第48話 謎の男

「買いすぎじゃね。」

俺はいま大量の荷物を持ってアリスの後ろを歩いている。

「だって、いっぱい買っていいって言ったじゃん。」

服屋に入ったはいいものの、俺の感想を聞いては何着も買わされこのざまである。軽く羞恥心で死にそうだった。

「じゃあ最後にあのカフェでお茶しようよ。」

オシャレなカフェを指差して満面の笑みで俺の方へと振り返った。

(なんでこいつこんなに今日は素直なんだ?)

疑問を抱きながらも黙ってアリスと一緒にカフェに入っていくのであった。



「私はこのイチゴパフェとアイスコーヒー一つ。」

「俺は、オレンジジュースで。」

店員に向かってオーダーをする。するとアリスが俺の方をニヤニヤと見つめながら

「オレンジジュースって、ちょっとは可愛いとこあるじゃん。」

「るっせ!飲めねぇんだよコーヒー!」

目を背けながら逆ギレ気味に怒鳴る。そんな俺を見てアリスは笑い倒していた。

「あぁー、笑った。笑った。ところで、キリア。何個か質問していい?」

急に真剣な顔をして尋ねてきた。まぁ今日はこいつの労いの日だし別にいいかと思った。

「答えられる範囲なら。」

届いたオレンジジュースを飲みながら返す。

「あなたの本気はどこまでなの?」

なんだそんなことかと思った。

「そんなことか?俺が本気を出せば、師匠にも理事長にも負けねぇよ。」

冗談じゃあねえよと言った感じで答える。

「じゃあもう一つ。あなたの刀、あれは一体なんなの。」

やっぱり聞いてきたかと思いつつも答える。

「あれは心魔と言ったものだ。圧倒的な悪意を持っている人間の心にできるもので、そいつの悪意の力を借りて魔力を増幅し強化して戦っているだよ。」

渋々と答える。あんまり人に教えるものではないからだ。それを聞いたアリスは何かを納得したように頷く。

「次は俺から質問いいか。」

アリスがうなずく。

「あの、神々しい魔力はなんだ。この前の戦いで使っていたあの力のことだ。」

それを聞いたアリスは少し嫌そうに

「まぁ、言わなきゃフェアじゃないよね。うん、あれは、四神の白虎の力なの。私はそれと契約している。まだまだ使いこなせないけど。」

「四神ってあの四神か?!」

俺は驚いて椅子から立ち上がってしまった。周りの視線が一斉に俺に集まる。

「悪い、取り乱した。そうか。そうか、あれが。」

俺は一人でブツブツと呟く。

「どうしたの?」

「なぁ、2か月前、神聖力を使うのは無理だとか言ったがもしかしたら使えるかもしれない。」

「えっ!なんで!?」

嬉しそうな表情を浮かべて聞いてくる。本当に小動物みたいだなぁと思いつつ

「多分、おまえの白虎の力は純の神聖力だ。要するに鍛えれば俺以上に神聖力を扱える。これだけは断言できる。」

期待を含んだ好奇心旺盛の声で俺は断言する。俺もここまで可能性のある神聖力をみるのは初めてだからだ。

「じゃあ、明日からおしえてよ。」

「ああ、いいぜ。」

「やった!」

嬉しそうにはにかむその姿に見入ってしまう。

(本当に、)

「そろそろ帰るか。」

思考を止め、そんな提案をする。

「あっ、その前にお手洗い行ってくる。」

一人で走ってトイレにいくその後ろ姿を見つめる。

(かわいいな。)

ふとそんなことを思っていた。

「いい女だよな」

思考を止め声をする方へと振り返る。さっきまでアリスがいたところにフードを被った顔が見えない男らしき人物がいたのだ。

(この距離まで近づかれるまで気づかなかった。魔力感知にも何にも引っ掛からなかった。いや、違う。今大事なのはこんなことをする奴は間違いなく敵ってことだ)

すぐさま判断し立ち上がって、周斗を取り出し鞘から抜こうとする。

「!?」

「まぁ、落ち着けよ。」

しかし、鞘から出す前に男の謎の力によって刀を抑えられてしまう。

「おまえ、何もんだ。何しにきた」

男を睨みながら質問をする。

「いや、特に何も。ただ、今のおまえを見ておきたかった。」

男は多分笑いながらそう言った。フードをかぶっているからいまいち顔がわからない

「まぁ、いいや。まだ元気そうなおまえ見れたし、じゃ俺帰るわ。」

そう言って席から離れ扉に向かおうとする。

「逃すかよ!」

周斗を抜いて斬りかかろうとする。その瞬間、体の全身から鳥肌が立ち、冷や汗が垂れ始める。

「わかるだろ。今のおまえじゃ届かないよ。」

そう、自分の本能がこいつには敵わないと言ってるようだった。それもそのはずだった席に座っていたはずの客と店員は全員、意識を失って倒れているのだから。

「あ、そうそう忘れてた。そうだな。俺はワルプルギスの憤怒担当とだけ言っておこうか。」

そう言って店を出ようと扉を開ける男。

「まっ、待て!」

絞り出すように止めようとする。

「どうせ、すぐ会えるさ。」

そう言い残して男は店から出て行った。

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