二人の女神




 世界行脚の最中、某日。


 ヒロは【ハナとのじゃれはしゃぎ運動会】のため帰還したハナランドで、ひとしきり盛り上がった後一服していたところ、ヒメアルコンビにグループ念話で声をかけられていた。


『な、なんだよ【話】って。改まりやがって……。恐ぇな。つーか嫌な予感しかしねぇ』


『ヒロ、あのね、ちょっと真剣に聞いてほしいんだけど……』


《……で、ですですぅ~》


 二柱はいつになく落ち着いた様相だった。

 ヒロはその違和感に言い様のない恐怖を感じ、様々な可能性を巡らせる。


『……あ! あの饅頭か? 和能呉呂島のカガで俺がこっそりニャンニャン饅頭食ってたのが気に入らなかったのか!?』


『違うわよ』


『……じゃ、ノトの方か! ミッソミソ饅頭の方か!? あ! それともエチゼンのサカサカ饅頭5種食べ比べか!?』


『饅頭じゃない。それと和能呉呂島ともカンケーない』


 ヒロは熟考する。


『…………あ! ヒロシティの識字率上げるために配った【テラース語の教科書】の隅にデフォルトで【ウルさん冒険譚】のパラパラ漫画仕込んだのが気に入らなかったのか!? でもアレ、大好評だったし、シリーズ化も決定して第三期まで量産済みなんだぞ!?』


『まったく違うわよ』


『…………あ! んじゃアレか!? 新しい【恥辱の丘】をヒロニウム製の円形ステージにして観客席まで造ったの、やりすぎだったか!?』


『……違う』


『…………じゃあ、ふざけてユーロピア帝国各地に【巨大棒[ヒロシティ同サイズ]】百本くらい建てまくったことか?』


『……違う』


『……その【巨大棒】を一旦全撤去した結果【巨大落とし穴[直径百m深さ千m]】が百個くらい出来ちゃったこと? 巨大穴の側面のあちこちから地下水が滝みたいにザーザー吹き出しまくってたの壮観だったよな!? あ、でも“死人が出そうだ”って事ですぐ埋めたんじゃなかったっけ?』


『……二日も後にね~。てかそれも違う』


『…………まさか、寝てるゴズさんの敷布団に寝小便ドッキリ仕掛けた件じゃねーよな? アレはおまえらもキャッキャ言って盛り上がってただろ!?』


『そんなしょーもないことじゃないっての~。んなこと忘れてたわよ~』


『……わかった! “一回くらいちゃんと【召喚】使ってみようぜ♪”って、ノリでユーロピアとアンゼスの大都市上空に【宇宙龍ゴッドバハルムント】と【宇宙龍フェニックスドラゴン】をタンデム飛行させまくった件だろ!? アレは確かにやりすぎだったかも……だな♪』


『……確かに大騒ぎになってたけど、その件じゃないわ』


『…………じゃあ……もうアレしか無いな。観念するよ。アレだろ? 俺が【自分の実力を知りたい】ってだけで、こっそり【300光年くらい遠くの金属型惑星】をフレーム魔法で真っ二つにしちゃった件だろ? 黙っててスマンかった。ついでにインベントリ収納も試しちゃったからさ、ヒメのインベントリ、ミシミシ言っちゃったかもだな~。ほんとごめん!』


『……あんたそんなことやってたの~? その星ってどれくらいの大きさだったのよ?』


『テ、テラースの…… 5倍…… くらい?』


『デカっ! そんでそれをインベントリ収納しちゃったの?』


『た、【試しに】って感じでだけどな~。でも、特に問題なく収納できたぞ!?』


『え? じゃあ今も私のインベントリにはテラースよりずっと大きい惑星が収納されてるってこと!?』


『…………まぁな♪ ……亜空間ってスゲえよな♪』


『……まったくも~あんたって奴は~~。でもそんな話じゃないわよ』


『んなっ!? 違うのかよ! カミングアウト損じゃねーかよ! ざけんなっ!』


『“ざけんな!”はこっちのセリフよ! あんたってば思ってたよりけっこー暗躍するタイプみたいねっ! まさかアイリスちゃんの入浴シーンとか観測してたりしないでしょーね!?』


『…………そんなこと、…………してねぇし』


『あぁ! これは【してるやつ】よね!? ヒロあんた! 【アヴィみつ症】の癖に生意気な~~。今すぐその場で正座しなさい!!』


 ヒロは複雑な表情を浮かべながらハナランドの柴芝にゆっくりと正座した。


《…………あの、ヒメさん、そろそろ本題に……》


『アルロライエちゃんは黙っ…… あれ? 何の話だっけ?』


《いえその…… ヒロ様に折り入ってお話がある……という、ほら、例の件ですぅ~》


『あ…… そうだったわ。ヒロがあまりにもくだらない告白繰り返すから調子に乗って次々聞いてたんだった。ヒロ~、そもそも今回の【話】ってのは、あんたの行いをどーこー言うって事じゃなくて、私達からの提案と相談だからさ、どんなにカミングアウトしても全然意味無いわよ~』


《ですですぅ~》


『マジかよっ! ざけんなよっ! いろいろゲロっちまったじゃねーかっ! 別件逮捕だ! 冤罪だ! 世界一のスゲー弁護士を呼んでくれ! それまで俺はひと言も喋らんぞ!』


『はいは~い。もう散々喋ったでしょ~? でね、私達からの【話】なんだけどさ……』


『……お、おう』


 ヒメは改めて喋りだした。


『実はね、私とアルロライエちゃん、実体化してみようかと思ってるんだけど……』


『じ、実体化!?』


『そう。実体化』


『……でも、ヒメは千年先まで意識体なんじゃなかったっけ? 神々の戦争で負けた代償に人間ボディにホームステイしながら千年過ごして…… そんで試験かなんか受けて…… そんで合格すると【神ボディ】に戻して貰える…… みたいな?』


『ま~、ざっくりそんなトコよ。ただ、アルロライエちゃんの【身内化】と【ハイパフォーマンス化】によってね、そんな【神ルール】が大した意味を持たなくなってきたのよ~。ね、アルロライエちゃん?』


《ですですぅ~。そもそも【神戦争の敗者ルール】は【勝者が神サーバーの独占使用権を得る】ことによって有無を言わさず行使できた【特権】なのですが、アルが自宅の個神サーバーをやたらハイスペックに進化させたこととアル自身が成長したことによってですね、ヒメさんひとりくらいなら【神サーバーに近い事】も出来るようになってしまったんですよ~。もちろん本家神サーバーのように数千万柱の負け神の原子やシナンプルス情報まで完璧に保存できるほどのスペックではありませんが、数柱の神ボディの製造維持管理程度ならアルの個神環境と能力だけで、……できちゃうんですぅ~♪》


『……できちゃうんですぅ……なんだ……』


《ですぅ~♪ なのでですね、アルとヒメさん、二柱くらいなら、もうヒロ様のお側を一緒にお供できちゃうんですよぉ~♡ はぁ~~♡ ついにこの日がやって来やがりました~♪ ヒロ様、ウキウキとワクワクが止まらなくなくなくないですかぁ~?》


『…………つーかさ、ようはキミ達ふたりが【エロンクルス】にリンクして登場するってことなんじゃねーの?』


『ち、違うもん! エロンクルスは最新高性能とは言え元々エロ特化型の試作機だもん! 今回のプロジェクトで私が搭乗する機体は【マジもんでガチもんのヒメボディ】なんだよ!? 悠久の時を経てついに現世に降臨する【リアル★アメノミコトヒメ】なんだよ!?』


『……“搭乗する機体”って……。なんか【心と体の不一致感】が迸ってねーか? あとさ、【本当のヒメの体】は今も神サーバーに保存されてんだろ? プロテクトとかかけられて。だったらやっぱ、【本物に似せた神ンクルス】でしかないんじゃないの? ……あ、まぁ別にそれでもい~のか~』


《ヒロ様そこはご安心を! この【神界最高峰の鬼ハッカー★アルロライエ】にかかれば、専用アル回線の神サーバーとの開通&偽装&隠蔽&侵入&ヒメさん全データの違法ダウンロード&ヒメさん全データの神サーバーからの違法消去&ログの改ざん&リアルタイム乱用、程度の事など、朝飯前ケンの腕振り体操でありスライダーでもあるんですよぉ~♪ そしてとーぜん、アルの持ち得る最新最高の技術とアイデアをてんこ盛りにした鬼アップデートも実装済みなんですよぉ~。そしてモチのロンリーチャップマンの剛速球、アルのボディもヒメさん同様の手間暇をかけてぇ~ので待機中なんですぅ~♡ あ、と、は、インストールするだけ♡状態なんですですぅ~♡》


『…………なるほど。もう踏み止まる気なんてサラサラ無ぇよーな状況……ってこと、……なのか?』


《ですですぅ~♡》


『いや、そーでもないわよ~。もしヒロが“今まで通りの【意識体的存在な私達】がいい”って言うんなら、用意した肉体はインベントリの肥やしとして封印しておいても構わないんだしさ、そのあたりの判断はヒロに任せようかな~って思って。だからこんな【改まって相談】みたいな事になった訳よ~』


『俺はどっちでもい~ぞ♪ 二人がしたいようにすりゃい~んじゃね~か? どの道を選んだとしても俺達のつながりは変わんねーだろうしな♪』


『……うっ。なんかそんな風に言われちゃうと…… 【意識体】で居続けた方が【精神的なつながり】の強度が保たれるような気も……』


《ですぅ~。あと、【肉体を持たぬが故のフェティシズム】的なものへのリビドーも、ヒロ様は大量保有されているのではないかと思えてきました……》


『お、アルちゃん、【肉体を 持たぬが故の フェティシズム】って、なんか川柳みたいだね♪』


《やんすやんすぅ~♪ アルも言いながら思ってたのでやんすぅ~♪》


『ふたりとも逸れないの~。……ヒロ、私決めたわ! 私、アメノミコトヒメは…………』


『……アメノミコトヒメは?』


『…………ヒロの脳内に定住しながら、新ヒメボディとリンクするカタチで実体化する!』


『……まぁ、よーするに、エロンクルスの時に言ってた状態でってことなんだろ?』


『…………ざっくり言えばそーゆー感じね』


『わかったよ。ヒメ、実体化おめでと~♪ 999年以上短縮できて良かったな♪』


『…………あ、……ありがと』


『これでヒメの長年の夢だった【指相撲】が出来るな♪ あと【組体操のサボテン】とかも。良かったな♪』


『べ…… 別に指相撲とサボテンだけがやりたかった訳じゃ…… ないし……』


『はいはい。でもそのうちやろーぜ♪』


『…………うん♡』


『……あ、そんでアルちゃんはどーすんだ?』


《アルは【新ボディ】に換装してから、身も心もヒロ様のお側で共に歩ませて頂きますですぅ~♡》


『ん~~、それって、神の世界からアルちゃんが居なくなるってことなのか?』


《ですぅ~♪ ただ、職務放棄や失踪は今後のリスクを大きくするだけですので、神界の自宅と職場には私の神ンクルス、つまりアルンクルスを駐在させ、滞りなく【神業務】を遂行させておきます~♪ 私はヒロ様のお側に居ながらにして、何食わぬ顔のアルンクルス達が神界での日常を淡々と程良く継続していく……という感じですぅ~♪》


『……なんか、実体とアルンクルスの差がなんなのか良く分からなくなってくる話だね……。てかさ、そんなに遠隔操作しまくってたらさ、アルちゃん自身に負荷とかかかんないの?』


《心配御無用です♪ アルのオリジナルAI技術は既に【神サーバーとの隠密通信】という矛を得て、より強力に進化してしまっていますから、【神界の一事務作業員】程度の存在を捏造し続けることなどお茶の子さいさいサイリウム盆踊りフィーバーでやんすぅ~♪》


『……そっか。ならいいんだけど……。なんか、技術革新がエラいことになってんだな~。ドワーフラボの連中が聞いたら自分探しの旅に出て二度と帰って来そうにない話だね~』


《戦闘分野だけでなく、研究分野にも上には上が居る、居やがる、居やがりまくるってだけのことでやんすぅ~♪ アルも何者かに足元を掬われないよう、これからの日々も精進を欠かさない所存なのでやんすぅ~♪》


『オッケー♪ 大体分かったよ~。で、いつ実体化すんの?』


『ヒロ、タバコ消して。あとスコープは使わないようにね』


『お、おう』


 ヒロは咥えていた魔タバコ[魔ショットホープ]をインベントリ内の【すいがらフォルダ】へと収納した。


『ヒロ、そのまま立ち上がって』


 ヒロは言われるままに【一人掛けソファ】から立ち上がる。


『ソファ片付けて、そのまま振り返ってみて』


 ソファを収納し、振り返るヒロ。


 そこには、黒髪ストレートロン毛で前髪パッツン気味、黒目の大和撫子が恥ずかしそうに立っていた。


『…………ど、どお? こ、これが私のオリジナルな外見なんだけど…………』


『……ど、“どお?”って言われても…… なんか変な気分だな。思ってたのとは少し違うけど、でも、すげー可愛い系っつーか、可憐系っつーか、清楚系っつーか、と、とにかく驚いたよ~。いきなり登場するしさ~』


 ヒメは照れに照れ、デレにデレた。


『ところでヒロさ、“思ってたのと少し違う”って、どんな風に?』


『いやさ、俺、てっきりヒメは【十歳以上年上】だと思ってたんだけどさ、まさかこんなに若い姿だったとは……』


『べ、べつにヒロに気に入られたくてこの姿になったんじゃないんだからねっ! 大昔にブイブイ言わしてた頃のままなんだから! き、気に入らない点があったら修正してあげてもいいけど、これが私の本来の姿なんだから!』


『いやいや、修正なんかしなくていいよ~。つーか別に、例えばもっと太ってて目が細くて巨大な牙が出ててスキンヘッドで筋肉ダルマだったとしても、俺とヒメの関係性に支障を来すことは無いだろ? 俺達はずっと一緒にやってきたし、これからも一心同体なんだからさ♪』


『んくっっ! …………ヒロあんた…… 不意に強力なヤツかましてくれるわね。危うく【いけない系のボーダーライン】超えちゃうトコだったわ~。…………でも、ヒロが可愛いとか清楚とか可憐とか言ってくれてヒメ嬉しい♡ やっぱせっかく【メス】やってるんだから、【オス的好感度】が有るに越したことはないしね~♪』


『……まぁ、ただな、ヒメに性欲蛇口抑えられてる【アヴィみつ症】の俺だからなのかも知れんのだが、特に興奮はしてないぞ。いわゆる【賢者状態[弱]】だ。あ、もちろん、俺の美意識において好印象なのは間違いないんだけどな……』


『(チッ。まさか【アイリス的かどわかし女】対策でヒロに施した【アヴィみつ症】が私自らのトキメキ出会いングにリミッター的効果を発揮してしまうとは……無念……)……そ、そんなこと気にしなくていいよ~。少なくとも悪い気はしないでしょ? …………ヒロ、あらためて初めまして(ニコリ) あなたの元居た世界の大昔の戦神、アメノミコトヒメです。不束者ですが、これからもよろしくね♪』


『あぁヒメ、こちらこそよろしくな♪ つーかおまえ、もう言わずにはおれんのだが、なんで【セーラー服】、しかも【サイバーパンク★スケバン風】なんだ? 俺の脳内で古い映画やらドラマの資料漁りすぎたんじゃね? ……まぁ、軍や役場の制服っぽくも見えなくはないけど……』


『こ、これはヒロが常日頃から言ってる“悪目立ち禁止”の理念を限界ギリギリまで許容した上でのファッションなの! ヒロの脳内を漁りに漁って、アルロライエちゃんと夜な夜なブレストを繰り返して捻り出した落とし所なんだからね! あなたの前世のトラディショナルファッションでもあるんだからありがたく思いなさいよね!』


『……いや、……トラディショナルて…… ん~まぁそー言えなくもないのか…… てか、それはそれで【悪目立ち】っつーか…… ん~~ まぁヨーヨーやらビー玉やら鉄の折り鶴やら持ち出してねぇだけでも良しとするか…… うん、……ギリギリセーフっちゃあセーフなのかもなぁ…… まぁ…… 服装なんて着替えりゃいいだけの話だから今日のところは納得しとくかぁ…………』


 ヒロは無理矢理納得した。


『へへ♪ 良かった~♪ んじゃあこのコスをデフォにするね~。校庭のでっかい樹の下で告白されたい時は気兼ねなく呼んでよね! 役に立つわよ~♪』


『……あ、あぁ、了解だ。……ただ、その時はできればノーマルセーラー服にして欲しい……』


 その時、ヒメと向き合うヒロの背後からアルロライエの声がこぼれた。


『…………あのぉ、そろそろこちらにも振り向いて頂けませんでしょうか……』


 振り返るヒロ。


 するとそこには、黒髪ふんわりショートボブで前髪七三気味、黒目の大和撫子が恥ずかしそうに立っていた。


『……アルちゃんも和風……なの?』


『ですぅ~。アルは本来は金髪で碧眼なのですが、ヒメさんに合わせる……というかぁ、憧れもありましてぇ、寄せてみました♪』


『ふぅ~ん。いや、いいんじゃない? とっても可愛いよ~。ヒメと同郷みたいな感じだね♪ まぁ、外見なんてアルちゃんにかかればいくらでも変えられるんだろうし、本来の姿に固執しなくてもいいのかもね~』


『アルの変更点は髪色と虹彩色だけですよ♪ それ以外はアルそのものです。ヒロ様、お気に召して頂けましたか?』


『うん、ステキだよ♪ あと、その格好もシュッとしててカックイイね♪』


『ですかですかぁ~? この、白シャツ・黒タイトスカート・黒ストッキング・黒ハイヒールという出で立ちは、ヒロ様の脳内タグを漁りに漁って導き出した最適解だと自負しておりますですぅ~♡ この状態に、理系女子最強の戦闘服である【白衣】をまとえば、そらもー向かうところ敵なし状態でしょでしょ~?』


 アルロライエは微笑みながら中空に顕現した白衣をシュバッと纏った。


『……て、【敵】ってのがよく分かんないけど…… あれ? そー言えばアルちゃん、キミ、会話のテキスト表示、やめたの?』


『はい~。このたびの実体化を記念してですね、長きに渡って愛されてきました【アル台詞のテキスト表示】はサービス終了となりました~。これまでのファンの皆様からの熱烈なご声援、まことにありがとうございました~(ペコリンコ)』


『……そうだね。そもそも音声が付帯した時点でテキストの必然性には疑問視する声も上がってたかもだしね~(例えば俺とか) まぁ、そんじゃあ、これからは二人とも実体として一緒に生きていこうよ♪ あらためてよろしく!』


『ヒロぉ~、これからはひーたんだけじゃなく、私も修行相手になってあげるからね~♪ 覚悟しなさいよ~♪』


『ヒロ様! アルは科学神ですが、家事全般、そして心や体のケアにも特化した能力を保持しています! ぜひ乱用してくださいねっ!』


『は~い。お手柔らかによろしく~♪』


 こうしてこの日、アメノミコトヒメとアルロライエの二柱の女神は、ヒロの側で実体を伴うこととなったのだった。




『ピキュピキュピキュ~。いきなりキレイな女の人が二人も現れてビックリしたのでピキュ~。青天の兵器錬金なのでピキュ~』


『ほんとだぜ~。まさかそれがヒメさんとアルっちだとはな~。どーせまたプーとグループ念話であーだこーだ喋ってたんだろ? あたしらは口あんぐり状態で見てるだけだったんだぞ~。おまえら三人、黙ったまま表情だけが変化するから気持ち悪ぃっつーかなんつーか……』


『パパ! ママ! アルちん! みんなで遊ぶの! はじめての【みんな遊び】するの!』


 ハナの尻尾ぶんぶん丸レベルは極限に達していた。


『よぉ~~し、全員参加で追いかけっこすっか~♪ ハナ~、つかまるんじゃないぞぉ~~~』


『キャーーー♪ ハナがんばって逃げ逃げするの! つかまらないの!』


 そして、ハナ・ヒロ・ヒメ・ウル・ヒロリエル・アルロライエ、ラビ子、全員参加の【大じゃれはしゃぎ運動会】が幕を開けた。

 七人はハナランド内を神の疾さで縦横無尽に駆け巡り、心地良い汗を流すのだった。




 そして運動後のリラックス風呂タイムとなる。




『ふぃぃ~~~~。あちちぽっぽぷぅ~~~だなぁ~~~こりゃ~~』


 ヒロは体の芯から漏れ出す言霊をハナランドの空に向けて吐き出してみた。

 しかし、拭いきれない何とも気まずい空気に耐えきれず、現実を直視する。


『…………あのさ、ヒメとアルちゃん、キミらも…… 一緒に入っちゃうんだ…… (あとラビ子…… おまえもなのか……)』


 七人がゆったりと入れるサイズに拡張された【流星4号★風呂★4×4】に浸かりつつ、ヒロは困惑していた。


『なによ~、私達だって汗かいたんだから、お風呂入ってもい~でしょ~? ね、アルちゃん♪』


『ですですぅ~。ヒロファミリー家訓、【お風呂はみんなで一緒に楽しく】を実践しているだけですぅ~♪ ね、ラビ子さん♪』


『……………………うん…………』


『いや、それは、ハナとかウルさんとか黒柴型ヒロリエルだったからでだな、おまえらは……【モロ・オンナ】じゃねーか。よくそんな、恥じらいもなく全裸で俺の前に立てたもんだな…… (あとラビ子、恥ずかしいんなら無理すんなよ……)』


 ラビ子はヒメとアルロライエの後ろで全身を真紅に染めモジモジしていた。

 しかしそんなことはお構いなしにヒメがまくし立てる。


『もう立ってません~。肩まで浸かってますぅ~。あと別に、恥じらってないって訳でもないんだからね! ヒロくんに全身の凹とか凸とか凝視されるの……嫌じゃないけど恥ずかしいんだからね!』


『で……ですぅ~♡ ヒメさんから“アンジェリーナより産むが易しよ♪”と説き伏せられ全裸デビューしてみたはいいものの、正直、アル的には、ヒロ様からの熱視線が…… 灼熱すぎて…… 妊娠しそ……いえもう孕んでます!!』


『大丈夫よアルちゃ~ん。お風呂のお湯伝いには妊娠しないからね~。あとヒロは【アヴィみつ状態】だから、ムラムラはしてもカチカチにはならないの。あなたの貞操は必ず守られるわ♪ それに、私の【アヴィみつ度微調整能力】にも磨きがかかってきてるからさ、今のヒロは【賢者状態[中]】に設定済みよ。欲情もリビドーも皆無な【慈愛と温もりを求める安らぎの賢者】なの。だから同伴入浴にはうってつけの状態と言っていいわ~♪』


『……確かにそーなんだよ。おまえらの裸体は確かに美しいし愛おしいと感じるんだが、この感覚…… そうだ、前世で覚えがある。あの、【出し尽くした後に一緒に風呂入ってる時のあの安らいだ感じ】だ!』


『だから【賢者状態[中]】に設定済みだって言ってるでしょ~? それはそれで【気持ちいい状態】なんだから満喫しなさい! ハナちゃんやひーたんやラビ子ちゃんと一緒の時に制御不能に盛り上がっちゃっても大変でしょ? これからもヒロの蛇口調整は私に任せてよねっ♪』


『(……財布の紐を握られるってのは聞いたことあるけど【性欲蛇口のハンドルを握られる】とはな~。トホホだけど……まぁ、これも有りっちゃ有りなのかもなぁ……)……お、おう、任せたよヒメ。おかげでなんか、心地良い幸福感だ♪ あぁぁ~~、いい湯だなぁ~~♪ まさに、あちちぽっぽぷぅ~だぜ~♪』


『ピキュピキュ~。持ちつ持たれつというか…… 複雑怪奇な三すくみというか…… 今日もヒロファミリーは平穏なのでピキュ~ (でも真っ赤に染まったラビ子さんの色素が心配なのでピキュ~)』


 この日、ラビ子からいつものような軽口が元気に飛び出すことは無かった。

 ヒロたち七人は風呂を満喫し、その後もしばらく、世界行脚はつづくのだった。





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ヒロとゆかいななかまたち 西直紀 @hajime_m

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