アヴィみつ症の真実
『ヒメ?』
ヒメは、小さく口笛を吹いた。
『ん? ヒメ?』
ヒメは口笛を吹いてやりすごそうとしている。
『ヒメ、なんか心当たりがあるっぽいな~』
ヒメの口笛が止まった。
『え? ヒロ? なに?』
『いや、俺がこの世界に転生してからずっときゃり~ふにゃふにゃな件なんだけど、キミなんか知ってるっしょ?』
『…………え、えぇ~~? フツーそんなこと訊く~~? 女子に向かって~~ ヒロくんのエッチぃ~~』
『こりゃ本格的に知ってるな。……てかオマエ、主犯だな』
『…………えぇ~~、ヒメ、そーゆーのよくわかんないしぃ~、知りたくもないしぃ~、ヒロくんなんかこわぁ~~い』
『白状しろ。さもなくば……』
『さ、さもなくば?』
『ハナに【破神】使わせるぞ』
『言うわ。白状する。全部ゲロる』
ヒメは全てを白状した。
◇
『だぁかぁらぁ~、べつにヒロを懲らしめてやろうとかそーゆー意図ではなかったんだけどさぁ、ヒロの脳内に定着してこの世界に降り立った時にね、思っちゃったわけよ~。“うぅ~む、今後のヒロとの一蓮托生ライフにおいて私が苦労しそうな問題が起こるとすれば、それは多分【性欲の暴走】だろうな~”ってね。理由はね、ほかの人間との直接的なトラブルが起きやすくって、かつ長期化しやすそうで、際限なく肥大しそうで、ストレスがみんなに感染しそうで、あとこれが一番重要なんだけど、【私の意向がスルーされちゃうバーサク状態に簡単に陥りやすそう】ってとこかなぁ。まぁこれは【繁殖を背景に持つ性欲がトリガーになって分泌される脳内快楽魔汁がめっちゃインスタントでコンビニエンスでしかも強力】っていう【種の保存】的人体メカニズムに起因するからさ、別にヒロに限ったことじゃないんだけどねぇ。なのでぇ、白状すると、ヒロの脳と睾丸で分泌されるエロ魔汁量を密かに調整してました♪ テヘ♪』
『…………ぅううぅ~む。話は大体わかったけど…… ん~~~~~』
ヒロはそのまま1分ほど賢者の如く唸り続けた。
『…………ま、いっか♪ 俺べつに【エロ魔汁中毒者】でもないし、楽しいことも気持ちいいことも今のままで充分足りてるって自覚あるしな♪ いやむしろヒメに感謝かも知れん。確かに性欲って誰でも簡単発動!瞬間上昇!自制困難!の代表だもんな~。だから人類皆、恋やら愛やら運命やら禁断やら相性やらっつって飯食う頻度で日夜【脳魔汁】出しまくってんだろーしな~。ただ、うちにはヒロリエルやラビ子もいるんだし、ヒメの調整は何気にナイスアシストなんじゃねーかって気がしてきた。うん、謎が解けてスッキリしたし、真相にもナットクしたよ♪』
『ふぅぅ~~。ヒロがスッキリ&ナットクしてくれて良かったわ~。もし“もっと快楽汁よこせ!もっと出せ!ただただ気持ちよくしやがれ!!”とか言い出したらどーしよーかと思ってたんだ~。【性欲系脳魔汁】のアヘアヘ中毒ってキリがない割に得るものも【快楽のみ】だし。そんでほら、そーゆー奴って大概、巻き込み傲慢系破滅タイプに収まっちゃいがちだしさ~』
『あとな、俺が実はそこそこ飽きっぽい性格だっていう理由もあるんだよ。あんまし出るがままに脳内快楽魔汁の蛇口開放しすぎちゃうと、数年後には“我飽きし。悟りし。虚し。苦し。生きる意味なし……”みたいな心理に至っちゃう可能性もあるだろ? だからヒメの【性欲薄~く細~く長~く調整】は、もはやありがたいことなのかも知れないって気すらしてきた。むしろ長寿の俺には最高のセッティングなのかも。ヒメ、ありがとう!』
『ま、まさか感謝されるとは思ってなかったわ…… あ、でもね、もしヒロが子供欲しくなったら言ってね。蛇口開放するから♪』
『……ん~、子供って言われてもなぁ~。ハナもウルさんもヒロリエルもラビ子も俺の子供属性持ってるしな~。今んとこ特には要らないな~』
『ま、その時が来たらって感じでいーよ♪ てゆーかこれは、ヒロというより相手の気持ちの問題が大きいんだろうしね~♪』
『おいプー! 子供は簡単に出来ちまうんだから自制心を緩めちゃいけねーんだぞ! かーちゃんが口を酸っぱくして言ってたんだ!』
『……ラビ子よ、一応聞くが、子供がどうやって出来るのか、オマエは知ってるのか?』
『なっ、なんだよ! 露骨なこと聞いてくんなよっ! この丸出し直球野郎がっ! は、恥ずかしいだろ~』
『丸出し直球野郎で結構。で、知ってるのか?』
『か、かーちゃんから聞いて、し、知ってるってだけだぞ? け、経験したことあるって意味じゃねぇからな! 勘違いすんなよな!』
『わかったわかった。で?』
『す、好きになった女と男がよ、チュ、チューをするんだよ。そ、そーすっとだな、お互いの…… だ、唾液がな、混ざってだな、それを女の方が飲み込むんだ。……で、そ、それが体の中を通って子宮まで辿り着いてだな、そのタイミングが排卵期と重なってたりすると、卵のスイッチが入って…… 命が宿るんだよ……』
『…………チュー?』
『キ、キスのことだよっ! 悪かったな! 幼稚な言い方で! も、もういいだろっ! 恥ずかしすぎて死にそうだぜ!』
『(…………ラビ恵さんも罪な人だぜ……) ……よ~しラビ子、合格だ。オマエが【男と女のラブチューニュー】についてどれくらいの知識を持っているのかはよぉ~く分かった。これからもよろしくな♪』
『……プー、この際だからハッキリ言っておく。あたしを嫁に欲しいんなら、そしてあたしとの子供が欲しいんなら、あんまし軽く考えんなよ。簡単な話じゃねーんだぞ?』
『だろうな。俺もそう思う。まぁ、難しく考えず、今まで通り楽しくやろ~ぜ♪ 嫁だの子だのって話は本人同士がその気になった時でいーじゃねーか♪ そもそも俺達は【婚姻なんていう社会制度】の外側で生きてるんだしな~♪』
『プー、オマエはなんも分かってねーな。赤ちゃんってのはハタチにならないと作りたくても出来ねぇんだぞ? 女の子の体はそーゆーふーに出来てるんだ。本人同士の意思なんてその後の話だ。人体の基本を忘れんじゃねーよ』
『…………そう……だったかな。悪かった。俺が浅はかだったよ。これからもよろしくな♪』
『あ、あぁ。でもプー、あの…… 手ぇつないだり、だ、抱きしめたり、頭なでたりすんのは…… ハタチ前でも問題ないって話だからよ、そ、そのへんのことまでは、大丈夫…… だぞ……』
『わかった。肝に銘じておくよ。これからもよろしくな♪』
『お、おうっ! あたしも全部言えてスッキリしたよ! でもやっぱアレだな、こーゆーさ、【オヤジと一緒に観てたサスペンスドラマで突然始まるアレなシーン】みてーなのはやっぱ気まずいなっ♪ も~恥ずかしくって恥ずかしくってどーしよーかと思ったぜ~♪』
『俺も正直、どーしよーかと思ったぜ。一緒だな♪』
『あぁ、やっぱプーはあたしの師匠だ! 以心伝心だぜっ♪』
『だな♪』
ラビ子の【見た目はイイオンナ、頭脳はピカピカのランドセル!】な側面がファミリーに知れ渡った瞬間だった。
『うふふ。ラビ子ちゃんてば、やっぱり純真モンスターだわ。ヒメ感激~♡』
『ラビたん…… ある意味泣ける話なのれす……』
《これは♪ 実体を持つ最強のライバルに【2年以上もの純潔卒業モラトリアム期間突入フラグ】が勃ちました♪ですですぅ~♪》
『……ん~っと、なんだっけ? あ、そうそう、てことでだな、俺の【アヴィーチーみつる疾患】の原因も分かり、今後も持続していこうってことになった訳だ。だからオマエら、というかヒメとヒロリエルとアルロライエちゃん、明日からアイリスさんが二十代後半独身女性的なあざとめの言動をとったとしても、いちいちギャーギャーとグループ念話で騒がないように! 【アヴィみつ症】の俺が保証する。俺は、PG12未満のスケベは極限、いや無限に享受するが、それ以上のスケベは思いつきさえしないということをここに誓うぜっ!』
『へいへ~い』
『はいなので~す』
《了解しました♡》
『ピキュ~。オランダ人もビックリのG級スケベニンゲン爆誕なのでピキュ~』
こうしてヒロは【極めて脆弱な攻撃力しか持たない安心安全なG級スケベ】という認定を受け、当面の間は【性欲脳魔汁蛇口】という手綱をヒメに握られつつ、晴れて爽やかに異世界ライフを満喫することとなったのだった。
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