、最高っす♪』


『喜んでくれてこっちも嬉しいよ~。じゃあさ、早速なんだけど、宙さんとツーマンセルでハナランド観光でもしててくんない? ウルさんに帯同してもらうからさ、分からないことは彼に聞いてね~』


『がってんっす~♪ 自分たち、当面の間は自由行動ってことでいーんすよね?』


『そうだよ~。ある意味【永遠に自由行動】って言ってもいいくらいなんだけどね~。まぁとりあえずは好きに行動しててよ♪』


『ういっす~。んじゃウルのダンナ、よろしくっす!』


『ヨロだぜ』


『お二人とも任せるのでピキュ~♪ ではハナランドにウルワープなのでピキュ~!』


 弟分ができた事に喜びを隠せないウルは、二人をトゥルンと飲み込むと、張り切ってヒロシティへと向かうのだった。





《……行っちゃいましたね、あなた。ふたりともあんなに立派になって……。私の割烹着にしがみついてた泣き虫さんたちとは思えないわ。これからあの子達は都会の水に馴染んで、バイトやサークル活動に精を出して、恋をして…… 別々の人生を歩んでいくんですね……。思えばあっという間でしたね。おぼえてます? あなたが私に初めて告白してくれた時のこと。あなたってば、顔を真っ赤にして、言葉ももつれちゃって……。私、あのとき思ったんですよ。あぁ、この人なら私をずっと大事にしてくれるんじゃないかなぁって。ねぇあなた、あの時の私って、結構いい推理してたと思いません? あら? そういえば、あの時の私達って、ちょうど今のあの子達と同い年だったんじゃないかしら。まるでおままごとみたいな拙い毎日でしたけど、ふたりとも恥ずかしいくらい必死に夢を追いかけてましたよね。お金は少ししか無かったですけど、いっしょに色んな所へ行きましたよね。そうそう、おぼえてます? ほら、あなたが“ミズカマキリを捕まえに行くんだ!”とか言い出して。私が“だったらせっかくだしタガメを捕まえましょうよ♪”って言い返すと、あなたってば口を尖らせて“最初から不可能に近いタガメを狙うなんて愚策だ!ここは少しでも現実味のあるミズカマキリかタイコウチに絞り込むべきだ!その延長線上で奇跡的にタガメが見つかればそれでいいじゃないか!”なんて駄々こねて。でも結局、大都会の暗渠にはタガメどころかミズカマキリもタイコウチも見当たらず、アメリカザリガニ、いえ、ボウフラすら見ることも叶わなかったんでしたよね。あの時のしょぼくれたあなたの膨れっ面、今も私の心に大切な思い出として残ってるんですよ♡ そうそう、あの日の帰り道、公園の隅っこに群生していたモウセンゴケとハエトリグサとウツボカズラをたくさん摘んで束にして、“はいっ”ってぶっきらぼうに渡してくださいましたよね。私ってば、花束なんて貰ったことがありませんでしたから、もう嬉しくて嬉しくて……。今でもあの花束は押し花にして大事にとってあるんですよ♡ あ、そうそう、その公園からの帰り道、コンビニでケース買いしたスピリタスを抱えて、近所の川原で掛け合って飲み交わして大騒ぎしましたよね♪ あなたったらタバコに火をつけた瞬間、全身燃えちゃって♡ まるでドリフト族大爆笑の黒焦げチョ~さんみたいでしたよ♪ そのあとは“服が燃えてる!うしろうしろ!”って大騒動になった挙げ句、あなたってば川に飛び込んじゃって。しばらくしてから川面に浮かんできたあなたの顔、今でも鮮明におぼえてるんですよ♪ だってあなた、口にオオサンショウウオ咥えてたんですもの♡ タガメどころか、オオサンショウウオですよ? あの時、わたし思ったんです。あぁ、この人って天運に恵まれた特別な生命体なんだなぁ~って♡ あのオオサンショウウオ、脂が乗ってて美味しかったですよねぇ。そうそう、そのあと起こった大事件、おぼえてますか? あなたが“俺の眷属だ”って言い張ってたメスのカブト虫が逃げちゃって大捕物になったでしょ? 結局あなたの眷属さんはボロボロの網戸の穴から外に出て、もう一人の眷属のゴマダラカミキリさんとタンデム飛行で街灯に向かって飛んでっちゃったんでしたよね。泣きながら裸足で追いかけてくあなたの後ろ姿と無情に飛び去る二人の眷属。あの瞬間の切ない景色は今もキュビスム絵画みたいに私の魂に焼き付いてるんですよ。……そんなだったあなたが……今では世界最強の魔法使いで無敵の改造人間なんですもんね~。わからないものですよねぇ。…………あら? ………………あなた?》


『アルちゃん…………』


 ヒロは三拍ほど置いてから叫んだ。


『長いよ! いつまで独演会してんのっ。つーかミズカマキリのくだり以降は何なんだよ~。急激に訳分かんなくなったし』


《テヘッですですぅ~♡ ヒロ様がずーっと聞いてくれてたんで、つい嬉しくて調子に乗っちゃいました♪》


『もぉ~。なんならちょっと引き込まれちゃったし~。……さぁ、そろそろ東の空も薄明るくなってきたから、ラビ子を戻して朝飯の準備に取り掛かるとするよ。アルちゃん、いろいろありがとね♪』


《はい♪ ヒロ様のご健康とご武運をお祈りしてますね♡》


『うん♪』


 こうして【ヒロとラビ子とアイリスの歩き旅】は二日目に突入したのだった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る