23日目 サンヨニクとS3級魔晶




 創生歴660133年5月4日[月] 異世界生活23日目。


 毎朝のハナやウルとのお楽しみを終え、飯、風呂、身支度を済ませたヒロは、【マンバタン島】【テラース商会】事務所を訪れていた。


「いやぁ~、あれからたったの3日で世界をウルさんで埋め尽くしてしまうとは……ヒロさん、世界征服おめでとうございます♪」


 ヒロからのざっくりとした報告を聞いたロデニロが、呆れ固まっている。


「ロデニロさん、冗談でも【世界征服】なんぞ考えないでくださいね。我々はそんな面倒臭い事は実行しません。あくまでも【こっそりと商売を成功させて世界を裏からツンツンする】って程度の目標ですから。その辺、お忘れなく」


「ハハ、了解してますよヒロさん。ただ、こんな冗談みたいな話を聞いたら、こちらも冗談で返したくなるものです。本当に朝から心臓への負担が尋常じゃないですよ……」


「いやいやまだまだ我々の計画は始まったばかりです。心臓は今後もどんどん鍛えていってくださいね」


「善処しますよ。はぁ~……」


 ロデニロは深い溜め息とともに眉間を指で抑えながら茶を啜った。


「ところでロデニロさん、この世界についての情報をまたお教え願いたいのですが……」


「はい、私の知ることなら何でもお教えしますよ」


「実は、噂には聞けど、未だ出逢ったことがないんですが……」


「はぁ」


「【魔法使い】ってお知り合いにいらっしゃいます?」


「【魔法使い】? ……あぁ~、【魔力技能者】のことですかね?」


「【魔力技能者】って言うんですか? よく分からないんですが、そう、つまり……魔力を使って何かをする人です。例えば触れてないものを燃やしたり、凍らせたり……」


「う~ん、たぶん【魔力技能者】のことだと思います。ただ、私が知っている【魔力技能者】には、せいぜいコップの水を冷やしたり温めたりする程度の者しかおりません。しかも、魔力は回復インターバルが半日ほどかかりますから【趣味程度】と言っていいでしょうね」


「ということは、この世界を探し回れば、とんでもない【魔力技能者】が見つかるかも知れないって事なんですかね?」


「ん~、そこなんですがね、少なくとも【ユーロピア帝国】だけで言えば、【秀でた魔力技能者】は、【クリスタル教教皇】と【皇帝】、あとは【各領の領主たち】が囲い込んでしまっているので、【野にあぶれている優秀な魔力技能者】なんて簡単には見つからないと思いますよ?」


「なるほど……。もう既に権力者達に召し抱えられているってことなんですね。ちなみにユーロピア帝国で一番強い魔力技能者は、どれほどの魔法……いや【魔力技能】を使うのか、聞いたことはありますか?」


「強い? う~ん。噂では、【殺菌魔法】や【解毒魔法】、【解析魔法】などの使い手が各所の調理部に。あとは後宮の正室、側室一通りに【回復魔法】の使い手が。まぁ彼らは主の体調管理にも魔力を使うらしいですが、圧倒的に忙しいのは【夜の回復】の方らしく、好色な主に就くと5人がかりで毎晩魔力を使い切る場合もあると聞きます。あと、避妊のための【殺菌魔法】というのも聞いたことがありますね」


「ん? ……あれ? 何か違うな……」


「あぁ、5人というのは勿論極端な例だと思いますよ。そもそも毒味でも色事の強壮でも魔力が強い技能者ですと、1人で3人分ほどの仕事ができるとも聞いたことがあります。もっとも、位の高い人物に近い仕事ですので、暗殺を防ぐためにも近親一族の中の継承権に関わらない子供から厳選されて育てられているようです。ですので実際の話は、あまり噂となって降りて来ないのです。私は眉唾だと思っていますがね。だって正直、今言ったことなど、ポーション類や魔道具を使えば代用できるはずですし…… あ、でも、【殺菌ポーション】ってのは聞いたことないな……」


「……いや、そうじゃなくて、なんというか、魔力を使って戦闘をするような【魔力技能者】は居ないのでしょうか?」


「……戦闘? つまり騎士や傭兵や冒険者に混ざって人や魔物と戦うということですか?」


「はい。魔力で相手を焼いたり、凍らせたりしての攻撃。または味方の傷を回復するなど……」


「ヒロさん、あまり【魔力技能】についてお詳しくないようですのでお教えしますが、まず、人間の魔力程度では、戦闘に使えるほどの効果を得ることはできません。攻撃に使おうにも、相手が動かないでじっと待ってくれている状態で、少なくとも10人以上で時間をかけてかからないと、人ひとりが戦闘不能に陥るほどのダメージは与えられないでしょう。回復にしても同じで、片腕が飛んで血が吹き出しているところにどれだけ頑張って魔力を注いでも、止血すらままならないんじゃないでしょうかね。つまり、近距離攻撃なら剣や槍、遠距離攻撃なら弓やボウガンや銃や大砲で簡単に人を殺せますから、わざわざ魔力技能を高めるような遠回りをする馬鹿は居ないんです。傷の回復も、修練を積んだ衛生兵が大量の包帯と止血剤、そしてポーション各種を持って対処しますから、“魔力で”なんて言ってたら邪魔にされるだけだと思いますよ?」


「あー…… そうだったんですか。俺はてっきり魔力を使った戦闘がこの世界のあちこちで繰り広げられているものだとばかり思っていました」


「確かに【魔力技能】は不思議な力ではあります。しかし、まずそもそも威力が低く、その低い威力をどう鍛えればどう強くなるのかがまるで解明されておらず、さらにちょっとした使用でもすぐに魔力が枯渇してしまい、トドメにはその回復に長い時間がかかるため、普通は誰もその腕を磨こうとしないのです。それよりも、剣技を磨いたり、肉体を鍛え上げたり、知識を蓄えたり、イエンを貯めてポーションや魔道具を手に入れたりした方が遥かに効率的ですし、仕事や出世にも結びつきますからね」


「なるほどー。では【凄腕の魔力技能者】に出逢うという目標は一旦諦めます。ロデニロさん、いろいろと教えて頂きありがとうございました」


「いえいえ、私共の方でも【魔力技能者】についての情報は必要事項として通達しておきます。いずれ面白い話が入荷するかもしれませんね」


「楽しみにしています」


「あとヒロさん、我々は計画通り現行拠点の強化と商売の拡大を進めますが、ヒロさんはどうされます? 旅に戻られますか?」


「そうですねー。旅に戻りつつ、魔物狩りと、資源集めと、あと出来たら人員の確保にも挑戦してみます。ちょいちょい戻って来ますから、全ての受け入れ体制を整えておいてくださいね」


「了解しました。楽しみにお待ちしています」


「それではまた近いうちに」


 ヒロは簡単に挨拶を済ませると、【ウルワープ】を使って【エロストン山】に飛び、レッドドラゴンの巣から少し離れた場所の地下に【魔素脈】を発見する。

 そして【スコープ】をフル稼働させ、【エロストン山】地下に眠る大量の【魔素クリスタル】をインベントリに収納した。

 その量は28万トンほどにのぼり、【マンバタン島】地下の埋蔵量が子供のお小遣い程度に思えるような規模だった。


『よっ テラースのエネルギー王! わずか10分で281509トンもの未知のエネルギー資源を採り尽くしてんじゃないわよ~』


『いやさ、ハナとウルさんのエネルギー源だと思うと、いくらあってもいいかなぁ~なんて思っちゃって』


『うれしいピキュ! 世界中のウル分体全員が同じく大喜びしてるのでピキュ~』


『だよね~ウルさん、これからも見つけ次第ゲットするからね~』


『ピキュピキュピキュ~♪』


『さぁ~て、仕事量としては一国の百年分ほどこなしたけど、時間はたっぷり余ってるわね。ヒロ、次はど~するの?』


『そーなんだよなー。とりあえずさ、仕事の途中って事もあるし、一旦【ガンズシティ】の件を片付けようと思うんだけど、いいかな?』


『いいよ~。てーことは【センタルス】に戻るのね?』


『そーそー、ガーリックさん元気かな~』


『なんか超懐かしいんですけどー。遥か昔のことのように感じるわねー』


『毎日がいろいろと濃かったからなー。んじゃ早速行ってみようか』


 ヒロは【迷彩】仕様で【ウルワープ】を使ってセンタルスに飛び、ひとけのない路地で【迷彩】を解除すると、【冒険者ギルド・センタルス支部】を目指すのだった。





 数分後。【冒険者ギルド・センタルス支部】。


「ヒロさん! 思った通り、記録的な早さで戻ってきたわね。しかもそんなにキレイな姿で……汚れひとつ無いじゃない、まさか【ガンズシティ】には……」


「いえいえ、ちゃんとガンズシティに行ってきましたよ。代表のゴズさんとも話をしましたし、彼らの要求も不満も大体つかめました」


 ヒロはガンズシティでゴズから聞いた事をできるだけ客観的な物言いでガーリックに伝えた。

 ガーリックもヒロのことを信用しているのか、じっくりとヒロの報告に耳を傾ける。


「……なるほど。まずは突発的な魔物の事故があって、その対応を巡る感情の食い違いから、お互いの関係に亀裂が生じていったってことなのね。……でもやっぱり揉め事の時は双方の話を聞いてみるものね。雇い主側からの依頼書や口頭での説明の中には、その初期のトラブルや理不尽な役人達の話は全く入ってなかったわ」


「でしょうね。自分達の不利になるような情報を自ら申告するような人達とは思えませんからね」


「ん~、でもそうなると厄介ね。そのゴズさんの話が本当なら、彼らにも一定の正当性が出てくるし、その正当性の真偽を巡って、さらなる争いが生まれることにもなりそうだわ」


「はい。そこで、まだお話していないことがありまして……」


「あら、何? どんな話?」


「実は、ゴズさん達は、新しい町の地主や有力者になりたがっている訳ではなく、単純にこの開拓ルートの最先端の仕事を【独立した組織】として受注したがっているんです」


「それはまた……難しいことを言い出したわね」


「やっぱり難しいですかね?」


「そりゃそうよ。彼らは契約に縛られている労働者だし、多分、読んではいないけど、契約の内容も彼らにとって不利に染まったものだと思うわ。勝ち目はないんじゃないかしら」


「そこでですね、実は俺、ゴズさん達の代理人を任されておりまして……」


「代理人?」


「まーもしくは交渉人ですかね。ダメ元で一回話してみようかと思うんですよ、彼らの雇い主と。そこでガーリックさんに教えてほしいんですが、ゴズさん達の雇い主ってどこに居るんです?」


「ヒロさん、あなたって人は…… 自分がどれくらい無謀な行動を取っているのか分かってるの? あなたのような若者がひとりで交渉を進められるような甘い世界じゃないのよ?」


「まぁ、どんな対応をされるかは読めてないですが、命を狙われるような事になったら気をつけます。それでガーリックさん、どこの誰にお会いすれば、ゴズさん達の話ができるんですか?」


「………………」


 ガーリックは暫く黙り込んでから、深い溜め息をひとつついて話し始めた。


「分かったわ。そこまで自信満々に言うのなら教えてあげます。ゼロモニア開拓は国家事業だから元を辿れば、【アンゼス共和国】の政界・財界の有力者まで辿り着いちゃうんだけど、話をする程度ならもっとずっと手前の担当者でも大丈夫よ。その人物は、なんと……」


「なんと……?」


「この建物の2階にいます」


「近っ。そう言えばこの建物ってお役所でしたもんね」


「そうよ。2階の【開拓推進課】って書いた部屋にサンヨニクって男がいるから、今からでも聞いてきなさい」


「はい、ガーリックさん、ありがとうございます♪」


「私は別にどちらの味方でもないのよ。冒険者ギルドは特定の個人や組織に肩入れしないのが基本原則だからね」


「はい、ちょっと行ってみます~」





 1分後、ヒロはセンタルス役場2階の【開拓推進課】の前に立っていた。


コンコン


 躊躇なくノックする。


「はーい、どうぞ~」


 中から呑気な声が聞こえてきたので、さらに躊躇なく部屋に入る。


「ん~? 見ない顔ですね。何の御用でしょうか?」


「あの~、1階の冒険者ギルドでここを教えて頂いて来ました。サンヨニクさんは……?」


「サンヨニクは私ですが、冒険者ギルドからの紹介? ひょっとして最前線基地の話ですか?」


「はい、【ガンズシティ】の件です。俺、話をしてきたんですが……」


「はい? あなたが冒険者ギルドに出した調査・交渉の依頼をやってくれたんですか?」


「と言いますか…… 逆に彼らの代理人になりまして、こちらに交渉に伺いました」


「……はあ?」


「いや面目ない。彼らの話を聞けば聞くほど同情してしまいまして、気付いたら俺が代理人に……」


「あなた気は確かですか? これは【アンゼス共和国】を背景に持つ【国家事業】なんですよ? ハッキリ言いますが、彼らに交渉の余地はありません。今すぐにでも自らの立場を見つめ直して仕事に戻るべきです」


「サンヨニクさん、そうは言いますけど、従わないものはしょうがないじゃないですか。そもそも……」


 ヒロはガーリックに話した内容を同様の落ち着いた語勢で説明した。


「……という訳でして、事の発端を考えれば、彼らが苛立つのも無理はないかと……」


「話になりません。たとえあなたの聞いた彼らの話が全て事実だったとしても、同情の余地が生まれるだけであり、根本的な立場の話には及びません。そもそも彼らは契約によって雇用されている労働者なんです。自らが契約した仕事を粛々とやるだけのこと。責任を果たさないのであれば、こちらもそろそろ然るべき手段に出ようかと相談していたところです」


「然るべき手段……とは?」


「裁判院に訴えての断罪ですよ。彼らは契約を破っている訳ですから、勝負はもうついているようなものです。既に数回に及ぶ交渉の呼びかけに応えていない事も含め、こちらに有利な材料は揃っています。裁判の後は軍の帯同による強制連行となるでしょうから、多少の時間と経費はかかるでしょうが、彼らはもう終わりです。恐らくは最前線の開拓生活よりも遥かに苦しい日々が待っているでしょう。まったく愚かな連中ですよ」


「いや、彼らは“開拓をしない”とは言ってませんよ?」


「え、何ですって?」


「ですから、彼らは“ぜひ開拓を続けたい”と言っているんです」


「そんな馬鹿な。あなたは彼らが不満を持っていると言っていたではありませんか」


「はい。不満はあるようです。だけど働きたくないという訳ではない。彼らは【独立した開拓業者】として、改めて契約を結び直したいみたいなんですよ」


「はぁ? 何を言い出すのかと思えば……。それこそ無理な話ですよ。ヒロさんでしたっけ?」


「はい」


「我々と彼らの契約には、解約金と違約金というものが存在します。これは契約時に我々が彼らに援助した金銭の返却と、契約不履行による罰則金のことなんですが、もし我々の雇用関係を一旦リセットするというのであれば、彼らは1人あたりおよそ100万イエンほどの支払いを余儀なくされるでしょう。しかもその契約は、10名ほどのグループ単位で結ばれていますから、1人でも支払いが不可能となれば、その影響はグループ全体に及びます。もし生き残っている76人全員が解約したいと言うのであれば、場合によっては1億イエン近い金銭が必要となりますが、ヒロさん、彼らはそんな大金を用意できると思いますか?」


「出来ないでしょうねぇ~」


「話は以上です。できもしないことを交渉と称して訴えられても何も進展しません。ヒロさん、彼らには改めて、おとなしく開拓業務を再開するか、軍の帯同による強制連行を待つか、それとも逃げ出して生涯お尋ね者として死罪に脅えながらコソコソ生きるか、選択を迫ってください。既に膨大な時間を無駄にしていますが、もし開拓を再開するのであれば、違約金の請求は控えましょう。それだけでも彼らにとっては十分な利益ですから、それを武器に、再度まともな交渉をお願いしますよ」


「……物だとまずいですかね?」


「はい? 何の話ですか?」


「全員分の解約金と違約金、1億イエンでしたっけ? その支払はイエンじゃないと駄目なんですか? それとも魔晶や魔物の素材でも代用できますか?」


「ヒロさん……。あなた何を言ってるんですか?」


「いや、ですから、物納じゃ駄目なのかなーなんて思いまして……」


「……はぁ~。もし1億イエンほどの価値がある物を彼らが持っているのなら考えない事もないですが、もしそんなものが有ったとしても、職務中に労働担当地域で手に入れたのだとしたら、その所有権は契約上我々雇い主の側にありますので、よほど明確に証明できなければ無駄に終わるでしょうね」


「いや、彼らは何も持っていません。ほぼスッカラカンです。そうじゃなくてですね、俺が彼らの身柄を引き受けるのは可能なのかなーって思いましてね」


「あ、あなたが? 彼らのために? 1億イエンを肩代わりする……と?」


「はい。あ、ただし俺もそこそこスッカラカンですので、クジに当たるか、森で凄い魔物の素材でも拾うか、何かラッキーな事でもないと今のところは無理なんですが……」


「……呆れて言葉もありませんよ。しかしヒロさん、1億イエンかそれ相応の物を誰かが肩代わりするというのであれば、それが誰であろうと快諾しますよ。それだけの余力があれば開拓チームの再編成など容易いでしょうしね。私の裁量権のみで話は終了し、晴れて彼らは明日から全員自由の身となるでしょう。ただ、開拓労働しか経験のない何十人もの集団にそんな大金を投資する者など、世界中を探し回っても見つかりはしないでしょうけどね」


「そうですか。わかりました。それでは交渉のために、また【ガンズシティ】に向かいます。サンヨニクさん、いろいろとお話しいただきありがとうございました」


「ふぅ~。とにかく少しでも早い開拓業務の再開を促してください。少なくともここまで交渉が進んだという事実は我々にとっても朗報です。今までは取り付く島もない状況でしたからね。その点についてはあなたの仕事ぶりを高く評価させていただきます。お願いしますよ、ヒロさん」


「はい、それでは失礼します~」


 ヒロはサンヨニクに向かって深々と頭を下げると役場を後にし、のんびり歩きながら町を出た。

 そして近くのひとけのない森の中に辿り着くと、ゆっくりと魔タバコを取り出し、ライターで火を付け、美味そうに燻らし始める。


 木漏れ日と小鳥のさえずりと煙に包まれて時間はゆっくりと過ぎていく。


 そして5分ほどした後、ヒロは来た道を戻り、役場まで辿り着くと、【開拓推進課】の前に立ってドアをノックした。


「はーい、どうぞ~」


「失礼しま~す」


「あれ……? ヒロさん? 何か忘れ物でもしましたか?」


 怪訝な顔でサンヨニクがヒロを見つめる。


「サンヨニクさん朗報ですよ。今しがた近くの森を歩いていましたら、これを拾いました」


 ヒロはリュックの中から厚手の布に包まれたメロンほどの大きさの物を取り出し、サンヨニクの目前の机の上にゴトリと置く。

 すると被せてあった布がハラリとほどけ、中から【虹色に光る魔晶】が姿を現した。

 それは、ヒロが【マンバタン島】の【セントラルバグダンジョン】で瞬殺し収納してあった【マンバミノタウロナイト】の胸から取り出した【S3級の魔晶】だった。


「こ…… これは、 ……魔晶?」


「だと思います。結構大きいですし、虹色の光が鮮やかで、まるで生き物のように揺らめいているでしょ? きっと魔晶の中でも価値の高いものだと思って持ってきました。サンヨニクさん、これで【ガンズシティ】のみんなを開放できますかね?」


「…………」


「サンヨニクさん?」


「……あ、……え? …………何ですって?」


「ですから、これが1億イエン以上の価値だったら、ガンズシティの労働者全員を開放できるんですよね?」


「いや、……まぁ、確かにそうですが…… ヒロさん、これを…… こんなものを、近くの森で拾ったとおっしゃいましたか?」


「はいー。ガンズシティに向かおうと思って町を出ましてね、森の散策でもしながら行こうかなーって思って歩いてたら、これを拾いました。ツいてますよねー♪」


「………………ヒロさん、あなた、冒険者だと言っておられましたよね?」


「はい、旅人であり冒険者ですが……何か?」


「こ、この魔晶はもう誰かに見せましたか? 例えば1階の冒険者ギルドには?」


「いえ、拾ったのが嬉しすぎて一目散にここに来ました。ですので誰にも見られていませんよ」


「……そうですか」


 サンヨニクは静かに大きく息をすると、そっと机の引き出しに手をやった。

 その瞬間、【スコープ】で引き出しの中身を確認済みだったヒロが淡々と口を開く。


「俺は強いですよ?」


「はひっ!?」


 ヒロの突然の言葉に慌てて手を引っ込めるサンヨニク。


「一応言っておきます。俺はものすごく強いんですよ。例えて言うなら、瞬きの瞬間に人を何人も消し去ってしまえるほどに……」


「……あ、……何を、突然……言い出すんですか? ヒロさん?」


「ん? あ~すいません、何となく自慢話をしたくなってしまいました。魔物で例えるより人で例えた方が分かりやすいでしょ?」


「……は、はぁ……」


「それでサンヨニクさん、この魔晶の価値なんですが、具体的にはどれくらいのものか分かります?」


「ちょ、ちょっと待っていてください。役場の備品倉庫に二等級の測定器があるので持ってきます。ヒロさんはそのまま……あぁ、そちらの椅子にお座りになってお待ち下さい」


 いつの間にかこめかみに汗を光らせたサンヨニクが、少々もつれながら部屋を出ていく。

 ヒロはオリジナルソングの鼻歌を奏でながら、様々な可能性を想定しつつ、【スコープ】で彼の動きを追いかけ、フレキシブルな対応を心掛けて待機していたが、意外にも面倒な事態には至らず、5分後、サンヨニクは重そうな測定器を抱えて戻ってきた。

 そして測定器に魔晶が設置される。


「お待たせしました。……それでは測定しますね」


 サンヨニクは魔道具である魔晶測定器を操作し、いくつかの値を割り出していく。

 途中、溜め息や感嘆の呟きを挟み、それなりの時間を費やして彼なりの鑑定作業は続いた。





「……ヒロさん、結果が出ました」


「どうでしたか?」


「正直に申し上げますと、この二等級測定器では、この魔晶の全貌は測り切れませんでした」


「あぁ……そうですか。残念ですね」


「いえ、測り切れませんでしたが、ある一定以上のものであることは判明しました。この魔晶は少なくともS1級を超えており、下手をするとS3級に届いている可能性があります。このレベルになると、近場では開拓ルート最大の街【ヒュスタン】まで戻らないと対応が不可能なんです。特等級測定器は本国か【ヒュスタン】にしかありませんからね」


「ということは、凄い魔晶であることは……」


「はい。確定です。S2級以上であると考えると、本国政府の設定している価格で1億~5億イエンでの買取が保証されるでしょう」


「おぉぉ、でしたらもうガンズシティの皆さんの身柄は、俺が引き取れるって事なんですね?」


「まぁ確かにそれは可能ですが、ヒロさん、あなた、この魔晶の価値がどれほどのものなのか分かっていないようですので説明しますね。これは、半年ほど前に本国のラボが簡易版として各都市の担当者にバラ撒いた当時の最新資料に照らし合わせても【未発見の新種】である可能性が高いです。しかも、【アンゼス共和国】の探索範囲内で確保された全ての魔晶の中でもトップクラスの等級である可能性もあります。そしてこの擦り傷ひとつ無い美しい保存状態。これを本国のラボの研究者に見せたら、間違いなく狂喜乱舞し、ヒロさんが拾ったという森はたちまち封鎖されるでしょう。そしてあなたはラボの賓客として囲い込まれ、延々と質問される。それくらいの代物なんですよ」


「価値があると分かったのは嬉しい限りですが、俺は本当にそのへんの森の中で拾っただけですから。2個目が落ちてるのかどうかも知りませんし、魔晶の価値に興味もありません。その魔晶が、最終的に1億であろうが5億であろうが、お釣りをくれとは言いませんので、ガンズシティのみんなの解約手続きを進めてくれませんか?」


 サンヨニクは項垂れなが深い溜め息をつくと、少し顔を上げ、鋭い視線をヒロに向けた。


「……ヒロさん、あなた、本当は、何者なんですか?」


 サンヨニクの表情には余裕がなく、何か分かりやすい答えを切望するような焦りが浮かんでいた。

 しかしヒロからの答えは、彼が望んだようなものではなかった。


「俺は旅人で冒険者で只の只者ですよ。さっき言いましたよね?」


 飄々ととぼけたようなヒロの答えにサンヨニクの表情は崩れ、まるで止めていた息を吐き出すかのように話しだした。


「……はぁ。分かりました。あなたに深追いは禁物なのでしょう。今回の件に関しましては、私の理解を超える事態が連続しました。これは極めて稀有なことです。そして同時に私の才能や感性、積み重ねてきた知識経験云々を総動員しても対処しきれない、身の程を超えた事態に巻き込まれていると判断しました。ですので……従いましょう。私は【生きること】に貪欲ですからね」


「ん~、何をおっしゃってるのかよく分かりませんが、ありがとうございます♪」


「ちなみにですが、私は明日もコーヒーを飲むことができますか?」


「コーヒー? サンヨニクさんがコーヒーを切らしてなければ飲めるんじゃないですか?」


「それは良かった……。私、コーヒーが日々の生き甲斐なものでね」


「変なこと聞くんですね。俺はコーヒーも紅茶も緑茶も大好きですよ♪」


「そうですか。あ、では今から書類を準備しますから、そのままお待ち下さい。コーヒーのおかわりは?」


「はい、いただきます♪」


 それからサンヨニクはテキパキと作業を続け、ガンズシティ労働者100人分の契約書の原本と解約証明書、違約金支払証明書を用意し、ヒロに差し出した。


「これでガンズシティの労働者は自由の身です。独立組織として開拓の契約を結び直すもよし、各々好きな場所に旅立つもよし、ご自由にどうぞ。ただ、いずれにしても最終的な進路は教えて下さいね。こちらもその結果に応じて人員の補充を調整しなければなりませんから」


「そこはちゃんとご報告しますよ。まずはガンズシティに向かって、このラッキーな結末を報告してきますよ。彼らも多分、喜んでくれるでしょう♪」


「ラッキーな結末……ですか。本当にあなたは食えない人ですね……。了解しました。ご報告お待ちしています」


「それではまた。あ、コーヒーごちそうさまでした♪」


「それではまた……」


 ヒロは機嫌よくセンタルスの役場を後にするのだった。





 ヒロが役場を離れた直後の【開拓推進課】。

 サンヨニクの椅子の後方にあるパーテーションの奥から、ひとりの女性が現れた。


「課長、あの男に紐は付けなくていいんですか? 今から内務調査室に申請すれば、ソニさんのところの精鋭が動いてくれるでしょうから、今後のことはどうとでもできると思うんですが」


「いやいいよ。彼に紐は付けないし、諜報も暗殺も無しだ。どのみちこの魔晶は本物だし、うちの大儲けであることに変わりはないだろう?」


「しかし課長、あのヒロとかいう男、探ればきっとさらに大きな何かが出てくるのは確実でしょう? ですから」


「その前に死ぬよ」


「紐だけでも……え? はい?」


「その前に死ぬって言ったんだアイリス。例えソニんところの精鋭を送り込んだとしても、何ひとつ得ること無く死ぬさ。いや、死んだことすら確認できないまま消えちまうかもね。だったらこのまま大儲けだけしておけばいいだろ? それが1番の……いや、唯一の私達のハッピーな選択肢だよ」


「そ……そんなに凄い人物でしたか?」


「ん~。未だに測りかねてはいるが、少なくとも私達レベルの者が勝手に判断して突っ込んでいい相手ではないと思うよ。生き物ってやつはね、多かれ少なかれ【感情】によって【行動】を支配されているもんで、それ故に人間なんかは話せば話すほど反応が表に出てくるもんなんだよ。眼球や唇、皮膚、指先、いたる所にヒントは転がっている。そうやって読み取った【様々な感情】を元に相手を追い込み、逃げ場を無くし、暴力を発動させること無く交渉を有利に導く。まぁそれが私達の仕事だ。しかしなぁ、あのヒロと名乗る男は、一切の【脅えの感情】を表に出さなかった」


「相当訓練されているということですか?」


「いや違う。訓練されたタイプ……つまりプロの反応は私も何度か経験しているし、それ相応の対処法も心得ている。あの男の反応は、鼓舞や閉ざしで乗りこなせるようなものではなく、もっと……極めて単純な源泉によるものだと感じたんだ」


「それは……何なんですか?」


「圧倒的な【余裕】だよ。彼は私とのやりとりの間、至極自然だった。なんなら緊張もしていたし、悲しんだり怒ったりもしていて“感情豊か”と言ってもいいくらいだった。しかし私はその奥から、【何が起ころうと最終的にはどうとでもできる】というような、彼からの膨大な余裕を受信してしまい、恥ずかしながら恐怖してしまったんだよ。果たしてその恐怖が具体的に何によるものだったのかは今となっては不明だが、とにかく私は彼に脅えた。そして弱気になった。だから話を呑んだし追いかけない。本気で“死にたくない”と思ってしまったんだよ」


「……そうですか。課長がそうおっしゃるのなら素直に従います。ただ、興味は残りますがね」


「それは私も同じだよ。出来るなら彼のことを徹底的に調べてみたいさ。絶対調べないけどね」


「明日もコーヒーが飲みたいから……ですね?」


「そういうことだ」





 その頃、役場を後にしたヒロは、センタルスの町をぶらぶら歩きながら、パン屋【一宿一パン】や【うさぎの寝床】に立ち寄り、出来たてのパンや料理を集めながら脳内雑談にも興じていた。


『しかしカンのいいっつーか、聞き分けのいい担当者で助かったよー。ちょっとヤバイなって瞬間あったもん』


『あ~あのオジサンが机の引き出しから銃取り出そうとした時でしょ? もしあのままヒロが黙ってたら犠牲者出しちゃうところだったわよね~』


『それもそうなんだけど、途中パーテーションの裏に潜んでた女が毒矢装填済みのボウガン握りしめた時も焦ったよー。生き死にが絡むやりとりって出来ればやりたくないしねー』


『だったら最善の結果と言えるんじゃない? 無血解約を達成できたんだし』


『結局は【イエンパワー】みたいなオチではあったけどなー。でもまぁドワーフの国の相場でS2級の魔晶が1億イエン超えるってのも分かったし、役場の担当者がろくでもないクズかと思ってたら、案外理性的で話の分かる奴だったってのも意外だった。収穫はいろいろあったよ』


『ピキュ! 完全透明化したウル分体をさっきの部屋に張り付かせているのでピキュが、どうやらヒロさんの希望通り、あのオッサンは不確定要素の多い相手には深追いしないタイプっぽいピキュ~。このまま放っておいても面倒事にはならなさそうなのでピキュ~』


『ウルさん、いつのまに【完全透明化】なんて出来るようになったの?』


『【神速変色】の進化の範囲なのでピキュ♪ もう光の屈折による違和感すら感じさせないクオリティなのでピキュ~』


『すごい! しかも、頼んでないのに疑惑の登場人物付近に張り付いてたとは! 優秀な家族だよ~』


『ピキュピキュ~♪』


『ちなみに気配とかでは勘付かれたりはしないの?』


『大丈夫ピキュ! 【神速変形】と【神速変質】が混ざって進化したおかげで、今あの部屋のウルは、フルスペック状態であるにもかかわらず、小指の爪ほどのサイズまで縮小してるのでピキュ。さらには完全に透明で、壁の裏側から隙間を通して針先ほどの露出しかしてないのでピキュ。勘付かれる訳もないし、勘付かれたとしても一瞬で消え去るのでピキュ。もー【自分で言うのも何だけど状態】なのでピキュ~』


『いやもーさ、ウルさんが本気出したら【流通】だけじゃなく【情報】でも世界取れるよねー。どんなに訓練された諜報員でも、ウルさんには絶対かなわないよ』


『それもこれも、全てはヒロさんがくれる【ヒロ魔力超充填★メガミウムΩ1トン】と【魔素クリスタル特盛り】のおかげなのでピキュ! こんな超高濃度のエネルギー源を毎日安定供給できるのは、間違いなく世界にヒロさん唯一人なのでピキュ! ヒロさんに出逢えたウルは、ほんまこつばってんくさ幸せ者なのでピキュ~』


『そう言ってくれると嬉しいよ~。これからも持ちつ持たれつで助け合って生きていこうね~♪』


『ピキュピキュピキュ~♪』


 ヒロはご満悦でガンズシティにウルワープするのだった。





「ただいま戻りました~♪」


 ガンズシティの門から入ってすぐにある食堂兼会議室の扉を無造作に開けてヒロが笑う。


「うおっ! ……ヒロさん? どーした!? 何か道中トラブルでもあったか?」


 数人で何かを話していたゴズが慌てて立ち上がる。


「いえ、特にトラブルはありませんでした。それより、いいお土産がありますよ~」


 ヒロはゴズのいるテーブルに着くと、一旦間をとった。


「えっと…… まず俺とゴズさんの2人きりでお話できませんかね?」


「もちろんオーケーだ。お前ら、一旦外に出ろ。そしてこの建物の周りを見張れ。聞き耳立てたり覗いたりする奴がいたら散らせよ。ここからは俺とヒロさんの真剣な話になるからな」


 部屋に居た数人の男達が一斉に頷き出ていった。

 暫くしてゴズが口を開く。


「まずはヒロさんに礼を言わないとな。ヒロさん、あんたが看病してくれた仲間がひとり残らず全員元気になったよ。タイミングと言い、回復の度合いと言い、間違いなくヒロさんのおかげなんだろ? 中には骨を潰しちまった奴も居たっていうのに、今じゃ元気に動き回ってるよ。ヒロさん、本当にありがとう。一生恩に着るよ」


「いやいや、そんな大袈裟な~。俺は出来ることをしただけですから、気にしないでください」


「……ヒロさん、あんたは本当に底の見えない人だな。本当に……」


「それよりここからは俺の秘密にしていた事が山ほど出てきますから、まずは覚悟して話を聞いてください」


 ヒロは若干戸惑い気味に頷くゴズに、次々と自分のことを打ち明けていった。

 特別な能力によって乗馬の何倍もの速度で移動できること。

 身体ひとつで物を大量に運べること。

 生物の怪我や病気を治せること。

 かなり強いこと。

 既にセンタルスの担当者と交渉が終了したこと。

 ヒロの持っていた魔晶が高額鑑定され、ガンズシティ全員の身柄を引き受けたこと。

 身柄は引き取ったが、ヒロからの要求は無いので、独自の開拓組織を立ち上げて交渉を始めても問題無いということ。

 また、これから世界の各都市を舞台に始める【テラース商会】での商売の手伝いをしてみるのも面白いと思う……ということ。

 そして、何もせず何処かへ去ってもかまわない……ということ。

 ヒロは出来る限り真摯に、自らの話をゴズに伝えた。

 そして、ひと通りを聞き終えたゴズが、長い沈黙のあと喋りだす。


「……つまり、ヒロさんはこれからその…… テラース商会とかいう商人達と共に生きていくってことなんだな?」


「えーっと、まぁ、彼らには俺と同じ方向を向いて手伝ってもらいますし、そう簡単に別れることもないでしょうから、そう言えるかも知れませんねー」


「分かった。ヒロさん、悪いんだが、俺に1日だけ時間をくれないかい?」


「他の皆さんと相談するんですね?」


「あぁ。もちろんヒロさんの秘密については口外しねぇ。単純に、これからどうするかの相談さ。さすがに人数が多いし、それぞれ人生をかけた分岐点になるだろうからじっくり話をしてぇんだ。全員との話が終わるまで、悪ぃが待っててくれねぇか?」


「わかりました。それでしたら俺は散歩にでも出掛けてきますよ。余裕を見て、明後日の昼頃戻って来ますので、それまでに皆さんの意思を確認しておいてください」


「散歩……って、ふっ。分かったよヒロさん。明後日また会おう」


 ヒロは机の上にセンタルス役場で手に入れた、ガンズシティ労働者100人分の契約書の原本と解約証明書、違約金支払証明書を積み上げ、にこやかに出ていった。


 残されたゴズは、真剣な表情で書類の1枚1枚に目を通しながら、いつしかひとり、瞳を潤ませるのだった。





『さぁ~てと、明後日まで何しようかなー』


 ガンズシティを後にしたヒロは、とりあえずハナランドに隠れ思案していた。


『テラース商会世界支部の様子を見に行くには、まだちょっと早すぎるしなー』


『ヒロは、さしあたって何かしたいことはないの?』


『うぅ~ん。強いて言えば…… これからの展開を考えると…… ステータスに余裕があるに越したことはないし…… やっぱレベル上げかなー』


『ピキュ! 大賛成なのでピキュ~。レベル上げほど心躍ることはないのでピキュ~』


『んよしっ! 今日の午後と明日はレベル上げに没頭してみっか♪』


『やったのでピキュピキュ~!』


『そこでヒメよ、』


『なんだい、アンタ♪』


『このテラースで、高レベルの魔物が大量密集していそーな場所、わかる?』


『う~んとねぇ、……ちょっと待ってね。今、今朝の【テラーススポーツ新聞[神版]】の【魔物狩りコーナー】見てみる♪』


『……スポーツ新聞?』


『ちょっと待ってよ~………… …………あ、あったわよ♪ なになにぃ~ なんか、【今の季節は敢えての大物狙い! 変則スローピッチジャークで30m級リヴァイアサンが大爆釣!!】って書いてある』


『…………他は?』


『【シーズン到来! ミスリル8連サビキで鬼達磨シーサーペントを一家釣り!】とかは?』


『……次』


『【男のロマン! アンタクテ沖のデビルクラーケン攻略★バラし回避の新開発ショックリーダー★公開&解説は袋とじデータで!】』


『全部【釣り】じゃねーか』


『知らないわよー。私は記事読んでるだけだもーん』


『【魔物狩り】ジャンルの情報は無いの~?』


『…………あ、【経験値の宝庫!? 未開地オスタトリアの秘境★ウルル・ダンジョンはドラ系モンスのパラダイスダンジョンだった!?】ってゆーのは?』


『お♪ ……それいってみよう!』


『やったね♪』

『ピキュピキュ~!』


 ヒメが読み上げた神界の情報を得たヒロは、迷うこと無く【オスタトリア大陸】の中央に位置する【ウルル・ダンジョン】に【ウルワープ】で瞬間移動した。





 ウルル・ダンジョン近く。


『うわぁ~。初めて間近で見るけど、エアーズロッ……【ウルル・ダンジョン】ってカックイーなー。周りが何にも無い赤砂の草原ってゆーのも、またこれのカック良さを演出してるよね~』


『知ってるわよ~。この巨大岩って、ヒロの元居た世界でもかなり有名なスポットだったんでしょ?』


『そーだねー。この手の【見た目や雰囲気が独特の場所】って何かと寄ってたかって“パワースポット”とか言われてさ、ありがたがる人が多かったんだよ』


『そーなんだ。確かにこのウルル・ダンジョンは私達にとってもありがたいスポットみたいだけどねー』


『そうそう。ヒメも確認済みだとは思うけどさ、このダンジョン、巨大岩の周囲に3箇所【魔素脈】の開口部が出来てて、地下にはそーとーデカい規模の空間が広がってるんだよなー。ざっと【スコープ】で見た所、マンバタン島ダンジョンなんてミニチュアに見えるくらいの面積と魔物の生息数が確認できたよ。てか、地下800mラインで横穴が放射線状に伸びてて、地下1,600mラインの最深部が枝分かれした先毎に何箇所もある、とんでもない規模のダンジョンだよ~』


『私の【テラスポ】情報は嘘じゃなかったって訳ね~。ど~なのヒロ、情報戦に勝利した感想は~♪』


『ありがたき情報でございました~ ヒメ最高!』


『!……んっ…… え、えっへん♪』


『ピキュ! それでヒロさん、このダンジョンには潜るのでピキュか?』


『うんにゃりのっと。マンバタン島同様に、安全な地上から【スコープ】と【インベントリ】だけで狩っていく。わざわざリスクを背負う必要は無いしねー』


『さすがヒロさんなのでピキュ~。どれだけステ値が上がろうとも、安全圏からしか魔物を狙わないその慎重な姿勢! 【戦闘】そのものに快楽を見出してしまった武闘派戦闘狂の輩たちに聞かせてやりたい自制心なのでピキュ! しかも【インベントリ狩り】という【最も簡単な狩猟方法】を敢えて封印するストイックさ! もはやヒロさんは全宇宙に散らばる数多の引きこもりたちの星なのでピキュ~♪』


『…………』


『ウルちゃんてば、それってヒロのこと褒めてる~?』


『大絶賛なのでピキュ! ヒロさんは戦闘における理想の勝ち方を探究する先駆者なのでピキュ~。その姿はまるで【深夜、四畳半のボロアパートから近所のコンビニにカップ麺でも買いに行くような自然体】そのもの! そんな姿で最深部モンスターを瞬殺するその技は、ある意味【神】の所業! もはやヒロさんは全宇宙に散らばる数多のボロアパート住民たちの神なのでピキュ~♪』


『…………』


『……ヒロ、レベル上げ始めよ?』


『……あぁ、そうだな……。あ、っとそれから……そう言えば触れそびれてた事なんだけどさ、ここ最近、勝手にレベルが上がるようになったんだよ。ヒメ、これ見てみてよ』




名前:ヒロ

種族:人間[ヒト]


pt:0/1334


Lv:228[20up]

HP:1000 + 854

HP自動回復:1秒6%回復

MP:2300[1300up] + 847

MP自動回復:1秒10%回復


STR:1000      + 759

VIT:2000      + 914

AGI:2200      + 1001

INT:2000      + 959

DEX:3500      + 904

LUK:550 [34up] + 1428





名前:ハナ

種族:イデア[幼獣]

年齢:15

性別:女


Lv:314

HP:854

MP:847


STR:759

VIT:914

AGI:1001

INT:959

DEX:904

LUK:1428





名前:ウル

種族:孤高のメガミウムスライミー

年齢:6

性別:無し


Lv:225

HP:2591

HP自動回復:1秒6%回復

MP:2478


STR:1111

VIT:2732

AGI:3264

INT:912

DEX:1870

LUK:860





『えっ!? ヒロが20…… ハナちゃんが23…… で、ウルちゃんが92も上がってるじゃないの! なに!? なに!? なにが起こったの!?』


『これって多分…… ウルさんだろ?』


『ピキュピキュピキュピキュピキュ~! 正解なのでピキュ~。実はヒロさんから【魔素クリスタル】を御馳走になってから、ヒロさんとハナちんに、ウルの獲得経験値をプレゼントできるようになったっぽいのでピキュ~』


『やっぱり! 最近“うるせー”って理由で【レベルアップ音】を切ってたから気付くの遅れちゃったんだよ~。でもこれってウルさん、せっかくのウルさんの経験値を俺やハナが奪ってるってことにならないの?』


『よくわかんないのでピキュ~。ウルは、どの魔物を狩るとどれだけ経験値が入るのかなんて知らないのでピキュ~。ただ全力で強そうなやつを倒し続けて修行を重ねるのみなのでピキュ~。例えウルの獲得経験値が少なくなってたとしても全然気にしない、どころか、みんなの力になれて嬉しいのでピキュピキュピキュ~~♪』


『ウ……ウルさん……♡』


『ピキュ! 【メガミウム&魔素クリスタル】の大量かつ常時摂取によって、ウルは大きく進化させてもらったようなのでピキュ! 【神速分裂】【神速通信】【神速転移】、そしてヒロさんを核とした【絆の契約】、などなど盛沢山の要素が【メガミウム&魔素クリスタル】により魔学変化、魔的接続、魔超循環、魔次元昇天、魔王憑依、魔素魔し魔し、などなどな~どを繰り返した結果の【奇跡的進化】なのでピキュ~♪』


『なんかもう最後の方はテキトーに言ってない?』


『確かにテキトーに表現したでピキュが、ニュアンスとしては嘘はついてないのでピキュ~。これからはヒロさんやハナちんがずーっとお昼寝してても、ウル達の活躍によりレベルはどんどん上がっていくのでピキュ~。みんなの能力上昇はウルにとっての最大の喜び故に、この進化は最高の最幸の最公なのでピキュピキュ~♪』


『そこまで言ってくれるんなら、ありがたく頂戴しておくよ~。よっしゃ! それならそれで、俺もがんばるぞ~。早速レベリングだ!』


『ピキュピキュピキュ~!』


 今まで自分しか魔物と戦ってこなかったヒロは、経験値を仲間から譲り受けるという初めての経験に戸惑いながらも感動した。

 そしてこのウルの進化は、これから後のヒロやハナの成長速度にも急激な加速を与えるのだった。





 同日某時 ウルル・ダンジョン近く

 【迷彩モード】のヒロは、【表面巡回モード】のウル達に守られながら、お気に入りの【1人掛けソファ】に体をうずめたままこの日のレベリングを終えた。

 ウルル・ダンジョンには多種多様な魔物が数多生息しており、そのほとんどがユニーク種に進化を遂げていた。

 ヒロは念の為、このダンジョンの魔物の数の比率を大きく変えないよう、バランスを考えながら、S級以上の猛者のみを徹底的に狩っていった。





□【ウルル・ダンジョン】での狩猟結果

■[S1]ウルルアークオルガ    ×1000

■[S1]ウルルアークトロウル   ×1000

■[S1]ウルルアークコケアトリス ×1000

■[S1]ウルルアークハーピー   ×1000

■[S1]ウルルアークギガンターリ ×1000

■[S1]ウルルアークヘルワーム  ×1000

■[S1]ウルルアークギガナメクジ ×1000

■[S1]ウルルアーク泥主     ×1000

■[S1]ウルルケルベリオス    ×1000

■[S1]ウルルバジリスキル    ×1000

■[S1]ウルルキングヴァイパー  ×1000

■[S1]ウルル毒蟲        ×1000

■[S1]ウルル針蟲        ×1000

■[S1]ウルル喰蟲        ×1000

■[S1]ウルル渦蟲        ×1000

■[S1]ウルルワイバン      ×10000

■[S2]ウルルサイクロネプシス  ×1000

■[S2]ウルルサキュパサス    ×1000

■[S2]ウルルメデュネーサ    ×1000

■[S2]ウルルサラマンドル    ×1000

■[S2]ウルルグリフィオン    ×1000

■[S2]ウルルダークキメラ    ×1000

■[S2]ウルルエクリプス     ×1000

■[S3]ウルルデスメタル     ×500

■[S3]ウルルガスメタル     ×500

■[S3]ウルルシスメタル     ×500

■[S3]ウルルミノタウロナイト  ×1000

■[S3]ウルルバフォルメント   ×1000

■[S3]ウルルヨルムンガンドル  ×1000

■[S3]ウルルヘルル       ×5000

■[S3]ウルルゲルル       ×5000

■[S3]ウルルドルル       ×5000

■[S3]ウルルレッサーデーモン  ×3000

■[S4]ウルルヤマタノヒュドラ  ×100

■[S4]ウルル朱雀        ×100

■[S4]ウルル白虎        ×100

■[S4]ウルル玄武        ×100

■[S4]ウルル青龍        ×100

■[S4]ウルル九尾        ×100

■[S4]ウルル天猿        ×100

■[S4]ウルル獄兎        ×100

■[S4]ウルル死蝿        ×100

■[S4]ウルルデーモン      ×100

■[S4]ウルル量産型サタン    ×1000

■[S4]ウルルレッドドラゴン   ×1000

■[S4]ウルルブルードラゴン   ×1000

■[S4]ウルルグリーンドラゴン  ×1000

■[S4]ウルルアースドラゴン   ×1000

■[S5]ウルルデーモンドラゴン  ×100

■[S5]ウルルゴールドドラゴン  ×100

■[S5]ウルルプラチナムドラゴン ×100

■[S6]ウルルアポカリプスドラゴン×10

■[S6]ウルルエンシェントドラゴン×10

■[S7]ウルルバハムルト     ×2

■[S7]ウルル神竜        ×2





名前:ヒロ

種族:人間[ヒト]


pt:0/12613


Lv:428[200up]

HP:3000[2000up] + 1294

HP自動回復:1秒8%回復[2%up]

MP:5600[3300up] + 1307

MP自動回復:1秒10%回復


STR:3000[2000up] + 1219

VIT:3000[1000up] + 1454

AGI:4000[1800up] + 1581

INT:3000[1000up] + 1519

DEX:5000[1500up] + 1424

LUK:563 [13up]   + 1868


魔法:【温度変化】【湿度変化】【光量変化】【硬度変化】【質量変化】【治癒力変化】【錬金】【トレース】【物質変化】


スキル:【ショートカット】【インベントリ(ヒメのなんだからね!)】【スコープ】【必要経験値固定】【迷彩】【メモ】【アイテムドロップ[アルロライエのセンスで]】【召喚】【スキルバフ[NEW!]】





名前:ハナ

種族:イデア[幼獣]

年齢:15

性別:女


Lv:514[200up]

HP:1294

MP:1307


STR:1219

VIT:1454

AGI:1581

INT:1519

DEX:1424

LUK:1868


固有スキル:【忠誠】【仁愛】【智伝】【義憤[NEW!]】





名前:ウル

種族:孤高のメガミウムスライミー

年齢:6

性別:無し


Lv:425[200up]

HP:2750

HP自動回復:1秒8%回復

MP:2375


STR:1238

VIT:1494

AGI:3010

INT:1211

DEX:1953

LUK:773


固有スキル:【神速移動】【神速変形】【神速変質】【神速変色】【神速浮遊】【神速分裂】【神速合体】【神速通信】【神速転移】


固有技:神速刺突 神速斬撃 神速防御 メガミウムメイデン 爆散刺突 竜巻微塵 神速吸収





『キャーーーーー! 何よこのバケモノじみた3人のステ値は~! アンタたちってば、真正面から神々とでも戦うつもりなの~!?』


『……いやさ、ヒメはそー言うけどさ、実際に狩った魔物のグレードと量を考えれば、もっともっとレベル上がっててもおかしくないんだよな~。ほら、レベルの上昇値も3人揃ってぴったし200ずつだしさー、こりゃ聞くまでもなくアルロライエちゃんがリミッター的なものをかけちゃった結果だと思うんだよね~。まーとは言ってもすげー上がったからいいんだけどさー』




ピロン


 ヒロのスクリーンにテキストのみのダイアログボックスが現れた。そこには


《お察し下さい  ヽ(;´Д`)ノシ 》


 と書かれていた。




『やっぱりね~。まぁしょうがないか~。アルロライエちゃん、気にしなくていいよ~。これからも出来る範囲でレベル上げさせてね~♡』



ピロピロピロピロピロ~~~~~~~ン



『……もーさ、神を手懐けちゃってるよねーヒロ』


『つーか神も事務職となると大変なんだな。摂理とチートの板挟みかぁ。よし、全力で感謝しとこーっと』


 ヒロは428にまで跳ね上がったレベルとそれに伴うステ値のことも忘れ、いつも以上に感謝の気持ちをイメージしてアルロライエに向けて放った。



ピロピッ!!!ピーーーーーーーーー!!!!!………………



『ん? 喜んでくれたのかなぁアルロライエちゃん。ヒメ、俺の感謝、届いたよね?』


『……ま、まぁ、届いたと思うわよ。てんこ盛りで……』


 この日、アルロライエはまたも【アルロライエの聖水】を大量に生産してしまった。

 そして、ここまでに至る凄惨な【アルロライエ連続聖水事件】を受け、神事務界では以後【神パンツ】の着用が推奨されることとなる。

 ちなみにアルロライエ[昇天]が神事務所でひとり意識を取り戻したのは、翌日のことであった。


『ところでヒロさ、』


『ん?』


『今回のポイントの割り振りって、STRに2000も割り当てたりしてて、なんか今までと方向性変えたっぽいよね?』


『それな。えっとね、いつ頃だったかは忘れちゃったんだけど、俺ってばDEXとAGIにばっかポイント割り振っててさ、STRは勿論、VITまでもが疎かになってた時期があったんだよねー』


『ふむふむ』


『で、その偏ったステ値の時に、【零零玖】気分でAGIマックス活用して“縮地!”とか遊んでたらさ、』


『ふーむふむ』


『なんと、体の節々にビキビキッて痛みが走ってさ、わずかではあったけどHPが減少したんだよ』


『ほぉ~』


『まぁその時点で俺にはハナの【仁愛】による恩恵があったから、すぐに痛みも消えてHPも満タンには戻ったんだけどさー』


『ほぉほぉ~』


『その時思ったんだよ。“ステ値って、ある程度バランス良く伸びてないと、伸ばしたいステに対して他のステが耐えきれず、頭打ちになるんじゃないのか?”ってさ』


『なるほど~』


『例えばAGIって【速度】的なステではあるけどさ、その【速度】を高レベルで実現するには、結局のところ【速度を出すために踏み込むSTR】や【急激な運動や思考に耐えられるVIT】や【高速動作を正確にコントロールするDEXやINT】が必要になってくる訳でさ、どーもその配分が体感としては【伸ばしたいステに対して関連するステが半分以下くらいだと頭打ちになる】って感覚なんだよ』


『おぉ~。だからDEX以外も上げてきたのね~』


『そう。でさ、ステ値が上がり過ぎたことによって、実はもうひとつの問題が露見してきたんだ』


『もーひとつのもんだい?』


『それはね、【俺のスピードやパワーに床や地面が耐えられない問題】だ』


『あ~~確かに。ヒロが踏み込んだ時にズルッて滑ってるの見たことあるわ~』


『そう。横移動みたいな摩擦係数の低い運動だと、とにかく滑る。そんで力点との摩擦が確保できる上方向へのジャンプみたいな場合は、床が破損したり地面に足がめり込む。これはもう、技術でどうにかなるような話じゃなくて、俺のスペックが高すぎることによって起きてしまう弊害のようなもんなんだ』


『な~む~』


『“な~む~”じゃねーよ。ただ、実はこの問題に対してはすでに対策を考えていてだな、明日はまずその対策の練習をしようと思ってるんだ~』


『おぉ~。ちゃんとした予定があるってヒロらしくなくていいね~』


『だろ? 俺も成長したもんだよな~♪』


『ふふっ。ヒロは毎日ずっと成長してるけどねぇ~』


 その後、ハナとウルのおやつタイム、お風呂タイム、ヘソ天ハナへの撫で撫で寝かしつけタイムを経て、ヒロは【メモ】を発動しつつ【ここ暫く溜まっていた未解体魔物の解析&仕分け】を始める。

 膨大なステ値の上昇による恩恵を得て、1体毎の精密な肉体解析と個体別の差異への対応、仕分けの程度などをインベントリ内の意識処理のみで高速に進めた成果を【メモ】に記録し、手順が確立した魔物の実際の仕分けルーチンはインベントリにオートで繰り返させつつ、ヒロ自身は次の魔物の解析へと移る、という、ナイフ片手に熊を切り刻んでいた頃には夢にも思わなかったマクロ解体ショーがここに実現していた。

 正確で高速な仕分け作業は慣れとともにさらに正確さを増し、そして加速しながら3時間ほどで終了した。

 ヒロにとっての【魔物の仕分け作業】は、もはや【作業】と呼べるほどの労働ですらなくなっていたのだった。


 そんなこんなで、ヒロ達の異世界生活23日目は終わった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る