ラビ子の修行




 その後、ラビ之介はウル分体にガイドされながら、家財道具一式とともにヒロシティの新居へと5分ほどで引っ越しを終えた。

 ヒロが用意した新居の隣には道場も併設され、場所はゴズ軍団の居住区だった。

 窓やカーテンなどの細かい仕上げやヒロシティ公共サービスのガイドはゴズ軍団に丸投げし、毎度のことながら“あとはよろしく~♪”とだけ告げ、ヒロは呑気に散歩をはじめる。

 気付けばロデニロをはじめとする【テラース商会】の面々も引っ越しを概ね終えているようで、歩くたびに声をかけられた。

 難民の新生活も始まっており、ゴズ曰く“問題? 特になんも思いつかねーな♪”とのことだった。


『おいプー! みんなから聞いてはいたけどよ、この町の技術はすげーな!♪ ルナスタウンにも便利な技術はあるけどよ、こんなスゲー町があるなんて驚きだぜ! こりゃ、百年経ってもテラースには敵わねぇな~』


『ラビ子ちゃん、この町がテラースの技術によるものだなんて思っちゃダメよ~。この町は【ヒロの能力】だけで出来てるんだからね~。テラースの他の町は多分ルナスタウンよりずーっと遅れてるんじゃないかなぁ』


『あ、そーいやそんなことも聞いてたな♪ なにしろ急に山ほど教えてもらったからさ、まだ頭ん中が混乱してるっつーか、整理整頓できてねーんだよ~。なっはっは~~♪』


『ラビ子~、ヒメは【俺の能力】って言ってっけど、実際は【ヒロ一家の総合力】だかんな~♪』


『お、おう! わかってるぜ! そんで、プー、』


『ん~?』


『あたしの修行は、どんな計画で考えておけばいいんだ? ほら、なんかさ、プーって思ってたより山ほど仕事抱えてそーだしよ、たくさんの人に頼りにされてるみてーだし…… 忙しそうな感じ…… だろ?』


 ヒロは大きなため息をひとつついた。


『……おいおいラビ子ぉ~、俺のどこが【忙しそう】なんだよ~。心外だなぁ~。そもそもラビ子、俺はな、いちばん嫌いな言葉が【仕事に追われる】なんだぞ? そんな俺が高スペック人間になってまでわざわざ【忙しい】を受け入れるわけねーじゃねーか。つーかオマエ、新しい土地に来て萎縮してんじゃねーよ。らしくねーぞぉ~。借りてきたネザーランドドワーフみたいな顔しやがって。オドオドしててかわいいじゃねーか♪』


『んなっ! なんだとプー! あたしがかわいい…… かわいいぃぃ……んふ ってからかうんじゃねーよ! あたしは修行をしてーんだよ! さっさと始めろよ! 早く強くしてくれ!!』


『おおぉ、やっと調子が出てきたな♪ んじゃ~出るか、修行の旅に♪』


 ヒロは“出発まで1~2時間ほど自由行動な♪”と言い残すと、自らはゴズ軍団やロデニロ達とあーだこーだ話を始め、ラビ子はひとり放置された。

 しかし献身的なウル分体のガイドもあって、【大食堂★ウルウル亭】にて【アルロライエの握りたて特上寿司セット★最新アップデート版】に舌鼓を打ち、【大浴場★ハナの湯別館★杏杏庵[女湯]】にて身も心もリラックスし、その間に幾人もの気のいい住民に声をかけられ、充実した自由時間を過ごすこととなった。





『さてラビ子、そろそろ行くか♪』


『おう! 準備はバッチリだぜ!』


『……ちなみにオマエは、【武器】とか使わないのか?』


『武器は使わねぇ。持ったこともねぇ。ラビ式波動術オンリーだ。まぁ古武術もちょっとはやるけどな♪』


『そうか…… しかしそーなるとだな、オマエの【MP量】の問題が出てくるんだよなぁ~』


『あ、あぁ、【波動切れ】のことか。たしかにあたしの波動……MPはラビットルの中じゃ多い方みたいだけど、それでも三十分くらいしか持たねぇんだ。ただそれって修行を繰り返せば増えるんじゃねーのか?』


『ん~~。えっとな、ラビ子のMP量はな、すでにテラースの中ではトップクラスだと思うぞ。そんで修行を繰り返せば確かにどんどん増えていくだろう。それは間違いない』


『だったら時間がもったいねーよ! どんどん波動術で魔物倒して、休んでMP回復させて、また倒して、それを繰り返さねーと波動、いやMP量が成長しねーじゃねーか!』


『いやだからな、俺はその【休んで回復】ってーのが何より効率悪いっつってんだよ。ようは時間のことだ。ちなみにラビ子、オマエって何時間くらいでMP全快に戻るんだ?』


『ん~そーだなぁ。空っぽからだと…… 大体2時間くらいかなぁ~』


『は、早っっ!! それってテラース人の1/5くらいだぞ。すげ~な♪』


《種族特性です。ちなみにラビットルはレベル上昇に伴い回復時間も短くなりますよ♪》


『なななんと!? アルロライエちゃんナイス情報! だったらそんなに難しく考えなくてもいっか~♪ すぐ修行にとりかかろうぜ!』


『やったぜ! よぉ~し! 強くなってみせるぜーーー!♪』





 テラース某所のとある草原。

 人工物も道も人影も皆無な大自然の真っ只中で、ラビ子は一匹の【オルガ】と対峙していた。



■オルガ 

鬼型の魔物。体は大きく肌は青い。腕力が強い。

体長:320cm

体重:474kg

備考:素材としての需要はない。



『で、でけぇ。あたしの倍くらいの身長だぜ。かーちゃんたちはこんなのといつも戦ってたのかよ』


『ラビ子ぉ~、そのオルガは小さい方だぞ~。あとダンジョン種でもねぇし、確かCランクくらいの雑魚だ♪ MP量なんて気にしなくていーから渾身の威力と速度をイメージしてオマエのなんちゃらかんちゃらって術、ぶつけてみろ~!』


『う、うるせー! 黙って見てやがれ!』


 ラビ子はオルガの攻撃を華麗に避けながら、反撃のタイミングを見計らっていた。


『すごぉ~いラビ子ちゃ~ん♪ とても初めての魔物戦とは思えないわ! ヒロなんてグングニル毒ガエル相手にチビりかけてたもんねぇ♪』


『ヒメさん、その頃のお話は今度ゆっくり聞かせてほしいのでピキュ~! 【ばけものヒロさん黎明期】みたいな物語に違いないのでピキュ~♪』


『ハハサマ! ひーたんにも読み聞かせするのです! チチサマの【無様エピソード】は究極で至高で極上なのれす!♪』


《チビりかけのヒロ様…… んふ~~祀りたしですぅ♡ 肖りたしですぅ♡》


『おまえらなぁ……』


 その時、満を持してラビ子がオルガの頭部めがけて技を放った。


『爆掌弾!!!』


 ラビ子の手のひらの中で高温圧縮されたピンポン玉ほどのフレームが高速でオルガの頭部を襲う。

 次の瞬間、オルガの頭部は爆散し、胴体だけの屍と化した肉塊は、ラビ子の目前にドサリと倒れた。


『や、……やったぞプー!! 魔物を倒した! あたしもこれでかーちゃんに一歩近づけた!! すげーー!! すげーーぞ!!!』


『やったなラビ子! よぉ~~し、うたげだぁぁあああ!!! ってなるわけねーだろ。まだ1匹目だぞ~』


『つ、冷てーじゃねーかプー! おまえにとっては雑魚かも知んねーけど、あたしは必死なんだぞ! もっと…… 褒めてくれても……』


『わーったわーった、そんなにかわいくシュンとすんな~。第一段階の修行が終わったら褒めてやるからさ、今は浮かれてねーで次の戦闘の準備しろ~』


『ちぇっ。なんだよ…… わかったよ』


『あぁ、ただラビ子、今の魔法は悪くなかったぞ♪ ちゃんと俺の言いつけどおり、フレームを小さく圧縮できてたし速度もイメージできてた。ただまぁ、今まで対人戦と自己鍛錬しかやって来なかったからだろーけどさ、まだまだ【遠慮】が見え隠れしてんだよ。まだリミッターが外せてないな~。よし、次はもっと遠慮なく、容赦なく、全MPぶち込むつもりでやってみろ♪』


 ヒロは事前にテラース中からインベントリにかき集めてあった【ラビ子特訓用締めずの魔物群フォルダ】の中から、同じくオルガを選び、ラビ子の前に出現させた。


『よっしゃーーーー!! やったるぜーー!!』


 ラビ子はさらなる闘志を燃やし、襲いかかる二体目のオルガに照準を合わせた。


『爆掌弾!!!』


パァァァァーーーーン


 ラビ子の放ったフレームは、最初のそれとは比べ物にならないくらいの速度でオルガの腹部を貫き、軽やかな爆発音とともに一筋の矢となり、オルガの遥か後方にある岩の一部を破壊して消えた。


『……す、すげぇ。おいプー! これが魔法の凄さってやつなのか!?』


『ん~。凄さっつーよりも怖さって感じかなぁ。ラビ子、今の魔法は結構MP食ったんじゃないか?』


『えっと…… あぁ、もう殆ど残ってねぇ。ちゃんと絞り出せたぞ♪』


『オマエってば天才的だな♪ んじゃあ次の課題出すぞ~。今みたいに大量のMP盛り込んで“どこまでも飛んでけ~”みたいなイメージで魔法打つとな、ご覧の通り、遥か先の物質まで破壊しちゃうことになるんだよ。これをもし、狭いダンジョンの中やら人が大勢で取り囲んでる状況で放ったとしてみろ。大惨事になっちゃうだろ?』


『あ…… 確かに……』


『だから次からは、【標的をちょうど貫く槍】くらいの距離感で撃ってみろ。威力や速度はそのままで、距離だけを【矢】ではなく【槍】のイメージに置き換えてな♪』


『オッケーだ! やってみるぜ!!』


『あ~~、あとさ、』


『ん? なんだ?』


『オマエ、魔法撃つ時、どーしても“爆掌弾!!!”って言わないとダメか? 念話とは言え非効率なんだよなぁ~。せめてさ、“ハッ!”くらいに短縮できないかなぁ~。どお?』


『な、なんか無性に小馬鹿にされてるような気がしてきたぜ。そんで…… 突然だけど、なんか急に恥ずかしくなってきやがったぜ。プー、これが【初恋】ってやつなのか?』


『ぜんぜん違うぞ。まぁラビ子は十年以上も技の名前叫びながら修行してきたんだろうから絶対やめろとは言わねーけどさ。ただ、今後さらに魔法の発動速度を上げていくことを前提とすれば、近いうちに自分で苦しむことになると思うぞ。“あ~技名叫んでる時間がもったいない!”ってな』


『プー、あたしは確かに【ラビ式波動術宗家】に生まれた身だ。でも今は、そしてこれからはずっと【プー式魔法術宗家】の門下生だ。だからあたしはやめるよ。今より少しでも強くなるために【技を出すときに技名を叫ぶの】をやめる! この誓いは死ぬまで破らない! 死ぬまでだ!!』


『……いや、まぁ、ラビ子がその気ならそれでいーんだけどさ、なんかオマエ、興奮しすぎじゃね?』


『んなこたぁーねぇーぞプー! さぁ次だ! 次の奴を出しやがれ!!』


『いやいや、オマエ現在MPほぼゼロだろ~に』


『んなっ…… そ、そー言えばそーだったぜ……。チキショー! 自分のMP回復速度のチンタラさが憎い!』


『オマエってば完全に【レベル上げーズハイ】状態だなぁ。よし! MP回復すっか♪』


『えっ!? そんなことが出来るのか!?』


『あぁ。俺ってばさ、自分に全く必要なかったもんだから、すっかりサッパリ忘却の彼方に置きっぱなしにしてたんだけどさ、実は持ってたんだよ。【アルロライエの手作りポーション[MP回復]】ってやつを♪ ねぇ、アルロライエちゃん、これって俺以外の生物が飲んでもちゃんとMP回復するんだよね?』




『あれ? アルロライエちゃん?』




《……あ、わたくしアルロライエがヒロ様のことを、ヒロ様のこと だ、け、を、思い、想い、慕い、願い、三日三晩かけて【地獄の大王釜】でコトコトグツグツ煮込み、七日七晩かけて【地獄極楽大魔神の御利益あるある壺】で寝かせに寝かせて創り上げた【アルロライエの手作りポーション[MP回復]】のことですかね? 対象者が【ヒロ様じゃない】というだけで効力は減衰しますが、まあ大丈夫だと思います》


『……そ、そうなんだ。あの…… ラビ子に使っても問題ないんだよね?』


《ご自由に》


『なぁプー、なんか…… アルっちに悪ぃからよ、あたしはいいや。自然回復で戻すからさ~』


《いえいえラビ子さん、遠慮なさらずに。どーぞどーぞ》


『大丈夫だってラビ子~。アルロライエちゃんもこー言ってくれてるんだし遠慮すんなよ♪ なんつったってアルロライエちゃんは神なんだぞ? 神がそんな小さいことで文句言うわけねーだろ~。現にヒロシティの食堂でも【アルロライエちゃんの手作りグルメシリーズ】はみーんな食べてるし、大大大絶賛なんだぜ! たまたま最初に俺のために作ってくれたってだけで、そりゃあ沢山の人が喜んでくれた方がアルロライエちゃんだって嬉しいに決まってんだろ~♪ ねぇ~~~~♡ アルロライエちゃん♡』


《はいぃぃ♡ と~ぜんですですぅ~♡》


『なっ♪ ラビ子は考えすぎだって~。さ、飲め飲めぇ~♪ インベントリで大量錬金済みだから在庫は無限だぞぉ~。ほれ♪』


 ヒロはインベントリから【アルロライエの手作りポーション[MP回復]】をひとつ取り出し、ラビ子に渡した。


 1分ほど前に体験した得体の知れない悪寒により若干萎縮していたラビ子ではあったが、現在は体調も回復し、特に何も違和感を感じなくなっていたため、ヒロから渡されたMPポーションをためらわずにゴクリと飲む。


『おおぉぉ! すげーぞプー! MPが全快したぜ! アルっち、こんなすげえポーションをあたしなんかに分けてくれてホントにありがとーな!♪ プーとアルっちはサイッコーのコンビだぜ!!』


《あふ♡ ラビ子っちサイコ~♡》


(……アホがひとり増えたわ。どうやらラビ子ちゃんにもその手の才能がてんこ盛りみたいねぇ)


(ピキュ~。ラビ子さんの潜在能力は計り知れないのでピキュ~)


『さぁ~、MP枯渇のタイムロス問題も解決したことだし、ラビ子! じゃんじゃん行くぞぉ!!』


『まっかせとけってーの!! プー! じゃんじゃん来いやぁああ!!』


 こうしてラビ子の驚異的なペースでのレベル上げが始まるのだった。





 ラビ子が【ヒロの準備した魔物を定期的にシチュエーションを変えながら次々倒していく修行】を開始してから何日かが経った。

 その間、食事や風呂はヒロシティに帰還して済ませ、そのついでにヒロは仲間たちとの情報交換や散歩、ラビ子は新ルナ泉邸の家事や父への修行報告などに勤しんだ。同時に【ハナ★はじめてのヒロシティひとり歩き】も実験的に試行されたのだが、ヒロの心配を他所に、たちまちハナは【ヒロシティのアイドル】へと上り詰め、町のそこかしこで目一杯可愛がられた。しかしヒロの“ハナには高レベルな運動も継続的に必要だ”という信念から【ハナとのじゃれはしゃぎ運動会@ハナランド】は続けられ、その副次効果として、強制参加させられたラビ子の運動能力向上にも一役買った。


 かくしてラビ子の修行は現在も継続中ではあるものの、一定の成果を得て【中間反省会】が開かれていた。


『いやぁ~、修行前に比べたら、ラビ子も強くなったもんだよなぁ~♪』


『ほんとよね~♪ ラビ子ちゃんてば、がんばり屋さんなんだもん。ヒメ感動よ~』


『ピキュ♪ ラビ子さんの成長速度はもはや人外の域なのでピキュ~。ヒロさんの次に強い人間爆誕! なのでピキュ~♪』


『まだまだチョロいのです。ひーたんには止まって見えるのです』


《ラビ子さんはラビットル種の中でも特化した才能に恵まれている模様です。最新のステータスがこちらになります》





名前:ルナ泉ラビ子

種族:人間[ラビットル]


Lv:12203

HP:36699

HP自動回復:1秒50%回復【仁愛効果】

MP:51473


STR:なかなかつよい

VIT:なかなかつよい

AGI:すごいつよい

INT:すごいつよい

DEX:すごいつよい

LUK:つよい


魔法:【ハッ】【フンッ】【カッ】【セイッ】【シャッ】


固有スキル:【ラビラビ通信&感知&開放&大開放】





『こーやって見ると“化けたなぁ~”って感じだよな~』


『レベル1万超えピキュ~♪ ヒロさんの次に成長速度が速い人間なのでピキュ~♪』


『俺は効率最優先だしヒメのインベントリ使用許可証持ちだしな~。つーかラビ子、レベルが百倍以上になってんのに魔法のレパートリーが全然増えてねーよなぁ。俺が言ったまんま“ハッ”とか“フンッ”って名称になってるし♪』


『う、うるせー! 師匠のアドバイスに素直に従っただけだろが! 断腸の思いだったんだぞ~』


『ちなみに【シャッ!】ってのはアレか? 斬るヤツか?』


『そ、そーだよ。【ハッ】がピンポン玉サイズ打ち込むヤツで、【フンッ】がボーリング玉サイズ打ち込むヤツで、【カッ】がたくさんのピンポン玉サイズ打ち込むヤツで、【セイッ】があたしの体サイズ打ち込むヤツで、【シャッ】が斬るヤツだ♪』


『つーかそれ、【ハッ】と【シャッ】だけでいーんじゃねーの? なんなら【ハッ】だけでも……』


『な、なにっ!? ……た、たしかに、魔法撃つ時に“あれ? この出し方の掛け声ってなんだったっけ?”って迷っちまって一瞬だけど発動が遅れたりした時もあったんだよなぁ』


『本末転倒丸出しだな♪ もう“ハッ”で統一しろよ♪ その方がぜって~攻撃速くなるって♪』


『うぅ~ん。考えとくよ。数少ない悩みのひとつだったしな~』


『ふふ。ラビ子ちゃんはヒロと違って【戦闘】にしか興味ないって感じねぇ~。共感しちゃうわ♪』


『へへ。ルナ泉家はそればっかりだったからなぁ。あ、そーいえばプー、ハナっちから付与されてるって【HP自動回復】がなんで50%に上がってるんだ?』


『ん? そりゃ簡単だよ。ハナがレベルアップしたからじゃねーか』


『え? ハナっちは寝てばっか……あぁ、ハナっちはプーの経験値貰えるんだったな…… ってプー、オマエいつの間にレベル上げなんてしてたんだよ?』


『ん~~。修行と飯と風呂ばかりの日々で忘れちまったのか~? ラビ子よ、今や俺のスコープは、も~無限と言ってもいい距離にまで到達できる神スキルなんだぞ? ステ値だって桁外れなんだ。オマエの修行にマンツーマンで付き合ってるだけのようにオマエには見えていたのかも知れんが、その舞台裏では【レベル上げ】やら【多種大量の錬金】やら【アルロライエちゃんとの共同プロジェクトでの開発事業】やら【ウルさん分体を通じての世界つんつん】やらを日夜繰り返していたのだよ、実は! ぬはーっはっはっは! ぬはーーっはっはっは!!』


《ぬはーっはっはっは! ぬはーーっはっはっは!! ヽ(*╹▽╹*)ノ 》


『ピキューーッピッキュッピ! ピキューーッピッキュッピ!!』


『……でもさぁ、ラビ子ちゃんもさ、ヒロやウルちゃんの取得経験値、【もらう設定】にしとけば良かったのに~。頑ななんだから~』


『いやヒメさん、あたしだって【効率】や【便利】や【悠々自適】や【不労所得】を永遠に放棄する気はねーよ♪ いつかその時が来たらありがたく頂戴するさ。ただ【ルナスダンジョン・ガンマ】を攻略するまでは、ぜってー自力成長だけで強くなりてーんだ。もちろん【自力】っつっても、この修業自体がプーやみんなに頼りっぱなしの【おんぶにだっこに上げ膳据え膳な超接待レベル上げ】だってのは自覚してるよ。そこはマジで感謝してる。だからこそ、経験値まで分けて貰っちまったら、かーちゃんに顔向けできねぇんだよ。時間かけちまって悪ぃけど、ガンマ攻略まではこのままやらせてくれ! 頼む!』


『偉い! さすがラビ子ちゃん! よく言った! あなたは【ヒロファミリー唯一の良心】よっ! この薄汚れた家族の中で眩いばかりの光を放つ最後の純真よ! 無垢よ! ヒメ姉さん、泣いちゃいそう……グスッ』


『【おんぶ】はひーたんのなのです! それで【だっこ】はハナちんのなのです!』


『ではピキュ、【上げ膳据え膳】はウルが、』

《【上げ膳据え膳】は既にアルロライエで予約済みです》


『ピキュ~~』


『さーて、そろそろ修行の話に戻すぞ~。ラビ子、なんだかんだ言っても実際オマエは強くなった。もう、テラースの地表を移動する分には無敵と言っても過言じゃねーだろーな。どんな魔素深い森の奥でも安心だ。だから今日からはダンジョンに修業の場を移す』


『へへ。ついにこの時が来やがったか……。ゾクゾクして来やがるぜ~♪』


『で、その前に、オマエに確認したいことがある』


『な、なんだよ、あらたまって……』


『オマエ、夜目は良いのか?』


『ヨメ?』


『ヒロ! 嫁はわたし!』

《アルも嫁で! (;`Д´)ノシ 》

『ひーたんも実は嫁なのれすっ!』


『……ピキュピキュ~~』


『いや、……夜の目、暗いところでも、っつーか、真っ暗闇でもある程度は見えるのか? って質問なんだが』


『ん~~、まぁある程度は見えるぞ。あとラビットルにはラビラビがあるからよ、視力とラビラビの合わせ技で多分大丈夫だと思う』


『へぇ~。そうなんだ。アルロライエちゃん、客観的に見てどー思う?』


《お答えしましょう。ラビットルは人間種の中では最も視力が良く、赤外線や紫外線も可視の領域です。また、頭上のラビラビという特殊感覚器官により認識能力がブーストまたは調整されるため、光の全く届かないダンジョンの奥地でも何の問題もないでしょう。ラビットルにはすべてお見通しなのです。以上、未来の嫁、アルロライエがお伝えしました♡》


『おぉぉ~。なんだラビ子、ラビットルってすげーんじゃねーか~♪ 俺、そんな能力があるなんて知らなかったからさ、ダンジョン潜る時は全空間に【光量変化魔法でつくった照明】並べまくって修行しようかと思ってたんだよ~。おかげで手間が省けたぜ~。よしっ! んじゃあ、視覚的な不安も払拭されたし、ダンジョン修行はじめっぞー!』


『よっしゃーーー! 待ってましたーーー!!』


 こうしてラビ子の驚異的なレベル上げのつづきが始まるのだった。





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