第49話 信念
「どうしたの?キリア、あのお店出てからずっと苦虫を噛んだような顔してるよ。」
横から俺の顔を覗き込みながら不思議そうな表情をする。
「あぁ、すまん。少しボッーとしていた。」
実際のところはあの男のことを考えていたがそれをこいつに言うとめんどくさいのでやめておく。
「そ?ならいいんだけど。」
アリスはまたご機嫌に俺の先を歩き始める。俺はそれを見て、少し考えた後に
「最後によりたいところによっていいか?」
俺はアリスの返事も待たずにその場所へと歩き出した。
「ここって、」
「あぁ、学園墓地だ。」
ここは、学園の戦闘で亡くなった生徒や先生たちを祀る墓地だ。そして俺はどの菩薩にも目もくれず、ただ一つの場所を目指した。
「えっ、これ誰の?」
「この前の襲撃者の隊長。」
「はー?!」
驚くのも無理はない。理事長や師匠にも反対されて、それでもなお金の力で無理やり立てたのだから。
「こいつはさ、本来ここにはいなかった人間なんだ。この年齢でここまでしなきゃいけない理由があった。そう思うとなんかそのままにして置けなくて。」
「ねぇ、キリア。教えてあなたの過去に一体何があったの」
「今はその話は関係ないんじゃないか」
俺はあまりアリスには自分のこの話に触れられたくなかった。
「話して、キリアがその寂しそうな眼をする時は絶対に過去のことだから」
また無駄に寂しそうな眼でもしてたのだろうか。アリスには、一緒に住んでる奴にはすぐにわかったようだ。
「あぁ、わかった話すよ」
なぜかアリスの前だとこれ以上抵抗する気にもなれなかった。
「そう、そんなひどいことがあったのね。リリアちゃんとの関係で少しはわかっていたけど」
アリスはそう言い終わると俺の頭を掴み自分の胸へと抱き寄せた。
「ちょっ、」
俺はそこから逃げ出そうとしたが、その前に頬を水が通った。
「キリア、泣いていいんだよ。ずっと我慢してきたんでしょ。殺されかけた日から、裏切られた日から。もう大丈夫だよ。キリアの周りには大切な人が沢山いる。もう1人じゃない」
アリスにそう言われると涙がさらに溢れ出した。
(止まれ!止まれよ!セリアの時は出なかったじゃねぇか)
必死に止めようとするが全く止まらずに俺はもう諦めてただアリスの中で涙が枯れるまで泣いた。
「この子はそんな昔の自分と重ねたの?」
俺を離したアリスが俺に尋ねる。
「かもな。」
俺は少し俯いて続ける。
「俺はさ、強くなったと思ってたんだ。誰かを守れるぐらいには。復讐するにはまだ足りねぇけど。でも、まだ届きそうもない奴が何人もいるんだ。できればこの子や俺みたいな奴が出ないようにしたい。」
俺はこれだけはと言った思いを口につづった。
「そこまでキリアに言わせるこの子は何者なの?」
俺はアリスと目を合わせて
「こいつの名前は、 」
「それって、」
ありえないと言った表情で俺を見つめる。実際にあり得ない人物の名前だからだ。だから墓標にも名前を書いていない。
「つまりはそう言うことだよ。」
そう言いながら俺は立ち上がる。
「さてと、帰るか。」
アリスに笑いかけながら寮へと歩き出す。もうアリスには弱いところを見せないと誓い。夕日を背に覚悟と決意を胸にして。
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