5日目 流星4号とミントン村





 ヒロが異世界に転生して5日目の朝、彼はご機嫌にモノリスの湯に入っていた。


「ふぃぃぃ~。これは毎日習慣にするしかないよなぁ~」


 因みに【モノリスの湯】とは、彼が【一枚岩だしカックイーから】という理由で改めて名付けただけで、ようはいつもの岩の風呂である。


(それにしても昨日のカイメンカッセースライミーには驚いた。まさかそこまで限定的かつ素材感丸出しのスライミーがいるとは……)


 特殊な乳白色のスライミーは結局35kgほどの石鹸に変化した。


(こんだけ有れば向こう何年かは洗顔・洗髪やボディウォッシュに困んないだろうし、いやぁ~異世界に生まれて良かったぁ~ってやつだなぁ~)


 悩んでいた問題がまたひとつ解決されて、彼は御機嫌だった。


(しかも、ちょっとした副産物とは言え、これもまた心を安らかにしくれる発明品だったよなぁ~。ん~~いい香り……)


 昨日討伐した【ヒノキノスライミー】も、解凍したのち魔晶を取り出してみると【檜の香りの液体】に変化することが判明し、ヒロはそれを【入浴剤】として活用していた。

 薬効成分があるかどうかは不明だが、彼は小躍りして風呂を楽しんだ。


『昨日は解体作業が多くてけっこー疲れたけど、風呂ってやつぁ、風呂ってやつぁ~、何でこんなに疲れを取ってくれるんだろうかねぇ。もはや“危ない薬でも入ってるんじゃねーか?”と思っちゃうくらいだよなぁ~マジで。いや冗談で』


『今日もご機嫌だねぇヒロ。どーする? 東の村へは出発する?』


『うん。向かおうとは思ってる。でもちょっと、出かける前に実験をしたいんだ』


『実験?』


『うん、旅を快適にできるんじゃないか……みたいな実験』


『えぇ~楽しみぃ。ワクワク、わくわく♪』


『ちょっと待っててね~』


 そう言うとヒロは風呂から上がり、【インベントリ】経由で完全復活済みのキレイな服を身に纏う。

 そしておもむろに念じ始めるのだった。


(フレーム)


 ヒロの視覚の中でだけ表示される赤いラインのフレームがウネウネと動いている。

 彼はそれを巨大なキングサイズのベッドほどの大きさに変形させ、固定させた。


【ショートカット】緩衝材 次 次 次 次 次 次


 巨大ベッドサイズの枠の中に次々と白く大きな緩衝材が創造されていく。

 理想の寝心地を求めて繰り返した調整作業により、もはやバレーボールくらいの大きさで高反発で好感触な緩衝材を錬金できるようになっていたヒロは、【ショートカット】の緩衝材の登録数値も直径20cmほどに変更しており、フレームの中をそのボールで埋め尽くしていく。


『もうそろそろいいかな』


 フレームを少し小さくし、ダブルベッドのマットレスほどのサイズに縮小固定する。

 すると枠の中の緩衝材は圧縮され、そこには【高反発マットレスそのもの】が完成していたのだった。


『おぉ、予想よりいー感じに作れたなぁ。これだけ高密度にすればもう【一枚物のマットレス】だわ♪』


『ねぇヒロ、外にマットレス作ってどーするの? お昼寝用?』


『いや、こっからが本気の実験なんだ。見ててよ~』


 そう言うとヒロは、マットレスの中央であぐらをかいて座り、ひと呼吸置いてからちょっと真顔になる。

 すると……ヒロを乗せたマットレスはその場に浮き上がった。


『すごーい! 浮いたよヒロォ~。マットレスが浮き上がったー!』


『いやぁ~予想以上に集中力が要るわぁ。ちょっと練習するねぇ』


『はぁ~~い!』


 それからヒロはアジト周辺をマットレスに乗って浮いたまま少しずつ移動した。

 フレーム自体を移動させるのは今までも難なく出来ていたことだが、自分の視線の先のフレームを動かす技術と、自分自身が乗ったフレームを動かす技術では、必要とするイメージの質も量も違い、最初のうちは苦しんだ。

 しかし、暫くすると直線的な上昇下降や前後左右の移動は確実にできるようになり、さらに【スコープ】を駆使する技に気がついてからは様々な場所や角度から様々な倍率で自らの周辺を捉えることが出来るようになり、最後には思いのままに自分の搭乗したマットレスを操れるようにまで成長していた。

 その結果……


『よし! 【空飛ぶマットレス】の完成&免許皆伝だっ!』


『すごぉーーいヒロ! 空飛ぶ乗り物まで作っちゃった! あと自分で自分に免許皆伝って天才すぎるー!』


『【スコープ】のおかげで、もはや自由自在だわ~。あ、あとホントはボディもこんなマットレス型じゃなくて、カウンタック型とかミウラ型とかパンテーラ型とかストラトス型とかにしたかったんだけどさ、フレームの細かい変形とか細工は今の俺の能力ではちょっと手間だから、シンプルイズベストということで妥協しよう! じゃヒメ、出発するよー!』


『はぁ~~~い!』


 こうしてヒロは異世界生活5日目にして、空飛ぶ乗り物を手に入れたのだった。





『ヒロぉ〜、何作ってるの?』


『ん〜と、背もたれと念の為の囲いかなぁ』


『ふぅ〜ん』


 5分後、ヒロはまだ出発していなかった。

 マットレスという真っ平らな板状のモノに乗って結構なスピードを出してみると、横方向のGにより転げ落ちそうになった体験から、急遽安全対策に時間を注ぎ込む事態となっていた。


『やっぱ、コクピットって大事だよなぁ……』


 ヒロはマットレス中央に自分を囲うような出っ張りを作り、横方向のGへの対策を施した。


『なんか実際に座ってみると、マットレスの上にバスタブが置いてあるみたいでスタイリッシュさの欠片もない仕上がりなんだよなぁ。ん〜背もたれ部分はもうちょっとだけ高くしてと。ん〜やっぱコレ乗るんなら、あぐらじゃなくて足伸ばし姿勢だよな~。その方が疲れないし楽だもんなぁ…… 待てよ? そもそもフレームの固定とか維持、そして移動には実質何の負荷もないんだから……この空飛ぶマットレスを上空に固定して昼寝とか一泊とかできるじゃん! すげー良いこと思いついたわ。ねーヒメ、聞いてた?』


『聞いてたよ! 安全第一で頼もしぃ〜。私は守ってもらってる立場だから嬉しい限りなのです!』


『よ〜しそれじゃ、改めて出発しよー! 行っくぞー!』


『おーーーー!』


 ヒロを乗せた空飛ぶマットレスはゆっくりと浮かび上がり、上空50mほどで静止し、スーーーっと東に向けて動き出した。


『全く揺れないから逆に気持ち悪いなー』


『さすが神の技術のフレーム群だねー。風の影響なんて全く受けないみたい』


『このまま東の村に向かって進んだら、手前5kmくらいのところで降りて、そこからは歩こうか』


『ラジャ! あとはこのマットレスちゃんがどんくらいスピードが出るかだねぇー』


『まだ正午までに3時間はあるだろ? 昼前には着きたいなー』


『ちょっとそれは頑張りすぎじゃない? 無理しないでね~』


『無理はしないよ。楽しい範囲で動かしてみる。方向はこのままで大丈夫?』


『バッチリだよ~』


『それじゃスピード上げるね!』


『はぁ~~い!』


 ヒロは空飛ぶマットレスと一体となるようなイメージを走らせ、【スコープ】によりその主観を俯瞰的視点でコントロールするように速度の上昇を試みた。

 するとマットレスはそれに答えるようにゆっくりと速度を上げ、スィーーッと飛んでいくのだった。





『いやぁ、まさかこんなに早く到着できるとはねぇー』


 ヒロは2時間ほどで東の村手前5km地点に降り立っていた。


『凄いよヒロ! 2時間で35kmって…… もはやこの世界の常識的な移動の概念、凌駕しちゃってるじゃん♪』


『まー異世界なんだから、そもそも常識的な概念も何も無いけどね』


『た、確かにだけど……』


『実は速度だけならまだまだ出せそうだったんだけどさ、風がモロに当たるしこれ以上急ぐ意味もないかなーと思って【適度に速くて適度に快適】を目指してみたんだ」


『ん~、確かに景色も楽しめたし、陸地をウロウロする魔物の討伐&収納も空から出来たもんねぇ』


『さすがに空からだと難しいかなぁって思ってたんだけど、DEX補正のかかった俺の【スコープ】&【インベントリ】がやたらエグい性能でさー、普通に狩れたよ』


『もぉ鬼チートだよー。それって究極のスナイピングシステムなんじゃない? おかげでここんとこご無沙汰だったレベルアップも出来たみたいだしねー』




名前:ヒロ

種族:人間[ヒト]


pt:0/56


Lv:29[1up]

HP:300

MP:300

MP自動回復:1秒10%回復


STR:50

VIT:200

AGI:200

INT:300

DEX:450[50up]

LUK:113[6up]


魔法:【温度変化】【湿度変化】【光量変化】【硬度変化】【質量変化】【治癒力変化】【錬金】


スキル:【ショートカット】【インベントリ(ヒメのなんだからね!)】【スコープ】




『DEXに振ったんだねぇー』


『ちょっとINTと悩んだんだけど、やっぱり今は【正確さ】かなーと思って。DEX上げると【フレームの形状の細かいイメージ】とか【錬金のイメージの正確さ】とか【シンプルな集中力】とかがアップしてるのが体感できるんだよね。だから今は仕事の複雑さや正確さを追求したくてついついDEX振りになっちゃうんだよ。Bランクまでの魔物だったら今のINTでも充分倒せるっぽいしねー」


『なるほどー。早くこの空飛ぶマットレスもかっこよく変形できるといいねぇ~』


『それなんだけどさぁヒメ……』


『ど、どしたの? ヒロ、深刻な顔しちゃってさ』


『たった今からこの空飛ぶ乗り物の名前は、【流星4号】にしようと思う』


『……別にいいけど、……何で【4号】なの?』


『これには深い訳と歴史があるんだが…… 前世界の事だし、聞かないでくれ……』


『分かったよヒロ、よっぽどの事があったんだね。呼ぶよ。これからは。この子を【流星4号】って……』


『ヒメ、心の友よぉ~!』


『ヒロ、ずっと一緒だよぉ~!』





『さて、ここからは歩きだから……よっと』


 ヒロは迷わず流星4号をリセットして消滅させた。


『短い命だったね、流星4号……』


『いやいやヒメちゃん、この【フレーム内を何らかの物質で満たして、その物質に乗って移動するタイプの乗り物】はこれからもずっと流星4号だから。何度でも蘇るから。フェニックスだから。……待てよ。【フェニックス号】ってのもカックイーな……』


『もぉ~、流星4号でいいよぉ。さ、ヒロ、出発しよう!』


『ほーーい』


 ヒロは昨日と同じく狩りをしながら散策がてらのんびりと歩き出した。

 辺りはアジト付近と変わらず、針葉樹と広葉樹が時折入れ替わるように群生する森のままだ。

 次々と魔物や動物に遭遇する訳でもないが、生命反応が無いという訳でもない。


『ねぇヒメ、この辺りの森の魔物達って、アジト付近と比べてどう?』


『似てるっちゃー似てるけど、Bランクのデーモングリズリーとかはいなさそうだよ。こっちの方が人里が近いせいか、弱い魔物が多めな印象かなぁ』


『そっかー。じゃあサクサク歩いて行こうか!』


『あーーい♪』


 村へと向かう道すがらにも魔物を発見すると、【スコープ】と【温度低下魔法】を組み合わせて100m先から倒し、インベントリに収納する。しかしヒメの見立て通り、グレートボアを2頭ゲット出来た以外はEクラスとFクラスの魔物ばかりで、経験値的にも素材的にもちょっと寂しい内容だった。


『あと2kmくらいで村かな』


『うん、それくらいだね』


『村の名前とか分からないんだっけ?』


『ううん、もう近いから分かるよ! 村の名前は【ミントン村】って言って、人口50人くらい。家は15軒ほど。お店とか宿があるかどうかはちょっと分かんない』


『本当に小さい村だなぁ。多分だけどかなり閉鎖的なんだろうなぁ』


『ヒロ、ストップ!』


『!……どした?』


『この先に危ない何かがあるみたい。まだ距離はあるけど』


『危ない何か……?』


 村が近いこともあり、ヒロは五感を研ぎ澄ませ、集中してゆっくりとその場所に近付いていく。

 するとそこには直径1mくらいの落とし穴が掘ってあり、穴の表面は細い枝や草で隠されていた。


『ヒメ、よくこんな罠の存在、まだ見えないうちから分かったねー』


『うん! ドクロのマークが地図上に点滅してたから分かったの!』


『……そ、そうか。……これからも頼むよ』


『まかせといて!』


(……ヒメの使ってるマップ機能ってどんな内容なのか一回見てみたいなぁー)


『……でもアレだな、この罠は多分、狩猟用のものだと思う。人間相手にこんな分かりやすい罠は仕掛けないだろうしな……』


『魔物を獲るため?』


『そんなところだろうなぁ。少なくともこの先の村には猟師みたいな人がいて、肉食って皮剥いでみたいなことをやっているのは予想される』


『私達と一緒だねぇ~』


『まーそーとも言えるなぁ。ただ文明レベルは低そうな気がする…… さ、進もうか』


 ヒロはさらに歩を進め、村まであと300mほどのところまで辿り着くと、草むらの陰から様子を伺う。


『ふ~ん。ある程度開墾して、農地の中心にコンパクトな住居群を作って木の塀で囲ってる感じだなぁ。住居群の中心には火の見櫓みたいな見張り台かぁ。こりゃ居住区の入口に辿り着く前に農作業中の第一村人か見張り台の人に発見されるだろうなぁ。やっぱ安全じゃないんだろうなぁ、この世界って』


『今だと10人位は村の外の農地にいるみたいだよー』


『しょうがない。一番近いところにいる村人に話しかけてみよう』


『ヒロ、もし戦闘になったとしても逃げた方がいいよ。人間は経験値の入りが魔物に比べるとあんまし良くないんだから』


『……ま、経験値っつー考えは無かったけど、逃げるのは賛成だよ。それこそ殺人はしない方向で行きたいねー』


『だねー』


『で、第一村人は……あの人……達だな』


 森と農地の境界線から50mほど農地側に入ったところで二人の男が作業をしていた。1人は農作業中のようだが、もう1人は辺りをキョロキョロ見回して見張りをしているようだった。


『どうやら農作業もツーマンセルで安全第一って感じだなー。やだなーやだなやだなー怖いなー。とにかく面倒臭いことになりそうだなー』


『……やめとく?』


『それもなんかやだなー。物語が一向に進まない気がしてやだなー』


『じゃ行く?』


『……それしかないかなー。……よし行こう!』


『ほいさ!』


 意を決したヒロは、念の為に軽く両手を挙げながら2人の男の視野に入った。


『ヒメ、肝心なのは【ワタシハ~ヨイニンゲンデスゥ~ミンナトモダチィ~感】を全開で伝えることだ。見てるがいい♪』


 ヒロはそのまま農地をゆっくりと男達に近付いていく。

 するとすぐ、警戒中の男は両手を挙げたまま近付いて来るヒロに気付いた。


「お、おいっ! オマエ誰だ! センタルスの人間か!? それともメンシスか!? なんで1人なんだ! なんで1人で森から出て来た!」


 見張りの男が狼狽しながら手に持っていた槍のようなものを構える。


「あぁ~っと私はですねぇ、通りすがりの【冒険者】なんですが……」


 とっさにテキトーなことを言うヒロ。


「冒険者? 開拓民じゃないのか!? しょ、証拠を見せてみろ!」


「……しょ、証拠とは?」


「【冒険者の証】とか【冒険者のしるし】とかなんかあんだろが!」


「あ~、冒険者にはそんなものは御座いません。冒険者は【冒険の神】と【契約】をして【冒険者】になるものなのです。証拠を見せろと言われましても、この目を見て信じて頂くしか御座いません。冒険の神にお認め頂いたこの【曇り無きまなこ】を」


 ヒロの勢いに押されて暫く立ち尽くす見張り役。


「……この距離じゃ目の曇りなんて見えねぇよ! ……よし、そのまま、手は挙げたままこっち来い!」


 木の槍を更に大げさに構えた見張り役の男がうわずった声で指示する。


「…………」 


 農作業の男はずっと黙ったままヒロを睨んでいる。


「え~っと、今からそちらに向かって歩きますけどぉ、本当に私は危険な奴ではありませんので信じてくださいね! ただちょっと……なんか休憩したいなぁと思って立ち寄っただけの心やさしい冒険者ですからねぇ~」


「ごちゃごちゃうるせー! まずは黙ってその辺に立て!」


 若干【こんな村来るんじゃなかったぜ糞】モードに入りつつも、ヒロはニコニコしながら大人しく言われた通りに男達の前に立つ。

 見張り役は片時も気を許さないような強張った表情でその様子を見ながら喋りだした。


「オマエの目を見てもオマエが冒険者かどうか分からねぇ。オマエが冒険者なら聞くが、冒険者ってのは1人で森を歩いたりするもんなのか!?」


「…………と言いますと?」


 質問の意味が分からずにトボけた質問返しを繰り出すヒロ。

 するとイライラしたように見張り役が叫んだ。


「俺たちは森に1人で入るなんて絶対しねぇ! 森だけじゃねぇ! 道でも野っぱらでもこの畑でも、1人で村の外に出るなんてありえねぇ! オマエ命が惜しくねぇのか!? 頭がおかしいのか!?」


 ようやく話の意味を理解したヒロは、考えながらゆっくりと話し出した。


「なるほどそういうことでしたか。驚かせてすいませんでした。ペコリ。私は冒険者なもので、お話の意味がよく分からずに失礼しました。つまり【森は危険だ】というお話ですよね? はい。確かに森には魔物がウヨウヨしておりますのでとても危険です。しかし私達冒険者は、魔物を探知し、戦い、そして勝利する力を冒険の神から授かっております。それは簡単なことでは御座いませんが、日々修行を重ね、魔物にも負けない力を磨いているので御座います。もちろん集団で行動することも御座いますが、この度はたまたま1人で修行を続けておりましたところで御座いまして、人里を見つけ、少し休息を取らせて頂きたいと思い、このような形で現れた次第で御座いますので御座いますです、はい」


「……にわかには信じられねぇような話だな。まず、人が1人で魔物に向かっていくなんて話、誰も信じやしねぇぞ。しかもオマエ、手ぶらじゃねぇか! 服も普通の服だし、武器も防具も無しで魔物と戦える訳ねぇだろが!」


(ヤバい。文明レベル低すぎて“コイツがラスボスなんじゃねぇのか?”ってくらいに手こずる。厳しい。面倒臭い~)


 ヒロは半ば集中力の切れかけた頭でノロノロと続けるのだった。


「信じて頂けないのも仕方のないことですが、私は冒険者の中でも特別な存在で御座います。生まれた時より魔法の才に恵まれ、山中で修行を繰り返した結果、魔法を意のままに操れるような力を手に入れた挙げ句に魔物も倒せるようになってしまった次第で御座いますので御座いますです」


「ま……魔法で魔物を倒すだと!? それこそ歌や伝承でしか聞いたことねぇ話だぞ! そんな事が本当に出来るんなら今ここで見せてみろ!」


「わかりましたで御座います。それでは…… そこにある切り株を【炭】にしてお見せしましょう」


 ヒロはとりあえず頭に浮かんだ温度上昇魔法を見せてみることにした。


「ちょっ…… ちょっと待て! オマエ、俺達になんかひでぇことしねぇだろうな! もし怪しい動きしたら、この槍で刺すからな!」


「大丈夫で御座います。私は心やさしい冒険者。魔物は倒しますが、人様を傷付けたことなど1度も御座いません。それでは御覧ください」


 そう言うとヒロは切り株の方に向き直り、両手を真っ直ぐに切り株に向け、合わせた手の平から何かカメハメハ大王的なものを出しかねないポーズで静止し、ブツブツと口にし始めるのだった。


「ナンミョーナムアミホーレンギーギーパイポパイポノォーー、  ポンポコピィィィーーー!!」


 すると、切り株は突然水蒸気を出し、ブシュブシュと音を立てながらあっという間に黒く変色し始め、縮みながら炎を上げることもなく真っ黒な炭の塊になった。


「なっ! ………………」


「! ……………………」


 男達は同時に絶句し、自分達の理解を超えた人間の存在にただただ立ち尽くした。




 そして静寂の中、時が流れる。




「……あのぉ……」


 沈黙と静止に耐えられずヒロが声をかける。


「ひ、ひぃぃぃ」


 すると男達は後退り、振り返ると、一目散に走り出した。


「えっ? ど、どうしました? あのぉ~お約束通り私は切り株をですねぇ~」


「た、た、た、助けてくれぇぇぇーーー!」


 ヒロの言葉を置き去りにして二人は叫び声を上げながら居住区に向かって走り続ける。


カンカンカンカンカン


 それと同時に居住区の見張り台から甲高い警鐘が鳴り響いた。

 連動するように次々と走り出す農作業中の村民たち。

 それまで農地に点在していた作業中の村民達は、たちまち居住区へと駆け込んでいく。


 気付けばヒロはポツンと一人、畑の真ん中で立ち尽くしていた。




「………………なんだこりゃ…………」


 呆然とし、哀しげに呟くヒロ。


『ねぇヒロぉ、ヒロはよくやったよ。……帰ろっか……』


 ヒメの気遣いがヒロには余計痛かった。


『……でもねヒメ、ここまでやったんだからもーちょっと様子見ていい?』


 言葉を振り絞って食い下がるヒロ。


『あ~もちろん私はいいけど、ヒロつらいかなーって思っちゃって』


『つらいかつらくないかで言ったらもちろんつらい。全く理解しようとしてもらえず、一方的にレッテルを貼られ、【どーせアイツ素人童貞なんだろ】とか【フェチとか言ってっけど結局只の変態糞野郎じゃん】とか決めつけられる人生なんてもちろんつらいに決まってる! でもねヒメ、俺はまだ諦めたくないんだよ! 諦めたらそこで終了なんだよぉ! 服とか日用品とかがっ!』


 ヒロ渾身の叫び声がヒロの脳内で木霊するのだった。





「いやぁ~そうでしたかそうでしたか。それは失礼しましたなぁ~」


「いやいや、こちらこそアポも取らずに突然森からシロアリ駆除の飛び込み営業みたいに現れ、驚かせてしまったようで申し訳ありませんでした~」


「ちょっと分からない言葉もありますがそれが冒険者というものなんでしょうかな、わっはっは~」


 1時間後、ヒロは村長を名乗るシュワジの家の客間で歓談していた。


 当然その1時間の間にはいろいろあった。【罵詈雑言が飛んで来るタイム】や、【石や棒切れが飛んで来るタイム】などもあったが、村長による【まぁまぁやめんか~ 攻撃してくる様子もないしコイツの話も聞いてみよ~ぞタイム】や、村長の孫娘による【おじちゃん怖い人じゃないの? あぁ怖くなんてないさでもおじちゃんじゃなくお兄さんだろ? タイム】を経て、ついに、【なぁんだホントに怖くない人だったんだぁ誤解してごめんねぇ~ いえいえそんな誤解が解けただけで嬉しいですぅタイム】へと辿り着いたのだ。


「それにしても冒険者が本当に森を1人で移動しているとは驚きました~。ゲンターとゴサックも悪気があってあんな行動に出た訳ではないんです。どうか許してやってください」


「いえいえ誤解さえ解ければもう何も気にしてませんから~。しかし、そんなに冒険者って珍しいですかね?」


「冒険者の方々は普段あまり町の人間とは交流したりしませんからなぁ。いや実はね、この村はここから100kmほど北にある【センタルス】という町の管理地でしてね、みんな元々はセンタルスからやって来た開拓民なんですよ」


「ほうほう」


「目的は農地の拡大と猟師が獲る動物や魔物の素材なんですがね、まぁ農作物に関してはまだ開墾が思うように進んでないもので我慢して貰ってるんですが、猟師の獲物に関しては一定量の納品を切望されてまして……」


「ほうほう」


「そのために季節に1度くらい、猟師長のビエゴってやつが特定の獲物を持ってセンタルスに行き来してましてね」


「ほうほう」


「その折にセンタルスの役場で【近々冒険者ギルドってのが出来る】って聞きつけてきたんですよ~。なんでも南の【メンシス】にはもうあるらしいんですが」


「ほぉ~うほう」


「それで私達も【冒険者】という存在を知りましてねぇ。つまりは、会ったことも見たこともないけれど噂では聞いていた存在だった訳です。で、ヒロさんは【メンシス】のギルドに所属している方なのですか?」


「え…… っとですねぇ、僕はそのぉ…… 少し特殊な所属でして……」


「あぁ、どうもすみません。詮索するつもりではなかったんです。なにしろ魔物と戦うことを生業にしておられるんですから、言えない事情もたくさんおありでしょう。さぁさぁ、楽にして休んでいってください。何なら今晩お泊りになりますか?」


「いえ、お気持ちだけ頂いておきます。しかしもし……」


 言いづらそうに間を開けるヒロ。


「何でしょう? 気にせずお申し付けください」


「ではお言葉に甘えて。もし、日常品といいますか、衣類ですとか道具ですとかが販売されているんでしたら見せて頂きたいなぁと思いまして……」


「おぉ、そんなことでしたか。……とは言えご覧のようにここは小さく貧しい村ですので、センタルスの商店のようなものはございませんが、我々が共同で利用している道具小屋にいくつか新しいものや服がありますので、それで良ければ……」


「ぜひ見せてください!」


 ヒロは弾むような声で立ち上がったのだった。





「ここが道具小屋です。どうぞ」


 村長に促されて小屋へ足を踏み入れる。


「ぉぉおおおお…………」


 そこに並んでいる品々を見て思わず声を上げるヒロ。


「そんな大袈裟な。大したものは何もありませんよ」


 恐縮する村長だったが、ヒロは間髪入れずに答えた。


「いやいや、宝の山じゃないですか!」


 そこでヒロが目にしたものは以下の通りだ。



■素朴だが肌触りの良さそうな衣類一式

■剃刀

■作業用ナイフ

■砥石らしきもの

■手鏡

■鉄の鍋

■鉄の食器各種

■陶磁器の食器各種

■木の食器各種

■菅笠のようなもの

■麻袋のようなもの大小いろいろ

■クワやスキなどの農具

■ノコギリや斧

■布各種

■槍

■棍棒

■他いろいろ



「あの、どのようなものをお求めですか?」


 恐る恐る村長が尋ねる。


「はい、この服の上下とこの下着の上下とこの靴下を全部ふたつずつと、この剃刀もふたつ。このナイフ。あとこの砥石。そしてこの鏡。で、この鉄の鍋。最後にこの食事用のフォーク。以上でおいくらほどになりますかね?」


「そうですなぁ。その中で高価なものと言えばナイフと鏡ですが、ナイフはご覧のようにまだいくつか有りますのでお譲りすることは可能です。しかし鏡はですねぇ……」


「やはり鏡は貴重なものなのですか?」


「原料がなかなかとれなくて数が不足しているらしいんですよ。私達も僅かながら納品しておりまして、頑張ってはいるんですがねぇ」


「え? この辺りって鉱山とかあるんですか?」


「鉱山? ……あぁ、鉱物から鏡を作るというお話でしたか。いやいや、そうではなくて、私達が納品している原料というのは【スライミー】ですよ」


「! ……ス、スライミー……ですか……」


「鏡ですと【グラススライミー】と【シルバースライミー】の2種ですな。他にも純度を求める場合なら、スライミーを原料とする品がたくさんございますよ。もっとも私共は自分達が納めたスライミーが何処へ行き、どうなってこうなるのかなんてことは知りもしませんがねぇ」


「なるほどぉ。とんでもなくデカい鱗が目から落ちました。貴重なお話ありがとうございます。それで…… やはり鏡は無理ですかね?」


 村長はヒロの言葉を聞き、暫く考えたのち、口を開いた。


「ヒロさん、ではこういうのはどうでしょうか? この村には確かに貨幣もありますが、見ての通りの小さい村で、日常的には物々交換が主流です。ですので、ヒロさんの欲しいものは全てお譲りする代わりに、冒険者ヒロさんの力を私共に使って頂く。それで如何ですか?」


「もちろん構いませんが、僕は一体何をすればいいんですか?」


「それはですね……」





 20分後、ヒロと村長と何人かの村人は、開墾地と森の境界付近に集まっていた。


「これを炭にすればいいんですか?」


 ヒロの足元には、切り倒されたままずっと放置されているらしい大木が横たわっていた。

 辺りを見渡すと、他にも同様の倒木が散見される。

 

「はい。なんでもヒロさんは切り株をあっという間に炭にしてしまったとか。先ほど私も見ましたが、あんな質の良い炭は見たこともありません。炭は私共にとって非常に貴重な燃料なのですが、この村では質の低いものを少量ずつしか生産できておりません。そこで、ここらに置いたままの木材を出来るだけで構いませんので炭にして頂けないでしょうか?」


 村長は申し訳無さそうにヒロの顔色を窺う。


「それは構いませんが、なんでこんなに切り倒した木を、そのままにしてあるんですか?」


 ヒロは素朴な疑問をぶつけてみた。


「それはもちろん危険だからです。目の前が森であるこんな場所まで来ることは普段なかなかありません。本来は、見張り役を3人ほど従えた木こりが急いで木を切り倒し、音を聞きつけた魔物が森からやってくる前に急いで村に戻り、1日置いてからまた木を切りに……といった開墾をしております。ですので切り倒した木を回収するのは、更に10mほど開墾地が広がってからにしているのです」


「なるほど…… 確かに開墾地の縁に沿うように木が倒れて置いてありますね」


「倒れた木を回収するにもまずはノコギリや斧の音が響きます。魔物達の中には音に敏感なものもおりますし、我々は死にたくない。つまりどうしても森の開拓には時間がかかってしまうのですよ」


「そうですか。でしたらお任せください! 僕の力で何とかなりそうです。因みになんですが、この農地の周りはずーっと開墾予定地なんですか?」


「はい、センタルスとの話し合いでは、出来る限り大きく広げていこうということになっています。ただ、ご覧のように西側……つまり森方面は、なかなか進んでおりません」


「了解しました。では炭作りを始めますので、みなさん村に帰っていてください。出来たらご報告します」


「やはり冒険者というのはお強いんですねぇ。分かりました。ありがとうございます。でも決して無理をなさらないでくださいね! ではまた後ほどぉ~」


 村長と村人たちは急いで手を振りながら家に向かって帰っていった。

 その姿を同じく手を振りながら見届けるヒロ。


「ふぅ、ではやりますか~」


『ヒロお疲れだったねぇ~。涙ぐましいネゴシエーション、感動したよ~』


『いやぁ~ 村人に囲まれて石が飛んできた時はどーしよーかと思ったよー。思ってた以上に保守的で厳しい村だったぁ~』


『でもそーゆーお固い人達だからなのか、一度心を許すと大逆転ってくらいにフレンドリーに接してくれたね♪』


『そーだねー。もう【行きつけの村】って言ってもいいくらい受け入れてくれたねー』


『良かった良かった』


『そんな訳でアイテムゲットのために、そしてミントン村の人達のために、一肌脱ぎますか~』


『がんばれ~』


 ヒロはまず、最初に指定された倒木の側に立ち、【フレーム】と念じる。


(レベルもステータスもかなり上がった今なら高スペックにやれる筈だ)


 そう心で呟くと、フレームを変形させ、70cm×1mm×1mmほどの針金のように細い棒をイメージして空間に固定する。


(よし、イメージできた。もうミリ単位のフレーム形成も出来るようになってきたぞ♪)


 次に温度上昇魔法を念じ、フレーム内を超高温に変化させる。

 そしてその、巨大な針のような高温の凶器を器用に上下させながら、倒れた巨木を30センチほどの間隔で輪切りにしていくのだった。


ジジジ ジジジ ジジジ ジジジ


 まるで工場に運び込まれたかのように一定のリズムでバラバラになっていく巨木。

 レーザービームで焼き切られるような音とニオイが辺りを漂う。

 結局30mほどあった巨木は、5分ほどで全てが解体された。

 そしてヒロは呟く。


「さぁ、ノッてきたぞ~。どんどんやっていくか……」





 ヒロが作業を開始してから3時間ほどが経過した。

 その間、村人達はヒロの遥か後方の家々や柵の隙間から様子を窺っていたが、そんな中、ヒロの体を心配した村長が見張り役を従えて様子を見に戻ってくる。

 そして元居た巨木の場所に近付いた時、村長の表情が明らかに変わった。


「な…… なんてことだ!」


 その場に膝をついて呆然とする村長。

 そこにあったのは、30cm幅に整えられて作られた2000本ほどの乾燥した薪と、その薪から出来たであろう2000本ほどの炭の山だった。


「うっ……こ……こんな……」


 そして、さらにその奥、つい3時間前までそこに有ったはずの森の縁が、今では100mほども遠くに見える。


「森が…… 遠くまで…… 焼け野原に……」


 そこには、何もかもが焼き尽くされたような真っ黒の土地が続いていた。

 ヒロは【巨大フレームの高温実験】と称して、森ごとをフレームで囲い、高温で燃焼させながら開墾地の縁を移動し続けたのだ。

 そして頃合いの良いサイズと温度を探り当てた頃には、辺り一面焼け野原だった。


 絶句が止まらない村長。


 そんな村長に気付いたヒロがニコニコして近付いてくる。


「村長さ~ん、このくらいのサイズにしておけば薪も炭も運びやすいでしょう! あと、ついでに伐採後の森も焼いておきましたので、これだけ見通しの良い距離があれば運搬作業も安全にできるんじゃないですか? それとまぁ、焼畑農業的にも一石二鳥かと……」


 村長は腰を抜かすと同時に気も失った。

 薄れゆく意識の中でヒロが慌てた顔で駆け寄ってくる姿が残像として揺らめいていたのだった。





 その後、家に担ぎ込まれた村長はものの5分ほどで意識を取り戻し、孫娘のチコに頬をつねられたり腕挫十字固をかけられたりする過程で、目撃した景色が夢ではない事を確信し、大喜びする。

 ヒロは約束通り希望の品々を譲り受け、オマケに入れ物として大きな布袋も付けてもらった。

 村長は“ヒロさんの偉業に報いるためにも今より大きな保管小屋を作らねば”と張り切っており、明日から運搬と建築を始めるとのことだった。


 そして日も傾き始めた頃、別れの時がやってきた。

 村の入口で村人全員に囲まれたヒロは元気に話し出す。


「村長さん、突然押しかけて来たのに、こんなに良くして頂いてありがとうございました!」


「いやいや、こちらこそ……というか、こっちばかりが世話になりっぱなしで本当に申し訳ない。この恩はセンタルスの奴らにも必ず伝えておくからな! 悪いようにはせんよ!」


「いや、出来れば僕の力のことは、なるべく他言無用でお願いしたいので、そこんとこヨロシクの精神でお願いしたいのですが……」


「おぉそうなのか、それならこの村だけの伝承神話として未来永劫語り継がせてもらうよ」


「そんな大袈裟に受け取らないでください。見ての通り僕は只の人間ですから」


「確かに見た感じはそうなんだが、あの景色を見せられたらそうも言っておられんだろう」


「あ、村長さん、ちょっと謝らなければいけないことがあるんですが……」


「なんだどうした? もう私は大抵の事では驚かないぞ」


「あのぉ、森を100m×500mほど焼き払ってしまったので、多分この村の人が仕掛けたであろう落とし穴のいくつかも焼け焦げちゃったんですよ。すいません~」


「なんだ、そんな事なら気にしなくていいよ。どのみち開墾が進めば罠の位置も移動させなければいけなかったんだからね」


「森の中に罠を仕掛けたり見回りに行くのは誰なんですか?」


「猟師長のビエゴとその仲間達だ。今はちょうど街道沿いの比較的安全な草原に狩りに出かけていて留守なんだが、この村で一番命をかけて仕事をしている連中だよ。村の英雄だね」


「なるほど。ビエゴさん達にもよろしくお伝え下さい」


「もちろんだよ。ヒロさん、また来てくれるかい?」


「はい、いずれまた必ず遊びに来ますよ!」


「必ずだよ! その時までにもっともっといい村にしておくからね!」


「楽しみにしています! それでは!」


 ヒロは爽やかに笑ってミントン村を後にする。

 みんながずっと手を振るので何度も振り返っては手を振った。


 そして念には念を入れ、森に入って3kmほど歩いてから、荷物をインベントリに収納し、流星4号を創り出すのだった。


『いやいや、充実した一日だったねぇ。ヒメ、俺はもうマジ疲れたよ~』


『おつおつでぇ~すヒロ、なんか流星4号がアダムスキー型UFOみたいな形になってるんだけど……』


『ん~なんか今日の村での作業でまた技術が上がった気がしたんで、造形を細かくしてみたんだ~』


『日々成長だねぇ~。目的のアイテムもゲット出来たみたいだし、良かったね~』


『うん、これで明日からの異世界生活が益々有意義になること間違いなしだよ~』



ミントン村でヒロが手に入れたアイテム


■素朴だが肌触りが良くしっかりとした作りの綿の服[上]×3

■素朴だが肌触りが良くしっかりとした作りの綿の服[下]×3

■素朴だが肌触りが良くしっかりとした作りの綿の下着[上]×3

■素朴だが肌触りが良くしっかりとした作りの綿の下着[下]×3

■素朴だが肌触りが良くしっかりとした作りの綿の靴下×3

■それなりにしっかりとした作りの剃刀×2

■作業用ナイフ

■砥石

■手鏡

■直径40cmほどある鉄の鍋

■木の皿 ×2

■食事用のフォーク

■布各種

■大きな布袋



『大漁、大漁~~♪』


 ご機嫌なヒロを乗せた流星4号は夕焼けに染まる大空の中をアジトに向かって滑るように進んで行く。


『でもこーやって空から眺めてると、俺達のアジトの場所ってかーなーりー雄大で壮大で素晴らしい景色の中にあるんだなーなんて思うよねー』


『ホント~にキレイよねぇ~。どこまでも広がる森のど真ん中って感じだねぇ~ ……あ、1時の方向500mに【ギオーク】の集団。10匹くらいだよ』


『りょーかーい♪』


 ヒロはヒメの索敵に従ってスコープを走らせ、苦もなく11匹のギオークを倒し、返す刀でインベントリへの収納を終わらせる。

 それなりの速度で飛行しているにもかかわらず魔物狩りも忘れていない2人は、調子に乗って次から次へと大型の魔物を狩りまくるのだった。

 そしてヒメが見つけた【スチールスライミー】を殺収納した瞬間……


タララランタッタッター!


『おっとレベル上がったみたいだ!』


『おめっとさ~ん。やっぱDEX振り?』


『そーだねー。今は威力より距離と精度だねー』


 そう言いながらヒロはステータス画面を開いた。


ピロン


『………………」


『ん? どしたのヒロ? やっぱDEXやめた?』


『み、見てくれヒメ……』


『どしたどした~。 ……おっ! なんか出てるね!』


 ヒロのステータス画面には見覚えのあるダイアログボックスが開いていた。



[レベル30特典ルーレット。【スキル】の追加スペシャル・ルーレットをしますか?]



『いや[しますか?]じゃないよ。ボタン【はい】しか無いし、もうルーレット回ってるじゃん……』


 半ば呆れ顔で【はい】を押すヒロ。


ズキュゥーーーーーン!


(またこの効果音かぁ。腹立つなぁ)


 暫くすると高速回転していたルーレットの速度が落ちてくる。

 生ぬるい表情で見つめるヒロ。

 そして……


シャキィーーーーン!!


テッテレー!


『ホントかよ(苦笑)……』


 以前も聞いた【決定音】からの【当たり音】でそこに輝いていたのは



【取得経験値十倍】【必要経験値十分の一】【必要経験値固定】



 という3つのスキルだった。


『どれかひとつ選べってことだな』


『おぉ~ヒロやったんじゃない? これまた異世界チートあるあるの定番! 経験値系のスキルじゃないか!』


『ん~、どれも魅力的だけど、この三択だったら…… 【必要経験値固定】だと思うんだけど……』


『だよねぇ。レベルアップに必要な経験値が後々どれくらい跳ね上がるか分からないけど、【ヒロはまだレベル30】と考えれば一番お得なスキルである可能性が高そう~』


『実際、ここんとこのレベルの上がり具合はかなり緩やかになってきてる気がするしねー。これが堅実だよねー よし、決めた』


 ヒロは【必要経験値固定】に触れる。


テッテレー!


 効果音とともにレベル30特典ルーレットはスクリーンから消えた。


『いい選択だったよね、ヒメ』


『だね。私も良かったと思うよ! あと、ポイントのステ振りしちゃえば?』


『は~~い』




名前:ヒロ

種族:人間[ヒト]

年齢:22

性別:男


pt:0/62


Lv:30[1up]

HP:300

MP:300

MP自動回復:1秒10%回復


STR:50

VIT:200

AGI:200

INT:300

DEX:500[50up]

LUK:125[12up]


魔法:【温度変化】【湿度変化】【光量変化】【硬度変化】【質量変化】【治癒力変化】【錬金】


スキル:【ショートカット】【インベントリ(ヒメのなんだからね!)】【スコープ】【必要経験値固定】




『しかしヒロもついにレベル30かぁ。ここまで笑っちゃうくらい早かったねー』


『レベル30っつーと、魔物狩らない一般人の到達点くらいだっけ?』


『そーだね、ざっくり平均値的な感じでだけどね。つまりヒロは一般人の人生分の経験値を数日で稼いじゃったってことになるね♪』


『てことはさ、この世界の大人達は、大概これくらいのステータス値を持ってるってことなのかな?』


『いやいや、同じレベル30でも人によってステ値の初期値も伸び率も違うからね。そーゆー才能もヒロは抜けてるんじゃないかなぁ。フツーは3分の1くらいみたいだよ、ヒロの』


『そーなんだ。(そーいやジジイ神が“能力多めに伸びがち”みたいなこと言ってたかもだな~)……そんじゃーこれからもレベルの上げ甲斐があるね~』


『めざせヒロちゃん世界征服!』


『そうだそうだ、事故には気をつけないとな』


『こらヒロちゃん、ここは上空50mだぞ!』


『はいはい。さぁヒメ、そろそろ到着するぞ。俺達のアジトに』


『たらいまぁ~今けーったぞ~~』


『まずはメシだな! デーモングリズリーの焼き肉パーティーだ。その後はもう風呂だ。そんでもう寝る~』


『お風呂入れよ! 風邪引くなよ! 宿題やれよ! また来週~~~!』


『………………』


 こうして初の異世界人との交流を無事に終え、ヒロ達の異世界生活5日目は終わった。





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