28日目 ヒロシティへようこそ




『キャ~~ パパぁ~~♪ こっちこっちぃ~』


『ほぉーれほれぇ~~ こっちか、いやこっちだ!』


『いやぁ~~ん♪』


『ハナたん待つのれすです~~♪』


『ハナちんここは通さないピキュッキュ~!』


『キャッ キャ~~♪ キャ~~~♪』


 【ハナランド】に赤柴の子犬、黒柴の子犬、白柴の子犬、ヒロ、のじゃれはしゃぐ声が響きわたる。

 そんな最中にヒメが声をかけた。


『ヒロ~、なんかさ、各自自由行動中にこっそりレベル上げしてたでしょ~』


『おっとバレてる♪ ヒメなんで分かったの?』


『まぁ~そもそも、わたしってば神なもんだからさ、全くの別行動中でも視界のすんごぉ~い片隅にパートナーの行動を捉えておけちゃうってゆースゴ技もあるんだけどね、それはそれとして、【エンジェルバトル】してたらさ、突然【魔ポイント】の残量が跳ね上がったのよ。しかも【始祖王4万体】の時より多い【莫大な魔ポイント】よ~。わたしゲームしながらビックラこきすぎて少しちびっちゃったわよ~』


『そりゃ悪かった(笑) でもちびりの代償として【魔ポイント】入ったんだから喜んでよ♪』


『いやマジでヒロには感謝してるわ~。直近の2件のダンジョンだけで、ひーたんの強化も武装もオプション追加も完璧よ~♪ ちょっと使い切れないかもって勢いの量だったからさ、つい【実売ストア】で【指輪】買っちった♪ てへ♡ もうインベントリに届いてると思うから良かったら使ってね~』


『ゆ、ゆびわ!?』


 ヒロは、【3柴とのじゃれはしゃぎ運動会】を継続しつつ、インベントリを確認してみる。するとそこには【お届けもの】という新規フォルダが出来ており、薄く点滅していた。


『ヒメ、あったよ。……これってさ、婚約……指輪♡ なの?』


『んかっっ!! ……んっ…… はうっ……』


『ヒメ?』


『ん…… ち、ちがうっつーの! これはね、【倍リング】って言って、【装着者のステータスのひとつを倍の数値に引き上げる】という、まぁ最高クラスのバフ系神アイテムのひとつよ♪』


『おぉぉ、そーだったんだ♪ そんなすごいアイテム貰っちゃっていいの? あれ? でも確か、【魔ポイント】で手に入るアイテムは神界でしか使えないんじゃなかったっけか?』


(あ、危なかったぁ~。前触れなしにいきなりあんな愛情たっぷりの純思念送り込まれたら、このヒメ様だってアルロライエちゃんの二の舞になっちゃうじゃないのよぉ。【実売ストア】で【ソルマッパリーゼ】と【ハイチオルコンの力】買って飲んどいてよかったわ~。直で浴びてたらたぶん、今頃わたし白目剥いて泡吹いてるでしょうねー。神に快楽リミッターかけさせるなんて、ヒロってばなんて奴なのよもぉ♡)


『ねぇヒメってば、』


『んら? あ、あ~、何だったっけ?』


『だからぁ、【魔ポイント】で購入したアイテムは神界でしか使えないんじゃなかったっけって聞いてるんだよっ』


『あー、そのことならご心配なく。わたし達がいつも使ってる【インベントリ】は元々は私のもの。つまり神仕様。だからインベントリの中までは当たり前にアイテム届きます』


『ふむふむ』


『あとは、使用権限全開放してるヒロがフツーに取り出せます。ってだけ。以上よ♪』


『おおぉ、つまり俺がヒメのインベントリを使い放題に使えてるってーのは、実はそれ自体がとんでもないチートバフだったってことなんだな? あらためてサンキュッ!♪』


『っん…… 気にしないで~。私もヒロの脳内で千年生き延びるために必死だったっちゃー必死だった訳だからさ。持ちつ持たれつよ~♪』


『だけどさ、こんな神アイテムがさ、【エンジェルバトル】の【実売ストア】ではいつもたくさん売られてんの?』


『そんなことは無いわよ。普段はもっと地味めなのばっかりよ~。同じバフ系でも【3%up】とか【5%up】系がフツーよ。あと【素材系アイテム各種】とか【ロトニウム装備各種】とか、挙げればキリがないけど地味めなアイテムがいろいろ並んでるわねぇ。ただ、今回はめったに現れない期間限定の【VIPストア】がオープンしたのよ! それで、その中の最高額商品がその【倍リング】だったってわけなのよ~。まぁ余裕で買えたけどね♪』


『つーかヒメ、そんな貴重なアイテム、ゲーム内のヒロリエルにあげなくていいの?』


『大丈夫、もうあげてるから。限定2個のやつ、ふたつとも買ったし♪』


『おぉ、じゃあ遠慮なくもらっとくね♪ ではでは、具体的な性能は、っと……』




■倍リング

ステータスのひとつが倍の数値に上昇するリング。

上昇させるステータスはリングとの通信で選択できる。バフ効果を切ることも可能。通常は指輪型だが、腕輪・首輪・イヤリング・舌ピアス・ベルト等、どんな形状にでも変形可能。


 


『おぉぉ、念じるだけで操作可能なのか。タップもスワイプもフリックも必要ないのは助かるわぁ』


『さっそく着けてみたら?』


『そーだな♪ では……』


 ヒロは左手中指に【倍リング】を装着すると、MP上昇を念じてみた。

 するとスクリーン端の数値が【MP87592】へと上昇する。


『おーーーっ! MPが倍になった! しかもハナと合算した数値の倍だよ♪』


『あらためてステ値見せてもらったけど、ホント人知れずMPコレクターになってたのね~。リング装着前の数値だって人間界では桁外れのものよぉ~』


『呆れるな呆れるなぁ~、喜べ喜べぇ~、ヒメと俺の未来にとっては明るいだけの結果だろ~♪』


『ま~確かにそーよね♪ ヒロが強くなることこそ、わたし達家族にとっての安心材料だもんね。頼りにしてるわよ、旦那様♪』


『おぉーよ、任せとけ! 安心王に俺はなるっ!』


 ヒロは右手を天にかざし、左手を腰にあて、胸を張り、大股で大地を踏みしめたかったのだが、それは叶わなかった。

 なぜならこの瞬間も【3柴とのじゃれはしゃぎ運動会】が継続中だったからである。





 1時間後


『パパ~、ハナくたくたなのぉ~』


 ヒロの胡座の中でコロンと丸まって、尻尾をふりふりしながらハナが甘える。


『しばらく休憩だな。そのあとごはんにしよっか?』


『ハナごはん楽しみなの~♪ でもその前にモミモミしてほしいの~』


『モチのロンギヌスだぜぇ~。ハナ、全身マッサージしてやるからなぁ♪』


 ヒロはハナの全身の筋肉をやさしく揉みほぐしながら【治癒力上昇魔法】をじわぁ~っとかけていく。

 ハナはところどころをピクピクさせながら夢見心地の表情を浮かべるのだった。


『はぅ~~。気持ちいいの~。くぅ~~~ん。パパぁそこぉ~♡』


(この子はホントに健気な存在だよなぁ……。俺やウルさんに【HP自動回復】をサラッとくれるのに、自分にはその能力を使えない。一緒にレベルを上げていってもステ値は一番低い。それなのに一番元気で、一番純心で、一番前向きだ。絶対守ってやるからな~。しかし1万年かぁ~、俺、生きてられるかな~)


『パパぁ、次はあんよがいいのぉ♡』


『そーかそーか、じゃ、まずは肉球からいくぞぉ~』


 ヒロはハナの肉球を、ひと球ひと球、丁寧に揉みほぐしていく。


『ふはぁ~~♡ パパもっとぉ~……』


『はぁ~~~い♪』


 この、ハナにとっての最高の癒やしタイムが、実は、ヒロにとっても何よりの癒やしタイムであることを、無垢なるハナはまだ知らないのだった。





『さぁ~、ごはんだよ~♪』


『楽しみなの~♪ パパごはんはやくなのぉ~』

『ピキュピキュ~! 待ってましたなのでピキュ~♪』


 この日のごはんは


【ハナ感嘆★四種竜と白金龍の肉モツ盛り魔竜液和え★10キロ】

【ウル絶叫★ヒロ魔力全力充填★ヒロニウム★100トン】


 だった。


『ハナもウルさんも、多かったら残していいからね♪ ふたりともレベル上がったから増量してみたんだ~』


『ハナちょうどいいの!』

『ウルもバッチリまんぞくなのでピキュ~!』


 ハナは尻尾ぶんぶん丸、ウルは全身ブルブル丸で無我夢中だ。


『それは良かった♪ このあとデザートの【魔素クリスタル】もあるからね~♪』


『パパデザートなの!』

『ウルもデザートピキュ!』


 二人の食事には“ゆっくり噛んで食べなさい”などと口を挟む隙間は全く無かった。


 その後、二人は新入荷の【チョレスト魔素クリスタル】をペロリと平らげ、ハナに至っては【デザートのデザート】と称して【チョレストフェニックスのS6魔晶】を、さらに【デザートのデザートの締め】と称して【チョレストバハルムントのS7ちゅるちゅ~る】をペロりつくしたのだった。





『パパぁ~ハナねんね~』


 風呂に入って3分後、愛する人の腕と湯に包まれて蕩け切ったハナは、満足気にヒロの中[自宅]に戻っていった。


『ふふっ。今日もハナちゃんの天使ん爛漫っぷりはかわいかったわねぇ~。あと、こっちの天使はも~ヒロにベッタリだし……』


『そーなんだよ。いつからかさ、ヒロリエルが俺の首の後ろにしがみついて動かなくなっちゃったんだよ。ちょっと前まではブンブンヒュンヒュン飛び回ってたのに』


『なんかね、ヒロの襟足あたりの居心地が抜群にイイらしいのよ~。落ち着くんだって~♪』


『ハハサマ…… それ以上は何も言わなくていいのです。ひーたんは永住の地に辿り着いたのれす……』


『おっとヒロリエル、起きてたのか~。早々に黒柴型から妖精型に変身しちゃったけど、確か風呂は黒柴型で入るって言ってなかったっけ?』


『ひーたんは、お風呂よりほかほかする理想郷に辿り着いてしまったのれす。ガンダルーラは……エルドラドンは……ザナドゥ~ンは……ユートピアンヌは……シャングリランドは……実在したのれすぅ~♡』


『やれやれだわ、こりゃ』


『まぁまぁヒメ、娘のことだし、ついつい監督したくなる気持ちも分かるが、ヒロリエルにはヒロリエルの考えがあってのことだと思うぞ。俺的にも、いつの間にか何となくこの状態がしっくり来ててだな、なんつーか、後ろを守ってもらってると安心するんだよな~。あぁもちろん、【スコープ】でいくらでも確認はできるんだけどな、気持ちの問題ってやつだろうな。守護妖精装着! みたいな安心感ってやつ?』


『(ん~、守護的機能なんて果たしてないと思うんだけどなぁ~)ま、いいわ♪ ヒロが気に入ってるんなら(苦笑)』


『(チチサマ……)スー ハー クンスハ~』


 ヒロリエルの理想郷[ヒロの首裏]は、極めて競争率の低い場所だった。


 その後……

 風呂から上がり、身支度を整えると、ウルが興奮気味に訴える。


『ピキュピキュ~! ヒロさん、早く町をつくるのでピキュ~♪ 出発ピキュ~!』


『お~~ウルさん、ウズウズしちゃってたか~。分かる、分かるぞ~。それじゃ~出発、しんこーー!』


『ピキュピキュピキューー!』

『おーーーー』

『クンスハ~♡』





 直後 ガンズシティ 新居住区付近。


「ゴズさん、おはようございま~す♪」


「おぉ、ヒロさん、昨日はまた美味い肉と料理と酒、ありがとうよ~」


「いえいえ~。ガンズシティ第一期完成記念宴会ですから豪勢にいかないと、ですよ♪」


「いやぁ~、あの後もみんな大騒ぎでよぉ、新天地なんて話が出ちまったもんだから、夢見話は天井知らずの大盛り上がりだったぜ~。で、どうだい? いい土地は見つかりそうかい?」


 ゴズが様子をうかがう。

 するとヒロは即答した。


「はい、もう確保してありますよ♪」


「……やっぱりかい~。ヒロさん、あんたは、まったく……とんでもねぇことを簡単にやってのけちまう人なんだなぁ……」


 ゴズはしんみりと、そして何とも嬉しそうに暫く黙ると、やおら【ゴズ組】に向かって叫んだ。


「おめぇらぁーーー! ヒロさんが約束どーり、オレたちの住まわしてもらえる土地を見つけてくださったぞぉ! 今日から忙しくなる! 仕事の準備を整えろぉぉぉおおお!!!」


 するとガンズシティのあちらこちらから一斉に


「「「「「「うぉぉおおおおお!!!」」」」」」


 と、雄叫びが響き渡る。


「ヒロさん、あいつらヒロさんがやってくると、聞き耳ばっかり立ててやがるんだよ~。まったく、馬鹿ばっかりだ♪」


 ゴズは憎々しげに、そして誇らしげに、ニカッと笑った。





「ぬぉぉぉおおおお!!! なんじゃこりゃぁぁああああ!!!」


 【ウルさんワープ】で【新天地・中央広場予定地】に足を踏み入れた【ゴズ組】の面々は、異口同音に驚嘆していた。


「ヒロさん! あの遠~くにぐる~っと続いてる黒い壁が敷地の境なのかい!?」

「ヒロさん! あの黒壁の内側ぜぇ~んぶがオレ達みんなの土地なのかい!?」

「ヒロさん! オレたちの町は丸いのかい!?」

「ヒロさん! このたっけぇぇぇ~塔は何なんだい!?」

「ヒロさん! み、道がずーーっと整備されちまってるぜ!?」

「ヒロさん! こんなすんげーところに住まわしてもらっていーのかい!?」


「おめぇら一旦黙れ! ヒロさんが話しづらそーじゃねーか!」


 収集がつかないほど浮かれ騒ぐメンバーをゴズが一喝した。

 そしてまだザワザワとする中、ヒロが口を開く。


「こ、こほん。マイクチェック、マイクチェック…… あ、マイク無いんだった。てへ」


 辺りが水を打ったように静まりかえる。


「え~みなさん、昨日【新天地】について話しましたが、とりあえず俺が仮決定した候補地がここです。いかがですか?」


「ヒロさん、いかがもイカゲソもイ加賀ニャ~ニャ~饅頭も無ぇよ。最高の土地だぜ!」


 ゴズの言葉に組員達が一斉にコクコクと頷く。


「では異論なしということで、まずは新天地をここにすることを決定しますね♪」


 ところどころで軽い拍手や小さな歓声が上がる。


「さて、ではさっそく、この新天地の名前を決めましょう♪ なんちゃらの町とか、なんちゃらシティとか、なんちゃらタウンとか、そんなのです。何か提案や希望はありませんか?」


 するとみんなからいくつか意見が飛び出した。


■ヒロの町

■ヒロシティ

■ヒロタウン

■ヒロ帝国

■ヒローニンゲン

■ヒロッポン

■ヒロオ

■ヒロナンデス

■ビバリーヒロズ

■グレートヒロ及びゴズ連合王国


 この結果を受けて、ヒロが懇願する。


「あのぉ~、マジで【ヒロ】って入れないでほしいんですけど……。恥ずいんで」


 ヒロは抵抗したが、むしろ“ヒロを入れずに何を入れるんだ!?”と会場は吹き上がり、火に油を注ぐ結果となる。

 そして無記名投票が実施された。


 5分後


「え~、ヒロさんがちょっと気分が優れないらしいんで、不肖ながらこのゴズが新天地の名前を発表したいと思う。耳の穴かっぽじって聞きやがれ! おめぇらの~、新天地の名前はぁ~………………」


 全員がゴズの長い長いタメを苛々しながら楽しんだ。



「【ヒロシティ】だぁぁぁああ!!!」



「「「「「「うぉぉぉぉおおおおおおお!!!」」」」」」


 ヒロ以外の全員が雄叫びとともに歓喜したのだった。





 その後【ヒロシティ】は大いに盛り上がっていた。

 ゴズの指揮のもと、【中央広場の整備】【ゴズ組の居住エリアの選定とその区割り】【ウル軍団を含むゴズ軍団の仕事とヒロに任せる仕事の具体的な作業割り】【集会場や作業場など公共施設の計画】など、嬉々として話し合いが進む。

 ヒロもその中に参加してはいたが、【ヒロシティ】という名前の恥ずかしさに未だウジウジしているところがあった。

 すると、ひと通りの段取りを終え、各持ち場に仲間たちを散らせたゴズがヒロに話しかける。


「まぁ~だ“恥ずい”だのなんだの言ってんのかい? ヒロさんよ♪」


「いや、……まぁ、もういーんスけどねー」


「しょーがねーじゃねーかよ、この町はヒロさんが見つけて、ヒロさんが初期整備を終わらせて、ヒロさんが連れてきてくれた町なんだからよぉ。オレらにとっちゃあ【ヒロさんの土地】以外のなんでもねーよ。町の名前にヒロが付くのはあたりめーさ。みんなおんなじ気持ちだぜ~!」


「……そーですね、ゴズさんたちがそこまで言ってくれるのなら喜んで受け入れますよ。これ以上いじけてるとみなさんに失礼にもなりそうだし。はい、もう吹っ切れました♪」


「吹っ切っただってぇ~? お~げさな奴だなぁ~。まったく♪」


「め、面目ないっす~」


「わっはっは~。ヒロさんからかうのは最高に楽し~ぜぇ♪」


「いやぁ~、結局はゴズさんあっての俺っすよ~♪」


「ところでヒロさんよ、」


「はい?」


「この【ヒロシティ】にはよ、【テラース商会】の連中や、【なんでも屋】って店の奴らも住むんだろ?」


「はい、そのつもりですよ♪」


「そいつらとの話はまとまってんのかい?」


「いや、これからです。まずは【ゴズ組】のみなさんにしばらく暮らしてもらったあとで、この町の生活ルーチンというか基本情報を分かっている先輩町民として、彼らを迎えてもらいたいんです。そーすれば、」


「ヒロさんの【メンドー】が無くなって助かる! っだろ?」


「は、はい~。ゴズさんは全部お見通しですね~♪」


「ま~かしときなっ♪ 先住民として大活躍してやっからよ~」


「では、さっき決めた今日の仕事を進めていきましょう!」


「おうっ! ガッテンしょーちの助さん格さんこーもんさんよ~♪」


 ヒロは改めて仮決定事項を確認する。

 作業前の会議[雑談]によって生み出された仮決定事項は以下の通りだった。


■中央広場は【巨大棒】の周囲を囲む直径400mのドーナツ状のエリアとする。

■中央広場エリアにはくつろげる緑ゾーンと宴会のできる多目的ゾーンをつくる。

■中央広場多目的ゾーンには日除け屋根や公衆トイレやプールをつくる。

■宅地面積は1区画20m×20mの400平米[121坪]とし、2×2の4区画分で1ブロックとする。

■ブロック間には幅5mの道路を敷き、碁盤の目[格子状]の町とする。

■建物の建設はヒロが担当し、全てヒロニウム製の床壁天井一体型構造とする。

■建物の骨格以外のドア・窓・家具・装飾等については各自の担当とする。

■水場は各ブロックの中央に共同の貯水タンクを1基ずつ設置する。

■貯水タンクは4m×4m×高さ8mのヒロニウム製で最大100トンほどの貯水量とする。

■貯水タンク100は中央広場にも複数台設置する。

■各貯水タンク100の補充はウルまたはヒロが担当する。

■家庭ゴミ及び廃棄物の処理は、各所に割り振られたウルが吸収消化する。

■中央広場付近に公共施設[集会所・作業場・食堂・公衆浴場など]を集中させる。


 各項目を確認したヒロは次々と各現場を渡り歩き、着々と目標を達成していった。

 そして2時間ほどで全ての仮決定事項を現実のものとする。

 つづいて【デーモンウォルナット】【ゼロモニアグラニット】などの天然建築素材、市販品の【万能魔素セメント】【耐火魔煉瓦マジモエーン】、ヒロが開発した【究極パテ★無垢トナール】【超万能永久魔導塗料★アジデール】【超万能永久魔導ガラス★クモラーヌ】など諸々を作業場に大量提供し、仕上げの作業を【ゴズ&ウル軍団】に任せた。

 その後は各現場の状況を【スコープ】で見守りながら、のんびりと【ヒロシティ】の全域を自らの足で散歩して回るのだった。


『ヒロ~、わずかン~時間で【ヒロシティ】の基盤が出来ちゃったわね~♪』


『あぁ、でもまだあちこちで細かい作業が続いてるよ。ワーワー言いながらね♪』


『盛り上がってるわよね~。特に今回ヒロが初出しした【パテ】と【塗料】と【ガラス】が大好評みたいよ♪ ウルちゃんの加工技術も折り紙付きだし、思い通りの窓や扉、あと家具なんかも作れちゃうもんだから【ゴズ軍団】のみんなキャッキャ言ってるわよ。“釘が一本もいらねぇ~~!”なんてはしゃいじゃってさ♪』


『ここんとこ【錬金】のコツが分かってきたっちゅーか、ステ値上昇のおかげで新境地に達してるだけなのかも知んないんだけどさ、メカニカルなものや複雑な構造のものでなければ、かなり欲求先行のイメージでも成功するようになってきてるんだよ。【パテ】と【塗料】と【ガラス】はいい例でさ、性能は凄いんだけど構造は単純だろ? そーゆーのならイメージさえすれば魔法みたいに【感覚】で創れちゃうんだ~』


『まぁ、そもそも【錬金】は【魔法】なんだけどねー』


『あ、そーいやそーだな♪ そりゃレベルやステ値が上がればやれることも増える訳かぁ~』


『そーだと思うよ♪ 担当神のアルロライエちゃんも、ヒロに協力的だしね~』


『だなぁ。いつも助かってるよ~』


『あ、そー言えばさ、あのタンクの水って何処の水なの?』


『あ~あれはな、天然の地下水、と言いたいところなんだけど、実は元は海水なんだよ』


『おぉ~、確かにすぐそこ海だもんね~。それを濾過したのかぁ』


『そう、インベントリ濾過な。俺の【スコープ】の到達距離は今100kmほどになってるからさ、この町に居ながらにして海の水を収納できるんだ。インベントリ収納する時に【エイチツーオー的な水だけなっ!】ってイメージしたら、それはそれは純な水、名付けるなら【超超超純水】だけが取り込めたんだよ。そして気付いた。あら? あとは【トレース】して自動大量生産しちゃえばいいだけじゃね? ってね♪』


『確かにそーだわ。ヒロには【インベントリ内トレース&自動錬金】っていう神業があるんだから、大量の資源を探す必要が無いんだもんねー。恐ろし~。……あら?』


『ん?』


『てことはさ、ヒロってば、【金=ゴールド】なんかも【トレース&自動錬金】出来ちゃうわけ?』


『もちろん出来るよ♪ 出来ないのは【魔晶】と【魔素クリスタル】だけなんじゃないかなぁ。あともちろん【生物】もね』


『うぇぇえ~。だったらもう、今現在リアルタイムのリアルチャートで【世界一の大金持ち】確定じゃないの~!』


『まぁそーなるな~。ただ俺、富の集中とかあんまし興味ねーからさー。悪目立ちするだろ? つーか独自に好きなもの【錬金】できるんだから【金銀財宝】なんて必要ねーだろ。あんなもん、とどのつまりは【ただの鉱物】だぞ? そもそも俺の前世やこのテラース世界で【金銀財宝】がキャーキャー言われてんのは【希少性故の貨幣的価値】が権力者によって創られちゃってるからだし、その幻想を気にしないでおけば有っても無くてもどーでもいいもんじゃねーか? あと、集積回路作る予定もないし……』


『……何この敗北感。わたし神なのにぃ、ヒロの方が達観してる感じぃ、なんかちょ~プンスカポンなんですけど~~』


『何を言ってるんだヒメよ、もし【金】や【宝石】が【ハナやウルさんの大好物】だったり【ヒメの返り咲きに不可欠な物質】だったり【ヒロリエルの強化素材】だったら、俺は間違いなく何億トンでも何千兆トンでも量産してると思うぞ。しないのは【身内に需要がない】から。ただそれだけだ』


『ま、ヒロってば♪ 嬉し♡』


『て、照れるなぁ~。……あと、ほかになんかヒメから見て気になったこととかある?』


『ん~、ほかにかぁ~。あ、あの公衆浴場のさ、お湯ってどーしてんの?』


『ふっ、あれはだな、まず俺がインベントリ内で【38度の超超超純水】を大量生産する。そしてそのストックを【公衆浴場蛇口担当のウルさん】にわたす。すると【蛇口担当ウルさん】は湯船に【38度の超超超純水】をどんどん流し込む。そしてお湯が湯船からあふれ出した時、【排水担当ウルさん】が独自の判断で余剰分のお湯を吸い取って、そのまま【蛇口担当のウルさん】に転送する。そして【蛇口担当のウルさん】は温度調節と不純物の除去を施してから、また湯船に流す。その繰り返しにより、24時間利用可能な濾過浴場が運用できるのだ♪』


『ウルちゃん大活躍ねぇ~。てか、それにしても風呂、デカすぎでしょ。最初プールかと思ったわよ~』


『5m×20mの浴槽だからな。確かにデカい。しかしデカすぎるってほどでもないぞ。【ゴズ軍団】が一斉に入ったら適度な感じだろ?』


『う~~ん、よく分かんないけど、確かに公衆浴場なんだから広い方がいいのかもねぇ。あと広いと言えばプールも凄いよね。あれもウルちゃんたちが管理してるの?』


『基本的には浴場と同じだな。屋外プールだけど水温25度に固定してるし。ただ、サイズが150m×150mくらいあるから、担当ウルさんの数は多いよ。どうだヒメ、一年中、いつでも入れる銭湯とプール、最高だろ?』


『みんな喜ぶだろうねぇ~。夢にまで見た【自分の家】だけじゃなくて、大きなお風呂やプール、そしてその町自体が自分たちのものだなんて、上級貴族の暮らしなんて目じゃない環境が手に入っちゃってる感じだもんねぇ~♪』


『えっへん♪ ヒメ、ほかには? なんかほかには気付いたことない?』


『えぇぇ~ 急に言われてもそんなにたくさんは思いつかないって~』


『なんかあるだろ~、いやまだ有るはずだ!』


『もぉ~ 気付いたら言ぅーから急かさないでよ~』


 ヒロはとにかくヒメに褒めてもらうのが嬉しいだけなのだった。





 時は進んで正午頃 【大浴場★ハナの湯】


 建築物全般の扉や窓、そして家具などの設置も終わり、ひと段落ついた面々は全員総出で大浴場に浸かっていた。


「いやぁ~~ヒロさん、オレは【風呂】なんてもんを味わえるなんて、夢にも思ってなかったぜ~♪」


 ゴズは呆けた顔でニヤけている。


「そーだよなぁ~。風呂なんて貴族様だけの楽しみだからな~」

「オレらじゃタライの水浴びくらいがせいぜいだったかんな~」

「風呂ってなるとでっけぇ町にしかねぇしよ、あれがまた高ぇんだよ~」

「な~にが“高ぇ”だよ、入ったこともねーくせによー」

「高ぇから入ったこと無ぇんじゃねーか、分かんねぇ奴だなオメーは」

「おいおい揉めんなよ~、せっかくの風呂じゃねぇ~か~。いやぁ~最高だなぁ~」

「あぁ~~、サイコ~~だぁ~~」

「おぉ~~、サイコ~~だなぁ~~」


 ゴズ軍団の呆け合いも止まらない。


「みなさ~ん、この【大浴場★ハナの湯】は、24時間いつでも使い放題ですから、遠慮なくドップンドップン浸かってくださいね~」


「「「「「「「「サイコ~~だぁ~~」」」」」」」」


 仲間たちの幸せそうな姿をひとりひとり眺め、誰よりもニヤニヤが止まらないヒロなのだった。



カコーーーーン…………



「しかしヒロさんよぉ~」


「なんすかゴズさん~」


「この【ヒロシティ】なんだがよ、なんでこの場所にしよーって思ったんだい?」


「ん~~っとですね、まぁ簡単に言うと、気候がいいからですかねぇ。雨が少なくて、雪が降らなくて、夏はそこそこ暑いんですがカラッとしててジメジメ感がないんですよ~。あ、多分……ですけどね~」


「へぇ~~。ヒロさんはつくづく物知りなんだなぁ~」


「ホントはこの大陸の東の海にあるっていう、伝説の島でも探そうかと思ってたんですがねぇ~。【マリネランド】っていう島で、一年中春のようなポカポカ陽気の島らしいんですよぉ。ただ、俺の右目と左目とその中間の大車輪眼が一斉に囁いたんですよ。“そんな島どこにも無ぇぞ”ってね~。だから確実な方を選んでみました~。それがココっすぅ~」


「なるほどなぁ~。伝説の島かぁ~。伝説って言えばよぉ、オレも昔酒場で聞いたことがあるんだがよ、なんでもゼロモニア大陸の西の海岸には、【服を着たネズミ型の魔物のつがい】がいてよ、犬やらアヒルやらリスやら熊やら狼やらの魔物たちを従えてよ、歌ったり踊ったりしてる【二足歩行の魔物の村】があるって~話だったんだがよ、そんな酔っ払いの悪ふざけとしか思えねぇよーな話、オレは全く信じちゃいねーんだがよ、ヒロさん、このあたりでそんな魔物の村、見かけたりしなかったかい?」


「………………見てない……っすねー」


「そぉだよな、【ネズミが犬やら熊やらを従える】なんてよ、ありえねぇよなぁ~。やっぱり【伝説】なんて~もんは、噂でしかねぇ~んだなぁ~、うんうん」


「そ……そーっすねぇ~」


「いやぁ~、それにしても風呂ってのはいいもんだなぁ~。こりゃ癖になるぜぇ~。とは言えオレもそろそろ頭がボーーっとしてきやがった。こいつらみてーになりたくねぇから元気なうちに上がらせてもらうわ♪」


 ゴズが送った視線の先には、興奮のあまり風呂に浸かりすぎ、のぼせて洗い場でグッタリしているゴズ軍団の姿があった。


「俺ももう上がりま~す♪」


 ヒロは横たわるみんなに【治癒力上昇魔法】をかけようかと思ったものの、それはそれで無粋と自覚し、脱衣所へと向かうのだった。





 30分後 【大食堂★ウルウル亭】


 仕事上がりに風呂で汗を流し、湯船の快楽を堪能したゴズ軍団は、ヒロに誘われ【大浴場★ハナの湯】の近くに建設された【大食堂★ウルウル亭】に集まっていた。


「みなさぁ~ん、揃いましたか~? この【大食堂★ウルウル亭】も、24時間毎日いつでも食事が食べ放題ですから、遠慮なくガッツガッツ食べてくださいね~」


「「「「「「うぉぉぉぉおおおおおおお!!!」」」」」」


 席についていた30人の男たちは、本日何度目になるのかも忘れてしまった雄叫びをあげた。

 次々と注文が飛び交い、給仕担当ウルが、その場で体内の【亜空間ポケット】に時間停止保存されていた料理をテーブルに置く。

 待ち時間ゼロで目の前に提供される【出来たて料理】に最初こそみんな驚いていたが、ウルとの共同作業や宴会を繰り返してきたせいか、すぐに状況を把握し、其々が希望した一品一品に舌鼓を打つのだった。


「みなさぁ~ん、ちなみに酒類も24時間いつでも飲み放題ですので気軽に注文してくださいね~」


「「「「「「うぉぉぉぉおおおおおおお!!!」」」」」」


 そしてまたむさ苦しい雄叫びは繰り返されるのだった。

 しかしそんな中、ゴズが険しい表情でヒロに話しかける。


「……ヒロさんよぉ、あったか極楽で何でも美味くて、そりぁあも~ありがてぇんだが…… いいのかい? こんなにまでしてもらっちまって……。オマケに昼間っから酒まで飲んじまってさ、オレたちは、ヒロさんにここまでしてもらうほどのナニカを何も返せちゃいねぇんだ。なんだか申し訳なくてよ、萎縮しちまうよぉ~」


「ゴズさん、【働かざるもの食うべからず】とか【昼間から酒なんか飲むな】とか、そーゆー考えは、ここ【ヒロシティ】では捨ててください。何の問題もありませんから♪」


「し、しかしなぁ……」


「考えてもみてください。王様だって貴族様だって領主様だって大富豪様だって、大して働いてないでしょ? 中には極稀に働き者タイプも居るのかも知れませんが、大抵はあんなに偉そうにして贅沢三昧を繰り返すほどには働いてないんですよ。少なくとも鉱山労働者より働いてるって権力者は皆無でしょう。生まれながらに富や才能や運を持ち合わせ、人を支配する側に居座れた強者は、意図してなのか無自覚なのかは知りませんが、働き詰めの貧しい弱者たちに【自戒】を【美徳】として押し付けがちなんですよ。そして、【たくさんの弱い人達が苦労しないと生きていけないような社会】を上手に作るんです。俺の前世でもそうでしたが、この世界ではその傾向がより顕著っす。ではどーすればこんな【9割以上もの人たちが虐げられ奪われ続けるピラミッド型……というかもはや“画鋲型”と言ってもいいような社会構造】を【弱者目線で改良】できるのか、なんですが、実は簡単な話なんです。富や知恵や力を持つ者が、独占せずに分配すればいいだけなんです。だから俺は【多くを持つ立場】として、みなさんに分配しているだけなんです。特に俺の場合、どれだけ分配しても失うことがない【異常体質】ですから、ハッキリ言って苦労なんてしてません。つまりゴズさんたちは、俺が提供する分配品を遠慮なく好きなだけ消費してもらえばいいって話なんです。何なら一生ここで【飯食って風呂入って寝るだけ】の生活をつづけてもらっても構いませんよ♪」


「……ん~、正直ヒロさんが何言ってんのかあんまし分かんねぇけどよ、そんな贅沢な暮らしを覚えちまったら、オレたち、堕落しちまうんじゃねぇ~のか?」


「そっすね~、ゴズさんの言う【堕落】が何を指すかは微妙な問題ですが、もし、【飯食って風呂入って寝るだけの生活】をゴズさんたちが一生続けたかったら、そしてそんな暮らしをとても気に入ったなら、それは【堕落】ではないと思いますよ♪ ようは、【どう生きたいか】ってだけの話ですから。ゴズさんたちはこの【ヒロシティ】の市民になったことで、【安全で清潔で飢えない暮らし】を手に入れました。あとはその条件下で【生きたいように生きる】だけです。しばらくの間は価値観が急変して戸惑うこともあるでしょうが、まぁ、気にせず生活してみてください。まずは新しい環境に慣れることですよ♪」


「そ、そんなもんなのかねぇ……」


 ゴズはしばらくうつむき、そして顔を上げた。


「……分かったよヒロさん、ここは四の五の言わず、目一杯【ヒロシティ】生活を満喫させてもらうとするぜ♪ ありがとよっ!!」


「はい♪」


 ヒロは満面の笑みでゴズに微笑むと、目の前の【アルロライエの握りたて特上寿司セット】に手を伸ばすのだった。





 30分後 【大会議場★ヒロビロ】


 【大食堂★ウルウル亭】の近くに建設された【大会議場★ヒロビロ】は、肩書こそ【会議場】ではあるが、実際は【多目的大宴会場】と言っても過言ではない造りだった。床は全面【高反発マット】で覆われ、椅子もテーブルも無く、ただただ真っ平らな座り心地のいい、そして寝心地もいい30m×60mほどのフラットスペースで、一番端に高さ50cmほどのステージがある。例えるなら、畳を高反発マットに置き換えた超広大な【旅館の大宴会場】だった。

 その50cmステージにヒロが立つ。


「え~~みなさん、労働のあとに風呂と食事を経て、さぞかし眠かろうとは思いますが、聞いてくださ~い」


「ヒロさーん、ビーザの野郎がもー寝てやがりまーす」

「ヒロさーん、ドミンゴのいびきがうるさいでーす」


「え~~、まぁ寝てしまった人はしょーがねぇっす。あとで起きた時に説明フォローよろしくおねがいします~」


「は~~~い」

「了解っすー♪」


「さて、これからの我々の生活についてなんですが、センタルスの役場にガンズシティを引き渡す時期まで、まだ20日~1ヶ月ほどはあります。つまり、ガンズシティの開拓を第1段階まで既に終わらせてしまったみなさんには、これから当分の間、仕事がありません。と、いうわけで、引き渡しまでの期間、【ゴズ組】のみなさんは全員【自由行動】としたいと思います♪」


「「「「「「ぉぉぉおおおぉぉぉ~~…………」」」」」」


 会場が戸惑いとともにどよめく。


「質問があると思いますので先にお伝えしますが、例え自由行動期間中でも【大浴場★ハナの湯】や【大食堂★ウルウル亭】、ついでにこの【大会議場★ヒロビロ】、あと【大作業場★ゴズテック】、【大プール★パシャリエル】など、この町の全ての施設は24時間使い放題です。遠慮なくどうぞ♪」


「あ、あのぉ~ヒロさん、例えば、家具作ったり、カーテン作ったり、自宅のことのためにウルっちやら資材やらを使ってもいーんですかい?」


「もちろんオーケーです♪」


「はい! ヒロさん、ウルっちに頼んで、あの【黒壁】や、【巨大棒】の上に登らせてもらっても……」


「もち、オーケーです♪」


「ヒロさんヒロさん、この会議場で格闘技大会やってもいいっすか?」


「モチの、ロンです♪」


「ヒロさ~ん! ヒロシティ全部を使って大鬼ごっこ大会とかは……」


「モチの、ロンギヌスです♪」


「ヒロさぁ~ん、町の外のいろんな薬草や生き物を集めて、ヒロシティに持ち帰りたいんだけど、それは?」


「モチの、ロンドンコーリングイェーイっす♪」


「え!? じゃあヒロさん、世界中を旅して回る……なんてこともいいんすか?」


「モチの、ロン、国士十三面待ちで役満オッケーっす♪」


 この時点で、あまりの規制の無さにゴズ軍団はざわつき困惑した。

 しかし、各自に1体ずつ【ウル】というパートナーが付いているという特殊な状態と照らし合わせ、連絡も帰還も危険回避も容易であるという結論から、ヒロの放任っぷりを素直に受け入れることにし、大いに喜んだ。


「あと、各ウルさんにはそこそこの額のイエンも預けてありますので、いろんな国や町を巡るのでしたら、諸経費として好きに使ってください♪ ただし、よその町で、その土地のルールを破ったり、限りある商品や資源を大量に買い占めたり、主権を脅かしたり、というような、迷惑行為や犯罪行為は禁止です。我々【ヒロシティ市民】が絶対に守らなければならないルールはただひとつっ! 【悪目立ち禁止】!! それのみなのです!!」


 会場からは、特に大きな歓声も拍手も起こらなかったが、ヒソヒソと話し合い、ワクワクが止まらない空気が漂っていた。

 かくして【当面の間の過ごし方説明会】は幕を閉じ、解散となる。

 ゴズ軍団は引き続き各々が楽しそうに計画を立てたり可能性の話に花を咲かせている。

 ヒロにとってその光景はまるで、【夏休みを目前にした少年たち】のように眩しく、郷愁を誘うセンチメンタルなものなのだった。





『ヒロ~、あんなユルユルの方針で【ヒロシティ】は大丈夫なの~?』


『大丈夫も何も、何したって大丈夫なんだから大丈夫に決まってるだろー』


『わたしはそんな作麼生説破の果てみたいなこと聞いてんじゃなくてぇ、あんまり楽ちんになりすぎると、あの人達、生き甲斐っていうか、張りあいっていうか、そんなピリッと感を無くしちゃってさー、むしろ人生の醍醐味みたいのが減るんじゃないのかなぁって……』


『ヒメの言うことは分からんでもない。確かに人の喜びや歓びや悦びには【緊張と緩和】または【苦楽】または【飴と鞭】または【破壊と再生】的なスパイスが有効なのは認める。けどな、だからといって無くてもいい【緊張や苦や鞭や破壊】を無理に強要するのはどーかと思うぞ。楽なら楽でいーじゃないか。どんなに楽でも人はいずれ悩む。なぜなら人はみな【飽きる】からだ。飽きたら退屈になり、【飽き】から脱却するための次なる【欲求】を発動させる。好き勝手に興奮する。そしていろいろ考える。だから、別にいーんだよ、好きに流れていけばさ♪』


『もぉ~、ヒロがそんなにビートニク仙人みたいだと、わたしが【古いしきたりや考え方に固執する保守的な絶世の美女】っぽくなっちゃうじゃないのよぉ~。プンスカ!』


『そうプンスカすんなよ~。つーかこのヒロシティにおいては【社会体制】そのものが無いんだからさ、そーすっと【カウンター】的なものも【オルタナティブ】的なものも【保守】も【革新】も意味無いんだよ。だって【集団としての主体】が無いんだから。まぁ、人が増えてきたらそのうち【社会規範】やら【社会奉仕】めいたものが自然発生するのかも知れないけど、そーなったらそーなったでその時考えればいいっしょ~♪』


『そっか~。確かに考えてみれば、ヒロシティでは衣食住も安全も公共設備も全て無償支給されるんだから、【死なないために集団で支え合う必要性】が無いわけで、そうすると【社会】という概念そのものが希薄になりがちなのか~』


『だね~。特に今は町が生まれたばっかだしさ、【様子見】でいいんじゃないかな~。あとウルさん、いつもいつもだけど、今回の【ヒロシティ】の立ち上げと運営に関しては、特にただならぬ貢献、マジめっちゃぶちもんげーありがとね!』


『ピキュピキュピキュ~! なんのこれしき朝飯前田の日本刀コレクションなのでピキュ~♪ ヒロさんの超次元的アシストによって【無限のヒロニウムスライミー】となったウルにとって、この程度のこと、ゴブリンの醜い容姿を侮蔑して泣かすことくらいに簡単なことなのでピキュ~♪』


『ゴブリンにはゴブリンの美意識があるだろうから可哀想だけど、助かりまくりだよ♪ 特に今回は、汚れた水の濾過とか、ゴミや廃棄物の処理とか頼んじゃって、なんか嫌な気分にさせちゃったかなぁって引け目があってさ~』


『ピキュ! ウルには【汚れ仕事】とか【惨めな仕事】とか【汚い豚め!】とか【自分が惨めになること100個言ってみなさい!】とか、そんなこだわりは元々無いのでピキュ~。どんな役割もヒロさんのための供物であり、贄であり、つまり喜びであり、同時に修行なのでピキュ! 最強龍を倒すのも、ゴミを消化するのも、なんら変わらぬ夢中時間なのでピキュ~♪』


『おおおぉぉぉ、ウルさん、心の友以上の凄い存在よぉーーー!!』


『ピキュピキュピキュピキュピキュ~~~!!』


 二人はしばらくの間、泣きながら抱き合うのだった。





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