27日目 新天地をつくろう




 夕方頃 ゼロモニア大陸ガンズシティ


「ただいま戻りました~♪ おっ! すごいじゃないですか~♪」


 ヒロ達がガンズシティに戻ると、午前中には壁だけだった住宅と集会所に立派な屋根が葺かれていた。

 そこへ、近くで一服休憩していたゴズが駆け寄ってくる。


「ヒロさぁ~ん、どうだい、全部葺いちまったぜ♪ これで今夜からはオレたち全員新居暮らしだ~。いやぁ~、間に合ってよかったぜ~♪」


「早かったですね~。これで古い方の居住区画も倉庫とかに使えるでしょうし、一気に利便性が上がりましたね~。ところで【魔法便器】の評判はどーですか?」


 ゴズはニヤリと笑って答える。


「どーもこーもねぇよ。ヒロさん、ありゃやっぱしとんでもねぇ魔道具だな。糞を捨てる手間がいらねーってーのも驚きだがよ、ケツの穴を拭かなくてもキレーになってやがるのには、毎度、感謝感激雨あられだよ。そんで全く臭いがしやがらねぇ。オレなんかよ、糞こいてすぐ、中に首つっこんでクンクン嗅いでみたんだけどよ、それでもちっとも臭くねぇ♪ こりゃ~間違いなく、王様でも頭下げて欲しがる道具だぜ~♪」


「それは良かった♪ では……」


 ヒロは【スコープ&インベントリ】で、新築物件の中にあらかじめつくっておいた小部屋に【魔法便器】を配置していった。


「ゴズさん、新築住宅にひとつずつと集会所に5つ、【魔法便器】を設置しましたんで、みなさんで使ってください♪ あと現在設置してある3つの便所もそのままにしておきますね~」


「うおっ、マジかよ!? そりゃあみんな喜ぶぜ! これ以上無い贈り物だぁ~。……ただ、ヒロさんよ、」


「ん? なんスか?」


「今の時点でよ、外堀、橋、石畳、住宅、集会所、どれをとっても【今までオレたちが開拓してきた最前線の拠点】をはるかに超えちまってるデキの良さなんだよ」


「はい」


「それに加えて【魔法便器】なんて付けちまったら…… 元とれねーんじゃねぇのかい?」


「あぁ、そーゆーことですか。大丈夫ですよ♪ 【魔法便器】はそもそも我々が運営する予定の【なんでも屋】ってお店を通じて、レンタルサービスのみで流通させる予定ですので、引き渡しの直前に一旦全部撤去しますから♪」


「おぉ、そーだったのかい。ならこっちも気兼ねなく使わせてもらうぜ♪ どーせまだあとひと月くらいは引き渡し作業にも移れねーんだろうしな~」


「あ…… 確かに、そーですね。俺がセンタルスのサンヨニクさんと話したのが4日ほど前。てことは本来ならまだ俺はガンズシティにすら辿り着いてないはずで、3~4日後にここに到着し、1~2日ほどかけて全員の意向をまとめ、その返事を持ってまた1周間以上かけてセンタルスに戻り、そこで改めて【ゴズ組30名】の開拓事業継続の意向を伝え、そこからまた10日ほどかけてセンタルスの役人とここに戻ってきて、やっと現状確認と引き渡し交渉に入れる、っていう流れか……。確かにまだあと1ヶ月近くは、現状維持になっちゃいますねー」


「どーするヒロさん、何ならこの先にもあと3つくらい、開拓拠点の町つくっちまうかい?」


「………………」


「ん? どーしたヒロさん、急に黙っちまって」


「ゴズさん、」


「な、なんだいヒロさん」


「俺たちの…… 俺たちだけの町をどこかにつくりませんか?」


「はぁ? 町をつくる……ってオメェさん、そんなことしちまったら、センタルス……っつーか、アンゼス共和国の役人どもが青筋立てて怒鳴り込んでくるだろ~。ただじゃ済まねぇ大問題になっちまうぜ」


「いや、ですから【どこか】につくるんですよ♪ まだどの国も領地として開拓していない、開拓する計画にすら至ってない、そんな未開の地に【俺達だけの町】を作るんですよ♪ そーすれば、【ゴズ組】や【テラース商会】、これから作る予定の【なんでも屋】、つまり俺の能力やウルさんのことを知ってしまった仲間たちにとって、何でも気軽に言い合える同じ立場の人間しか住んでいない拠点として、すんごぉーーく便利だと思いません?」


「……そうか、ヒロさんなら、ウルっちなら、そんなことも出来ちまうのか……」


「そうですよ! みんな、俺やウルさんの秘密を抱えながら特殊な活動をしてもらってます。そんな仲間たちの帰る場所。どんな秘密も平気で話せる場所。そんな町をつくっちゃいましょう♪」


「いいねぇ、そりゃみんな喜ぶだろーよ。うちの連中にしたって、ヒロさんとウルっちのおかげで人生最高だっていつも言っちゃーいるがよ、借り住まいの毎日には変わりゃしねぇ。拠点を持つってーのはそれこそ夢物語だと思ってるんじゃねーかなぁ」


「では、町はもう作るとしてですね、どんな場所にどんな町をつくりたいか、これから宴会しながら意見交換しましょう♪」


 すると、いつのまにかヒロとゴズの周りを取り囲んでいたゴズ軍団たちが一斉に雄叫びを上げた。


「ぅおおおおおおーーーー! 宴会だーーー!!」

「オレたちの町をつくるんだってよぉぉぉ!!」

「夢にまで見た拠点づくりだぞーーー!!」

「家が持てるかもしれんぞぉぉおおお!」

「ひょっとしたら嫁さんが持てるかもだぞおおおお!!」

「オレたちにも家族ができるかもだぞぉぉぉ!!!」

「こんな日がくるなんて……グスッ」

「な、泣いてんじゃねぇぞヒッグ、うっ、うっ……」

「サイコーだぁ! ぅおおおおおおおお!!」


 中央広場に巨大な焚き火、それを囲むように大量のテーブル、焼台、料理、酒、煙草が並ぶ。

 30人の男たちは、いつものように大笑いしながら、今日あったことや過去の失敗談などを語り合い、料理で腹を満たし、酒で心を満たし、まだ見ぬ【新天地】について盛り上がるのだった。


「やっぱり気候のいいところが一番だな~」

「ここもセンタルスも冬の寒さがオレたちみたいな現場の人間には堪えるからな~」

「ここの雪にも参ったよな~。死ぬかと思ったぜー」

「あとよ、やっぱ水のいいところが理想だな」

「確かに。だけど水は掘ってみねぇと分からんしなぁ」

「あたりめーのことだが、ワイバンやら竜やらが飛んでるとこは勘弁だな」

「おめーワイバンすら見たことねーだろーが」

「いや、あの時見た影はたしかにワイバンだった! おらー見たんだ!」

「また始まったよ~。せいぜいアークイーグルとでも間違えたんだろーよー」

「話は戻るけどよ、やっぱ木材の確保が簡単な場所がいいわな」

「バカだなぁ~。そんなもんウルっちワープでどっからでも持って来れんだろ」

「おーっとそーだった。んじゃよ、資材調達の苦労は考えなくていいんだよな?」

「そりゃそーだ。何なら交通の便も考えなくていいんじゃねーか?」

「そ~かぁ~。だったらよ、過ごしやすい気候とキレイな水、災害の少なさ、そんなもんでいーんじゃねーか?」

「そーだな、あとはヒロさんとウルっちの気持ち次第ってことだろ~」

「ヒロさーーん、そんなんでいーすか~?」

「気候と水のいいところでお願いしや~~~す♪」


「了解でーす! あとはこっちでテキトーにいい場所見つけますね~~♪」


「「「「「「「おおぉ~~~う」」」」」」」


 ヒロ達の新天地計画協議会は極めてテキトーに幕を閉じたのだった。


 そしてヒロは、長い宴会の、おそらく中盤に差し掛かっているであろう現場からフッと姿を消し、一旦ハナランドに移動する。





『ん~、結局【ウルさんワープ】があるからさ、どこでもいいんだよねぇ』


『ヒロ的にはさぁ、どっか考えてる場所あるの?』


『条件が緩すぎて逆に難しいんだけど、【気候がいい】と言えば、やっぱこの【ゼロモニア大陸】の西海岸……だと思うんだよなー』


『そーなんだ~。確か西の海岸には、ドワーフもエルフもまだ近付いてすらいなかった気がするし、手付かずの未開の地なのは確実ね~』


『よし、悩んでても時間の無駄だな。今から行ってみよう♪』


『ピキュピキュ~! みんなの町なのでピキュ~♪』


『ヒロあなた、ホントに働くわね~。疲労感とか……あぁ、ある訳無いか。ステ値最強だもんね~』


『うん、今日のレベルアップでは【VIT】上げてないんだけどさ、それでもハナと合算で5千以上あるし、【HP】は絶えず自動回復してるし、どーやらもう【楽しみとしての睡眠】すら欲さなくなってきてるんだよ。こりゃ~ついに俺も、異世界転生者としてスタート地点に立てたって感じなのかなぁ~♪』


『ま、まぁ、わたしにはスタートとかゴールとかよく分かんないからねー。これからつくる拠点がヒロにとってのスタートなのかもねぇ……(……あんたもう始祖の王4万体以上とか倒しちゃってるでしょーに。なにがスタートラインよ~)』


『ヒメ、俺、異世界生活始まったばっかだけど、がんばるよ! ウルさんとヒロリエルもよろしくね!』


『ピキュ~! ピキュピキュピキュ~♪』


『チチサマ……(クンス クンス クンスハ~……)』


(あら? ひーたんってば、ここんとこよくヒロの襟足あたりにしがみついてると思ってたけど、ヒロのにおいを嗅ぎまくってたのねー。まさかニオイフェチだったとは。しかもヒロの襟足に目を、もとい鼻をつけるとは……さすが我が娘。グルメなやつめ。わたしだって肉体があればヒロの耳の裏嗅ぎた……いやいや、わたし何妄想してんのよ。こんなのアホ女神丸出しじゃないの~。いや、でも待って、思い切って脇なんて……)


『ヒメ?』


『ん~~でもやっぱ最初は耳の裏から~……え? なに?』


『耳の裏がどーしたのか知らないけどさ、さっそく西海岸目指すよ♪ 行くぞぉ~、ゴールドラァーーーッシュ!』


『ゴ、ゴールドラッシュ~~』

『ピーキュピキュピッキューー!』

(クンス クンス クンス~ クンス~……)

(ZZZ…… パパぁ~まってぇ…… ZZZ……)





 ゼロモニア大陸西海岸地域 某所


『おぉ~~、このあたりはまだ明るいな~♪』


『時差が2時間ほどあるからねぇ。ちょっと戻った気分よね~』


『さて、特派員ウルさんを頼ってワープしてみたはいいけど…… ここ、西海岸のどのあたりなんだろうなぁ。俺も正直、よく分かってないしなぁ。ヒメヒメ~この海岸沿いがかなり住みやすい気候だって気はしてるんだけどさ、なんか土地の名前とか気候データとか分かるツールって持ってない?』


『あるわよ。【未開地なのに名前あり!?遭難者必見★神が渋々名付けた有名地域リスト[ブートレグ版]】ってやつなんだけど、どお?』


『地名リストか…… うん、それでこの海岸にある地域名って絞り込める?』


『絞り込めるしナビとも連携できるよ~。とりあえず北からざーっと出してくね~♪』



【ゼロモニア大陸西海岸地域名】

■バンクバ地域

■シャトル地域

■ポトルランド地域

■シスコンサン地域

■エンジェルス地域

■デイエーゴ地域



『って感じだけど、なんかピンと来る地域ある?』


『バッチリオッケーだぜ! でだな、最後の2つで悩むとこなんだけど…… やっぱ平野部の広大な【エンジェルス地域】で決まりだな♪ ヒメ、エンジェルス地域はどっち?』


『えっとね、ここから海岸線沿いに、320kmくらい南下したところだねー』


『よっしゃ、飛ばすぜっ♪』


 ヒロは【流星4号★要塞★999迷彩】を始動させ、飛ばした。

 そして5分後には【エンジェルス地域】上空500mに到着していた。


『おおぉ~ロサ… エンジェルス地域だぜ~』


『ふぅ~ん。海から続いてる平地が広いのね~。ちょっと砂漠っぽすぎる気もするけど確かに町の整備しやすそう♪』


『ピキュ~♪ ここにみんなの町ができるのでピキュか~。ワクワクピキュ~♪』


『よし、さっそく町のエリアを確定しよう♪』


『ヒロ~、町はやっぱり水堀で囲むの?』


『いや、【黒壁】の経験を生かして【壁】で囲もうと思ってる♪』


『おぉ~城塞都市ね♪』


『城はつくんないから……防壁町って感じかなぁ』


『えぇ~~。なんかダサぁ~い』


『ダサくていーじゃないか、ヒメ。みんなが幸せに暮らせれば……』


『【カックイー原理主義者】のくせによくゆーわよ~』


『へへ~。じゃあ壁作ってくかな~♪』


 ヒロはフレームで直径5kmほどの巨大なドーナツ状の円を生成し、地中に半分ほど沈めると、フレーム内にある土砂などの物質を全てインベントリに収納し、そのまま空になったフレーム内にメガミウムを錬金した。




『よし、できた♪』


『ででででっか! 嘘でしょヒロ~、直径5kmの敷地って。しかも壁の高さも厚さも【黒壁】なんて目じゃないレベルなんですけど~』


『えっとね、壁の高さは地上200m、地下は念のため300m、厚さは50mってトコかな』


『そ、そんなメガミウムの無垢壁が、キレーな円で直径5kmの敷地を…… 囲ってる……』


『今回はパネル工法じゃなく、完全一体構造で作ってみました♪』


『あ、呆れて言葉も無いわ。こんな広大な土地、100万人くらい住めるんじゃないの?』


『いやいや、それは全部を住居エリアにすればの話でしょ? 敷地を広めにとったのは、今後の拡張性、あと自然がたくさん残ってた方が楽しいだろうな~って思ったからなんだよ。あとさ、俺の細かい仕事気付いてくれた? 厚さ50mの壁の最上部、ちょっとした手すりみたいな突起を施してあるだろ?』


『おおぉ、よ~く見ると、壁の屋上に手すりついてるね~。しかも内側にも外側にも~。つまり、この超巨大壁は、一番上を歩ける、てゆーか、幅50mくらいの道路がぐるぅ~~~~っと回って繋がってるってことね~』


『直径5kmくらいだから、壁上コースをジョギングすると、1周15キロくらいだね。マラソン大会とかすると盛り上がりそうだよな~♪』


『この壁の天面だけでもたくさんの人が住めそうだわよ。ヒロってば【自分の町】ってことでテンション上がりすぎてんじゃないの~』


『かもねぇ。だってこの町は【俺やウルさんの能力】を隠さずに発展させてオッケーな町だからさ、自然と気合入っちゃうよ♪』


『確かに変なリミッターかけなくていいもんね~』


『うん♪ じゃあ次の行程に進みま~す♪』


 ヒロは、真円の敷地の中心点に、今度は直径100m、高さ2000mほどの巨大で細長い円柱のフレームを生成し、大地に突き刺すように位置を整えた。

 そしていつものように地中のフレーム内の物質をインベントリ収納すると、空になったフレーム内にメガミウムを錬金した。




『よし、ランドマーク完成♪』


『今度は予定地のど真ん中に【棒】立てちゃったのね~』


『【棒】って言うな、【塔】って言ってくれ。あとタワーとかモニュメントとかオベリスクとか……』


『も~、500m上空に浮いてる【流星4号】から見上げなきゃいけないって、高すぎんでしょー。どんだけあんのよこの【塔】は~』


『高さ地上1000m、地下1000m、直径100mの純粋なメガミウムのカタマリだ♪ しかも、今回は超高層建築物的側面もあるから、万が一にも倒れたりしないように、地下の300~1000m部分には木の根っこみたいな放射線状に伸びる大小あらゆる角度のフレームをガッチリたっぷり生成したから、そんじょそこらの地震やハリケーンじゃビクともしないと思うぞ~♪』


『いやぁ~、改めて眺めると、ますます【巨大棒】って感じよね~。ねぇヒロ、これ、何に使うの?』


『めじるし』


『はぁ~~? 目印のためだけにこんなアホみたいに高い【棒】立てたの~。ってか、まぁ、そうね。本拠地なんだし派手にやっちゃえばいっか、ちょっと……いや、かなーりカックイーし♪』


『だっしょ~? しかもこのモニュ……もう【巨大棒】でいーや♪ この【巨大棒】にはね、さっきの防壁と同じく、屋上外周に手すりが生成済みなのだよ。つまり、上空1000mの高さに、完璧にフラットな直径100mの展望台兼憩いの場があるのだ! これはみんな喜んでくれると思うぜ~♪』


『でもさ、階段も何も無いのに…… あ、そっか。ウルちゃんでもヒロでも簡単に運べるんだったわね。ここに住む予定の住民には能力隠さなくていーんだもんね♪』


『そーそー。防壁屋上も巨大棒屋上もこの町だから楽しめるんだよ。あと勿論だけど、他の誰とも交流する気ないから防壁に入口なんて無いしね~』


『いつのことになるかは分かんないけどさ、初めてこの町に辿り着いた【事情を知らない人】は愕然とするだろーねー。遠くから見えるのは天まで届きそうな漆黒の塔、辿り着いてみれば高さ200mの漆黒の壁が延々と続き、入口はおろかヒビひとつ見つからないまま一周して元の場所に戻っちゃう。何なんだこの未知の巨大建造物は!? みたいな♪』


『ロマンある未来話だねぇ♪ ヒメさいこぉー!』


『!はぅっ………… い、いぇ~~~い♪』


『いぇ~~~い♪ さて、次は、っと』



 ヒロは防壁の内側に【スコープ】を走らせまくり、全ての魔物をインベントリに収納した。



『これでもう【か弱き人間】でも気軽に走り回れるようになったぞ♪』


『でっかい魔物が見当たらなかったせいかさ、パッと見、何も変わってないみたいだね~』


『いや、熊系、狼系、ピューマ系、鹿系、スカンク系、毒蛇系、サソリ系、他にもいろいろいたよ。ただあんまり数は多くなかったかな。まぁ魔物以外の生物は残したし、危険性のない魔木や魔草もそのままにしてあるよ~』


『ふぅ~ん。てゆーか、目まぐるしいスピードで町の準備が進んでくわねー。もう【異世界スーパーゼネコン★ヒロ】みたいなアニメの主人公になれるんじゃない?』


『どんなアニメだよ(笑)』


『【第1話 決戦!第四王子の別邸コンペ★異世界談合師現る!】みたいな♪』


『誰が【談合師】だよ、人聞きの悪い』


『【第2話 死闘!王宮増築コンペ★5人の王妃を懐柔せよ!】とかは?』


『つまんなさそ~~(苦笑)』


『じゃあこんなのはどお? えっとね、』


『いやもうい~よ~(苦笑)』


 ヒメの猛攻を受けつづけたヒロは、その後、気を取り直して主要道路の整備を開始する。

 中心点にそびえ立つ【巨大棒】の周囲に【中央広場】となるような緑の公園スペースを造成し、そこからキッチリ東西南北に直線道路を防壁に至るまで引くことにした。

 【中央広場】から伸びる4本の主要道は全て幅15mと決め、まず、道路予定地を地下1mほど堀りすすめると、その上にインベントリ内で大量生産した【ゼロモニアグラニット】を敷き詰めていった。

 すると手伝いたくてウズウズ……いやもはやウルウルしていたウルが、【神速分裂】【神速変形】【神速変質】を華麗に操り、スーパーヘビー級の転圧軍団を結成した。

 ヒロが穴を掘り石を山盛りに敷き詰め、その後をウルが巨大ロードローラーの化身となり押し固めていく。

 二人の息ピタ率は【黒壁】建設時以上に上昇しており、たちまち美しい石畳道路が完成したのだった。



『おおぉぉ、なんかすんばらしく完成度の高い石畳道路じゃないのよ~。マンバタン島のやつなんか目じゃないクオリティよ♪』


『ピキュピキュ~♪ ヒロさんとウルにかかれば、壁も道路もS7級認定なのでピキュピキュ~!』


『ウルさんおつかれ~! いつもいい仕事、ありがとなっ♪』


『ピッキュ~ン、当たり前の仕事を当たり前にしただけピキュ! 当たり前野の良沢は杉田玄白のマブダチピキュッ♪』


『ヒロ~、建物とかも建てちゃうの? あと区画とか』


『そーだな~。今日はここまでにするよ。ここからはみんなの住む家も関わってくるからさ、要望とか意見を聞きながら進めたほうがいーよね~』


『あとこの町の名前も早く決めてほしいかなぁ。【敷地】とか【予定地】とかのままだと言いづらいのよね~』


『そーだな、明日はまず、町の名前決めから始めよう♪』


『じゃあ今日はそろそろ終了かな?』


『ん~~~。俺はもう寝ないことにしたからさ、【1日の終わり】って感覚が無くなってきてるんだよねー』


『そんなこと言ったら、わたしなんか最初から無いけどね~』


『ピキュ! ウルもハナちんの【仁愛】のおかげで【眠らぬスライミー】なのでピキュ~♪ ずっと何かしてるのでピキュ!』


『あ~そっか、じゃあ改めて1日を区切る必要は無いんだね~。よし、各自自由行動! そんで何かあったら声かけるってことで♪』


『は~~~い♪』

『ウルはヒロさんと【ずっといっしょ行動】ピキュ~♪』





 ヒロは確認作業も含めて【巨大棒】のてっぺんに降り立ってみた。

 地上1000mの展望スペースには少し強い風が吹いていた。


(風はそこそこ吹いてるけど、全く揺れとか無いなぁ。メガミウムってすげぇ)


 眼下に広がる広大な土地と、それを囲む黒い真円の壁。

 その外にはさらに広大な大地が広がり、その先に広がる海。


シュボッ


 (こんな景色は流星4号から何度も見てるけど、自分の町のシンボルのてっぺんからだと、またちょっと違う風景に見えるもんだな~。タバコがうめぇ~わ♪)


 魔タバコ[魔ルボロード]時間を堪能し、一段落つけたヒロは、【ウルワープ】でユーロピア帝国とルーシャ王国の国境に建造した【黒壁】まで飛んだ。

 そしてユーロピア陸軍の進軍していた地点の近くに、インベントリ内で既に製造してあった第二の【巨大棒[同スペック品]】を建造した。


(よし、これでますます【未知の恐ろしい存在】を意識せずにはいられなくなるだろうな。驚いて困惑して畏怖して、せいぜい足踏みしてほしいもんだ……)


 次にヒロは、【流星4号★要塞★999迷彩】を飛ばし、ユーロピア帝国各都市で建設中の【鉄道】を見つけては、片っ端からインベントリに収納していった。

 途中、【ゲルマイセン領】と【フーランツェ領】で鉄道につながる車両倉庫と工場を発見し、中にあった建造中の【魔晶列車】も即回収する。

 ついでに【イングラル領】と【スパルトガル領】と【フーランツェ領】と【ゲルマイセン領】に4つの巨大な港を発見し、そこに隣接された工場と港にあった大中様々な魔晶動力船も回収した。


(……こんだけ最新の軍備を回収しておけば、しばらくは他国への侵攻・侵略は止まるだろ。……さて、諜報活動はこのくらいにしておくか~)


(次は探索だな……)


 ヒロは【ウルワープ】で【インダーラ連邦ミャングラデ領アサム】へと移動した。





 【アサム】からは【流星4号★要塞★999迷彩】で北西に飛行していく。

 荘厳な山々に見惚れながら移動すること500kmほど。

 ヒロは連なる山脈に【スコープ】を飛ばしながら慎重にスピードを落とす。

 そして探索を続けて10分ほどが経過した時……


(お! ……やっぱりあった♪)


 ヒロは新しいダンジョンを発見した。


(【チョレスト・ダンジョン】っていうのか……)


 説明しよう! ヒロの持つ唯一の異世界デフォルト装備【異世界転生者支援プログラム】は、時間経過&ヒロのレベルアップ&アルロライエの極秘介入により、ヒロのイメージや欲求に呼応し、大雑把ではあるが情報取得&スクリーン表示の性能を進化させ続けているのだ!


(さっそく全容把握&回収開始っと♪)


 ヒロの【スコープ】が唸りを上げる。

 【アンタクテ極点ダンジョン】でのレベルアップでスコープ性能が爆上がりしているヒロは、世界最高峰チョレスト山脈地下に広がる大規模なダンジョン網から、めぼしい【魔素クリスタル鉱脈】や【高レベル魔物生息域】を見つけ出し、次々と、そしてサクサクと、回収作業を繰り返していくのだった。


 そして50分後。


 ヒロの【おいしいところだけいただく狩り&回収】は終了した。


(さてと、収穫量はどんなもんかな?)




□【チョレスト・ダンジョン】での採掘結果

■チョレスト魔素クリスタル 280万トン



□【チョモレスト・ダンジョン】での狩猟結果

■[S5]チョレストフレイムサタン    ×10000

■[S5]チョレストイフリート      ×100000

■[S5]チョレストディアボロスナイト  ×1000

■[S5]チョレストムーンライダー    ×1000

■[S5]チョレスト九頭竜        ×100

■[S5]チョレスト黒竜         ×100

■[S5]チョレスト炎魔大王       ×100

■[S5]チョレスト亜殊羅王       ×100

■[S6]チョレストフェニックス     ×100000

■[S6]チョレストディアボロスキング  ×10

■[S6]チョレストサタンロード     ×1000

■[S7]チョレストバハルムント     ×10

■[S7]チョレスト底喰         ×10000

■[S8]チョレスト曼荼羅神門      ×10

■[S8]チョレストサイコキラー     ×100

■[S8]チョレスト圧蟲         ×100

■[S8]チョレストカタストローラー   ×10

■[S8]チョレストカオスサチュレーター ×10





(このダンジョンは【イフリート】と【フェニックス】と【フレイムサタン】の巣だったと言っても過言じゃないな~。特に【イフリート】と【フェニックス】の数は尋常じゃなかったぜ。10万体ずつ狩ってもまだまだ湧いてたもんなー。怖っ。あとついに[S8]クラス登場しちゃったし。いったい[S何]まであるんだよ。どいつもこいつも見た目【勝てっこねーオーラ】出まくってたけど、今回ついに本格乱用開始しちゃった【インベントリ狩り】のおかげで10万単位の狩りも余裕だもんな~。より精密にそして高速に進化してる【インベントリ内自動処理マクロ】もホントーに助かる。パターンさえ確立しちゃえば後の処理は自動だもんな~)


(さて次は…… ドロップ確認か)




□【チョレスト・ダンジョン】でのドロップアイテム

■アルロライエの手作りクッキー               ×10

■アルロライエの手作りシュークリーム            ×10

■アルロライエの手作りプリン[柔]             ×10

■アルロライエの手作りプリン[硬]             ×10

■アルロライエの手作りクレープ               ×10

■アルロライエの手作りスフレチーズケーキ          ×10

■アルロライエの手作りベイクドチーズケーキ         ×10

■アルロライエの手作り苺ショートケーキ           ×10

■アルロライエの手作りチョコレートケーキ          ×10

■アルロライエの手作りパンケーキ              ×10

■アルロライエの手作りチョコレート[ミルク]        ×10

■アルロライエの手作りチョコレート[ホワイト]       ×10

■アルロライエの手作りたいやき               ×10

■アルロライエの手作り温泉饅頭               ×10

■アルロライエの手作り大福                 ×10

■アルロライエの手作りみたらし団子             ×10

■アルロライエの手作りいもきんつば             ×10

■アルロライエの手作り栗きんとん              ×10

■アルロライエの手作りソフトクリーム            ×10

■アルロライエの手作りガリガリさん[ソーダ]        ×10

■アルロライエの手作りガリガリさん[コーラ]        ×10

■アルロライエの手作りガリガリさん[グレープ]       ×10

■アルロライエの手作りハルゲンダルツルアイス[バニラ]   ×10

■アルロライエの手作りハルゲンダルツルアイス[抹茶]    ×10

■アルロライエの手作りハルゲンダルツルアイス[マカダミア] ×10

■アルロライエの手作りポーション[HP回復]        ×10

■アルロライエの手作りポーション[MP回復]        ×10

■アルロライエの手作りポーション[全毒浄化]        ×10

■アルロライエの手作りポーション[全状態異常破棄]     ×10

■アルロライエの手作りポーション[思念抑制]        ×10

■アルロライエの手作りポーション[魅力半減]        ×10

■アルロライエの手作りポーション[媚]           ×10

■アルロライエの手作りポーション[快楽神経伝達物質大増量] ×10




(おっと…… アルロライエの手作りスイーツシリーズか…… と思いきや、最後にポーション類があって、……なんか謎のポーションが紛れ込んでるし。こんなの何に使うんだよ。つーか最後のなんて前世じゃ捕まるヤツだろー確実に。さすが神だなぁ。人間社会の御都合ルールなんてカンケーナシだぜ……)


(で、レベルはどーなったかな?)




名前:ヒロ

種族:人間[ヒト]


pt:35640


Lv:1346[540up]




(……ヤバい。始祖の王4万体の時より多い。……ん? まぁヤバくはないのか。ここは大量レベルアップを喜んどこう♪ 今後のことを考えるとステ値はどれだけ高くても困ることはないしな~)




名前:ヒロ

種族:人間[ヒト]


pt:0/35640


Lv:1346[540up]

HP:3000 + 3675

HP自動回復:1秒10%回復

MP:40000[20000up] + 3796

MP自動回復:1秒10%回復


STR:5000 [2000up] + 3708

VIT:5000 [2000up] + 4375

AGI:10000[3000up] + 4719

INT:10000[3000up] + 4548

DEX:10000[3000up] + 4237

LUK:1257 [150up]  + 4249


魔法:【温度変化】【湿度変化】【光量変化】【硬度変化】【質量変化】【治癒力変化】【錬金】【トレース】【物質変化】


スキル:【ショートカット】【インベントリ(ヒメのなんだからね!)】【スコープ】【必要経験値固定】【迷彩】【メモ】【アイテムドロップ[アルロライエのセンスで]】【召喚】【スキルバフ】【ステータスバフ[NEW!]】




(よし、ハナとの合算で【MP】が43796まで上がった。【AGI・INT・DEX】も上げたし、これで錬金するにも何するにもクオリティ上昇間違いなしだな♪)


(あ、そーいや新スキルの確認するの忘れてた。どー見てもバフ系だからいざという時使えるヤツだといいけど…… いやいや、俺、【召喚】も確認してなかったわ。新スキルゲットしておいてこんだけ未確認放置してんのも俺くらいのもんかもな~)




■召喚

スキル保持者が過去に殺した魔物を召喚できる。

召喚には継続的な【MP】の消費が必要となる。※毎秒一定値

召喚する魔物によって【継続消費MP量】や【知能】が異なる。※種族依存固定値

召喚できる魔物の【数】【ステータス】についてはスキル保持者のレベルとステ値と人となりに依存する。

召喚した魔物に【自我】や【成長】や【死の概念】は無い。




(おぉ、これ意外と使えるかもな。“俺にはウルさんがいるから召喚獣なんて必要ないやい!”的な気持ちがよぎって今まで興味無しだったけど、場合によっては有りかもだなー。いつか試してみよぉ~っと♪)




■スキルバフ

使用者が持つスキルのうち、どれかひとつの効果を一定時間強化できる。

発動するには使用者の【全MP】を使用する。

【強化時間】と【強化量】は使用者のMP量とレベルとステ値と人となりに依存する。


■ステータスバフ

使用者が持つステータスのうち、どれかひとつの効果を一定時間強化できる。

発動するには使用者の【全MP】を使用する。

【強化時間】と【強化量】は使用者のMP量とレベルとステ値と人となりに依存する。




(おおおぉぉ、この2つはマジ使えるわ♪ 双子スキルみたいな仕様だな。どっちも【全MP】使い切っちゃうタイプだから、普通の冒険者なら【片方使うと半日くらいはもうどっちも使えない状態】になる仕組みなんだろうけれども、俺には【MP1秒10%回復】があるからして、10秒後には満タンのMP砲が再度撃てる。そんでまた10秒後に撃てる。こ、こ、これは凄い! まるで俺の特性を完全に熟知した神様がスーパーエコ贔屓して授けてくれたみたいなスキルじゃないか! いつか使おう~っと♪)


(あとは……)




名前:ハナ

種族:神獣イデア[幼獣]


Lv:1596[627up]

HP:3675

MP:3796


STR:3708

VIT:4375

AGI:4719

INT:4548

DEX:4237

LUK:4249


固有スキル:【忠誠】【仁愛】【智伝】【義憤】【礼拝[NEW!]】




(ハナはレベルアップするたびにステ値がなだらかになっていくなぁ。癖のない良い子に育ってるねぇ♪ パパ嬉しいよ~♡ おっと、ハナも新スキルゲットしてる。どれどれ~)




■礼拝[らいはい]

神獣イデアにのみ発現するスキル。

イデアの神獣覚醒により神の加護を得る。

使用するイデアが全身全霊で神力を求めた時、神が援軍として加勢する。




(なんだか神話のひとコマみてーな物々しさだな。神獣覚醒とか言われて…… あ! ハナの種族が【イデア】から【神獣イデア】になってる! ……でも【幼獣】は【幼獣】のままなんだ。なんとなくだけど嬉しっ♪ つーかこのスキル、当面使うことないだろ。ハナはほぼ1日中俺の中でねんねしてるんだし。まぁ、これもまた、いつか使う時が来るかもね案件だな。おめでと、ハナ♡)


(で、ウルさんは……)




名前:ウル

種族:孤高のメガミウムスライミー


Lv:1758[753up]

HP:10748

HP自動回復:1秒10%回復

MP:6374


STR:3904

VIT:5493

AGI:8342

INT:3877

DEX:5952

LUK:2106


固有スキル:【神速移動】【神速変形】【神速変質】【神速変色】【神速浮遊】【神速分裂】【神速合体】【神速通信】【神速転移】


固有技:神速刺突 神速斬撃 神速防御 メガミウムメイデン 爆散刺突 竜巻微塵 神速吸収




(いやぁ~、俺と違ってポイント振り無しのナチュラルボーン成長だけでHP1万、AGI8千オーバー行きますかぁ。さすがレベル上げマニア♪ ハナから貰った【HP自動回復】も有るし、こりゃ絶対死なないアルテマ忍者だわ。何の心配もない。うん、ウルさん最早イキモノのファイナルデスティネーション彷徨ってる感あるよねー)


 ヒロは自らのステ値を棚に上げ、【流星4号★要塞★999迷彩】の中で【魔ショットホープ】を何本か燻らせながら【チョモレスト・ダンジョン】での成果を確認するのだった。





 その後、ガンズシティ付近に展開したハナランドの中。

 ヒロは次なる作業に取り掛かっていた。

 

(さてと、ここからは新素材の開発だ。メガミウムを凌駕する、もっと凄い、もっとエクセレントな、もっとギルガメッシュな、もっと曼珠沙華な、もっと惑星直列な、もっとアーサー王と108人の円卓騎士的な、そんな無秩序で混沌としたハチャメチャな物質を俺は作ってみせるぞ!)


 ヒロはインベントリ内に作業用亜空間をひとつ作り、巨大なサイズのフレームを生成する。

 次にそのフレーム内に【メガミウム】【冥界物質ハデスニウム】【混沌物質ミラニウム】【煉獄物質カイミウム】【滅神物質ヌガヌニウム】【究極パテ★無垢トナール】をドシャドシャと生み出し、最後に、どういう経路で手に入れたのかはヒロ以外誰も知らない【アルロライエの聖水】をこっそりとふりかけ、混ぜ合わせ、シェイクし、撹拌したのち、徐々にフレームのサイズを小さくしていく。

 その後は、加熱、冷却、破壊、加圧などをステ値が実現できる限界まで繰り返し、爆発、発光、振動などの状態変化を幾度も経て、その都度己が魔力を込めに込め、アルロライエへの願掛けを被せに被せ、全てのやるべきことをやり尽くした感が胸いっぱい夢いっぱいに広がった時……


 そこには、やたら座りのいい落ち着き払った物質が鎮座していた。


 そしてヒロは、最後の仕上げとばかりに、その物質に向けて【とにかく凄い物質になってほしいだけなんだぜベイベー】というタイトルのオリジナルバラードソングをたっぷり20分間聴かせ、追熟させるのだった。




(ふぅぅぅ~~~、やりきったぁ~~~)


 全てを絞り尽くして新物質を創り上げたヒロは、満足げに魔タバコ[魔ショットホープ]に火を付ける。


シュボッ……


スゥゥゥゥゥゥーーーーー~~~





フゥゥゥゥゥゥーーーーー~~~


(ん~~、やっぱ集中作業あとのタバコは死ぬほどうめぇなぁ~~)


 ヒロは満足げにハナランドの空に小さな雲を生み続けるのだった。





(できちゃったよ新物質♪ ちょっと試しにチェックしてみるかな~)


 目前で存在感をほとばしらせる漆黒のカタマリをじっと見る。

 するとスクリーンに情報が表示された。




■ヒロニウム

無限の可能性と極限の完成度と矛盾する数多の到達点とニヒルな遊び心と恋する乙女のフルパワーが超神力と超濃度の魔力により融合して生まれた、もーなんて言っていーのか分からないレベルの物質。色は漆黒。物質のランクは測定不能。




(……………………なんだこりゃ)


 ヒロは再度、魔ショットホープに火を付け、しばらく現実逃避に勤しんだ。

 そしてやおら、意を決して、この新物質【ヒロニウム】を【トレース】してみる。


トレース


(ぬおっ! 43796もある俺のMPが一発で吹っ飛んだ! ……さらに毎秒4千以上のMP消費が延々と続きやがる! 出た出た、いったいどんだけMP消費すんだよ状態~。こりゃ~いつまでかかるか分かんねーぞ~……)


 そして27分後


トレース完了


(おぉぉぉ、やっと終わったぜ。……なんか思ってたより時間かかったな。俺の【AGI・INT・DEXトリオ】がめっちゃ上がってるからもっと早く済むと思ってたんだけど…… まぁいいや、とりあえず実験してみよっ)


 ヒロは5mほど先の【柴芝】の上に、インベントリにストックしてあった【ドラム缶サイズのメガミウム塊】をドスリと置いた。

 そして【フレームセイバー★ヒロニウム★1µm1m】を生成する。


(うん、材質が変わっただけだから簡単に出来た♪ あとは…… メガミウムの塊にフレームセイバーが弾かれたり止められたりしたら失敗。フレームセイバーがメガミウムを切断……とまでは言わないにしてもめり込んだり傷ものにできたりしたら、とりあえず成功だな)


(ゴクリ……)


 ヒロはおもむろに【フレームセイバー★ヒロニウム★1µm1m】をメガミウム塊に向けて飛ばしてみる。

 すると


カッ


 短い音とともに、ヒロの放った【フレームセイバー】がメガミウムの塊を通過したように見えた。

 そして


ズズ…… ゴトンッ


 つい先刻まで、この世界で最も強く硬く靭やかであった筈のメガミウムが、なんの抵抗もなく、スパッと切断されたのだった。


(う、うわっ。うわうわっ。うわぁ~~~)


 メガミウムの塊に駆け寄り、まるで研磨したかのようにツルテカな切断面を凝視し、ヒロは狼狽えながらも興奮していた。


(やったぞ! やったか? やったんだよね!? メガミウムを超える新物質、開発成功ってことでいーんだよね?)


 半信半疑のヒロは、さらに様々な実験を繰り返し、10分ほどかけて【ヒロニウム最強説】をじんわりと確信する。


(やった…… 説明があまりにもふざけてたんで疑念がなかなか晴れなかったけど、こりゃ間違いなく大成功だ。【ヒロニウム】は【メガミウム】を遥かに上回る最強物質だぜ……。おぉそうだ、さっそく友に報告しないと♪)


『ウルさ~ん、』


『ピキュ! ヒロさん、その笑顔は実験成功ピキュ? おめでとうなのでピキュ~♪』


『そーなんだよ。最強物質、完成しちゃいました!』


『ピキュピキュピキュ~♪ さっすがヒロさんなのでピキュ~♪』


『そこでなんだけどさ、』


『ピ……ピキュ?』


『ウルさん、ちょっと食べてみたりする?』


『ピッ……ピキュピキュ~! ウル、食べてみるのでピキュッキュ!』


 ヒロはウルによるグルメレポートを前にワクワクドキドキしながら、既にインベントリ内でマクロ量産錬金中の【ヒロニウム※一斗缶サイズ】をそっと足元に置いた。

 ウルは緊張の面持ちで静かに近付くと、ツンツンしたりペタペタしたりしつつ、そっとペロペロする。そしてブルルルルッと全身を震わせ、クワワワッと睨みを効かせたかと思うと、迷うこと無くトゥルンッとヒロニウムを丸呑みにした。




『ピピピピピッッキュゥゥゥゥウウウウーーーーーーー!!!!!』




『ウ、ウルさん!?』


 ヒロが慌てふためく中、ウルは絶叫しながら残像とともに目まぐるしく変形を繰り返し、時には転がり回り、時には遙か上空へと飛び上がり、もんどり打って、だんじり持って、とんぶり食って、はんなりぶって、にんじゃりばって、どんぺりにょって、たんこぼきばって、なんばしちょって、それはそれは大変なことになっている。


『ピキュピピキュピキュピッッキュピィィィィイイイイーーーーーーー!!!!!』


『ウルさん! 戻ってきて! ウルさぁぁぁぁああああーーーーーーん!!!』





 3分後


『ピィィキューー!! ヒ……ヒロさ……ピピピキュピーー!』


 ウルはわずかに正気を取り戻していた。


『ウルさん、どーしちゃったんだよ!? 俺のこと分かる? 少しは喋れる?』


『ピキュピィィ…… ヒ、ヒロさん……』


『ウルさん! 何か欲しい物ない? 水? おかゆ? すりおろしたリンゴ? はったい粉練ったやつ?』


『ピキュッキュゥゥゥ~、そ、それがピキュ…… 言いづらいのでピキュが……』


『え!? どっか痛いの? おなか痛い? 何でも言ってよ!』


『も、申し訳……ないのでキュピキュッ!!……が、【ヒロニウム】を…… もっと、もっともっと、ほしい……のでピキュゥゥゥゥゥゥ……』


『んへ?』


『あ……厚かましいのは分かってるのでピキュ~。世界に生み落ちたばかりの新物質ピキュから、希少なんてもんじゃないくらいの神レア物質なのは理解してるのでピキュ~。ただ、もう、あの、芳醇で、瑞々しく、濃厚で、香ばしく、爽やかで、悪魔的、それでいて、地獄突き、そう、あの【ヒロニウム】のことを思い出すだけで、口の中は唾液でダックダク。全身は痙攣でビックビク。瞳孔の開きはパッカパカ。禁断の症状はバッキバキ。挙げ句の果てには頭の中で回転木馬が高速スピンでシェケナするのでベイベーピキュキュキュ~~! ウルは、もぉ~ウルという名のジャンキー堕天使は、アレ無しでは生きていけないのでピッキュピキュピキュゥゥゥ~~~♡♡♡♡♡♡』


『…………なんかマズいな、これ』


 ヒロは多少の逡巡を覚えつつも、ウルの状態が一刻を争う深刻なものである可能性も捨てきれず、結局、インベントリ内で大量生産中の【一斗缶ヒロニウム】を次々と並べていった。





 5分後


『ほい、』


『ピキュ、』


『ほい、』


『ピキュ、』


『ほい、』


『ピキュ、』


『ほい、』


『ピキュ、』


 【ハナランド】に、置いては食べ、置いては食べ、のリズミカルな掛け声だけが響きわたる。

 最初は一斗缶サイズだったヒロニウムも、ウルのあまりの欲求に捨て鉢気味になったヒロのブースト発動によってどんどんサイズアップし、途中からは生産ライン限界の【海上コンテナサイズ】にまで拡大していた。

 それでも怯まず、いやむしろ歓喜するかのように丸呑みごっくんを続けるウルと、ステ値フル稼働で巨大ヒロニウムを生産供給し続けるヒロの【わんこそば的グルーヴ】を超えた【阿吽のビートバトル】は、結局1時間近くも続くのだった。





『ゲフピキュ~~。ヒロさん、ごちそうさまでした、なのでピキュ~~』


 トロンとした瞳でウルが満足気につぶやく。


『ウ、ウルさん、俺、こんなにステ値的限界に挑戦し続けたの、はじめてかもしんない……。あ、どういたしまして~』


 ヒロはヒロで虚ろな目をしていた。


『ヒロさん…… ウルは分かったのでピキュ~』


『ん~~ 何が?』


『ウルがあんなコトになってしまったのは、別にヒロニウムに何かの葉っぱや種子や樹液やキノコや化学物質が入っていたからでは……なかったのでピキュ~』


『知ってるっつーの、入れてねーし』


『……ウルがあんなコトになってしまったのは、ズバリ、ウルが変質を望んでしまったからなのでピキュ~』


『変質を望んだ?』


『ピキュ~。ウルはご存知のとーり最初は【ウルツァイコンプ】のボディだったのでピキュ。でもヒロさんと出会って【メガミウム】の素晴らしさを知ってしまい、肉体そのものを【メガミウム】へと変質させてしまったのでピキュ~』


『あ~そーだったよねぇ。ん? ……てことは今回も?』


『ビンゴでズキューンなのでピキュ~。ウルは【ヒロニウム】の底と奥行きと天井の知れない無限のエコーっちゅーか、無尽蔵のレイヤーっちゅーか、渺渺たる万古不易っぷりに恐れ慄くと同時に、それを遥かに凌駕する昂ぶりと熱狂と渇望を禁じ得なかったのでピキュピキュ~』


『ん~~、つまり欲しがっちゃったってこと?』


『超高速スライダーど真ん中ストライクなのでピキュ~。そこでウルは【メガミウム】の時とおんなじ感覚で【ヒロニウム】を我が肉体として取り込もうとしたのでピキュが、ここでウルは大事なことを失念していたのでピキュ~。そうピキュ、現在のウルは、も~自分でも数え切れないくらいに分裂体を世界中に増殖させてしまっており、今ここに居るウルがヒロニウムボディへの変質を試みても、全体に変質が行き届かず、其々の各分体との間で都度都度【ヒロニウム】への有頂天外で五里霧中で無我夢中な感覚が錯綜し、結果、【公としてのウル】が安定した我を保てなくなってしまったのでピキュ~』


『なるほど、制御できなくなっちゃったんだな~』


『ピキュッ。全ウルが淀みなく安定するために、ぶちでぇ~りゃ~大量の【ヒロニウム】をヒロさんに創らせてしまって申し訳なかったのでピキュピキュ~』


『ん? てーことは、ウルさん、キミはもう……』


『ピキュなのでピキュ! ウルのステータスを見てほしいのでピキュ~♪』




名前:ウル

種族:無限のヒロニウムスライミー


Lv:1758

HP:13436

HP自動回復:1秒10%回復

MP:7718


STR:4800

VIT:6837

AGI:10134

INT:4773

DEX:7296

LUK:2554


固有スキル:【神速移動】【神速変形】【神速変質】【神速変色】【神速飛行】【神速分裂】【神速合体】【神速通信】【神速転移】


固有技:神速刺突 神速斬撃 神速防御 ヒロニウムメイデン 爆散刺突 竜巻微塵 神速吸収




『ぬおおぉぉ~、ウルさん、【無限のヒロニウムスライミー】って種族になってる! そんでステ値が上がってるぅ~! すごいじゃないか♪』


『ピッキュピキュ~♪ ヒロさん、も~大丈夫なのでピキュ! これからもヒロさんの弟子で息子で友でファンで下僕でパラサイトで不束者なこのウルを、ずっとずっとよろしくお願いしちゃうのでピキュ~!』


『もちろんだぜウルさん! 今までもこれからもずっと一緒だよ! よろしくベイベーだぜぇぇえええ!』


『ピキュピキュピキュ~~!』


 ヒロとウルはしばらくの間、抱き叫び合いながら、ザーザーと涙を流すのだった。





『さて、ウルさんもしっかり進化を遂げたことだし、ヒロリエル~?』


 するとヒロの襟足あたりにしがみついてスーハーしつづけていたヒロリエルが、ビクッと顔を上げ、反応する。


『は、はいなのです! チチサマお呼びなのです?』


『うん、ハナが起きてくるまで多分まだ時間があるからさ、稽古つけてくれないか?』


 ヒロリエルの表情が途端に華やぐ。


『もちろんなのです! ひーたんのお楽しみタイムがやってきたのれす~♪』


 大喜びでヒロの周りをパタパタヒュンヒュン飛び回る妖精型ヒロリエル。

 その後、少女型に変身すると、スッと【柴芝】の大地に立ち、【神聖剣エクスカリビュランサー】を横薙ぎに構える。


『では、早々に始めるなのです! いざ尋常になのです!』


『はいよ、いざ尋常におねがいします!』


 ヒロリエル師範による【かわいがり】が始まった。





 1時間後


『ヒロリエル~、今回もありがとな~。俺めっちゃレベル上がったからさ、もう互角に渡り合えるかもって思ってたんだけど…… 全然まだまだ敵わないって事がよぉ~く分かったよ~♪』


『…………』


『ヒロリエル?』


『あ…… そ、そうなのです! チチサマはたくさんレベルアップしましたですが、ひーたんもチチサマの稼いだ大量の【魔ポイント】で前よりずっと高スペックになってるのです! こと剣技において、簡単にはひーたんを超えさせはしないのです!』


『超えるも何も、俺の1勝5敗ペースくらいじゃなかったっけ? ヒロリエルも日々精進してるみたいだし、超えられたりしないって♪ ずっと俺のお師匠ちゃんだよ♡』


『はふぅ~♡ ひーたん、師としてがんばるのれす~。ただ、チチサマの成長が速すぎるなのですゆえ、ちょっと焦るのれす~』


『いやいや、ヒロリエルの【予備動作ゼロ&加速時間ゼロの斬撃】は、どこに持ってっても通用する最強のもんだよ♪ ちなみに【エンジェルコロッセウム】で負けたこととかあんの?』


『負けたことは一度も無いのです。ひーたんはチチサマとの稽古で、生まれて初めて【斬られる】や【避けられる】を知ったのです』


『おぉ、そーだったの? だったら俺も、近接戦闘で小指の爪の先ほどの才能くらいはあるのかも知れないよな♪ 苦手分野だと思い込んでたんだけど、ヒロリエルとの稽古はとっても楽しいし、これからも精進するよ♪ また相手してね、ヒロリエル♪』


『はうんなのれす♪ ひーたんはチチサマとの稽古を随時受付中なのです! いつでもチチサマにくっついてるので声をかけてね♡なのれすぅ~』


『お~う♪』


 ヒロは少女型ヒロリエルの頭をやさしく撫でると、直前に起き出してきたハナを追いかけ走りだした。

 ヒロリエルもすぐに黒柴型に変身し、二人のあとを追いかける。


(チチサマすごすぎるのです。近接戦闘で小指の爪の先ほどの才能だなんて……謙遜が過ぎ過ぎなのです。その例えが【アルティメットエンシェントアポカリプスドラゴンの小指の爪の先】だったとしても、足りないなのです。チチサマ……はやくクンスハーしたいのれす♡)


 気付けばヒロリエルの脳内には、大好きなヒロのにおいの事しか浮かんでいなかった。




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